ヤツはまだ倒せてないのです。
今回は詰めに詰め込んで量が多くなってます。誤字脱字が多かったら申し訳ありません。
大気が唸りを上げる。海底が震え、辺りに水飛沫が巻き上がる。そして同時に火花が散って辺りの暗黒を刹那の間のみ照らした。
あまりにも規格外な巨躯。人類を睥睨する真紅の瞳が、上空で浮遊する紅き巨人を捉えた。
世界を暗黒に塗り潰す邪神──ガタノゾーアが一歩を歩む度、海は荒れ狂い、巨大な津波を巻き起こす。
「ちっ……クソ……」
ガタノゾーアとの真っ向勝負はあまりにも無謀。
それ故にシュウが考え抜いた策は、空中からの遠距離攻撃。ガタノゾーアにある遠距離武器は強靭な触手と石化光線のみ。捕まりさえしなければ、有利な状況に立てる──そんな淡い希望的観測を抱いていた。
だが現実は、あまりにも無慈悲だった。
空中から放ち続けたブレイキングスマッシュ及びカラミュームブレード。それら全ては、外れることなくガタノゾーアに直撃した。
刹那の閃光に火花が散り、ガタノゾーアの雄叫びが轟く。
攻撃が当たる当たらないの問題ではない。
カラミティが放つ攻撃の全てが、まったく意味を成さない。ガタノゾーアを怯ませることすら敵わず、より一層ヤツの攻撃が激しくなるばかりだった。
「このままじゃジリ貧だ……」
たとえ制限時間のないウルトラマンカラミティであれど、エネルギーの消費はある。ウルトラマンカラミティは強力ゆえに、必要となるカオスヘッダーの数も群を抜いている。このまま攻撃を続ければ、先にカラミティが力尽きてしまう可能性が高い。
「なら、これで──っ!」
埒が明かないと感じたシュウは、カラミティとの意識を合わせて右腕にエネルギーを集中させると、紫紺の輝きが渦を巻く。そして右腕を突き出し、カラミュームショットを撃ち放った。
瞬間──カラミティの身体から光が散った。
突然襲った激痛にカラミュームショットは寸前で消え、カラミティの身体が海上に落下。爆発に似た轟音を響かせ、水の柱を巻き上げる。
「く……っ、忘れて、た……この闇も、
世界を包み込む闇──それはガタノゾーアが齎すシャドウミスト。質量反応がない故に、物理的に防ぐことのできない絶対的な闇。触れた人間を一瞬で死滅させ、機械の類を全て破壊。更にはウルトラマンの肉体をも傷を付ける。
シャドウミストが世界を覆い尽くしている限り、太陽の光は決して大地に届かない。その状況が続くだけで、世界は勝手に滅んで行く。
「マズイ……」
空を飛ぶ手段を持たず、これといった飛び道具を持っていないガタノゾーアに対して、ウルトラマンティガが空中戦を挑まなかったのには理由がある。それがこのシャドウミストだ。
触れるだけで全てを殺す──それが空を覆い隠している限り、宇宙に逃げることは疎か、空中戦へと持ち込むことができない。
だからこそ、ガタノゾーアは最強なのだ。
空を封じて、自らの陣地に引き摺り込む。ムルロアの方がまだ救いがあった。
「やるしかない……!」
一気に起き上がり、海上を駆け出す。水飛沫が散り、一歩を踏み締める度に波が荒れ、津波が起きた。
地上とは全く異なった環境。一歩の動作でも海上の抵抗によって動きが鈍くなる。それすらも考慮して戦う必要があった。
左足を軸に右足を大きく振り上げ、ガタノゾーアの顎を蹴り抜く。勢いを乗せて素早く足を組み換え、更に強力な後ろ回し蹴り。頭部を勢い良く蹴り抜き、カラミティは右腕を引いた。
真紅の輝きが右腕に宿り、勁力とありったけのエネルギーを込めて『ダイヤモンド・クラッシュ』を叩き込んだ。
『□□□□□□□□□□□──ッ!!!』
ガタノゾーアの咆哮が轟く。瞬間、カラミティの背後から伸びた触手が首に絡み付き、四万トンあまりある巨躯がいとも簡単に投げ飛ばされた。
激痛に顔を歪めながらも一気に飛び起きる。その起き上がりざまに、ガタノゾーアの頭部に向けて渾身のアッパーを振り抜いた。
だが、ガタノゾーアの巨躯は蹌踉めくことすらなく、巨大な鋏状の腕をカラミティに叩き付け、上空に大きく吹き飛ばした。
態勢を整えることすらできなかったカラミティは海上に落下。衝撃が水を震動させ、巨大な水柱を作り上げる。
「あ、あぁ……く、そ……」
身体が抉られるような激痛。全身を圧迫され、肺から空気が一気に吐き出た。
苦痛の声が漏れ、歪な感覚に侵食され始める。
完全なる『死』を間近に感じて、シュウの思考は今すぐにでも逃走を選択しようとしていた。
だがそんな思考は逡巡の決断で振り払う。ここで逃げれば、何も残らない──故に、立ち上がる。
それは勇敢と捉えるべきか、はたまた、ただの無謀となるのか。カラミティは拳を握り締めて戦闘態勢を取った。
「カラミティ、一緒に行こう」
カラミティはゆっくりと頷いた。
百メートル以上ある巨躯の邪神を獰猛な眼差しで睨み、収斂する恐怖を振り払って駆け出した──直後、視界の外側から伸びた触手が首に絡み付いた。
徐々に締め付けられ、視界が明滅する。酸素を取り込めず、再び意識が遠退く中で、必死に両腕を伸ばして触手を握り締める。渾身のチカラで左右に引き千切ろうと、力強く引き絞った。
ウルトラマンティガのパワータイプが、やっとの思いで引き千切れる強度の触手──ウルトラマンカラミティにそれだけの力があるのかは疑問だが、それでもシュウは己の力を信じて触手を握り締めた。
「さっさと……ッ、千切れろよッ!」
触手がミチミチと不快な音を立てる。だが、締め付けていたはずの触手が一気にカラミティを引いて倒し、ガタノゾーアの眼前をまで引き寄せた。
刹那──ガタノゾーアの身体から霧に似た暗黒が溢れる。それを理解したと同時に、カラミティの身体が光を撒き散らした。
カラミティを包み込む闇──シャドウミストはカラミティの身体を侵食して、これ程までに感じたことのない激痛を与える。離れようにも触手が絡み付いて離れられない。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
シュウの悲鳴が、カラミティの叫びとなる。
席巻する絶望感が直接シュウに
永遠と続くシャドウミストの激痛。更には両腕を絡み取る触手が、カラミティの身体に引き千切らんばかりに締め付けた。
身体中の筋肉が、神経が、なにもかも全てが声にならない悲鳴を響き渡らせる。骨が軋み、筋肉が千切れていく音──それらを近くで慄する。
死が迫っていると、刹那に感じた。
そして次の瞬間に、身体が宙を舞い、海上に勢い良く叩き付けられる。
「か……は……っ」
何度も遅い来る激痛に、口を開いた瞬間に喀血する。筋肉は限界まで引かれ、骨なんて何本折れているのか分からない。
こんな時は奇跡が起こって、ガタノゾーアを倒せるのだが、現実はそう甘くない。倒れ伏せるカラミティが、気力を振り絞って立ち上がるが──背後から伸びた巨大な鋏が、カラミティの両腕をガッチリと挟み込み、身動きを完全に封じ込んだ。
瞬間、ガタノゾーアから一条の淡き紫紺の光線が放たれ、カラミティの身体を完全に貫いた。
意識をするよりも、理解をするよりも、行動をするよりも、何もかもが無意味に、シュウは必死に手を伸ばす。だがそれは意味が無かった。
願いは届かない。
祈りは届かない。
希望は塗り潰される。
全ては闇に呑まれる。
努力をして奮起しても、意味がない。なにもできない。なにもかもが無意味に闇の中へと掻き消えた。
それでも『諦めたくなかった』の一心で、必死に手を伸ばし続けた。
なにも守れていない。
なにも果たせていない。
なにもかも全て────ッ!
約束をした──ウルトラマンと共に世界を救うと。
覚悟を決めた──彼女を守り抜こうと。
『俺は、まだ──ッ!!』
────ウルトラマンカラミティは、ガタノゾーアによって石像へと変えられ、完全なる敗北を期した。
「ウルトラマン……」
リンドウがポツリと呟いた。
当然、その生放送はツバキの病室にも流れている。リンドウやダイゴの目にもしっかりとウルトラマンの激闘が映り出され、敗北をもその目で見てしまった。
それが、絶望的な最悪の状況だと理解するのは難しくはなかった。
「ウルトラマンでも、ヤツには勝てないのか……」
く、と唇を噛み締める。絶対的なヒーローの象徴が、暗黒に塗り潰されて消え去った。
リンドウやアキハ、そしてリツカは目を伏せ、ウルトラマンがただ傷付いていく様を直視することができなかった。
それはあまりにも見るに堪えない惨たらしい光景。ウルトラマンが圧倒的な暗黒の前に、成す術なく石に変えられた。
「ここまで、か……」
皆、ウルトラマンが勝てないことを理解して、恍惚とさせていた矜持や希望を捨てようとしていた。
しかし──二人を除いて。
「負けてない……っ」
「ダイゴ?」
抱き締められていたダイゴはリツカの腕を払って、テレビの前に駆け寄る。人形を握り、その瞳に大粒の涙を浮かべて振り返りながら叫んだ。
「ウルトラマンはまだ負けてないっ!」
その叫びにリンドウたちは驚き、更にはその背後で起こった出来事に目を見張った。
ダイゴの肩に柔らかく手を置き、ゆっくりと膝を曲げて視線の高さを合わせた彼女は、優しく微笑んだ。
「大丈夫、ウルトラマンはきっと勝つから……」
汗を流し、体が微かに震えながらも、
「私たちが、最後の最後まで信じれば、ウルトラマンは必ず応えてくれる」
曰く、ウルトラマンが人間を救うのではない。
人間とチカラを合わせて、共に戦ってきた──シュウから言われた言葉が、未だ胸に焼き付いている。お互いに完璧でないからこそ、お互いを助け合い、チカラを合わせてきた。
「なぜ、そこまでウルトラマンを信じる?」
リンドウの問い掛けた言葉に、ツバキは振り払って、あたかも当然の如く「だって」と口を開き、
「ウルトラマンは、
柔らかく微笑んだ瞬間──病室の扉が、聞いたこともない轟音を上げて圧し曲がり、一気に吹き飛んだ。
普通ではない──誰もが一瞬で理解した。
ダイゴの泣き声、リツカたちの悲鳴。リンドウとツバキは眼前を睨んで、言葉を失った。
不気味に響く笑い声。悠然と歩きながら、ヤツは全員を見つめるなり、鷹揚と腕を広げた。
『──見つけたぞ』
辺りに席巻する威圧感がひりつく。脳に響く落ちた声色には、一切の容赦が含まれない。それを聞くものにただ圧倒的な存在を叩きつけ、そこにいた全員が身震いをした。
「貴様は何者だ!」
リンドウの叫びに、ファウストは首を傾けて睨み付ける。その瞳は暗黒に呑まれ、一筋の光も見えない混沌の闇。リンドウは退いて言葉を失ったが、ファウストは鼻で笑い、
「私は
一歩ずつゆっくりと歩み、ファウストの巻き起こす威圧感が更に強くなる。ファウストが一歩を進める度、全員は後退りして壁際に追い込まれていく。
「なにが目的なの!?」
ファウストに向けてツバキが叫んだ。
立っているだけでも激痛が駆け巡る。体力の低下が著しく酷い。気を抜けば、今にも意識が飛んでしまいそうだった。
『目的? 気が付かないのか?』
いったいなにを、そんな問い掛けにファウストは不気味に笑って、あたかも当然のように答えた。
『私はお前の影──光たるお前が、私という影を生み出した。光を飲み込む無限の闇、それこそが私。故に、貴様を殺す』
「理由になってない!」
ファウストは不気味な声で不敵に笑い、たった一言『貴様が知る必要はない』と、左の掌で右手を隠すように構えた。
直感で感じた──避けろ、と。
激痛が走る身体をなんとか動かして、側にいたダイゴを抱えて横に飛んだ。
抱き抱えたダイゴを庇い、自分を叩き付けるようにして床へ転がる。瞬間、ツバキのいた位置をダークフェザーが貫く。激痛に顔を歪めて声を漏らし、全身に熱が奔り抜けた。
「……っ」
思わず叫び声を上げてしまいそうな痛みが身体を収斂させ、必死に声を抑える。すると胸の内で抱き締めていたダイゴが、心配げな表情を滲ませてツバキを見つめた。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「……大丈夫、ダイゴくんは?」
「ぼくは、大丈夫だけど……」
あまりにも深刻な表情を浮かべていた所為か、ダイゴの表情は変わらない。だがそんなことをしている暇は無かった。
ファウストは焦ることなく歩みを始め、ゆっくりとツバキに近寄っていく。慌てて逃げようとするツバキだが、身体に走る激痛によって立つことすらままならなくなっていた。
『──ここまでか』
ファウストがポツリと呟き、ツバキの近くまで歩み寄ると、右腕で手刀を作って振り上げた。
刹那の間で死を悟ったツバキは、ダイゴだけは守る意思を見せて抱き寄せる。そして手刀が振り下ろされる直前──、
「させはしないぞ!」
畳まれたパイプ椅子を大きく振りかぶったリンドウが、全力でファウストに殴り付けた。
強固なもの同士の衝突音。普通の人間に叩き付けたのなら、それは運が良くて致命傷、殆どは死に至る一撃。だがリンドウは目を疑った。
パイプ椅子を叩き付けられ、ファウストは蹌踉めくどころかパイプ椅子が圧し曲がっていた。
『チッ……小賢しい……』
驚愕するリンドウに一言呟いて、ゆっくりとファウストは振り返る。そしてリンドウの腕を掴み、軽々と壁に投げ付けた。
強靭な身体による豪腕が与えた勢いは凄まじく、リンドウは壁に叩き付けられて気を失う。アキハが慌てて駆け寄り、リンドウの身体を揺するが、彼は瞳を閉じたまま起きない。
ファウストは鼻で笑ってから向き直り、ダークフェザーの構えを取った直後──、
「──ダイゴ!」
壁際で怯えていたリツカが、ファウストに向かって体を使った突進。ファウストの身体をガッシリと掴み、必死にダイゴから遠避けようと押し込んだ。
だが、相手は光を消し去る闇の巨人。ファウストは三歩後ろに下がったのみで、リツカがいくら押してもビクリとも動かない。
ファウストは短く舌打ちを漏らし、リツカの身体を掴んで膝蹴りを叩きんでから横に振り払った。
「──お母さんっ!」
ツバキの腕を振り払ってダイゴが叫ぶ。
ファウストは癇癪を起こしたのか、狙っていたツバキから視線を移し、リツカとリンドウを睥睨した。
そして一歩ずつ確実に歩み寄り、その暗黒を右腕に溜める。ダークフェザーが放たれる寸前で、ダイゴが飛び出た。
「──やめろ! お母さんをイジメるな!」
席巻する威圧感の中、ダイゴの言葉が響き、ファウストの動きが止まる。ダイゴを見下ろして、ゆっくりと構えたその手を下ろした。
するとファウストは辺りを見渡して、突然として頭を抑えて呻き声を上げた。
『く……! あ、あぁ……っ』
「ぼくはお前なんかに負けない!」
リツカを庇うようにファウストの前で凛然と両腕を広げる。ダイゴは精悍な眼差しでファウストを睨んだ。
頭を抱えて苦しむファウストは、やがて顔を抑え、指の間から暗黒の眼差しでダイゴを見つめる。すると小刻みに震える手を、ダイゴにゆっくりと伸ばした。
「ダイゴくん!」
ツバキが叫ぶ。だがファウストの手はダイゴを傷付ける訳ではなく、そっと優しく頬に触れた。
『……ダイ、ゴ……』
「…………え?」
ポツリと、名を呟く。その声はダイゴにとって、かつて聞いた大好きなあの人と同じものだった。
頬に触れたファウストの手をダイゴが握ろうとして、またファウストが手を振り払って頭を抑えた。
『チッ……』
やがて舌打ちを漏らしたファウストは『余計な真似を……』と囁いて、ダイゴに向けて無雑作に腕を振り上げた。
ツバキが激痛に堪えて、慌てて駆け寄る。もう誰も傷付く瞬間を見たくない──ただその一心で駆けた。
ダイゴは逃げない。リツカを守ろうと両腕を広げて、その場から動かない。ウルトラマンの敗北をその目で見て──それでも、まだ諦めていなかった。
だから──ツバキも諦めない。
これだけ小さな子が、どれだけ絶望に呑まれてもウルトラマンを信じて、希望を見失っていない。大人が「ダメだ」と嘆いても、「違う」と否定するチカラがあった。
それと同じものを、ツバキは見たことがある。
彼は最後まで、
ツバキの死を宣告されても尚、必ず生きれると決して諦めなかった。
彼は諦めないことを教えてくれた。
だからこそ、ツバキは彼の信じた希望を信じ続けて手を伸ばす。
ファウストがダイゴに腕を振り下ろす。その瞬間がスローモーションで映じて、ツバキは腕を必死に伸ばした。
振り下ろされる──それでも、ツバキとダイゴは諦めなかった。
この世界は、終わらない。
ウルトラマンを信じて、彼を信じて、希望を信じる。これしきの絶望で諦めたりなど決してしない。
ウルトラマンが諦めなかったように──。
「──シュウお願いっ!」
ただ願った──彼の信じた力を貸してほしい、と。
その瞬間だった。
眼前が光に輝く。瞭然と煌めく輝きが、突然として辺りを一望に照らし出す。その輝きは、ツバキとダイゴから放たれていた。
『く……、この光は……っ!』
ファウストが、光に包まれて初めて蹌踉めく。光を必死に遮り、より一層強くなる輝きを直視できない。身体から力が抜け、光によって闇が消える。
呻き、頭を抱え、声を荒らげた。
「私らも諦めてなどいないぞ!」
激痛の走る腹部を抑えながらも、リンドウが声を大にして叫ぶ。そして同時にアキハやリツカも頷き、光に包み込まれる。
刹那、ダークファウストの姿が光に呑まれて、闇の霧となって消え去った。
それだけでなく、光は更に輝き、どこかに向かって一条に伸びて行った。
行き先は────ただ一つ。
光が呑まれた暗黒の世界。そこに光は存在せず、圧倒的な暗黒を振り撒く邪神が、その本能のままに闇を翳していた。
石像へと変えられ、光を失ったウルトラマンカラミティ。その姿を睥睨してガタノゾーアは歩みを進める。ゆっくりと、一歩ずつその歩を進めて、完全なる終焉を齎そうとしていた。
遍く暗黒。ぼんやりとした世界の中、視界は何度も明滅して、意識は浮き沈みを繰り返している。
記憶に残っているのは、邪神との戦いで敗北したこと。身体はほんの少しの動きでさえも許されず、意識は徐々に飲まれて行っていた。
「俺は…………」
カラミティの意識を探してみるが、そこにいるのを感じるだけで、彼の返答はまるで聞こえない。
突然、有り得ないほどの孤独感に包まれる。なにも分からず、意味もなく、シュウはガタノゾーアに敗北した。
奇跡は起こらず、圧倒的な邪悪を前に絶望する。諦めたくないと、心の何処かではそう思っていても、現実はそれを打ち砕いた。
「俺は、諦めたくない……」
シュウ自身ウルトラマンのように強くはない。
ウルトラマンのようには空を飛べない。
強大な闇を前に立ち向かうチカラはない。
それでも、それでいても──だからこそ、シュウは彼らと同じ志を抱いて生きると決意した。
ウルトラマンは何度倒れても立ち向かった。
カラミティと共に戦い抜くと決めて尚、こんなところで諦めたくなどない。
「カラミティ……聞こえる?」
応答はない。それでも、近くに彼がいるのは感じる。それを感じて、シュウは彼の返答を待たずに「俺はさ」と切り出した。
「彼女に──ツバキにも憧れてたんだ」
初めて出会った時、彼女は泣いていた。
両親を亡くして、誰にも分からないような場所で、たった一人涙を流していた。
そんな彼女は、いつだって誰かを思って動いた。
「ツバキは、いつも誰かを助けてた。自分のことはいいから、周りの人の悲しみは見たくないって」
ウルトラマンに憧れていたシュウにとって、彼女の有り方は何よりも輝いて見えた。
カラミティがコスモスやムサシから『優しさ』を知ったように、シュウはツバキから『優しさ』を知った。
「自己犠牲にも似てるかな……ツバキは自分よりも他人を第一に考える。でも、俺にとってはそれが素晴らしいと思った」
シュウは思い耽る。ツバキとの日常は、いつだって明るく目を疑うものばかり。普通ではない日常で、普通に出掛けることも殆ど無かったが、ただ一緒にいれただけで良かった。
「俺はツバキが好きだ……だから、彼女を救いたい。彼女の好きだった景色を守りたい」
だから────シュウは拳を握り締めた。
「俺はまだ、諦めたくない──ッ!」
シュウが叫んだ転瞬、なにも描かれていない暗黒に一際輝く光を見た。
手を伸ばして、その光を掴み取るために、縛られた身体を懸命に動かす。その光がなんなのかは分からない。なぜそこにあるのかなど分からない。だが、それを掴み取らなければならないと──本能が命令した。
────声が、聞こえる。
ダイゴの諦めたくない声。
リンドウの戦い抜く声。
アキハの思いやる声。
リツカの信じている声。
そしてツバキの覚悟を照らす声。
「光……これが、光なのか……」
徐々に、その光が暗黒を照らし始める。
希望を呼ぶ声が、未来を諦めたくない声が、その全てが聞こえる。シュウはその闇照らす光を掴み取った。
ばくん、と心臓が跳ねる。
カッと目を見開き、シュウは覚悟を決める。その手が閃き、柔らかく暖かな光を胸に抱いた。
「カラミティ、俺と一緒に来てくれ。俺はツバキと、みんなと一緒に未来を掴む──ッ!」
そして煌めく眩い輝き。暗黒を照らして、その身に『
身体が軽くなったような浮遊感と、例えようもない心地良さに、シュウはカラミティプラックを掲げてその名を叫んだ。
「──カラミティッ!!」
暗黒の世界に巻き起こる一条の光が屹立。その眩い輝きがガタノゾーアを驚愕させ、異常を察知した。
光が消えたその中からは、ガタノゾーアに倒されたはずのウルトラマンカラミティが堂々たる趣きで、皆の光を宿して再び立ち上がった。
『□□□□□□□□□□──ッ!!!』
邪神が猛ける。カラミティが光を宿す。
両腕を大きく広げ、眩い光がその身に渦巻く。絡み付く光を全身に受け、カオスウルトラマンカラミティの姿が一変した。
『希望』の体現──かつてウルトラマンコスモスが仲間たちの『未来への可能性、夢を信じる心』を身に宿して、フューチャーモードへと覚醒したように。
カオスウルトラマンカラミティは『未来を諦めぬ希望の心』を纏い、コスモスのフューチャーモードと同格たる──ウルトラマンカラミティの『トゥルーホープ』へと姿を変えた。
この瞬間、この時を以て、カオスウルトラマンカラミティは模倣の殻を捨て去り、完全なるウルトラマンとして覚醒。
「──行くぞ、ガタノゾーアッ!」
右腕を引き絞り、光の渦を纏う。突き出した拳から膨大な光の塊が溢れ、ガタノゾーアに直撃──咆哮を上げたガタノゾーアに高速移動で迫り、右脚を振り上げた。
振り抜いた右脚部による一蹴りは、光の斬撃となってガタノゾーアの頑丈な表皮を容易く穿く。そして素早く足を組み換え、回転させた勢いのままで跳躍して飛び後ろ回し蹴り。
光の刃がガタノゾーアを切り裂くが、怯まずに触手を伸ばしてカラミティに絡み付き、乱雑に投げ飛ばした。
「これでもまだ……っ」
力が足りない。
これでようやくガタノゾーアとまともに戦えるようになった。だがそれだけで、ガタノゾーアを倒せるだけのチカラがない。
海上に落下していく瞬間、ガタノゾーアが落下予測地点に紫紺の光線を放つ。だが落下するはずのカラミティの身体は、物理法則を無視して空中で停止。寸前で光線を回避すると、即座に距離を離した。
海中から伸びた複数の触手がカラミティに襲い掛かるが、三日月型に描かれたカラミュームブレードが全てを両断。光のチカラによって強化されたブレイキングスマッシュで牽制すると、カラミティは一瞬でガタノゾーアの背後に回った。
『──ジュアッ!』
海上を蹴り、大きく跳躍したカラミティはガタノゾーアに垂直蹴り。しかしガタノゾーアの巨大な鋏が、着地した地点に振り回され、カラミティを大きく吹き飛ばした。
「く……っ!」
流石は暗黒の支配者とでも言うべきか、単純な戦闘能力だけでも強過ぎる。今思えば、某ゲームではグリッター化したティガでも、舐めてたら普通に負けるような強敵。邪神の名は伊達ではない。
ましてや、今のカラミティはたった数名の光を身に纏っただけ。だがそれでも、暗黒に屈せず立ち上がって構えた。
駆け抜け、跳躍し、拳を振るい、蹴り飛ばす。
滑り込み、踏み込み、飛び退き、前進する。
触手を掻い潜り、踏み止まり、側方倒立回転。すり抜け、回り込み、より更にその行動を洗練させていく。
どれだけ触手が存在するのか、カラミティの一合を十に増やして触手が迫る。それら全てを一蹴することは簡単でなく、振り払った動作に対して、避ける動作一つにも、避けきれなかった触手がカラミティの身体に傷を負わせた。
「────ッ!」
駆け抜ける風を肌で感じ、海を踏み締める感覚に、口の中に広がって入り混じった血液と唾の味を、脳裏に響く鈍った耳鳴りを、噛み締めて耐えた。
極限状態に陥ったシュウの集中力は、カラミティでさえも目を見張るものに変わっていた。
軽やかに身を翻し、触手の軍勢を潜り抜ける。
避けきれなかった触手はブレイキングスマッシュ、カラミュームブレードで切り裂き、それでも回避不能な鋏には拳を叩き付けた。
ガタノゾーアの猛攻はより一層激しくなる。
迫り来る暗黒を光明で照らし尽くし、おどろおどろしい闇を焦がすカラミティ。まるで歯が立たなかった以前よりも、互角に近い攻防をカラミティは続けていた。
勝利への道を探して、思考を巡らせる。刹那の思考、その隙から背後に回された触手がカラミティの首に絡み付いた。
舌打ちが漏れる。徐々に締め付けられる触手を振り払った瞬間、銃撃音と同時に火花が散り、触手が千切れた。
「あれは……?」
海上を複数の流星が駆け抜けた。
風を切って、ガタノゾーアの触手を縫って切り裂いた流星は、上空へと飛び上がり、パイロットがカラミティを見つめた。
思わずシュウは笑みを浮かべる。
戦っているのはウルトラマンだけではない。この地球を守るのは、なにより人類に他ならない。
駆け抜ける流星──複数に散った戦闘機はカラミティの援護。道を阻む触手の軍勢を払い除け、カラミティの道を切り開いた。
「これで決めよう──ッ!」
両腕を交差させて光を溜める。一瞬の閃きで両腕を広げ、円を描いて行くと真紅の輝きが右腕に集束する。辺りから伸びる触手は、全てが戦闘機の正確な射撃によって怯んだ。
距離は離れている。カラミティの高速移動を以てしても二歩を有する距離。遠距離を触手に頼っているガタノゾーアに、カラミティの必殺技を食い止める手段は、残り一つだけだ。
カラミュームショットが『
────それこそ、カラミュームストライク。
莫大な光の粒子が右腕から一気に放出。それと同時にガタノゾーアは石化光線を放って対抗する。
海を切り裂き、二つの強大なエネルギーが竜巻の如き狂った暴風を巻き起こす。辺りの大気が散って、援護していた戦闘機の操縦が困難なものへと変わった。
「──だぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
雄叫びを上げ、カラミュームストライクの出力が更に倍増。ガタノゾーアの放つ石化光線を押し返して、暗黒の支配者に終止符を与える。
真紅の極光がガタノゾーアを撃ち抜く。光の奔流が海上を荒れ狂わせ、ガタノゾーアの身体が海を引き摺って押し込まれた。
瞬間──膨大な光が辺りを照らし尽くして、爆炎を昇らせ大爆発を巻き起こす。
「はぁ……はぁ……っ」
荒くなった息を、肩で呼吸して落ち着かせる。その間も、シュウは大爆発を起こした爆心地を見つめた。
天へと昇る爆炎。海上に散った紅蓮が辺りを燃やし尽くす。
「勝った……」
勝てる気のしなかったガタノゾーアを倒した。
一度の敗北。それでも諦めなかったシュウの心と、ツバキたちの光によって新たに生まれたウルトラマンが、終止符を与えた瞬間だった。
極度の緊張感から解放され、シュウは思わず笑みを浮かべる。体力が残っていれば、今ここでガッツポーズを取るほどに嬉しかった。
「……みんな、ありがとう……」
ツバキたちに感謝を。そして顔を上げて上空に視線を向ける。風を切って飛び回る流星に手を振った。
カラミティが最後の一撃を放てたのは、共に戦った戦士たちが道を切り開いた故。なのだが、そこでシュウは異変に気が付いた。
「なんで、
慌てて眼前を睨んだ。
巻き上がる紅蓮の中、勢いが弱まりつつあった焔から
「□□□□□□□□□□──ッ!!」
怒りが滲んだ咆哮。ガタノゾーアはまだ倒れてなどいなかった。
「ウソだろ……」
あまりにも理解し難い現実に声を漏らす。
光による強化の全身全霊の光線を叩き込んだ──これ以上の戦闘はシュウだけでなくカラミティにも甚大なる被害を与えるはずだ。
カラミティが腰を落として構え、眼前を睨む。そして睨んだ視界の先に、奇妙な物体を発見した──それは、棘を幾つも生やした球状の物体。
「グリーザ!? もう復活したのか……!?」
穴を埋めたことにより、埋められた穴を無に返すため、第一形態へと戻って行動を停止させたグリーザ。そのグリーザが、ガタノゾーアの上空で止まった。
一瞬の収斂の後に、グリーザは第一形態から異形な人型の第二形態へと姿を変え、ガタノゾーアの前に降り立った。
「ガタノゾーアとカラミティの強大なエネルギーを感じ取って、ここまで来たのか……」
最悪な展開だ、と思わず声を漏らす。
不気味な大音声と耳を聾する鈍い咆哮の不協和音。カラミティは満身創痍の状態でありながらも、戦闘態勢を取った。
ガタノゾーアの身体からシャドウミストが放たれ、グリーザが不可解にユラユラと動く。そして次の事態に、シュウは目を疑った。
「んな……っ!?」
ガタノゾーアから放たれた霧の闇が、グリーザを呑み込む。それは完全にグリーザを包み込むと、ガタノゾーアへと吸い込まれた。
瞬間、ガタノゾーアの身体が膨張した。
強固な皮膚が砕け、暗黒によって全身が包み込まれる。異形な形を形成した暗黒は、以前の数倍にも巨大化。更なる威圧感が、カラミティの肌をビリビリと痺れさせ、シュウは言葉を失っていた。
ガタノゾーアが何かを取り込むなんて、そんな設定は聞いたことがない。『無』であるグリーザが取り込まれるなどと、あまりにも異常事態なことだった。
視界を暗黒で埋め尽くして、闇の中から響く鈍い絶叫と、グリーザの独特な泣き声や笑い声に似た声。その二つが混じり合って、頭に直接響き渡る不協和音へと変化した。
ただでさえ絶望的な強さを誇るガタノゾーアと、人知を凌駕した強さのグリーザが互いに混ざり合う。
巨大化し続け、それがカラミティの数倍にも上ると、纏わり付いていたガタノゾーアの暗黒がぬらりと剥がれた。
睥睨していた首は蛇のように伸び、数倍にも巨大化した鋏と触手が海を切り裂く。巨大な鋏を振り上げて、ガタノゾーアが咆哮を轟かせる。
『□□□□□□□□□□□□──ッ!!』
その姿は、シュウが一度だけ見たことのあるものに、どこか似ていた。
本来ガタノゾーアには二つの姿があった。
それは時間の都合や大人の事情によって、無きものとして葬り去られた一つの設定。それはガタノゾーアの完全なる新たな姿────、
「ガタノゾーアの……第二形態……」
絶対なる闇と、虚空たる無の最悪な組み合わせ。
シュウは何を言っているのか分からない程に小さい声で、信じ難い光景をポツリと溢した。
無を取り込んだ新たな闇。
絶対なる暗黒と無の支配者──ガタノゾーアの第二形態が、カラミティを睥睨して雄叫びを上げる。
ガタノゾーアの第二形態があった、って設定は知っている人いるのでしょうか?
どうしても出したくて、グリーザと一体化することで第二形態を登場させてみました。
無理矢理感が否めないですが……グリーザを餌にするような形にしてしまったのはちょっと……と自分でも思うのですが、第二形態を出して無と闇の最強の組み合わせみたいな感じ……
評価や感想があればぜひ。
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