【完結】俺の世界、終わった。   作:渚 龍騎

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遥かに遠い未来の先、太古に築かれた約束は、光となりて何処へ──。


破壊の人形、真の勇者

 

 

 

 

 

 いつも苦痛に歪んで眠ると、不思議な夢を見る。

 

 

 そこはクレナイに染まる空。深く生い茂った森の中、ツバキはいつだって辺りが一望できる森林で呆然と佇んでいた。

 なぜ此処にいるのか分からない。見たこともない景色でありながら、どこか自然と落ち着くような場所。不思議なのは、いつも見つめる視線の先に、謎の遺跡が建っていること。

 

「────」

 

 なぜだか、あの遺跡に行かなければならない気がする。誰かに呼ばれるような感覚──もしかしたら、自分がただ勝手にそう思っているだけかもしれない。

 何度も夢見るこの景色に、ただツバキは恍惚とした何かを感じる。自分を呼び、自分の助けを求める声は、あの遺跡から聞こえた。

 だがいつも、その声が聞こえても、ツバキの身体は縫い付けられたように動かない。しかし今日は、違っていた。

 

「……動く……」

 

 身体が動いた。

 一歩を確実に踏み締めて、その歩みはゆっくりと遺跡に向かって伸びていた。

 思えば、この夢を見ている時だけは、身体に駆け巡る激痛がまったくない。今まで感じたことないほどに身体は軽く、昔を取り戻したような感覚だった。

 そして遺跡の目の前まで来て、ツバキの歩みは自然と止まった。

 

「……なんだろう」

 

 ふと疑問に感じる──どこか見たことのあるような遺跡。見たことがないはずなのに、見たことがあるのだと不思議に感じた。

 入り口から見えるのはただの暗黒。クレナイに染める光が届かない先に、ツバキは不安に駆られた。

 だが身体は、誘われるように勝手に中へと歩みを進めた。

 

 遺跡の中はとても古く、何十年何百年と放置されているようにも見える。砂を踏み締める音が反響して、その先がまだまだあるのだとツバキに実感させていた。

 ただ真っ直ぐに、永くも短く感じる距離と、感覚の狂った時間。それでいて一歩ずつ先に進む度、ツバキに纏わり付く違和感が更に強くなる。

 

「誰か……!」

 

 ふと叫んだ声は、壁や床を跳ね返って反響。やがて木霊となって奥へと静かに消えて行った。

 いったいどれだけの時間を歩いたのか。歩けることへの安堵感は、疲労感へ変化を遂げて行き、徐々に息が荒くなっていた。

 

 熱い。痛い。

 二つの感覚が混じり合い、ツバキに自分の無能さを知らしめ始める。いつも自分を苦しめる最悪の悪魔。いつだって、この悪魔が自分の邪魔をしてなにもさせようとしない。

 誰かと別れるのがイヤだったから、友達は作らなかった。

 誰かの泣き顔を見たくなかったから、一人でいると決めた。

 

 もう、誰かが悲しむのはイヤだったから──。

 

「夢の中まで、私を苦しめないで……!」

 

 一人で良い。一人が良かった。

 それなのに、彼の所為で全てが狂った。

 英雄(ヒーロー)が好きで、ウルトラマンに憧れている子供。そんな最悪な認識が、彼といる内に変わって行った。

 

「痛い……痛、い……いたいよ……」

 

 全身を駆け巡る血液は、心臓が鼓動する度に激痛を生み出す。まだ短い人生を壊す為に動き続ける。

 歩き続けていたはずの歩はいつの間にか止まり、ツバキはその場で蹲った。

 

「もう……イヤだ……っ」

 

 誰もいない世界で、箍が外れたように溢れる涙を拭い続ける。ただ平凡な日常を望んで、誰かの為に有ればいいと思っていた人生が、全て狂乱して失われた。

 ただ自分の人生が終わるのは構わない。だが世界の終焉、全ての人が──大切な人の人生が終わるのだけは嫌だ。

 

『ツバキ』

 

 ふと聞こえた声──ツバキは顔を上げた。

 聞き慣れた声だった。

 いつも自分を一番に考えてくれた大切な人。自分の考えを否定して、全てを狂わせた愛おしい人。

 おこちゃまだな──否、それは違った。

 彼は誰よりも子供であり、大人だった。

 

「シュウ……」

 

 手を伸ばした。

 誰かに、その手が握り締められ、優しく引かれた。

 暖かく柔らかい。もう何度も感じた温もりの光。それはツバキを引いて、遺跡の奥へと更に誘った。

 

 

 そして光が差し込んだと同時に────。

 

 

 吹き抜ける風が肌を撫で、眩い太陽の陽射しが目蓋の裏に明滅。暗闇に浮かんでいた意識が、ゆっくりと浮上する。

 遍く暗黒が消え去り、覆い隠されていた空が一面に青を灯して、大地を照らしていた。

 

「────」

 

 空を眺めて、今の状況を整理する。

 取り敢えず、今の態勢は仰向けに倒れている。口の中はしょっぱい海水の味が広がり、それを吐き出しながら各部のダメージ申告を待つ。頭、痛い。腕、痺れて痛みもある。腹、空いた。足、感覚がない。顔、海水と血の所為でベトベトする。

 

「はあ……」

 

 極度の緊張感から解放され、シュウは大きく溜め息を漏らして空を見上げる──とは言っても、最初から見上げてはいるが。

 天を覆い隠していた暗黒が無いことから、ガタノゾーアの第二形態を倒すことはできたらしい。

 

「やった、勝てた……けど──」

 

 まだダークザギがいる──少しは感傷に浸らせて欲しいと、心の底から感じた。

 視界に壮大な青を映していると、その端から端正な顔立ちの男が顔を出す。それも「目が覚めたようだね」と、爽やかな笑みを浮かべながら。

 

「…………」

「……ん?」

 

 男──というには、青年のように若く見える。それも何処か見覚えのある顔、そして彼の身に纏っている青色のジャケット。優しげな口調に爽やかな声色、それでいて茶色掛かった髪の下には、強くて真っ直ぐに輝く勇猛な双眸があった。

 

「…………」

「……えっと……」

 

 沈黙して、思考が冷静を取り戻すと同時に、彼がいったい誰であるのか理解する。何度も見たことのある顔だが、会うのは初めての特殊な存在。

 ウルトラマンコスモスの主人公。

 コスモスから真の勇者として認められ、凶悪な敵であろうと果敢に立ち向かう勇気を持った好青年。

 その名は────、

 

「──僕はムサシ、春野ムサシ」

「……はるの……ムサ、シ……うん、は? ……コスモス! ウルトラマンコスモス!」

 

 突然として大きな声を荒げたシュウ。ムサシは目を見開いて驚愕していた。

 

「ぼ、僕のことを知ってるの……?」

「知ってるも何も! ウルトラマンコスモスはさ……!」

 

 そこまで言ってシュウは冷静になる──いったいなにをやっているんだと。

 コホン、とわざとらしく咳をしてから、シュウはケロッと表情を変えてムサシに向き直った。

 

「俺はシュウです。えっと、ウルトラマンカラミティやらせてもらってます」

「シュウ、カオスヘッダーを救ってくれてありがとう」

「いや、助けてもらってるのは自分の方です。カオスヘッダーが力を貸してくれなければ、グリーザもガタノゾーアも倒せませんでした」

 

 目の前に『春野ムサシ(ウルトラマンコスモス)』がいることに興奮鳴り止まない様子ではあるが、なんとか胸の高鳴りを抑えて丁寧に言葉を返した。

 シュウは「それと」と言葉を続けて頭を下げる。

 

「ムサシさんも、ありがとうございます」

「良いんだよ。僕らはウルトラマンなんだから」

 

 やはり爽やかイケメン──と僅かに心の中で思いながら、ムサシの優しさを感慨深く感じていた。

 青年時代のムサシは優しさもあったが、一時周りが見えなくなり、感情を抑えられなくなることもしばしば。だがコスモスや仲間たちと現実を乗り越え、一歩ずつ成長したからこそ、真の勇者となり、今も尚、尽力している。ウルトラマンとしても、人としても、シュウが最も見習いたいと感じていた一人。

 

「今この地球ではいったい何が起きてるんだ?」

「……えっと、それが俺にもよく分かっていないんです。けど、この世界ではあまりにも異常なことが起こってます」

「どういうこと?」

「この世界では『ウルトラマンは架空の存在(フィクション)』なんです」

 

 シュウの伝えた言葉に、ムサシは困惑しながら「それはつまり」と呟き、シュウがゆっくりと頷く。

 

「ウルトラマンは架空の創造物。ウルトラマンコスモスも、春野ムサシさんもテレビの中の存在です。特撮ヒーロー、本物は存在しない。それがこの世界です」

「……なるほど、本来はテレビの存在である僕や怪獣たちが、突然この世界に現れた──つまりはそういうことか……」

 

 流石はムサシと言うべきか、理解がはやい。

 ムサシだけでなく、ウルトラマンコスモス自身も様々な宇宙にでている。それ故か、世界の状況を把握するのも慣れているらしい。

 

「ムサシさんはどうしてこの世界に?」

「僕は、消えたカオスヘッダーのエネルギー波を追って来たんだ。まさか別の宇宙にいるとはね」

「けど、シャドウミストが世界を包み込んでいたのに……いったいどうやって?」

 

 ガタノゾーアのシャドウミストは世界を覆い隠す闇。太陽の光を完全に遮断するだけでなく、外部からの侵入も、宇宙へ逃げ出すことも防ぐ。グリッターティガでやっと闇を吹き飛ばせたというのに、コスモスがいったいどうやってシャドウミストを縫ったのか、シュウは疑問を浮かべていた。

 だがムサシは「実は」と切り出して、

 

「数日前にはこの世界に来てたんだ」

「あー……え?」

 

 ムサシから告げられた言葉に、シュウは困惑するしかない。なにせ『ウルトラマン』と呼ばれる存在が、バレずにこの世界にいた。

 ニュースにもネットの情報にも流れていない。それがあまりにもおかしな出来事だった。

 そしてもう一つはグリーザが出現した際に、まったく姿を見せなかった──カオスヘッダーが戦っているのに、コスモスが見過ごすはずがない。

 

「そ、それじゃあ、なんで、グリーザの時は姿を見せなかったんですか?」

 

 ウルトラマンコスモスがいれば、シュウがこれほど苦しむこともなく、グリーザだってすぐに対処できたはず。それなのに、なぜ姿を見せなかった?

 

「あの時、僕はとある巨人と戦っていたんだ」

「…………巨人?」

()()()()()()()()……奴はそう言っていた」

「…………は? メフィ、スト……」

 

 ムサシから告げられた名前に、シュウは頭を抱えて丸くなる。それは完全に暗黒の破壊神(ダークザギ)の存在を示していた。

 病院で姿を見せたダークファウスト。

 一向にメフィストが現れないことは少し疑問になっていたが、まさかコスモスと戦っていたとは──。

 コスモスとメフィストがネットの情報に上がっていないのも理解できる。なにせダークメフィストは闇の不連続時空間──暗黒異空間(ダークフィールド)をも作り出す。その空間での戦闘は外から認知することはできず、コスモスたちの戦闘が話題になっていないのも納得できた。

 だが────、

 

「ザギかぁ……」

「ザギ?」

「ウルトラマンノアって知ってます?」

「聞いたことぐらいはある」

「ウルトラマンノアは、太古より全宇宙の平和を守る伝説の巨人です。ウルトラマンレジェンドや神にも居並ぶウルトラマン。ダークザギはノアと同格──そのメフィストはザギの操る巨人です」

 

 ムサシが目を見開く。

 スペックだけならウルトラマンレジェンドを凌駕する。なによりその能力や実力が並のウルトラマンではまったく歯が立たない。

 無限に進化する自己進化プログラム。

 超新星爆発にも無傷で耐える肉体。

 超新星爆発以上の火力を保持する光線。

 完全な死が存在しない。

 ただの殴りや蹴りに超重力波を纏っている。

 その他複数──全てを述べていたらキリがない。簡単に言えば、この地球(ほし)だけでなく、この宇宙の全てを破壊されかねない。

 

「そのザギが、この星にいるってことなのか」

「どこで何をしているのかは分かりません。何が目的なのかも、ファウストやメフィストを使ってなにをするのかも……」

 

 不確定要素が多過ぎる。そもそも、あのウルトラマンネクサスでさえ、ファウストとメフィストに苦戦していたというのに──その上にノアと互角のダークザギも待ち構えている。

 

「はあ……はは……」

 

 思わず笑えてくる。

 だが、この先に待つのは絶望ばかりではない。いまは隣にウルトラマンコスモスがいる。一人ではない。

 考えても何も浮かばない──シュウは重い腰を上げ、ムサシを見下ろした。

 

「下に俺の……仲間たちがいます。一緒に来てもらえますか?」

「うん、分かった」

 

 そう告げてシュウがムサシと共に階段を降り、病室の前に来て、刹那に異常を察知した──病室の扉が、完全に破壊されていた。

 

「……っ! ツバキっ!!」

 

 飛び込むように、声を荒げながら慌てて病室へ駆け込む。視界に映り込むのは荒れた病室──腹を抑えるリンドウや、ダイゴを抱くリツカ、そして呼吸を荒くするツバキと、彼女に水を与えているアキハ。

 病室にいた面々は声を荒げたシュウに視線を向け、

 

「シュウ……!」

「──ツバキ!」

 

 座り込むツバキの近くに駆け寄り、怪我の心配などを見て問い掛ける。

 

「怪我とか……大丈夫……!?」

「うん、大丈夫だよ。リンドウさんたちの方が重傷かな……」

「いったいなにがあったの?」

「ファウスト……が襲って来たの」

 

 ツバキから告げられた名前に目を見開き、唇を噛み締めてから彼女を強く抱き締めた。

 ダークファウストは闇の巨人──それ故に殺しを躊躇うことはない。ツバキが無事である安堵感に、シュウはただ彼女が生きていることに感謝をした。

 

「良かった……ほんとうに、良かった……っ」

「シュウ……?」

 

 胸の奥が熱い。視界が徐々にボヤけ、目尻に涙が浮かび上がるのをその身で感じた。

 

「でも、なんでファウストが……?」

「私のことを狙ってるみたいだった。私が、()だって……」

「え……光? どういう意味……でもファウストを、どうやって追い払ったの?」

「えっと……急に周りが光り始めて、気が付いたらファウストは消えてたの」

 

 なるほど、と声を漏らして納得する。

 ガタノゾーアに敗北した時、辺りを照らして聞こえた声はファウストが襲って来たタイミングだったらしい。ファウストに襲われても諦めなかった皆の心が、カラミティにチカラを与えて『トゥルーホープ』へ進化させた──ツバキたちに助けられた、と。

 

「嗚呼、本当に良かった……」

「心配させてごめんね……」

 

 ガタノゾーアと戦わなければ、ツバキたちが傷付くことはなかったかもしれない。だがツバキたちを救えば、ガタノゾーアに世界は滅ぼされていたかもしれなかった。

 ガタノゾーアに勝利して、ツバキたちも無事──本当に奇跡だと、深々と感じていた。

 

「それでシュウ?」

「……なに?」

「その人は? 杉浦太陽……に似てる、けど……」

 

 シュウの背後に目を向けたツバキが、ムサシの存在に気付き、続いて他の面々もムサシへ視線を移した。

 

「あー……杉浦太陽さんだけど、違うね」

「…………?」

 

 ゆっくりと立ち上がり、シュウはムサシの横に並ぶ。そして「彼は」と話を切り出した直後──、

 

「ウルトラマンコスモスだ!」

「……え?」

 

 ダイゴが満面の笑顔でムサシの元に駆け寄る。そして興奮気味に「コスモスでしょ!」とムサシに何度も問い掛けていた。

 するとムサシはゆっくりと膝を曲げて、ダイゴとの視線を合わせる。爽やかな笑みを浮かべたムサシが、ダイゴに向けてゆっくり頷いた。

 

「よく知ってるね。僕はウルトラマンコスモス、春野ムサシだよ」

「やっぱりウルトラマンコスモスなんだ!」

 

 興奮するダイゴと、優しく答えるムサシ。その二人のやり取りに困惑していたツバキやリンドウたちは、シュウに視線を向けた。

 

「ダイゴ君が言っているように、彼は春野ムサシさん。この世界の窮地に駆け付けてくれたウルトラマン。ウルトラマンコスモスです」

「ウルトラマン……本物の……」

 

 生中継が繋がっていたのを見る限り、カラミティと共に戦っていた巨人がコスモスである、と理解するのは簡単だった。

 だが本物のウルトラマンがいる事実を受け止めるのは、そう簡単でもない──怪獣が存在している以上は信じるしかないが。

 

「本物のウルトラマンも来て、シュウ君の呼んでくれたウルトラマンもいるなら、もう安心だな」

 

 リンドウが笑顔で浮かべたが、シュウは何も言えずに俯く。その行動を不思議に感じたツバキが、シュウに向けて「なにか不安なことがあるの?」と短く問い掛けた。

 

「本当の事を言うと、かなりマズイ」

「それはいったいどういうことだ?」

 

 リンドウの表情が険しくなり、不安がっていたリツカやアキハの表情も暗く染まった。

 

「ツバキ達を襲ったダークファウスト。そして此処に来るまでにムサシさんが戦ったダークメフィスト。この二体を操っているのは、ダークザギ──別名は、邪悪なる暗黒破壊神」

「…………破壊神……」

「ウルトラマンの中でも、神として称えられ、太古より存在する伝説の巨人──ウルトラマンノア。ザギは、ノアを模して作られた同じにして全く別の巨人」

 

 ウルトラ兄弟も一蹴する実力。

 ウルトラシリーズの中でも、トップクラスの性能を持った最悪にして最強の破壊神。

 荒々しく雄々しい反面に、狡猾の知恵も持ち合わせている。これほどまでに最悪な敵など存在しない。

 

「この現代よりも科学発展している世界でさえも、ダークザギは『五分で地球を壊滅させ、一時間もあれば人類を絶滅させられる』」

 

 全員が驚愕して目を見開く。辺りの空気が凍り付くのを肌で感じ、シュウは苦々しく言葉を続けた。

 

「ガタノゾーア、グリーザはまだ時間を掛けて世界を滅ぼす。だがザギは違う──技を使えば、一瞬でこの世界を破壊できる」

 

 ダークファウスト、ダークメフィストも厄介な存在でもある。ウルトラマンネクサスが苦戦を強いられ、単純な戦闘能力はかなり高い。

 

「いったいソイツはなんなんだ! なぜこの世界ばかりがこうならなければならない!」

 

 リンドウが現状に理解できず声を荒げた。

 ガタノゾーアもグリーザも、この二体は殆ど自然災害に近い。だがザギは、明確な意思を持って世界を破壊する。

 ザギの目的は真の平和──それは『完全なる虚無』。

 ザギの進化プログラムが行き着いた答えは、万物万象が消えれば悲しみも苦しみも消え失せる──故に、ダークザギは全てを破壊する。

 ノアを憎み、世界を壊すのがダークザギ。それを止められるのは、救世主(オリジナル)たるウルトラマンノアのみ。

 

「まったく……ネット紳士のゆるふわ愛され破壊神はどこにいったんだ……」

 

 訥々とそんな軽口を叩き、シュウは頭を抱えた。

 そんなにも虚無にしたいのなら、グリーザと迷惑にならない所でデートでもしていて欲しい。

 

「だけど、僕らはまだ負けていないよ」

 

 頭を悩ませるシュウや、シュウの言葉に絶望していたツバキたちに向けて、唯一一人──決して諦めていない勇者がそう答えた。

 

「……そうだ」

 

 ウルトラシリーズの知識ばかりを集めていた所為で、自分で勝手に相手を強大に作り上げ、自分では絶対に勝てないと認識していた。

 しかし、グリーザを食い止め、更には奇跡を巻き起こしてガタノゾーアの第二形態を倒すことができた。

 『絶対に勝てない』と思い込んでも尚、僅かな可能性を信じて勝利を掴み取り、最後まで諦めなかった。

 

 この知識は、自ら敗北を思い知らせるものではなく、勝利を勝ち取るために光へ導くもの。

 知っているからこそ、対処できることがある。

 

「まだダークザギは現れていない。理由がなんであれ、準備を整えられるはず……」

「最後まで諦めなければ、きっと奇跡だって起きるよ。僕は、そう信じて来たからね」

 

 説得力がある。なにせそれで。とびっきりの奇跡を起こしてしまっているのだから──ウルトラマンレジェンドという、伝説の戦士を呼び醒まして。

 

「そのザギ? に弱点は無いの?」

 

 ツバキから問われた言葉に、シュウは唸りながら頭を悩ませる。

 ダークザギの弱点──そんなもの考えたことがない。知恵、肉体、攻防、能力、あらゆる全てがトップクラス。神たるノアを模倣して造られた存在は伊達ではない。

 

「弱点……弱点……模造品とか、ノアって言ったらブチ切れるぐらいしかないかな?」

「それじゃあダメじゃん……」

 

 ダークザギとまともに正面から戦って勝利したのは、ウルトラマンギンガ、ウルトラマンノア、ウルトラマンᖴの三人。

 ギンガはSD(スパークドールズ)のザギに正面から打ち勝った。

 ノアは人々の希望を抱くことで、ザギを上回った。

 ᖴは想定外が重なり、ザギの失敗(ミス)で勝利した。

 

 ウルトラマンコスモス。

 ウルトラマンカラミティ。

 二人のチカラを合わせても、ダークザギの戦闘力には及ばない可能性が高い。

 

「ザギは、ノアを模して造られた……ん? 造られ、た……?」

 

 ふと過ぎった一つの疑問。シュウはムサシを見つめ、本来のウルトラマンカラミティ──カオスヘッダーを思い浮かべた。

 

「カラミティは、コスモスを模倣して作り上げた巨人……カオスヘッダーは取り憑いた生物を変化させ、それらを模倣(コピー)することもできる……」

 

 もしも、ダークザギを模倣できたら?

 ウルトラマンノアを模倣して造られたザギを模倣する。カオスヘッダーの模倣(コピー)能力は完全なる上位互換すらも作り上げる。

 ダークザギを模倣し、ザギを超える巨人を生み出せれば、勝てる可能性はある──だが、それには一つ問題があった。

 

「シュウ、なにか思い付いたのかい?」

「ムサシさんは、カオスヘッダーが模倣(コピー)能力を持っているのは知ってますよね」

 

 ムサシは何度も小刻みに頷いた。

 ウルトラマンコスモスとムサシは、カオスヘッダーの脅威がどれほどなものかその身で体験している。

 ウルトラマンコスモスから、カオスウルトラマンを作り出して、エクリプスモードからカオスウルトラマンカラミティを生み出した。

 

「もしも、もしもですよ、カオスヘッダーがダークザギを模倣することができれば……ザギにも対抗できるかもしれない」

 

 目には目を、模倣には模倣を。

 シュウの考えた答えにムサシを除く面々の表情が一気に明るくなる。ツバキは「それなら……!」と声色を上げ、リンドウたちも笑顔で見合っていた。

 

「なら、あとはカオスヘッダーに任せれば良いね!」

「…………いや、簡単にはいかない」

 

 ポツリと呟いたシュウの発言に、ツバキの表情が戸惑いを滲ませた。

 カオスヘッダーがダークザギを模倣するに当たって問題が一つ。それはムサシやコスモスも理解していることだった。

 それは────カオスヘッダーの模倣は、極限まで本物(オリジナル)に近付けてしまうこと。スペックや能力だけではない。感情すらも模倣して、強大なるチカラを得る。

 

「ダークザギは、ウルトラマンノアを憎み、自分を道具として扱った者たちを恨んでいる。その憎悪は誰よりも、何よりも強い」

「もしもカオスヘッダーがダークザギの憎しみを模倣してしまえば……」

「カオスヘッダーは、敵になるかもしれない」

 

 怒りと憎しみを知ったカオスヘッダーは、かつてウルトラマンコスモスと対立して、優しさを知るまで憎悪の限りを奮い続けた。

 もしもまた憎しみを知り、破壊の限りを尽くすようになれば、ウルトラマンコスモスという作品そのものが水の泡になる。

 

「……そのダークザギに対抗できるウルトラマンとかは?」

「ホントに限られた数名だけ」

 

 公式で全知全能(なんでもできる)と言われるウルトラマンキング。

 ザギの本物(オリジナル)たる伝説の超人ウルトラマンノア。

 全能の神に相応しいウルトラマンレジェンド。

 例を上げるならばこの三名。ウルトラマンから見たウルトラマンや神様にも当たる三人なら、間違いなくダークザギにも対抗できる。その他にもサーガやレイガといった何名かはいるが、勝てるかは不明だ。

 

「だけど一つ」

 

 シュウが思い浮かぶ疑問。指を一本立てたシュウに注目して、周りの全員が顔を向けて、彼が口を開くのを待った。

 

「ザギに勝てないことはない」

「どういうこと?」

 

 ウルトラマンギンガでは、SD(スパークドールズ)だったとはいえ、本人とも言われるザギを倒せた。

 確かに超強力な存在ではあるが、ダークザギは完全無欠でも全知全能のような存在でもない。確かに強力無比な能力は持っているが、絶対に勝てないというわけではない。

 

「ザギに勝ったウルトラマン達は、誰一人として最後まで諦めなかった。俺たちも、最後まで諦めなければザギに勝てるかもしれない──いや、絶対に勝てる」

 

 そう自分にも言い聞かせ、鼓舞するように囁いたシュウは力強く拳を握り締めた。

 最後まで諦めないことこそが大事。どれだけ強大な敵であろうとも、立ち向かって未来を掴む。それが光の使者──ウルトラマン。

 恐怖して縮こまっていては、何も始まらない。

 

「ねえシュウ?」

「……ん」

 

 改まって問い掛けるツバキが、いくつもの疑問符を浮かべてシュウの服の裾を軽く引いた。

 

「思ったんだけど、そのカオスヘッダーはどこにいるの? 今はウルトラマンとして戦ってくれてるのは分かるけど、シュウがいなくなったタイミングで現れてるし、それに……」

 

 言葉に詰まったツバキ。俯き、目線を泳がせてから「こっちに来て」と腕を引かれて病室の外へと、されるがままに出る。やがて彼女は口ごもりながら訥々と声を漏らした。

 

「……んで…………ったの……」

「ツバキ?」

 

 彼女の声が聞こえず、耳を澄ませて聞き返すと、ツバキは肩を震わせた後──ゆっくりと顔を上げた。

 

「……んなっ、ツバキ……?」

 

 上げたツバキの表情を見て、シュウは困惑する。彼女の表情は、明らかに異常──今まで見たことの無かった色が滲んでいた。

 目尻には大粒の涙を浮かべ、唇を強く噛み締めて、今にも泣きだしてしまいそうな表情だった。

 

「……ツバ、キ……?」

「……なんで、一緒にいてくれなかったの……?」

「…………え?」

 

 ツバキが震えた涙声でようやく呟いた言葉。シュウはその全てを理解することができなかった。

 

「……怖かった……っ」

「ツバキ……」

「……あんな怪物が襲ってきて、殺されかけて……っ。本当に死ぬかと、思った……なのに、なんでっ……なんでいてくれなかったの……!」

 

 子供のように泣き出してしまう勢い。ツバキは嗚咽すら漏らして、シュウに抱き着いた。

 シュウの胸に顔を押し付けて、ただただ子供のように泣き出す。嗚咽を漏らし、鼻をすすり、盛大にその端正な顔を涙で汚していった。

 

「ツバキ…………」

「一緒にいてくれるって……! 私を守ってくれるって……! なのに、なんでいてくれなかったの!?」

 

 突然の怪獣襲来。

 続けて、闇の巨人に命を狙われる。そんな非日常が連続で訪れ、極限まで緊迫して気を張り詰めていたツバキ。病気とも戦いながら、周りを心配させない為に我慢して、我慢を続けた。

 それがようやく、命を狙われた事で箍が外れたように溢れ出し、シュウにただただ涙をぶつけていた。

 

「……ごめん……ツバキ……」

 

 かつて約束した。

 ずっと一緒にいると、必ず君を助けると、この命を懸けてでも守り抜くと、そのはずが──大事な時にツバキの横にいなかった。

 ウルトラマンとして戦っていた──そんなこと言い訳にしかならない。

 

 世界を守っていた──確かにそれは大事な事でもある。だがそれは、周りが考えていた意志に違いない。

 ツバキにとっても、シュウにとっても、世界など二の次でしかない。互いに互いの幸せを──ただ一緒にいれるのなら、それで良かったのだから。だがしかし、シュウは大切な彼女と今と未来を生きる為に、この世界を守ろうと戦う覚悟を決めた。

 ただ今、シュウにできることは────、

 

「ごめんツバキ。もうずっと、一緒にいるから……」

 

 ただ抱き締めるだけだった。

 いつだって彼女は自分の感情を押し殺して、偽りを表に映し出す。そんな彼女が泣き出す──それはあまりにも異常なことで、眼前に『死』が迫った故に溢れてしまった。

 

「ツバキ」

「────」

 

 鼻をすすり、嗚咽を漏らすツバキを抱き締めながら、シュウは自らがウルトラマンのだと、伝える覚悟を決めていた。

 

「答えなくていい。言い訳だと思ってくれて構わない。だけど、君にどうしても伝えなきゃいけないことがある」

 

 それは、と口を開き、シュウはそのまま閉した。

 口ごもり、言葉に戸惑いながら──そしてようやく口を開く。

 

「今まで黙っててごめん。だけど、どうしても君に言わなきゃならないことがあるんだ」

「────」

「グリーザやガタノゾーアと戦ったウルトラマン。ウルトラマンカラミティに変身しているのは────」

 

 そこまで言って大きく息を吸い込む。そしてその言葉を紡ぎ出す直前──全てが震えた。

 最初は地震に似た地面の揺れだった。だがそれはあっという間に地震ではないと感じさせ、震動が一気に地面から建物全体を揺すり上げる。

 パラパラと天井から欠片が舞い、シュウは一瞬で危険を察知してツバキに覆い被さった。

 

 転瞬──廊下を照らしていた灯りが消えた。

 一拍置いて、大気の声無き絶叫が建物を揺すり、轟という音と共に病院が崩壊する。粉々に砕かれた病院の壁や天井全てが重力に従って落下。巻き上がったばかりの莫大な土埃と粉塵が視界を覆い尽くして、巨大な瓦礫が衝撃波を生み出した。

 

 視界が消え、意識が途絶える直前で、ツバキの脳裏に響き渡る不気味な笑い声。見上げたぼんやりとする視界に、()()が映り込むと同時──巨大な顔を覗かせて、ダークファウストが囁いた。

 

 

『──これで光は途絶える』

 

 

 肩を震わせて不気味に嗤うファウスト。

 その声が聞こえて────ツバキの意識は消えた。




ダークザギ以下スペック。
腕力や飛行速度など全てがウルトラマンノアと互角。
・無限に進化する自己進化プログラム
・超新星爆発、及びブラックホールに無傷の肉体
・超新星爆発並の火力を持つ光線
・完全なる死が存在しない
・未来予知、記録記憶の改竄
・スペースビーストの完全支配
・ダークフィールドG
・小惑星群を降らせたり、ただのパンチやキックにも超重力波が纏われ、通常攻撃に一兆度の炎を纏ったパンチ等

単純な戦闘能力では初代ウルトラマンの地球でさえも『五分で地球を壊滅させ、一時間で人類を絶滅させられる』ほどのチカラを持っている。
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