間話1 文化祭の三日目
学園祭三日目はY.G.国際学園。
この学校の中で一番大きなステージである体育館舞台の裏で、ロッティとディアが衣装姿のラクシャータさんを見てぱちぱちと拍手をしていた。
「えっちダ……」
「すごいえっち」
「これは民族衣装をアレンジしたものでですね……」
「デモ、民族衣装ってえっちだよネ」
「わかりみマリアナ海溝」
全民族に謝れ。出演直前になってもアホらしい会話をするAlpheccaたちにツッコむ。
「ジェニファーちゃん、今日はよろしくね」
「ええ。スクールアイドルは日本人だけじゃないってわからせてあげましょ」
対して、エマとジェニファーさんは静かに奮起していた。
このY.G.国際でのステージ、エマとAlpheccaを連れてきたのは、国内外に対して、外国の人でもスクールアイドルやれるんだぞってところを見せつけるためだ。そうすることで、もっと世界的にスクールアイドルが流行していってくれたら嬉しい。
当の本人たちも、後進が増えるなら、とやる気満々で挑む気でいる。
その意気込み通り、彼女たちが共にするパフォーマンスは、思わず笑みがこぼれてしまうほどの出来だった。
彼女たちにしか出せない国柄と、日本のアイドル像を混ぜたスクールアイドルの新しい境地。
もちろん今までのスクールアイドルにだって外国人はいて、個人のキャラとしてそれを前面に押し出すようなのはいたけれど、グループで活動するうえでは、大多数の日本人に合わせるのが普通。
それが、このステージはどうだ。様々な言語の歌が流れ、国際色豊かでありながら、アイドルという像を決して崩してはいない。お客さんたちも乗りに乗っている。
エマとY.G.の情熱的なコラボも、Alpheccaのクールな単独ライブも、どちらも映える。
音楽は国境を越えると言うが、まさにその通りだった。
僕だって発音や意味なんて分からないけれど、この歌や踊りが素晴らしいってことは分かる。とりあえずは、それだけでもいいんじゃないかな。
ステージが終わってしばらく休憩の時間となっても、僕の頭には先ほどのが強く残っていた。
外国人だけで組ませるのも面白そうだな。エマとロッティ、ディアに……ランジュも加えたら見ごたえのあるユニットが出来上がるだろう。
そのランジュは、こういった合同のステージに興味を示してくれなかったけれど。
「あ、ミナト」
体育館から出て一息ついているところで、名前を呼ぶ声に顔を上げる。ディアがこちらを指差していた。傍らには璃奈とロッティがいて、そのロッティはこちらへダッシュで──
「
「!」
今にも激突しそうだった彼女が、はっと急ブレーキして止まる。危ない危ない。去年仕込んでおいてよかった。
「イマ、リナと色々見てルんダ! ミナトも一緒にドウ?」
タックルしてくる代わりに、腕を持ってぶんぶんと振ってくる。さっきパフォーマンスし終えたばかりなのに元気すぎやしないか。
「お兄ちゃん、来てほしい」
「わたしも」
くいくいと、両側から袖を引っ張られる。
可愛い妹と妹同然の子たちのお願いだ。僕が断るはずもなく、四人で回ることにする。
「最近忙しかったから、家以外でお兄ちゃんと一緒なの、久しぶり」
第二回スクールアイドルフェスティバルの準備が本格化してから、僕は打ち合わせなどであっちへ、璃奈は練習や企画でこっちへ、というように校内では入れ違いになることが多かった。
その間、同級生やエマたちに可愛がられているという話は聞いていたが……
「ごめん、寂しい思いさせて」
元より会えないなら諦めもつくだろうが、会えるはずなのに会えないというのは心にくる。
帰ったらお互いいるんだけど、同好会に入ってから学校でも一緒になったから、共にいられない時間が余計に印象づいてしまうみたいだ。
いい加減、妹離れしないとなんてずっと思ってるのに、まだまだ無理のようだ。
「ミナトミナト! ワタシもいっぱい寂しかっタ!」
「わたしも、たくさん」
「はいはい。今日は使える時間、全部君たちに使うよ」
「ヤッター!」
「璃奈ちゃんボード『わくわく』」
ま、この子たちから離れてこない限りは、このままでもいいんじゃないかな、とか思ってしまうのであった。
△
「で、その時のミナトとは学校が違うかったから、休日に連れ回してた」
「パパがネ、息子が出来たみたいダーってイチバンはりきってタ!」
「そうなんだ。もっと聞かせて」
「次はリナの番」
三人を引き連れていると、ターン制で話題を振り合う三人の声が耳に入ってくる。
どうやら僕のことについて話をしているらしい。ロッティとディアは留学中のことを、璃奈はそれ以外の時のことを。
「それは直接僕に訊けばいいんじゃないのか」
「ミナトが自分の話するトキ、その内容信用ならないカラ」
「彼方さんが寝ないっていうくらい信用できない」
「言い得て妙」
そりゃ面白おかしくなことは言えないけど……そんなに言われるほど?
「それに、お兄ちゃん、
「カワイイ妹がいるッテ、毎日ジマンしてタ」
「実物はそれよりもっと可愛い」
あたぼうよ。璃奈は言葉で言い尽くせないほど可愛いんだ。世界の真理。
「私も二人のことは聞いてた。手間のかかる妹みたいだって」
「褒めてル?」
「お兄ちゃんにとっては、最大級の褒め言葉だと思う」
「ならヨシ!」
「ふふん」
誰に勝ち誇っているのか分からないが、満足げだからいいか。
「どこ行こうか」
事前に貰っていたマップを手にしながら、校内を進んでいく。
国際学園だけあって、結構バラエティ豊かな出し物が揃っている。定番のお化け屋敷とかもあって、全部回りきるには一日使って走り回るくらいが必要だ。
それぞれの部が店を出していたりもする。そこかしこで演奏している軽音楽部はじめ、野球部はストラックアウトだとか、クイズ研究会がクイズ大会を開いたり。
そういえば、海外だとこういった部活というシステム自体があったりなかったりするんだっけ。部というものがそもそもなかったり、入れる人数が決まっていたり、シーズンごとで部を変えたり。
スクールアイドルが認知されてても、海外であまりいないのはそういうのが関係しているのかも、と前にも考えたことがある。誰か一回調査してまとめてくれないかな。
「あ、ロッティ、焼きそばある」
「行こウ行こウ!」
二人とも店を見つけるなり、脱兎のごとく駆けていく。
そこは教室の中に大きな鉄板を設置していて、そこで焼いたのを提供しているようだ。中々盛況で、まだ午前中なのにちょっとした列が出来ている。
最後尾に並んだ僕も、漂ってくるいい匂いにお腹が空いてきた。
「焼きそば好きなの?」
「ブンカサイと言えばヤキソバタコヤキ! 今マデのモ食べ比べしてるんダ!」
もはや伝統とも呼べるレベルだが、外国人からしたら物珍しいものだ。それゆえの行動なのかもしれない。どうあれ、気に入ってくれているようでなによりだ。
少し経って番が回ってきて、一人前を頼んだ天王寺家とは異なり、両手いっぱいに袋を引っ提げて戻ってきた二人へ、璃奈が目を丸くした。
「よく食べるね」
「ご飯は元気の源」
「イッパイ食べないト、大きクなれないヨ!」
リーデル姉妹は本当によく食べる。僕の何倍やねんってくらい食べる。
それでもこれだけスリムなプロポーションを保てているのは、彼女たちの運動量が凄まじいからだ。いや逆か。運動量が凄いから、これだけのエネルギーを必要としているのか。
「エマさんや果林さんみたいになれるかな」
「エマは絶対自然の力を吸い取ってる」
「ネ、あれはサスガに無理カナ~」
身長高いんだよな、エマも果林も。百六十六センチと百六十七だったっけ。
天王寺家は全体的に身長低い。親族大体平均以下だったような気がする。肉も付きにくくて細いのは、女の子からしたら羨ましい遺伝子なのだろう。男からしたらちょっと嫌だけど。
「ミナトもエマくらいのが好き?」
「大きくても小さくても、それぞれに良いところがあるから一概には──」
「ミナト・ザ・エッチ」
「なんでさ」
身長が低かろうが高かろうが、スクールアイドルとしてはどちらでも強みがあって、女性としてもどちらも魅力あるだろうが。
僕がツッコむのよりも早く、彼女たちはこそこそと話しはじめた。
「ミナト、シスコンだかラちっちゃいのが好きなんじゃなイ?」
「ううん。お兄ちゃんはああ見えて、大きければ大きいほどいいってタイプ」
「大盛りの三年生が有利」
謂れなき悪口を言われてる気がする。
女三人での聞こえる内緒話が数秒。何かしらの答えが出たようで、ロッティが手を挙げた。
「結論言いマス!」
「はい」
「どぅるるるるるるるるる……」
ディアがやたらと上手いドラムロール風の音を口から発する。
でん!
「お兄ちゃん、健全」
「おめでトウ!」
「勝訴」
…………
なんだか分からないけど、楽しそうだからヨシ!