待ちに待ったオープンキャンパス当日。
朝も早よから、虹ヶ咲の校舎へ人がぞろぞろと入っていく。見学に来た未来の後輩たちだ。
それに混じって、僕らも校門を通る。すぐそこでは文化祭実行委員会のほか、有志のボランティアがパンフレットと地図を配っている。
校舎の前で、案内係をしている三船さんを見つけた。あちらもこっちに気づいて、ふりふりと手を振ってくれる。
「三船さん」
「おはようございます、天王寺さん。今日は、スクールアイドル同好会のお仕事ですか?」
「ううん。この二人の校内案内」
僕は後ろについている二人を指差す。ロッティとディアだ。
虹ヶ咲に来てから日が浅い彼女たちは、まだこの学校の全貌を見きれていない。そのため、ちょっと知らないところへ行くとすぐ迷ってしまうらしい。
無理もない。広大な敷地に、膨大な数の教室……僕だって一年生のころは地図を片手に持ってないと不安だった。
そういうわけで、今日は色んな所を回りつつ、一般の人に混じってオープンキャンパスを楽しもうとなったのである。
「初めまして。三船栞子と申します」
「ワー、カワイイ!」
「逸材」
「こら、挨拶しなさい」
子どもっぽくはしゃぐ二人をたしなめる。まったく、三船さんの落ち着きの一割でもくれたら多少はマシになるだろうに。
「クラウディアさんとシャルロッテさんですよね」
「ディアでいい。よろしく」
「ワタシはロッティ!」
遠慮なく手を掴んで、ぶんぶんと振り回す。
「シオリコもスクールアイドルやらなイ?」
「スタイルも良いし、運動もできそう。やろう」
「あ、あの……」
「ダル絡みしない。ごめんね、三船さん」
おろおろとしはじめた三船さんに助け舟を出す。
彼女は苦笑しつつも曖昧に頷くと、僕の足元に擦り寄る白猫に気づいた。
「はんぺんさんも一緒なんですね」
「預かっておいて、って言われてね。だから今日の僕は、臨時のお散歩役員」
はんぺんを持ち上げ、腕に抱く。優しく撫でてやると、ごろごろごろと喉を鳴らした。
「触ろうとすると、逃げられる人が大半だと聞きますが」
「そうなの? 結構人懐こいと思うけど」
愛とか璃奈にも自分から寄ってくるくらいだ。人嫌いするような性格じゃないはずだけど。ほら、今も僕の腕に頭を擦りつけてきている。
試しに、とはんぺんを三船さんに近づけてみる。
はんぺんは数度鼻をひくつかせてにゃあと鳴いた後、じっと彼女を見た。三船さんは難しい顔をしながら、恐る恐る、といった感じで手を伸ばす。まるでドラゴンか何かに触れるような慎重さで背中をさすると、はんぺんは特に抵抗することもなく気持ちよさそうに目を細めた。
「ほら、大人しいでしょ」
「はい。可愛いです」
「動物は人を見る目があるから、三船さんは良い人ってことだね」
「ワタシにはすっごい怯えテるんダケド」
「構いすぎ。あんなにわしゃわしゃしてたら逃げるのも当然。そのせいでわたしも警戒されてる」
ロッティがそっと手を近づけようとしても、はんぺんはびくりと反応する。
ここに来るまで、やたらと撫ですぎたせいだ。ここまで嫌がられてるのは、あとは生徒会長の中川さんくらい。いまだに追いかけられた時のトラウマが残っているようで、目が合おうものなら脱兎のごとく逃げる。
勘が良いもので、優木さんの姿でもはんぺんは避ける。本人は仲良くしたいと言っているが……叶うのはいつになることやら。
「長居しちゃ邪魔になるね。僕らはもう行くよ」
「シオリコ、スクールアイドルやるってなったら協力する」
「そのトキは呼んでネ!」
まだ続けようとする二人を引っ張って、三船さんから引きはがす。ずるずると引きずられながらも、彼女たちは手を振って声を張り上げていた。
△
中庭では、軽音楽部が熱演熱唱を繰り広げていた。部員数が多いこともあって、ステージの時間はかなり長い。
それ目当ての子もいるみたいで、聞き入って動かない子がたくさんいた。
僕たちもその一人となって、バンドを眺める。
来てくれた人を快く迎え入れるためか、アップテンポの曲多めで繰り広げられるバンド演奏。ついついつられてテンションが上がる。
うんうん。かき鳴らされるエレキギターとか、踊るドラムの音とか、打ち込みでは味わえない生の感覚はやっぱり良い。
想定していたよりも長く堪能して、幕間にようやく引き戻される。僕自身はずっとここにいてもいい気持ちだけど、そうはいかない。
さて次はどこへ行こうかと、脳内のニジガクマップを広げていると……
「お?」
見知った顔がこちらへ歩いてきた。
「みーくんさんじゃないすか。はろはろです」
「やあ。夏休みぶりだね」
「ですです。Alpheccaの作曲家様が覚えててくれて光栄す」
愛の友達の、ゆるふわウェーブ茶髪さんだ。今日も今日とて制服を着崩して、半分くらいしか目が開いていない。
「うちのステージ、見てくれたんすか?」
「うん。さっき、君の出番を見てた」
前に会った時は確かアコースティックギターのケースを抱えていたけど、今日はベース。
演奏する彼女は普段のだるっとした姿勢からは想像つかないくらい、かっこよかった。バンドは専門じゃないけど、披露していた曲は確実に彼女という柱があってのもの。
「にひひ。やー、嬉しいす。部の人に自慢できちゃうなー」
「自慢?」
「今やみーくんさんは注目の的すからね。あたしみたいな音楽してる人間からは特に矢印が向いてるすよ。Alpheccaは全世界の女の子の憧れすからねえ。あたしもあやかろあやかろ」
へへへ、と言いながら、彼女はロッティとディアの手を握る。
「どもども、しがない軽音楽部のしがないベースですです」
「そんなことない。アナタのベースとてもよかった。あれがなかったら、あの曲は成り立ってない」
「ソウソウ! オナカに響く音だったヨ! エンノ、エンノ……」
「縁の下の力持ち」
「
二人も同じことを感じていた。
ベースはあまり目立つようなポジションじゃない。でもだからこそ、僕たちは注目した。
周りを引き立てるために陰から支えながら、そこにいるという存在感も放つ。そんなことは、生半可な努力じゃできないし、目立ちたがりな高校生バンドでは珍しい。
「ええ子やねえ、ほんと。お姉さん浄化されそう。お世辞でも嬉しみマリアナ海溝」
「おセージ?」
「お世辞。相手に気に入られるための言葉」
「オセジなんかじゃなイ! そうダ、今度ワタシたちと一緒にやろウ! ね、ディア!」
「…………まあ、オリジナル曲はあげられないけど、何かのカバーとかなら」
「マジでぇ!? でも……」
彼女はちらりと僕を見る。
「いいんじゃないかな、面白そう。僕もピアノで参戦していい?」
「うえぇ、Alpheccaとみーくんさんの中に……あたしっすかあ!? ちなみにそれって……」
「撮影して、こっちの動画チャンネルで上げル! タイトルは……【生楽器で演奏】?」
「【生音演奏 ニジガクバージョン】かな」
「んじゃ、練習しなきゃネ! アナタはいつがいイ?」
「明日からでもいい?」
どんどんと進んでいく話に、流石の彼女もしどろもどろになる。
いやでもほんと、あんな調和を生み出せる彼女と一緒に演奏だなんて、興味が惹かれる。
「ややややばぁ……現実味無え~……助けて、みーくんさん」
「僕は明日からでもいけるよ」
「ひえぇ」
△
「サッキ演じてた人とおんなじ……ヒト?」
「……のはず。自信ない」
珍しく、ロッティとディアはぽかんとしている。その相手は、僕もお世話になっている演劇部の部長。
ホールで行われた演劇部による舞台劇を鑑賞したあと、入口まで観客を見送りに来た彼女に、労いついでに声をかけたのだ。
「ふうん。私の誘いを断ったのは、この子たちがいるから?」
「君のお誘いは冗談だと思ってたよ。演劇部のほうで忙しいって、しずくから聞いてたから」
「いつでも忙しいわけじゃないよ。この後は後輩たちに出番を譲るしね」
午後の部は、一、二年生のみが裏方含めてほとんど任されるらしい。そっちも見てみたいな。年々レベル上がってるんだもの。
「声も全然違う」
「ジツは別人だったリ」
「でも顔は一緒」
訝しむような目で見るロッティとディアに、演劇部部長さんは首を傾げる。
「この二人も演劇見たんだ。君の役と素のギャップが激しかったから、戸惑ってるみたい」
「役者冥利に尽きるね」
彼女の変幻自在、千変万化ぶりは目を見張るものがある。
優れた表現者は佇まいだけでその場の空気を変えてしまうと聞いたことがあるけれど、まさに彼女がそうだった。
圧倒的な演技力に飲み込まれないようにするだけで、周りは苦労していることだろう。
ふふ、とほほ笑んで、彼女は二人にウインクした。
「オトナ」
「オトナだネ」
いまだ唖然としている二人を置いて、彼女は僕へ向き直った。
「ところで、湊はこの後は時間あるの?」
「この二人とまだ校内を回る予定。一緒に来る?」
「いや、邪魔しちゃ悪いから、やめておくよ。お詫びはカフェモカでいいよ」
「そうだね。君とは話したいこともあるし……また連絡するよ」
僕に何があったのか。彼女もそれを気にしていた。
知り合いってほど浅い関係でもない。心配してくれた彼女に、家族のことや同好会であったことを打ち明けるつもりだ。
「ちなみにその話って、私と君の二人で?」
「まああんまり他の人に聞かれたくない内容だからね。そう、二人で」
「それはそれは。しずくに悪いね。けど、ふふ、待ってるよ」
ひらひらと手を振って、彼女は去っていく。その姿すら、様になっていた。
「オトナ」
「オトナだったネ」
それしか言えない二人の気持ちも、なんとなくわかる。
△
「ミナト、やっぱり人たらしだった」
「ホント。女の子ばっかり声かけられてタ」
「虹ヶ咲は女の子のほうが多いから、必然的にそうなっただけ」
ほら、ちゃんと見てみれば、あちらこちらに男子生徒がいるし、オープンキャンパスに来てくれている子たちの中にも男の子がちらほらいるだろう。
「てか、人たらしなんて言葉どこで覚えてきたんだ」
「エマ」
またか。また負の連鎖か。
「ミナトはドンカンでボクネンジンでイジワルだって言ってタ」
「全部聞いたことあるな……僕ってそんなに嫌われてる?」
「いや、あれはむしろ……」
「あっ、ロッティちゃんだ!」
高い声に振り向けば、小さな女の子がこちらを指差している。手を繋いでいるのは、近くの中学の制服を着た子。姉妹で虹ヶ咲に見学に来たようだ。
声に反応して、周りにいた人が一斉にこちらを見た。
「ディアちゃんもいる!」
「虹ヶ咲に転入してきたのって、本当なんだ!」
ざわざわと、Alpheccaを見る目が集まってくる。一瞬後には人だかりが、僕らを囲むようにして出来上がっていた。
これまで騒がれてなかったのに。どうやらAlpheccaが転入しているのは知っていても、まさかすぐそこにいるなんて思いもしてなかったみたいだ。
「あ、あのあの、サインください!」
「いいヨ!」
「色紙とか持ってきたらよかった……!」
「そんなときのために持ち歩いてる。これに書いてあげる」
手慣れたもので、突然のことだというのに、ロッティとディアは一人ひとりに丁寧に応対していく。
普段もこうやって囲まれることがあるのだろうか。そういえば、彼女らの両親も路上で写真撮影頼まれてたなあ。
「てててて天王寺湊さんっ」
気づけば、男の子が目を潤ませながら、僕の目の前で手を震わせていた。
「俺、マジで天王寺さんリスペクトなんです! 応援してます!」
「わ、わ、わ、私も! この前の動画で天王寺さんのこと知って、ファンになりました!」
僕のほうにまで、人が集まってくる。サインも求められたけど、そんなの考えたことないからどうしよう……
とりあえず、Alpheccaのロゴと自分の名前を書く。特に遊び心もないサインだけど――
「マジこれ一生の宝物にします!」
好評だったのでなにより。
中学生って、熱がすごい。それからもどんどんと寄ってくる子たちに、僕ら三人はしばらく握手やサインをせがまれた。
来てくれたファンに対して逃げるとかあしらうとか出来るはずもなく……結局全員が満足し終わるまで、人の波に揉まれた。
「アハハ、ゆっくり回ルどころじゃなかったネ!」
「サイン書きすぎた。腕痛い」
「今日一日ぶんの元気を持ってかれたね」
人が人を呼んで、書いても書いても減らないどころか増え続けてたのは軽くホラーだった。
「でも、有名になって嬉しいんじゃなイ?」
「僕は推しを影から支えたいのであって、推しになりたいわけじゃ……」
「お菓子ダ!」
「聞けよ」
いつの間にか、部や同好会のブースがひしめき合う西棟までやってきていた。
これまたファンだという駄菓子同好会から特別にひとつだけ駄菓子を貰って、再び回る。
こう見るとやっぱりうちの部は多いね。いつもは人がいっぱいいても有りあまるスペースがあるはずのここでも、ブースでいっぱいになってる。
「あ、湊く~ん」
こちらに声をかけてきたのは、我らがスクールアイドル同好会のエマ。
他と同じく立てられたブースに残っているのはエマと果林だけだった。他はビラ配りだとか、動画編集の大詰めをしているとかで出払っているらしい。
「周りの様子はどうだった?」
「例年通り盛り上がってたよ。僕はもうへとへと」
「えぇ? なんで?」
「なんでって、迫りくる人々に、果敢にも挑んだから」
「?」
まさか僕がサインをねだられたとは夢にも思うまい。
「二人は楽しめた?」
「ウン! ニジガク、みんナキラキラしてル!」
「駄菓子も貰った」
「よかったわね」
果林はロッティとディアの頭を撫でる。
落ち着いた雰囲気の彼女からは、エマとは別のお母さんみを感じる。そのうちカリンママとか言い出さないだろうな。
「あ、そうだ。さっきね、同好会に入りたいって人が来たんだ」
「へえ、中学生の子?」
「ううん。高二。香港からの短期留学生だって」
「スクールアイドルフェスティバルを見て、虹ヶ咲に来たらしいのよ」
「ホンコン! リュウガクセイってことは、ワタシたちと一緒ダ!」
「国際色豊か」
スクールアイドルを目指して留学なんて、エマやロッティ、ディアと同じ。あのフェスティバルにそれほどの影響があったなんて……やってよかった。
どんな子か楽しみだな。
話し込んでいると、あっという間に時間が経っていた。ちらりと時計を見ると、目当てのものが始まるまでもうすぐまで迫ってきていた。
「そろそろ、スクールアイドル同好会の時間だ。それだけは見ないとね」
「じゃあ、一緒に見に行きましょう」
『ただいま、席を外しています』。その文と、手を合わせて謝罪をしているデフォルメされたエマが描かれている小さなボードを置いて、果林は立ち上がる。
各部のお披露目もそろそろ落ち着いてくるころ。ファンも後輩も、しばらくはここに来ないだろう。
「完成形見てないから楽しみ」
「あ、そうなんだ?」
「そもそもワタシたち、今回カメラマン!」
「第一回のフェスティバルにはわたしたちは参加してないから、動画に出るのは違うと思って」
「名前ダケは出るヨ。『Alphecca 参加決定!』ッテ」
Alpheccaはあくまで、自分たちのことを主催者側ではなく参加者として見ている。
今回は第二回の開催と参加者募集の告知なので、出演はきっぱり断っていた。あんまり気にしなくてもいいと思うが、二人には二人のこだわりがある。
ま、名前を出すだけでも宣伝効果はありそうだ。
僕らが目当ての場所に到着すると、すでにたくさんの人が押し寄せてきていた。
一階にいる人も二階にいる人も、その視線は二階に設置されている超大型モニターに釘付けになっている。
集まっている人はどうやらスクールアイドル同好会目当てのようで、耳をすませば期待する声が聞こえてくる。
「お、始まる始まる」
真っ黒な画面に、ぱっと色がつく。
おお、僕や見ている人の口から感嘆の息が漏れる。
いきなりバーンと音が出るなんてことはなく、映ったのはどこかの草原。後ろに見える橋は、東京ゲートブリッジだろうか。
そして原っぱの上を、スーツ姿のかすみが悠然と歩き……こけた。
ぱっとシーンが変わり、今度はグリーンバックで、しずくがかっこよく……こけた。かと思えば、璃奈と彼方がすやすやと寝ている微笑ましい姿が映る。
……うーん、えーと?
僕が首をひねると、またシーンが変わった。
本撮影に移る前の部室のようだ。頬杖をついて目を閉じている果林が、気持ちよさそうにして寝言を言っている。
〈もうちょっと寝かせて、エマぁ……〉
「は、早く消してー!」
動画の中とは対照的に、珍しく顔を赤くした現実の果林が、屋内に響き渡るほどの叫びを上げる。
「アハハ、カリン、カワイイ!」
「あれが第二回フェスティバルの告知動画?」
「いや~、あれはボツにした動画だねえ」
だろうね。果林があんな隙のある姿をでかでかと映すなんてこと、許すとは考えられない。
これはこれで面白いが、かなりかっこいい作品に仕上がったって聞いてたから、これはつまり……
「トラブルっぽいね」
それを示すように、ぷつりと映像が途切れた。
たぶん同好会の誰かがミスに気付いたのだろう。しかしどうやら、すぐに再開しないところを見ると、正しい映像が入ったディスクなりメモリーなりは手元にないようだ。となれば、部室に取りにいかなきゃならない。
すぐ誰かが動かないと……
「大丈夫大丈夫。ほら」
彼方が僕を制して、向こうを指差す。
音源や動画を流すためのコントロールルームから、璃奈が走っていくのが見えた。それに続いて、かすみ、しずく。ちゃんとした動画を取りに戻っているようだ。
それはいいんだけど、それまでの空いた時間はどうしよう。
集まってくれている人たちをずっと待たせるのも悪いし……そもそもあれで終わりだと思ってる人が大半のようで、集まっていた人はぞろぞろと別のところへ行こうとしている。
引き留めるのは難しいか。他の部だって動画は流すし、そもそもここに来てくれた人だって、スクールアイドルだけが目的じゃない。もっと時間を取らせてください、とは言えないしなあ……
「アレ、誰?」
ロッティが指差したのは、先ほどまで同好会メンバーの恥ずかしい姿が映っていた巨大モニター……ではなく、その前に現れた、一人の少女だ。
すらりとした長い髪、遠目からでもわかる均整の取れたプロポーションの美しい人が、自信たっぷりの表情でそこに立っていた。
赤いカーディガンを着ているが、その下は虹ヶ咲の制服。でも、あんな人見たことはないんだが……
「スクールアイドル、ショウ・ランジュのデビューステージよ!」
自信満々に上着を脱ぎ捨てた彼女は、綺麗な通る声を轟かせた。
「伝説の始まりを、心に刻みなさい!」
その言葉を合図に、音楽が流れだす。一瞬にして、その場の全員の視線が固定された。だってあまりにも、彼女の動作は優雅さに満ちていたからだ。
マイクを通さずとも校内に響き渡る綺麗な歌声、同好会の誰よりも激しいダンス。EDMに合うだけのキレと華美さに、注目せずにはいられない。
彼女は本当に制服でやってるのか、ちゃんとした衣装で踊ってるんじゃないかと錯覚してしまう。
一瞬ごとに脳を揺らしてくるような衝撃に思わず、体でリズムを刻む。
自分の世界に引き込んでしまうとは、素晴らしい傑物じゃないか。
曲が終わり、すぐさま拍手が起こる。あれが誰だかわからないけれど、この場のみんなが雰囲気に呑まれ、束の間息を忘れていた。
少女が賞賛を一身に受け、満足げに微笑んでいると、モニターの様子が変わった。黒い画面に、『NJIGASAKI HIGH SCHOOL』の文字と、侑のナレーション。こちらが正しい動画のようだ。
あの子のおかげで、ほとんどの人が去っていかずにそれを目にし、歓声を上げる。
「新しいスクールアイドル……」
だけど僕は、あの謎の美少女のことが気がかりになっていた。