「ヨーシ、詣でるゾー!」
元旦。
ファーストライブを終え、愛の家で一晩過ごした僕らは予定していた初詣に、僕らスクールアイドル同好会は全員でやってきた。年が明けるまで……というか、その後の初詣まで起きているつもりだったみんなは、もんじゃ焼きを食べてすぐに横になってしまった。体力お化けのロッティや愛ですら。
それだけ疲れていたのだろう。無理もない。みんな、一切手を抜かずに頑張ったんだもんな。
ほとんど雑魚寝状態だったみんなにつられるようにして、いつの間にか僕も眠っていた。目が覚めたのは、日が昇ってから。ずっと起きようと思ってたのに、と騒ぐかすみをアラーム代わりにしてあくびを漏らしながら。で、雑に新年の挨拶をしてぱっと外に出てきたのだ。
「これッテ、どうするノ?」
「鳥居の前で礼。参道は端を歩く。手水をして、鈴を鳴らして、二礼二拍手一礼」
「なんでディア子が一番知ってるの」
近場にある大きな神社は人でごった返していた。
当然のこと。なんてったって、一年で一番ここに人が集まる日だ。昨日は数百数千の注目を集めたスクールアイドルたちも、今やこの中の一部に過ぎない。
みんなを見守るようにして後ろからついていく僕に、エマはそっと体を寄せてきた。
「人、いっぱいだ」
「うん。気を付けないとはぐれちゃいそうだね」
「そこまでは……」
「はぐれちゃいそうだね」
「……はい」
有無を言わさないエマに手を差し出す。すると、彼女は僕の腕に抱き着いてきた。
「あら」
「おやまあ」
今までは何かしら理由を付けて避けたり剥がしてたりしてたのに、抵抗しない僕を見て果林も彼方も感づいた。
「まあ、つまり、そういうこと」
「はっきり言いなさい」
たしなめる果林に負けて、僕は目を逸らした。でも逃げようとしても、腕を絡めてくるエマがそうさせてくれない。ついには観念して、熱を持つ顔を下げながら、口を開いた。
「お付き合いすることになりました」
「おお~」
ぱちぱちぱち、と彼方が拍手する。対して、僕は気恥ずかしいままで、目を逸らすことしか出来なかった。冬の早朝だっていうのに、熱い。
「同好会引退までは公にはしないつもり。スクールアイドルに男がいるなんて知られたら、まあどうなるかは目に見えてるからね」
「それじゃ、まだ湊くんはフリーってこと?」
「話聞いてた?」
お付き合いしてるんですけど?
「だ、だめだよ果林ちゃん。湊くんはもう私のものなんだからっ」
「そう言われると退きたくなくなってくるわね」
自分のもとに僕を引き寄せるエマに、果林は挑発的に返す。
「湊くん、モテモテだねぇ」
「困ったことにね」
「贅沢な悩みだねぇ」
「僕にはもったいないくらい」
「悪い人だ」
「去年何回言われたかな、それ」
「今年は何回言われるんだろうねえ」
僕としてはゼロを目指してるんだけど、彼方は無理無理と言いたげに首をすくめた。
「ふふ、まあ冗談はこのくらいにしておこうかしら」
「……本当に冗談なんだよね、果林ちゃん?」
まだ僕の腕を強く抱くエマは、果林に膨らめた頬を向けながら可愛く威嚇する。
「ええ。湊くんのこと、一番幸せに出来るのはエマだって信じてるんだから」
果林がそう言うと、エマはようやく力を緩めてくれた。
「エマ、湊くんと仲違いするようなら、私が奪いに行くわ。覚悟しておいて。湊くん、エマに独り占めしたいって思わせるのはあなたくらい。そのエマを泣かせたら、あなたのこと殴りに行くから」
ぱちん、と果林は僕の頬を叩くと、ウインクして彼方と一緒にさっさと先に行ってしまった。
「殴られないようにしないとね、湊くん」
「果林にも、君にもね」
△
賽銭箱までの長い列を並ぶ間、手持ち無沙汰になってなんとなく璃奈の頭に手を添え、髪を撫でつけた。
朝にほんの少し整えた程度だから、まだぼさついてる。
「お兄ちゃん、何をお願いするの?」
「とりあえずは、音大合格かな。それと……璃奈が楽しく過ごせますように」
「じゃあ私は、お兄ちゃんが楽しく過ごせるように祈る」
まったくこの可愛い妹め。
「じゃあじゃあ、かすみんも湊先輩の無事を願います!」
「君はテストの点数を願ったほうがいい」
留年系スクールアイドルなんてシャレにならないんだから。
「かすみさんはちゃんとやれば危ないような点数じゃなくなるんだから、今年もいっぱい勉強しようね」
「う゛。でもスクールアイドルで忙しいしぃ……」
「かすみちゃんに後輩になってほしくない」
「うぅ……」
そうこうしている内にようやく番だ。
並んでいた時よりに思い浮かべてたよりも二、三多い願い事をして、後ろの人に譲ってから去る。
みんなを待ってる間に、侑と並んで寒さに耐える。と言っても、人が多いせいか熱気があるおかげで首を縮める必要はないくらいだけど。
「……いやに長いな」
「ね、みんないっぱいお願い事があるみたいだね」
「君は?」
「これでも結構時間使ったと思うんだけど」
「つまり、それなりにお祈りしたわけだ」
「湊さんは?」
「五個。いや六個かも」
「こういうのって、一つだけじゃなかったっけ」
「人のこと言えないだろって言ってほしいのか?」
矢のように過ぎていったこの一年間で色々なことが起きた。努力の結果だけじゃなく、奇跡と呼べるものまで。だからまたそれを期待してしまうのだ。
一年にたった一回願うだけで、熱心な信じる者でもないけど、望むだけならタダ。
「一年、早かったね」
「同好会の発足に、ライブも何回も。同好会だけであんな大きなライブも出来るなんて、思ってなかった」
「楽しかった?」
「ああ。これ以上ないくらいに」
僕はちらりと侑を一瞥して、また視線を戻した。
「侑、君には感謝してる。君が来てくれなかったら、同好会はどうなってたか」
「湊さんに助けられてばっかりだったけどね」
それでも、君は偉大だよ。
君が歩夢と一緒に僕たちのところへ来て、そこから全てが加速していった。一度壊れたものが豪華になって戻り、大きく綺麗になっていった。
「来年……ううん、今年にはもう、湊さんたちはいなくなるんだよね。そうなったら……私はちゃんと出来るのかな」
侑がやってきたことは
それでも、なんというか、僕の後継者みたいな気持ちがあるのだろう。その僕がいなくなった時の不安はどこまでいっても消えない。多分、僕らが卒業した後で上手くいったとしても。
僕は預言者じゃない。だから軽はずみなことは言えない。けれど……
「やりたいことをやったらいい。その上で、やりたいことをやらせたらいいさ。それを支えるだけの力が君にはある」
これは、自信をもって言えること。
そうやってたっぷりと信頼を預けると、彼女は悩んでたのが馬鹿らしいといったようにすっきりとした顔を見せてくれた。
「……はいっ」
「進め、侑。みんなを連れていくのは君に任せた」
「任されました、湊さん。あなたを越えてみせます」
おや、僕の自信が移ってくれたのか、大きく出たな。
「険しい道だよ」
「分かってます」
「……なら期待してるよ、侑。いつか君の名前が、離れていても聞こえる日を」
僕らのことを両親が知ったみたいに、調べなくても活躍が耳に入ってくる。そんな日がやってくる。まあ、僕は毎日のように君たちのことを調べるだろうし、璃奈から話を聞くんだけど。
「でもファーストライブを超えるくらいのってなると……簡単ですよね?」
「自信満々だね、驚いた。良い案が?」
「いいえ、湊さんならそう思うかと」
「買い被りだ」
「じゃあ案なし?」
「いや、三つくらいは考えがある」
「ほらやっぱり」
そういう君だって、全くの考えなしってわけじゃないだろう、思いつきはしてるはずだ。もっとも、実現させるには相当の努力が必要となるようなものだろうけど。
「でも、まだそれを考えるのは早いかも?」
ようやく願い事を終えてこちらに合流したスクールアイドル第一号は歩夢だ。
「まだ三か月あるから。そうだよね」
「その通り。僕にだってまだやり残したことはある」
「やり残したこと?」
「これからも見せてくれるんだろ。僕に、君たちを」
「もちろんです!」
たった数か月で凄まじいほどまで、個人としても同好会としても成長を遂げた。残り少ない今年度だって離れられない。目を離せないって言ったほうが正しいかな。
「満足したって言うのはまだまだ先ですよ、湊さん!」
「そうよ! ランジュの魅力であなたもファンも骨抜きにしちゃうんだから!」
周りの喧騒に負けないくらいの騒がしさでせつ菜もランジュも指差してくる。いつの間にか、彼女らを筆頭に続々とみんなが戻ってきていた。
「君らの今年の抱負はそれかな」
「私は同好会に入ってからまだ日が浅いので、みなさんに追いつくことを目標とします」
「ボクもだね。今でも負けてる気はしないけど」
ランジュはともかく、伸びしろで言えば二学期からスクールアイドルになった栞子とミアが一番。これもまた目を離せない要素だし、彼女らは自主的に入ってきたというよりはほとんど引き込んだもんだ。見届ける責任がある。
つまり、そういうふうに理由をつけてしまえば、僕はまだまだ同好会離れ出来ないお兄さんってわけだ。
「そんなに言うなら期待しておこうかな、昨日よりも良いの」
「すっごいプレッシャーかけてくるじゃん」
「ファンとしては期待するしかない。侑も案があるみたいだし」
「それ言ったのは湊さ──」
「僕を越えるんだろ? 楽しみにしてる」