天王寺湊は虹を駆ける【完結】   作:ジマリス

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間話2 恋バナ

「湊くんってどんなタイプが好き?」

「草タイプ」

「今はゲームの話してません」

 

 しずくの家に泊まることとなった夜。

 大部屋に布団が敷かれ、僕もその中で寝ないといけない罠にかけられた。

 結局、観念して端っこですぐさま寝ようとしたのも遮られ、僕は彼女たちと輪になって寝る前のトークに混ぜられてしまった。

 

 そしてかすみが、

 

「恋バナですよ恋バナ! 夜寝る前といったら恋バナと相場が決まってるんです!」

 

 と言い始めたのだ。それって、僕いないほうがいいのでは? 眠たいから寝ていい?

 

「そーいえば、みーくんの好みって知らないなあ」

「どんな人が好きなの?」

「え、うーん……」

 

 何気に興味津々なのね、君たち。

 

 半分寝かけの頭を動かして、顎に手を当てて考えてみる。

 自分の好みについて、深堀りしたことないな……小学生の時も、中学生の時も恋愛に目を向けられるほど余裕があったわけでもないし、例がない。

 

 例えば容姿。

 髪が長いだとか短いだとか、スリムだとかふくよかだとか、足が長いだと目がぱっちりしてるだの……その人にとって似合うのが一番では、みたいな結論に落ち着く。

 

「じゃあ、同好会で言えば誰?」

「それいっちばん答えづらいやつね。ハラスメント一歩手前」

「いいからいいから」

 

 よくないだろ。答えたら気まずくなっちゃうだろ。

 まずいな。この話題だと追い詰められていく気がする。止める人いないし。

 

「僕だけなのは不公平だ。君たちは?」

 

 逸らして、彼女たちに話を向ける。

 女の子ならきっと恥ずかしがって答えるのに時間がかかるか、答えられないかだろう。ここで時間稼ぎをしてやる。

 

「困ってる人に手を差し伸べる人でしょうか」

「優しい人ですっ」

「みんなのために頑張ってくれる人かなー」

「ランジュに根気強くついてこれる人ね!」

 

 即答でした。

 

「え、そんなすらすら出てくるのが普通なの?」

 

 乙女はそんなに恋バナに飢えてるの?

 

「ちなみに私は、みなさんのことも私のこともちゃんと見ていて、演劇のことも手伝ってくれたりして、頼もしい年上の男の人が好きです」

「いやに具体的だね、しずくは」

「むむう」

 

 彼女は頬を膨らませる。なんでいきなり不機嫌になるのさ。恋バナ楽しいんじゃないのか。

 

「見てなさい、しずくちゃん。湊くんにはこれくらいやらなきゃいけないのよ」

 

 ふふ、と何か企んでいそうな果林に嫌な予感を覚えつつ、顔をじっと見てくる彼女を見る。

 果林は柔和な笑みを向けてきた。

 

「私の好みは、湊くんみたいな人」

「趣味悪……」

「しずくちゃん、笑ってちょうだい。これが自信満々に挑んで負けた女の姿よ」

「か、果林さんがこんなに落ち込んでるの初めて見ました……」

「これもうダーメだ。鈍感通り越して神経死んでるんじゃない?」

 

 失敬な。背中とか結構敏感だぞ。

 

「で、ここまで言わせたんだから、湊の好みも教えてもらえるのよね?」

 

 ランジュまで身を乗り出してきた。栞子とミアも何か期待するような眼差しを向けてくる。

 

「好み、好みかあ……」

「ミナト、目を閉じて、理想の女の子を思い浮かべて」

「うーん……」

 

 …………

 

「あれ、これ寝てる?」

「もうちょっと起きてたら催眠かけられたのに」

「起きろー」

 

 彼方にゆさゆさと揺られ、まどろみかけたところを引き上げられる。

 

「……なんだっけ。なんの話?」

「むむむ、気になるところをはぐらかすなんて、策士ですねえ」

「湊さんはそういうの考えてないと思うよ」

 

 歩夢が苦笑した。

 

「罪な男だねえ、湊くんは」

「最初は頼りなさそうに見えて、でも一緒にいると一番に頼りになるの、本当に悪質だと思います」

「こうやって隙があるのもね。湊さんってどれだけの女の子引っかけてきたんですか?」

「言い方悪いぞ、三人とも」

 

 彼方、しずく、侑へそれぞれ指差す。

 引っかけたことなんてありません。ゼロです、ゼロ。

 

「でもホントに、湊の周りには女子が多いよね。この同好会だってそうだし、クラスもそうだし」

「そもそも虹ヶ咲に女子が多いからだよ」

「え~、本当ですかあ?」

 

 スクールアイドル同好会は顕著すぎるけど、他の部だって女子比率が多い。どこを見たって、『こいつの周り、女子しかいない』状況になるのは珍しくないのだ。

 

「かすみんたちが知ってるより、多くの女の子がやられているのかもしれませんね」

「能ある鷹は爪を隠すって言うものね」

 

 復活した果林が、非難するように見てくる。

 

「御大層な爪なんか持ってないよ」

「そうね。あなたのは牙だもの。毒牙よ、毒牙」

「それも依存性のある毒牙だよね~」

「今日のこれは僕を追い詰める会だったっけ?」

 

 寝るまで一緒にお話しようって言われたんですけど。新型トラップ?

 

「あのね、何度でも言うけど、僕はそんな良い男でも悪い男でもないよ。ただのどこにでもいる男」

「ミナト、説得力皆無」

「ラノベやアニメだと、大抵そう言う人は普通じゃないんですよ」

「湊さん……」

 

 栞子にまで呆れられた感じで見られるのが一番ショックかも。

 いやいや音楽については、結構良いものを持ってるって自覚はしてるよ。

 だけどほら、見てみてよ。大して筋肉のない、身長も並み以下の体。音楽以外の成績は飛び抜けていいわけでもない。

 ね?

 

「あ、みーくん『ほら、自分に魅力ないでしょ』って顔してる」

「お兄ちゃんはずーーーーーーーーっとそういう顔」

「そういうことでいいよ、もう」

 

 ふああ、とあくびが出る。本格的に眠くなってきたかも。瞼も落ちてきた。いやとっくに落ちてる。

 

「湊くん、大丈夫?」

「ん……ギリギリ……」

「まだ元気だって」

 

 言ってない。

 

「誰かと付き合ってるかと思ってタケド、この鈍感力と周りの牽制で拮抗が保たれてルんダネ」

「なるほど、そうなのね。ランジュも不思議に思ってたのよ」

「実はボクも」

「でもどんどんライバルが増えるから、早く決めにかかったほうがいいと思う。ね、ミナト」

「ん? うん……」

 

 話が半分以上脳みそに留まってくれない。なんて言ったんだ?

 

「眠たそう」

「あはは、湊さん、いつも頑張ってくれてるから疲れてるのかな」

「毎日遅くまで曲作ったり、練習メニュー考えたり、スクールアイドルの流行調べたりしてる」

 

 ほとんど目を閉じて、うつらうつらと船を漕ぎ始めていると、エマがつんつんと頬をつついてきた。

 

「湊くーん、もう寝ちゃう?」

「いや全然、全然まだ食べられる」

「だめっぽいね」

 

 だめです。

 

「湊くんのこんな顔、始めて見るかも」

「普段から、眠たそうな気配すらあんまり見せないもんね」

「君のこと狙ってる女の子の前で、無防備すぎだぞ~、このこの」

 

 今度は肩を突かれた。

 

「え、湊先輩の前で言うんですか、それ?」

「大丈夫大丈夫、聞こえてないわよ。そうよね、湊くん」

「八辛でお願いします……」

 

 誰が喋ってるかは薄く開いた瞼の間から見える。でも何喋ってるんだろう。楽しそう。

 僕が参加してなくて楽しいなら、もうこのままフェードアウトしていいかな。

 

「湊のこと好きな人って、今で何人いるの?」

「一、二、三……アレ、両手の指じゃ足らなくなっちゃっタ」

「分かりづらい人もいるよね。すごく仲が良いけど、何とも思ってなさそうな人とか」

「でも、まあ……」

「うん……」

「人たらしだよねえ」

 

 僕をつっつく手が増えた。

 

「もうそういうフェロモンとか出てるんじゃないの?」

「一回調べてもらったほうがいいんじゃない」

「マジで出てたりして」

「諸説ありますが、フェロモンは脇の下や首から出ているみたいです」

「湊くん、失礼しま~す」

 

 何か、良い匂いが鼻をくすぐった。

 なんだこれ。石鹸? ボディソープ? シャンプー? とにかくそんな、くらくらとしてしまうような良い匂いが……

 

「くんくん」

「ん、んん、んうおっ」

 

 首筋に何かが当てられた。エマだった。彼女の顔が思いっきり僕に密着してる。

 

「あ、こら、エマ。嗅ぐんじゃない」

 

 首に鼻を当てて、めちゃめちゃ嗅いでる。そのせいで完全に目が覚めてしまった。

 

「エマさん、どう?」

「くんくん」

「え、なに、何してんの? ちょっと、力つよっ……」

 

 僕がちょっと寝てる間に何があったの? ねえ、引き剥がそうとしても余計にくっついてくるんだけど。

 あ、ちょい、嗅ぎながら抱き着いてくるのは反則だろ。レッドカード、レッドカード!

 

「湊くん、いい匂い……」

「捕食されてる……」

「わ、わあ」

「ごくり」

「見てないで助けて!」

 

 他に十何人もいるはずのなのに、みんな顔を赤くして様子を窺っている。

 いや早く手を貸して! こんなにくっつかれた状態だと、僕一人じゃどうにも出来ない!

 

「湊くん……っ、湊くんっ」

「エマ、ほんとに、これ以上は……」

「ああっ、エマさんが押し倒そうとしてる!」

「エマさん、それはまずいです!」

「エマ、エマ! 一回離して一回離して!」

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