邪悪なる暗黒破壊神ダークザギ。
その名に相応しい戦闘能力は、万物万象なにもかもを無に返す。遥かなる太古より、次元を超えてウルトラマンノアと戦ってきた破壊神。
その圧倒的な存在感は、ただそこにいるものを圧して完全に破壊を齎す。
獣の如き咆哮は、その場にいるものを震わせる。感じたことのない存在感を叩き付け、真紅の眼差しは心の奥底まで見透かす。射抜く憎しみが、その場にいる者たちに恐怖を植え付けていた。
「なんの前触れもなく、突然来やがった……」
いや、ファウストとメフィストの出現から、ダークザギが降臨するのは分かっていた。
邪神ガタノゾーア、虚空怪獣グリーザ、それらの怪獣を凌駕する太古からの破壊神。普通に戦うだけでは、
思考を巡らせても、勝てる未来が全く見えない。
こっちは満身創痍。エネルギーの殆ども使い果たして、次に光線を撃てるかどうか。
「コスモス、まだやれますか?」
「ああ、まだ大丈夫だ」
互いにダークザギを見据えて構える。するとその視線を感じ取ったザギが、見下すようにカラミティ達を睥睨して、短く呻った直後──
驚愕をするよりも早く、無造作に振り払われたザギの豪腕がコスモスを一撃で吹き飛ばす。慌てて振りかぶったカラミティの拳を片腕で受け止めた。
そして腹部を蹴り飛ばされ、カラミティの身体はビルを巻き込みながら倒れる。
「ああ……くそ……っ」
普通の徒手空拳でさえも超重力波を纏っている。触れた対象をブラックホールの如き力で圧し潰す。例えウルトラマンの身体といえど耐え切れない。
胃が捻れるような激痛に、肺が酸素を上手く取り入れない。身体が震えて膝に力が入らない。
「このままじゃ……」
今にも挫けそうだった。
完全に今の一撃で力の差をはっきりと感じてしまった──絶対に、ザギには勝てない。だがそれは、ただ逃げているだけなのだと、真の勇者は決して諦めなかった。
『──デェヤッ!』
コスモスが高速移動に乗せた飛び蹴りでザギに攻撃を仕掛ける。一歩を退くだけで回避したザギが、隙だらけのコスモスの脇腹に右回し蹴り。即座に腕で
だが直ぐに痛みを振り払ったコスモスは、次なる一手に繋げる。しかし攻撃の全てはザギに読まれ、防御され、躱され、反撃を受ける。それでもコスモスが攻撃を止めることはなかった。
「コスモス……」
強大な力を前に怯まず、凶悪な存在を前に慄かず、勇気を持って勇敢に立ち向かい続ける。それはまさに、真の勇者の名に相応しい。
命を落としてまでも守り抜く覚悟。
揺るぐことのない絶対的な勇気。
それこそ、春野ムサシとウルトラマンコスモスの強さの根源。心から打ち砕かぬ限り、二人が止まることは絶対に有り得ない。
────ならば、
強盗に両親は殺された。
なにもできなかったから、なにも守れず、なにもかもを失って生死を彷徨った。
知力、体力、筋力、あらゆるものが突出していない。あるのはウルトラマンに対する知識量のみ。
コスモスとムサシはまだ諦めていない。
僅かな希望を捨てる事は決してない。
最後の力を振り絞り、自分を奮い立たせて、ゆっくりと膝に力を込めていく。
『──シュウ、お前の強さはな』
かつての父親の言葉が脳裏に響く。それは捨て去った過去の記憶。道場で言い放たれたその言葉は、今でも忘れることなく記憶の片隅に残っていた。
ムサシが持つ勇気。
コスモスが持つ優しさと強さ。
「俺の強さは、たった一つだ……」
呟きながら立ち上がり、ザギを睨む。一撃をもらっただけ、まだ戦いは終わっていない。ここで逃げれば、なにも救えずに、なにも残らない。そんなことは絶対にさせてたまるか。
父親から告げられたシュウの強み。
それは────、
『──その集中力だ』
事件から生まれた過剰なまでの正義感と自己犠牲の心。そしてそれらを支える支柱の『集中力』こそがシュウの強さ。今までどれだけの敵と戦っても、勝利をその手に掴めたのは、その集中力があったから。
────ずっとその希望を捨てなかった。
自覚していなかった集中力を、今此処で開花させ、最後の戦いに終止符を打つしかない。
「まだ諦めてたまるか……」
呼吸を整え、慎重に、その奥底に眠る全てを呼び起こす。眼前で戦い抜くコスモスが、ザギに一蹴されて大地を転がった。
慌ててコスモスの近くに駆け寄り、無事を確認してからザギを一瞥。二人の間に立ちはだかる。拳を握り締め、力強く獰猛な眼差しで睨んで「集中集中集中」と呟きながら戦闘態勢を取った。
集中力は、あらゆる物事において最も大切な役割を果たす。集中力が続く限り、油断することなく全てを見通せる。焦らず、限界の先──完全なる
「すぅ……」
呼吸を整え、ダークザギだけを見据えた。
瞬間、互いに一歩を踏み出す。大気を唸らせ、大地を震わせ、二人の巨人が拳を振りかぶる。そして残像すら残す高速移動にて突き出すカラミティの拳に、ザギが先を見極めて拳を叩き付けた。
大気が吹き飛び、衝撃波で辺りの窓が粉々に砕け散る。そしてザギの拳が押し返して、カラミティは苦痛に顔を歪めて蹌踉めく。
「──ちっ!」
朗らかにスペックの差が見える。最早手加減をしないウルトラマンノアと戦っているようなもの。
もしもライトニング・ザギなんて技が撃たれてしまえば、地球は一瞬で消滅する。それを避ける為には、必殺技を撃たせる隙さえ与えずに攻撃を続けること。
激痛を堪えて、すかさず回し蹴り。しかし一歩引くだけの動作で躱される。素早く足を組み替えて
「もっと、もっと──!」
ダークザギの攻撃には超重力波が纏っている。まともに受ければ致命傷にも成り得ない。ならば、全ての攻撃を回避して反撃へと繋げればいい。
ザギが素早く放った前蹴りを横に躱し、顎の先端に向けて拳を突き出す。だが、首の動きだけで回避される。続けて勢い良く突き出した拳を引き締め、勢いに乗せた回し蹴りをザギの腹部へと叩きつけた。
「──よし入った!」
ガッツポーズの一つでもやりたい気分に駆られるが、そんな思考よりも早くザギの回し蹴りがカラミティを吹き飛ばした。
転がりながらも直ぐに態勢を立て直して、眼前を睨む──目を見開き、瞬間的に迫っていたザギが、その拳に焔を纏わせて突き出す。
「──やっば!?」
慌てて飛び退き、その刹那に防御態勢を取る。閃光が瞬き、拳が触れた瞬間に轟音を撒き散らして大爆発を起こす。舞い上がる焔が二人の巨人を包み込んだ。
ザギ・インフェルノ──拳に一兆度の炎を纏わせて叩き付ける技。これほどまでの威力があるとは、シュウ自身も想像がつかなかった。
「これが通常技ってマジかよ……」
シュウが見つめる先──ザギの立っている場所に巨大なクレーターが生み出されている。辺りの建物は完全に融解して、跡形もなく消え去っていた。
もしザギ・インフェルノを食らっていたらと思うとゾッとする。ザギにとっては通常技でも、シュウたちからしたら即死級の必殺技。
ならば、その全てを回避すればいい。
呼吸を整え、神経をより尖らせる。意識をより深く、より広げ、その先に眠る集中力を研ぎ澄ます。
ザギの攻撃を避けるには、行動を視認してから動くのでは絶対に間に合わない。故にシュウが取る行動はただ一つ──
普通ならば絶対にできるはずがない。
だが、ダークザギの動きは今まで何度も映像作品等で見ている。今の極限まで研ぎ澄まされた集中力もあれば、不可能ではない。ウルトラマンは不可能も可能にする力がある。後は己を信じ抜くのみ。
「──行くぞ、
その一言により、戦いの火蓋が切って落とされる。カラミティの高速移動を全て予測したザギの攻撃。それを更に先まで予測したカラミティが避け続ける。
ダークザギの戦闘は、獣の如く雄々しい。どの格闘術にも属さないにも関わらず、その戦闘技術は天才という他ない。それはザギの自己進化プログラムが齎すものか、それとも本能が全てに勝っているのか。
真っ向から勝負して勝てるはずがない。
だが、だがそれでも────シュウは僅かな希望を信じて、ダークザギから勝利を掴み取る。
ザギが振り払い、薙ぎ払い、蹴り放つ。しかしカラミティは受け流し、往なして、反撃へと繋げる。
突き出された拳は自ら腕を当てて軌道を往なす。音速で放たれた回し蹴りは、体を反らすことで間一髪回避。その先の先をも見定め、シュウは一手から十手先まで予測する。
一手を避ける毎にカラミティの動きは洗練され、一手を攻撃する毎にザギの攻撃は熾烈を増した。
「ち……っ!」
一撃でも受ければ致命傷は免れない。
一手、十手先までの予測だけでは足りない。更にその先──百手にも及ぶザギの行動パターンを予測。寸分の狂いすら許されないシュウの予測能力は、意識を共有しているカラミティですら驚愕を隠し切れない。
突き出された拳を躱して掴み取る。そのままザギの勢いを背中に乗せ、背負い投げをするが、空中で態勢を立て直したザギがカラミティを薙ぎ払った。
「クソっ……!」
回避が間に合わず、即座に受け止めるが、あまりの力を持った豪腕に
突き出されたザギの拳から暗黒の光弾ザギ・シュートが放たれ、慌ててブレイキングスマッシュで対抗。
だがブレイキングスマッシュとザギ・シュートでは朗らかに威力の差があった。ブレイキングスマッシュを貫くザギ・シュートが、カラミティの身体を紙のように吹き飛ばした。
「く……っ」
極限まで齎した集中力による予測は、本来ならばあらゆる敵にも勝る能力と言える。だが今回は運が悪い事に、相手が最強の破壊神だった。
より近くまで至った勝利への願いは、神の
両腕に暗黒を纏ったザギが大きく広げ、一気に突き出す──超重力光線グラビティ・ザギがカラミティを撃ち抜き、辺りの大気を瞬時に吹き飛ばす大爆発が巻き起こった。
全身に巡る激痛。噛み締めた歯が削れ、口の中に臭い血の味が広がる。シュウの絶叫が辺りに轟き渡る。視界を四隅から暗黒が呑み始め、意識も絶望が覆い尽くす。
恐怖、絶望、畏怖、憂虞、憂懼、あらゆる負がシュウを喰らい、僅かな希望をも包み込む。
────光は、どこにある?
目の前に跋扈する闇を打ち払う輝き。
────ウルトラマンは、どこに?
凶悪な敵から守ってくれる至高の
────俺は、どうすればいい?
何もできずに逃げ出す最悪な臆病者。
息が苦しい。呼吸の度に肺が刺激されて激痛を走らせる。過去の情景が
眼前に迫り来る恐怖に、シュウはただ腰を抜かして後退りするしかない。一歩を進める度に退く。
黒い人影が視界を覆い、その手に握り締めた物が窓から差し込む陽光によって煌めいた。
後退りして付いた掌に妙な感触。ふとそれを見た時、目を見開き、声にならず絶句する。真紅に染まった掌から視線を移せば、倒れ伏せて起き上がらない両親がいた。その真紅は両親から蚕食して広がり、絶望の慟哭が虚しく響く。
「あ、ああ……っ」
嫌だ、イヤだ、いやだ。
来るな、くるな、クルナ。
タスケテ、助けて、たすけて。
駆け巡る万感の負が、シュウに絶望の記憶を蘇らせる。全てを奪い殺した強盗が、迫り来るザギと重なり合い、あらゆる恐怖を集わせた。
悲鳴と怒号の連鎖。恐怖と激痛の嵐。
何も抗えず、何も守れず、何も救えず、またしても絶望に呑まれて喀血。『死』がそこまで迫っている。
「助けて、死にたくない……っ!」
今のシュウは、ウルトラマンカラミティ等ではない。過去の最悪に取り込まれてしまった、ただの少年でしかない。現在の正義感も、諦めない心も、何もかもが過去の恐怖に呑まれた。
虚空怪獣グリーザ、邪神ガタノゾーア、超古代尖兵怪獣ゾイガー、
だがそれまで──ダークザギとの戦闘により、圧倒的な力の差を感じて、希望も奇跡も信じられない。
『──逃げろ!』
辺りが血に染まる中で、父親が必死に抵抗しながら叫ぶ。肉が裂け、骨が砕ける不協和音を響かせ、脳裏に忘れることなく残り続ける。悲鳴に、悲鳴が重なり合い、そこに残るのは、真っ赤な水滴が波紋を広げ、もう決して動くことのない二人。
────誰も助けてくれない。
────誰も救ってくれない。
この世界にウルトラマンなんて存在しない。都合良く誰かが助けてくれるなんて有り得ない。所詮
シュウには、ウルトラマンのような強さは存在しない。
「──シュウ!」
コスモスが駆け出し、ザギを食い止める。シュウの方向へと顔を向けながら、必死に声を上げた。
「恐怖に呑まれてはダメだ! 希望を信じるんだ!」
絶望し切ったシュウに、コスモスは激励の如き言葉をかける。恐怖から救い出そうと、最後まで諦めぬ心のコスモスがザギに立ち向かった。
どれだけ傷付けられようとシュウを諦めず、ザギに勝つ為、命に最後の灯火を宿す。絶対的な絶望を前にして、自らの命を賭しても戦い抜く真の勇者──ウルトラマンコスモスは、果敢に立ち向かってシュウだけでも助け出そうとしていた。
だが、今のシュウには最早なにも分からない。
なにもできない。
ただ見ていることしかできない。
あの時も、この時も、ただ恐怖に怯えてなにもしようとしない。いつだって大言壮語だけを語って、実際は単なる臆病者でしかない。
今までの戦いでは耐えていたはずの箍が、ダークザギによって完全に外れてしまった。
ザギが、食い止めるコスモスを薙ぎ払った。
大地を転がり、コスモスは激痛に呻いてその場に仰向けになる。もう既に
倒れて、立ち上がることすらできないコスモスに向けて、ダークザギが両腕を広げる。暗黒の霧が腕に沿って広がり、グラビティ・ザギを放とうとする。
────また、なにもできない。
────また、見ているだけ。
────また、なにもしない。
あの時も、ただ見ているだけで何もしようとしなかった。今回もまた、大切な人が殺される様を見ていることしかしないのか?
そんなのは嫌だ。
『──シュウ!』
大切な人の声が、聞こえる。
昔と今は違う。俺は変わった──大切な人を守り抜く為に、覚悟して、約束を交した。
もう逃げないと、もう背けないと。
グリーザも食い止めた。
ゾイガーも、ガタノゾーアだって倒せた。
ダークファウストやメフィストも何とかできた。
『──シュウは、いつだって私を守ってくれた!』
恐怖に呑まれる過去の光景に、一筋の光が瞬く。それは徐々に輝きを増して、やがては聞こえる声も次第に大きくなっていった。
『──シュウが側にいてくれたから、私はまた生きようって思えたんだよ!』
自分がなんの為に生きているのか分からなかった。なんで一人だけ生き残って、家族はみんな死んでしまったのか分からなかった。
生きている意味が、生き残った意味が、なにも分からない。それでも、自分を必要だと言ってくれる人が、確かにいた。
『シュウは、私の──』
だから、その人の為に生きようと思った。
だから、その人に全てを捧げようと思った。
だから、その人を絶対に守り抜こうと思った。
声が聞こえる。大切な人の声が、自分を必要だと言ってくれる人の声が──、
『──
瞬間、真紅の光が辺りを照らし尽くす。
真紅の球体となった光が天から降り注ぎ、グラビティ・ザギを放つダークザギへと一直線に向かって行っては衝突。光線を無理やり中断させ、ザギの身体を大きく吹き飛ばした。
「……あれは……?」
誰もが目を疑った。
コスモスやカラミティだけでなく、リンドウ達もその光景に理解できず目を眇めた。
ザギを吹き飛ばした真紅の球体は、カラミティの前にゆっくりと降り立ち、眩い光を照らして、その中から
「…………銀色の、ウルトラマン……」
ポツリと、その姿を見たシュウが声を漏らす。
銀色を主とした約五十メートルの巨人。彼はゆっくりと身体を向け、輝く瞳でシュウを見つめる。その胸には、Y字のように象られた真紅の
その名は────、
「
振り返り、ネクサスが腰を低く構えた。
絶対的な絶望の中に舞い降りた絆の光。ダークザギに引導を渡す為、絆を受け継ぐ光の巨人ウルトラマンネクサスが、この世界に誕生した。
次回は『決戦 ─フェアウェル─ 』。
ネクサスは出さないと言いましたが、ウソです。サプライズみたいな感じで出したくて出しました。
評価や感想があればぜひ。
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