天王寺湊は虹を駆ける【完結】   作:ジマリス

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間話5 クリスマスイヴ前編

「年末はライブして、年越したら受験か。天王寺は大変だな」

 

 昼、食堂の丸テーブルを普通科特進クラスの彼と囲んで、お弁当をつついてると、唐突にそんなことを言われた。

 今日は十二月二十四日。クリスマスイヴというのもあってか、この一週間は食堂で特別メニューがあったり、購買で限定品を売ってたりして賑わっている。そんな喧騒の中でも、彼の通る声のおかげで聞き返すことはせずに済んだ。

 

「君のほうが大変じゃないの。上のほうの大学受けるんでしょ」

「ああ。だが、勉強漬けのおかげで勝算はそれなりにあるみたいだ」

 

 私立大学の出願期間は一月。そこに行くつもりの彼は、もう追い込みすら過ぎている時期だというのにぱっと見では焦ってる様子は一切ない。流石、特進クラス。

 

「年始からも勉強漬け?」

「多少は息抜きする。初詣は彼女と一緒に行く約束してるし、二月は彼女の誕生日だしな」

「勉学に励みながら、ちゃんと彼女さんとも過ごすって、青春してるなあ」

「そう言うお前は?」

「僕?」

「明日はクリスマスだろ。お前の予定は?」

「みんなでラブライブ見るんだ」

「みんな?」

「同好会のみんな」

 

 そう言うと、彼は目を丸くした。

 

「クリスマスに女子と」

「女子……うん、まあそうだけど、君の思ってるようなことはないよ。他の高校とかの子も呼んで、見るだけ」

「大勢の女子と」

「ん、うん、そうだね」

「お前……進んでるな」

「なにが?」

 

 そんなおかしいこと?

 

「じゃあ今日は?」

「今日はその準備。って言っても、昨日まででほとんど終わってるから、あまりすることないけど」

「誰か誘って外ぶらついたりとかは?」

 

 多くの疑問符をぶつけてくる彼が珍しくて、僕は苦笑した。

 

「やけにつっかかってくるね」

「気になるだろ、ニジガク一のモテ男が聖夜を誰と一緒に過ごすのか」

「あのね、僕はそんなご大層な称号を持てるほどの男じゃないよ」

 

 虹ヶ咲は女子が多い分、周囲に女子がいる状況が生まれやすいという恵まれた環境なだけで、僕そのものに魅力があるわけじゃない。ほんと、端っこにいるだけだよ。

 モテ男というなら、それは彼のほうだ。

 

「天王寺は人の好き好きオーラ察するの苦手だよな」

「は、え、なに? 好き好きオーラ?」

「傍目から見て、こいつってあいつのこと好きなんだなーって分かるだろ。目線とか仕草で好意を隠し切れないっていうか」

「分かるかなあ」

 

 観察眼の鋭い彼だからこそそう言えるってだけじゃないの。

 

「というか、君だってそういうの察しないじゃないか。結構な数の女の子にアピールされてるみたいなのに」

「俺にはちゃんと世界一可愛い彼女がいるからな。他の女子に見向きする必要はない」

「好きだね、ほんと」

 

 文化祭の時に彼の恋人を見たな。エマと校内を回ってるときにもちょくちょく視界に入ったりもしたけど、お互い想い合ってて間に入れない雰囲気を醸し出してて声をかけられなかった。

 彼はむしろ、周囲に彼女さんを自慢して回ってたけど。

 

「面白い話してるね。相席いい?」

 

 声のほうを向くと、ご飯の乗ったトレーを持っている演劇部部長がそこにいた。

 クリスマスメニューに浮気することなく気分のまま定食を選んだ彼女は、僕らが首肯すると遠慮なく座った。

 

「で、なんだっけ。湊が同好会の女の子を手籠めにしたって話だっけ?」

「学外にまで手を伸ばしたって話」

「してない」

「学内だけでも、数えようと思っても両手じゃ足りないってのに」

「足入れてもギリギリ足りないくらいだっけ」

「願わくば聞け、僕の話を」

 

 連携して嘘話すな。

 

「色恋沙汰の話が好きなのはいいけど、もうちょっと現実見ようよ。同好会は同好会で、他校の人はよくしてくれてる協力者ってだけ」

「現実見ろって、湊に言いたいんだけどな、私は」

「私『たち』、な」

 

 この話になると大抵、僕をからかおうとして一対多数になるから嫌なんだよな。

 

「これ何度目かな……別にほら、魅力的な何かがあるわけじゃないだろ?」

 

 でしょ? なんでそこで首傾げるの。

 

「例えば、音楽的な才能もプロデュースの腕もあるし、将来性という意味では結構期待できるんじゃないかな」

「音楽で食っていくのはそう簡単なことじゃないだろうが、なんていうか、こいつが困った大人になってる未来が想像できんしな」

「親はお金持ちだしね」

 

 高校生の時の成功を社会人になってからに当てはめるのってどうなのか。あと親の財力を当てにするのもどうなの。

 

「でもそんなの無くても、私は湊のこと好きだよ」

「んぐっ!?」

 

 そっちで話盛り上がってるから食べ進めてたら、喉に詰まりそうになった。

 二人はにやりと笑って……楽しそう。

 

「今のどう?」

「演技上手くなったな」

「僕は心臓がきゅってなったよ……」

「人にそういうこと言ってのけるくせに、ストレートに来られたら弱いんだな、お前」

「これが、湊がフリーな理由だと思うよ。直接的じゃないとダメージ与えられないっていうさ」

 

 こんなこと言われて何の反応もしない人がいたら見てみたいよ。

 

「まあ牽制し合ってるのも今の内だけどな。近いうち決着がつくだろ」

「それは同意」

「牽制?」

「そう。一人の男を中心にした、陰謀渦巻くバトルロイヤル」

「夥しい罠を避け、誰が先にお宝を手に入れられるかの大勝負」

「僕もそっち側だったら楽しかったのかな……」

 

 開き直って、『いやー、モテてモテて困っちゃうよ』とか言えたらどんなに楽なことか。でも女子の多い学校に入って、女子の多い部に入ってそれを言うのは滑稽じゃなかろうか。

 

「でも湊の彼女になる人は大変だね。湊は見ての通り、人を放っておけない性格だから。困ってない恋人より困ってる他人を優先しちゃう時あるし」

「説得力あるな」

「恋人だからね」

「役をつけてくれよ、本当に。それのせいで何度、一から説明しなきゃならなかったか……」

 

 どこでも言いふらすもんだから、演劇の役作りのためだって誤解を解いて回ったのが懐かしいよ。

 

「でも湊を好きになる女の子たちは、そういうところに惹かれたんだろうから、難儀だよね。だってほら、見てほしいじゃん、私のことだけを」

「そう言うってことは、天王寺は恋人役として適任だったみたいだな」

「そうかも。結構もやもやさせられたりしたのは、今となっては良い経験かもね」

 

 総評。良い経験だったのなら、それでヨシ……ということでまとめておこう。深く突っ込むととんでもない話が出てきそうだ。

 

「そろそろ誰が湊の彼女になるか賭けする?」

「乗った」

 

 乗るな。

 

 

 

 

 明日の用意で、今日は活動は無し。とはいってもすることがない僕はいつもの癖で同好会の部室へ足を運ぶ。ああそうだ、誰も来ないんだと気付いたのは、ソファに座って置いてあった雑誌をペラペラと捲っていた時だった。

 

「どうしたの、そんなに難しい顔して」

 

 半分流し見していると、不意に声をかけられる。いつの間にか果林が背後に立っていた。

 

「この時期になると、恋愛がらみの話が多くなるのはどこも共通だなって」

 

 そう言うと、果林は納得した。

 

「私の周りにも、クリスマス前だからって出来上がったカップルいるわよ。写真撮ってもらう時の服も、デートコーデのが求められたりもするわね」

「今ちょうど見てる。君のちょっと大人コーデ」

「じゃあなおさらそんな顔しないでほしいわね」

 

 彼女は鞄を下ろして僕の隣に座ると、雑誌を覗き込んできた。

 

「そういうの嫌なの?」

「まさか。僕だって彼女って存在に憧れはあるし、こういう人とデートに行ってみたいって気持ちもある」

「こういう人、って本物が目の前にいるじゃない。この服着てたら誘ってくれたのかしら?」

「制服でも十分大人っぽいよ、果林は。あいたっ」

 

 ほぼノーモーションでチョップされた。

 

「褒めたのに」

「褒めたからチョップしたの」

 

 女性のこと、一生分からんかもしれん。

 

「ところで、この後何するの?」

「特になにも」

 

 明日はラブライブ予選から始まる。そして年末は僕ら同好会のライブ。動画サイトに向く目は少なくなるだろう。

 それを見越して、年が明けてから投稿する動画の編集をしていたんだけど、ほとんど出来ているうえにすぐ仕上げなければいけないものでもない。明日以降合間合間でやるとして、今はラブライブを待つ観客気分で過ごすつもりだ。

 

「他に用事は?」

「ないよ。明日は、機材とかテントを運び入れるだけだから……明日の放課後までは何もなし」

 

 じゃなければ、ここでこうやって雑誌に目を通してない。

 

「だったら、一緒に出掛けない? イルミネーションとか見に」

「僕と?」

「せっかくのクリスマスイヴを一人寂しく過ごす予定の湊くんに、良い時間を提供しようとしてるんだけど」

「うんうん。彼方ちゃんもさんせ~い」

 

 わっ。どこから湧いてきたんだ。

 彼方とエマが、突然現れたみたいに目の前にいた。特に、エマはしゃがんでじーっと期待するような目で見てきている。

 

「湊くんと一緒に行きたいなー。きっと楽しいんだろうなー」

「うんうん。ゆっくりお話ししたいしね~」

「私たちの誘いを断るほど酷い男じゃないって信じてるわよ」

 

 そんなフリをしなくても、普通に言ってくれれば喜んで同行しますとも。

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