Y.G.国際との合同ライブで披露したQU4RTZのパフォーマンスはかなり好評だった。SNSで反響を見ていると、絶賛の嵐。
「QU4RTZのライブ最高でした。スクールアイドルフェスティバルでも見たいです……だって」
部室のPCでそれを覗き込んでいる侑も、同じく褒め称える投稿に満足げだ。
「わたしたちが育てました」
「間に合っテよかっタ! またやるナラ、特訓付き合ウ!」
「うっ、かすみんは遠慮しとこうかな~、なんて」
ディアとロッティも自慢げに胸を逸らす。
つきっきりで練習を見てくれていた彼女らには感謝だ。四人の呼吸を合わせるのに時間はあまりなかったけど、とんでもないところにまでレベルを上げさせたのだから。
とはいえ、流石に毎日Alpheccaのメニューをこなすのは無理なようで、かすみは目を泳がせた。
「ユニットは初だったけど、どうだった?」
「四人で歌うの、楽しかった」
「ソロとはまた違う楽しさがあったよね」
璃奈もエマもうんうんと頷く。彼方は、ライブも終わって気が抜けたようで、自分専用の枕で机に敷いて寝ている。
「これでまた同好会の名が広まりましたね。みなさんもどんどん活動して、来るスクールアイドルフェスティバルを大成功させましょう!」
「はーい」
発破をかけるかすみの言葉に、愛が手を挙げる。
「それなら愛さん、オンラインライブやってみたい!」
「オンラインライブですか?」
「うん。会場に来られない人もいるだろうし、ネットでもライブを楽しめれば、みんなで盛り上がれるでしょ」
「おうちでごろごろすやぴしながらでも見られるしね~」
「見るならすやぴするな」
オンラインライブは妙案だ。スクールアイドルフェスティバルだって、生放送を動画サイトで流したおかげで、全国のファンやスクールアイドルに見てもらえたんだし。
「なるほど。フェスの宣伝にもなるいいアイデアですね」
「映像研究部とかに相談すれば、実現できると思う」
「ほんと、りなりー!?」
先にカメラ使うって決めておくと、また違う撮り方もできる。音楽番組みたいに、カメラをダイナミックに動くように指定して、視覚でより楽しんでもらえるようにするのも可能だ。
「私たちも手伝うよ」
「いいライブにしようね」
「みんなありがとー!」
ますます一丸となってる感が増してきた同好会。活動の幅も広がってきていて、人気も上がってきていて、順風満帆だ。
「せっかくならユニットにも挑戦してみたいなー」
「おー、見てみたい!」
「まだ全然ノーアイデアだけどね」
あはは、と愛は笑う。
「大人数でも楽しそうだし、二人でも面白そうだよね」
基本的に、ステージの上では一人なぶん、誰かと一緒にやるとなると新鮮さがあるのだろう。他の学校だと、それが普通なんだけどね。
ユニット、か……愛がユニットを組むなら、誰の隣が一番似合うんだろう。
△
次の休日、その日は、果林とショッピングモールをぶらぶら歩く約束をしていた。
時折店の中に入って、着こなしから色の使い方などのレクチャーを受ける。時々こうやって、果林からファッションについて教えてもらいながら、適当に歩いているのだ。
女性ものだけでなく、男性ものにも詳しい彼女の話は、衣装や小物を考える時に活かせるし、普段の生活でも意識していれば、それなりには見えるようになる。
「そういえば、かすみちゃんから聞いたわよ。こうやってデートしてるの、私だけじゃないみたいね」
「それはみんなが誘って……デートじゃない」
かすみにも言った通り、これは散歩に近い。別に何か買うわけでもなく、眺めているだけなのだから。
「男と女が一緒におでかけすれば、それはデートなんじゃない?」
「君が言うと、それ以上の意味があるように聞こえる」
「あら、それ以上ってどんな意味?」
すっと寄ってこようとする果林から、一歩遠ざかる。
「いつもよりガードが固いわね」
「隙がありすぎだって言われてね。スキンシップを許し過ぎてるって」
「人と触れ合っていると、心が穏やかになるらしいわ」
「君相手だと、穏やかとは程遠くなる」
「ずばり言っていいのよ、魅力的でドキドキしちゃうって」
「魅力的でドキドキしちゃうから勘弁してください」
「そう言われると近づきたくなっちゃうのよね」
どうしたらええねん。
エマみたいな天然も困るけど、こういう自分の魅力を分かってるのも厄介だ。しかもそれが身近にいて、近づいてこようとする人ならなおさら。
「なんでそこまで警戒するのよ」
「それに対する答えは時系列順か、悪質だった順か、どっちで答えてほしい?」
「悪質だなんてひどい。傷ついたわ。人肌で癒してもらうしかないわね」
こういう時、他に誰かがいると止めてくれるのに、一対一だとかわしきれない。
僕の口撃にめげることなく、むしろ近づいてくる。
突き放したら向かってくるとは、なんてあまのじゃくだ。そのくせ受け入れるようなことを言えば、素直に来るし。八方塞がりじゃないか。
「あれ、カリン、みーくん!」
壁に追いやられる寸前、よく聞く声が果林の向こうから聞こえてきた。
愛だ。果林とは違って、何の企みもない笑顔でやってくる。
興が削がれたようで、果林は僕からすっと離れた。
「やっほー。何してるの?」
「デートよ」
「デートじゃない」
「じゃあ……二人きりでおでかけってとこかしら?」
「それってデートじゃん」
「デートじゃない」
二人揃ってなんと聞き分けの悪いことか。
はあ、とため息をついて視線を逸らすと、愛の横にいる女性に気づいた。
「そちらは?」
「紹介するね。こちらはアタシのお姉ちゃん!」
「え?」
「……的な存在の――」
「
綺麗な女性だった。柔和な雰囲気で、言ってしまえば愛とは反対のような人。
僕たちより十は歳上だろうか、大人っぽいとは別の、どこか儚げな空気を纏っている。
「お姉ちゃん、この子は朝香果林。アタシと同じスクールアイドル同好会のメンバーだよ。こっちはみーくん。同好会を支えてくれてる人!」
ちゃんと紹介してくれ。軽音楽部の子にも未だ『みーくんさん』って呼ばれてるんだぞ、こっちは。
「初めまして。いつも愛ちゃんがお世話になってます」
「初めまして。天王寺です。天王寺湊」
「朝香果林です」
「愛ちゃんからよく聞いてるわ。果林ちゃん、湊くんって呼んでもいい?」
「ええ。もちろん」
果林も僕も、微笑んで返す。
「そうだ! 二人も誘っていいかな?」
△
「上手すぎ……」
「二人とも、凄いわ」
愛に連れられて向かったのは、複合アミューズメント施設。
ここではスポーツだけでなく、ゲームもあり、様々な娯楽が楽しめる。一日中入り浸っても足りないくらいの種類の豊富さがウリだ。
まず手始めにボウリング。今は一ゲーム終わったところ。愛も果林も上手で、何度もストライクやスペアを取っていた。
二人とも高い点数で、僅差で愛が勝つ。川本さんはその半分くらい。次いで、最下位に僕。
「愛、もうワンゲームよ」
「望むところだよ」
ギリギリで負けた果林はリベンジの闘志を燃やしていた。お互い負けず嫌いだから、そう簡単に退いたりしないだろう。
ボウリングなんて人生の中で片手で数えられる程度の僕は、とりあえずコツを掴むところから始めないと。
「私はお休みしてるね」
「どうしたの? 具合悪い?」
「大丈夫。ちょっと疲れただけよ」
「そっか。でも少しでもおかしいって感じたら、ちゃんと教えてね」
「はいはい」
よく愛の話に出てくるおばあちゃんならわかるが、川本さんはまだ全然衰えなんかを気にする年齢じゃない。
それなのに、愛はやたらと彼女のことを心配している。違和感を感じて、僕も果林も、二人を交互に見た。
「みーくんは?」
「もう一ゲームだけなら」
よーし、と愛はタッチパネルで次ゲーム開始のボタンを押す。『しばらくお待ちください』の文字が出ている間、座っていると、川本さんが話しかけてきた。
「愛ちゃんって、学校だとどんな感じ?」
「今と変わりませんよ。いつも楽しそうで、周りを笑顔にしてます」
「同好会でも、みんなを引っ張っていったり、ダンスを教えてくれたりもするわよね。みんなのムードメーカーですよ」
「元気に学校を過ごせてるみたいで、安心したわ」
安堵の表情を見せる。まるで本当の姉のようだ。妹のことが気になるその気持ちは、僕には痛いほど分かる。
「川本さんは……その、お身体が悪いんですか?」
ちょっと聞きにくいことだけど、さっきの違和感が気になって言う。
「私、最近までずっと、入院と退院を繰り返してたの。今はもう元気なんだけどね」
「だから今日は退院祝いなんだ」
「それは……私たちもご一緒してよかったのかしら」
果林は困ったように僕を見る。せっかく水入らずだったのに、邪魔してしまったかな。即座に、川本さんは首を横に振った。
「誘ったのは私たちだもの」
「いーっぱい遊ぼうね!」
そう言った愛は、今までの分を取り返すかのごとく、川本さんと僕たちを連れまわした。
ダーツ、ビリヤード、音ゲー……この施設にあるものは片っ端から楽しんでいく。
僕は愛や果林に圧倒的な差をつけられ、川本さんとどっこいどっこいの点数。唯一良いところを見せられたのはレースゲームくらい。
めまぐるしく色んなことをして、気づけば何時間も経っていた。
お次の目当てはお台場海浜公園から出る水上バス。だが、まだほんの少し出発までは時間がある。
流石に体力もそこそこ消費してしまったので、外に出て体に風を当てる。結構白熱してたみたいで、かなり涼しく感じた。
「スクールアイドルの宮下愛ちゃんじゃん!」
通りがかった同年代の女の子たちが、愛に近づく。ファンだったようで写真撮影を頼んできた。無論、彼女はOKを出して、ファンの子のスマホで一緒に写る。
「もうすっかり人気者なのね」
「そうですね。歌もダンスもハイレベルで、私にとっては負けられないライバルです」
「同好会のことはよく聞いてるわ。いつも、愛ちゃんは楽しそうに話してくれるの」
そう言いながらも、川本さんは浮かない顔を見せた。疲れたのだろうか、とも思ったが、どうもそれとは違うような気がする。
どうしたんですか、と声を掛けようとしたとき――
「お姉ちゃん、もうすぐ水上バス来るって!」
愛の呼び声で、タイミングを失ってしまった。
△
最後に、と愛が連れてきたのはもんじゃ焼き屋。
愛の実家ではないが、おすすめのお店らしく、
注文も作るのも愛に任せて、僕らは出来上がっていくのを見つめる。前にも思ったが、手際が良い。
美人でコミュ力高くてスポーツ万能、勉強もできて料理も出来るなんて、改めてとんでもない。
「あとは、大きなもんじゃせんべいが出来るまで待つだけ」
「さすが、もんじゃ焼き屋の娘だわ」
「えへへ、どんなもんじゃい!」
欠点があるとすれば、ダジャレがつまらないことか。いや、それすらも愛嬌に感じるのだから、ずるい。
「あのねお姉ちゃん、アタシ、今度オンラインライブするんだ! いきなりライブ会場はハードル高いかもだけど、オンラインなら……!」
「絶対見るよ。ありがとう、愛ちゃん」
良いことを親に知らせる子どものように、愛は嬉しそうに報告した。
「オンラインライブは、美里さんのためだったのね」
「もちろんたくさんの人に見てほしいのも本当だよ。でもね、実は愛さん、小さい頃は結構泣き虫の人見知りだったんだ」
「冗談でしょ?」
果林同様、僕も目を丸くした。笑顔を振りまいて周りを明るくする愛が、泣いてるところなんて想像ができない。
「ほんとほんと。でもお姉ちゃんがいつも笑いかけてくれて、たくさん遊びに連れて行ってくれたおかげでいっぱい友達も出来たし、体動かすのも大好きになったんだ」
「つまり、川本さんは今の愛にとっての原点だってこと?」
「そうそう。お姉ちゃんがいなかったら、アタシはまだ暗いままだったよ」
当の本人は少し恥ずかしいようで、はにかんだ。
良くも悪くも、子どもというのは近くにいる人の影響を受ける。今の愛がこれだけ愛される存在になったのは、川本さんのおかげなのだ。
「だから今度は愛さんの番。やっと元気になれたんだもん。色んな所に行って、楽しいこといっぱいしようね!」
「そうね」
「さあ、食べて食べて!」