「どう、かな?」
「僕が良いって言ったら、君はそれで満足?」
僕は、不安げに見てくる侑に意地悪く返した。
文化祭初日、研修施設で寝泊まりして、予定通り朝早くから部室に集合した僕ら。五日間の大トリに披露する予定の新曲を、手掛けた侑から聞かされた。
完成度自体は、悪くはない程度だ。それを彼女自身もわかってるからこそ、こうやって訊いてきているのだろう。
「侑はどう思ってるの?」
「正直、あと一歩だと思ってます……」
がっくりとうなだれて、侑はため息をつく。
「待たせちゃって申し訳ないけど、もう少しだけ考えてもいい?」
音楽に携わりだした時間を考えれば及第点の曲だが、それを歌うのはスクールアイドルで、聞くのは観客だ。妥協はしたくないし、許されないと思っているのだろう。
「もちろんだよ」
歩夢はにっこりと笑う。
曲を楽しみにしているのは、僕や侑自身だけでなく、アイドルたちもだ。むしろ彼女たちが一番期待してるかもしれない。
なにせ、夢に向かって羽ばたき始めた侑が作る、自分たちのための曲なのだ。
この作曲は、例えれば、ステージで歌って踊るために練習しているようなもので、その楽しさや苦しさを知っているみんなは急かすことなく待ってくれている。
それは僕も同じで、焦ってもいいことにはならないし、思う存分悩むほど成長できるから、静観中。
「さて、そろそろ時間だ」
時計を見ると、出発の時間。
待ちに待ったスクールアイドルフェスティバル。さあ、気合を入れていこうか。
△
一日目の舞台は東雲。
黒いスタッフTシャツを着て、集まったスクールアイドルたちと挨拶を交わした後、ステージ裏に回って準備を進める。
「あ、天王寺さん」
音源が入ってるPCを前に、他のスタッフとの最後のリハーサルが終わった後、副会長がやってきた。
「ご用意はいかがでしょうか?」
「ばっちりだよ。音響と照明に、天気も良い。あとは、アイドルたち次第かな。それより……」
なんでここに、と口に出す前に副会長は焦って前に出てくる。
「私もニジガクの副生徒会長として、仕事をしなければなりませんから!」
「その団扇がなければ納得したんだけどな」
せつ菜の名前が書かれた団扇を両手に抱える姿はファンでしかない。
あわよくば会おうとでも思ってたのだろうか。職権濫用ですよ。
「おっと、来たぞ」
ちらりと校門の方を覗くと、開場時間になった瞬間、門をくぐってくる人、人、人。
親子連れにカップル、友だち同士、もちろん個人でのお客さんも。
思ったよりもたくさんの人数が校内に入ってくるのは中々に圧巻だ。今まで色んなライブでもあったけど、文化祭となるとその層のバラエティの豊かさに驚く。
問題はスクールアイドルのステージにどれだけのお客さんが来てくれるか。
この日になるまで動画やSNSで期待値を煽り、前夜祭も大盛り上がりだったが、はてさて……なんて気にしていたのは杞憂だった。
ライブ開始予定時間の三十分前から、屋外特設ステージの前には人がごった返している。
入場の整理のため、副会長はすぐさま仕事モードに入ってそちらに向かう。僕は僕で、整っている準備をもう一度確認。
始まりが肝心。前夜祭が始まりだろと言われても否定はできないけど。とにかく、一日目の最初だ。
「さて」
一日目のオープニングを飾るのは、当然この学校のスクールアイドルたち。振り返れば、すでに用意は完了しているようだ。
「みんな、いい?」
「もちろんです」
クリスティーナさんが頷く。それを受けて、PCのエンターキーを押す。照明が輝くとともに、お腹を震わすサウンドが響く。
東雲のアイドルたちはぱっと舞台上に並び、イントロとともに一糸乱れぬ踊りを披露した。
その統率の取れた動きは、個人個人だけでなくチームで日々練習しているからこそ。僕らとは違う一つの道。
今日、もちろんメインは東雲のスクールアイドルによるステージ。だがもちろんそれで終わりじゃないのが、このフェスティバルである。
盛り上がりが最高潮に達したところで、サプライズとして壇上に上がったのは、東雲のスーパールーキー遥さんと、我らが虹ヶ咲の眠り姫である彼方だ。
『近江姉妹が揃ったところが見たい』
五つの学校が入り混じると決まった時、ファンの人から何通も届いた要望の中でも多かったものだ。
それは彼女たちも望むところで、ならばやらない理由はないと着々準備を進めた。新曲ではなく、お互いの持ち曲を交互に歌う形だが、二人の息はぴったり合う。
元々、遥さんはグループに所属しているから合わせるのは得意だっただろう。彼方も鬼教官のユニット練習を経て、足並み揃える経験を持っている。
それになにより羨むほど仲の良い姉妹だからだろうか、とても楽しそうだ。
ステージを終えて、裏に戻ってきた彼方は涙しながら遥さんに抱きついた。
「遥ちゃんと同じステージに立てるなんて……もう彼方ちゃん感激だよ~」
「もう、お姉ちゃんったら……でも私も同じ気持ちだよ」
彼女たちのこれまでを思い出すと、今の光景に頬が緩む。
東雲のスーパールーキーである遥さんに、追いつけ追い越せと彼方は一人でヴィーナスフォートで舞った。お互いを対等な存在として認め合ったのがだいぶ過去のように思える。
それだけ、今のこの二人が一緒にいる時間の密度が濃いのだろう……なんて、微笑みながら思った。
△
「湊先輩、一緒に回りましょう」
昼も過ぎ、客数はピークを迎えたと思えるほどたくさん。その中には、スクールアイドルの感想を言い合っている人たちも少なくない。
それらをBGMにしながら校内を見回っていると、しずくとかすみがやってきた。
「そうか、もうそんな時間か」
頭の中のタイムスケジュールを引っ張り出す。
虹ヶ咲の一年生のステージが終わり、それ以降は出番はない。この二人にも文化祭を楽しんでもらいたいため、後の時間にも仕事は入れていない。
「かすみんみたいな可愛い女の子を連れ回せるなんて、湊先輩は幸せ者ですねえ」
「そうだね、じゃあ……一緒に行こうか」
「えっ」
素直に受けたのに、言ってきたかすみもしずくも目を丸くした。
「こんなにあっさり……この人、ほんとに湊先輩?」
「もしかしたら宇宙人が湊先輩の皮を被ったりしてるのかもね、かすみさん」
「嫌なら別にいいんだぞ」
「いえいえ! ぜひ、ぜひ行きましょう!」
五日間あるのだ。気を張りすぎても良くない。
もしも何かが起きたら、基本は東雲の文化祭実行委員やスクールアイドル部が何とかしてくれるし。多少はめを外しても構わないだろう。
「なら、ご案内しますよ」
そう声をかけてきたのは、衣装から着替えた遥さんだ。
「いいの? せっかくの合間の時間なのに」
「せっかく来てくれたんですから、楽しんでもらわないと困ります」
人懐こい笑みを浮かべて、彼女はそう言った。
一応パンフレットも持っているが、ここは一番詳しい校内の人がいてくれたほうが心強い。
そういうわけで、僕らは彼女の親切に甘えることにした。
すいすいと進んでいく遥さんを先頭に、周りを見ながらついていく僕ら三人。
他の高校、ましてや女子高なんて中に入る機会もないから、なかなか興味深い。が、きょろきょろとしているのも恥ずかしいので、世間話も振る。
遥さんはスクールアイドルや学校生活のことも話してくれたが、何より彼方の話が多い。この姉にしてこの妹あり。
ここ最近は練習ずくめだったこともあって、かすみとしずくとも話が盛り上がっている。
下級生ならではの苦労があるらしく、上級生との実力や成長の差を感じてしまったりとか、来年後輩が出来ることに憧れを持ちつつ先輩となった自分の姿が思い描けないだとか。
僕も結局、先輩とはどうあるべきかという問題に対して答えられないレベルだ。去年・一昨年にお世話になった人はいるが、部活動での関係はまたそれと違ったものだし。
良い先輩になれてるんだろうか。
話題は、つい最近のことに移る。
「え、遥さんの料理食べたんだ」
「すーっごく美味しかったんですよ!」
「えっへん。お姉ちゃん直伝ですから」
QU4RTZでそれぞれの家に泊まった時、彼女たちは遥さんの手料理をいただいたのだと。
「羨ましいなあ。私も遥さんの手料理食べてみたい」
「彼方に教えてもらったって、それだけでお墨付きみたいなもんだね」
あんなの毎日食べてたら、コンビニ飯とか外食とか物足りなくなっちゃうよなあ。あんな美人から出てくる極上の料理をずっと食べられるとか、男からしたら至高の夢だ。
「お姉ちゃんが言ってましたよ。湊さんも料理上手だから、教えてもらうといいって」
「彼方と比べるとなあ……」
「でも、この間の、とても美味しかったですよ」
「遥さんに料理作ったんですか?」
「彼方と一緒に作ったやつをね」
「彼方先輩と一緒に作ったやつ!?」
「僕の家で」
「湊先輩の家で!?」
僕が何か言うたびに、二人からは驚かれ、遥さんはにこにこする。
「お互いにためになることが多いから、今も時々やってるよ」
月に三、四回程度、彼方とスーパー巡りをしている。容量の多い物を分けられて節約になるから、あちらもこちらも助かっている。
その後は大体、料理の作り合い会。まあ、和洋中問わず彼方のほうが腕は上なんだけど。
「私にも教えてほしいなあ」
「あ、ずるい! 湊先輩は妹に甘いんだからそれ以上はダメ!」
「誰だそれ言ったの」
璃奈以外には平等なつもりだぞ、僕は。
「湊先輩の家に行ったことないの、この中で私だけ……」
しょぼんとするしずくを宥める人は、誰もいなかった。
△
「ここが私のクラスの出し物ですっ」
じゃん、と効果音を口に出しながら、遥さんは一つの教室を指し示す。とは言うものの、扉の前は真っ黒のカーテンで仕切られ、向こう側は何も見えない。
外には受付用の机が一つ。その周りにはおどろおどろしい化け物や骸骨が描かれた看板。極めつけはその中央に書いてある文字……
「お化け屋敷……せっかくですけどかすみんは──」
「三人一緒で」
間髪入れず、受付にそう告げる。
「やだぁ! 私、外で待ってますぅ!」
「はいはい、迷惑になるから行こうね、かすみさん」
しずくも容赦なくかすみの腕を引っ張って、闇の中へ向かっていく。
「いってらっしゃーい」
三人とも中に入ったところで、ぴしゃりと扉が閉じられた。
遥さんのクラスお手製のお化け屋敷は、作りとしてはよくあるものだ。
段ボールで壁が作られていて、自分の周り数十センチ程度しか見えないくらい暗い。
外の喧騒がほんのり聞こえてくるものの、雰囲気は本格的だ。何かいそうな空気が充満している。
お化け屋敷はこういうところが妙だ。曲がり角に何かいるにしてもいないにしても、心は勝手にそこにいると思って怖がる。恐怖を生み出しているのは半分が自分自身なのだ。
などと落ち着いていられるのは、ぎゅうっと全力で腕を掴んでくるかすみが──
「ひええっ!」
カタリ、とどこからか音が鳴ったくらいで跳ねるほど怖がってるからである。
人間というのは不思議なもので、近くに超絶ビビリがいると冷静になれるものだ。
「ぜ、ぜぜぜぜーんぜん怖くないですけど? ほほほほら、こうやって怖がってる後輩って可愛いですよね?」
君の声でビビっちゃうんだけど。
「ぴぃっ。い、いい今、何かが背中触ったぁ!」
「私だよ」
「しず子なにしてんの!?」
しずくは余裕らしく、かすみの反応を見て面白がっている。虹ヶ咲スクールアイドル同好会名物、味方だと思っていたら敵だった、である。
というか、かすみ、痛い痛い。そんなに力込められるとうっ血しちゃう。
「私も怖いです、湊先輩」
「……もうちょっとアドリブ力を鍛えないといけないな」
「むぅ」
暗い中でも膨れた顔が見えるほど近いのはやめてくれないですかね。違う意味でドキドキしちゃう。
その後も突然、雷の響くような音が流れたり、
「うひぃ!」
どこからか風が吹いたり、
「ひぇっ!」
骸骨が急に目の前に現れたりもした。
「わあああああ!!」
そのたびに悲鳴を上げ、力を増していくかすみ。離したいけど、そうすると泣き出しそうだからな、この子。
「早く出ましょう、今すぐ出ましょう!」
ぐいぐいと背中を押される。そんなに出たいなら君が先に行けばいいのでは?
しかし、その意見には賛成だ。このままだと僕の腕が壊死してしまう。
急かされるままに早足になる。ほんの少し光が漏れ出ている窓を見つける。あれが出口だ。
そこに近づいた瞬間──
「がおーっ」
顔を白く塗った遥さんが、どこからかぱっと現れた。
急ごしらえのためか、それ以外は黒い布を纏って姿を隠している程度だが、かすみには効果抜群だったみたいだ。声にならない悲鳴を上げている。
「ふふ、びっくりしました?」
「そこは普通、うらめしや、とかじゃないの? それか無言でぬっと出てくるか」
「あっ」
がおーって、熊とかじゃないんだから。
「あとちなみに、そんな笑顔で来られても困るよ。そんな可愛いお化けはいません」
そう告げると、遥さんの顔がますます赤く……というかピンクになっていく。わあ、白塗りでも顔色の変化ってわかるんだ。
「こんな状況でも口説きにかかる湊先輩……ぶれませんね」
「かすみん、ちょっと落ち着いてきちゃった」
△
さてさて、文化祭二日目。本日の舞台は藤黄。
今日のお客さんはまた一段と数が増えていた。昨日のがSNSのトレンドに乗り、テレビでも紹介されていたのが大きかったようだ。
キャパ的な問題がある……のを見越して、学校の外にも屋台やステージを置いたのが功を奏した。校内に集まられたら捌ききれないほどの人が、いい具合に分散されている。
今回のサプライズステージは、果林と綾小路さんによる限定ユニットだ。
セクシーさを売りにした紺色の衣装を綾小路さんが着ても、その華美さが失われることはなく、新しい魅力を引き出している。
二人ともお互いに負けることなく、それぞれの色を出し切って踊りきった。
「か、果林さんと同じステージに立てるなんて……感激です!」
あれ、デジャブかな。昨日も同じセリフ聞いたような。
「負けないつもりでやったけれど、あなたも素敵だったわ」
「は、はい! ありがとうございます! 光栄です」
ぐっと握手して、綾小路さんはキラキラとした目で
スクールアイドルとそのファンみたい。いやまあ、実際そうなんだけど。
彼女が果林のファンだってことは周知の事実で、なら一緒にやらないかと果林から声をかけたのだ。
最初は、恐れ多いと固辞しようとしていたのだが、周りに押される形でステージに立たせることにした。ファンよりも彼女のほうがはしゃぐような結果になったから、やっぱりやらせて良かったな。紫藤さんと一緒になって攻めたてた楽し……苦労が報われたよ。
ここのステージは、後はほとんど藤黄の出番。他にもステージはあり、そこでは他のアイドルや部活が活躍している。なのだが、虹ヶ咲が出られるのはまだまだ先。だいぶ時間が余ってしまった。ふむ。
「湊くんはこれからどこに行くの?」
スタッフTシャツに着替え終わった果林が、訊いてくる。
「時間空いたし、ステージでも見て回ろうかな」
「それって、トラブルが起きてないか見回るって意味じゃないわよね?」
それのどこが悪いんですか。人手は足りてるけど、仕事は探せばいくらでも湧いてくるものだ。
何にも問題がなくてもね、ほら、設置されたごみ箱の袋とか交換しないといけないし。僕の仕事じゃなくて、文化祭実行委員の仕事だけど。
「……放っておいたらこれだものね」
抗議する前に、盛大にため息をつかれてしまった。
「フェスティバルなのよ。時間が空いたら、遊ぶに限るわ」
「それは……まあそうだろうけど」
同じようなことを僕はみんなに言っている。だったら、自分からやっていかないと示しがつかない……というのは分かってるけど、でも一人で回るの寂しいじゃないか。
「大丈夫よ。私がついていくわ」
心を読んだかのようにそう言い、僕が避ける間もなく、彼女は腕を掴んできた。
「っ、果林……!」
「ふふ、なぁに?」
ぎゅっと体を密着して、腕を絡めてくる。柔らかくもハリがある彼女の体が布越しに伝わってきて、非常によろしくない。
「人の目がいっぱいあるんだから、こういうことは……」
「人の目がないところだったらいいのかしら?」
「そういう意味じゃなくて」
「でも、放したらあなたはどこか行っちゃいそうだし、私は迷子になるわよ」
そんな自信満々に言うことじゃありません。
スクールアイドルとしてもモデルとしても名のある朝香果林が、こんなことしてちゃいけないだろ。
「だったら、彼方ちゃんもついていくよ~」
どこからか、にゅっと彼方まで現れた。
「あら、彼方も?」
「暇になったところだったから、ちょーどよかったよ~」
「どこ回ろうかしら」
「お腹空いたから、とりあえずどこかご飯食べられるところがいいなぁ」
「決まりね」
僕を挟んで会話してるのに、僕の意思ゼロのまま話が進んでいく。もう君ら二人で行ったらいいんじゃない。
「しゅっぱ~つ」
僕が口を挟めないでいるのをいいことに、彼女たちは背中を押しつつ腕を引っ張りつつ、ずるずると僕を引き摺っていった。
△
「お、天王寺さんたち!」
廊下を歩いていると、紫藤さんに呼び止められた。教室の前で看板を持ってる彼女は、黒のワンピースにフリルがついている白のエプロンのシックなメイド服に身を包んでいる。
「なんだかげっそりしてるね」
「連行されました」
果林を腕から引き剥がすのに体力を持っていかれすぎた。おかげで好奇の目にさらされることはないけど……
まあいいや。過ぎたことは頭から放り出すのが一番。
「ここ、君のクラス?」
「そ。メイド喫茶! おかえりなさいませ、ご主人様~」
にっこりと笑みを浮かべ、彼女は教室の中を示した。いっぱいお客さんがいて賑わっている。
まあガチ女子高生がメイドやってるなんて、ねえ? 男としちゃ、そりゃ吸い込まれますよね。
「盛況みたいだね」
「それはもう、私スクールアイドルですから。客寄せパンダとしては一流でしょ?」
もうちょっと言い方あるだろうに。それこそ看板娘とか。
「ライブは?」
「さっき出番が終わって、ダッシュで来たんだ。さあ食べてって食べてって! カップル割もやってるよ!」
元気だねえ、と感心していると、後ろから猛烈な圧を感じる。紫藤さんの言葉を聞いた瞬間、見えないけど後ろの二人の目が光った気がした。
「彼女で~す」
「彼女二号よ」
「悪名広がるからマジでやめてくれない?」
とんでもないことを言い出した二人に焦る。
二股してるとか言われたら嫌なんだけど。彼女、一人もいないのに。
「やるねえ、湊くん」
「君も、からかうのはよしてくれ」
「まあまあ。ちゃんと割引はしてあげるからさ。三名様カップルごあんな~い」
高らかに宣言しながら案内するのやめてよ!
ツッコみたい衝動を抑えたまま、奥の席に通される。学校机四つを合体させ、テーブルクロスをかけた座席。
とりあえず適当にご飯とデザートを頼み、店内を見渡す。本物のメイド喫茶がどうなのかはわからないけど、全体的に壁紙や机、椅子もピンクに統一されている。カーテンがレースなのも雰囲気に一役買っている。
そういったジェネリックメイド喫茶的な雰囲気を楽しもうとしている人が多いのか、老若男女関係なく客層がばらけている。
紫藤さんの客寄せ作戦が成功しているのか、女子学生も楽しんでいるのを見ると、逆に僕が場違い感を感じる。
その紫藤さんはかなりの人気で、メイドとしてはどうか知らないけど、格好は様になっているし、写真もいっぱい撮られている。さすが現役スクールアイドル。
「ふむ」
「湊くんはメイド服がお好み?」
「フリルがついてる服だけど、ステージ衣装やゴスロリ服とも違う印象を受けるよね。どうにかして、あれをライブで使えるようにできないかな」
コスプレ衣装としては、メイド服は王道中の王道だろう。別に歌って踊らなくても、撮影するだけでも良い反響は貰えそうだし。
「も~、今はそういうの考えずに、お祭りを楽しもうよ」
「そうよ。それに、よその女の子をじろじろ見るのもダメよ。今は彼女が目の前にいるんだから」
それ、いつまで続けるんだ。