天王寺湊は虹を駆ける【完結】   作:ジマリス

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54 虹と星が交わる

「うーん……」

「ドキドキ」

「むむむ……」

「ワクワク」

 

 部室に入ると、かすみとロッティがにらめっこをしていた。いや、かすみが一方的に眉間に皺を寄せている。ロッティはふんすふんすと興奮気味に、かすみの何かを待っているようだ。

 その様子に首を傾げていると、かすみがこちらを向いた。

 

「あだ名をどうしようか考えてまして……・ディア子はディア子でいいと思うんですが……ロッ子? ロティ子?」

「シャル子でいいんじゃないか。シャルロッテの、シャル」

「はっ! それナイスです!」

 

 思ったよりもどうでもいいことで悩んでいた。

 ロッティはもうロッティがあだ名みたいなものなんだけど……本人も喜んでるみたいだし、まあいいか。

 

「あらためて、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会へようこそ!」

 

 パン、と侑がクラッカーを鳴らす。

 入部届がついに受理され、ロッティとディアは名実ともに僕らの仲間になった。ここまでちょっとしたドタバタもあったけど、丸く収まったことだし、よしとしよう。

 

「これで、正式にスクールアイドル」

「トモダチもこーんナに増えタ!」

 

 Alpheccaはハイタッチして、部室の中を走り回る。

 

「かすみんが部長だからね! 一番偉いんだから!」

「ヨッ、ブチョー!」

「可愛い、天使、女神」

「えへへ~、それほどでもありますよぅ」

 

 威厳を見せようとしたのに、ベタ褒めされて頬を緩ませるチョロいかすみ。それを苦笑いして眺めながら、歩夢は首を傾げた。

 

「正式に……?」

「あっちじゃ、アイドルとか部の考え方が違うから。ようは、今までは自称スクールアイドルだったわけだ」

 

 そこらへんは国の文化の違いだな。そういった事情も、日本以外のスクールアイドルがほとんどいないことと関係してくる。

 Alpheccaだって、日本以外だとスクールアイドルって肩書が外されて紹介されることもあるしね。

 詳しくはアイドルの語源から話す必要が出てくるが……まあそれはいいか。

 

「ワタシ、スクールアイドル!」

「うんうん。よかったね、ロッティちゃん」

 

 エマは、ぎゅむっと抱きついてくるロッティをよしよしと撫でる。エマもスクールアイドルになれた時は、たいそう喜んだものだ。同じ外国人同士で通じるものがあるのだろう。

 

「ちゃんとしたスクールアイドルになったんだから、何かしたい」

 

 ディアの提案に、侑が頷く。

 

「だったら、虹ヶ咲学園のスクールアイドルとして歌う?」

「いいノ!?」

「もう私たちの仲間なんだから、いいに決まってるよ」

 

 ね、と侑が見渡すと、みな一様に首を縦に振った。

 

「うん。虹ヶ咲学園スクールアイドルとAlpheccaが一緒になったよって見せたいよね」

「でも、新しい曲を作るってなると、お兄ちゃんに負担がかかる」

「ちょっと待ってくれたら、作るけど」

「ダメです! ただでさえ湊さんは働きすぎなんですから」

 

 せつ菜に押しとどめられてしまった。

 二学期が始まっても、この過保護は続くらしい。どこまで続くんだか。まさか二学期中ずっとってことはあるまい。

 

「ウーン、じゃ、どうすル?」

「二人に愛さんたちの曲を歌ってもらうってのはどうかな?」

「それいい!」

「二人はどう?」

「やりたーイ!」

「わたしも。今のミナトを知りたい」

 

 Alpheccaのほうも、両手を挙げてバンザイ。

 

「みんなも、ワタシたちの……」

 

 そこで、ロッティはディアをちらりと見る。彼女は見返しながら、ほんの少し、本当にわずかに首を横に振った。

 

「それなら……どうしましょう。私たちには二人のユニット曲はありませんし……」

「じゃあ、こっちから二人分の曲を選んで、それぞれやってもらうっていうのはどうかな?」

 

 歩夢の提案は受け入れられて、その通りに進めることになった。

 虹ヶ咲の動画チャンネルで投稿することに決まり。そうすれば、ファンの人たちからも虹ヶ咲所属のスクールアイドルとして認められるだろう。

 Alpheccaのチャンネルでは宣伝をしてもらう。こちらは早めに出して、世の期待を煽るとしよう。ファンも、虹ヶ咲を知らない人も事前に予習してくるだろうと考えて、こちらの再生数を伸ばす目的もある。

 

 これで後残るは……

 

「誰の曲をやってもらう?」

 

 

 

 

「いち、に、さん、し」

「ヨッ、ホッ」

 

 愛が手を打つのに合わせて、ロッティが身を振る。

 

 誰の曲をAlpheccaがやるのかは、じゃんけんで決められることになった。見事その権利を勝ち取った一人は、愛。

 早速、大まかな動きなどを教えることになり、中庭に移動。全員が芝生に座って、その様子を見学していた。

 

「君らは練習しなくていいのかね」

「部員を見守るのも部長の大事な役目ですから」

「それに、まだまだ暑いから、無理は禁物ってね」

 

 なんて言いつつ、目線はしっかりAlpheccaのほうを向いている。

 この前、ロッティとディアが曲を生でお披露目した時から、みんなのやる気は一段と増していた。

 こういったことは前にもあった。ダイバーフェスの後だ。熱を感じずにはいられない果林のステージを見た後、そこに立つ自分を夢見て、一生懸命になっていた。

 スクールアイドルフェスティバルでその熱も多少冷めたかと思ったけど、どうやらAlpheccaのキマッたパフォーマンスを見て、また燃え上がったらしい。

 燃え尽き症候群になるかな、という心配は杞憂に終わった。

 

「ここはどーんって感じ!」

「バーン、ピシッてことだネ。ワカルワカル!」

 

 愛から直接指導を受けているロッティは、その感覚的な指示についていけているようだ。

 まず踊ってみせて、その後おおざっぱに教えるやり方は、センスがあるあの二人ならではだろう。

 ロッティの素質を加味して、あれならすぐに追いついてきそうだ。

 対して……

 

「どうしてロッティちゃんはあれでわかるんだろう……」

「アユムは、ちゃんと教えて」

 

 もう一人、ディアに教える歩夢は、一緒に楽譜付きの歌詞を見ながら、全体の流れを説明して、細かいところも丁寧に教えている。

 イメージしにくいところは、実際に歌って、ディアの耳に馴染ませていった。ちなみに、本番も日本語で歌ってもらう予定だ。

 

「わあ……綺麗……」

 

 ディアの透き通る声と、歌詞を読みこんだうえで最大限の表現力をもって放たれる歌。

 空に響くようなその歌に、集まってきた野次馬も感嘆のため息をつく。対照的に、歩夢はうぅ、と肩を落とした。

 

「じゃんけんに勝ったのはいいけど、なんだかディアちゃん歌上手くて、自信なくなるなあ」

「わたしとは違う方向だけど、アユムの歌もキレイ。重要なのは歌。思いを届けるなら、ちゃんと通る声で歌う必要がある。そういう意味では、アユムはすごいアイドル」

「あ、ありがとう、ディアちゃん」

 

 ディアのまっすぐな称賛に、頬を掻く歩夢。こっちもこっちで相性は悪くないみたいだ。

 わざわざ突っかかる性格でもなし。むしろ、集団におけるチームワークの大切さを大事にしてる。歩夢は同好会を通じて、ディアはAlpheccaを通じて。

 

「あ、あの」

「?」

「そうやって見つめられると、照れちゃうな」

「しょうがない。ニジガクの中で、アユムは私の推し」

「え、ええっ?」

「正統派。まさにアイドルって感じ。わたしが目指すところ」

 

 ディアは親指をぐっと上げる。

 スクールアイドルは長年の歴史がある。その中で、ロック専門だったり、半分お笑いみたいなのもいたり、様々なジャンルのアイドルが生まれた。

 でもひときわ輝くのは、やっぱり歩夢のような王道の子だ。

 歩夢は、実力で劣ってると考えるかもしれないけど、日本のスクールアイドルに憧れるディアからすれば、歩夢こそが夢の体現者なのだ。

 

 じっと見られている歩夢は照れて目を逸らしながら、口を開く。

 

「ディアちゃんはどうして、私たちの歌を歌おうとしてくれるの?」

「どうして、とは」

「Alpheccaには、Alpheccaにしかない絆があって、ディアちゃんはそれをすごく大事にしてるのがわかるんだ。それって、ディアちゃんとロッティちゃんにとっては、三人だけのものにしたいんじゃないかなって。だから、湊さんがあなたたちのためだけに作った曲以外は、歌いたくないのかなって」

 

 ディアはこくりと頷いた。

 

「そう。Alpheccaは、三人でAlphecca。誰かを入れるつもりはない」

 

 けど、と続ける。

 

「わたしは、ニジガクのスクールアイドル。なら、知る必要がある。今のミナトのこと」

 

 去年の僕を、歩夢たちは知らない。今年の僕を、ディアたちは知らない。そのぽっかり空いている部分の中で、僕の感じたことや伝えたいことは、曲として残っている。

 あれこれべらべらと喋るより、そっちで理解するつもりのようだ。

 

「アナタたちを、信じさせて」

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