天王寺湊は虹を駆ける【完結】   作:ジマリス

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間話4 ハロウィン

「ハッピーハロウィーン!」

 

 十月三十一日と言えば何ですか。そう、ハロウィンである。

 虹ヶ咲の中でそれに乗っかる部も少なくなく、洋菓子同好会はカボチャを使ったクッキーやらケーキやらを作り、服飾同好会は校内を変わった格好で闊歩したり。

 そんな中、個人ではっちゃける人もいないわけではないが……

 

「わー、可愛い! 撮らせて撮らせて!」

「フフーン!」

「イタズラしちゃうぞー」

「きゃー、お菓子あげるから許してー」

 

 休み時間の我が三年生音楽科クラスに襲来したのは、魔女の恰好をしたロッティとディア。その黒いドレスもとんがり帽子もどこで用意してきたんだか。

 ノリのいい生徒たちはむしろ彼女たちに群がっていき、これでもかというくらいお菓子を渡している。

 最終的には、お菓子をあげたらツーショットを撮らせてくれる会になってた。もう趣旨違ってきてるじゃないか。

 

「ミナト~!」

 

 抱えるくらいの量のお菓子を手に入れた二人は、満足顔でこっちにやってきた。

 

「ミアは?」

「どっか行ってる」

「ムム、イタズラしよウと思ったのニ」

 

 そっちメインなのね。

 

「これ、どう?」

「いい生地っぽそう」

「服飾同好会から借りた」

 

 どうやら服飾同好会にもAlpheccaファンがいるようで、衣装選びから小物合わせまでノリノリでやってくれたらしい。

 色々とお世話になってます、ほんとに。

 

「そんナことヨリ、ミナト、トリックオアトリート!」

「それだけ持ってて、まだいるの?」

 

 誰かから貰ったビニール袋パンパンにして、この欲しがりさんめ。

 

「はい、クッキー」

 

 今日のために持ってきた紙袋から、小さな透明の袋を渡してやると、おお、と目を輝かせた。

 

「用意してるなんて、さすがミナト」

「ゴホービにイタズラしてあげル!」

「ハロウィン調べてこい」

 

 

 

 

「みーくん、トリックオアトリート!」

 

 放課後、部室へ行く途中、ぱたぱたとこちらに向かってきたのは愛だ。

 こらこら、走らない。

 

「お菓子くれなきゃイタズラするぞー!」

「あるよ」

「あるんだ……」

 

 露骨にテンション下がるのなんでなん? イタズラしたかったの?

 双子に渡したのと同じ、袋に入れたクッキーを渡すと、

 

「ありがとっ」

 

 ぱっと満面の笑みを浮かべて、愛は中を開けて食べ始めた。

 一つの袋につき、ほんの三、四個しか入ってないのですぐ食べ終わり、満ち満ちた表情を向けてくる。

 

「これ美味しいね。どこで買ったの?」

「手作り」

「うえっ!? みーくんの!?」

 

 僕は頷いた。

 クッキーってあんなに砂糖使うんだ……思わずレシピ五度見しちゃった。

 

「もー、それなら早く言ってよ! もっと味わって食べたのにー」

「また作ってくるよ」

 

 ほんと!? と顔を寄せてくる彼女を押しのけて約束する。

 言うほど簡単じゃないけど、そんなに喜んでくれるなら何度だって作ってやろうじゃないか。

 

「クッキー作ってきたの、ハロウィン用?」

「璃奈が、お菓子用意しておいたほうがいいって言うから。前から興味あったお菓子にチャレンジのついで」

「あー」

 

 今日はもう一生分の『イタズラしてやるぞ』を聞いたよ。

 そのたびにクッキーを渡して、ちょっと不満げな顔をされた。そんなにイタズラしたいのか、みんな。

 

「多めに作ってきたのに、配りきるとはね。君のが最後」

「あと一人分待てば、みーくんにイタズラ出来たのか……でも手作りクッキーも捨てがたいしなー」

 

 むむむ、と愛は唸りだす。

 

「ちなみに、イタズラってなにするつもりだったの」

「え、そんな、みーくんのエッチ」

「これ以上聞かないからイタズラしないでくれよ」

 

 本当に何するつもりだったんだ。こわ……

 この子、パーソナルスペースが狭いせいでスキンシップ激しめだから、こういう口実があったら余計に……いや、いいや考えなくて。回避出来たんだし。

 お菓子作ってこなかったら僕は今日まともさを保ってられただろうかと少し冷や汗を流しながら、部室の扉を開ける。

 

「トリックオアトリート!」

 

 ドアを開けた僕たちを迎えたのは、璃奈とミア。

 我が妹は制服の上からマントを着けているだけだけど、外地が黒で、中が赤ってだけで吸血鬼のコスプレって分かるもんなんだね。

 ミアはもふもふのつけ耳。狼……かな、これは。暖かそうな獣手もグッド。がお、と襲いかかってくるような手をして、どうだ驚いたかと自慢げな顔をしていた。

 

「みーくん、りなりーとミアち持ち帰っていい?」

「いいや、僕が持ち帰る」

「二人とも目がマジなんだよな」

 

 恐怖演出のためか部室の光を遮っていてもホラー感は一切ないが、逆に可愛い感は詰まってる。かすみがみたら嫉妬するんじゃないか。

 へへ、この中の一人、うちの妹なんすよ。

 

「参ったな。さっきのでお菓子なくなっちゃった」

「放課後になれば、お兄ちゃんの手持ちがなくなることは予測済み」

 

 賢い。

 

「お兄ちゃん、覚悟」

 

 璃奈はそう言うと、僕のほうへ寄ってきて、指を掴んでくる。

 何をする気なんだろうと眺めていると、彼女は僕の人差し指に口を当て、甘噛みしはじめた。

 

「これでお兄ちゃんは私のことを撫でたくなるウイルスに感染した」

 

 なんだって。そんな恐ろしいウイルスに罹ってしまったのか。あ、本当だ。手が勝手に動いて、璃奈の頭を撫でてしまう。よしよし。

 

「うー、やっぱみーくんには勝てないか。じゃー、ミアちは愛さんのものだーっ」

「ちょ、Wait! イタズラするのはボクのほうだろ!」

「攻防がめまぐるしく入れ替わるのが日本のハロウィンなんだよ」

「適当なこと言うなっ!」

 

 

 

 

「くくく、さあ勇者セツナよ、闇の眷属であるこのヴァンパイアクイーン・シズクを倒してみよ!」

「た、助けて、勇者セツナ!」

「待っててください、アユム姫! この世界の闇は私が払いますっ!」

 

 ミアにひたすら可愛がりをする愛を置いて、璃奈と一緒に外へ出ると、風に乗って響く声が聞こえてきた。

 特に行く当てもなかった僕たちがそこへ──中庭へ向かうと、なんと制服姿ではないA・ZU・NAが勢ぞろいしていた。

 

「せつ菜ちゃん、かっこい~!」

 

 黄色い声を発しながら、その様子を撮影しているのは侑。

 持ち運びできるグリーンバックまで用意しちゃってまあ。

 

「カット!」

 

 桜坂監督のカットがかかり、一旦撮影が止まる。

 一息つく演者をよそに撮った映像をチェックする侑は、いつになく楽しそうな顔だった。

 満足そうに頷く彼女へ、声をかけてみる。

 

「撮影は順調?」

「うん。後は編集して、今日中にアップするつもりだよ」

「こういうのって事前にやって準備しておくものじゃないのか」

「だって三人が急にやりたいって言うから」

 

 せっかくの季節イベントなんだから、とA・ZU・NAは即興演劇の動画を撮ることにしたらしい。

 基本的な流れはしずくが作り、せつ菜が乗って、歩夢がついていく形。彼女らはイメージを共有するためにこういうのも練習に取り入れていて、時々演劇してるのを見かける。

 で、そのいつもの練習を本格化させたのが、今回だ。

 黒スーツに身を包んだしずくに、軽装鎧を纏ったせつ菜、いかにもお姫様ドレスの歩夢。ハロウィンの一イベントにしては手が凝ってる。台本まであるみたいだし。

 

「せつ菜、似合ってるね」

「そ、そうですか?」

「うん。いかにも勇者って感じがして、かっこいいよ」

 

 普段の衣装とは違って、ファンタジー的な要素なのが良い。こういう路線もいけるなら、同好会みんなを巻き込んで演劇動画を作るのもよさそう。

 

「璃奈ちゃん、かわいー!」

「てれてれ」

「むう、侑先輩、私も吸血鬼ですよ」

 

 しずくも、第二回スクールアイドルフェスティバルの告知動画を作った時のスーツをびしっと着こなしている。

 みんなのスーツ姿って結構人気だったんだよな。あの時は個別でポーズ取って撮影なんてしてる暇なかったから、今度やってみるのもいいかも。Alpheccaにランジュたちも増えたことだし。

 ハロウィン侮りがたいな。今日だけでこんなに刺激を貰えるなんて。

 

「……って、なんで璃奈ちゃんのこと撫でてるの?」

「璃奈に噛まれてこうなった」

「ウイルス感染させた」

「???」

 

 説明しても分かりづらいだろうから、体験してもらうのが一番だ。

 璃奈、歩夢へ攻撃。

 

「歩夢さん、撫でて?」

「うっ」

 

 璃奈のお願いには抗えず、歩夢も優しく璃奈の頭に手を置いた。

 

「湊さんがあんなに璃奈ちゃんのこと可愛がるの、分かる気がします……」

 

 そうだろうそうだろう。よく分かってるじゃないか。これで君も璃奈のこと撫でたくなる病だ。僕の時と感染のさせ方違うけど。

 

「あ!」

 

 おっと、この大きな声は……

 振り返ると、思った通りランジュだ。たったったと駆けてきて、みるみるうちに近づいてくる。

 あと一歩でぶつかる……というところで止まった彼女は、何か期待するような目で僕を見た。

 

「湊、聞いたわよ。あなたからクッキー貰えるって!」

「ランジュ、校内を走ってはいけませんよ」

 

 歩いて追いついてきた栞子が注意するが、ランジュは意に介さないというふうだ。

 

 僕のクッキー、どこまで噂が広がってるんだか。二年生にも何人かあげたけど、誰が犯人かな。

 

「残念ながら、配り終わってもう手元にないよ」

「えーっ」

「そんな残念がることもないだろうに。ランジュが一声かければ高級クッキー詰め合わせが手元に届くくらいお金持ちじゃないか」

「そうだけど、それでも湊のクッキーは手に入らないでしょ?」

 

 いや、愛にも言ったけど、言ってくれれば別に作るのはやぶさかじゃないよ。

 いつもは作る気がないのと、他の人が作ったほうが美味しいってだけ。あれ、じゃあランジュも他の人に作ってもらったほうが良いのでは。

 

「栞子ちゃん、お兄ちゃんにイタズラする?」

「えっ」

 

 えっ。

 僕がランジュとやりとりしてる間に、璃奈がとんでもないこと言い出した。

 

「今ならお兄ちゃんにイタズラし放題。どこにどれだけ触っても許される」

「ど、どこに、どれだけでも……」

「栞子ちゃんは普段から頑張ってるけどわがまま言わないから、今日くらいお兄ちゃんは許してくれる」

 

 どんどん断りづらくしてくるじゃん。

 

「い、いいですか、湊さん?」

「イタズラするのに許可得てくるの初めて見た」

「やっちゃえ、栞子ちゃん」

「み、湊さん……失礼します」

 

 一世一代という感じで、僕の手を掴んでくる。かと思うと、握ったり、指を擦りつけるようにして撫でたりしてくる。

 まあこれくらいなら、戯れみたいなものかなって思うけど……いつの間にか心のボーダーラインがずれてきてるような気がする。駄目なほうに。

 

「ふふふ、これで動けなくなったわね、湊」

「……もしかして君も何かしてくるつもり?」

「ええ! 聞いたのよ、湊の抱き心地は最高だって! ランジュも試してみたいわ!」

「やば」

 

 誰だ一番言っちゃいけない人に言ったの。

 

「ランジュを受け止めなさい!」

 

 そう言いながら、彼女は容赦なく僕を抱き留めた。あまりの勢いに、のけ反って体勢を崩しそうなのを栞子が支えてくれる。

 ほんとに遠慮なく力いっぱい抱きしめてくるせいで、僕としては締められている気持ちが半分。

 

「ちょ、ランジュ。こんなことしてるの見られたら……」

「見られないところだったらいいの?」

「その台詞、果林に教えてもらっただろ」

「正解! ご褒美にもっと抱きしめてあげるわ!」

「ちょ、やめっ……」

「なによぅ、ランジュにハグされて嬉しくないの?」

「ハグはハグでもベアハッグだろ、これは」

 

 折れる折れる、と必死でタップしたのもあって、せつ菜たちが無理やり引き剥がしてくれる。

 あーもうちょっとであばらが二、三本いかれるところだった。

 

「ちょっと物足りないけど、満足したわ、湊」

「僕は今ので色々なものがごっそり削られたよ」

 

 ハロウィンって、恐ろしいイベントなんだな……

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