岸くんに憑依したので世界は救われないかもしれない   作:Iaなんとか

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エタるつもりはないです。
少しずつ書き進めてたら第二部完結してました。
単に遅筆なだけです。

騎士くんのバッドエンドを書いてたら、いつの間にか滅茶苦茶重い展開になってました。最初書いてた時はこんな感じじゃなかったのに…。オリ主の登場に説得力を持たせるには騎士くんを徹底的に曇らせるくらいしか思いつかなかったんや。アンチ・ヘイトが苦手な方は、ブラバして本家の騎士くんでも見て癒やされてください。


1.5部
意味消失のアーキタイプ


 

―――少年(ユウキ)は『ココロでつながるチカラ』を持っていました―――

 

―――そのヒトの代表者(ARCHETYPE)たる()()()を以って、()()とキズナを結びました―――

 

―――そして、世界の真相を知り――少年は絶望しました―――

 

―――ある日、少年は本物の悪魔と出会いました―――

 

―――少年は悪魔とキズナを結び――星のように輝く物語に触れました―――

 

―――Fate/Grand Order――少年(ユウキ)と同じチカラを持つヒトが世界を救う御伽噺でした―――

 

―――プリンセスコネクト!――少年が辿る筈だった英雄譚でした―――

 

―――少年は歓喜しました――やっと、世界を救える方法を見つけた、と―――

 

―――そして、少年は物知りな悪魔(ラプラスの悪魔)に彼女たちの未来を託すことにしました―――

 

―――悪魔なら、願いを叶えてあげれば、快く協力してくれるはずです―――

 

―――なので、少年は悪魔に取り引きを持ちかけました―――

 

―――自分の代わりに、世界を救ってほしい、と―――

 

―――そして、悪魔の『少年(主人公)のようになりたい』という願いは叶い―――

 

―――少年の魂と引き換えに悪魔が顕れました―――

 

―――ですが、悪魔は少年が大好き(ユウキのファン)です―――

 

―――悪魔は少年がいなくなったことを、誰よりも悲しみました―――

 


 

模索路 晶(ラビリスタ) (WISDOMか… ここなら事件の真相を知ることができるかもしれない。

       利用するようで悪いけど、それはお互い様だし気にする程のことでもないよね。)

 

      「ヤッホー。 長老、元気にしてる?

       前に誘ってくれた仕事、一つ条件を呑んでくれるならやってもいいよ。

       それは、アタシが後見人になった少年にWISDOMが干渉をしないこと。

       別に才能があるから保護したわけじゃないし、探られるのはイヤなんだよね。」

 

嚮導老君(長老)  「…いいだろう。」

 

      (ふむ…偶然では説明のつかない事象が起こっている。

       これを抑止力の働きだとするなら、我々は破滅するだろう…

       我々は大人しく不干渉を貫くべきだろうな…)

 


 

クリスティーナは似々花(ネネカ)をからかっていた。

 

「おや、ずいぶんと食いつくじゃないか?」

 

一応似々花(ネネカ)は反論する。素直に認めるのはクリスティーナに負けたようで嫌だったからだ。

 

「英霊を模倣できれば更に高みへと登れるからです。

 決して、お話を楽しみにしてたわけではありませんよ…ええ…」

 

最早、隠す気のない言い訳に対して、矛依未(ムイミ)はツッコミを返す。

 

「似々花って、素直じゃないよな~

 いつもは喜々として『先生』って呼んでるクセに。」

 

あっさり、似々花は矛依未(ムイミ)の言葉を肯定する。似々花はこのやりとりを楽しんでいた。

『先生』とはロマン、つまりは異世界(カルデア)から流れ着いたソロモン王のことである。彼は人体実験の被験者というヒエラルキーの最下層から、()()()()()()()()()()()やカルデアでの経験を活かし、着々と地位を向上させていった。似々花は、そんな『先生』から人体実験で抜き出した『記録』ではない、感情が伴う『経験』を知ることが好きだった。

 

「むっ…それを言われてしまうと反論できませんね…

 ところで真那、貴方はどうしますか?」

 

そして、似々花は真那に話を振る。

 

「悪いけど、私はパスよ。 たまには家で寛ぎたいの。」

 

家で寛ぎたいというのも嘘ではないが、それよりも真那には楽しみにしていることがあった。

 

「そういや希留耶(キャル)ちゃん、修学旅行から帰ってくる日だったな!

 いいな~アタシも修学旅行、行ってみたいな~」

 

百地希留耶(きるや)は、千里真那が拾ってきた子供である。保護したのは、自身を縛り付けてた宗教団体、黒協会への意趣返しのつもりだったのだが、自身にとても懐くので情が移ってしまい、一年が経った頃には、すっかり家族同然の関係となっていた。もちろん、希留耶(キャル)に天才と渡り合えるような才能は全くないので、真那に希留耶(キャル)を自身の後継者として育てるつもりはなかったが。

そして、対等に付き合える同僚に帰りを待つ家族を手に入れた真那は、充実した心地よい生活を送れていた。それこそ、嘗ての野望を忘れてしまえるほどに。今の真那には、自身と境遇の若干重なるところがある矛依未(ムイミ)の願いを叶えない理由はとっくになくなっていた。

 

「ふん、勝手にしなさい。」

 

こうしてあっさり許可はでるのだが、これは異例の出来事であった。当時、超能力などの超科学的現象は国連の手によって世間から隠匿されていた。そして、国連の一機関であるWISDOMは、絶大な武力である超能力を欲する(被検体を手に入れるため)テロリストや国家から、超能力者を『保護(拉致)』していた。本来なら逃亡や奪取を防ぐため、超能力者には厳重な監視が敷かれるのだが、これを機に矛依未(ムイミ)は緊急時以外の超能力の使用の禁止を条件として、外出の自由が許されるようになる。これは七冠(セブンクラウンズ)の権力が隆盛を極めたことを示していた。

 

「聞いたか、晶! 真那の許可がでた!!」

 

矛依未(ムイミ)は小躍りしていた。元はストリートチルドレンであった矛依未(ムイミ)は学校に行ったことがない。WISDOM内での権力闘争に勝利した七冠たちによって、矛依未(ムイミ)たちの待遇が改善されてからというもの、彼女はアニメを見たり、妹のような存在である小学生の棗 こころ(コッコロ)との会話を通して、学校生活への憧れを募らせていった。そんな矛依未(ムイミ)にとって、これは天地がひっくり返る出来事だった。

 

「聞いてるよ、矛依未(ムイミ)。学校への編入手続きしておくから、ちゃんと勉強しておくんだよ。

 それと学校で超能力、使っちゃダメだからね。」

 

「それくらい分かってるよ~」

 

運悪く園上 矛依未(ノウェム)が学校で超能力を使っているのを見てしまったことで、尾狗刀 詠斗(オクトー)矛依未(ムイミ)の協力者となり、非日常の世界の身を投じることなるが、それはまた別の話。

 


 

模索路 晶(ラビリスタ)は、他の七冠(セブンクラウンズ)の内、現士実似々花、千里真那、クリスティーナ・モーガンの三人に聖杯戦争を止めるよう説得していた。

 

「ミネルヴァはそんなことのために育てたんじゃない。」

 真那、今なら引き返せる。」 

 

だが、晶の言葉に千里真那は反論する。

 

「もう遅いのよ… 世界の終焉は避けられない。 私たちが何をしようと勝手でしょう。

 そもそも、聖杯(ミネルヴァ)を使って、世界を管理するのはWISDOMにとっては既定路線だわ。

 …黒協会の思い通りになるよりは、遥かにマシよ。」

 

そして、似々花(ネネカ)は晶にWISDOMに残るよう説得する。

 

「晶、考え直してはくれませんか?

 聖杯(ミネルヴァ)さえあれば、人類の記録を遺すことができます。」

 

彼ら七冠(セブンクラウンズ)にとって、人類の滅亡は不可避であるとされていた。 

 

「まだ、希望はある。 七冠だけじゃない、力を合わせれば打破できるかもしれない。」

 

それでも、晶は希望を語る。たとえ、心の底ではそれを信じていなくとも。

 

「それは、あなたの手元にある切り札(ユウキ)のことですか? 

 私たち七冠が不可能と判断したことを、たかだか切り札程度で覆せるとは思えませんが…。」

 

だが、似々花(ネネカ)は一蹴する。暗に『一般人に打破できるなら、世界の頂点である七冠(セブンクラウンズ)はただの無能である』ということを含んでいた。

 

「ううん、あの子には平和な世界で生きてほしいんだ。」

 

力を合わせると言いつつ、そこからユウキ(オリ主)を除外する明白な矛盾。それが晶の放った数少ない弱音であることを、そこにいる全員が理解していた。

そして、晶の意思を汲み取ったクリスティーナの導いた結論は、『自身の意見を通したければ、聖杯戦争に勝てばいい』だった。確かに、自力で勝ち抜いた後、聖杯で願いを叶えるという選択肢もある。だが、晶には自力で勝ち抜ける実力はないし、世界を救えるような願いも持ち合わせていなかった。

 

「だから、聖杯戦争で決着をつけるんだろう? 

 勝者が世界の行く末を決める、最高に滾るじゃないか。」

 

ロマニ・アーキマン、彼は七冠との間に、被検体でありながら、同時に尊敬の対象であるという歪な関係を築いてきた。要は、彼は七冠に意見が出来る立場にあるが、意思決定に加われる立場にはない。そして、彼の提案は熟考の末、却下された。それだけ七冠たちの意思は固かったのだ。晶は無駄だと知りつつも、ロマンを引き合いに反論を続ける。

 

「クリス、私は認められないね。 そもそも、ロマンがそれを望むわけがない。

 

だが、晶の言葉をそこに現れた七冠の一人が遮った。

 

「―――止めておけ、晶。」

 

「長老!? どうして…」

 

長老と呼ばれた男性は、後にアストルムでコッコロとしてアメスに導かれ、ユウキ(オリ主)の元に旅立つこととなる棗 こころ(コッコロ)にとっての、実の父親である。

 

あれ(奈落迦)に触れて、理解した筈だ。 抵抗するだけ無駄だと。

 どうしても諦めきれないというのなら、我々の予測を覆してみせろ。

 そうだな…例えば、あの少年(ユウキ)が七冠を超えれたのならば、考え直してもいい。」

 

(上手く隠しているようだが、アレは度々、降りかかる障害を不可解な形で突破している。

 それも、我々の文明レベルでは実現不可能な難行を、しかも未知の概念を応用してだ。

 星の開拓者であるには些か以上に才能が不足しているが、もしあの時の少年と…)

 

長老はユウキ(オリ主)に僅かな希望を抱いていた。長老には、(コッコロ)の未来のため、藁にもすがる思いで必死に世界を救う手段を調べていた時期がある。そこで長老が注目したのが都市伝説だった。当時、オカルトの隠匿によって醸成された市民の不信感は高まり、空前の都市伝説ブームを引き起こしていた。WISDOMは体制を揺るそうとするウォッチャー(都市伝説の登場人物から借りたコードネーム)を敵視していたが、長老は彼らの協力があれば行き詰まった現状を打開できるのではないかと考えていた。そして、世界の真実(未来)が隠されたラプラスの箱、世界支配に対抗するディープステートに世界の秘密を暴く番人(ウォッチャー)。極度に、()()()()、誇張された物語を一つ一つ丁寧に辿っていくと、ユウキ(オリ主)に行き着いた。

都市伝説の数々が、誰か(ホマレ)ユウキ(オリ主)をネタに面白可笑しく物語を書き綴ってるだけで、勝手に対抗意識を燃やしたWISDOMを更にネタにしてるだけにすぎないことに気付いた時には大層拍子抜けしたが。そして、長老はそのことを言う義理はない(倫理観がない連中は好きではない)ので、WISDOMには黙っておく(勝手に戦え!)ことにした。

長老はどうにかしてユウキ(オリ主)に世界を救わせようと考えた。ただ、晶との契約でこちら(WISDOM)からはユウキ(オリ主)に干渉はできない。なら、あちらから舞台に上がってもらえばいい。散々、こちら(WISDOM)を弄んだのだから拒否はさせない。それは、苦労して得た真実が実にくだらない内容だったことへの、ユウキ(オリ主)に対する大人げない八つ当たりだった。

 

「分かったよ…長老。」

 

(ごめん… アタシは無力だったよ…)

 

一方、晶は守ると誓った家族(ユウキ)を巻き込んでしまうことへの罪悪感が膨れ上がっていた。このとき、長老のユウキ(オリ主)への態度を知っていたなら、晶は激怒したであろう。

 

「これからは、(こころ)との時間を過ごすつもりだ。

 あと、大勢の一般人を巻き込むからには、責任は真那が取れ、いいな?」

 

この長老、ちゃっかりしている。聖杯戦争には賛成であるにも関わらず、発案者の千里真那に全ての責任を負わせようとしていた。

 

「ええ、わかってるわよ。」

 

そして、千里真那はそのことに気付きながらも、責任を勝ってチャラにする気マンマンだった。そういう自己中心的な思考が彼ら/彼女らが7つの王冠、七冠(セブンクラウンズ)と呼ばれる所以である。

だが、自らの天才性故に、対等だと認め会える友人に恵まれなかった七冠ら(ぼっち)にとって、自らの仲間が集うWISDOMは大切な存在である。似々花にとっては特にそうだ。昔の似々花は七冠のことをくだらないお遊びだと揶揄していたが、いつしか似々花にとってWISDOMも七冠も掛け替えのないものとなっていった。

似々花は、晶の離脱に明らかに動揺し、悲しんでいる。故に晶に問いただす。

 

「…晶。 とうとう私たちは行く道を違えてしまったのですか?」

 

「そうだね、似々花…。」

 

晶の短い決別の言葉には万感の想いが籠もっていた。

 

「今日まで一緒にやってこられたのが奇跡だったんだ。

 ワタシたちは七冠。 円卓(ラウンドテーブル)は崩壊するのが世の常だったのさ…」

 

そして、クリスティーナは諦念を口に出し、晶は去っていく。これまでの人生をずっと孤高の存在として過ごしてきた似々花はこのとき初めて喪失感を覚えたのだった。

 


 

「当時のアタシは『こんなクソッタレな人類なんて滅んじまえ~』とか思ってたんだ。」

 

「へえ~ 晶にもそんな過去があったなんてね。」

 

「意外でしょ。

 尊敬してた父親…医師としてたくさんの命を救ってた父親が、人に裏切られて死んじゃって…

 人間なんて、恩を仇で返すような碌でなしばっかだと思ってた。

 金輪際、人助けなんてするのを止めようとした…。

 でも、町を虚ろな目で彷徨ってた少年を見て、思わず我に返っちゃってさ。

 思わず少年を呼び止めて、『お姉さんに辛いことを話してくれない?』って言っちゃった。

 肝心なことは話してくれなかったけど、それが切っ掛けなんだ。」

 

あの時、少年が小さく呟いてたのを聞いてしまったんだ…

 

―――どうして誰も彼も…オレに全てを託して、いってしまうんだよ―――

 

ってね。とてもじゃないけど、見てられなくてね…。

 

「よっぽどショックだったのよね…

 ユウキは記憶を失った今でも、そのトラウマを引きずってる…。

 あたしは()()()()までそれに気付けなかった。

 ガイド妖精失格よ…」

 

「アタシから見れば、フィオはよくやってると思う。

 少年とだって、これから向き合えばいいさ。」

 


 

国連の研究施設で、ケニアのトゥルカナ湖で発見された磁気異常物質(Magnetic Abnormal Matter)を解析していた。

未来における七冠の一人である嚮導老君(長老)はMAMの起動の報告を受け、実験室へと向かっていた。

 

「ふむ…MAMが起動しただと…?」

 

「私達はプロトコル通りに研究を進めています。

 ですから、今回の起動は私達によるものではありません。」

 

「;プロセッサ.ミネルヴァより提言します

 ;ノイズ:パターンγを確認しました

 ;対象の排除を推奨します」

 

「機動部隊αは()()()を処理しろ。」

 

「「了解!」」

 

パワードスーツを纏った数名の兵士が手際よく障害を排除してゆく。

ノイズを処理し終えた頃、ある研究員がアジア人と思わしき少年が現場にいることに気づいた。

 

「そこにいるお前! 膝を地面につき、両手を上げろ!」

 

だが、少年は一瞥もせずに、磁気異常物質(Magnetic Abnormal Matter)に向かって歩いてゆく。

 

「英霊…? いや、違うな…

 あれはこちら側からの干渉(領域シフト)を試みている。」

 

「;光学的観測に失敗しました

 ;認知との矛盾を確認

 ;自己診断プログラム:正常」

 

「妨害できるか? 但し、レメゲトンは使うな。」

 

兵士は取り押さえようと、少年に粘着弾を投げつけたが、少年をすり抜け、地面に落下した。

 

「駄目です!」

 

嚮導老君(長老)はそれをじっと観察する。

 

「やはり、虚数領域にいるのだな…

 機動部隊αはそこで待機しておけ。

 興味深いものが見れる。」

 

そして、少年は()()()()()()()()()()に触れ、消失した。

 

「マルチバース・ジョイント、か…」

 


 

「話の流れでふと『もしかして、世界中の人を助けたいと思ってる?』って聞いたら、

 『どうしてオレなんだよ…』って答えてね。

 それから、アタシだけでも少年の味方であろうと決めたんだ。」

 

「そこは、ユウキのおかしな言動を疑いなさいよ。」

 

「いや~ どうしてか虚言を言ってるようには思えなくてね~

 一応、旧友(ホマレ)にも頼んで一緒に調べたら、両親がヤバいのに関わってたらしくてね~

 WISDOMに入ったのは、それを調べるためだったんだ。」

 


 

知らない天井だ… …? …!? 知らない部屋…ここはどこだ…?

まさか、まさか、まさか…! 夢…じゃ…なかったのか…!?

 

 

呆然としてると、男の人と女の人…(ユウキ(本物)の両親だと思う)が部屋に入ってきた。

ココロがぐちゃぐちゃになってどうすればいいのかわからない。

 

すると、オレは女の人にギュッと抱きしめられた。

 

「大丈夫? 不安ならママに甘えてもいいのよ…?」

 

オレは…オレは…

 

「…オレは本物(ユウキ)じゃないんだ。 ユウキ(本物)を乗っ取った別人なんだ…。」

 

「知ってるわ… それでも、アナタは私の子供よ。 愛しい我が子なの。」

 

「どうして…!?」

 

オレが困惑と不安で震えてると、男の人が口を開いた。

 

息子(ユウキ)から君のことは聞いている。

 君を家族として迎え入れるように頼まれている。

 今日から君も私たちの子供だ。もちろん息子の身代わりとしてじゃないよ。」

 

おかしい…

 

「オレは偽者なんだぞっ…! いいわけないだろっ!」

 

そんな都合のいい話があるもんか!

 

「偽者なんて悲しいことを言わないで…。

 アナタは大切な家族の一人よ。」

 

どうして…そんな希望をもたせることを言うんだ?

オレは…その大切な人を奪ったのに…

 

「オレなんて嫌いだろっ!」

 

だって…、オレがユウキを殺したようなもんなんだから…

 

「君を嫌うわけないじゃないか。」

 

「そんなわけ…」

 

あるわけない…息子(ユウキ)がいなくなって、割り切れる親なんているはずがない…

 

「アナタ… きっと、この子は自分のせいで、ユウキが不幸になったと思っているのよ。」

 

「ああ、そういうことか。息子(ユウキ)は君と出会ってから、本当に明るくなった。

 最後に息子(ユウキ)は幸せな姿を見せてくれた。 だから、君は悪くないんだ。

 安心してくれ、私たちは君を責めたりなんかしない。」

 

えっ… どうしてオレを責めないの? ユウキがいなくなって辛いはずなのに…

 

「そう、私たちはアナタの味方よ。」

 

「本当に…!?」

 

いいのかな…?

 

「ああ、本当さ…! 親としては悲しいが、息子(ユウキ)の決断を尊重するのは決めていた。

 君は息子(ユウキ)の忘れ形見だ…。 君を否定すれば息子(ユウキ)を貶めることになる。

 だから、私たちを信用してくれ。」

 

「で、でも…」

 

オレなんかと一緒は嫌だろっ…!

 

「君と一緒に暮らしたい。息子(ユウキ)が何故、君を選んだのかを知りたい。

 だから…私たちと家族になってくれ!」

 

「家族で…本当に、いいのか…?」

 

「いいのよ。 これから、いっぱい思い出を作りましょう!

 アナタにステキな世界を見せてあげるからね♪」

 

「うゔ…わかった… オレを…あなたたちの…家族に…して下さい…」

 

「モチロンよ! これからヨロシクね♪」

 


 

新しい家族と三人で昼食を食べた後、自室に案内された。

 

朝、目覚めたのと同じユウキの部屋だ。 オレは今日からここで暮らすのか…。

何度も修復した痕があるぬいぐるみが枕元にあったり…、ユウキの痕跡が確かに残っている。

 

観察を続けると、窓辺に海水浴だろうか、木製の写真立てにユウキが写った家族写真を見つけた。

よっぽど、楽しかったんだろうなあ… タオルを被りながらウトウトしてる様子が写ってる…。

 

幸せな生活を捨ててまで願うようなことだったのだろうか…

何がユウキを突き動かしたのだろうか…

さっきの会話を思い出す…

 

こんなにも愛されていたのに、どうしていなくなったんだよ…

大切な人の幸せを守れても、そこにオマエ(ユウキ)がいなけりゃ、意味がないだろうに…

自己犠牲なんて物語(フィクション)だけで十分なんだ… 

みんな、オマエ(ユウキ)の幸せを願ってたのに…どうして自分を大切にしなかったんだよ……

 


 

「儂らは古くからの政治家の一族での、最近は家族の折り合いが悪くなっとる。

 一族の地位を保つために必死になったせいでの…家族関係が冷え切っておるのじゃ…。

 特に孫が心配でな… 厳格な教育のせいで子供らしいことすらさせてもらえんのじゃ。

 儂が死んだ後も(レイ)に自由な時間をあげたいのじゃ…

 この時代に家の業なぞに縛られるのは可哀想だからの…」

 

釣りを教えてもらってただけなのに…、どうしてこんな重い話になってるんだ?

 

「子供にする話ではなかったかの…。

 悪魔のような()()()雰囲気を醸していたからうっかり話してしもうた。」

 

…悪魔? 独特な感性だな…このお爺さん。

そんなことはどうでもいい。 これって、どう答えればいいんだ…?

何かいい感じの… そうだ…。

 

「…家族と話し合えばいいんじゃないかな?

 はっきり意思を伝えれば、変わるかもしれない。」

 

無難な答えだけども、これが一番だと思う。

 

「そうか、それでいいのじゃな…」

 


 

母さんに行って来いと言われたけど、外国を子供一人で観光させるなんて正気か?

まあいいや…父さんも止めなかったし大丈夫だな、多分…

 

どこに行くか地図を見ながら考えてると、ブロンドの髪に緑色の目をした女の子が近づいてきた。

現地人っぽいな… この髪と目の色の組み合わせはこの辺りの民族の特徴だし…。

 

「コンニチハ。 アナタ、ニホンジンデスカ?」

 

えっ…日本語!?

母さんにもらった翻訳機の電源を入れてと…

 

「確かにオレは日本人だけど、どうしたの?」

 

「日本人だと思って声をかけたんですけど、あなたに通じて良かったです♪

 その身なり、多分観光客ですよね! 良ければ一緒にこの辺りを回りませんか?」

 

この国はヨーロッパでもかなり治安が良い方だから大丈夫かな…?

何故かはわからないけど、この子は悪さをしないって確信がある…

 

「うん、いいよ! どこに行こうか迷ってたし…」

 

観光地とかを回ろうにも、どこに行けばいいのかサッパリだ。

 

「わたし、これまで一緒に遊べる友達いなかったんです!

 色んなところを巡りましょう! それではレッツゴーです♪」

 


 

う~ん…既視感を感じる…

 

「ええっと、これはですね~

 『楔石』と呼ばれる、ユーラシア各地で発見される先史文明の痕跡の一つです。

 この『楔石の原盤』は発見された『楔石』の中でも特に巨大なもので…

 世界で唯一、欠けのない文章が書かれてあると言われる代物なんです。

 まだ、本文自体は未解読なんですけどね…」

 

そうそう…ロゼッタストーンに似てるんだ。

って…、先史文明ってなんだろ…

 

「先史文明って何のこと? 古代ギリシャとかとは、また違うのかな?」

 

というか、そんなのがあるならオカルトマニアの格好のネタになりそうだが…

でも、日本では不自然なくらいにそういう考え(オカルトもの)が忌避されてるんだよなあ…

ここに来てからロマンはあるけど、前とは違いすぎて、時々恋しくなることがある…。

 

「はい、ユーラシア各地で同一の文明のものと思われる小規模な遺跡が発掘されるんですけど、

 考古学、歴史学、人類学など様々な分野の専門家が調べても、成立してた時代が不明なんです。

 ただ、どの史料にも文明の記録がないので、有史以前の文明(先史文明)だという説が最有力だそうです。

 やばいですね☆」

 

ふーん。 日本に帰ったら、本屋にでも寄ってこれの解説書でも買おうかな…

…今思い出したが、書店に非日常系ジャンル(現代ファンタジーとか)が殆どないのには驚いた。

そのせいか、ラノベはあんまり人気がなくて、ゲームが流行ってる。

確かに、超能力とかが公になってない世界でそういうのが流行ってたら、すぐにでもばれるもんな。案外、ウィズダム(WISDOM)とかに情報統制されてたりして…

 


 

時差を合わすの忘れてた… この地域だと…えぇっと…12時か…

 

「昼食はどこがいいと思う?」

一定の距離を保ちながら付いて来てる人と目線が合う。 忖度しろってことか?

「う~ん、わたしとしてはこの国の郷土料理を食べてほしいですけど…

 やっぱり、世界中どこにでもあるようなチェーン店で食べるのが安心ですね♪

 あそこでハンバーガーでも食べませんか?」

 

どこにでもこういう店はあるもんなんだなあ…

 

「久しぶりのジャンクフード、おいしいです! やばいですね☆」 

 

目を輝かせながらバーガーを頬張ってる…

よっぽど食べたかったんだろうな…

 


 

日が傾いてきた。 今日は楽しかったな…

異国の地で女の子と二人で噴水とかの観光地を巡って…今、最高にアオハルしてる…

 

「もうそろそろ、お別れの時間ですね… どうでしたか? 観光、楽しかったですか?

 わたしは楽しかったです♪ あなたの感想、聞かせてください!」

 

「とても、楽しかったよ。」

 

「…本当にそうですか? もしかして、わたしに気を遣ってるんじゃないですか?

 ありのままの言葉を聞きたいです。」

 

…うん。 やっぱ、勘が鋭いな… 

 

「あ~わかった、言うよ… 君って、アストライア王家のお姫さま(ペコリーヌ)だよな?

()()()()()()と二人で観光するのは、スリリングでとっても楽しかったよ。」

 

それもこれも、護衛が目を光らせてたのが悪いんだ…。

 

「えっ、気づいてたんですか!? 私、まだ親の方針でお披露目してませんよ!?」

 

あれだけボロを出してたらなあ… お姫さまってことまでは分からなくても、何かしら気づく…

 

「君だって、お姫さまってことを隠してただろ。 オレにも隠し事の一つや二つ、あるんだよ。」

 

「ふふ、あなたらしい答えですね…♪ あの…また、一緒に遊べませんか…?」

 

なぜか、オレがフラグを建ててるような気がする… ()()はゲームの主人公じゃねえぞ…

 

「…当分は無理だな。 だから、一つ約束してもいいか?」

 

「モチロンですよ☆」

 

「じゃあ、約束だ。 いつか、アストルムでまた冒険しよう。」

 

アストライア王家が出資者に名を連ねることになって、半強制的に遊ぶことになるだろうから…

約束を覚えていれば、きっと会える。

 

「アストルム…? よくわからないですけど、約束ですからね!」

 

「ああ、約束だ…!」

 


 

アメス  「今日の夢はペコリーヌとの出会いだったけど、どうだったかしら?」

 

     「えっ…この時のペコリーヌが敬語なのはどう考えてもおかしいって?

      そりゃあ、あんたの記憶には今のペコリーヌの印象で強く刻まれてるからよ。

      あんたに記憶を夢として見せる時は、色々と調整して再生してるの。」

 

     「何かあったのかって… あんたって意外と勘が鋭いわよね …本当に聞きたいの?」

 

     「わかったわ… 聞いて後悔しないでね…。

      前のループで、あんたにとって辛い記憶をそのまま再生しちゃって…

      …それでね、あんたは心を病んで、自殺してしまったのよ。」

 

     「大丈夫って…あんた、顔色悪いじゃないの…」

 

     (…今回は念入りに処理しておこうっと。)

 

     「今日はこれで終わりにするわね。

      目を覚まして、あんたは冒険に戻るの。

      悪い夢なんて、きっとすぐに忘れるわ。」

 


 

ユウキ(原作主人公)は激戦の末に仲間と分断され、別レイヤーに廃棄されたルナの塔の残骸(上層部)の中、覇瞳皇帝(ラスボス)とたった一人で戦っていた。ユウキ(岸くん)は特殊能力の代償としてレベルアップによる成長こそ封じられていたが、多くの友人との冒険を通して手に入れた装備やステータスボーナスがある。それゆえ、ユウキ(騎士くん)は自身を転移させ魔力が底をついた覇瞳皇帝(カイザーインサイト)と互角に渡り合うことができた。一進一退の剣戟が続き、とうとうユウキ(岸くん)覇瞳皇帝(カイザーインサイト)の剣を弾き飛ばす。

聖杯戦争はユウキ(原作主人公)たち、トゥインクルウィッシュ(夜明けの星)の勝利で決着したかに思えた。

 

「僕の勝ちだ、覇瞳皇帝(カイザーインサイト)。」

 

だが、武器を失った覇瞳皇帝(カイザーインサイト)は拳を固め、ユウキ(岸くん)に殴りかかる。

 

「ふん… 聖杯(ミネルヴァ)をどう使ったところで、未来は覆せないわ…!」

 

世界の頂点、あらゆる分野に精通した天才と謳われた七冠(セブンクラウンズ)。その一人である覇瞳皇帝(カイザーインサイト)でさえ匙を投げた『滅び』。万能の願望器、おおよそ人間が考えうる願いは叶えられる代物ですら覆せない未来を、覇瞳皇帝(カイザーインサイト)は示唆する。

そして、腹に覇瞳皇帝(カイザーインサイト)の重い一撃が決まり、ユウキ(岸くん)は剣を落とした。すかさず、覇瞳皇帝(カイザーインサイト)は剣を遠くに蹴り飛ばす。

 

「僕は…アンタが見た…絶望の未来とやらは…知らない!

 でもな…! 自暴自棄になって…、世界を支配するなんて…現実逃避に身を委ねて…

 自分の夢を…台無しにして…、本当に…それでいいのかよ…!

 アンタは…七冠(セブンクラウンズ)なんだろ! 世界の一つや二つ…、救ってみせろよ…!!

 希留耶(キャル)はな…、アンタのことを…今でも…信じてるんだぞ!」

 

ユウキ(主人公)覇瞳皇帝(ラスボス)、互いの意地の張り合いは武器を失ってさえも続く。

とうに両者の争いは技術などないただの喧嘩(殴り合い)となっていた。

 

「私には…無理よ…! 希留耶(キャル)は私の醜い一面を…知らないから…、そう言えるだけ…!

 あんなの…、どうすることも…できないじゃない…!」

 

アストルムでの仲間との冒険の日々が差を生んだのだろうか、徐々にユウキ(岸くん)が優勢となっていった。それでも、覇瞳皇帝(カイザーインサイト)はヨロヨロと立ち上がり、ユウキ(岸くん)を殴り返そうとする。だが、ユウキ(岸くん)にはこれ以上、戦いを続けるつもりなどなかった。

 

「なら…、こんな不毛な戦いなんて止めて、僕に手を貸せ、覇瞳皇帝(カイザーインサイト)。 

 七冠(セブンクラウンズ)で無理なら…、世界中の人たちで考えればいい。

 アンタにも事情があった。 だったら、今からでも手を取り合うことはできるはずだ。」

 

そう言って、ユウキ(岸くん)は敵である覇瞳皇帝(カイザーインサイト)に手を差し伸べる。

ユウキ(岸くん)の甘さは身を滅ぼすものかもしれない。だが、ユウキ(岸くん)には誰かを見捨てるという選択肢はなかった。それは生来の善性からくるものだ。もちろん、ユウキ(岸くん)は向けられた悪意を無条件で許してしまう聖人などではない。ただユウキ(岸くん)は、自らが正しいと思うことを貫き通しているだけだ。誰にでも向けられる優しさは、敵であろうとも真摯に向き合った結果でしかない。

とうとう、覇瞳皇帝(ラスボス)は攻撃の手を止めた。

 

「わかったわ…。」

 

覇瞳皇帝(カイザーインサイト)は差し出された手を取り、体を引き寄せる。そして、覇瞳皇帝(カイザーインサイト)が和解を受け入れたことに気を緩め、完全な無防備となったユウキ(岸くん)の胴体に、ネネカ(似々花)の権能で創った剣を突き刺した。

 

「ざ ま あ み な さ い ♪」

 

覇瞳皇帝(カイザーインサイト)()()()()()に体を震わせながら言い放つ。

 

「ねえ、私があなたに靡くとでも思ったのかしら。

 あなたのような無知蒙昧な愚図に媚び諂うなんて、死んでも御免だわ!

 どれだけ運命力があろうとも、情報や行動に制約をかけてしまえば、怖くなんてないのよ!」

 

その言葉とは裏腹に、覇瞳皇帝(カイザーインサイト)はずっと恐怖していた。それはなぜか?

覇瞳皇帝(カイザーインサイト)は知っていた。彼方のカルデアの輝かしき旅路と業績を。自らの行いを悪と断じて立ち上がる者が現れると、誰よりも信じていた(罪悪感を覚えていた)。故に、ユウキ(岸くん)の存在は覇瞳皇帝(カイザーインサイト)にとって想定内。だが、覇瞳皇帝(カイザーインサイト)の見立てが正しければユウキ(岸くん)は物語の主人公のように、どんなに悪い局面でも一瞬で覆すだろう。一見、完璧に思える計画でも、その綻びを見つけ出し追い詰められるに違いないと。最終的に、覇瞳皇帝(カイザーインサイト)ユウキ(岸くん)の善性を信じるという、完璧には程遠い作戦に全てを賭けた。それゆえ、秘めた内心を語ってまで、自らの改心を信じさせた。そして、分の悪い賭けは(予想通りに)成功し、覇瞳皇帝(カイザーインサイト)ユウキ(岸くん)に辛勝してしまった。勝利の決め手は、覇瞳皇帝(カイザーインサイト)の世界の全てを読み取り、未来を提示する千里眼、覇瞳天星(はどうてんせい)がその役割を完璧に発揮したことだった。

 

「私は(ラビリスタ)衛宮士郎(フェイカー)岸波ハクノ(月の王)、それに遠野志貴(殺人貴)

 どんなプリンセスナイトを送り込んでくるのかと思っていたけれど、

 よりにもよって、藤丸立香(人類最後のマスター)のレプリカだとわね…」

 

実のところ、覇瞳皇帝(カイザーインサイト)ラビリスタ(模索路晶)が寄越した刺客(ユウキ)を心の底から嫌いだとは思えなかった。なぜなら、覇瞳皇帝(カイザーインサイト)にとって、ユウキ(岸くん)は自身が嘗て求めた理想的なヒーロー像そのものだから。

しかしながら、千里真那(覇瞳皇帝)が最も望んだ存在だからこそ、ユウキ(岸くん)覇瞳皇帝(カイザーインサイト)は相容れない。主人公(岸くん)悪役(覇瞳皇帝)、その間には計り知れない溝がある。騎士(ナイト)に助けられるお姫さま(プリンセス)を夢見た子どもが、夢を叶える頃には世界を支配せんとする悪役(現実に押しつぶされた大人)になってしまった。心の奥底に封じ込めた理想(プリンセスナイト)が敵であることを、覇瞳皇帝(千里真那)はどうしても認められない。『主役は遅れてやってくる』とはよく言うが、ユウキ(岸くん)覇瞳皇帝(千里真那)を救うにはあまりにも遅すぎた。そして、騎士(ユウキ)が救いに来たお姫さま(ヒロイン)は、結局のところ、覇瞳皇帝(千里真那)ではなかった。覇瞳皇帝(ラスボス)ユウキ(主人公)を消し去ることで心を守るほかなかった。

 

「私が藤丸立香のような(運命に愛された)存在への対策を練っていないわけないじゃない。

 私がどれだけの労力をかけて、あなたを仲間と分断し、負けたフリまでしたと思っているのよ。

 嘗ての魔神王(ゲーティア)と違って、私は油断せず、不確定要素は確実に排除する。

 これで、聖杯(ミネルヴァ)は私のモノ。世界よ、私にひれ伏しなさい!」

 

覇瞳皇帝(カイザーインサイト)の嘆きとも憤りともつかない言葉と共に、ユウキ(岸くん)霊基(からだ)は砕け散った。

 


 

廊下を歩いてると、窓の外には黒い太陽が空に昇っているのが見える。もうじき、大陸で使われた核兵器が舞い上げた塵によって空は覆われてしまうだろう。未来への希望はとっくに失われた。僕たち、レジスタンスの間では、過去を変えること(レイシフトこそ)が希望になっている。

あの日、僕たちは覇瞳皇帝に敗北した。ミネルヴァを手に入れた覇瞳皇帝(千里真那)は世界中のネットワークを掌握した。僕が強制ログアウトされて、家に帰ろうとしたら燃やされていて、それで■■を失ったんだ。そのうち、現実に怪物が現れだして、怪物退治の名目で、国連は世界を統制するようになった。徹底的な管理社会、僕たちは生き残るため、自由を取り戻すため、滅びかけた世界を救うため、みんなが様々な想いをもって、レジスタンスに合流したんだ。

 

思いに耽っているうちに、僕は初音(ハツネ)ちゃんがいる部屋に着いた。そして、ロックを解除し部屋に入る。

部屋の真ん中にある筒状の水槽に脳が浮かんでいる。人間の脳だ。これでも…初音(ハツネ)ちゃんはまだ生きている。国連に超能力がバレた後、反抗的な超能力者だった初音ちゃんは逃げられないように「加工」された。人質にされた病弱だった妹の(しおり)ちゃんと引き換えに捕まって…それから、助け出した時には既にこうなっていた。

 

「おーい、初音(ハツネ)ちゃん、おはよう!」

 

『むにゃ… おはよう!』

 

「今日も元気か~?」

 

『ちょっと疲れ気味かな…? あっでも、心配しないでね! 問題ナッシングだから!!』

 

「…みんなの役に立つからといって、無理して超能力を使う必要なんてないんだぞ。

 (シオリ)ちゃんだって、そう思うy… あっ…、いや、ごめん… 今のは忘れてくれ…。」

 

『…うん、私は何も聞いてないからね~!』

 

初音(ハツネ)ちゃんといると、ついつい(シオリ)ちゃんがいる前提で話してしまう。

結局、3人でピクニックに行くって約束、守れなかったなあ… はあ…

 

『そこ、ウジウジしないの! キミがそんなんだったら、しおりん(シオリ)も天国で泣いちゃうぞ…!』

 

ナチュラルに心の声に反応するなよ…。 まあでも、初音(ハツネ)ちゃんの言う通りかもしれない。

前を向いて進めってことだよな…。

 

『うんうん。 きっと、しおりん(シオリ)も天国で喜んでるよ!』

 

(シオリ)ちゃんの扱いが雑な気がするけど、まあいいや…

 

「他の用事もあるし、一度、部屋に帰ってもいいか?」

 

『うん、じゃあね。』

 

あ、そうだ… 今のうちに聞いとくけど、レイシフトの準備ってどこまでできてるのかな?

 

『バッチシだから! 予定通り、2016年の12月23日に跳べそうだよ!

 キミが、この最低最悪の世界線を変えて(しおりんを救って)くれるって信じてるから…!』

 

ズキッ 頭が痛む… 冷たく重い身体…ねっとりと血が絡みついた髪… そうだ…思い…出した…

 

――あんたなら、こんな…最低最悪な世界を変えてくれるって信じてるわ――

 

()(レン)… 僕が殺した…幼馴染… 

mimiから流れたヒプノシス(催眠)で錯乱した咲恋(サレン)を…、僕が…ナイフでグチャリと刺して…

それから…死の間際…正気を取り戻した咲恋(サレン)の最期の言葉が…

 

オエェ…

 

『――大丈夫!?』

 

――頭を一発、制服姿のひよりが撃ち殺されて…

 


 

通報するにもmimiは恐い、僕が直接警察に出頭するべきだろう。僕は冷たくなった咲恋(サレン)をベッドに寝かせて、咲恋(サレン)の家を出た。外に出るとザアザアと雨が降っている…。

こんな日に…傘を差す気にはなれない。

辺りを見回すと、町の至るところから黒い煙が昇っていることに気づいた。

気にしてる余裕なんてない…このまま警察署に向かおう…

 

15分程歩くと、警察署に着いた。そこで僕が咲恋(サレン)のことを話すと、『辛かったね』と励まされた。仕方のないこと…らしい。警官に渡された毛布に包まれながら、飲んだコーヒーは泥の味だった。コーヒーを飲みながら盗み聞きした話によると、関東は大変なことになってるようだ。そういえば、道中で武装した警官や軍人と何回かすれ違っていたような気がする。僕は相当、気が動転してたようだ。

 

「いたいた~! ここ(警察署)先輩(騎士くん)が居るって聞いて、慌てて来ちゃったよ~!」

 

「ひより…?」

 

ひより…、心配して来てくれたんだな…

 

「あれっ? 咲恋(サレン)さんはいないんですか? 今は咲恋(サレン)さんちで居候してるんですよね…?」

 

……。

 

咲恋(サレン)は……」

 

「…! また…、なんだね…?」

 

「うん……。」

 

「そっか…」

 

ひよりは何があったのかも、僕の抱えてる複雑な気持ちも全部、察してるんだろうな…

 

「死にたい…。」

いっその事、この世から消えてしまいたい…。

「えっ…?」

 

「いや、なんでもない…。」

 

ひよりを心配させて…、何がしたいんだろう…僕は…

 

「…大丈夫じゃないよね、先輩にとって大切な人だから。

 後で幾らでも泣いたりできるから、辛いかもしれないけど…

 とにかく先輩、今は元気を出して!」

 

そうだ…みんなにも心配をかけてるし、ここでしょぼくれてるわけにはいかないよな…。

 

「…サンキュー、ひより。 おかげで少しだけ元気が出た。」

 

「椿ヶ丘高校に早く行こ! リンちゃんも待ってるよ!」

 

 

「嘘だろ…」

 

学校の校庭には人の…死体が無造作に転がっている。

校舎も窓が割れ、穴だらけになって燃えていた。

 

「大丈夫…! きっとみんな無事だよ!」

 

ひよりの顔色が悪い。 空元気ってやつだ。

 

「無理はするなよ…? 辛いなら辛いって言ってもいいんだぜ…」

 

子どもの鞄から、mimiの着信音が鳴った。

 

洗脳された警官が僕に銃を向ける… う、動けない…!

 

「――危ない!!」

 

ひよりに庇われ、僕は地面に倒れ込み…思わず目を瞑る。

 

パンッ!

 

警官の方から銃声が一発鳴った。続いて、バンバンと別の方向から別の銃声が鳴る。

恐る恐る目を開けると…、警官と…ひよりが倒れていた…。

 

赤く染まった水たまりの上に、頭を横から貫かれたひよりがいた。

ひよりの、黒く、黒く、塗りつぶされた茶色い目が曇った空を見つめていた。

ひよりは、とっくに…死んでいた…。

 


 

「…怜ちゃんなら自宅に軟禁されてるよ。

 大物政治家の令嬢だから、殺されることはないと思う。」

 

お姉ちゃん(ヨリ)が… お姉ちゃん(ヨリ)が…! わ、私をか、庇って…!」

 


 

目が覚めると僕はベッドにいた。

どうしてここにいるんだろ…?

 

…そうだ。 初音ちゃんと話してたんだ。 何を話してたんだっけ…

 

「あらあら…」

 

…!? こ、この声は…

 

「え、恵理子(エリコ)…! ど、どうしてここに…」 

 

「貴方様の健康管理は私の仕事。 愛するお方が倒れたとあれば駆けつけるのは当然です。」

 

…? …。 釈然としない…。

 

「…ありがとう。 で、どんな薬をキメさせるつもりだ?」

 

正直、恵理子(エリコ)は苦手だ。とにかく愛が重いし、ことあるごとにヤバメの薬を盛ってくる。

特に僕の使用済みTシャツを僕の等身大人形に着せて楽しんでると聞いたときは心底引いた。

まあ…子どもにはめっぽう優しいし、そういう愛嬌のある一面もあるから、嫌いにはなれない。

 

「クスクスクス…どういたしまして。 あと、()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

それって、意識のない間に僕に何かしてたってことで… …ヤバいよな?

 

「一体ナニを盛ったのかな? 僕、気になるんだけど…、教えてくれないかな?」

 

「ふふっ♪」

 

怖っ!

 

「『ふふっ♪』じゃないよ…!? 僕が寝てる間にナニしてたの!? ねえ!?」

 

「冗談ですわ。」

 

恵理子(エリコ)が言うと、冗談に聞こえないから… …本当に何もしてないよね!?」

 

「私、用事があるのでお暇させてもらいますわ。」

 

あっ、逃げた。

 

 

…このルービックキューブ難しいな。 絵柄の向きがなかなか揃わない。

…。 扉の方からコツコツっと音がした。 誰だろ?

開いた扉から、阿賀斗(ゼーン)さんが出てきた。

 

「倒れたと聞いて来たが、大丈夫か?」

 

阿賀斗(ゼーン)さんは、ここ(レジスタンス)のリーダーだ。

こうなる前は将棋の棋士だったらしく、度々テレビでニュースになってたらしい。

国民的アイドルの(ノゾミ)を知らなかったことといい、僕は流行や時事に疎いので当然知らなかった。

よくよく考えてみれば、鈴奈(スズナ)も有名なモデルだったり…、僕の交友関係バグってるよな…!?

そういや阿賀斗(ゼーン)さんも、僕と一度だけ会ったことがあるって言ってたけど、いつだっけ?

 

「ええ、大丈夫です。 阿賀斗(ゼーン)さんこそ、こんなところにいて大丈夫なんですか?」

 

晶が捕まってから、ずっと忙しいよな。

 

「お前が一番の懸念事項だ、問題ない。

 何度も言うが、こちら側(レジスタンス)レイシフト(タイムリープ)適正が100%と最も高く、

 過去改変によって千里真那の野望を阻止できる立ち位置にいるのはお前だけだ。」

 

ピロロッっと阿賀斗(ゼーン)さんのポケットから音がする。

阿賀斗(ゼーン)さんはおもむろに携帯電話(mimiが出回る前の旧式のやつ)を取り出して会話しだした。

 

「なんだ…? 始まったか…。」

 

とうとう国連軍にこの場所が見つかったのか…。

 

「…ああ すぐ準備をしてくれ。 どんな手段を使ってでも守りきれ。」

 

「もう時間がないようだな。 予定を繰り上げて、直ちにレイシフト(疑似霊子変換投射)を実行することになった。

 レイシフトルームに向かいながら話す、準備しろ。」

 

「お前にはコフィン(タイムリープマシン)という棺の形状をした装置に入って、過去に行ってもらう。

 レイシフト(疑似霊子変換投射)の手順だが、お前を霊子化し、MAMを通して柏崎初音が(千里眼によって)観測した時代に出力する。

 そして、コフィン(タイムリープマシン)は中に入った人間の生命活動を、量子力学的な重ね合わせ状態とし、

 演算により因果律を補正することで、世界の修正力による消滅、すなわち意味消失を回避する。

 ここまで分かったか?」

 

あ…うん…

 

「…まあいい、続けるぞ。

 お前が過去に戻った時点で、この世界線は再構成される。

 その時点で、この時代における存在証明は不可能となり、お前は意味消失(死亡)するだろう。

 だが、記憶と知識だけは、幼いお前に統合され残るはずだ。

 覚悟はできているな?」

 

「当然だ!」

 

何重ものロックを解除して、レイシフトルームへの扉を開けるとあかりが待っていた。

 

「お兄ちゃん! 早くコフィン(タイムリープマシン)に入って! すぐそこまで合成人間(レアリアン)の部隊が迫ってる!」

 

合成人間(レアリアン)…国連が()()している超能力を持つ兵士。僕の仲間はみんな合成人間(レアリアン)に殺された。

みんなの命を、献身を…、絶対に無駄にはしない。

 

コフィンに入ると、あかりが両手で包み込むように手を握ってきた。

 

「お兄ちゃん…本当にいいの…?」

 

…。

 

「安心しろ。 絶対に誰も死なない世界に辿り着いてみせるからな。」

 

「違う! 私はお兄ちゃんに死んでほしくないの!」

 

…。 そっか…そうだよな。 僕だって本当は死にたくないさ。 でも…

 

「それは無理だ。 あかりだって、理解ってる(わかってる)だろ。 これしか方法はないんだ!」

 

「だったら…、お姉ちゃん(ヨリ)たちを自己犠牲の言い訳にしないでよ!

 みんなみんな、私だってお兄ちゃんが好きだった! そんなこと望むわけないじゃない!」

 

…。

 

「ああ、結局は僕の自己満足でしかない。

 でも、僕は死んでいったみんなの想いに応えたいんだ!」

 

「ひどいよ、お兄ちゃん! そんなの(レイシフト)が『みんなの想い』なワケないって、理解ってる(わかってる)クセに!」

 

ああ…理解ってる(わかってる)さ。 でもな、僕は諦めが悪いんだ。

 

「…! お兄ちゃんのバカ!アホ!オタンコナス!」

 

「強気なところは双子らしく、よりにそっくりだな…」

 

最近、よりにますます似てきてるような…

 

「じゃあな、あかり…」

 

「お兄ちゃん!」

 

 

聞いてるか?

 

「初音ちゃん、始めてくれ。」

 

『うん…分かった。 さよなら、ユウキ君。 ――キミのこと、スキだったよ。』

 


 

幼い男の子が目をこすりながら起き上がる。

 

「おはよう、ママ。」

 

「おはよう。 今日もうなされてたけど大丈夫…?」

 

「うん… また、いやなゆめをみたんだ。 ぼくがいるとね…、みんないなくなるの。」

 

「どうしたの、ママ?」

 

「約束するわ。 ママはいなくならないからね…」

 





内調の採用パンフレット見たけど、ネネカって内調向けの人材じゃないよね…

ペコリーヌの出身だけど描写を見るにルーマニアやウクライナ辺りではないかと思ってたり…

プリコネは2032年に登場したゲームを一年ちょっとした後に主人公が遊び始めたので2033年が舞台のお話です。
ちなみにこの二次ではFate/EXTRAの時代設定である2032年に合わせています。

*設定ミスがあったので変更しました
原文「椿ヶ丘高校に早く行こ! ユイちゃんも待ってるよ!」

今後の展開の参考にします。 下に行くほど理解不能になるので注意!

  • プリコネルート
  • 多重クロスルート
  • 闇鍋ルート(勝手に戦えルート)

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