【完結】俺の世界、終わった。   作:渚 龍騎

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かつてに輝く混沌の光

 

 

 

 カオスヘッダー。

 かつては数々の星の生態系を変えては滅ぼして来た光のウイルス。ウルトラマンコスモスを凌駕して、圧倒的なチカラで苦しめた存在ではあるが、最後はムサシや怪獣たちの優しさを知り、憎しみや憎悪を浄化。コスモスとも和解した存在。

 

 シュウはその存在に賭けた。

 カオスヘッダーのコピー能力は、完全なる上位互換すら生み出す。テレビ本編では、コスモスのエクリプスモードを完全コピーした上に、制限時間が無いカオスウルトラマンカラミティを作り出した。

 

「シュウどうするの?」

「いま、この建物上空には光のウイルス──カオスヘッダーっていうのがいる」

混沌(カオス)……」

「そのカオスヘッダーと話し合って来る」

「──え!?」

 

 ツバキが声を上げて驚愕した。

 虚空怪獣グリーザに意思はない。

 暗黒破壊神ダークザギはどこにいるか分からない。

 邪神ガタノゾーアとは意思疎通なんてできない。

 だがカオスヘッダーには感情があり、知性があり、意志もある。人工的に作られた存在ではあるが、人間を知り、コスモスやムサシによってあらゆる事を学んでいる。

 この中で唯一話し合えるのはカオスヘッダーのみ。

 

「そのカオス()()()()もウルトラマンの敵なんでしょ!?」

「ゲッターじゃなくてヘッダーね。ゲッターはまた別の作品になっちゃうから……カオスヘッダーは確かにウルトラマンと敵対してた。けど、今は和解してそのウルトラマンの仲間でもある」

 

 コスモスペースのカオスヘッダーである根拠はどこにもない。だが、僅かな可能性でも信じて戦わなければ、勝つことなんて絶対にできない。

 

「で、でもどうやって話し合うの?」

「屋上で叫ぶ」

「……できるの?」

「やるしかない」

 

 心配げな表情で見つめるツバキ。

 シュウはそんなツバキに向けて柔らかく微笑み、強く手を握った。

 

「大丈夫。絶対に帰ってくるから」

「ほんとに……?」

「うん、必ず」

 

 唇を噛み締め、無言になるツバキは、やがてシュウの瞳を見つめ返して頷きながら微笑んだ。

 

「分かった……帰ってこなかったら、すぐ追いかけるから」

「その時は待ってるよ。……それじゃ」

「行ってらっしゃい」

「行ってくる。俺が出たら、ここは締めて絶対に開けないで」

 

 ファウストがまだいる可能性がある。

 闇の巨人相手にこんな扉一枚は心許ない。だが無いよりはマシ。もしもの時は囮になればいいだけの話だ。

 

 シュウは病室を後に、踵を返してゆっくりと歩を進め始める。今だに遠くでグリーザが暴れ回る音──建物が崩れ落ちる崩壊の大音響、響き渡る地鳴らし。まだこの病院が壊されていないのが、幸運でしかない。

 

「頼む、楽がしたい」

 

 祈りを込め、エレベーターのボタンを押す。だが反応は無し、それも当然。シュウは溜め息を吐き、半ばガックリと肩を落として踵を返した。

 この病院は五階建て。つまり、階段はかなり疲れる。しかしやらなければ、この世界が終わるのだから、仕方がない。

 そして────、

 

「だぁ……ぜぇ……はぁ……あ゛ぁ゛」

 

 息を切らして、肩を激しく上下させながら、シュウはゆっくりと深呼吸をして息を整える。

 

「こんなことなら、ちゃんと親父の訓練を受けとくべきだった……」

 

 格闘術の師範を務める父親だが、シュウは少し囓っている程度で下の上あたりの実力。それにサボり癖の付いたシュウにとって、この階段は地獄のトレーニングに感じていた。

 

「よし、ふぅ……それじゃ」

 

 鉄の扉を押すと、金属の擦れる耳に嫌な音を軋ませ、シュウは屋上へと出る。見上げれば、暗雲の中にカオスヘッダーが渦を巻いている。

 ここまで強気で出れたのは、今までのカオスヘッダーの動きによる。グリーザが襲って来た時、恐らく守ったのはカオスヘッダー。それにファウストの一戦。これは推測に過ぎないが、病院から出られなくしたのは、中にいる人々を守る為──、

 

 これらの考えから、このカオスヘッダーは()()()()()()()()()カオスヘッダーの可能性が高い。そしてシュウは手汗を拭い、深呼吸をしてから覚悟を決めた。

 

「──カオスヘッダーっ!! 聞こえるか! 聞こえるなら、俺の前に現れてくれっ!!」

 

 上空に向けて、渾身の叫び。

 その後に残ったのは静寂。シュウは賭けに負けたのだと、刹那の思考で感じた。

 だが次の瞬間──小さなカオスヘッダーの塊が眼前に降り注ぎ、シュウは驚愕して顔を覆った。

 

 恐る恐る顔を上げると、そこにいたのは金色の輝き。天使の如き黄金の翼と神々しい姿は、まさに憎しみを浄化されたカオスヘッダー(ゼロ)そのもの。

 

「カオスヘッダー……」

『コスモス……いや、ムサシでもない……いったい?」

 

 シュウの姿を見つめるなり、カオスヘッダーは首を傾げて困惑している。だが今の発言から、シュウは賭けに勝ったことを実感した。

 コスモスとムサシを知っている──そしてカオスヘッダー0の姿。これは憎しみを捨てた後のカオスヘッダーだ。

 

「俺はシュウ。突然のことで何も分からないと思うけど、君のチカラを貸してほしいんだ」

「……私の、チカラを?」

 

 シュウは頷く。

 下手をすれば、ムサシとコスモスの努力が水の泡になる可能性がある。だが世界を救うには、いまはこの方法しか道が見えない。

 

「今、この世界は滅亡の危機にある。このまま何もしなければ、全ての大切な人が、全ての大切な景色が無くなる……そんなのは絶対にイヤなんだ」

 

 カオスヘッダーに語りかけ、シュウは視線を落とす。この賭けに負ければ、もう全ては終わりだ。

 

「憎しみを捨てた君に、また戦ってもらうなんて自分勝手な願いだってのは分かる。だけど、大切な人を守りたいんだ」

 

 頭を下げる。

 もしこの戦いで、また憎しみを知ってしまえば、ウルトラマンコスモスの全てが意味を成さない。そんなことは絶対にイヤだ。

 

 カオスヘッダーは無言を続け、数秒の間のあとにシュウから背後へと視線を向ける。その視線はグリーザを辿り、そのまま口を開いた。

 

『なぜ、そこまでして救いたい?』

「理由なんてない。ただ、大切な人と()()()()。ただそれだけだ」

 

 そうか、とポツリ呟いたカオスヘッダーは両手を広げる。すると黄金に光り輝き、その身体は光の粒子となって、暗雲の空へ昇っていった。

 天に帰るカオスヘッダーを見上げ、シュウはただその光景を呆然と見つめるしかなかった。

 

 ────賭けに、負けた。

 

 思えば、なんの取り柄も持たない人間の言うことなど、カオスヘッダーや他の怪獣たちにとっては、ただの思い上がった願いの他ない。儚い現実に打ちのめされたシュウは、全身の力が抜けて絶望的な脱力感に飲まれた。

 

 憎しみを捨て去り、優しさを知ったカオスヘッダーなら、とシュウは信じた──否、願っていた。

 

「く、そ……」

 

 儚い夢、思い上がった夢だった。そんな簡単なこと、分かっていたはずだったのに。

 何もできない自分にできる何かがあると、ウルトラマンのように強くなくても、志だけは彼らと同じであろうと、必死に足掻いた。

 それで──ダメだった。

 

「…………」

 

 ────その時、誰もが上を見た。

 光に瞬くカオスヘッダー。先程シュウの前に現れた何十倍ものカオスヘッダーが集結。そして一条の光と共に、大気を唸らせる音響を上げながら光が屹立した。

 

 紅き(いかずち)。光はかつての闇と同じき形を象り、シュウの前──病院を見下ろすように現れた。

 ウルトラマンコスモスのエクリプスモードが成す、優しき蒼と強き紅、そして勇気の黄金と対を成すその姿は、まさに『力を振り翳す巨人』。

 かつて抱いた憎しみの真紅、光を飲み込む漆黒、そして黄金と対を成す白銀──その姿こそ、カオスウルトラマンカラミティそのものだった。

 

『力を貸そう。どうすればいい?』

「……! ありがとうカオスヘッダー! いや、ウルトラマンカラミティ!」

 

 手早く感謝を伝え、シュウはカラミティに一つ問い掛ける。それはグリーザを倒す上で最も大切なことでもあった。

 ウルトラマンコスモスのエクリプスモードが放つ『コズミューム光線』は、『狙ったものに当たり、邪悪なものに効果を発揮する』とんでもない能力の光線──カラミティはエクリプスのコピーであるのもあり、コズミューム光線を『カラミュームショット』として得ている。

 それならば────、

 

「君の光線は、コスモスと全く同じ能力なのか?」

 

 問い掛ければ、カラミティは『同じではある』と頷くが、少し視線を逸してから、

 

『あれは、コスモスが人間の勇気を得たことで本当の効果を示すもの。私一人では、真の力を発揮することはできない』

 

 シュウは顎に手を置いて納得する。

 エクリプスモードとは、優しさと強さ、そしてムサシたちの勇気を得たことで生まれた神秘のモード。ムサシがいなければエクリプスモードになれないのも納得できる。

 カラミティはその部分をも模倣(コピー)しているらしい。

 だが────、

 

「それじゃあ意味がない」

 

 当てたいものを示す者──即ち、カラミティと一体化する者がいなければ、カラミュームショットはただの破壊光線にしかならない。

 この世界を守るためには、覚悟するしかない。

 シュウは拳を握り締め、席巻する恐怖を噛み締めながら、カラミティを見上げる。そして強い眼差しで見つめ──、

 

「──俺が、俺が一緒になるっ! 一緒に戦わせてくれっ!」

『………いいのか?』

「男に二言はない」

 

 カラミティは顔を逸してから、シュウの決意に頷く。そして右手を差し伸べ、その手から無数の光がシュウを包み込む。

 

「あ、やっぱちょっと待っ──」

 

 ──ツバキに一言言ってからすれば良かった。

 そんな決意の揺らぎは虚しく消え、シュウはカラミティと一体化。ふわふわと水の中で浮つくような感覚。ゆっくりと瞳を開けると、シュウは建物を見下ろしていた。

 

『……この想いは、かつてコスモスたちから感じたものに似ている』

「…………え?」

 

 カラミティは感慨深く声を漏らした。

 その意味を理解することはできなかったが、そんなことよりも早く、カラミティは視線を変えてグリーザの方へと向けた。

 膨大なエネルギーの塊を感じ取った所為か、グリーザは瞬間移動の如き動きでカラミティに向かって突貫し始めた。

 

「──ちょっ! 俺怪獣となんか戦ったことないって!」

『ここは私が──ッ!』

 

 突撃するグリーザに備え、カラミティが拳を突き出して構えを取る。瞬間、グリーザは既に背後にいた。

 不気味な笑い声、鈍い鐘の音、二つが混じる不協和音に耳を塞ぎ、グリーザから放たれた不規則に動く光線が、カラミティを吹き飛ばす。建物を巻き込み、大地を震動させながらカラミティは転がり、すぐさまに立ち上がろうと力を込めたが──、

 

『身体の制御が──』

「ど、どうしたんだ!」

 

 膝立ちの状態からカラミティが立ち上がらない。立ち上がろうとすれば、身体が崩れるように落ちる。

 

「え、立てないの?」

『動きが鈍い、上手く力を込められない』

 

 カラミティは必死に立ち上がろうとしているが、やはり立てない。久しぶりのカオスウルトラマンカラミティの姿ゆえか、それとも────、

 

「──俺か?」

 

 ウルトラマンと一体化した人間は意識を統合させ、共に心を合わせて戦い抜く。カラミティが身体を上手く動かせないのは、シュウの意識が《戦い》を恐怖しているからだった。

 

「俺が、戦いを恐怖してるから……」

『シュウ……?』

 

 胸に手を当て、強く握り締める。深呼吸を重ねた直後、全身に強烈な激震が走り、身体が紙屑のように吹き飛んだ。

 グリーザの攻撃により、ビルの上に落下。粉々に崩壊させ、カラミティとシュウは激痛に顔を歪めた。

 

「ああ……痛ぇ……」

 

 明滅する視界の中、目を眇めながらも正面を見据え、咄嗟に慌てて横に飛んだ。

 瞬間、グリーザの放った紫紺の球体がカラミティのいた場所に巨大な穴を空ける。そして顔を上げた眼前、グリーザは右腕を振り払い、カラミティの四万トンあまりある巨躯を簡単に吹き飛ばした。

 

「こんなのに、勝てた……とか……エックスとゼット凄いな……」

 

 ポツリと呟きながら、感慨深く呟いた。

 痛みに堪え、満身創痍になっても、シュウは歯を食いしばり、顔を上げる。

 

「カラミティ……俺、頑張るから……一緒に」

 

 返事はない。眼前のグリーザが、奇妙な音と共に身体を震わせる。目を見開いた瞬間、グリーザが小刻みに震え、胸部からグリーザダークライトニングを撃ち放った。

 

 ────死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ。

 『死』、主観的な意志の永遠の消失。『存在』していたものを『不存在』に変えてしまう最悪の概念。あらゆる知恵の前にある永久の恐怖そのもの。

 

 ────死にたく、ない。

 まだなにも成し遂げてない。なにも果たせてない。なにも救えていない。なにも守れていない。

 

 必死に足掻く。そのすべてを拒んで。

 

「──まだ、諦めてたまるかぁっ!」

 

 束の間、全ての世界、あらゆる物語がゆっくりと流れる。

 眼前に迫る紫紺の稲妻。駆け抜ける雷鳴がスローモーションで視界に映じる。(はし)り揺らめく光の中、シュウはグリーザを睨んだ。

 

 自分が自分でなくなるような感覚。

 吹き抜ける風が異様に冷たく、全ての感覚が深く広く研ぎ澄まされている。カラミティの両腕が伸びていく──その瞬間さえも、遅くノロい。

 

 紫紺の終焉が直撃する寸前──カオスヘッダーとシュウの意識が完全一致。グリーザダークライトニングを両腕から放った障壁(バリア)で防ぐ。

 

「──諦めたくない、負けたくない、認めたくない。全てを拒み、全てに抗い、終焉を終わらせるッ!」

 

 グリーザダークライトニングを受け止め、カラミティはゆっくりと立ち上がる。押し戻される光線の勢いに押されながらも、その両腕を引っ込めることはなかった。

 大地を踏み締める度に、光線に押される度に、地面が抉れ、身体中に激痛が走り抜ける。やがて、放ち続けられたグリーザダークライトニングが消え、両肩を大きく上下させながら態勢を整えた。

 

「カラミティ、俺のことを信じてくれる?」

 

 言葉は無くとも、頷いてくれたような気がした。

 シュウはカラミティとの思考を繋ぎ、意識を共有。コスモスの優しさと強さ、ムサシの勇気、二人の心を紡いで、カオスヘッダーはそっと微笑む。

 コスモスが伝えたかったもの。ムサシが伝えようとしたもの。それを今、胸に暖かく感じていた。

 

「ギリギリまで頑張れば、きっと奇跡だって起きる」

 

 カラミティ(シュウ)が構えた。

 眼前を睨み、風が吹き抜けたと同時にカラミティは、神速の踏み込みによる高速移動を以てグリーザに拳を叩き込む。しかし当たらない。

 まるで、そこにはなにもいなかったように、拳の行方はただの『無』。一瞬で懐に潜り込んだグリーザが、無数の触手でカラミティを吹き飛ばした。

 

「く……っ!」

 

 勢いを殺さずに大地を転がり、そのまま直ぐに飛び起きる。相手を視認したと同時にブレイキングスマッシュで応戦。だがグリーザに当たる直前で空間を湾曲され、空に消えていく。

 

「……グリーザは『無』であり『宇宙の穴』、倒す為には『穴を縫う針』が必要……」

 

 グリーザから放たれた紫紺の光弾を、三日月型の斬撃カラミュームブレードで相殺。飛びかかるように蹴りを放つが、そこにグリーザはいない──もう既に背後へ回られ、振り払われた豪腕を両腕で防御。しかし身体は簡単に吹き飛んだ。

 

「その針は、(グリーザ)の中にしかない……」

 

 だが、どうやって無の中から取る?

 かつてはジードのベリアル因子に触れ、無の中で幻界魔剣たるベリアロクが誕生している。カオスヘッダーが触れれば、新たな針が生まれる可能性もある。しかし、シュウには一つの考えがあった。

 

 グリーザと戦うには、無に飲まれない『理屈を超えた力』。強大な力である『有』を、グリーザである『無』にぶつける──そんな方法になる。

 

「カラミティ、俺に合わせてもらえる?」

『──分かった』

 

 呼吸を整える。視界でグリーザが、残像を残しながらゆらゆらと不規則に動く。

 これからはただの予測であり予想。希望的観測、だが道理は通っているようにも感じていた。

 

 瞬間移動に瞬間移動を重ねながら、グリーザはカラミティとの距離を縮めて視界の外に移動しては、目の前に現れるなどを繰り返す。

 

「見えるものだけを信じるな……」

 

 神経を研ぎ澄ませ、瞳を閉じた。

 感じるものはグリーザではない。なにもない無そのものを感じればいい。

 不気味な音が聞こえる。惑わされるな。

 真っ暗闇な何も見えない視界の中、ゆらゆらと揺れる淡い光。それが眼前に迫り、シュウは無意識に身体を動かした。

 

「──ッ、捕まえた!」

 

 振り払われたグリーザの豪腕をガッシリと掴み、すかさずに腹部と思わしき部位を蹴り飛ばす。この戦いに置いて初めてグリーザはよろめき、その瞬間にシュウとカラミティは最後の希望を懸けた。

 両腕を広げると、紫紺の膨大なエネルギーが煌めく。フレアーの如きエネルギーの塊を右腕に収束させ、準備は全て整った。

 

 シュウの賭けた可能性──それはウルトラマンコスモスのエクリプスモードが放つコズミューム光線にある。それをコピーしたカラミティならば、

 

「──当ったれぇぇぇぇぇッ!!」

 

 フレアー全てを、シュウは叫ぶと同時に右腕からその全てを撃ち放った。

 それこそカラミュームショット。

 シュウは意識の全てを、感情を想いに乗せて『グリーザに当てる』ことだけを考えた。

 カラミュームショットの本質は『狙ったものに当たり、効果を発揮する』。コズミューム光線のコピーならば、その効果もそっくりそのままカラミティは得ている。

 

 穴は縫うだけではない。新たに埋めればいい。

 

 一直線に撃ち放たれたカラミュームショットは、寸分狂うことなくグリーザに伸びて行く。瞬間、グリーザは紫紺のバリアでカラミュームショットを防いだ。

 

「──まだだァッ!!」

 

 更なるエネルギーを込める。カラミュームショットの本質が開花。紫紺のバリアを突き抜け、カラミュームショットがグリーザを直撃した。

 

「──このままァッ!!」

 

 グリーザがよろめき、徐々に押される。更に奥へ、更に深く、その想いを『無』に注いだ。

 吸い込まれるように、カラミュームショットの爆大なエネルギーがグリーザに飲まれる。そして静謐な一瞬の時の流れが過ぎ、瞬く閃光が沈黙を破った。

 グリーザの身体が崩壊するが如く、『無』が『有』に埋められては辺り一帯の空間を一気に吹き飛ばし、グリーザの身体が縮み込んで球体状──第一形態へと姿を変えた。

 

 

 虚空怪獣グリーザは────、

 カオスウルトラマン────否、ウルトラマンカラミティによって一時的に封じ込めることができた。

 

「はぁ……はぁ、はぁ……」

 

 倒し切れていない。

 肩を大きく上下させ、シュウは目の前で空に浮かぶグリーザを見つめる。

 宇宙の穴を埋める──その作戦には成功した。

 だが、やはり宇宙の穴を縫う針が必要なことに変わりはなく、根本的な解決には至らなかった。

 

 カラミティのエネルギーを穴へ直接注ぎ込めば、何事もなく穴は埋まり、グリーザは消え去ると思っていた。

 しかしグリーザが第一形態に戻ったのは、恐らく埋められたエネルギーを『無』に返しているから──エネルギーが無くなれば、また暴れ出す。

 

「今なら、倒せる……」

 

 かつて第一形態は、太陽に落とされたことで一時的に戦闘不能になったことがある。ならば第一形態は事実上の『有』であり、実体化していることになる。

 そこに必殺技を叩き込めば倒せるはず──シュウは深く息を吸い込み、カラミュームショットの構えを取った。

 

 だが、()()()()()()()()()()

 

「え、なんで……?」

『シュウ、これ以上は危険だ』

「どうして、今が好機(チャンス)なんだ! 今やらなかったら、またコイツは全てを『無』にしてしまうんだ!」

 

 叫びながらグリーザを指差すが、視界が光に包み込まれる──刹那の思考で悟った。

 カラミティの変身が解除される。瞳を開けば、そこは光の中ではなく病院の屋上。シュウはぼんやりと遠くを見つめて、意識が戻った。

 

「カラミティ! カオスヘッダー!」

 

 叫んでも、ウルトラマンカラミティやカオスヘッダーの姿はどこにもない。唇を噛み締めて、肩を落としながら拳を握ると、右手に何か持っていた。

 

「……コスモプラック? いや、これは……」

 

 コスモプラックに似て非なるもの。

 ウルトラマンカラミティに変身する為、謂わば変身アイテム。それこそ名付けるならカオスプラック。

 

「なんで、なんで変身を解除したんだよ……」

 

 遠くでぼんやりと浮かぶグリーザを見つめながら、誰もいない屋上で、一人ポツリと呟いた。

 

『あのまま戦えば、シュウの身体は消えていた』

「へえ、俺の身体が消え──あ?」

 

 聞こえた声に頷き、シュウは疑問を浮かべた。

 辺りを見渡してもそこには誰もいない。頭の中へ直接響くような声は、脳内で溶けていく。

 

「……これか……」

 

 手に持っているカオスプラックを見つめ、その声を理解する。コスモプラックと同様、カオスプラックを通じてカラミティとの意思疎通が取れる。

 

「俺の身体が消えるってどういうこと?」

『あのまま戦闘を続ければ、シュウの身体は私と同化して人に戻れなくなる』

「それでも、アイツを倒せなければみんな死ぬんだ」

 

 もう、答えは分かっていた。

 カラミティの言葉は『ダメだ』のたった一言。そして精悍とした意志を揺るがさず、囁くように──、

 

『君には帰る場所がある。それを無駄にしてはならない』

「それじゃあ意味がない。グリーザを倒せなかったら、その帰る場所すらなくなるんだ!」

 

 シュウの叫びに、カラミティは沈黙を選択する。それからいくら彼の名前を呼び続けても、シュウに対して反応せずに黙った。

 それが最善の方法だと分かっていたから。

 

「クソ……」

 

 空を見上げた直後──大気を割いて、辺りに鈍い音を撒き散らしながら飛び去る巨大な怪鳥がいた。

 邪神ガタノゾーアが送り込む『地を焼き払う悪しき翼』。遂に現れたその名こそ、超古代尖兵怪獣ゾイガー。

 その一体が、グリーザに向かって直進。吹き抜ける建物の悉くを崩壊させ、直前で停止して急上昇した。

 

「…………なにしてんだ?」

 

 ゾイガーは大地を焼き払う訳でも、グリーザに攻撃を仕掛ける訳でもなく、天高く舞い上がってグリーザの直上で円を描くように回り始めた。

 その行動に理解できず、シュウは天から視線を下ろす。その先に広がる光景を一望して、唇を噛み締めた。

 

 轟々と燃え、立ち上る紅蓮。辺り一帯はいつも見ていた景色と一変して、見るにも耐えない光景に変わり果てていた。

 

「……守れなかった」

 

 それだけをポツリと呟いて、シュウは踵を返す。重い鉄の扉を開き、ツバキの待つ病室へと向かった。




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