天王寺湊は虹を駆ける【完結】   作:ジマリス

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97 靄

「侑ちゃんはコンクールにチャレンジで、歩夢ちゃんは留学かあ」

「すぐ戻ってくるけどね」

 

 ラブライブ東京予選が終わった翌日、興奮冷めやらぬままのスクールアイドル界隈。僕たちとしても余韻に浸っておきたいところではあるが、こちらのファーストライブも迫ってきている。

 ので、学校自体は冬休みに突入しているが、同好会は朝から部室に集まっていた。

 

 その中で、侑と歩夢はこれから挑むことをみんなに話す。

 二人ともすっきりした顔で、それぞれの決めたことに対する悩みは一片もなくなったみたいだ。

 

「ロンドンだよネ?」

「うん。ちょっと不安だけど、頑張ってくるよ」

「アユム、応援してる」

「ふふ、二人とも相談に乗ってくれてありがとう」

 

 歩夢はロッティとディアの頭を撫でる。

 

「この子たちにも相談してたのか」

「外国はどんなだって、ボクもランジュもエマもね」

 

 手当たり次第……というわけでもないんだろうけど、とにかく話の参考になりそうな人に片っ端から訊いて回っていたようだ。それだけ歩夢が本気だということだろう。

 その彼女に対して、答えを返せるほど色んな科がいて、留学経験のあるのも何人かいて、グローバルで手厚いねこの同好会は。

 

「湊くんも彼方ちゃんも頑張ったもん。ね、湊くん。湊くん、と、彼方ちゃん、で」

 

 彼方の言う通り。他校に連絡を取るところからテント借用、プロジェクターとか放送の準備とか、寒い中でようやりましたよ。

 しかし、やたらと僕と彼女の名前を強調してくるのはなんなんだ。頑張りましたアピールか?

 触れ合うくらいに寄ってきた彼方へ、特に果林が鋭い目つきで視線を注いだ。

 

「彼方、あなた最近湊くんに近づきすぎよ」

「ええ~、果林ちゃんに言われたくないな~。湊くんはどう思う?」

「ウィナー、果林」

 

 どっちの言い分も正しいから引き分けにしたいところであるが、このまま彼方の距離感がバグってしまうのは避けたい。

 よって、果林の勝ち。

 

「ウィナーってことは、私にはご褒美あるのよね?」

「等身大近江彼方を進呈しよう」

 

 景品をお渡しすると、果林にもたれかかりながら彼方はこちらへ不機嫌そうな顔を向けた。

 

「この前はべったりさせてくれたのに」

「あれは、あの時のちょっとだけだって言ったじゃないか」

「いいじゃーん、減るもんじゃないし」

「減るよ」

「けち」

「ケチね」

「ケチで結構」

 

 君らね、自分の魅力をちゃんと理解してくれって五億回言ってる。スキンシップが段々激しくなって。僕の理性もうこれっぽっちしか残ってないぞ。

 ブーイングしてくる二人を適当に流して、僕は歩夢のほうへ向き直る。

 

「歩夢、あまり気負いすぎもよくないからね。観光100%気分だと困るけど……でも楽しんでおいで」

「うん。もう今から待ちきれないよ」

 

 ちょっとの不安と大きな期待。新しいことをする時の醍醐味だよなあ。その経験は、歩夢がこれからスクールアイドルをやっていく中で、そして人生を進んでいく中で力になってくれることだろう。

 

「私も、トキメキ全開だよ! だから、その勢いで全員のソロ曲作っちゃった!」

 

 今朝からずっと目を輝かせている侑が、冊子をテーブルに置く。十四冊もあるそれは、なんと虹ヶ咲学園スクールアイドル全員分の新曲楽譜。

 その勢いで、というには多すぎる数に僕たちは目を丸くする。

 デモとして録音してきたものも聞かせてもらう。一曲目で一回、全て終わった後でもう一回、ミアと僕は目を見合わせた。

 

「これ、全部良い曲じゃないか」

「それぞれの特徴も抑えてる。僕らはとんでもない作曲家を生み出して育てたのかも……」

 

 十四曲を作ってくるなんてそれだけで怪物級の仕事だが、その全てが本人が歌っているところを想像できるくらい合っている。

 そんなこと、曲を作り慣れてる僕にもミアにも無理だ。

 

「えへへ、ミアちゃんと湊さんに褒められちゃった」

「これだけの曲を作るって、君、ちゃんと寝たの?」

「……も、もちろん!」

「歩夢」

「侑ちゃん嘘ついてる」

「歩夢に聞くのはずるじゃんっ」

 

 目がキラキラのギンギンなせいでわかりづらいが、これだけのことをしているなら徹夜してんじゃないかという予想は当たった。

 にしても、見た感じ顔はいつも通りなのに、一目で分かるなんて幼馴染おそるべし。

 

「もー、侑ちゃん。今日は絶対早めに寝ようね」

「はーい」

 

 分かってるのか分かってないのか、侑は目を逸らしてみんなのほうに向きなおった。

 

「それで、みんなはどうかな?」

「侑先輩が作ってくれたソロ曲をやれるのを待ってたんですよ!」

「うんうん。すっごく楽しみだよ~」

 

 ちょいちょい作曲してたとはいえ、侑が手掛けたソロ曲というのは初めてだ。待ち望んでいた子たちからすると、やらない理由なんて一切浮かばない。

 

「ユウの曲! やってみたイ!」

「ほんとに!?」

 

 ロッティも興奮して手を挙げる。僕がAlphecca用に作ったのとは全く異なる曲を歌っている自分を想像して、もう待ちきれんとばかりの様子だ。

 そんな彼女を見て、侑は嬉しさ半分驚き半分の表情を浮かべた。

 

「いやあ、Alpheccaは湊さんの曲しかやりたくないかなって……」

「元々、同好会に入ったのだって、湊さんに練習見てもらえるからだもんね」

 

 ああ、なるほど。

 体力づくりや柔軟など、全員が共通して行う練習はみんなでやるけど、Alpheccaの練習を担当しているのは僕だ。僕だけ。

 それはAlpheccaの高いレベルにまだ侑がついていけないというのもあるけど、この二人が僕を求めてわざわざ日本にまで来たのだから構ってあげてというみんなの要望もある。

 しかし、必ず僕でなければいけないという意識はロッティにはない。

 問題は……

 

「ディアも、ソレでイイ?」

「……考えさせて」

 

 

 

 

 少し困ったことになった。先に解決しておくべきことを、先延ばしにしたからだ。

 出ていったディアを探しに行くついでに、僕は反省してこの問題の答えを考える。だけど、どれもいまいち。根本的な解決とはいかなそうだ。

 

「湊さーん」

 

 考え込んで屋外に出たところで、侑と歩夢が追いかけてきた。

 

「二人とも、どうしたの」

 

 二人は目の前まで駆け寄ってくると、きょろきょろと辺りを見回した後、少し声を潜めた。

 

「歩夢とも話してたんだけど、ロッティちゃんとディアちゃんが……特にディアちゃんが調子悪そうで……」

「直接聞こうと思ってたんだけど、その前に湊さんに相談しておこうと思って」

 

 ディアもロッティもいつもと同じ調子に見せていたけれど、やっぱり変だって気づくか。

 ライブの打ち合わせももうすぐ始まる時間だっていうのに、二人はまだ戻ってこない。

 

「ディアちゃん、どうしたんだろう」

「まさか、私の作った曲がダメダメだった、とか……」

「やり直しならその場で言ってたよ、ディアは」

 

 悪いものにははっきり悪いと言うタイプだ。しかし、侑の作った曲はそう言わせないほどの、ワクワクとさせるものがある。

 だから悩んでいるんだろう。

 

「これはあの子の問題で、Alpheccaの問題だ」

「問題……」

 

 もっと早くに話し合うべきことだったんだろう。だけどディアの意思が凝り固まってしまったいまは、逆にAlpheccaでは解決できない問題になってしまっている。

 

「前に調べたんだけどさ、Alpheccaって、色んなアーティストから曲提供されるくらいなんだけど、全部断ってるんだよね。それって、スクールアイドルだからプロに曲を作ってもらうっていうのは違うっていう意識があるらしいんだけど……ディアちゃんはそれ以上に湊さんの曲しかやりたくないのかなって」

「でも、合宿の時にはディアちゃんも参加してたよね?」

「あれはどこに出すってわけじゃなかったからなんじゃないかな」

 

 侑が鋭く指摘をする。

 

「だから、やりたくないんじゃなくて……湊さんの曲だけをやらないといけないって感じてるんじゃないかって、そう思ったんだ」

「そうだと思う。ディアに直接聞いたわけじゃないけど……多分あの子は、僕に対して恩みたいなのを感じてて、それで必要以上に自分を縛ってる」

 

 Alphecca結成の最初の要因は、僕が彼女たちにスクールアイドルを教えたこと。あくまでちょっとしたきっかけに過ぎないそれを、ディアは大きく感じすぎている。

 初心をずっと覚えているという点では良いのかもしれないが、そのせいで自分の世界から脱し切れていないというと……あらゆる点で致命的と言える。

 

「やらせることは出来るよ。僕が言ったらやってくれると思う。でもそれじゃ……」

「意味ないよね。やるんじゃなくてやらせるっていうのは、私たちの方針とは真逆だし」

「でもディアちゃんも、きっと侑ちゃんの曲をやりたいんだと思う。じゃないと、保留なんてしないはずだから」

 

 僕もそれについては同意見。

 この同好会に入って、みんなが自由にやっていたりしているのを見たり、文化祭でバンドを組んだりして様子を見たが……明らかにあの子は無理してる。

 

「やりたいのに、やらない……高校生はほんと、どいつも面倒だな」

「面倒筆頭は湊さんだけどね」

「人ってここまで棚に上げることが出来るんだ」

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