────二人の光が雄叫びを猛ける。
────二つの闇が憎しみを吼える。
一歩は大地を轟かせ、振り払った拳は大気を唸らせる。一手の先に十手、その先すらを見据えた攻防は、洗練されて行き、熾烈さを増していった。
その過程で、シュウはどうやってファウストとメフィストの闇から変身者を救うのかを考えていた。
一つの手段として、コスモスのコズミューム光線とカラミティのカラミュームショット。この二つの光線の本質は『狙ったものだけを撃ち抜き、効果を発揮する』。それならば、ファウスト達の闇をも撃ち抜ける可能性は高い。だが、問題もある。
───それは、
コズミューム光線、カラミュームショットは確かに強力かつ万能な必殺技ではある。しかしながら、光線がどのように影響を及ぼすのか分からない。
コズミューム光線が『狙ったものだけに当たる』のは確実。厄介なのは相手が闇の巨人であること。
闇の巨人だけを撃ち抜けば何の問題もないが、人間はコズミューム光線に耐えられるのか分からない。
たとえ撃ち抜けたとしても、闇の巨人が消滅してどうなる?
「クソ……考えれば考える程に問題が湧き出て来る」
やらなければ、意味がない。
此処でファウストもメフィストも救い出す。このチカラは、誰かを傷付ける為に存在しているのではない。命を守り、人々を救う為の希望こそ、このウルトラマンだ。
「俺がメフィストの動きを止めます。コスモスはその瞬間にコズミューム光線を」
「──分かった!」
一歩先に飛び出したカラミティが、ブレイキングスマッシュでファウストに牽制。大地に足を叩きつけ、大きく跳躍したと同時にカラミュームブレードを描き出してファウストの足下に撃ち抜く。
強烈な一撃による爆発は大地を抉り、粉塵が巻き上がる。その一瞬のみファウストの視界を遮った。
「あとは──っ!」
コスモスを一瞥して視線を送り、カラミティは急降下。次々と放たれるダークレイクラスター、ダークレイフェザーを紙一重で回避しながら、思考を懸命に巡らせた。
紫紺の揺らめきがカラミティの右腕に宿り、同時にメフィストが闇をその両腕に閃かせた。
カラミティが右腕を突き出す。
メフィストが両腕を組んだ。
カラミュームショットとダークレイ・シュトロームが衝突する。二人の間に巨大なエネルギーがぶつかり合い、空間に狂ったような暴風を巻き起こす。
「──コスモスッ!」
荒れ狂う爆炎の中、シュウの叫びが響く。
この瞬間を待っていた。
ダークレイ・シュトロームとカラミュームショットの強大な力の激突。空間すら吹き飛ばしかねない爆発は、メフィストもカラミティすら飲み込んだ。
誰の邪魔も入らない今なら──ッ!
コスモスが両腕を組み、黄金の輝きを大きく広げる。右腕にその
狙いを定め、席巻する爆炎を切り裂くコズミューム光線が撃ち放たれる。
流石はコスモスと言うべきか、放ったコズミューム光線は爆発の中に伸びて一条に瞬く。狙い過たずメフィストを貫く黄金の光──続いて爆炎の中に飛び込んだカラミティが、拳を握り締めた。
「──俺の光で、お前の闇を吹き飛ばしてやるッ!」
コズミューム光線を受けたメフィストに拳を振り下ろした直後──思考がフラッシュバック。
何度も切り替わる映像のような記憶。辺りを取り巻く闇と憎悪、其処にあるのはただの憎しみと怒り。
『──私は、普通に生きたかった』
『──私は、普通に笑っていたかった』
『──私は、普通に泣きたかった』
『──私は、普通に────』
過去の情景。憎しみと相反する想いの流れ。感慨深く感じる喜びに、焦燥する怒りが混ざりに混ざって捻れ曲がった──それは、メフィストのものではない。
メフィストに変身する──暗黒適能者の心。
────声が、聞こえる。
────歌が、鳴り響く。
全てが過去の言葉。
──いたかった。全てがその形で終わる。そしてその全ての始まりが『普通』。
聞こえ、感じる全て。
普通を求め、普通で有り、普通に成る。だがそれらは全て破壊された。
「…………最悪だ」
本心から漏れたその言葉は、決して届かない。
見える景色は真っ暗な闇。見知らぬ男に殴られ、蹴られ、見えた光は目蓋の裏にチラチラと散った。
怒号と絶叫の連鎖。二つの最悪が鳴り止むことは決してない。終わることのない永遠の収斂を続けた。
殴られる度に痛みを感じる。
蹴られる度に怒りを覚える。
許せない、許せない、許せない。四文字の言葉、一秒にも満たない音は、ずっと
「────ッ!」
見ていられない。
言葉を失い、目を背けたくなるほどの絶望。だが、だがそれでもシュウは目を離さなかった。
全ての怒りを受け止める。全ての憎しみを溜飲する。吐き気がする憎悪を押し留め、シュウは前を向いた。
『──私は沢山の嘘と裏切りを味わった』
刹那、シュウの後頭部に激痛が走った。
視界が明滅して、意識が飛びかける。蹌踉めき前のめりに倒れながらも、その意識を掴んで離さない。その痛みは彼女が味わった裏切りの感覚。絶対に気を失わない。ゆっくりとだが、しっかりと立ち上がる。
「──大丈夫。君を愛した人は、決して君に嘘を付かない」
記憶に駆け巡った楽しげな場面。
リンドウもアキハも彼女を愛している。彼女の記憶から感じたものは、全て暖かく微笑ましい。
「──怒りに呑まれちゃダメだッ!」
声を荒らげる。必死に手を伸ばした。
それでも背中を向ける彼女には届かない。追いかけようと、一歩を踏み込んだ直後──地面が硝子のように割れて崩壊し始めた。
態勢が崩れ、そのまま底の見えない闇に落ちて行く。聞こえる声は罵声、怒声、泣声、耳を聾する全てが、シュウの感情を刺激した。
通り抜ける記憶の情景で、悲しみに満ちた声が響く。
『──私は、お父さんもお母さんも悲しませた』
目の前を睨んで、シュウは首を振った。
「──君の所為なんかじゃないっ! 俺には、君の存在が二人を明るく照らしているように見えた!」
笑っていたあの表情は、決して嘘じゃない。
怒りに溢れていたリンドウ、いつも怯えきっていたアキハ。その二人が満面の笑顔で笑っていた。
まさに光のような存在。だが、視界が切り替わると眼前に映り込んだのは、絶望の場面。
怒りに満ちた声が聞こえた。
『──誰も信用できない。殺してやりたい。全てがアイツらの所為で狂わされたッ!!』
落ちる。堕ちる。墜ちる。
落下し続ける世界の中で、シュウは拳を握り締める。怒りも、憎しみも、何もかもが理解できた。
ゆっくりと息を吐き出して、呼吸も心も整える。その瞬間、握り締めた拳が光に包まれる。
「──過去は変えられないが、未来は変えられる! 怒りも憎しみも君を幸せにはしない! 憎悪を乗り越える為に必要なのは、怒りなんかじゃない!」
その想いを、叫び散らす。
決して届かずとも、必ず届かせる。絶対に救って見せる──その想いだけが、シュウを動かした。
拳を突き出す──瞬間、耳を聾する爆発に似た衝撃音。空間が割れ、全てが連鎖してひび割れる。だがそれまで。
「──うおぉぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
シュウの叫びが轟く。拳を押し込み、行く手を阻む真っ暗な壁を破壊する。コマ落ちのように崩壊する壁の先に、
「誰……?」
振り返った彼女は、シュウの姿を見つめる。
何も期待していない冷酷な眼差し。記憶の情景から見えた光は闇に取り込まれ、憎悪と怒りに満ち溢れていた。
「俺はシュウ。君を助けに来た」
「…………助けに?」
シュウの言葉を、口の中で呟いた彼女は、小馬鹿にするように鼻で笑った。
「いらない。見ず知らずの貴方を信じるとでも?」
「俺はリンドウさんとアキハさんの知り合い。いや、リンドウさんとアキハさんは、俺の大切な仲間だ」
「お父さんとお母さんの……?」
そうだ、と歩みを始めた直後、立っていられない程の暴風が襲い、シュウの身体は簡単に吹き飛ぶ。宙で一回転して真っ暗な地面に叩き付けられ、肺から空気が漏れた。
「クッソ、はぁ……ここでも阻むかよ……」
怒りと憎悪に呑まれた彼女が、シュウを否定する。差し出される救いの手を拒み続けている。
ダークメフィストの闇が、彼女自身を取り込んで、闇の力を与えていた。
「この力さえあれば、アイツらを殺せる。力とは、憎い相手を圧して殺す為にある──それが分からない貴方に、私を救える訳がない」
「憎しみに呑まれるな! 俺のこの力は、大切な人を救って守り抜く為にある──それが分からない君を、俺の光で救ってやる!」
即座に立ち上がり、駆け出した。
彼女から放たれる闇がシュウを拒み、吹き飛ばそうとしている。だがシュウは耐え続けた。
闇は刃となって服を裂き、肌を切る。精悍な眼差しは彼女を捉え、シュウの覚悟が絶対に揺るぐことはない。より一層激しくなる闇を、光が遮った。
「助かるカラミティ」
感謝を囁き、更に強く地面を踏み締めた。
「所詮貴方は赤の他人、知ったような口を利くな! 私の悲しみなんて分かりっこない!」
「確かに俺は君の事を知らない。だけど、君の憎しみは理解できる!」
思い出したくない自分の過去の記憶。思い返せば、過去に呑まれた自分を思い出してしまう。だが、そんなことは言ってられない。誰かを恨み、憎しみを抱くその感情は、痛いほど理解できた。
なぜなら────、
「俺の両親は、かつて強盗に殺された。俺もソイツの所為で生死の境を彷徨った。今だって殺してやりたい。この手で八つ裂きにしてやりたい。だけど、それじゃ前に進めないんだって分かった」
噛み締めた言葉に、彼女は初めて目を見開いてシュウを見つめた。
憎しみは憎しみの連鎖を招くだけ。たとえ憎い相手を殺しても、自分の心は決して晴れないのだと、ツバキから教わった。
怒りも憎しみも、誰かを幸せにすることはない。
「いいか、過去はしがみつく為にあるんじゃない。
瞬間、闇の勢いが弱まる。その刹那を見逃さなかったシュウは一気に詰め寄り、手を伸ばした。
かつては誰も救えなかった。
なにも持たないから、誰も守れなかった。
チカラが欲しかった。
希望的観測だけを抱くから、両親を守れず、自分も死を味わうこととなった。
思い出す度に、怒りが滲み出る。思い返す度に、憎しみが湧き出て来る。それでも、自分が自分でいれたのはツバキのおかげだった。
「──で、でも、私は、アイツらを許せない」
引っ込めようとする腕を、シュウは無理矢理にも掴んだ。腕を引き、名も知らない誰かを抱き締める。そしてそっと優しく、慈しむように、いたわるように、愛おしむように囁いた。
「──疲れたよな。もう、終わりにしよう」
「────っ!」
たったそれだけの言葉。たったその声だけが、彼女の内側にある熱を沸き上がらせる。
あと少し、あともう少しで──手が届く。しかしそれを、
『──消えろ』
無理に引き剥がされたシュウは、メフィストの振り払われた腕に巻き込まれて吹き飛んだ。
大地を転がり、激痛が全身に巡る。それでも歯を食いしばり、痛みを振り払って立ち上がる。
彼女を包み込む靄として姿を見せるダークメフィスト。睥睨する眼差しは、何処よりも暗い。
「どけよ、
懐からカラミティプラックを取り出して、その叫びと同時に光が闇を照らし尽くす。
無限に広がる暗黒の世界に、ウルトラマンカラミティが屹立。何者でもない彼女を救い出す為、光が駆け出した。
振り払われたメフィストクローを屈んで回避。下段から上段に向けてのアッパーがメフィストを上空に打ち上げた。
そのまま上空から三日月型の光弾ダークレイフェザーが放たれ、カラミティは素早く横に飛んで回避しながら跳躍した。
ダークレイフェザーをブレイキングスマッシュで相殺。飛翔の先を予測して放ったメフィストのダークレイクラスターが、カラミティの眼前まで迫る。だが、避けない──正面から突っ込む。
「──受け取れッ!」
振り絞る拳にエネルギー溜め込んだ。
迫り来る
巻き上がる爆発が、爆炎を荒れ狂わせて同時に辺りを吹き飛ばす。そしてその中を突き抜けたカラミティが、メフィストを大地に叩き落とした。
「カラミティ! 俺の考えてる技を
叫ぶように問い掛ける。ガタノゾーアとの戦いで、光の力を持つことによりグリッターゼペリオン光線と、タイマーフラッシュスペシャルをも模倣できた。
もしも、考えている
『……一度ならできる。だが、シュウの身体にかなりの負荷が掛かってしまう』
「構わない。彼女を救う為だ」
分かった、と頷いたカラミティは、シュウの記憶からその技の全てを模倣する。そしてそれは、カオスヘッダーも知っている技であることに、カラミティは驚きを隠せなかった。
だが、その技であるなら──シュウとの思考が混じり合い、重ね合わせ、より細部まで随行させた。
それ即ち、憎しみを浄化させる神秘の技。
淡く広がる神秘の光。
それは、憎しみを知ったカオスヘッダーに放たれた奇跡。
その名は────
カラミティの集結させた淡い光が、メフィストに向けて放たれる。闇が照らされて、メフィストの身体が包み込まれる。憎しみを浄化させるこの技は、メフィストを揺らがせた。
頭を抱え、光に包まれて呻くダークメフィストの姿が、徐々に消え始める。だがしかし、ダークメフィストは凶悪なる闇の巨人──そう簡単に負けることはない。全力で抗うのみ。
『──フザケルナ!』
苦しみながらも両腕に暗黒を纏わせたメフィストは、暗黒破壊光線ダークレイ・シュトロームを撃ち放った。
当然だが、ルナファイナルを放っているカラミティに防御する術はない。それでもカラミティが、浄化させ続けるルナファイナルの技を止めることはなかった。
正面からダークレイ・シュトロームを身体で受ける。激痛に顔を歪め、徐々に押されても尚、カラミティはその手を緩めない。
「──俺が、この程度でっ、止まる訳ないだろっ!」
エネルギーを更に込める。今ここで燃え尽きようとも、必ず目の前の命は助け出す。
淡く照らす優しき光がメフィストを包み込み、ダークレイ・シュトロームが止まった。
闇が、憎しみが、ゆらりと浄化される。光に照らされた闇は霞が掛かって、メフィストの身体が消えて行く。同時に、彼女の憎しみが浄化される。
そしてエネルギーの全てをルナファイナルとして放ち続け、頭の割れるような痛みが激しく響いた。
呼吸が荒く、汗が止まらない。それでも正面を見据え、メフィストの姿が完全に消えているのを確認。その場には、一人の女性が倒れていた。
抱えるようにして抱き上げ、カラミティはその身体から燦然たる光を放ち、暗黒に包み込まれる世界を照らし尽くす。
────そして、闇が光に照らされると、一気に視界が白い輝きに埋め尽くされた。
巻き上がる爆炎の中、思考が元に戻った。
結果の見えない爆発。辺りの空間を一気に吹き飛ばした爆発の中から、眩い輝きに身を包んで、カラミティが飛び出た。
右手で何かを握り締め、優しく守るようにして現れたカラミティがゆっくり大地に着地する。だが蹌踉めいて倒れそうになり、膝を付いた。
肩を大きく上下させながらも、カラミティの見下ろす先には二人の男女──肩を取り合っているリンドウとアキハの前に、カラミティは腕を下ろす。
不思議に感じていた二人の前に降ろされたのは、気を失っている一人の女性。
「──レイナっ!」
気を失う女性──レイナの名を呼びながら駆け寄るリンドウは、アキハと共に彼女の上体を起こす。必死に呼び続け、肩を揺らしていると、レイナの眉がピクリと動き、薄っすらと瞳を開けた。
「……お父、さん……」
「レイナ……いったいなにが……?」
困惑しているリンドウを見つめてから、レイナはゆっくりと首を動かしてカラミティに視線を移す。
「ウルトラマンが、救ってくれた……」
「レイナ……!」
アキハが強く抱き締める。リンドウは二人から視線を移して、カラミティを見上げた。
「ウルトラマン……」
ポツリと呟くが、それ以上は何も言わない。対してウルトラマンもまた、何かを答える訳でもない。ゆっくりと頷くのみで、カラミティは立ち上がって背を見せた。
悠然とした振る舞いを見せるカラミティに向けて、リンドウは思わず笑みを浮かべながら──、
「ありがとう」
たった一言を告げて、アキハとレイナの二人を強く抱き締める。それは、普通にあるはずだった幸せ。
絶望に満ち溢れてしまった家庭に齎された悲しみ。それを乗り越える為には、ウルトラマンの力ではなく、自分自身たちの力で成し遂げるしかない。
そして、ダークメフィストは消え去った。
だが、それだけでこの絶望はまだ終わらない。
寧ろ、此処から始まる────。
────闇に従え。
暗黒なる世界の中で、破壊神は呟いた。
レイナの身に何が起こったのかは、皆様のご想像にお任せします。一応設定的には考えていますけど、この設定はかなり重いので……。
評価や感想があればぜひ。
今後の更新などは、変な呟きと共に私のツイッターアカウント@hokattya258でお知らせしていますので、ぜひ興味があればよろしくお願いします。