デウス・ウルト! 俺がそれを望んでいる! 作:Unknown
「ヴィットリオ、例の船がスエズ運河を通過しました……」
真っ白い空間にポツンと存在するガゼポのような建造物。その中には二人の女性が椅子に座り対面していた。欧州系の美人と一目見るだけで分かる二人は人間ではない。そもそもこの二人が居る空間そのものがこの世界には存在しない。
これは
「スエズ運河付近にいた艦艇は命令通りに全て撤退させました」
「それでよろしい。ローマ、お前が行うべきことは我々が地中海に到着するまで奴らを地中海に足止めする事だ」
ヴィットリオ・ヴェネトは軍人と言える程硬い口調でローマに指示を出す。一方のローマは何処か不安そうな表情をしておりやがておずおずと尋ねた。
「あの、本当に我々だけで
「不可能だと思うか?」
「私は無理だと思います」
ローマは続ける。
「彼の船が誕生してより太平洋に展開していた霧の艦隊は大損害を受けました。駆逐艦や軽巡洋艦クラスならまだしも戦艦や大戦艦クラスまで被害を出しています。戦艦級は8隻、大戦艦に至ってはヴィットリオ、貴方しかおりません。その他巡洋艦を合わせても勝てるとは……」
「貴方の心配はよくわかります」
ローマの懸念をヴィットリオ・ヴェネトは理解を示す。戦艦や大戦艦がうようよいる太平洋や大西洋とは違い地中海は狭い事と立地的な理由から大規模な艦隊が存在していなかった。大戦艦クラスが僅か1隻、戦艦ですら一桁と言う事実が何よりも物語っていた。
それから来るのは圧倒的な火力不足。超重力砲を使えるのは重巡洋艦からだがそれを打つには大幅なリソースを割かれてしまう。大戦艦クラスですら避けられないその隙をデウスに狙われないなどと言う保証はどこにもなかった。
「その為、援軍を連れてきます。超戦艦ムサシもデウスを沈める為だと言えば喜んで貸してくれましたよ」
「援軍ですか? でもそれだって……」
「心配いりません」
自信満々に言うヴィットリオ・ヴェネトに対してまだ不安が残るローマだがその言葉を遮るように凛とした言葉が遮った。声のした方を見れば袴を着た女性がいた。片側の袖だけをはだけ胸に巻かれた晒を露出させている。女性の武人と言う言葉が似あうその女性の登場にローマは困惑する。概念伝達を用いている事からメンタルモデルである事は分かるがその正体が分からなかった。
そんなローマの感情を理解したのかヴィットリオ・ヴェネトはにやりと笑みを浮かべて言った。
「彼女は戦艦ヤマシロ、姉である戦艦フソウを沈めたデウスに復讐心を持つ女性だ」
「初めまして。戦艦ヤマシロです。暫くの間地中海方面艦隊に合流する事となります」
「は、はぁ。ご丁寧にどうも……」
ヤマシロのきちんとした姿勢にローマもおずおずと答える。しかし、そこで気付く。ヤマシロの目には隠しきれない復讐心が宿っていると。ヴィットリオ・ヴェネトが言っていた事が真実であると。
「……ヴィットリオ。彼女が合流するのは分かったけど他に援軍はいないの?」
「重巡洋艦1隻に駆逐艦4隻だ」
「……え? それだけですか?」
「それだけ、は彼女達に失礼だろう」
「で、ですが……!」
「心配いりません」
たった7隻増えただけでどうなるというのか。ローマは怒りを見せるがヤマシロは冷静に返す。
「たったこれだけではないのですよ。
「? それは一体……」
「デウスは確かに強大ですがそこに注目ばかりしてはいけません。彼の強みは異常なほどの演算処理能力です。あの巨体を簡単に動かし、嵐とも取れる砲火を行っています。更にはレーダーやソナーの類への注意も万全です。それだけの処理能力はまさに異常と言えるでしょう」
「確かに。でもそれが一体何を意味するのですか?」
「簡単な話ですよ。我々もその能力を使うのです」
戦艦ヤマシロは不気味とも取れる不敵な笑みを浮かべるとその詳細を語り始めた。当初こそ訝し気な表情をしていたローマも納得し、この作戦が成功する確率が高いと判断した。
「……分かりました。こうなった以上我々も全力で挑ませていただきます。その準備や支援は欠かしませんので何なりと仰ってください」
「それはありがとうございます。その時が来たらお願いします」
ローマの同意と賛同を得て地中海方面艦隊はデウスの打倒に動き始めた。デウスがスエズ運河を通過した頃、全速力で紅海へと向かう大戦艦ヴィットリオ・ヴェネト以下地中海方面艦隊と戦艦ヤマシロ達。地中海を戦場とした霧の艦隊によるデウス撃破作戦が始まろうとしていた。