オープンキャンパスも無事……無事? まあ大きな事故もなく終えることができた。
流してしまったNG動画も、その後の正式版も大好評で、パンクを直したメールボックスがまたしても容量いっぱいに近づいていく。
あのとき彗星のごとく現れた謎のスクールアイドル、
だが、敵対だとかそういうのじゃなく、ライバル関係としての発言らしいとは、侑の話。
みんなはすでに面合わせしたようだけど、僕とロッティ、ディアはあの後、第二回フェスティバルの動画を見て、その場でショウ・ランジュのことも交えて感想を言い合っていたものだから、機会を逃してしまった。
せっかくなんだから、呼んでくれたらよかったのに。
「内容的には、前回のをベースにする形でいいと思うんだけど」
「賛成でーす!」
「いいと思う! 愛さんもまだまだやりたいことたくさんあるよ!」
「湊さんは何か意見あります?」
振られて、考え事に没頭していた僕ははっとする。
「いや、いいんじゃないかな。前の続編を希望してる人が多いから、何かを大きく変える理由はないと思うよ」
今は部室で、第二回スクールアイドルフェスティバルの会議中。
動画の宣伝効果が大きく、多数の高校から参加希望の連絡が来ていた。前からがらりと変えてしまうとコレジャナイ感が強くなってしまうし、とりあえずは規模を大きくするという方向で話がつく。
あれこれ変えても手が回らないだろうし。
「一番怖いのは、天気ですね」
「たしかに」
しずくと璃奈がもっともな懸案事項を言う。
第一回の時は、雨で大幅なスケジュール変更を余儀なくされてしまった。仕方ない部分ではあるが、それに備えたプランも用意しておかなければならない。またびしょびしょになるのはごめんだ。
「すべてを屋内ステージで出来ればいいんだけど」
「その場合、大きな場所を探す必要がありますね。参加者も前回より増えそうですし」
実際には現実的ではない。キャパが小さいならどうにでもなりそうだが、前よりもっと多い客が来るとなると、相当数になりそうだし。
屋外であっても、屋根があるところならそれなりにありそうだから、そっちを当たる手もありだろう。
「じゃあ、これを窓に飾ろうよ~」
彼方が代わりに、机にあるものをどんと置く。
「てるてる坊主だよ。遥ちゃんと二人で作ったんだ~」
そこに置かれたのは、小さい彼方だった。
寝ているときと同じ閉じた目、猫のような緩い口元。何より特筆すべきは、布団で簀巻きにされている風貌。
妙……ではあるが、なんとも愛らしい。これ普通にぬいぐるみとしてグッズ化できるんじゃないか。
「テルテルボーズ?」
「晴れになりますように、って吊るすやつ」
今まで黙っていたロッティが、彼方製てるてる坊主をつつきながら疑問を呈する。答えたのはディア。
「ヘェ、コレがテルテルボーズ」
「いや、これは全然一般的じゃないからね」
本物はもっと簡単に……説明しなくていいや。後で一緒に作ろう。
「東雲と藤黄からは、参加決定の連絡が来てたし、そっちの打ち合わせも始めないとだね」
東雲のクリスティーナさんと藤黄の紫藤さんに打診したら即座に、もちろん参加する、とのお返事をいただいた。
これで、前回レベルの盛り上がりは保証されたといってもいい。あとはどれほど周りを巻き込めるか、だ。
参加希望の高校はたくさんあるけれど、その全てが出られるかというと怪しい。学校間で許可が取れるかという心配もあるし、日程、距離の問題もある。
より多くと繋がりたいという願いを叶えるなら……やっぱり手伝い程度で収まってるわけにはいかないよなあ。
「あ」
「どうしたの?」
着々と話が進む中、スマホを眺めていたエマに、果林が反応する。
「他の高校でスクールアイドルをやってる友達からなんだけど、私たちと合同ライブやりたいって」
△
「Y.G.国際学園スクールアイドル部部長のジェニファーと」
「副部長のラクシャータです」
エマさんに来た連絡に返事を出してからすぐ、その高校の代表が訪ねてきた。
アメリカ出身、金髪ツインテールの、はきはきした快闊な印象を受けるジェニファーさん。
インド出身、褐色の肌がエキゾチックな、落ち着いた雰囲気のラクシャータさん。
「Y.G.国際学園……」
「海外からの留学生が多く在籍する高校ですね」
具体的には、『日本の高校相当』として認可されているインターナショナル・スクールだ。
スクールアイドル部にも留学生が多い。確か……サイバー系の衣装が特徴のところだったかな。
様々な国の人が集まっているからか、個性は虹ヶ咲並に強く、軍服着た子もいなかったっけか。
「うん。二人とは留学生が集まるネットコミュニティで知り合ったんだ。お互いスクールアイドルやってるってわかって」
「すっごく盛り上がったよね」
「エェ!? ワタシ知らなイ!」
「あ、後で教えてあげるから……」
エマに詰め寄る勢いのロッティをこちらに引き寄せ、黙らせる。放っておくとすぐ話に混ざっちゃうんだから、この子は。
黙らせるのは簡単。口にお菓子を放り込みます。するとあら不思議、座って頬張るだけの、大人しい子に大変身。
「もちろん、スクールアイドルフェスティバルにも参加したいです」
二人の本題はそれ。かねてより虹ヶ咲とは交流したかったそうだ。先日の告知動画を見て、これはチャンスだと思ったらしい。それで、エマにコンタクトを取ってきたというわけだ。
「大歓迎だよ!」
「ありがとう。その前に、お互いのことをよく知りたいなって思って」
「だから合同ライブ」
璃奈の言葉に、二人とも頷いた。
「いいですね! 私たちもY.G.国際のライブ見たいです!」
「決まりね」
ジェニファーさんはパチンと指を鳴らす。
こちらとしても、相手を全く知らないままフェスティバルを迎えるのはなんだかなあ、と思っていたところだ。
それに強烈な個性のY.G.国際と、それをまとめている二人の手腕を見ておくことは、非常にためになるに違いない。
「昨日のランジュのライブもすごく良かったし、みんなのステージも楽しみ! ……どうしたの?」
ジェニファーさんが、かすみを見て疑問符を浮かべる。当のかすみは、わなわなと身体を震わせているかと思いきや……
「ショウ・ランジュがライブやったんですか!?」
「行きたかったー!」
ランジュのことを敵視してるかすみのリアクションも、心底悔しそうに拳を握る侑もなんか……ブレないって感じ。
「ゲリラライブでしたから、見られたのは途中からでしたけどね」
ラクシャータさんが補足する。
なるほど、デビューで一気に注目を集めた彼女が、さらに話題性を獲得しようとするなら、ゲリラライブは納得のいく戦略だ。
噂が噂を呼び、ライブをやれば情報が拡散され、一層話題になる。
ただし、他のアイドルは真似できないだろう。あの恐ろしいまでの高い基準の実力と、それをアウェーでやりきる気骨があるからこそだ。
「盛り上がったんですか!?」
「うん、とっても!」
「むっきー! 悔しいですー!!」
口でむっきーなんて言う人初めて見た。それだけでなく、かすみは地団駄を踏み始めた。
強気な態度で挑発されたことを根に持っているらしく、敵愾心を抱いているようで、ショウ・ランジュの話題となると怒るか、苦々しい顔をする。
「そういえば彼女、ここにはいないみたいですが……」
「ランジュさんは、同好会には所属していないんです」
「え、そうなの?」
せつ菜の答えに、二人とも驚く。
「せっかくだし、ライブに出てくれたら嬉しいけど……」
「湊さんはそういうのお得意ですから、どうにかできないでしょうか」
そういうの?
「いつもみたいに、お話してちょちょいと」
いつもみたいに?
「ちょちょいって簡単に言うけどね、僕はそもそもまだそのショウ・ランジュとは会ってないし……」
「そっかあ」
どういう心づもりで同好会に入らなかったのか、は聞いている。
曰く、『アイドルは夢を与えるだけでいい』。
ファンと交流して、ファンとともに作り上げる同好会のやり方と、彼女のやり方は全く違う。それが、ショウ・ランジュが同好会への入部を取り消した理由。
ただ、実際に彼女の口から言葉を聞いてみないことには、どうとも言えない。
話を総合してみると、敵対するわけでもなく、高め合う相手としてこちらを見ているようだし。
スクールアイドル鐘嵐珠……か。