天王寺湊は虹を駆ける【完結】   作:ジマリス

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33 フェスティバルに向けて

 高咲さんが提案した、スクールアイドルのお祭り。題してスクールアイドルフェスティバル開催にあたって、まずお伺いを立てなければいけないのが、生徒会だ。

 スクールアイドルといえども同好会の活動であるし、学校の教室だったり設備を利用したいので、生徒会に企画書を持っていったのだが……

 

「そっかあ、せつ菜ちゃんがいるから、すっかり通ると思ったけど、そういうわけじゃないんだね」

「すみません。私も気持ちが逸っていました……」

「でも、ちゃんと指摘してもらえて、何が課題なのかわかったよ」

 

 まだ何も決まってない状態では受け入れてくれるわけもなく、生徒会へ行った高咲さんも中須さんも、生徒会長本人である優木さんも肩を落として帰ってきた。

 が、出鼻を挫かれたものの、前向きに事を捉えるのが高咲さん。こちらで考えている開催予定日までは、諸々を考えると時間に余裕があるわけではない。どんよりと悩んでる暇はないのだ。

 こういった切り替えの早さは、非常に裏方向きであると言えよう。

 

「侑ちゃん、私も手伝うよ」

「ありがとう。でも歩夢たちはフェスに向けての練習で忙しいでしょ。湊さんも根回ししてくれてるみたいだし」

「根回し?」

「他の部に、事前に協力依頼をしてるんだ。それによって、どこまで規模を大きくできるか違ってくるからね」

 

 だから知りうる限りの虹ヶ咲スクールアイドルファンに話を持ちかけている。

 服飾同好会、コッペパン同好会、演劇部……そういえば、璃奈の友達にも声をかけておかないと。

 

「こういうことをやるって噂だけで宣伝効果もあるし、噂が大きくなって期待も大きくなれば、生徒会も先生もおいそれとNGは出しづらくなるって目的もあるかな」

「こういう強気な交渉、生徒会としては頭が痛いというか……」

「もちろん、事前準備をして、生徒会を納得させられるものを決めるのが前提だけどね」

 

 表の話し合いは優木さんと高咲さんに任せて、僕は裏でこそこそしてるのがいい。

 さて、決めるべきはまずは会場と、あとは……

 

 

 

 

 優木さん、高咲さん、朝香さん、近江さん、僕は並んで座って、相手方の様子を伺っていた。

 対面に座るのは、東雲の近江遥、クリスティーナ、藤黄の綾小路姫乃、紫藤美咲。他校のスクールアイドル部の知り合いと、代表者だ。

 とあるカフェに集まってもらいフェスティバルの概要を説明して、その後は四者ともまとめた資料を興味深く読んでいる。反応は上々。その雰囲気を感じ取って、優木さんが沈黙を破った。

 

「いかがでしょうか。スクールアイドルフェスティバル、参加していただけませんか?」

「やってみたいです。お姉ちゃんから話を聞いて、ずっと楽しみで」

「私も賛成です。とても面白そうですし」

 

 優木さんの問いに、遥さんはこくりと頷いた。綾小路さんも賛同する。それぞれの高校の代表者も否定的な様子はないから、受け入れてくれたらしい。とりあえずは一安心。

 

「また果林さんと同じステージに立てるなんて……光栄です」

「こちらこそ、そんなふうに評価してもらえて光栄だわ」

 

 特に綾小路さんは、憧れの人を前にして目を輝かせている。一応朝香さんを連れてきて正解だった。

 

「この子、果林さんのファンなんですよ」

「美咲さん……!」

「あら、そうだったの」

 

 あっさりとバラされてあわあわする綾小路さんに、朝香さんは時折僕に見せるようないたずらっぽい笑顔で迫る。

 机越しだが、ぐいっと顔を寄せると綾小路さんは赤面した。そしてイケメンにしか許されない秘奥義、顎クイをされる。漫画でしか見たことない必殺技が炸裂。

 

「もっと早く教えてほしかったわ」

 

 朝香さんに興味のない人ですら虜にしてしまう妖艶な微笑み。ましてや綾小路さんは彼女の大ファンだ。某ゲーム風に言うなら、『こうかはばつぐんだ』といったところか。『きゅうしょにあたった』も付け加えてもいいかも。

 顔真っ赤で倒れそうなところを、紫藤さんが支える。

 

「魔性の女……だね」

「無自覚に人を落とす人もいるけどねぇ」

「誰?」

「さあ~?」

 

 謎めいたことを言う近江さんはにやにやとした笑みを向けてきた。

 意地悪な返答は無視して、ついでに夢現な綾小路さんも置いといて、とりあえず各校の代表お二人に顔を向けた。

 

「私も賛成です。スクールアイドル好きのみんなが楽しめるお祭りって、なんだかワクワクするわ」

「私も素敵だと思いました。正式なお返事はメンバーと話し合ってからになりますが、東雲学院のみんなもきっと参加したいはずです」

 

 紫藤さんもクリスティーナさんも頷く。

 よし、ちゃんとした返答はまた今度だが、実質二つのグループからOKを貰えた。これで、一歩前進。

 

「湊さんは、今回のフェスティバルで新しい曲を作るんですか?」

 

 名前を呼ばれてそっちを向くと、遥さんがわくわくした目を向けてきていた。

 

「企業秘密」

「え~? 聞かせてよー」

 

 紫藤さんも乗り気で聞いてくる。どころか、あとの二人も興味深げだ。

 

「そうだね……これに参加してくれる人は身内なわけだから、教えられるんだけど」

 

 含みのある言い方で返すと、紫藤さんはにやりと笑った。

 

「だいぶやり手だね、天王寺さん」

「どうも。いい返事を期待してるよ」

「こちらも、いい曲を期待してますよ」

 

 ふふ、と微笑んでクリスティーナさんは言う。

 まあ別に言っても問題はないが、協力してもらうためのタネはいくつ仕込んでもいい。この話はだいぶ強力だったようで、相手方は先ほどよりも断然食いついてきた。

 

 今日の話は、フェスティバルの提案のみ。

 あまり時間を拘束するのも悪いと思い、話を持って帰ってもらって解散した。

 あの二校とも、この夏休みに大きなライブはやらないはずだ。正式回答もYESで来るに違いない。

 

 学校へ戻る道すがら、概算で必要な設備を頭に浮かばせる。今までのよりもずっと、量と質が必要だ。同好会として、だと使えるお金にも限りがある。生徒会だけでなく、音楽系の部活にも声を話を通しておくべきだろう。

 

「湊くん、今日あまり話さなかったね?」

 

 一歩引いて二年生の様子を眺めていると、近江さんがこっそりと話しかけてきた。

 

「それが?」

「こういう話し合いは、湊くんが代表で進めていくものだって思ってたから」

 

 確かに、今までの交渉の場では、ほとんど僕が前に立っていた。撮影場所は生徒会や各役所、衣装は服飾同好会、そのほか振付や撮影機材など、協力してもらえるところに頭を下げてきた。

 おかげで知り合えた、助けてくれるたくさんの人は高咲さんにも分け隔てなく接してくれている。

 

「今回は、あの子が影の主役だよ。このフェスティバル自体も、高咲さんの案だしね」

 

 楽しげに先を歩く高咲さんの背中を視線で追いかける。

 入ったばかりの彼女に全てお任せするほど放任主義じゃない。だけど……

 

「僕のやることは変わらないよ。君たちのサポート。ただ、三年生としては引退も考えて、後輩に譲ることもそろそろ視野に入れないと」

 

 今後のことを考えると、作業をするのは僕ばっかりというのも良いことではない。僕はもうすぐいなくなる。そうなって、いざ矢面に立つことになるのは優木さんだ。

 サポートをしてスクールアイドルを支えたい高咲さんからすれば、優木さんにもスクールアイドルとしての活動を優先してほしいところだろう。だからこうやって、備えておかないと。生徒会や他校の生徒は、初めてとしてはちょうどいい相手だ。

 

「まだ夏休み。二学期も始まってないけれど」

「もう夏休みだよ」

 

 一学期は色々とあったせいで、あまり必要なものを残せていない。ここにいられる時間が少ないから焦っている心もあるけど、でもそれ以上にこのままではいけないという義務感がある。

 

「いつまでだって僕が曲を作れるわけじゃない。ステージの場所とったり、生徒会と話するのも、もう僕がやるべきじゃないんだ」

 

 

 

 

 翌日、部室にて打ち合わせの結果を共有する。

 藤黄と東雲が加わってくれるだろうということを報告すると、みんなパチパチと拍手してくれた。

 

「これでなんとかなりそうだね」

「はい。タイムスケジュールとステージが決まれば……」

「ステージ……ステージか」

 

 うむむ、と顎に手を当てる。

 東雲と藤黄を引き入れられたのは喜ばしいけど、ステージの問題が大きくなってくる。

 こちらはソロアイドルなぶん、時間を多く取ってしまって不平等になってしまう。それに舞台の飾り付けだって、アイドルの特色に合わせたものにしたいが、一ステージに集約してしまうと結局ぼやけた印象になってしまう。

 どうしたものか……

 

「それなら、いい案がありますよ!」

 

 意気揚々と手を挙げた中須さんが、とある物を机に置いた。

 デフォルメされた小さな中須さん。段ボールで作った『かすみんボックス』だ。そのかすみんボックスから紙がざらざらと出てくる。

 机いっぱいまで埋め尽くしたそれらには、一つひとつ場所の名前が書いてあった。

 やると決めてから、中須さんはスクールアイドルフェスティバルの会場をどこにしてほしいかのアンケートを、これで取ってたのだ。

 最初は全然入ってなかったようだが、噂が噂を呼び、フェスティバルを知った生徒が思い思いの希望を書いてくれたらしい。

 

「す、すごい数……」

 

 書いてあるものは、ステージから公園、学校の中など様々で、いろんなものを見たいという願いが溢れている。

 どこも良さげな場所で、スケジュールを抑えるのもそう難しくはなさそうだ。

 だが逆に、これだけ候補があると迷ってしまう。どこが一番今回のフェスティバルに相応しいのか吟味するだけでもかなり時間が……

 

「あ、そうだ」

 

 ピーン、と閃いて、僕は人差し指を立てる。同時に高咲さんも同じ考えに至ったようで、二人で顔を見合わせた。

 

「全部やっちゃえばいいんだ!」

 

 声が被る。

 詰め込んでやるのが無理で、これだけのステージ案があるなら、わざわざステージを一つに絞る意味はない。

 やりたい分をやりたいだけ、見たい分を見たいだけ、誰もが満足できるように全部やりきってしまえばいい。

 会場は一つに絞らない。

 街を巻き込んでやってやろうじゃないか。

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