最近書いてて気づいたけど、どうやら作者はティオ推しらしい。だからってソウゴに不倫はさせないけどね(今のところ)。
それと仮面ライダーファンなら分かると思うけど、作者はカッコいい悪役には惹かれるタイプだからね。
P.S 作者は基本書き溜めとかしないから、よっぽど作者のやる気が溢れるか次の話が短くない限りは投稿は遅いよ。
月下に銀翼が羽搏いた。
だが、それは飛翔の為ではない。その銀翼から殺意をたっぷり乗せた銀羽の魔弾を射出する為だ。恐るべき連射性と威力を秘めた銀の魔弾は標高八千メートルの夜闇を切り裂き、数多の閃光となって標的に殺到する。
それに対するは、黄金の輝きを纏う超人。
衛星の様に周囲に漂う掌大の光球から無数の光線が走り、飛来する銀羽は無残に飛び散り四散する。「攻撃は最大の防御」という言葉を地で行く様な横向きの閃光豪雨が、壁と見紛う程の弾幕を霧散させる。必要なのは冷静さ。一切動く事無く、男は銀閃を消滅させる。
「ひゃああっ!!?」
そこへ、似つかわしくない可愛らしい悲鳴が響いた。
場違いな声を我慢しきれず出してしまったのは、無論愛子だ。
銀羽の弾幕を撃ち放つ"神の使徒"ノイントの攻撃を微動だにせず処理するソウゴの片腕に抱かれながら、人生初の眼前花火を経験中なのである。
「ピィピィと喧しいぞ。餌を強請る雛鳥か?」
「そんな事言われましてもっ!?」
ソウゴの呆れた様な物言いに、涙目で抗議する愛子。いや、初の空中戦にして涙目ながらも抗議出来るだけ肝が据わっていると感心すべきか。
ソウゴにとっては見慣れた光景だとしても、愛子は戦いと無縁の生まれでありこの世界に来ても戦士ではなかったのだから、目の前で連続爆発が起きれば悲鳴も上がる。既にグロッキー状態だ。
かといってその辺に放り出しておくと、その瞬間に愛子の方を狙われかねない。無論自分から距離があろうと守る程度わけないが、背にしながら戦うより一緒に動く方が合理的だった。
その様な事情からソウゴは、再び全方位から包み込む様に強襲してきた銀羽を光で出来た魚群で防ぎながら愛子に話しかける。
「ほれ、刺激の少ない対処法に変えてやったぞ。ティオが来たら引き渡す故、早々に離脱しろ」
「は、はい! で、でも常磐さんは!?」
「もう少し遊んでいくとしよう」
「余裕そうですね!?」
驚きながらも素直に感想を述べる愛子。ソウゴはそんな愛子から視線を外し、"螺旋丸"を投げつける。"塵遁"を付与したソレは、銀色の砲撃を相殺する。最初に、愛子が幽閉されていた隔離塔の上部を消し飛ばした閃光だ。
「……雑談とは余裕ですね、イレギュラー」
「そうでもせんと直ぐに終わってしまうからな」
銀色の砲撃と銀羽の弾幕を捌いた直後、ソウゴの直ぐ傍で機械的で冷たい声音が響く。特に焦るでもなく、視線を向けるより先に"グラグラ"の能力を発動して拳を振るう。次いで目を向ければ、双大剣の片方を盾に、もう一方の大剣を横殴りに振る……おうとして衝撃を受け止めきれず吹き飛ばされるノイントの姿だった。拳が直接ぶつかった訳で無いにしろ、その一撃は到底片手間の防御でどうにか出来るものではない。
ここで一つ、客観的な意見を投げる。
ノイントの持つ銀光を纏う長さ二メートル幅三十センチの大剣は、そこにあるだけで凄まじい威圧感を放っている。
加えて、その宿した能力も凶悪だ。なにせノイントが操る銀の魔力は、全て固有魔術"分解"が付与されているのだから。触れるだけで致命的な攻撃になるなど、反則もいいところだ。
──無論、"ソウゴ以外の目から見れば"の話だが。
分解? 触れるだけで致命傷?
そんなものは最早見飽きた。ありふれたと言ってもいい。そんなものは反則でも何でもない。ソウゴのいる境地に立つには、基本中の基本どころか初歩ですらない。持っていて当たり前の"技術"なのだ。
ソウゴとノイントの戦力差は、愛子がいる程度のハンデで埋まるものではない。
銀羽の弾幕?
先程の様に"
銀光の砲撃?
"原界剥離"で押し返せる。両手より威力は落ちるだろうが、ノイント程度の相手にただ殺すだけなら片手でも十分過剰な威力になる。同系統の能力を持つ鍵の天使"
抑々銀羽も砲撃も、分解の能力があろうと光には違いない。ならば"闇黒剣月闇"やら"ヤミヤミ"の能力やらで吸収すればいい。どんな効果であろうと魔術であるならば、"餓鬼道"や"魔剣レプラザン"でも喰い殺せる。
というか特殊能力云々と言うならば、エクストリームメモリの能力で調整してエターナルメモリの能力をぶつければ無効化出来る。
ならば武器である大剣は?
新旧両方の"
ならそれを扱う双剣術?
最早論外だ。"黒の剣士"キリトや"最強の精霊姫"カミト、"比翼"のエーデルワイス等のそれに比べれば児戯に等しい。
ノイントの攻めはソウゴの守りを抜ける程の鋭さは無く、ソウゴの眼を掻い潜る鮮やかさも無い。
自在に宙を舞う本体の機動力?
"重加速"や"クロックダウン"で遅く出来るし、英雄王お得意の"
そも当然の前提として、ソウゴは今この瞬間にノイントを即時抹殺出来るのだ。
空気越しとはいえ間接的に
"万華鏡写輪眼"の瞳術"天照"や"モーフィングパワー"で燃やす事も出来るし、人間同様に血液が通っているなら"メタリカ"で刃物を生成して内側から突き破る事も可能だ。
駄目押しに"
周囲への被害を考慮しなければ"グリーンデイ"や、今は日光の無い時間帯である故"パープルヘイズ"を使うのも手だろう。
"
他にも、得意の時間操作も手の一つ。時を止めて一撃を入れる、時を加速させて急速に劣化させる、攻撃を放って到達するまでの時を飛ばしてタイムラグ無しで直撃させる等々。
突き詰めれば極端な話、完全に
ソウゴがそれをしないのは、偏にノイントの"構ってちゃんアピール"に付き合っているからである。愛子に言った通り、ソウゴは"遊んで"いるのだ。
ソウゴは立て直したノイントが振るう迫り来る大剣を鋼の飛蝗で構成された防壁で受け止め、即座に変形させて反撃する。「ガキィィンッ!!」という金属同士のぶつかり合う音と共に、ノイントとの距離がまた開く。
ノイントは反動に逆らわずそのまま一回転し、その勢いも利用し再接近してソウゴに大剣を振り下ろした。
ソウゴは"金剛通"を人差し指に集中した"金烏"でそれを受け止め、残りの四指からレーザーを放つ。
しかし危機察知能力でも発揮されたのか、ノイントは咄嗟に避けその光線は銀羽を数枚散らす程度に留まる。光線は【神山】を通り過ぎ、地平の彼方に轟音と共に地面を四度抉る。
ソウゴは後退したノイントに、空いた人差し指による追撃をかける。再度放たれたレーザーが夜天を走り、静かなる破壊を齎す。ノイントはレーザーこそ回避したものの、被せる様に放たれた"水鉄砲の術"と"火銃"に足を撃ち抜かれる。
「咄嗟の回避は出来ても、先読みが出来んのではな……」
「はわ、はわわ……何が、どうなって……」
「折角の特等席だ、存分に楽しんでいけ」
「と、特等席って……常磐さん!」
やっている事は傍から見ればコンマ数秒で勝敗が決してしまう様な息詰まる超高等戦闘。戦闘のプロではない愛子にとって、何が何やら理解出来ないだろう。ソウゴは「この状況で文句が言えるなら及第点、精々目を凝らして見ておけ」と愉快気に告げながら、その視線はノイントに向かっている。
「……足手纏いを抱えて尚、これだけ凌ぐなど……やはり貴方は強すぎる、主の駒としては相応しくない」
「結構。引き籠りの相手は自分の娘で十分だ、その上に数度思い通りにならん程度で癇癪を起す阿呆の面倒なぞ私は見れんぞ」
「……私を怒らせる策なら無駄です。私に感情はありません」
「今のが挑発に聞こえるのか? 無表情の割に自意識過剰ではないか。小学生でももう少し利口な受け取り方をするぞ?」
「……」
ノイントはスッと目を細めると大きく銀翼を広げ、双大剣をクロスさせて構えた。
果たして本当に感情が無く、ただ無駄な会話をしたと仕切り直しただけなのか……ソウゴの目にはどこか怒りを抱いている様に見えたが、どうでもいいと思考の外に追いやる。
ある程度試して、駄目なら終わり。ノイントが何を考えていようと、何を感じていようと、ソウゴにとっては暇潰しの範疇を出ない。
ノイントが再び銀翼をはためかせ、銀羽を宙にばら撒く。だが今度はソウゴに向かって射出されず、代わりにノイントの前方に一瞬で集まると何枚もの銀羽が重なって陣を形成する。そう、魔法陣だ。銀色に輝く巨大な魔法陣がノイントの眼前からソウゴを睥睨する。
そして……
「──"劫火浪"」
発動された魔術は、天空を焦がす津波の如き大火。
どうやら、魔弾だけでなく属性魔術も使えた様だ。今まで使ってこなかったのは、単純に銀の魔弾だけで十分だと判断していた為だろう。
つまり、ソウゴを侮っていたという事だ。
うねりを上げて頭上より覆い尽くす様に迫る熱量と展開規模共に桁外れの大火に、一瞬世界が紅蓮に染まったのかと錯覚する愛子。どうする気なのかと胸元からソウゴを見上げてみれば、ソウゴは小馬鹿にした様な笑みと共に鼻を鳴らす。
「舐められたものだな……」
数百メートルに及んだ炎の津波は、ソウゴと愛子を逃がす事無く完全に呑み込んだ。誰が見ても詰み。二人は灼熱に焼かれて骨も残さず消滅したと思うのが普通だ。
しかしノイントは、燃え盛る大火の中心から目を逸らさない。
「……これも凌ぐのですか」
ノイントがそう呟いた直後、大火はまるで何かに吸い込まれるかの様に一点に収束し、その流れを追えば大火を掌で飲み込んでいくソウゴと、抱えられた愛子が無傷で姿を現した。
「生憎、私も炎の扱いには一家言有ってな。この程度では日焼けも出来ん」
「す、凄い……」
ソウゴは事も無げに答える。ソウゴは所謂一般的な属性の中で最も得意としているのが炎であり、その為その耐性や吸収効率は他の属性の比ではない。あの程度の火力、蝋燭の火より頼りない。
驚く愛子を抱き締め直しノイントを見れば、彼女は再び魔法陣を形成しているところだった。
但し、今度は二十以上の魔法陣を、銀羽をソウゴに撃ち込みながら同時展開するという形で。
正に怒涛の攻撃。しかしソウゴには届かない。"アナザーディメンション"で次元の狭間の虚数空間に吸い込まれ、攻撃そのものが意味を成さない。
その時突如、【神山】全体に響く様な歌が聞こえ始めた。
ソウゴが何事かと歌声のする方へ視線を向ければ、そこにはイシュタル率いる聖教教会の司祭達が集まり、手を組んで祈りのポーズを取りながら歌を歌っている光景が目に入った。どこか荘厳さを感じさせる司祭百人からなる合唱は、地球でも見た事のある聖歌というやつだろう。
一体、何をしているんだとソウゴが訝しんだ直後、
「……あぁ、成程なぁ」
「常磐さん? ……あれは一体?」
ソウゴの納得した様な言葉と、愛子の疑問が響いた。
見れば、どこか勇ましい雰囲気で聖歌を歌っていた司祭達がどんどん倒れていく。しかも光の粒子の様な物がまとわりつき、起き上がるのを阻害しているらしい。
「恐らく状態異常の魔術だったのだろうが……軽率が過ぎたな」
ソウゴの推測は当たっている。
イシュタル達は"本当の神の使徒"たるノイントが戦っている事に気が付き、援護すべく"覇堕の聖歌"という魔術を行使しているのだ。これは、相対する敵を拘束しつつ衰弱させていくという凶悪な魔術で、司祭複数人による合唱という形で歌い続ける間だけ発動するという変則的な魔術だ。
そして、その効果がソウゴの自動反射で自分達に跳ね返ってきたのだ。自分の攻撃が相手に利用される事を想定せずに行動するというのは、ソウゴの言葉通り「軽率過ぎる」と言わざるを得ない。
「イシュタルですか。……やはり人間というのは当てになりませんね」
ノイントがそんな感想を述べる。イシュタルの表情を見れば、困惑と怒りに包まれていた。ソウゴに害を与えようと聖歌隊を編成した挙句、何故か自分達が地に這い蹲っているのだ。理解出来ないと顔が訴えている。
そんなイシュタル達とは反対に、現在ソウゴは棚から牡丹餅の気持ちだった。
「運が良いな、探す手間が省けた」
ソウゴはノイントの攻撃を横目で捌きつつ、視線を司祭達に向ける。その目はどこか吟味する様な動きをしており、愛子はその様子が食材を選ぶ料理人の様に見えて、場違いにも程があると首を振った。
そしてソウゴは視線を止めると、地上の司祭達に手を翳す。
──刹那。イシュタル以外の司祭達が燃えた。
「「ッ!?」」
その瞬間、愛子はおろかノイントすらも瞠目する。距離の無視、殺害数、躊躇の無さ。ソウゴがやったという事以外は信じられない規格外。
それに加えて、愛子は「何故このタイミングで?」という疑問もあった。
「……彼等が死んで、私が動揺するとでも?」
「あぁ、貴様は気にせんでいい。完全な別件、此方の都合だ」
ソウゴがそう答えていると、イシュタルにも変化が訪れる。
その周囲から生える様に鎖が出現し、イシュタルを縛り上げる。それと同時にその影から幾つもの腕が伸びて、イシュタルを影の中に引きずり込んだ。
同時、ノイントは自分の攻撃が全て
「ほれ、私の用件は終わった。貴様の相手に戻ろう」
いつの間にかソウゴの視線がノイントに戻っている。イシュタルの収納を確認したソウゴは即座に意識をノイントに戻し、ベクトル操作で攻撃の向きを変えたのだ。
ノイントは銀羽を射出してそれらを相殺する。ソウゴは追い打ちをかける様に"ブルー・ティアーズ"を展開、六方から閃光を走らせる。
そんなソウゴに、ノイントは正面から突っ込む……と見せかけて銀翼を「カッ!」と発光させた。爆ぜる光がソウゴを包む。
ソウゴの持つ感知系能力は優秀だ。直ぐ様見失ったノイントの気配を背後に感じて……
「"闘技・神砂嵐"」
「ッッッ──!?」
そのまま正面を殴りつけた。360度回転し竜巻を纏う拳は確かな感触と共にノイントを捉え、その脇腹と大剣を抉り取りながら弾き飛ばす。
「咄嗟に防御したのはいい判断だったが……粗末な陽動だな、木偶人形」
ソウゴは先程背後に現れた気配がダミーであると瞬時に見抜き、その裏を突いてそのまま正面を攻撃したのだ。
結果は一目瞭然。本来両腕で放つ技故に半減以下の寝ぼけ半分の様な軽い一撃だったが、"神砂嵐"は容易くノイントを抉り武器を破壊した。
抉れた大剣の残骸は宙を舞い、ノイントの体はスプリンクラーの様に血を撒き散らしながら近場の塔に直撃した。その衝撃と粉塵で濛々と塔の周囲が白く染まる。
「常磐さん、それ関節とか……」
「気にするな、こういう技だからな。……それより、迎えが来たぞ」
ソウゴが愛子にそう伝えた途端、
──グゥガァアアアアア!!!
聴き慣れた、竜の咆哮が響いた。
「ティオ、随分待たせたじゃないか」
ソウゴの言葉に嬉しそうにしながらも、黒竜形態のティオが翼を羽搏かせながらソウゴの傍らにやって来た。
『間に合った様で何よりじゃ、後で折檻……基、ご褒美を所望する』
「まぁ偶にはいいだろう、働き者には褒美があって然るべきだ」
『本当か! その言葉忘れるでないぞ! さぁ先生殿よ、妾の背に乗るがいい』
ソウゴはこんな状況でも自らの欲望に忠実なティオ(思い返せばユエ、シア、香織もだが)に面白そうな表情をしながらも、抱き上げていた愛子をその背に乗せる。
愛子は何だか二人の会話にモヤモヤしたものを感じつつも、漸くソウゴの足手纏いから解放されるとあって素直にティオの背にしがみついた。
「えっと、ティオさん。よろしくお願いします」
『うむ。任せよ。先生殿はご主人様の大切なお人(作戦の要という意味で)じゃからの、敵の手には渡さんよ』
愛子は、ティオの"大切な人"という言葉で更に勘違いを加速させつつ、心配そうにソウゴの方を見やった。その表情はどう見ても教師が生徒を憂う類のものではなく、明らかに恋する乙女といった風情だったが、この場にツッコミをいれる者はいない。
とその時、ノイントの突っ込んだ塔が轟音と共に根元から吹き飛んだ。濛々と舞う砂埃を銀翼の風圧で吹き飛ばしながら、抉れた脇腹から血を流す片翼のノイントが姿を現す。
「……ティオ、行け」
『承知』
既に猛烈な殺気を噴き出しながらソウゴを睨んでいるノイントを尻目に、ティオは短くも確かな返事を残し飛び去った。
ソウゴは高速で離脱していくティオの背を見送ると、ノイントに対し挑戦者を見下ろす王者の視線で迎えた。
初撃は、ソウゴによる一振りだった。
『月闇必殺撃!』
『習得一閃!』
紫苑の炎雷が迸り、見るからに凶悪なフォルムのドラゴン達が一直線に目標へと迫る。その一撃に未知の脅威を感じたのか、ノイントは即座に回避を選んだ。
その場から身を捻りながら落下して紫の閃光の群れを掻い潜りながら、恐るべき速度でソウゴに突進する。
しかしそれを読んでいたのか、そこには既にソウゴの姿は無い。一瞬の驚きと共に、背後に凄まじいプレッシャーと衝撃を与えられた。
「ッ!?」
ノイントはソウゴの纏う黒い稲妻を浴びながら、自分を見下す様に立つソウゴに反撃しようとその手に残った一之大剣──半ばから引き千切られた様に無くなっているソレ──で迎撃に打って出た。
しかし……
「──!?」
神速で振り抜かれようとした大剣は、まるでビクリとも動かない。まるで幼子がパンパンに詰め込まれた買い物カゴを必死に持ち上げようとしている様に。否、それどころか腕が上がらないのだ。全く負傷もしていないのに。
「もう終わりか?」
そんな彼女の背後に、意識の間隙を突く様にいつの間にか踏み込んできたソウゴ。先程ノイントに"雷遁・雷虐水平千代舞"と"土遁・加重岩"を叩き込んだ際に刻んだ"飛来神"の印に飛び、ソウゴは更に追撃する。
「"輝彩滑刀"」
「ッ、くっ……!?」
ノイントは咄嗟に大剣を盾にした。体と着弾寸前の拳との間に大剣を割り込ませる。
しかし、ソウゴの腕から生えた振動刃は豆腐を切る様に大剣を切断する。ノイントはその光景に咄嗟に大剣を手放して飛び上がるが、片翼なのもあって今迄より速度が出なかった。
その結果、ノイントは右足を太腿辺りから切り落とされた。
「器用に逃げるではないか」
「なっ!?」
断面からドバドバと血を流すノイントの視界に映ったのは、ソウゴから生えた蠍の尾が自分の体を巻き付けて捕えている光景。ノイントはそのまま勢いをつけて地上に叩きつけられる。
「何て……出鱈目な……」
「驚いている場合か?」
「ッ!?」
ソウゴは追撃の手を緩めない。即座に口から炎を吐き、地面に転がるノイントを焼こうとする。どうにか片方だけの翼に力を溜めて飛び立ったノイントに、一瞬で移動したソウゴの"指銃"が突き刺さる。
「ぐぅっ!!?」
訳の分からない攻撃の範囲と威力、そして何より意味不明な距離を無視したかの様な移動。それらの理不尽を感じながら、ノイントは呻き声と同時に大きく吹き飛ばされる。
そのまま背後にあった教会の荘厳な装飾が施された何らかの施設を破壊しながら埋もれるノイント。
ソウゴは駄目押しとばかりに"ギャラクシアン・エクスプロージョン"と"マブロスエラプションクラフト"を撃ち込む。
宇宙の崩壊と星の怒りを体現した絶大な暴力の群れは崩れかけた建物に致命傷をプレゼントする。大爆発と共に完全に崩壊した建物は、そのまま噴き出し流れるマグマによって摂氏八千度の業火に包まれた。
夜空を赤く染め上げる大河を眺めながら、ソウゴは追撃の手をまだ緩めない。"
その瞬間、
「ふむ、下か」
ソウゴが眼下に視線を向け直すと同時に直下の地面が爆発した様に弾け飛び、その中から銀翼をはためかせたノイントが飛び出てきた。どうやら魔術を使って地中を掘り進み、そのまま強襲を掛けてきたらしい。
先程までとは比べ物にならない程に穴だらけの銀羽が掃射され、か細い銀の砲撃が撃ち放たれる。
ソウゴはそれらを"ゼスティウム・ドライブ"で薙ぎ払い、交差する一瞬で叩きつける様に振るわれた銀翼を軽々躱す。そして、通り過ぎるノイントに向かって"廬山真武拳"を叩き込む。
「がっ!?」
その一撃をノイントは咄嗟に左腕でガード、元の形が分からない程拉げさせつつその勢いを利用してソウゴから距離をとる。そして背後に向けて銀羽を飛ばして迎撃しつつ、作り出した魔法陣から怒涛の魔術攻撃をソウゴに向けて放った。
「味気無い人形かと思えば、存外生き汚く根性もあるらしいな」
ノイントのどこか意地を感じさせる様子に意外そうな表情を浮かべつつ、ソウゴは"イオナズン"や"スターダストレボリューション"で全て迎撃する。
「少しは面白くなるかと思ったが、私の勘違いか?」
「……黙りなさい、イレギュラー」
ノイントは今度こそ紛れもない挑発に、無数の魔術と銀羽を放ち戦闘再開を行動で示す。
すると程無くして気付いた。先程までより威力も桁も増しているのだ。
銀羽の一枚一枚が先程の倍以上の威力を持ち、放たれる魔術は全て限りなく最上級に近いレベルである。よく見れば、ノイントの体全体が銀色の魔力で覆われており、感じる威圧感が跳ね上がっていた。まるで"限界突破"の様な姿だ。
尤も、ソウゴにとっては微々たる、メダカと太陽の間にティッシュが一枚挟まった程度の本当に微々たる差だったが。
「やっと本気になったか。貴様は反抗期か何かなのか?」
『FINAL ATTACK RIDE』
『DE DE DE DIEND!』
その圧倒的な物量からなる怒涛の攻撃を、"ディメンションシュート"で撃ち落とす。蒼の砲光が射線上の全てを打ち砕いて直進しノイントを狙う。
しかし銀光を纏うノイントの動きもまた、先程よりは向上していた。"ディメンションシュート"の蒼光をスレスレで躱すが、それはソウゴも想定の内。
「"菩提証悟"」
言葉と共に天から落ちた赤光が、ノイントを叩き落す。それでも回復力──というより復帰力と言うべきか──も向上したらしいノイントは、即座に飛行を再開する。
「多少はしぶとさも増したらしいが……」
ソウゴが呟きながら両手足を振るって"
「ッ!?」
「しかし……やはり粗雑と言わざるをえんな。"廬山上帝覇"」
ノイントの渾身の一撃は、ソウゴの交差した腕で受け止められる。そのまま構えに移行して、ソウゴの黄金の竜巻を浴びて吹き飛ばされる。そこからソウゴは再び"飛来神の術"で飛び、一瞬でノイントに詰め寄る。
「この、状態でも……」
「あぁ、驚く程ではないな」
覚醒状態になったノイントでも、ソウゴの最低限には届かない。そこでソウゴはふと何か思いついた様な顔をしてノイントに告げる。
「たった今、少しばかり面白そうな事を思いついた。私が貴様の真似をして、その差を分かりやすくしてやろう」
「……? ……!?」
ノイントが疑問を浮かべた次の瞬間、その表情は驚きに染まる。
ソウゴの背に、青白く輝く六対の翼が生えていた。見た目こそ似ているが、数も質も桁違いに大きい。
「さぁ、神の使徒の意地を見せてみよ。"
ソウゴの合図と共に桁が五つばかり違う銀閃が迸り、ノイントのそれが枝に思える程の光柱が轟く。
「……ぉ、ぁ……ぅ……ぅぅぅうぅおおおおぉおおおおおおおっ!!!」
その光景に、ノイントは無意識に雄叫びを上げて全魔力を防御に集中させる。
ノイントはソウゴの様に未来を知る能力は無い。だが悟る、自分はこの攻撃を受け止めきれないと。
だがしかし。万が一、それこそ蜘蛛の糸に縋る様な極々細く小さな確率でも、全力で防御に徹すれば、もしかしたら。
ノイントは気づかぬ内に、自分がこれまで弄んできた人間と同じ様に"もしも"に縋っていた。
そしてそれが、勝負を決めた。
「分かりやすい挑発に乗ったな」
ソウゴは冷めた目でノイントを見る。今までの冷静さをかなぐり捨てた様に雄叫びを上げ、全身全霊でソウゴの戯れの一撃を受け止める。
ソウゴは一つ、深い息を吐いて目を伏せる。
「震えるぞハート」
体内の隅々まで神経を巡らせ、末端の毛先に至るまで力が走るのを感じる。体が輝きに包まれる。
「迸る程ヒート」
気が高まる。
「刻め、血液のビート」
色が消える。味が消える。匂いが消える。音が消える。光が消える。世界が、消える。
ソウゴは駆ける。世界にはソウゴとノイントしか存在せず、互いの距離は存在せず、全てはただ勝利の白と敗北の黒だけが残る。
「"
………………
…………
……
「幕切れはあっけないものよ……」
黄金の波紋が過ぎ去った後に残ったのは、地上に降りた勝者たる魔王ただ一人。ノイントのいた痕跡など一切無い。
辺りに静寂が戻り、勝者たるソウゴを祝福する様に月光が輝くのみ。
『ご主人様!』
「常磐さん!」
そんなソウゴに頭上から声を掛けたのは、退避していたティオと愛子だ。
「あの、大丈夫ですか……!?」
恐る恐る、しかし必死な声で愛子が問う。その間にティオは人間体に戻る。
「無論無事だとも。強いて言えば、豆鉄砲を食らった鳩の気分だ」
「は、はぁ……?」
「本当に強いのぅ、ご主人様は。あの者、今まで出会った事が無かった程に恐ろしかったのじゃが……」
愛子が疑問の、ティオが感嘆の声を上げれば、ソウゴは話題を切り替える。
「さて。折角【神山】にいるのだ、もう一つ片づけようか。丁度迎えもいる様だしな」
「「?」」
疑問符を浮かべる二人に、ソウゴはある方向を指す。そこには……
白い法衣の様な物を着た禿頭の男がおり、ソウゴ達を真っ直ぐに見つめていた。しかし、その体は透けてゆらゆらと揺らいでいる。
禿頭の男は、ソウゴ達が自分を認識した事に察したのか、そのまま無言で踵を返すと歩いている素振りも重力を感じている様子も無くスーッと滑る様に動いて教会の中へと移動した。そして姿が見えなくなる直前で振り返り、ソウゴ達に視線を向ける。
「……ついて来いという事だろうな。行くぞ」
ソウゴの言葉に、二人は頷いて追随する。
禿頭の男はその後も、時折姿を見せてはソウゴ達を誘導する様に迷路の様な内部を進む。そして五分程歩いた先で遂に目的地に着いた様で、真っ直ぐソウゴ達を見つめながら静かに佇んでいた。
「貴様、解放者だな?」
「……」
禿頭の男はソウゴの質問には答えず、ただ黙って指を差す。その場所は何の変哲も無い唯の行き止まりだったが、男の眼差しは進めと言っている様だ。
沈黙を肯定と判断したソウゴは、ティオ達と頷き合うとその瓦礫の場所へ踏み込んだ。するとその瞬間、地面が淡く輝きだした。見れば、そこには大迷宮の紋章の一つが描かれていた。
そして次の瞬間には、ソウゴ達は全く見知らぬ空間に立っていた。
それ程大きくはない光沢のある黒塗りの部屋で、中央に魔法陣が描かれておりその傍には台座があって古びた本が置かれている。どうやら、いきなり大迷宮の深部に到達してしまったらしい。
ソウゴ達は、魔法陣の傍に歩み寄った。何が何やらと頭上に大量の"?"を浮かべている愛子の手を引いて、三人は精緻にして芸術的な魔法陣へと踏み込んだ。
いつも通り記憶を精査されるのかと思ったら、もっと深い部分に何かが入り込んでくる感覚がして、思わずティオと愛子は呻き声を上げる。あまりに不快な感覚に一瞬罠かと疑うも、次の瞬間にはあっさり霧散してしまった。そして攻略者と認められたのか、頭の中に直接魔術の知識が刻み込まれる。
「魂魄魔術、か。やっとらしくなってきたか?」
「う~む。どうやら、魂に干渉出来る魔術の様じゃな……」
「ミレディがゴーレムに魂を定着させて生き永らえていた原因はこれだろうな」
いきなり頭に知識を刻み込まれるという経験に頭を抱えて蹲る愛子を尻目に、ソウゴは脇の台座に歩み寄り安置された本を手にとった。
どうやら、中身は大迷宮【神山】の創設者であるラウス・バーンという人物が書いた手記の様だ。オスカーが持っていたものと同じで、解放者達との交流やこの【神山】で果てるまでの事が色々書かれていた。
そして最後の辺りで、迷宮の攻略条件が記載されていたのだが、それによれば先程の禿頭の男、ラウス・バーンの映像体が案内に現れた時点でほぼ攻略は認められていたらしい。
というのもあの映像体は、『最低二つ以上の大迷宮攻略の証を所持している事』と、『神に対して信仰心を持っていない事』、或いは『神の力が作用している何らかの影響に打ち勝った事』という条件を満たす者の前にしか現れないらしい。
つまり【神山】のコンセプトは、『神に靡かない確固たる意志を有する事』の様だ。
恐らく愛子も攻略を認められたのは、長く教会関係者から教えを受けておきながら、それに微塵も影響される事も無く常に生徒達を想い続けてきたからだろう。
この世界の人々には実に厳しい条件だが、ソウゴ達には軽い条件だった。
漸く神代魔術を手に入れた衝撃から立ち直った愛子を促して台座に本と共に置かれていた証の指輪を取ると、ソウゴ達はいつもの行程を行いさっさとその場を後にした。再びラウス・バーンの紋章が輝いて元の場所に戻る。
「大丈夫か?」
「うぅ、はい。何とか……それにしても、すごい魔法ですね……確かに、こんなすごい魔法があるなら、日本に帰る事の出来る魔法だってあるかもしれませんね」
愛子が蟀谷をグリグリしながら、納得した様に頷く。その表情はここ数日の展開の激しさに疲弊しきった様に疲れたものだったが、帰還の可能性を実感出来たのか少し緩んでいる。
「……さて、残る作業は鼠捕りか。合流せねばな」
「あっ、そうです! 王都が襲われているんですよね? 皆、無事でいてくれれば……」
心配そうな表情で祈る様に胸元をギュと握り締める愛子を促して、ソウゴは聞こえない様に「皆、は無理だろうな……」と呟く。
そのまま愛子とティオを掴み、"飛来神の術"で飛ぶ。
そして、合流した先で見たものは……
胸から剣を突き出し、既に息絶えた香織の姿だった。
「今回は割とタイトル通りじゃないか?」と思った作者であった。(タイトルの英語は、意訳で「いとも容易く行われるえげつない行為」という意味)
原作と違って全く苦戦しないから大幅に文字数を削られました。今回の話を短いなと思ったら、それは作者に毒されてます。長いと思った方、多分正常です。
作者は前者です。