【完結】俺の世界、終わった。   作:渚 龍騎

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暗黒に眠る一時の安寧

 

 

 

 ダークファウストがいる可能性を考え、忍び足たる音も立てないほどゆっくりと歩みを進めていく。廊下の角ではカオスプラックを握り締めたまま一気に飛び出て確認。しかしどういうことか、ダークファウストの気配がまるで感じられなかった。

 

「…………てか、俺がウルトラマンになったことって言うべきなのかな」

 

 ふとカオスプラックを見つめ、ツバキに伝えるべきか否か思考を巡らせる。

 ウルトラマンになった場合、殆どの者はその真実を隠す。理由は幾つか存在する。

 バレた場合、他の宇宙人に周りの人間が狙われる可能性がある。それだけでなく、ウルトラマンがその正体を隠す最大の理由はただ一つ。

 

 それは、人間がウルトラマンに頼ること。

 自分たちで戦わず、全てをウルトラマンに委ねることにある。

 

 最後まで諦めず、自分たちの限界を超えてもダメだった時、ウルトラマンはようやく力を貸してくれる。

 最初からウルトラマンに頼るなど、それでは人間は成長せず、ダメな存在に変わってしまう。だからこそウルトラマンは、自分の正体をバラさない。

 

「────」

 

 ツバキに伝えるか、否か。

 答えは、もう決まっていた。

 

「──隠そう」

 

 もし正体をバラせば、ツバキは『シュウがウルトラマンになることを拒む』。だからこそ、伝えない。

 今この地球をどうにかできるのは、カオスヘッダーと共にあるシュウのみ。もし戦闘を拒めば、この地球の全てが消え失せる。

 

「グリーザは時間を稼いだだけ……」

 

 窓の外を見れば、グリーザに向かって一筋の雲を切り裂きながら、空軍の戦闘機が風を縫った。

 次々と放たれるミサイルは空を裂き、グリーザに当たらず建物を粉砕する。そして状況を呑み込めずに向きを変えた直後──

 

「──ッ!」

 

 ゾイガーによって戦闘機は撃墜。炎を撒き散らしながら、地面に向かって落下していく。その光景を一望したシュウは、慌ててカオスプラックを突き出した。

 だがカオスプラックが光り輝くことはなく、シュウの姿がウルトラマンカラミティに変わることもなかった。

 その間、変身できなかった事への困惑に、呆然とただ流星が堕ちるのを見つめるしかなかった。

 

「なんで、なんで手を貸してくれないんだ……っ!」

 

 カラミティからの返答はない。

 沈黙による静謐な空間の中、シュウは崩れ落ちて窓に拳を叩き付けた。

 目の前に助けられたはずの命があった。

 それが怪獣によって、いとも簡単に消し去られる。次々と、グリーザとゾイガーに勇敢に向かう戦士たちが、一人、また一人とこの世から消え去る。

 

「────」

 

 シュウは力なくふらふらと立ち上がり、その足取りで病室へ向かう。病室の前で立ち止まると、自分の頬を両手で叩き、激痛で表情を無理やり変えた。

 扉を開き、最初に視線を向けたのはツバキ。

 彼女は目を見開いて、声を荒げた。

 

「──シュウ!」

 

 手を振って返し、ツバキの隣で腰を下ろす。

 

「怪我とかは? どこか痛いところとか──」

「大丈夫だよ、ツバキは?」

「私のことよりも、シュウの方が心配だよ……!」

 

 心配げな表情でシュウを見つめるツバキ。彼女の手を握り、ふとその端正な顔に視線を向けて──、

 

「ツバキ?」

「……ん、なに?」

 

 顔色が悪い。妙に汗を多く流し、握る手は微かに震えている。何食わぬ顔で首を傾げるツバキは、シュウの問い掛けに答えようとしない。

 よく見れば、無理に笑みを浮かべているようにも見える。口角は僅かに震えが止まっておらず、シュウは慌ててリュックから薬を取り出した。

 

「これ飲んで、あとは任せて寝てて」

「ごめん……本当……こんなときに……」

「なにも気にする事はないよ、ほら」

「……ありがとう」

 

 ツバキを横にして寝かせ、その意識が遠退くまでシュウは静かに時を待つ。そして静謐な寝息が聞こえ始めた頃に、向かい側のベッドでこちらを見ていたご老人が口を開いた。

 

「その娘は、なにか大変な病気なのかい?」

「……日本どころか、世界で初めての病気です」

 

 シュウの呟いた言葉に、ご老人は目を見開く。病室の中で、小さな子供とその母親、そして年老いたご夫妻、全員が声を黙らせて目を逸らした。

 

「どんな病気なのか、聞いても?」

 

 子供を宥め、頭を撫でていた親らしき女性が小さく問い掛ける。シュウはツバキを見下ろしながら、そっと顔を向けながら答える。

 

「心臓から流れる血液が、体全体を蝕んで、動く度に耐え難い苦痛を与える。余命は──約一ヶ月」

 

 拳を握り、噛み締めた唇から漏れた言葉は、病室内に不穏な空気を齎して、静謐な空間へと変化させる。

 

「自己紹介が遅れたね。私はリンドウ」

 

 空気を変えるべく、自分の名を告げたご老人──リンドウは隣に座る妻を「こっちは妻のアキナ」と紹介。アキナは上品さを感じさせるように、ゆっくりと頭を下げた。

 

「……俺はシュウです。彼女はツバキ」

「シュウ君とツバキちゃん、先は短いがよろしくな」

「はい」

 

 リンドウは顔を横に、次は親子へと向けて「君らは?」と促す。すると母親は子供の手を握ったまま震える声で──、

 

「わ、わたしは、リツカです。こっちは息子の──」

「ダイゴです」

 

 ダイゴはその手にウルトラマンのソフビ人形を見つめて、隣にいるリツカへと視線を移した。

 

「ウルトラマンが守ってくれるよね?」

「ええ、大丈夫よ。きっとウルトラマンが守ってくれるから」

 

 ダイゴを抱き締めて、リツカは何度も頷く。

 ダイゴ──かつて超古代の光の巨人(ウルトラマンティガ)となって世界を守り抜いた英雄マドカ・ダイゴと同じ名前。なんの因果か、だが彼が持っている人形はウルトラマンゼロ。

 

「ゼロか……」

 

 もしもウルトラマンゼロがいたなら、すぐにでも対処法を見つけるか、殴り込みに行く。どちらにせよ、人類を守る為に全力を尽くしてくれる。

 

「そういえば、あの巨人はいったいなんなんだ? 敵か? それとも味方なのか? あの怪獣を倒してくれたようだが……」

「あれはわるいウルトラマンだよ!」

「──こら!」

 

 言葉を発したダイゴに叱責して、リツカは彼を抱き締めながら黙らせる。今の時代カオスウルトラマンカラミティを知っている子供がいるのは珍しい。それに、子供から見ればカラミティを悪い(ニセ)ウルトラマンだと思うのも無理はない。

 

「取り敢えずは味方と思って大丈夫です。ですが、あの怪獣──グリーザはまだ倒せていません。いま奴は眠っているような状態で、いずれはまた暴れだす」

「……状況は芳しくないな。その場しのぎにしかなっていないのか……」

 

 リンドウは少し俯き、やがて顔を上げて「そういえば」と切り出す。

 

「あの巨人──ウルトラマンはどこに?」

「恐らく、あの戦いでエネルギーを大幅に消費して休んでいるのかと」

「これだけピンチだと言うのに、休んでいると……」

 

 微かに憤怒の色を滲ませて、リンドウは身勝手な事を呟く。グリーザを、ウルトラマンを、なにも知らないと言うべきか。

 シュウ自身、自分の無力さを感じながら、同時になにも知らないリンドウへの怒りを明滅させていた。

 そこに、ダイゴがベッドから降り立ってソフビ人形をリンドウへと見せ付け──、

 

「ウルトラマンだって、カンペキじゃないよ」

「…………え?」

「ウルトラマンは、神さまじゃないもん」

「それは……」

 

 ダイゴは人形を握り締めて抱く。そしてなんの曇もない真剣な眼差しをリンドウへと向け、たった一言を告げた。

 

「──ウルトラマンは、()()()()()()()()

 

 その一言が、リンドウの怒りを僅かに鎮めたように見える。それと同時に、シュウはダイゴの言葉を胸に受けて目を見開いた。

 

「ウルトラマンだって、ボクたちと同じでがんばってるんだよ。最後まであきらめないで、ボクたちを守ってくれるの。だから、そんなこといわないで」

 

 その言葉が静謐な病室を一変させ、僅かに怒りを滲ませていたリンドウの表情が和らぐ。そしてその震える手をダイゴの頭へと乗せ、柔らかに優しく撫でた。

 

「そうだな。ウルトラマンはヒーローだから、きっとなんとかしてくれる。私たちは、ウルトラマンを応援しないとな」

 

 どれだけ暗い絶望の中でも、人々から希望の光が消えることはない。それはまさに、この事を言うのだろう──シュウは拳を握り締め、決意を固める。

 ウルトラマンとて完璧な存在ではない。

 人間と同じで、間違うこともある。感情があり、意志があり、光がある。決して全知全能のような完全なる存在ではないのだ。

 

 誰かを守る──それは誰かを傷付けること。

 手を伸ばしても助けられない命もある。そして、全てを救い出すことはできない。その中で、ウルトラマンは人間と共に成長を重ね、戦う意味を与えるのだ。

 

「……クッソ、このままじゃキツイ」

 

 邪神ガタノゾーア。

 暗黒破壊神ダークザギ。

 今判明している敵はこの二体。グリーザはあとで考えるとして、次にどうにかしなければならないのはガタノゾーア。

 ダークザギは出現こそしていない。ウルトラマンFの時のように、暇つぶしで来ている可能性は否定できない。ならば、今はダークザギの事を考える必要はないはず。

 

「……世界が、暗闇に包まれる」

 

 窓の外を見上げれば、暗黒の霧が青い空を包み込み、太陽の光を完全に断ち切ろうとしていた。

 ガタノゾーアは、動きのノロい巻き貝だとか言われてたりするが、その本質は『()()()()()()()()()()()()()()()』ことにある。

 シャドウミストが放たれれば、一環の終わり。『闇を見たものは希望の灯を消され、闇に触れたものはその肉体を姿無きものに変えられる』。

 

「────」

 

 そもそも勝てる想像(ビジョン)が見えない。

 触手の一本も頑丈そのもの。ティガのパワータイプですら、一本をやっとの思いで引き千切れるというのに、ゼペリオン光線すらまともに通用しない。

 

「デモンゾーアじゃないだけマシか?」

 

 そんな一瞬考えたポジティブ思考を刹那に捨て、どちらにせよ最悪なことに変わりはないと諦めた。

 ガタノゾーアは大いなる闇、神の名を持つに相応しい闇そのもの。デモンゾーアは光でしか倒せないと言われてるが、結局のところガタノゾーアの殆ど同じ故、『光』以外は有効な手なんてない。

 

 ウルトラマンカラミティは、コスモスとムサシの尽力の末に憎悪を捨てて希望を知った。

 だが結局、本質は『光ではない』。故に、ガタノゾーアを倒せるのかどうか不明。

 

「まったく……本当に最悪だ……」

「なあシュウ君」

 

 一つ聞いてもいいか、とリンドウに問い掛けられて、シュウは抱えていた頭を放して頷いた。

 

「あの海を見て言ったガタノゾーアとは、いったいなんなんだ? 君が呟いた後も、この映像を見ていたがあるのは遺跡だけだ。あのグリーザのような怪獣は一向に現れていない」

「……ガタノゾーアは、かつて超古代文明を滅ぼした邪神。その遺跡は超古代都市ルルイエ。そこにガタノゾーアは眠っています──いや、覚醒してはいるものの、()()姿()()()()()()()()()()です」

 

 ガタノゾーアの出身地は不明。ただルルイエで眠りにつき、そして目覚めたというだけ。宇宙から飛来したのか、それとも地球で生まれた最悪の怪獣なのかは分からない。

 

「いったいなにが目的だと言うんだ……」

「あの怪獣たちに明確な目的はありません。ただその星や文明を滅ぼすが為に存在する怪獣なのですから」

「理解できん……」

 

 ポツリと怒りを表すリンドウに対して、シュウは冷静なまま精悍の眼差しで答えた。

 

「人間が何も考えずに環境を破壊するのと、対して変わりません。その対象が人類になっただけです」

「だがそれは、我々が我々の為に変えているのだ」

「はい。だから、俺たちは俺たちの造りあげてきた物を守る為に、奴らを倒さなきゃいけない」

 

 それが、とシュウは言葉を飲み、リンドウを強く見据えた。

 

「──それが、俺たちの未来だから」

 

 強く答えた直後──病院が揺れた。

 大地が震動して、空が暗黒に包まれる。聞いたことのある叫び声は大気を揺らし、病室にいた者たちが耳を塞いだ。

 

「ゾイガーか……!」

 

 慌てて病室を飛び出て、シュウは屋上まで一気に駆け上がる。扉を蹴るように勢い良く開き、カラミティプラックを握り締めた。

 眼前に広がるは悪しき翼。鳥に似たシルエットは、翼を大きく広げて天高く吼える。口から放たれた光球が辺りの建物を粉砕──景色を火の海へと包み込む。

 

「頼む、カラミティ。俺はツバキを、この景色を守りたい。だから、力を貸してくれ──っ!」

 

 その瞬間、カラミティプラックが煌めく。

 ゆっくりと頷き、シュウは覚悟を決めてカラミティプラックを振り上げると同時にその名を唱和する。

 

「──カラミティッ!!」

 

 光瞬くその刹那、辺りを紅き稲妻が駆け抜け、眩い光が屹立する。

 異変に気が付いたゾイガーが振り返り、戦闘態勢に入って光を睨んだ。

 

 かつての憎しみをその肉体に宿して、ウルトラマンカラミティがゾイガーの前に登場した。




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