【完結】俺の世界、終わった。   作:渚 龍騎

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虚空と破壊神と邪神と光のウイルスと

 

 

 

 いつだって、物語には終わりが必要だ。

 

 

 だがそれはあまりにも唐突で、あまりにも偶然で、あまりにも暗澹とする光景だった。

 見慣れていたはずの景色は、姿を変えて紅蓮に呑まれる。黒雲を切って駆けた流星は、一瞬で砕け散って焔となる。辺りには無残に崩壊した瓦礫と、地面を蚕食して広がる血溜まり。

 連鎖していた怒号と悲鳴はやがて燃え尽きて、頭に響く耳鳴りへと変わった。

 

 ────咆哮(こえ)が、聞こえる。

 

 耳を聾する雄叫びが、大気を振動させ、声なき絶叫となって辺りの瓦礫が荒れる。鳴り続ける爆発音と、高熱の熱風が肌を焼いて全身を駆け巡った。

 

 真っ黒なコンクリートから顔を上げて、視界の端には崩壊した建物、その中心には紅蓮の中で吼え猛ける怪物の姿。

 なにもかもを破壊した。

 大切なものを、今までの好きだったあの景色を、すべてが破壊される。約束したあの日々は、もう意味が無い。

 

 ただ、願っていただけなのに──意味が無い。

 

 

『Uuuuuuuuaaaaaaaaaarrr──ッ!!』

 

 

 声が轟く世界で、光は全ての闇に呑まれ、青年は翡翠の輝きに包まれた。

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 

 彼女が、余命宣告をされた。

 残りの人生は約一ヶ月。類を見ない心臓病によるもの。心臓から駆け巡る血液が人体には有害なものであり、全身に流れることで激痛を生み出す。

 治療法は心臓移植のみ。それと同時に身体にある血液をどうにかしなければ、手術は成功しない。そのことから手術の成功確率は極めて低いとされた。

 

 今は、心臓からの血液を体外へ逃して、適応する血液を身体に流し込むという方法で彼女はなんとか生きている。どこかへ出掛けるという当たり前なことはできない。

 

 ただ、できるのは────、

 

「私、この街の景色が好きなんだ」

「……景色?」

 

 彼女は病室の窓から見える景色を眺めながら、黒く長い髪を揺らして頷く。その視線に釣られて、()()()は彼女と同じ景色を見つめた。

 何の変哲もない変わらない景色──青く遍く空にポツンとした雲や、動かずじっと佇む建物の数々。その下には、ただその目的に向かって歩く人々。

 特別なものはなく、昨日と何も変わっていない。

 

 それなのに、彼女は”好きだ”と答えた。

 

「何も変わってないじゃんって、思ったでしょ?」

「……バレた?」

「バレてるよ」

 

 シュウを見ながら彼女は軽く笑って見せてから、天井を見上げ「相変わらず分かりやすいね」と呟いた。

 そんな彼女に言われ、シュウは視線を下に向けて、

 

「……ツバキは、分からないよ」

「私?」

 

 ツバキと──自分の名前を呼ばれて視線をシュウに向けると、彼は肩を落として俯いていた。

 いつだってツバキは、何かを隠している。それをシュウが見抜けたことなんて一度もない。

 

「いまだって、無理に頑張って笑ってるだけなんじゃないの?」

 

 ツバキの病には激痛が伴う。病状が悪化した今、ベッドから起き上がることだって、箸を持つことすらできない。喋ることすらも困難とされながら、それでいながらツバキは────、

 

「──そんなことないよ」

 

 笑って見せた。

 爽やかに微笑んで、シュウを見つめた。

 その笑みには苦痛の色を含んでいない。嘘偽りのない笑みだと、シュウは僅かに祈った──祈ることしかできないから。

 

「ツバキ」

「なに?」

 

 シュウはツバキの名前を呼んで手を握る。

 

「え、なに?」

 

 困惑の表情を浮かべるツバキの頬は、恥ずかしさから少しのクレナイに染めている。そんなツバキを見つめて、

 

「絶対に治る、そんな軽はずみな他人事しか言えないけど、最後の最後まで諦めなかったら、きっと奇跡だって起きる。だから、ずっと俺の側にいてよ……」

 

 力を込めることすら痛みを伴うはず──それでもツバキは、握られるシュウの手を力強く握り返した。

 

「うん……大丈夫、ずっと側にいるよ」

「……俺に、チカラさえあれば……」

「いつもそればっかり。別に良いんだよ? 側にいてくれるだけで、シュウは私の()()()()()()なんだから」

 

 目を伏せた。

 ウルトラマン──強大な敵から宇宙の平和を守る光の巨人。シュウが憧れ、尊敬の念を抱く存在。だが、シュウには強大な力を持っている訳でもなく、空を飛ぶことも当然できない。

 ()()()()()()()()()()

 

「ツバキ、俺は────」

 

 そこまで声を出して、シュウは喋れなくなった。

 視線の先──ツバキの背後で、決して変わることのない景色を映し出す窓の外。()()は、突然現れた。

 何もない景色の中──急に、突然、唐突、忽然と、何もない所から、文字通り一瞬で。

 

「え……」

 

 間抜けな声が漏れ、目の前の光景に理解できず、呆然とするシュウ。彼の視線に遅れて、ツバキはゆっくりと背後を振り返った。

 そこにあったのは──無数の棘を生やした球状の物体。それは街の真ん中で浮かびながら静止。やがて、それはいつの間にか移動していた。

 瞬きすらしていないのにも関わらず、意識するよりも早く、まるで瞬間移動でもしたかの如く、それは別の場所に浮かんでいた。

 

 そして────こちらに向かって加速した。

 

「──ツバキっ!」

 

 正体を考えるよりも早くに身体が動き、シュウはツバキを抱き締めて伏せた。

 意味のない。まったくもって無意味な行動。それでも、ツバキを守り抜くという一心で身体は動いていた。

 

 物体はさらに加速。その速度はマッハを超え、瞬きをするよりも速く、気が付けば窓の外まで迫っていた。

 

 ────死ぬ。

 

 その二文字が脳裏に過り、短い人生を振り返る間もなく、その全てを呪う。瞳を閉じ、迫り来る死に備えた。

 まだ高校生であるシュウは、死を見据えられるほど強くはなかった。

 だが刹那──瞬きの裏からでも分かる光の輝きが、辺りを照らし出す。恐る恐る瞳を開けば、窓の外一面が眩いほどの煌めきに包まれていた。

 

「いったい、なにが……」

 

 その煌めきは物体を弾き、空気に溶ける。弾かれた物体は、周りの建物を巻き込みながら地響きを撒き散らし、大地を削って失速。転瞬──その物体が姿を消し、いつの間にかそこには人の形をした異形の()()がいた。

 

「どういうことだよ……あれって……」

 

 見覚えのある姿。むしろその姿を忘れるはずがない。黄色く発光する頭部、紫紺の身体に身を包んだ化け物。その名こそ──虚空怪獣グリーザ。

 

「シュウ……」

「ツバキ! 大丈夫?」

「……なんともないけど、あれは……なに?」

 

 グリーザの姿を見たツバキは、恐怖を表情に滲ませて口元を抑える。窓の外に現れたグリーザは、笑い声にも似た不気味な音を響かせ、不規則にユラユラと動く。瞬きをすれば、いつの間にか一瞬で移動して、街を蹂躙していた。

 

「ここにいたらダメだ……」

「シュウ……?」

 

 辺りを見渡し、シュウは慌てて病室の外に出る。

 虚空怪獣グリーザ──ウルトラマンXのラスボスを務め、その凶悪かつ強力な力ゆえに、ウルトラマンエックス及びジード、ゼットでも勝てなかった災厄。惑星をいくつも消滅させた、それだけでも奴がとんでもない存在であることが理解できる。

 なぜ架空の存在たるグリーザが、現実に現れたのかは分からない。だがそんなことを考えるよりも、いち早くこの場から逃げる必要があった。

 

「クッソ……! 頼む退いてくれ!」

 

 怒号と悲鳴を連鎖させ、慌てて走り去る人混みを掻き分けながら、シュウは一つ残された車椅子を手に取った。

 車椅子などと大きな物を引きずれば、逃げ去る人々と当然ぶつかり合う。それでもなんとか病室に戻ったシュウは、ツバキに何かを説明する訳でもなく、リュックに薬や服などを無理やり詰め込んで背負った。

 

「シュウ? いったいなにが……!?」

「俺にも分からない。だけど、今は何よりはやくここから逃げないと……!」

 

 ツバキを支え、丁寧かつ迅速に車椅子に乗せる。そしてグリーザの居場所を知るべく、窓際に駆け寄って外を見つめた。

 不規則な動きで感情や意思を持たないグリーザ。最早、動く超常現象たも言える存在に、あらゆる予測は意味を成さない。

 なにせ──相手は『無』そのもの。分かるはずがない。

 

「あそこか……」

 

 南西の奥。建物が崩壊して、その真上にグリーザが降り立った。

 数キロは離れている。こちらを振り返る訳でもなく、未だ南西に向かっている故、反対の方向に向かって逃げるしかない。

 

「ツバキ、取り敢えず今はここから逃げよう」

「う、うん。分かった」

 

 なにがなんだか理解できていないツバキ。それでもシュウは車椅子を押してエレベーターに向かった。

 床を叩くいくつもの足音に、悲鳴が重なり合ってもはや不協和音。上階でも逃げ去る人々の振動が床に伝わり、シュウは歯を食いしばって駆け足になる。

 

「なんで、なんでグリーザがいるんだよ……! 怪獣だとかなんてテレビの中だけじゃねえのかよ……! そんなことがあってたまるか……!」

「シュウ……?」

 

 ツバキの病室があった廊下──右に曲がって直ぐにエレベーターがある。だが、そこを曲がった直後にシュウは思わず舌打ちした。

 なぜなら、数え切れないほどの人がエレベーターの前で固まっていたからだ。

 ツバキと同じ車椅子の患者。それだけでなく担架やベッドで横になっている患者もいる。ひと目でも、到底エレベーターに乗ることなんてできないのが理解できた。

 

「どうするどうするどうするどうする」

 

 頭を強く抑えて、必死に思考を巡らせる。

 いつグリーザが無差別に此処を破壊するか分からない。時間は刻一刻と迫りつつある。逡巡は一瞬──シュウは車椅子の向きを変えた。

 鉄の扉を思い切り蹴り飛ばし、車椅子を入れた先は病院の非常用階段。歩ける者たちは、押し合いながら階段を駆け下りている。だがここで車椅子を運ぶのは、たとえ男の力であっても不可能に近い。

 

「ツバキ、少しだけ我慢してくれる?」

「え……? え、ちょっと……!?」

 

 ツバキの返答を待たずに、シュウは彼女の上半身と下半身をそれぞれの腕で支えながら、抱き寄せるように抱えた。

 駆け下りる人に気を付けながら、一歩一歩を確実に踏み締めて階段を降りる。時折ツバキの心配をして表情を伺うが、彼女は視線をどこから遠くに向けて顔を赤くしていた。なぜかは分からない。

 

「ごめんね……私、お、重い……よ、ね……」

「羽のように軽いとも」

 

 そんな軽口を叩いた直後──後ろから駆け下りて来た人とぶつかり、態勢が崩れる。視界が揺れ、シュウは身体に勢いを付けてツバキの頭を抑えた。

 身体が床に叩き付けられ、肺から空気が漏れて意識が飛びかける。二人分の体重による衝撃は凄まじく、全身に激痛が駆け巡った。

 

「シュウ! シュウ!」

 

 ツバキの叫ぶ声が聞こえる。どうやら、庇ったおかげでツバキは無傷のようだった。

 呼吸をゆっくりと整え、激痛に顔を歪めながら徐々に落ち着かせる。そして淡く笑みを浮かべてから、

 

「なんとか大丈夫。さあ、はやくここから出よう」

「無理しちゃダメだよ……鎮痛剤飲んでるから、私も多少は歩けるから……」

「いや、大丈夫だから……」

 

 ツバキを抱えるが、腕から全身に激痛が駆ける。だがそれでも、シュウはツバキを決して離さず、ゆっくりではありながらも階段を降りた。

 一階に降りれば、車椅子の一つは残っているはず。そんな淡い希望を懐きながら一階まで降りると、もう殆どの人は逃げ去ったあとだった。

 

「…………まずいな」

 

 辺りを見渡して、取り敢えず車椅子の一つにツバキを下ろす。声を漏らしたのは、破壊が齎す大気の声無き絶叫が近くに感じたからだ。

 

「シュウ、あれがなにか分かるの?」

「……あれは、グリーザっていう怪獣」

「……グリーザ……?」

「ウルトラマンXに出てきた最悪の敵」

 

 最後の言葉に、ツバキは眉間にシワを寄せた。

 

「それって、ウルトラマンの怪獣なんだよね? 冗談キツイよ……」

 

 スマホの検索ページに『虚空怪獣グリーザ』を探して、その写真をツバキに見せる。すると彼女は目を見開いてから、シュウを見つめた。

 

「ウソ……それじゃあ、特撮の世界にいる怪獣が、この現実に出たってこと?」

「分からない。そうかもしれないし、俺たちが怪獣のいる世界に迷い込んだ可能性もある」

「そんなことありえるの?」

「分からない……けど有り得ない話でもない」

 

 この宇宙、なにが起こるかなんて人間の範疇を凌駕している。なにより根拠として、超時空の大決戦でウルトラマンがテレビで放送されている世界に高山我夢(ウルトラマンガイア)が呼ばれたケースもある。だがそれも特撮の世界の話だが──、

 

「グリーザってどんな怪獣なの……?」

「『無』そのもの。宇宙に空いた穴」

 

 ツバキの頭にハテナがいくつも浮かび上がる。なにせグリーザの説明なんて簡単にできるわけがない。グリーザ自体が矛盾かつ不条理の塊みたいなもの。

 

「簡単に説明するなら、今見えてるアイツは脳が無理やり『無』を視覚化したものだ」

「……ということは、本当はあそこには存在しないってこと?」

「いや、()()()()()()()()()()()っていうのが正しい」

 

 もし本当に存在しないのなら、建物が壊れるはずがない。『無』でありながら『有』、全ての概念や理屈を圧し曲げるものこそがグリーザ。

 

「もし、このままそのグリーザを放置してたら、どうなるの?」

「…………この地球は、消滅する」

 

 シュウの答えに、ツバキは目を見開いた。

 かつて豊かな惑星を三つ消滅させた──ウルトラマンエックスの発言から、グリーザは惑星を滅ぼして消滅させる力がある。

 

「で、でも……ウルトラマンに出たなら、倒せるんでしょ?」

「グリーザを倒せる方法は主に二つ」

 

 指を二本立て、シュウは特撮知識(主にウルトラマン)の記憶を巡らせ、冷静に答える。

 

「一つは、奴を実体化させる」

「どうやって?」

 

 シュウは肩をすくめる。かつて第三形態になったことで実体化したグリーザを、エックスは倒したが、方法なんて奇跡でも起きない限り、この宇宙でできるわけがない。

 

「二つ目、グリーザは言わば宇宙に空いた穴。奴を倒せるのは、その穴を縫う針になるものだけ」

「その針はどこにあるの?」

「グリーザの中にしかない」

「そんなの、どうやって……?」

 

 シュウはもう一度、肩をすくめた。

 宇宙の穴を縫う針──想いを現実化させるエクスラッガー、幻界魔剣ベリアロク、この二つがそれに等しい。だがそんなものこの世には存在しない。

 もしグリーザの中に入れたとしても、ベリアルの息子であるジードですら長くは耐えられない。人間が入れば一瞬で無に呑まれるだけ。

 

「そんなことよりも、今ははやくここから出よう」

「うん……分かった」

 

 踵を返して、慌てて出口に向かう。車椅子を押して行き、出口に差し掛かった瞬間──廊下の奥からヒールで歩くような靴音が響き渡った。

 一歩、そしてまた一歩、何かが近付いてくる。人ではないなにか──そう感じたのは、この状況でのんびりと歩く者などいるはずがないと思っていたからだ。

 

「なんかヤバイ……」

 

 慌てて外に飛び出ようとした直後──病院の両扉が爆発音に似た音を響き渡らせ、一気に閉じた。

 

「おいウソだろ!」

 

 鍵は掛かっていないにも関わらず、力を込めても扉はびくともしない。より一層、靴音の音が近くに聞こえる。

 

「ちょっと待ってて」

 

 ツバキを扉から離して、シュウは数歩後ろに下がる。そして勢い良く床を蹴って、痛みを覚悟で扉に向かって体当たりを仕掛けた。

 だが、扉にぶつかる直前──扉が眩い煌きを瞬かせて、シュウを弾き飛ばした。

 

「シュウ!」

「あったた……なんだよ……」

 

 苦痛に顔を歪めて、扉に目を向ければ、一面を覆い尽くすように、光粒の集合体が埋め尽くしていた。

 刹那──光が塊となってシュウに向かって飛びかかる。逡巡の判断で横に飛び退いて回避。すぐさま目線を移せば、光は空気に溶けて消えて行った。

 

「あれは……」

「──シュウ後ろっ!!」

 

 ツバキの叫びと同時に背後に気配を感じて、振り向きざまに拳を振り抜く。だがその拳は空を切り、その瞬間、全身に衝撃。胸にめり込んだ拳打にシュウの身体は吹き飛び、コンクリートの壁に背中から激突──息が詰まる。

 

『──ふっ、他愛ない』

 

 顔を上げ、その姿を視認──驚愕した。

 

「お前は……!」

 

 赤と黒を基調として、瞳の下に涙の跡のように彩られた赤と黒。ピエロを彷彿とさせるデザインのそれは、シュウの記憶に残っている闇の巨人の一人。

 

『私は(ファウスト)、光を飲み込む──無限の闇だ』

 

 ダークファウスト──暗黒破壊神(ダークザギ)が従える操り人形(ウルティノイド)の一人。ウルトラマンネクサスの視聴者にトラウマを植え付け、恐怖させた闇の巨人。

 ファウストは肩を震わせながら笑い、拳を突き出す。瞬間、拳から闇の光弾が放たれ、コンクリートの壁を貫通させた。

 

「あ、あぶねえ……」

 

 間一髪、横に飛んだことで回避したが、ファウストはすかさずシュウに向けて光弾を放つ。光弾は狙い過たず、シュウに直進──衝撃に備えて構えた直後、光弾が光に飲まれて霧散した。

 

「……っ!」

 

 ──今だ、と逡巡の思考でツバキの車椅子に慌てて押す。外に出れないのなら、中しかない。後ろは振り返らず、全速力で駆け抜け、空いていた病室に駆け込んだ。

 

「……っ、はあ……はぁ……ふぅ……」

「シュウ、大丈夫?」

「ブラックホールより吹き荒れてるぜ。ツバキは大丈夫?」

「私は全然大丈夫だけど……」

 

 ツバキになんの怪我も無いことに安堵して、病室に目を向けると、そこには逃げ遅れた人々がいた。

 どうやら、さっき扉でシュウを弾き飛ばした謎の光が、あらゆる出口を封じ込めているようだった。

 

 病室のベッドで横になっているのは、子供に高齢の老人、親族と思わしき人などが、珍奇なものでも見るような目でツバキとシュウを見ていた。

 するとご老人が誰よりもはやくに、

 

「二人とも怪我はないかい?」

 

 と、二人の心配をした。

 シュウとツバキは互いに見合ってから頷く。

 

「あなた達は……」

「私たちは、ここから逃げることもできなくてね……いまは救助を待っているんだよ」

 

 シュウの言葉に優しく返したご老人は、淡く微笑む。病室の中には、恐怖に支配された子供もいる上、そう簡単には動けない──シュウはツバキの肩に触れ、目線の高さを合わせた。

 

「体は大丈夫?」

「うん、今は大丈夫」

 

 彼女はそう言っても心配が勝る。病室の中に視線を巡らせ、綺麗になっているベッドを指差し、

 

「そこ、借りても?」

「ああ……いまは誰もそこにはいないからね」

「感謝します」

 

 ツバキの身体を抱え、ゆっくりとベッドに下ろす。

 座っていたにしろ、ツバキには無茶な態勢。それに加えて激しい動きなど、彼女が大丈夫だと言っていても、あまりの無茶は命を危険に晒すこととなる。

 

「ああ……なんでこんなことに……」

 

 溜め息を漏らして、頭を抱える。

 虚空怪獣グリーザに加えて、ダークファウスト、そしてあの謎の光。どれもこれも厄介過ぎる相手だ。

 グリーザを放って置けば、この地球はいずれ消滅。そしてダークファウストに関しても、誰が変身しているかはさておき、ファウストが存在(いる)=ダークザギがどこかにいることになる。

 

「ダークザギはホントにヤバイって……」

 

 ウルトラマンノアを模して作られた巨人。

 超新星爆発にも無傷で耐え、無限に進化する自己進化プログラムや、ノアと同等の実力。更には『五分で地球を壊滅、一時間もあれば人類を絶滅させられる』と豪語するレベル。

 その設定や実力を垣間見ても、ウルトラシリーズの中でもトップクラスの凶悪さを持っている。

 

 ────終わった。

 

 虚空怪獣にゆるふわ愛され破壊神。

 どっちも現代兵器は無駄。むしろこの世界であの二体を倒せる決定打は存在してないとも言える。

 スマホで調べて見る限り、グリーザの登場に興奮している者や、対策を投稿している者もいる。だがやはり、最終的な結論は──倒せないの一点。

 

「シュウ……」

「ああ、ごめん……」

「シュウが悩む必要はないよ……大丈夫、きっとなんとかなるから」

 

 グリーザやファウストの本当の恐ろしさを知らない。だからこその言葉。だが、シュウは何度も頷いてポツリと声を漏らした。

 

「そうだね。この時点で諦めてたらどうにもならない」

「うん」

 

 ツバキに重ねられた手を握ってから、彼女を強く抱き締める。その時、後ろでテレビを見ていたご老人が、恐怖の声を漏らした。

 ────あれはなんだ、と。

 

 疑問に思ったシュウはご老人のもとに寄り、付けられたテレビを見つめる。映し出されているのは、ヘリコプターからの海上の映像。レポーターらしき女性が、声を荒げて困惑しながら眼前の出来事を説明していた。

 

『──見てください! 空が暗雲に包まれ、なにもなかったはずの海上、南太平洋に、突如、突如として遺跡のようなものが浮上しました! これはいったいどういうことなのでしょうか! あのグリーザと呼称される怪物と、なにか関係があるのでしょうか!』

 

 ────は。

 空を包み込む暗雲、何もなかった海上、そして南太平洋、突如として浮上した謎の遺跡。これらのことから考えられるのは一つ。

 かつて地球を滅亡寸前まで追い詰め、超古代の光の巨人(ウルトラマンティガ)を圧倒的な力で倒し、超古代文明を滅ぼした邪神。

 

「おいおいおい、ウソだろ勘弁してくれよ……」

「どうしたんだ?」

「あれは、()()()()()()だ……」

 

 シュウの滑らした名前に、ご老人は夫婦で顔を見合って困惑。やがて「なにか知っているの?」と問い掛けられ、シュウは簡単に説明した。

 あの怪獣はウルトラマンの世界にいた架空の存在。それがなぜか、この現実に現れて、破壊の限りを尽している、と。

 

「グリーザ、ファウスト、ガタノゾーア……なんの関係があるのは分からないが、もうこれ以上怪獣が出るのなら、ウルトラマンだって対処できない」

 

 それこそウルトラマンノアやレジェンド、キングほどの実力者じゃなければ纏めては倒せない。だが、怪獣がこの世界に来たのならウルトラマンだっている可能性はある。

 宇宙の風来坊たるクレナイ・ガイことウルトラマンオーブ。全宇宙の平和を守るノアに、宇宙を股にかけるゼロやダイナ。

 もしウルトラマンが存在するなら、この世界に訪れている可能性が一番あるのはオーブかゼロ。だが宇宙は無限にある──ならば、この世界を訪れているなんてのは希望的観測、確率があまりにも低い。

 

「……諦めるな諦めるな……なにか方法はある」

 

 ポジティブに考えるなら、イフやらアンチマターじゃないだけまだマシ。イフは全ての攻撃をコピーするわ、アンチマターは触るだけで太陽系は吹き飛ばすとかまで言われる。

 

「………あれ、あいつらの方が凶悪じゃねえか?」

 

 頭を振り、そんなことよりも今は現状の打開。

 いま最も謎なのはあの光の存在。あの光は、おそらくだがこの建物全体を包み込み、中にいる人間を出られなくしている。

 その所為でファウストもいる訳だが──、

 

「……ん? ってかさっさとここから逃げないと!」

 

 ガタノゾーアやらなんやらで忘れてたが、この建物の中にはファウストがいる。建物からいなくなっている可能性もあるが、いる可能性も捨てきれない。

 

「出たいのは山々だが、今は扉も窓も開けられないんだ」

「……え?」

 

 ご老人が窓を指差し、シュウはその窓に手を掛ける。瞬間、光粒の集合体が姿を見せて手を弾いた。

 扉を埋め尽くしていたあの光と同じ。恐らくだが、グリーザが襲って来た時にも見えたのはこの光の可能性がある。

 

「これって、もしかして……」

 

 脳裏に蘇る一つの情報──シュウはご老人からリモコンを拝借して、テレビのチャンネルを切り替えていく。

 

「シュウどうしたの?」

「気になることがある。もしかしたら、この状況を打破できるかもしれない」

 

 その言葉に、ツバキだけでなく病室にいる人々たちが目を見開いた。

 

「それってどうするんだ?」

「ちょっと待って下さい。まだ確証がないんです」

 

 光の粒が集まったようなもの。それに見覚えがあるのは確か。だが、シュウの予想している存在とはまた別のものの可能性がある。テレビのチャンネルを変えていく中で、一つの映像が目に映った。

 

「やっぱり……」

 

 映像に映し出されるのは、暗雲に飲まれていく空の中、この建物の丁度上空に渦を巻く光の粒子の集合体。それはまさに、シュウの予想していた存在とまったくもって同じだった。

 その名は────、

 

()()()()()()()……」

 

 この絶望的な状況を打開でき、グリーザやザギ、ガタノゾーアを倒せるかもしれないたった一つの可能性。シュウはその可能性に賭けて、自信のない笑みを浮かべた。




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今後の更新などは、変な呟きと共に私のツイッターアカウント@hokattya258でお知らせしていますので、ぜひ興味があればよろしくお願いします。
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