天王寺湊は虹を駆ける【完結】   作:ジマリス

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87 両手に花じゃすまない

「よぉし、これで全員ですね」

 

 キャリーケースを傍らに置き、点呼を終えたかすみがうんうんと頷く。

 

 以前言っていた通り、今日はしずくの家へみんなでお泊りする日だ。

 それだけでなく、せっかく全員揃うなら早めに集まって一緒に遊ぼうということで、朝から横浜に集合していた。

 

「両手に花……どころじゃないわね。両指に花よ、湊」

「君たちを表すのに花で足りるならね」

 

 男子一人に対して女子十五人。傍から見たらどういうふうに映るか。とんでもなく羨ましいと嫉妬されるだろう。しかもそれらが今大人気の虹ヶ咲学園のスクールアイドルとなればなおさらだ。

 ランジュは僕の言葉に眉を顰め、そのまま一年生のほうへ振り向いた。

 

「こういう人なんです」

「ミナト、マジで気を付けたほうがいイ」

 

 かすみもロッティも指差してくる。

 

「なんだよ、僕変なこと言った?」

「こういう人なんです、ほんとに」

「心臓を撃ち抜いてきた回数は、それこそ両手じゃ足りないくらいね」

 

 心臓? 生徒会副会長の脳を破壊したらしいことくらいしか覚えがないけど。

 

「湊先輩は、目を離したらすぐに女の子口説いてますからねえ」

「そんなに?」

「口説き文句でかるた出来るくらい」

「それも二セット」

 

 一枚も出来ません。

 

 さて、最初に何をするかと言ったら、ショッピングだ。

 この近くにはバラエティに富んだ店がたくさんあり、商店街なんかもある。

 しかし、こんな大勢で一斉に店に入るのも迷惑になるので、何組かに分かれることにした。

 

「じゃあ、誰が湊くんと一緒に回るか、勝負ね」

「よし、じゃんけんで決めよう! 恨みっこなしね」

「もちろん。けどわたしが負けたら、勝ったやつを呪う」

「恨みっこありじゃん!」

 

 

 

 

 寒気を吹っ飛ばしてしまうほどの激戦が終わった。その後、元から仲の良かった者たち、まだあまり深くは話したことはない者たち、普段は見ないような組み合わせなど、各々好きに組む。

 他の組が去ってから、僕らも行動を始める。

 

「あっちは土地勘のないミアに、迷子癖の果林……か」

「大丈夫。果林さんにはちゃんとGPS付けてる。エマさん発案」

 

 他のグループを心配する僕へ、璃奈はピースサインを向ける。

 こちらは僕、璃奈、歩夢、愛の四人組。ファッションに興味がある彼女たちに行く先を任せ、僕は後ろからついていく。

 

「だから今はデートに集中っ」

「デート、ねえ」

「でもこうやって──」

「分かってるよ。男と女が一緒に出かければそれはもうデート」

「認めるんだ……」

「というか諦めと開き直りかな」

 

 真実はどうあれそういう気持ちでいたほうが楽しいのも事実だ。少なくとも、名目上はデートということで問題はなかろうて。

 それに、愛に何言っても無駄なのはもう分かりきってるし。否定否定のツッコミだらけだと、今日は特に人数が多いのだから疲弊してしまう。

 丸くなったというか寛容になったというか、毒されているというか。自覚できるくらいに変わっていっているなあ。

 それは僕だけじゃなくて……

 

「……?」

 

 歩夢をじっと見ていたら、首を傾げられた。

 

「歩夢が侑と一緒にいないところを見るのは、なんだか新鮮に思えて。一学期のころは、歩夢と侑はなんていうか、セットみたいな感じだったから」

「そんなに?」

「そんなに」

「うーん……?」

 

 さらに顔を傾ける彼女に、僕は苦笑した。

 

「離れるのを許さないレベルで近くにいたからね。今思えば、かすみが侑に抱き着いたりしてる時に凄い顔をしていたような気も」

「してないよぉ」

「音楽のことでお兄ちゃんが侑さんを独占したの恨まれてそう」

「ありそう」

 

 侑が音楽科に入ろうと頑張って練習していた時だけで言えば、一番同じ時間を過ごしたのは僕だろう。ひけらかすつもりはないが、盗られたと思われても仕方あるまい。

 ……というようなことを冗談交じりに言ってみると、目を逸らした。

 

「な、ないよ……?」

「あるじゃん! これあるよ、みーくん!」

「土下座までだったら覚悟出来てる」

「もー、からかわないでよぉ」

 

 いつ見ても歩夢の怒る姿はなんか笑ってしまう。怒り慣れていないからか、精一杯頬を膨らませる姿はまるでリス。あゆぴょんに続いてリスである。多彩だね。

 

「で、寂しかった?」

「寂しかったのは確かだけど……侑ちゃんが離れていきそうで」

「ないな」

「ない」

「ないでしょ。全然想像できないって」

 

 僕たちは三人で口々に否定する。

 侑が歩夢から離れるなんて、あり得ないと言ってもいいほどだ。

 普通科から音楽科に行った後だって、二人の様子は全く変わらず、むしろ近くなっている。

 歩夢がスクールアイドルになるのを侑が応援して、侑が音楽に携わることを歩夢が応援して、お互いの夢を尊重しながら負けじと成長し続けている。仲間でライバルというのはここにも存在していた。

 

「近すぎて見えないってことなのかもね。意外とそういうのは第三者のほうが分かるのかも」

「そうそう。みーくんとりなりーみたいに、もう切っても切れない関係なんだって」

「そう。愛と川本さんみたいにね」

 

 近くにいすぎて当たり前になってるから、絆が深いことに気づかないなんてことはざらにある。

 相手を大切にしていれば、別にそれは悪くないものだ。

 

「みんなとも、そういう関係になれたらいいな」

「りなりー可愛すぎっ!」

「いいなあ、私、璃奈ちゃんのお姉ちゃんになりたかった」

 

 ふふん。

 

「みーくん、またシスコンが出てるよ」

「出してるんだよ」

 

 みんなが可愛い可愛いという璃奈の兄は僕なんだから。そりゃ誇らしくもなりますよ。

 

 数分歩いたところで、目についたお店に入る。帽子屋だ。

 服屋の一コーナーとかでちらりと目にすることはあるけど、こういった専門店は初めて。

 それほど広いわけじゃないけど、所狭しと様々な種類のものがある。時期柄だろうか、ニット系のものが推されている。

 

「これ、歩夢さんに似合いそう」

「わ、可愛い」

 

 歩夢は、璃奈から手渡されたニットベレー帽を試しに被る。元から着けていたみたいに自然だ。

 ふわふわしてるものって、歩夢に合う。A・ZU・NAの衣装であるアニマル系のも違和感なかったし、今度もっこもこの全身毛皮衣装とか提案してみるのも面白そうだ。

 

「歩夢って、正統派って感じで可愛いよね」

「そうだね。君も、元々アイドルやってなかったのが信じられないくらい可愛いよ」

 

 モデルの果林と並んで全く負けないというのが凄い。ネットでは、ネタとして『Diver Divaの美人なほうってさ……』とか『Diver Divaのスタイル良いほうのファンなんだが』みたいなのに、いやどっちやねんとツッコむ流れが出来ている。 

 

「みーくんって、そうやって簡単に可愛いって言うよね」

「だったら何て言ったらいいの? そういうので嘘は言えないよ」

「ほんとに、そういうさあ……もうちょっと言うのを控えるとかしようよ」

「控えてるよ」

 

 そう言ったら、愛はのけ反りそうな勢いで濁点付きの驚きの声を上げた。

 本当だったら、何がどれだけ可愛いか美しいかという話を半日くらい話し続けたいところだ。だけど、僕がそんなことやったら気持ち悪いだろう。だから、こうやってちょっと言うだけに留めているのだ。

 

「……やっぱりみーくんはそのままでいいや」

 

 

 

 

「ボーノ♪」

「おいひい」

「あまあま」

「君たち、よくこんな寒い日にアイス食べられるね」

 

 集合時間ちょっと前に、あらかじめ決めておいた場所に着いた僕らは、その後すぐにやってきたエマたちと共に他のメンバーを待っていた。

 その間、近くのアイス屋で注文したエマ、璃奈、ディアを横目に呆れる。

 もう長袖どころかコートまで着込んでくるような季節なのに、なんでアイスを……と思ったが、冬にアイスというのは意外に人気なようで、店に入っていく人は多い。

 それでも、屋内で食べるならまだしも外で食べるのは理解できないけど。

 

「湊くんも食べる?」

「いいよ。お腹壊しそう」

「美味しいから大丈夫だよ?」

 

 美味しいのとお腹壊すのは関係ないのでは?

 そうやって待っていると、みんなどんどん集まってきて、最終的にほとんどが時間通りに到着したが……

 

「果林とミア、来ないな」

 

 時間を過ぎても、やはり懸念した通りの二人がいない。予想していた展開に、少しため息をつく。

 

「ここは部長のかすみんに任せてくださいっ」

「大丈夫。果林さんにGPS付けてるから」

「えっ」

 

 璃奈はスマホを取り出すと、画面を向ける。映されているマップには、僕らがいる地点ともう一つを点で指し示していた。遠いとはいえないくらいの距離だ。

 

 その場所は野球場。

 まだまだ試合が始まる時間は遠いから周りに人はいない。そんな入口前に、目当ての人物はいた。

 

「こんなところに……おーい、果林、ミア」

 

 呼びかけながら手を振ると、僕らに気づいた彼女たちはほっと胸をなでおろした。

 

「湊くん、助かったわ。ここがどこかわからなくなっちゃって」

 

 目の前に大きな野球場があるのに、どこか……か。まあ、そんな簡単に解決するようなものなら迷子にならないか。果林のこれはもうそういうものと捉えるしかない。

 

「それにしても、よく見つけられたね?」

「まあ……そうだね……勘かな」

 

 まさかGPS付けてましたとは言えず、僕は曖昧に答える。

 

「ぐぬぬぬ」

 

 ちゃんと合流できた、というのにかすみだけ悔しそうな表情をしている。

 どうしたの、と訊いてみると……

 

「かすみんの名推理で見つけ出すはずだったのに……」

「それはまた今度聞かせてもらうよ。とにかく見つかったんだからそれでいいだろう?」

「でもぉ」

 

 納得してない様子の彼女に、僕は首を傾げた。

 

 

 

 

 場所を移動して、ここは芝生が広がる公園。

 かすみ特製の旅のしおりには、この時間にやることとして『スポーツで連帯感アップ!』と書かれていた。

 そういえば、部室でお喋りしたり、練習で競い合ったりしたりはするが、こういう体を使った遊びはあまりやらないかも。

 

 持ってきたバレー用のボールは二つしかないので、まず先にやりたいと手を挙げた八人が四人ずつに分かれる。それ以外はレジャーシート敷いて木陰でお休み。

 歩き回ったぶん少し火照っていた体が、寒い風に吹かれて少し震える。もうすっかりそんな季節かあ。

 

「よーし、愛さんの実力見せてやるっ」

「受けて立つ」

 

 お、始まる始まる。愛・ランジュチームとAlpheccaチームで対戦するようで、両陣営とも闘志が目に宿っている。

 

「あんまり激しくしないようにね」

「わかってるって! せいっ!」

「甘い」

「セァッ!」

「あぶなっ」

「ランジュに任せなさい!」

 

 目にも止まらぬ速さで、ボールがあっちこっちへ飛ぶ。

 僕の言葉を無視しているのか、彼女たちにとってはアレが激しくないのか。フィジカル強い組による一進一退の攻防が繰り広げられ、一度も球が地面に落ちることはない。

 

「いいの、あれ?」

「怪我しなかったらいいやもう」

 

 あの四人は手加減しろって言って出来る子たちじゃないから。

 

「こういう機会は、今までに何度もあったんですか? その、みなさんでお泊りするようなことは」

 

 体を冷やさないように、魔法瓶に入れていた温かいお茶を配る。それを一口飲んで、栞子が尋ねた。

 

「全員でってなると……第一回のスクールアイドルフェスティバル以来?」

「そうね。それぞれの家には遊びにいったりしてるけど、こんなに人数が多いのはそれくらいかしら」

 

 一年生だけでとか、二年生で勉強会やらアニメ視聴会とかやってるのは聞いたことがある。ユニット単位でもやったことがあるし、いろんな組み合わせで少なくない回数そういう経験はあるはずだ。

 しかし、全員参加は珍しい。スケジュールを合わせたり、場所を確保するのも大変だったりするし。今回、みんなの予定が空いてたのは奇跡に近い。

 

「私はお友達とお泊りすること自体が初めてですので……」

「大丈夫だよ、栞子ちゃん。リラックスリラックス~」

「あなたはリラックスしすぎよ」

 

 果林に膝枕をしてもらっている彼方が気の抜ける返事をする。

 多分、栞子だけじゃなくてランジュもそうだろうし、ミアだって少なくとも日本でのお泊り経験はないだろう。

 緊張するなっていうのは無理だが……それ以上に楽しんでもらいたいものだ。っていう僕も全然経験ないんだけど。

 しかも女子の家。考えれば考えるほど恐ろしくなってきたな。バレーを見て気を紛らわせよう。

 

 愛たちとは少し離れたところで緩めにバレーをしているのは、エマ、侑、歩夢、それにしずくとかすみ。

 こちらは対戦というわけではなく、みんなで浮かして、チャンスがあったら強めに叩く……みたいな休み時間っぽい遊びをしていた。

 

「湊くんはやらないの?」

「いいや。僕がやると……」

「きゃんっ」

 

 可愛らしい悲鳴を上げたのは、レシーブをしようとして顔にボールを受けてしまったしずく。スポーツはそんなに得意じゃないのか、そのままふらふらと尻もちをついた。

 

「あれ以上にみっともない姿になるからやめとくよ」

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