ありふれぬ魔王が世界最強   作:合将鳥

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大変お久しぶりです。長く間が空き申し訳ありませんでした。最近どうにも周辺機器の調子が悪く、中々執筆出来ない状況が続いていました。



第二十九話 帝都動乱! ハウリアの秘密作戦

 

 雑多。

 

 「ヘルシャー帝国の首都はどんなところ?」と聞かれて答えるなら、その一言だろう。

 徹底的に実用性を突き詰めた様な飾り気の無い建物が並んでいる一方で、後から継ぎ足し続けた様な奇怪な建物の並ぶ場所もある。

 ストリートに関しては「区画整理? なにそれおいしいの?」と言わんばかりに大小入り乱れ、あちこちに裏路地へと続く入口がある。

 

 雰囲気も、【宿場町ホルアド】の【オルクス大迷宮】に挑む者が醸し出すものに似た、どこか張り詰めた様な緊張感がある。露店を出している店主達ですら"お客様"という考えからは程遠い、荒々しい接客ぶりだ。

 

 だが、決して暗く淀んでいる訳でも荒んでいる訳でもなく、誰もが其々やりたい事をやりたい様にやるという自由さが溢れている様な賑やかさがあった。"何があっても自己責任、その限りで自由にやれ!"という意気が帝都民の信条なのかもしれない。

 

 

 【ヘルシャー帝国】は数百年前の大戦で活躍した傭兵団が設立した新興の国で、実力至上主義を掲げる軍事国家だ。帝都民の多くも戦いを生業としており、よく言えば豪気、悪く言えば粗野な気質だ。都内には大陸最大規模の闘技場等もあって、年に何度も種類の違う催しがなされ大いに盛り上がっている。

 

 

「おい、おま──ぐぺっ!?」

 

 そんな帝都に入ったソウゴ達だが、当然美女・美少女を引き連れたソウゴが目立たない訳が無く、頻りにちょっかいを掛けられては問答無用に沈めるという事を既に何度も繰り返していた。

 今も、ニヤつきながら寄って来た武装した男を目にも止まらぬ速さで頭を砕いて再生し、記憶を物理的に消去させたところである。

 しかし、周囲はそんな暴力沙汰を(目に見えないのだから当然だが)特にどうとも思っていない様で、ごく普通にスルーしている。この程度の"喧嘩"は日常茶飯事なのだろう。

 

「うぅ、話には聞いていましたが……帝国はやっぱり嫌な所ですぅ」

「うん。私もあんまり肌に合わないかな……ある意味、召喚された場所が王都で良かったよ」

「まぁ、軍事国家じゃからなぁ。軍備が充実しているどころか、住民でさえその多くが戦闘者なんじゃ。この程度の粗野な雰囲気は当たり前と言えば当たり前じゃろ。妾も住みたいとは全く思わんがの」

 

 どうやら、シア達は帝都がお気に召さなかった様である。無言ではあるが、ユエも同意する様に頷いている。

 光輝や龍太郎などはそれ程嫌いな雰囲気ではない様だが、雫は警戒心が跳ね上がっているし、鈴は少し怯えている様で雫の傍を離れようとしない。やはり女性にはあまり好かれない国の様だ。とはいえ、光輝達も好んでいる訳ではなく、日本人に於いては刺激の強過ぎる特異な有様に頻りに表情を歪めている。

 王国ではまず見られなかった光景、特にシアの心を抉る──奴隷達。

 

「シア、余り見るな。見ても仕方あるまい?」

「……はい、そうですね」

 

 どうしても目に入ってしまう同族達の有様。値札付きの檻に入れられた亜人族の子供の姿は見るに堪えない。

 使えるものは何でも使う主義の帝国は奴隷売買が非常に盛んだ。見ない様にしようとしてもそこかしこに奴隷商はおり、引き連れている者も多くいる。

 ユエが心配そうにシアの手を握る。その暖かさが伝わり、シアのウサミミが嬉しそうにパタパタと動いた。

 

「……許せないな。同じ人なのに……奴隷なんて」

 

 ソウゴ達の後ろを歩いていた光輝が、ギリっと歯噛みする。

 【ハイリヒ王国】は聖教教会の威光が強く、亜人への差別意識も高い。その分、亜人を奴隷として傍に置くという考え自体が忌避されがちな風習なので、光輝達も王都で奴隷の亜人を見る機会は無かった。だから余計に心に来るものがあるのだろう。だからといって、本当に行動を起こされても困るのだが……。

 

 もしそうなったら、少なくとも何かしらの事故が起こるのは間違いないだろう。

 

 尤も、ストッパーである雫がいるのでその心配は無いだろう。無い筈だ。

 今も光輝にやや不機嫌そうな視線を向けるソウゴに気付き、彼是と諌める様に話しかけている。少しして光輝は不満気な表情をしながらも、渋々といった様子で頷いた。ホッとした雫は、チラリとソウゴを見る。ソウゴは既に雫達の方を見ておらず、雫はついつい溜息を漏らした。

 すると香織がそんな微妙な雰囲気を変えようとしたのか、王国であった珍事を口にする。

 

「そう言えば、雫ちゃんって皇帝陛下にプロポーズされたよね?」

「……そう言えば、そんな事もあったわね」

 

 思い出したくなかった事を掘り起こされて、顔を顰めると同時にジト目を香織に向ける雫。何故その話題を出したのかと言いたげだ。

 ユエ達女性陣が「ほぉ~」とどこかニヤついた表情で雫を見、光輝が渋い表情になる。普通に考えればシンデレラストーリーと言えなくもないのだが、女性として嬉しいという気持ちは皆無らしい。

どうやら国だけでなく、ガハルド皇帝自身も嫌われてしまっているようだ。

 

「……そんな事より! 常磐さん、具体的に何処に向かっているの?」

 

 今にも詳細を聞いてきそうな女性陣を躱す為、雫はソウゴに話を振る。シアの父親達の安否を確認するという話は聞いているが、その為の具体的な方針を聞いていなかったのだ。

「冒険者ギルドだ。正規ルート(・・・・・)に則るのも悪くない」

「……? 常磐さんは、彼等が捕まっていると?」

「さてな。その可能性もあれば、未だ潜んでいるやもしれん。見た限りだが、現在の警戒態勢は高い。入ったはいいが出られんという状態という事もある」

 

 

 ソウゴの言う通り、現在帝都の警備レベルは高い。

 入場門で光輝達は一人一人身体検査までされた(尚、ソウゴとユエ達は抜け道を使って不法入国した)上、外壁の上には帝国兵が巡回ではなく常駐して常に目を光らせていた。

 都内でも最低三人一組(スリーマンセル)の帝国兵が厳しい視線であちこちを巡回しており、大通りだけでなく裏路地までしっかり目を通している様だった。恐らく、魔物の襲撃があった事が原因で、未だ高レベルの警戒態勢を敷いているのだろう。

 

 そんな現状であるから、パル達も侵入には苦労していて未だ隙を窺っている状態だ。

 

 奴隷でもない兎人族が帝都に入れる訳もなく、ソウゴの奴隷のフリをするのも限度がある。その為ソウゴが運んできた増援部隊も、今は目立たない様に帝都から離れた岩石地帯に潜伏中だ。

 

 

 ──ただ。ソウゴは口では分からないような口振りだったが、実のところカム達が帝城に捕まっている事を確認していた。

 先程雫が光輝を宥めている間に、遠視と透視で帝城の独房スペースの位置とそこに捕縛されているハウリア達を見つけていたのだ。

 

 兎人族は気配操作に関しては亜人族随一な上に、カム達はそれを磨き続けてきたのだ。人の出入りは厳しくとも、何らかの方法で外に伝言を送る位は出来るだろう。にもかかわらず、それすら出来なかったという事は、捕まっていて身動きがとれないと考えるのが自然だ。

 そう思い当りを付けてみれば、案の定というやつだ。だがそれを素直に教えてしまっては面白くないし、ましてや光輝達が知ればそのまま突入しかねない。そうなれば、最早面白い面白くないではなく、面倒でしかない。

 

 すると傍らで不安そうな表情をするシアが目に入り、手を伸ばして頭を撫でる。ソウゴは、嬉しそうにしながらも若干不安さを残すシアに、冗談めかしていう。

 

「捕まっているとしても、あんな特異な連中早々に処分する事はあるまい。死んではおらんだろう。それに、だ。中々見つからない様なら、最悪この辺り一帯を地図から消せばよかろう」

「ん……任せて、シア。塵も残さない」

「ソウゴさん、ユエさん……」

「いやいやいや、灰燼にしちゃダメでしょう? 塵も残らなかったら、カムさんも死んでるんじゃ? 目が笑っていないのだけど、冗談よね? そうなのよね?」

 

 雫の苦労性の面が顔を覗かせて、青白い顔でツッコミを入れる。家族が心配になる気持ちは分かるが、目の前で万を超える住民を殺すと宣言されてはスルー出来ない。

 そんな雫の肩に、そっと香織が手を置いた。そして沈痛そのものの表情で頭を振ると。

 

「雫ちゃん、帝都はもう……」

「諦めてる!? 香織、貴女"治癒師"でしょ! "放っておけない!"ってフェアベルゲンの人達を癒して回ったばかりでしょ! なんで諦めちゃったの!?」

 

 そんなに帝都が気に食わないのか……時折見せる親友の病んでいる部分は、好いた男にだけ向いていると思ったが、稀代の治癒師は先ず自分の心を癒すべきかもしれない。

 

 

 

 そんなあまり冗談に聞こえない冗談を交わしながら、冒険者ギルドに向かってメインストリートを歩いている事暫し。

 

 不意に、前方の街の様子が変わり始めた。

 

 あちこちの建物が崩壊していたり、その瓦礫が散乱していたりしているのだ。

 道中耳に入ってきた話によれば、コロシアムで決闘用に管理されていた魔物が突然変異し、見た事も無い強力かつ巨大な魔物となって暴れだしたらしい。

 都市の中心部に突如出現した巨大な魔物(体長三十メートルはあったらしい)に対して後手に回った帝国は、いい様に蹂躙された様だ。

 

 挙句、魔人族がその機に乗じて一気にガハルドに迫ったらしい。

 

 帝国に於ける皇帝陛下とは、それ即ち"帝国最強"を意味する。故にだろう、魔人族達は結局、ガハルドを討つ事は叶わず逆に返り討ちに遭った様だ。

 魔物の方も皇帝自ら出陣して陣頭指揮を執り、討伐に成功した様だが……コロシアムを起点に数百メートル単位で放射状に崩壊した街並みを見る限り、被害は大きかった様である。

 そんな瓦礫の山となっている場所では、復興作業の為大勢の亜人奴隷達が駆り出されていた。

 

 冒険者ギルドはその崩壊が激しい場所の更に向こう側にあるので、否応なく通らなければならない。自然、彼等の姿を視界に入れる事になる。

 武装した帝国兵の厳しい監視と罵倒の中、暗く沈みきった表情で瓦礫を運ぶ様は悲惨の一言だった。

 

 帝都に齎された人的・物的被害の皺寄せは、誰よりも亜人族に来ているようだ。こうして復興に酷使していれば、いくら肉体的ポテンシャルの高い亜人族と言えど倒れる者は続出するだろう。

 樹海への襲撃は、倒れた彼等を回復させるよりも新調した方がいいという、正に亜人を人と認めない価値観の表れという事だ。或いは、単に"弱い者"を認めない実力至上主義の価値観も含まれているのかもしれない。アルテナ達が他都市に輸送されたのも売上金を復興に当てたりする為なのだろう。倫理観は兎も角、合理的と言える。

 

 その時、ソウゴ達から少し離れた所で犬人族と見られる十歳位の少年が瓦礫に躓いて派手に転び、手押し車に乗せていた瓦礫を盛大にぶちまけてしまった。足を打ったのか蹲って痛みに耐えている少年に、監視役の帝国兵が剣呑な眼差しを向け、棍棒を片手に近寄り始めた。何をする気なのかは明白だ。

 

 そして、それを見て黙っている訳のない正義の味方がここに一人。

 

「おい! やめっ──」

 

 光輝が帝国兵を止めようと、大声を上げながら駆け出そうとする。しかし……

 

 

 フッ──……

 

 

 そんな微風が吹いた様な音が微かに届くと同時に、帝国兵が勢いよくつんのめり顔面から瓦礫にダイブしたのである。

 ゴシャ! と何とも痛々しい音が響き、帝国兵はピクリとも動かなくなった。同僚の帝国兵が慌てて駆けつけて容態を見た後、だらだらと流れる鼻血と涎に呆れた表情で頭を振った。そして面倒そうに、且つ嫌そうにしながらも何処かへ運び去っていった。少年の事は放置である。

 

 少年は何が起きたのかわからないといった様子で暫く呆然としていたが、ハッとした表情で立ち上がると自分が散らかした瓦礫を急いでかき集めて、何事も無かった様に手押し車で運搬を再開した。

 

 呆然としているのは、駆け出そうとして出鼻を挫かれた光輝も同じだった。そこへソウゴから呆れの声が掛かる。

 

「正義漢を気取るのは構わんが、迷惑にならん様に手段は考えるべきだな」

「っ……今のは常磐さんが?」

 

 光輝の確認に肩を竦めるソウゴ。

 吹き出す息によって対象を停止させる"ノッキングブレス"によって動きを止め、同時に吐き出した微粒子サイズの寄生虫の卵を兵士の体内で孵化。生まれた虫が0.1秒にも満たない速さで脳を食い漁ったのだ。

 先に助けた事は兎も角、光輝はソウゴの"迷惑"という言葉に眉を顰めた。どうやら正義スイッチがONになった様だ。

 

「迷惑って何だよ。……助けるのが悪いっていうのか? お前だって助けたじゃないか」

「はぁ……、別に助けるなとは言っておらん。やるなら気付かれない様にやれと言っているんだ」

 

 心底呆れた様に溜息を吐きながら答えるソウゴに、光輝は本来の目的であるシアの家族を探すという事も頭の隅に追いやってヒートアップし、倫理やら正義の価値観を訴え出す。

 

「お前は、あの亜人族の人達を見て、何とも思わないのか! 見ろ!今こうしている時だって、彼等は苦しんでいるんだぞ!」

「……八重樫雫、何とかしろ。貴様の管理不行きだぞ」

 

 ソウゴとて、傍若無人な振舞いが目立つが"仮面ライダー"の端くれを自覚している。自由の守護者として、目の前で苦しんでいれば何も感じない訳ではない。

 しかし、だからといって本来の目的を放り出す程青くも無く、今ここで奴隷解放運動などする訳も無く、光輝の相手をするのも面倒なので雫に責任を問う。

 

 雫が溜息を吐きながらも諌める言葉を掛ける……前に、光輝が怒声を上げた。どうやら、ソウゴが雫に話を振った事がいたく気に入らなかった様だ。

 

「雫は関係ないだろ! 俺は今、お前と話しているんだ! シアさんの事は大切にするのに、あんなに苦しんでいる亜人達は見捨てるのか!」

 

 光輝の声が大きくなるにつれ、周囲も何事かと注目しだした。離れたところで監視役を担っている帝国兵の幾人かもチラチラとソウゴ達の方を見始めている。

 ソウゴ達の探し人であるカム達が帝国側の手に落ちている現状で正規ルートに沿うと決めた以上、自ら騒動を起こして官憲と揉める等言語道断だ。

 なので、やけに突っかかってくる光輝に向かってスッと目を細めた。

 

「……小僧。ここは日本ではない。貴様等の価値観、規則は此処では通用せん。法が違うからな。奴隷制を使っている以上、奴隷は立派な財産だ。それをどうこうするというなら、それは盗人と変わらんぞ。その覚悟があるなら止めんがな、今我々が探しているのはこの国にとって犯罪者。騒ぎを起こされる訳にはいかん、それが分からんなら……家族ごと貴様を消す」

「っ……」

 

 ソウゴは歯噛みする光輝を尻目に、興味は無いという様に踵を返した。

 

 奴隷制度はこの世界では当たり前の事。確かに酷い扱いではあるが、ここで奴隷にされている亜人族を助ける方が一般的に"悪い"事なのだ。ソウゴが言った様に、他人の"所有物"を盗むのと変わらないのだから。

 

 "それでも"と思うなら、相応の覚悟が必要だ。それこそ、帝国そのものを敵に回して戦う覚悟と、二度と亜人族を奴隷にさせない方法を確立させる程度の事は。

 でなければ、今奴隷達を力尽くで助けても、後に帝国からの報復や亜人族捕獲活動が激化する可能性が高く、そうなれば待っているのは更なる地獄だろう。

 

 その辺りの事が解っているのか、いないのか……光輝はソウゴの背中を睨みつけながらその場を動かない。

 

「……胸糞悪ぃ話だけどよ。今は行こうぜ、光輝」

「今は、シアさんの家族を優先しよ?」

 

 龍太郎と鈴にそう言われて、光輝は仲間に気を遣わせていると大きく溜息を吐いた。そこへ雫が呼び掛ける。

 

「光輝」

「……分かってる」

 

 漸く渋々といった感じで頷く光輝。

 

 ソウゴが本気になれば、自分達を送り返す事はおろか、殺す事も朝飯前だろう。今は力が必要なのだ。想いを押し通す為には、ソウゴ達以上の。

 その為にはどうしても、神代魔法を修得しなければならない。

 

 そう。たとえ、どれだけ気に食わなくても。ソウゴ達についていかなければならない。それが、力を得る一番確実な方法なのだから

 光輝は自分にそう言い聞かせると、胸の内のモヤモヤをグッと押さえ込み、黙って後を付いて行くのだった。

 

 

「色々難儀じゃのぅ」

 

 

 いつの間にか、雫の隣に来ていたティオが少し苦笑いを浮かべながらそう言った。

 

「……単純な人間なんて、あまりいませんよ」

「道理じゃな。人より多くを気付いてしまうお主も、確かに難儀じゃ。放っておけないその性格も含めての」

 

 普段の変態性は何処へ行ったのか。深い眼差しを向けられて、雫は言葉に詰まった。

 

「年長者の戯言と流してくれてもいいが……お主は、少し甘えた方が良い。世話を焼いてばかりでは、お主の方が道を見失うぞ? 取り敢えず、ほれ。甘えさせてくれそうな者がおるじゃろ?」

「え?」

 

 雫の視線がスッと前に流れ──

 

「雫ちゃん、難しい表情ばっかりだよ。大丈夫?」

 

 隣にいた香織に、心配そうな声をかけられた。慌てて視線を転じる雫。香織の手が、そっと雫の握った。

 

「……ふふ、ありがと香織。大丈夫よ。まぁ何というか、光輝の事がね? でも、今は神の使徒な親友もいるし、いざって時には頼らせてもらうわね?」

「うん! 任せて雫ちゃん!」

 

 親友の心遣いとティオの善意による助言に感謝しながら、雫は少し肩の力を抜いて前を行くソウゴ達の後を追うのだった。

 

 

 

 

 光輝達だけが微妙な雰囲気の中辿り着いた帝都の冒険者ギルドは、そのまま酒場という様子だった。

 

 広いスペースに雑多な感じでテーブルが置かれており、カウンターは二つある。

 一つは手続きに関するカウンターで受付は女性だが粗野な感じが滲みでており、もう一方のカウンターは、完全にバーカウンターだった。昼間にも関わらず飲んだくれている者があちこちにおり、暇なら復興を手伝うべきでは? とツッコミを入れたくなる有様だった。

 

 ソウゴ達が中に足を踏み入れると、もう何度目になるか分からない毎度お馴染みの反応が返ってくる。即ち、ユエ達に対する不躾で下卑た視線だ。なのでソウゴも適当に威圧し、冒険者達に自身の死のイメージを流し込みしつつカウンターへ向かう。

 

 流石、飲んだくれていても軍事国家の冒険者というべきか。一気に酔いは醒めた様だが、皆一様に髪が白くなり、顔は恐怖に引き攣って老け込んでいる。おまけに大なり小なり失禁し、少しすれば異臭が漂い始めるだろう。

 ついさっきまでのカウンターの受付嬢も、気怠そうな、やる気無さそうな表情でソウゴを見返すだけだったのが、今は必死にソウゴの方を見ない様に、震えながら顔を伏せている。

 

「情報を貰おうか。ここ最近、帝都内で騒動を起こした亜人がおらんだか?」

「……」

 

 ソウゴの質問に、受付嬢は顔を上げない。恐怖半分、質問の内容も奇妙だったからだろう。

 

 亜人奴隷の情報が欲しいなら商人ギルドや何処かの商会にでも行けばいいし、帝都内で騒動を起こせる奴隷などいはしない。奴隷の首輪が大抵の反抗を封じるからだ。

 そして、帝都内に奴隷でない亜人族などいない事から、ソウゴの質問は有り得ない可能性を尋ねているのと変わらないのである。

 結果、受付嬢がどうにか一握の勇気で行動を起こし、バーカウンターの方を指差す。

 

「……情報は、あっちで」

 

 ソウゴがそちらを見れば、ロマンスグレーの初老の男の姿があり、"どうやら情報収集は酒場で"というテンプレが守られている様だ。受付嬢はそれだけ言うと、スイッチが切れた様に気を失ってしまった。

 ソウゴは肩を竦めると、バーカウンターの方へ向かう。

 死刑執行を待つ罪人の様に縮こまる冒険者達に、雫や龍太郎が肝を冷やす。鈴は既に怯えているのか、その小さい体を雫に寄せて上手く隠れている。雫の服の裾を摘んでいるのが少し可愛らしい。

 

 ソウゴがバーカウンターの前に陣取り、マスターらしきロマンスグレーの男に先程受付嬢にしたのと同じ質問をする。しかし相手も意地があるのか、冷や汗を掻きながらも無視する様にグラスを磨き続けているだけだった。

 

「ここは酒場だ。酒も飲まない奴を相手にする気もない……さっさと出て行け」

 

 そして、ある種真っ当な意見を述べるマスター。相手が圧倒的に格上だと理解しつつも、プロ意識で立ち続けるのは高評価だ。であるならば、要望通りここで酒を飲むのも吝かではない。

 

「尤もだな。……マスター、私に安くてキツいのを。代金は相場の十倍出そう」

「何? ……吐いたら、叩き出すぞ」

 

 マスターはソウゴの注文に一瞬眉をピクリと動かしたものの、特に断るでもなく背後の棚から一升瓶を取り出しカウンターにゴトリと音をさせながら置いた。

 叩き出す等と虚勢を張りながらも素直に出したのは、ソウゴの作り出したこの異様な光景に、逆らった場合の未来を悟ったからか。

 

 ソウゴはボトルを手に取ると指先でトンッ、と軽く先端を叩く。するとまるで最初から切れ目でも入っていたかの様に綺麗に先端が弾け飛んだ。その行為自体と断面の滑らかさにマスターが息を呑むのが分かった。

 封の空いたボトルからは強烈なアルコール臭が漂い、傍にいたシアや香織が思わず鼻を覆って咽てしまった。光輝達も「うっ」と呻きながら後退りする。

 

「な、常磐さん? そ、それを飲む気なの? 絶対、やめた方がいいと思うわよ?」

「そ、そうだよ。絶対、吐いちゃうって。鈴なんか既に吐きそうだよ」

「っていうかソウゴくん、どうせ飲むならもっといいお酒にしようよ。ソウゴくんが普段飲んでる、あの高そうなのみたいな」

「香織さんの言う通りですよ、ソウゴさん。どうして態々質の悪いのを……」

 

 雫に鈴、香織、シアが口々に制止の声を掛けてくる。傍らのユエも酒の匂いに眉を顰めつつ、ソウゴの服の裾をクイクイと引っ張る。

 

「どうせ酔えんのなら、キツいのを飲んだ方が赴きもあろう? それがこのマスターのプロ意識への礼儀というものだ」

 

 心配する彼女達を余所に、ソウゴはそんな事をいう。

 

 シーンとする店内にゴキュゴキュと喉を鳴らす音だけが響き渡る。そして、一度も止まる事なくものの数秒でボトル一本を飲み干してしまった。

 

 ソウゴは手に持ったボトルも飴細工の様に嚙み砕いてしまうと、口元に笑みを浮かべながらマスターを見やる。その目が「何か文句が?」と物語っていた。

 

「……わかった、アンタは客だ」

 

 マスターは両手を上げて降参の意を示すと苦笑いを浮かべた。その表情には、多分に命拾いしたという安堵感が浮かんでいる。

 

「……で? さっきの質問に対する情報はあるのか? 勿論、相応の対価は払うが」

「いや、対価ならさっきの酒代で構わん。……アンタが聞きたいのは兎人族の事か?」

「情報があるようだな。詳しく頼む」

 

 どうやら、マスターは相応の情報を掴んでいるらしかった。

 

 

 曰く、数日前に大捕物があったそうで、その時兎人族でありながら帝国兵を蹴散らし逃亡を図ったとんでもない集団がいたのだとか。しかし、流石に十数人で百人以上の帝国兵に帝都内で完全包囲されてしまっては逃げ切る事はやはり出来ず、全員捕まり城に連行されたそうだ。

 それでも、兎人族の常識を覆す実力に結構な話題になっていたので、町中で適当に聞いても情報は集められた様である。

 

「成程な……月は出てなかったか」

 

 ソウゴが呟きながら傍らのシアを見ると、やはりシアの顔色は曇っている。果たして、帝都に不法侵入した亜人がどういった扱いを受けるのか……、少なくとも明るい未来は期待できない。

 

 ただ、連行したという点は確かな希望だ。

 

 男の兎人族も愛玩奴隷として需要が無い訳ではないが、カム達の様な初老の男まで需要が高い訳ではない。しかも、帝国兵に牙を剥く様な存在だ。その場で即座に処刑されていてもおかしくはないし、寧ろその方が自然である。つまり、帝国側としてはカム達に何らかの価値を見出して、生かしておく事にしたという事なのだろう。そんな思考を込めてシアの肩を叩くソウゴ。見れば、ユエはシアの手を握っている。シアもそれを受けて、ソウゴとユエの気持ちが伝わった様で、瞳に力を宿しコクリと頷いた。マスターが、珍しい髪色の兎人族であるシアを意味深な眼差しで見やる。捕まった兎人族達との関係をあれこれ推測でもしているのだろう。

 そんなマスターに、ソウゴは尋ねた。

 

「マスター。言い値を払うといったら、帝城の情報……どこまで出せる?」

「! 冗談でしていい質問じゃないが……、その様子を見る限り冗談という訳じゃなさそうだな……」

 

 ソウゴが笑みを浮かべつつも、その全く笑っていない眼で同じ視線の筈のマスターを睥睨する。

 得体の知れない圧力は、先程から早鐘を打つ心臓を更に早めていく。質問の内容も、下手をすれば国家反逆の意思を疑われかねないものだ。

 

 尤も、ここは冒険者ギルドであり独立した機関であるから、帝国に対する"反逆"という観念自体が無い訳ではあるが、とは言え自国の、それも本拠地内部の情報を売り渡したと知られれば、帝国側もただで済ます訳ではいかなくなる。

 お互いの深い部分に関しては、"見ざる・言わざる・聞かざる"が暗黙のルールというものだ。安易に情報は口にしたくない。

 それがマスターの本音ではあったが……目の前の刻一刻と圧縮される様な威圧を増していく異様な男相手に、返答を渋っても碌な未来は見えそうにない。

 

 なのでマスターは苦渋の選択として、代わりにソウゴの訊ねた情報を知っている人間を売り渡……教える事にした。

 

「……警邏隊の第四隊にネディルという男がいる。元牢番だ」

「ネディル……訪ねてみよう。世話になった」

 

 ソウゴもマスターがあっさり帝城内部、特に捕虜がいる場所を喋るとは思わなかったし、知らない可能性も考えていた。故に知っている人間を吐くだけでも十分だとあっさり引き下がった。

 安堵の息を吐くマスターと、異臭を放ちながらソウゴから必死に顔を背ける冒険者達を尻目に、ソウゴ達は冒険者ギルドを後にした。

 

 再びメインストリートを歩きながら。シアが先程のやりとりについてソウゴに尋ねた。

 

「あの、ソウゴさん。なんでさっき元牢番の人を紹介してもらったんですか。多分ソウゴさんの事ですから……」

「無論、既に居場所など把握している。だが、なんでも裏道近道はつまらん。無論、無駄に邪魔をされるのはかなわんが。それはさておき、聞き取った後今晩にでも侵入するつもりだ。貴様等は先に食事できる店を探せ、すぐ合流する」

 

 ソウゴの指示に、疑問顔を向けるシア達。しかしその疑問を口にするより速く、ソウゴは風景に溶け込む様に雑踏の中へ消えていった。

 

 その数分後、一階に食事処があるとある宿屋を見つけたシア達の元へ、急に現れたソウゴが戻って来た。

 

「……ソウゴ様、もう終わったの?」

「あぁ、答え合わせの様な作業だったが、補強という事にしておこう。私一人の方が身軽に動ける、貴様等は郊外のバルトフェルド達と合流して待機だ」

「……それはわかったけど……そもそも、その情報は正しいの? ネディルって人が嘘を言っている可能性は……」

 

 あっという間に戻ってきて即座に予定を決めるソウゴに、雫が呆気に取られつつ前提を疑う。確かにそのネディルという男が嘘をついている可能性もある。だがしかし、

 

「それはあるまい。私が嘘を吐いた者を石に出来るのは貴様も知っておろう。まぁそうでなくとも……なぁ」

「……え? 何、何したの? ねぇ!?」

 

 敢えて最後まで語らないソウゴに恐怖を感じ、雫は必死に何か悍ましい事はしてないだろうかと必死に問うた。

 

「なぁ、常磐さん……今更だが、シアさんの家族が帝城に捕まっているんなら、普通に返してくれって頼めばいいんじゃないか? 今ならリリィもいるはずだし、俺は勇者だし……話せば何とかなると思うんだが……」

 

 光輝が、本当に今更な事を言う。

 確かに、光輝の言う通り、勇者である光輝の言葉であればそうそう無下にはできないし、頼めばリリアーナも口添えをしてくれるだろう。ソウゴ自身が力を示して強引な交渉をする事も可能だ。

 だが、

 

「対価に何を払う気だ?」

「え?」

「カム達は不法入国者な上、少なくない数の帝国兵を害している。何より、兎人族でありながら包囲されて尚帝国側にダメージを与えられるという異質な存在だ。それをまさか、頼んだからといって無償で引き渡すと思うのか?」

「それは……」

「対価を要求するに決まっておろう。それも限りなく足元を見た、法外な対価をな。帝国にだって面子はある。タダで済ます事は出来ないだろう。それが政治というものだ。或いは、リリィの交渉にも影響が出るかも知れん。それは貴様も本位ではあるまい?」

 

 その可能性は確かにあると、口を噤む光輝。

 無論、ソウゴとて何事も無ければリリアーナの交渉は極力邪魔するつもりは無く、何かしらの要求をされれば必要に応じて予定を前倒しにするだけだ。

 つまり、顔を合わせれば最初から"話し合い"という名の虐殺になる可能性が高く、ならば秘密裏に回収して責任を有耶無耶にする方が得策というものだ。

 

「対価はともかく、リリィに迷惑をかけるのは……よくない。よくない、んだけど……」

 

 光輝としては、折角付いてきたのだから自分も何かしたいのだろう。先程の亜人奴隷の事もあり、じっとしていられない様で何かを考え込み始めている。

 

 ソウゴは、チラリと雫を見た。雫もソウゴに視線を向けると小さく頭を振った。どうやら光輝に暴走の兆候が出ているらしい。

 ソウゴは自分が帝城に侵入する際、光輝が何らかの“余計なお世話”的な行動を起こす可能背を考え、仕方なく先手を打つ事にした。

 

「小僧。貴様等に一つ仕事を頼みたい」

「っ!!!? なん……だって? 常磐さんが俺に頼み? ……有り得ない……」

 

 ソウゴからの突然の頼みという言葉に光輝は愕然とした表情で硬直する。それは隣の龍太郎や鈴も同じだった。まるでUMAと街中でばったり遭遇してしまったかの様だ。それくらいソウゴからの"頼み"というものは、今までの言動からしてあり得なかったのだろう。

 

「出来んのなら構わんがな」

「ま、待てっ、待ってくれ! まずは何をして欲しいのか教えてくれ」

 

 何でもない雰囲気で内容を説明する前にあっさり撤回したソウゴに、寧ろ光輝の方が食いついた。

 

「帝城に侵入しカム共を奪還、脱出するのは簡単だ。だが、どうせなら少しでも注意を逸らす為に陽動役を立てようと思ってな。──例えば、先程の奴隷達の収容所が襲われ、謎の集団によって亜人が連れ去られる……なんて」

 

 勿論、警備は厳重だろうがソウゴに侵入できない訳が無い。陽動も、あれば全く役に立たない訳ではないだろうが、特に必要という訳でもない。単にそれっぽい理由を適当に考えただけである。

 すべき事がなくて暴走するというなら、すべき事を与えればいいのだ。

 

「陽動……あの子達……やる。やるぞ! 常磐さん! 陽動は任せてくれ!」

「そうか、では任せよう」

「…………はぁ」

 

 察しの良い雫は早くもソウゴの思惑を悟った様で、ジト目を向けてくる。それは幼馴染を軽く誘導された事か、それとも必然的に自分も巻き込まれる未来が見えたからか。

 そんな雫を無視し、ソウゴは懐から其々バックルとラジカセの様な物を四つ取り出す。

 

「闇夜に紛れるとはいえ、万が一という事もあろう。故にコレを貸しておこう」

 

 バックルの様な物は黒で統一されているが、ラジカセ擬きの方は其々別の色になっており、光輝に蛍光イエロー、雫にオレンジ、龍太郎にライトグリーン、鈴にビリジアンの物が手渡される。

 

「……常磐さん、これは?」

「このカセットみたいなのを、セットするのは分かるのだけど……?」

「おぉ! 俺のやつに描いてある絵、ヘラクレスオオカブトじゃねぇか!」

「鈴のは……ヘッジホッグ? 確かハリネズミだっけ?」

 

 一見するとそれが何なのか、何に使うのか理解出来ない代物に、四人が疑問符を浮かべる。ソウゴは疑問に敢えて答えず、四人に向けて手を翳す。

 

 

 

「使い方は頭に直接流し込む。……上手く使うんだな」

 

 

 

 

 深夜。

 

 光一つ存在しない闇の中に格子のはめ込まれた無数の小部屋があった。

 特殊な金属で作られた特別製の格子は地面に刻まれた魔法陣と相まって堅牢な障壁となり、小部屋にいる者を絶対に逃がさないと無言の意思表示をしている。

 汚物や血から発生する異臭で、何も見えなくとも極めて不潔な空間である事が分かる。

 

 そんな最低な場所とは、勿論囚人を拘束し精神的に追い詰める事を目的とした牢獄、それも【ヘルシャー帝国】帝城にある地下牢であった。

 

 流石は帝城の牢というべきか、地下牢を構成する金属鉱石の質も然る事ながら、至る所に刻まれた囚人を逃がさない為の魔法陣が実に秀逸である。

 脱獄を企てた者、または地下牢に忍び込んだ者、其々に致死に至らない程度の極めて悪質な苦痛を与えるトラップが見える所だけでなく壁の中にまで仕込まれている。トラップを解除する詠唱を正確に唱えない限り、まず勝手な行動は封じられていると見るべきだろう

 脱獄出来る可能性等微塵も無く、光一つ無い世界で凶悪な異臭に苛まれつつ小さな部屋に一人押し込まれていれば、常人なら一日と保たず発狂してもおかしくない。看守とて唯一の入口である扉の直ぐ外にある詰所で待機しており、決められた時間に巡回するだけで地下牢の暗闇の中に長時間いたりはしないのだ。

 

 

 だがそんな最低の空間であるにも拘わらず、現在は何故か余裕有り気な声音の話し声が聞こえていた。

 

 

「おい、今日は何本逝った?」

「指全部と、アバラが二本だな……お前は?」

「へへっ、俺の勝ちだな。指全部と肋三本だぜ?」

「はっ、その程度か? 俺は肋七本と頬骨……それにウサミミを片方だ」

「マジかよっ? お前一体何言ったんだ? あいつ等俺達が使えるかもってんでウサミミには手を出さなかったのに……」

「な~に、いつもの様に"背後にいる者は誰だ?"なんて、見当違いの質問を延々と繰り返しやがるからさ。……言ってやったんだよ、"お前の母親だ。俺は息子の様子を見に来ただけの新しい親父だぞ?"ってな」

「うわぁ~、そりゃあキレるわ……」

「でも、あいつら、ウサミミ落とすなって、たぶん命令受けてるだろ? それに背いたって事は……」

「ああ、確実に処分が下るな。ケケケ、ざまぁ~ねぇぜ!」

 

 聞こえてくるのは、誰が一番ひどい怪我を負ったかという自慢話。最低限の回復魔術を掛けられているので死にはしないが、こんな余裕そうな会話をしていても声の主達は正に満身創痍という有様だ。

 

 それでも痩せ我慢しつつ軽口を叩く彼等の正体は、帝国に捕まったハウリア達である。

 

 彼等が重傷度で競い合っているのは、別に狂った訳ではない。既に覚悟を決めているのだ。

 帝城の地下牢に囚われている以上、自分達はもう助からない。処刑されるか奴隷に落とされるか……後者の場合は、それこそ全力全開で自害する所存なので、やはり命は無い。奴隷の首輪で強制的に同族と戦わされるなど悪夢なので、事前にそう決めていたのだ。

 

 そして助からない以上は、最後に一矢報いてやるつもりで生き長らえている。

 

 帝国側はハウリアの実力が余りに常識からかけ離れていることから、彼等の背後に何か陰謀でもあるのではないかと疑っている。

 またそうでなくても、報告を受けた皇帝ガハルドがハウリア族を気に入り、帝国軍の手駒として使えないか画策している様だった。戦闘方法、持っていた武器、その精神性、温厚なハウリアを変えた育成方法、その他にも強者を好む皇帝陛下にとってハウリア族は宝箱の様なものだったのだ。

 そんな帝国側の思惑を察しているハウリア達は、命尽きるその瞬間まで、帝国側を馬鹿にする様に楯突いているのである。覚悟も決まっているから、重傷度で競い合うという阿呆な暇潰しも出来るのだ。

 

 因みに、この地下牢に満身創痍で入れられてそれでも尋問という名の拷問の為に牢から出された時にこやかな笑みを浮かべるハウリア族は、既に関わる帝国兵の殆どに恐怖を宿した目で見られている。

 

「今頃は、族長も盛大に煽ってんだろうな……」

「そうだな。……なぁ、折角だし族長の怪我の具合で勝負しねぇか?」

「お? いいねぇ。じゃあ、俺はウサミミ全損で」

「いやお前、大穴すぎるだろ?」

「いや最近の族長、増々言動が陛下と教官に似てきたからなぁ。……特に新兵の訓練している時とか……」

「ああ、まるで乗り移ったみたいだよな。あんな罵詈雑言を浴びせられたら……有り得るな……」

「まぁ教官なら、ましてや陛下なら抑々捕まらねぇし、捕まっても今度は内部から何もかも破壊して普通に出てきそうだけどな!」

「寧ろ、帝都涙目って感じだろ? きっと、地図から消えるぜ」

「陛下は容赦無いからな!」

「寧ろ鬼だからな!」

「いや、悪魔だろ?」

「なら、魔王の方が似合う」

「おいおい、それじゃあ魔人族の魔王と同列みたいじゃないか。ボスに比べたら、あちらさんの魔王なんて虫だよ。虫」

「なら……悪魔的で神懸かってるってことで魔神王とか?」

「「「「「「「「「それだ!」」」」」」」」」

 

 

「……誰が、自分の子供の身体を乗っ取る様な毒親と一緒だって?」

 

 

「「「「「「「「「……え」」」」」」」」」

 

 暗闇の中で盛り上がっていた満身創痍のハウリア達に、呆れと怒気を孕んだ声が響く。

 

 随分と聞き覚えのある声に、ハウリア達が凍りついた様に黙り込んだ。暗闇の中、まるで肉食獣をやり過ごそうとしている小動物のように息を潜める。

 

「おい、なにを黙り込んでいる。人の事をあんな親の風上にも置けん様な能力だけが取り柄の屑と、同じ様に言っておいて言い訳も無しか?」

 

「ハハハ、悪ぃ、皆。俺、どうやらここまでの様だ。……遂に幻聴が聞こえ始めやがった……」

「安心しろよ、逝くのはお前一人じゃない。……俺もダメみたいだ」

「そうか……お前らもか……でも最後に聞く声が陛下の怒り声とか……」

「せめて最後位可愛い女の子の声が良かったよな……」

 

 居る筈のない相手の声が聞こえて、色んな意味で幻聴扱いするハウリア達。現実逃避とも言う。

 そんな彼等に、声の主であるソウゴは現実を突きつける。パッと光球を発し、地下牢の闇を払拭した。そして、帝城の地下牢にソウゴの姿がはっきりと浮かび上がった。

 

『げぇ、陛下ぁーーーー!!?』

「静かにしろ」

 

 ハウリア族の面々は見るも無残な酷い怪我を負いながら薄汚い牢屋の奥で横たわり、起き上がる様子もないにも拘わらず、素っ頓狂な声を上げた。

 ソウゴはそんなハウリア達に呆れ顔だ。

 

「な、何故、こんな所にボスが……」

「詳しい話は後だ。取り敢えず此処から出るぞ。……襤褸雑巾の様な有様の割に燥ぎよって」

「は、はは、そりゃ、陛下に鍛えられましたから」

「陛下の訓練に比べれば、帝国兵の拷問なんてお遊戯ですよ」

「殺気がまるで足りないよな? 温すぎて、介護でもされてるのかと思ったぜ」

「まぁ陛下の殺気は、数百通りの死の瞬間を幻視できるレベルだから仕方ないけどな」

 

 ゲフッゲフゥと血を吐きながら、なお軽口を叩くハウリア達。

 

 ソウゴは呆れた様にハァ…と溜息を一つ溢すと、地下牢内のトラップを確認し、さっさと対処を始めた。

 

 魔法陣によるトラップは、通常正しい詠唱によってしか解除できない。それは魔法陣に込められた魔力を詠唱によって操作し散らすというプロセスを経て無力化するからだ。

 陣を壊すという方法もあるが、大抵は壊れた瞬間に発動するか、少なくとも壊れた事を他者に知らせる機能が付いている事から、実際には詠唱による解除が唯一なのである。

 

 しかし、それは詠唱による魔力の操作しか出来ない場合の話だ。

 

 逆に言えば、魔力の直接操作が出来る者なら詠唱せずに魔法陣に作用させる事無く解除する事が出来る。

 

 

 しかしソウゴは、それが可能でありながら更に嫌らしい方法を行う。

 

 ソウゴは態とトラップを発動させ、そのダメージのみを"不慮の事故(エンカウンター)"で帝国兵に押し付ける。その上でトラップに込められた魔力は吸い上げ喰らっていくという、見事なまでの食い逃げ強盗行為。ソウゴは食い漁って出来た余剰魔力で、ハウリア達全員を即座に完全回復させた。

 

「はぁ、相変わらずとんでもないですね。取り敢えず陛下……」

 

 

『助けて頂き有難うございましたぁ!!!!』

 

 

「まったくだ。それより、カムの姿が見えんな。何処だ」

「それなら……」

 

 どうやら今の時間はカムが尋問されている様で、詳しい尋問部屋の位置を伝えられる。一応自分でも確認してみるが、どうやら間違いないらしい。

 

 彼等は、「是非自分達も族長救出に!」と訴えてきたが、却って足手纏いであり、ここまで普通に侵入して来たソウゴに任せるのが一番だと彼等も分かっていたので一言言えば大人しく引き下がった。

 

 ソウゴは、無人の空間に向けて軽く手刀を薙ぐ。するとまるで幕があった様に空間が裂け、その向こう側にどこかの岩石地帯が広がった。

 

「貴様等はこれを潜れ、帝都から少々離れた岩石地帯だ。パル達が待機している」

「Yes,Sir! 陛下、族長を頼みます」

 

 目の前で起きた非常識に唖然とするハウリア達だったが、ソウゴの言葉にハッ! と正気を取り戻すと、「まぁ陛下だからな!」と直ぐに納得し、惚れ惚れする様な敬礼をした。そして躊躇いなく抜け穴を潜っていった。よく訓練されたウサミミ達だ。

 

 全員が通ると独りでに穴は閉じていき、それを確認したソウゴはカムの居場所に向かった。

 厳しい警備を抜け道と裏技で突破して易々と目的の場所に辿り着く。外の見張りをサクッと音もなく食べて扉の前に着くと、中から何やら怒声が聞こえてきた。

 それを聞いて、中を覗き込んでみると……

 

 

「何だ、その腑抜けた拳は! それでも貴様、帝国兵かっ! もっと腰を入れろ、この─────するしか能のない───野郎め! まるで──している──の様だぞ! 生まれたての子猫の方がまだマシな拳を放てる! どうしたっ! 悔しければ、せめて骨の一本でも砕いて見せろ! 出来なければ、所詮貴様は───という事だ!」

「う、うるせぇ! 何でてめぇにそんな事言われなきゃいけねぇんだ!」

「口を動かす暇があったら手を動かせ! 貴様のその手は───しか出来ない恋人か何かか? ああ、実際の恋人も所詮───なのだろう? ───なお前にはお似合いの───だ!」

「て、てめぇ! ナターシャはそんな女じゃねぇ!」

「よ、よせヨハン! それはダメだ! こいつ死んじまうぞ!」

「ふん、そっちのお前もやはり──か。帝国兵はどいつこいつも──ばっかりだな! いっその事──と改名でもしたらどうだ! この──共め! 御託並べてないで、殺意の一つでも見せてみろ!」

「なんだよぉ! こいつ、ホントに何なんだよぉ! こんなの兎人族じゃねぇだろぉ! 誰か尋問代われよぉ!」

「もう嫌だぁ! こいつ等と話してると頭がおかしくなっちまうよぉ!」

 

 そんな叫びが部屋から漏れ聞こえてくる。捕まって尋問されている筈のカムより尋問している帝国兵の方が追い詰められているという状況──というより、カムの発する罵声にソウゴは眉間を押さえた。

 

「あまりに品が無さすぎるぞ、これは……」

『……陛下。死者の私が言うのも変ですが、これでは私達の品位が』

「分かっている。……教官役を守人にしたのは間違いだったか」

 

 影の中から響く苦言を呈する声に、ソウゴは溜息混じりに返答する。

 

「ふん! 口程にもないっ。この深淵蠢動の闇狩鬼──カームバンティス・エルファライト・ローデリア・ハウリアの相手をするには、まだ早かった様だな!」

 

 そして扉の向こうから、なんとも頭の悪い凄いのが飛んできた。

 

「だから訳分かんねぇよ! くそっ、もう嫌だ! こんな狂人がいる場所にこれ以上いられるかっ! 俺は家に帰るぞ!」

「待てヨハン、仕事だぞ! っていうか、何かそのセリフ不吉だから止めろよ!」

 

 ドタドタと扉に近づいてくる音が聞こえる。

 ソウゴは「放っておいてもよかったか……」と思いながら、バンッと音を立てて扉が開いた瞬間を狙って拳を突き出す。

 ヨハンと呼ばれていた尋問官の一人は、一瞬「え?」という驚愕と困惑に満ちた表情をしたが、次の瞬間には散弾の様に頭部の破片を撒き散らし地面に沈んだ。

 ソウゴはそのまま部屋に踏み込み、一瞬でもう一人の尋問官に接近すると硬直しているのを幸いと、首から上を千切りにスライスする。

 

「メアリー、質は悪いが夜食の時間だ」

 

 そして、頭部の無い死体二つをソウゴの影が飲み込む。するとほぼ同時、何か硬い物を噛み砕く様な異音が響いた。

 

「まさか……ボス…ですか?」

「貴様の知る者で私以外にこんな事が出来る輩がいるなら、逆に紹介してもらいたいぐらいだが? それにしても……品位を捨てて逞しくなりおって……」

 

 取り敢えず、先程の色々な意味でぶっ飛んだ二つ名とか名前についてはスルーだ。

 

「は、ははは。どうやら夢ではないみたいですね……」

 

 一瞬、夢でも見ているのかと自分を疑った様子のカムだったが、先程のハウリア達以上にボロボロでありながら力のある声音でソウゴに返答する。思考力も鈍っていない様で、どうやらソウゴが自分を助けに来てくれたのだと直ぐに察した様だ。

 

「いや、折角の再会に無様を晒しました。しかも帝国のクソ野郎共を罵るのに忙しくて、気配にも気づかないとは……いや、お恥ずかしい」

「……相手を煽るのなら、せめて罵倒ではなく皮肉にしろ。まだ品があろう」

 

 拘束を解かれたカムは本当に恥ずかしそうに、折れてあらぬ方向を向いている指で頭をカリカリと掻く。

 ソウゴは"ベホマ"をカムに掛けて傷を癒しつつ、どこかズレた指摘をぶつける。どこまでも戦う前提の注意である。

 

 完全に回復して自分の体の調子を確かめる様にピョンピョン跳ねているカムを尻目に、ソウゴは再び空を切り裂く。

 

「他の者は一足先に逃がした。行くぞ」

「Yes,Sir! ……あっ。陛下、装備を取られたままなのですが……」

「放っておけ、新たに改良版を一式貸与する」

「新装備を頂けるので? そいつぁ、テンションが上がりますな、ククク」

 

 怪しげな笑い声を上げるカムの尻を蹴り飛ばし、ソウゴも裂け目を潜り……切る前に一度立ち止まり、パチンと指を鳴らした。

 

 

 

 

 一方少し時間は戻り、ソウゴが帝城に侵入した頃。

 

 

RAID RIZE!

 

 警鐘が鳴り響く帝都の夜に、突如聞き慣れない機械音声と共に光が迸った。

光の奔流は闇夜を切り裂いて直進し、瓦礫撤去作業に従事していた亜人奴隷達が寝泊りしている掘っ立て小屋の密集地区──そこにある帝国兵の詰所が吹き飛んだ。

 明らかに攻撃と分かるソレは最小限まで手加減していたらしく、詰所の外壁が吹き飛んだだけで中の帝国兵は無事な様だ。尤も、大半が衝撃で気絶しているが。

 

 それを成したのは、月を背負って悠然と佇む四人の人影。

 

「何者だ、貴様等! 帝国に盾突いてただで済むと思っているのか!」

 

 その人影に向かって、駆けつけた帝国兵の一人が怒声を上げる。

 

「その姿、人間でも亜人族でもない……まさか魔人族なのか!? だが……」

 

 帝国兵が狼狽えているのも無理は無い。

 亜人族然り魔人族然り、この世界に於ける人間以外の意思疎通可能な種族というのは、人間をベースに部分的に動物的特徴だったり肌色が違ったりする程度で、たとえ魔物にしても、目の前にいる人型の異形等見た事が無いのだ。ましてや、この世界では現代地球的機械が存在しないのだから猶更だろう。

 

 勿論、その正体は光輝達勇者パーティである。

 

 混乱しつつもヒートアップした帝国兵達が遂に「連中をとっ捕まえろ!」と襲いかかり始めた。

 しかし、相手は表層とはいえ【オルクス大迷宮】の前人未踏領域を踏破してきた異世界召喚チート達だ。ソウゴ達には全く及ばないとは言え並の兵士如きが敵う筈も無く、次々と蹴散らされていく。

 

「畜生っ! 強すぎる!」

「おのれぇ!」

 

 帝国兵が地面に這いつくばりながら悪態と共に呻き声を上げる。すでに三個小隊ほどが戦闘不能に追い込まれていた。堪りかねた指揮官が思わず叫ぶ。

 

「くそっ、貴様等、一体何が目的なんだ!」

 

 その質問に、ホッパーレイダー(光輝)は一瞬ピタリと止まった。

 そして、溜まりに溜まった鬱憤を吐き出すかの様に要求を叫──ぼうとして、不自然に再度一瞬停止する。

 そしてユラリと首を上げると……

 

 

亜人族ノ奴隷ヲ、寄越セ

 

 

「何ぃ!」

オ前達ノ、亜人族ノ使イ方ニハ、無駄ガ多イ。我々ノ方ガ、上手ク有効活用出来ル、トイウモノダ

「ふざけるなよ、化物共!」

 

 帝国兵はまさかの要求に声を荒げた。それもそうだろう。驚異的な戦闘力を持った未知の存在というだけでも厄介なのに、その目的が帝都の復興作業に欠かせない大切な労働力の奪取となれば、血気も逸るものだ。

 兵士の一人が、機械的に話すホッパー(光輝)の背後から襲い掛かる。

 

「ホッパー! させるか!」

 

 しかしその攻撃は、間に割り込んだヘラクレスレイダー(龍太郎)によって防がれ、兵士は武器を折られ殴り飛ばされる。

 

 チーターレイダー()はそれを確認すると、自身の側頭部をトントンッと叩いた。先程様子がおかしくなったホッパー(光輝)が先に話してしまったが、ソウゴから帝国兵に目的を訊かれたりした場合はそうしろと言われていたのだ。

 するとビクンと小さく痙攣した後、先程と同じく不自然にユラリと首を上げて、鋭く伸びる鉤爪で帝国兵を差す。

 

聞ケ、帝国ノ虫ケラ共。私達ノ目的ハ、モウ一ツ。コノ都市ノ状況ヲ、確認スル事。愚カニモ、皇帝ヲ自称スル猿ハ、駆除シ損ネタ、ラシイガ。ヤハリ、下ッ端共ニハ、荷ガ重カッタカ……

 

 その言葉に、帝国兵達はギョッとした表情になった。ヘラクレス(龍太郎)ヘッジホッグ()も仮面の下でギョッとしている。

 

「ま、まさか……貴様等は魔人族!?」

我々ハ、改造魔人族。陛下直属ノ、秘匿殲滅部隊、"レイダーズ"

 

 宣言と同時、ヘラクレス(龍太郎)ヘッジホッグ()も一瞬の痙攣の後、人体的に不自然な動きを取り向き直る。

 

素直ニ、亜人族奴隷(家畜共)ヲ渡ス気ガ無イノナラ、仕方ナイ

「な、なんだっていうんだ……」

 

 兵士達が恐る恐る問いかけると、チーター()がまるで指示する様にヘッジホッグ()に顔を向ける。すると、徐にヘッジホッグ()の身体が輝き、全身の棘から針が発射される。針は兵士達の悲鳴をBGMに、貫通する事無く沈む様に体内に侵入していった。

 

ソノ針ハ、生キテイル。我々ノ合図一ツデ、貴様等ノ血ヲ養分ニ、根ヲ張ル様ニ成長シ……

「な、何を……うっ、ぐ!? ぎぃ──? ほへ…、ぇ」

「お、おい! どうしたっ!?」

「ぅびょっ……ぐ──べ、ぉ、ぴょ?」

 

 突如意味不明な、言語とも取れない文字列を吐きながら倒れ込む一人の帝国兵。その明らかに異常な光景に、同僚達が駆け寄る。そして──

 

 

 

 帝国兵の身体を突き破って白い枝の様な突起が伸び、集まっていた兵達を巻き込みながら血と臓物を撒き散らした。

 

 

 

 死体から生える白い鉄木と、それに吊り下がる死体や瀕死の兵士達。それを確認した四人は目的を果たしたとばかりに闇に消え、まるで夢幻の様に忽然と姿を消したのだった。

 

 この後、帝城内から忽然と消えたハウリア族や、魔人族の隠し玉らしい正体不明の怪人集団の起こした騒ぎにより、帝都が朝まで上を下への大騒ぎになった事は言うまでもない。

 

 

 

 

 カムを伴って抜け穴を通り、岩石地帯に移動したソウゴは、ハウリア達の熱狂的な歓迎に出迎えられた。

 ハウリア達自身もお互いに肩を叩き合い、鳩尾を殴り合い、クロスカウンターを決め合って罵り合いながら無事を喜び合っている。

 

「ぐすっ、良かったですぅ! 喜び合い方がおかしいですけどぉ、皆無事で良かったですぅ……! ソウゴさん、ありがとうございますぅ!!」

 

 涙声で感謝するシア。一目家族の無事な姿を見たいという願いは、確かに叶ったのだ。

 

「……ん。間に合って良かった」

 

 ユエが背伸びしてシアの頭を撫でると、シアの涙腺はあえなく決壊。そのまま姉に縋りつく妹の様に抱き着いた。

 

 

「陛下、宜しいですか?」

 

 

 すると、漸く再開の挨拶を終えたらしいカム達が、相互の方へ歩み寄ってきた。

 ソウゴの叱責によって原型を留めない程歪んだ顔面ながらも真剣な表情である事から、ソウゴも改めての再会の挨拶というだけではなさそうだと察し、視線で了承の意を伝えた。

 

「先ず、何があったのかという事ですが……簡単に言えば、我々は少々やり過ぎた様です」

 

 そう言って、始まったカムの話を要約すると、こういう事だ。

 

 

 カム達は、樹海で殿を務めた帝国の部隊員を相当数撃破している。

 本隊に合流出来なかった兵士の数と生き残りの証言から、帝国側は【フェアベルゲン】に通常の戦士達とは毛色の異なる未知の集団がいると警戒を強めたらしかった。

 既に魔人族によって大きな被害を出した後だからだろう、彼等の警戒心は極めて高く、"亜人族は樹海から出ない"という常識を捨てて、奪還に来る可能性を意識していた様だ。帝国兵をかなり警戒させたらしい。

 というのもカム達が帝都に到着した時、攫われた大勢の亜人族は即労働に駆り出されるでもなく、一箇所に纏められていたのだ。

 

 しまったと思った時には遅かった。厳重に厳重を重ねて構築された監視網に発見され、カム達は一時撤退を余儀なくされた。

 

 帝国兵側も相当驚いた事だろう。

 何せ、網に掛かった正体不明の集団が温厚で争い事とは無縁の愛玩奴隷である兎人族だったのだから。しかも樹海の中でもないのに、包囲する帝国兵に対して連携を駆使して対等以上に渡り合ったのだ。当然、その非常識は帝国上層の興味を引く。

 その結果……

 

「我等は生け捕りにされ、連日取り調べを受けていた訳です。あちらさんの興味は主に、ハウリア族が豹変した原因と所持していた装備の出所。そして、フェアベルゲンの意図ってところです。どうやら、我等をフェアベルゲンの隠し玉か何かと勘違いしている様で……実は危うく一族郎党処刑されかけた上、追放処分を受けた関係だとは思いもしないでしょうなぁ」

 

 尋問官に、自分達は【フェアベルゲン】と寧ろ敵対している関係だと何度も言ってやったそうだが、寧ろ国の為にあっさり自分達を切り捨てた覚悟のある奴等だと関心を強めただけらしい。

 特に、何度か尋問を見に来たガハルドなど不敵な笑みを浮かべながら、新しい玩具を見つけた子供の様に瞳を輝かせていたという。

 

「で? 捕虜になった言い訳がしたいのではあるまい? 本題を話せ」

「失礼しました、陛下。本題ですが、我々ハウリア族と新たに家族として向かえ入れた者を合わせた新生ハウリア族は──帝国に戦争を仕掛けます」

 

 

 カムの鋭い眼差しでなされた宣言に、その場の時が止まる。

 

 

 そう錯覚する程、ソウゴとカムを含めたハウリア族以外は一切の動きを止めて硬直していた。理解が追いついていないのか、あるいは驚愕の余り思考停止に陥ったのか。周囲に静寂が満ちて、僅かに虫の奏でる鳴き声が夜の岩石地帯に響く。

 

 その静寂を破ったのはシアだった。

 

「何を、何を言っているんですか、父様? 私の聞き間違いでしょうか? 今、私の家族が帝国と戦争をすると言ったように聞こえたんですが……」

「シア、聞き間違いではない。我等ハウリア族は、帝国に戦争を仕掛ける。確かにそう言った」

 僅かに震えながら、努めて冷静であろうとしたシアだったが、カムの揺るぎない言葉を聞いて血相を変えた。

「ばっ、馬鹿な事を言わないで下さいっ! 何を考えているのですかっ! 確かに、父様達は強くなりましたけど、たった百人とちょっとなんですよ? それで帝国と戦争? 血迷いましたか! 同族を奪われた恨みで、真面な判断も出来なくなったんですね!?」

「シア、そうではない。我等は正気だ。話を──」

「聞くウサミミを持ちませんっ! 復讐でないなら、調子に乗ってるんですね? だったら今すぐ武器を手に取って下さい! 帝国の前に私が相手になります。その伸びきった鼻っ柱を叩き折ってくれます!」

 

 興奮状態で"宝物庫"からドリュッケンを取り出し、豪風と共に一回転させてビシッとカムの眼前に突きつけるシア。その表情は、無謀を通り越して只の自殺としか思えない決断を下したカム達への純粋な怒りで満ちていた。

 

 淡青白色の魔力が荒れ狂い、物理的圧力すら伴ったプレッシャーが放たれる。その迫力は凄まじく、それこそ光輝達異世界チート組ですら霞む程だ。

 

 事実、いつも元気に笑っていて、怒ると言っても何処かコミカルさがあるシアからは想像できない怒気と迫力に、光輝達は息を呑んで硬直している。

 だが、そんな勇者達さえ怯む迫力で戦槌を突きつけられた当のカムは、臆する事も無く只静かな眼差しで真っ直ぐに娘を見つめ返していた。

 

 睨み合う、或いは見つめ合う二人を誰もが固唾を呑んで見守る中……動いたのはソウゴである。ソウゴがパンッと一つ手を叩けば、固まっていた空気がシアの魔力光と共に吹き飛ぶ。

 

「落ち着け、カムの話はまだ終わっていない。沙汰は全てを聞いてから下しても遅くはないだろう」

「うっ……そうですね……すいません。ちょっと頭に血が上りました。もう大丈夫です。父様もごめんなさい」

「家族を心配する事の何が悪い? 謝る必要など無い。こっちこそ、もう少し言葉に配慮すべきだったな。……最近どうも、そういう気遣いを忘れがちでなぁ。罵倒した方が伝わりやすいというか何というか……それにしても、くっくっくっ」

「な、なんですか、父様、その笑いは……」

「いや、お前が幸せそうで何よりだと思っただけだ。……陛下には随分と可愛がられているようだな、うん? 孫の顔はいつ見られるんだ?」

「なっ、みゃ、みゃごって……何を言ってるんですか、父様! そ、そんなまだ、私は……」

「ククッ、冗談だ」

 

 カムに揶揄われて、顔を真っ赤にしながらチラチラと上目遣いにソウゴを見るシア。見ればハウリア達が皆、冷や汗を掻き引き攣った笑みを浮かべている。そんな顔をする位なら、初めから口にしなければいいものを……ソウゴはそんな事を思いながらカムに問う。

 

「結局のところ、貴様は何が言いたい。私に手を貸せと?」

「ははっ、それこそまさかですよ。……ただ、こんな決断が出来たのも、全ては陛下に鍛えられたおかげです。なので、せめて決意表明だけでもと、そう思っただけですよ」

 

 カムが笑いながらソウゴの推測を否定する。どうやら本当に自分達だけでやるつもりの様だ。彼等の瞳に宿る決意は本物で、復讐に狂っている訳でも、力を得て調子に乗っている訳でもない事がよく分かる。

 

 しかしそうなると、本当に無謀としか言いようがない決断であり、その決断に至った理由が気になるところだ。

 

「理由は?」

「意外ですな、聞いてくれるのですか? 興味は無いかと思いましたが……」

「態々このタイミングで話したという事は、貴様等は近いうちに決行するつもりだろう。満月の時ならば兎も角(・・・・・・・・・・)、ここ暫くは来んだろう。それを知った上で挑むとは、どういうつもりかと思ってな」

 

 そう言って、ソウゴは試す様な目をカムに向ける。シアも含めたハウリア以外の面々が"満月なら兎も角"というソウゴの言葉を不思議に思う中、カムは真面目な表情で理由を話しだした。

 

「先程も言った通り、我等兎人族は皇帝の興味を引いてしまいました。それも極めて強い興味を。帝国は実力至上主義を掲げる強欲な者達が集う国で、皇帝も例には漏れません。そして、弱い者は強い者に従うのが当然であるという価値観が性根に染み付いている」

「皇帝が兎人族狩りでも始めると?」

「肯定です。尋問を受けている時、皇帝自らやって来て"飼ってやる"と言われました。勿論、その場で唾を吐きかけてやりましたが……」

 

 皇帝の顔にツバを吐いたというカムの言葉に、ハウリア達は「流石族長だぜ!」と盛り上がり、光輝達は「あの皇帝に!?」と驚愕を露わにした。

 

 無理もないだろう。歴史上、皇帝の顔に唾を吐いた者など亜人以外の種族も含めてカムが史上初なのではないだろうか。

 

「しかし、そのせいで逆に気に入られてしまいまして。全ての兎人族を捕らえて調教してみるのも面白そうだなどと、それは強欲そうな顔で笑っていました。断言しますが、あの顔は本気です。再び樹海に進撃して、今度はより多くの兎人族を襲うでしょう」

 

 カムは難しい表情で溜息を一つ。

 

「また、未だ立て直しきれていないフェアベルゲンでは、次の襲撃には耐え切れない。そこで、もし帝国から見逃す代わりに兎人族の引渡しでも要求されれば……」

「まぁ、想像に難くないな」

「肯定です。ハウリア族が生き残るだけなら、それほど難しくはない。しかし、我等のせいで、他の兎人族の未来が奪われるのは……耐え難い」

 

 どうやら思っていた以上に、カム達は状況的に追い詰められていた様だ。

 

 カムの言う通り、ハウリア達だけが生き残る事は、樹海を利用しての逃亡とゲリラ戦に徹すればそれ程難しくはないだろう。ましてや、ソウゴの施した奥の手があれば、たとえ平地戦でも一夜にして帝国を消し去る事も出来る。

 

 だがその代わり、他の兎人族が地獄を見る事になる。彼等が"強い兎人族"という皇帝の望みに応えられなければ、女子供は愛玩奴隷に、それ以外は殺処分になるのがオチだからだ。

 

「だが、まさか本気で百人と少しなんて数で帝国軍と渡り合えるとは思っておるまい? 切り札に賭けているのなら、その間に全滅するか、貴様の懸念が現実になる方が早いだろう」

「勿論です。そこまで気長に待つつもりもありませんし、平原で相対して雄叫び上げながら正面衝突など有り得ません。我等は兎人族、気配の扱いだけはどんな種族にも負けやしません」

 

 そう言って、ニヤリと笑うカム。ソウゴは溜息を吐いた。

 

「暗殺か?」

「肯定です。我等に牙を剥けば、気を抜いた瞬間、闇から刃が翻り首が飛ぶ……それを実践し奴らに恐怖と危機感を植え付けます。いつ、どこから襲われるかわからない、兎人族はそれが出来る種族なのだと力を示します。弱者でも格下でもなく、敵に回すには死を覚悟する必要がある脅威だと認識させる訳です」

「皇帝の一族が、暗殺者に対する対策をしていないと思うか?」

「勿論しているでしょうな。しかし、我等が狙うのは皇帝の一族ではなく、彼等の周囲の人間です。流石に周囲の人間全てにまで厳重な守りなど無いでしょう。昨日今日親しくしていた人間が、一人また一人と消えていく。我等に出来るのは、今のところこれ位ですが、十分効果的かと思います。最終的に、我等に対する不干渉の方針を取らせる事が出来れば十全ですな」

 

 何ともえげつない策だ。だが、皇帝一族を暗殺するなどと言うよりは、余程現実味がある。

 

 ただそれだと、帝国側に脅威を感じさせるには必然的に時間が掛かってしまうので大規模な報復行為に出られる可能性が高く、先程ソウゴが言った様に帝国側が兎人族の殲滅に出るか、それとも脅威を感じて交渉のテーブルに付くかのどちらが早いかという紛れもない賭けだ。それも極めて分の悪い賭け。

 

 それでもやらなければ、どちらにしろ兎人族の未来は暗いのだろう。既に全員覚悟を決めた表情だ。

 

「……父様……皆……」

 

 シアは、悄然と肩を落とす。

 帝国兵相手に立ち回り、絶対監獄ともいうべき帝城の地下牢からも逃走を果たした兎人族を、皇帝は私的興味と公的責務として見逃しはしないだろうと、彼女も察したのだ。

 

 兎人族に残された道は、他の同族を見捨ててハウリア族だけ生き残るか、全員仲良く帝国の玩具になるか、身命を賭して戦うか、そのどれかしかないのだ。

 

「シア、そんな顔をするな。以前の様に只怯えて逃げて蔑まれて、結局蹂躙されて、それを仕方ないと甘受する事の何と無様な事か……今こうして戦える、その意志を持てる事が、我等はこの上なく嬉しいのだ」

「でも!」

「シア、我等は生存の権利を勝ち取る為に戦う。ただ、生きる為ではない。ハウリアとしての矜持を持って生きる為だ。どんなに力を持とうとも、ここで引けば結局、我等は以前と同じ敗者となる。それだけは断じて許容出来ない」

「父様……」

「前を見るのだ、シア。これ以上、我等を振り返るな。お前は決意した筈だ。陛下と共に外へ出て前へ進むのだと。その決意のまま、真っ直ぐ進め」

 

 カムが族長としてでも、戦闘集団のリーダーとしてでもなく、一人の父親として娘の背中を押す。自分達の事でこれ以上立ち止まるなと、共に居たいと望んだ相手と前へ進めと。

 泣きそうな表情で顔を俯けてしまうシアに愛し気な眼差しを向けた後、カムはソウゴに視線を転じて目礼する。娘を頼みますとでも言うように。

 

 無言のソウゴの代わり、光輝が如何にも「俺が何とかする!」とでも言いそうな雰囲気で腰を上げるが、雫の黒刀に後頭部をぶん殴られて撃沈した。

 

 ソウゴが反応を示さないでいると、シアがソウゴに振り返る。だが、シアが口を開く前に、何を言う気か察したカムが叱責する様にシアの名前を強い口調で呼び止めた。

 

「シア!」

 

 それにビクッ! と体を震わせるシア。

 

 カム達は、ソウゴに助けを求めるつもりはなかった。自分達のミスでまんまと敵の罠に嵌り皇帝の目に止まってしまった事は自業自得と言える事態なのだ。ここでソウゴの力を当てにして解決を委ねる様では、以前と何も変わらない。

 カムが言った様に、この戦いは兎人族が掲げる事が出来る様になった矜持を貫く為の戦いなのである。

 

 そして、シアもまたそれは理解していた。ただ逃げるだけしか出来なかったのは自分も同じであり、今はソウゴとユエの仲間としての矜持がある。だが、余りに分の悪い賭けを行おうとしている家族に心は否応なく痛む。

 

 結局、シアは何も言えず口を噤んだ。

 

 ソウゴは何事か考える様に指で腕を叩きながら、チラリとカムの後ろのハウリア達を見た。それから空を見上げ、俯くシアに声をかける。

 

「シア」

「ソウゴさん……」

 

 シアの瞳に、僅かばかり期待の色が宿る。立ち上がったソウゴはそんなシアの肩に手を置き、数歩後ろに下がらせる。そして徐にカム達に告げる。

 

「論外。貴様の案は却下だ」

「なっ!」

 

 カム達からはどよめきが、シアの表情には喜色が広がる。しかし続くソウゴの言葉に、今度はユエ達や光輝達まで騒ぐ事になった。

 

「少し覗いたが……結論から言うと、アレはいらん。よって暗殺などという消極的な策は無しだ。徹底的に潰す」

「へっ? ……はぁ!?」

「ちょっ、どういう事だ!?」

 

 ソウゴの言葉に、さすがのカム達も意味を図りかねた様に困惑した表情で顔を見合わせている。光輝が血相を変えて掴み掛かろうとするが、読んでいた様に雫に脇腹を突かれ再び地に沈み込む。

 

「今回の件は、ハウリア族が強さを示さねばならない。たとえ我が配下であっても、容易ならざる相手はあくまでハウリア族なのだと示せ」

 

 ソウゴはジロッとカムに鋭い視線を向ける。

 

「し、しかし陛下……なら、一体……」

 

 困惑を深めるカム達に、ソウゴは淡々と告げる。

 

 

「今回は私が裏方に回り、準備も演出も下準備もしてやろう。今度は自分達こそが狩り飼い搾取する側なのだと知らしめる怨讐を、二度と刃向かおうという気も起きん蹂躙を、貴様達の姿を見ただけでも自ら命を絶とうとする程の恐怖を、帝国に見せつけろ」

 

 

 辺りに静寂が満ちる。誰もが、ソウゴの気迫に呑まれて硬直している。ゴクリと生唾を飲み込む音がやけに明瞭に響いた。

 

 ソウゴは周囲を睥睨しながら、スッーと息を吸うと雷でも落ちたのかと錯覚する様な怒声を上げた。

 

 

「返事はどうしたこの──共がぁ!」

 

 

『ッ!? サッ、Sir,Yes,Sir!!』

 

「聞こえんぞ! 貴様等それでよく戦争なぞとほざいたな! 所詮は──の集まりか!?」

 

『Sir,No,Sir!!!』

 

「違うと言うなら証明しろ! 全てを血と泥に沈めろ!!」

 

『ガンホー! ガンホー! ガンホー!』

 

「貴様等の研ぎ澄ました復讐と意地の刃で、邪魔する者の尽くを斬り伏せろ!」

 

『ビヘッド! ビヘッド! ビヘッド!』

 

「膳立てはするが、主役は貴様等だ! 半端は許さん! 解っているな!」

 

『Aye,aye,Sir!!!』

 

「宜しい! 気合を入れろ! 新生ハウリア族、百二十二名で……」

 

『……』

 

 

帝国という歴史を根絶やせ! この世に存在した痕跡の一切を後世に残すな!

 

 

YAHAAAAAAAAAAAAAA!!!!

 

 

 膳立てとは何をする気なのか、帝国の歴史を消すなどそれこそ不可能ではないのか、そんな疑問は熱狂するハウリア達の頭には元より浮かぶ事すらない。

 

 自分達が陛下と仰ぐ人物が、扉の鍵は開けてくれるというのだ。ならば、その先で待っている障害くらい斬り裂けなくては、新生ハウリア族の名折れである。鍛えてくれた教官達にも顔向け出来ない。

 故に、ハウリア達の心は一つとなって、帝国抹消への闘志で燃え上がっていた。

 

 帝都から離れた岩石地帯に、闘志と殺意の雄叫びが響き渡る。

 

「……うぅ~、シズシズ、あの人達こわいよぉ~」

「大丈夫よ、鈴。私も怖いから……ていうか常磐さんの発想も十分怖いけど」

「常磐さん……へへ、まさかハートマン先生を取り入れていたとはな。やるじゃねぇか…!」

「龍太郎!? なんで、ちょっと親近感持ってるんだ!? どう見ても異常な雰囲気だろ!?」

 

 雫達が、それぞれ唖然とした表情で異様な熱気に包まれるハウリア達の様子を眺めていた。若干一名、ソウゴの鼓舞にリスペクトする人物の面影を見た様で、いい笑顔を浮かべていたが。

 

「う~む…すごいのぉ~、兎人族がここまで変わるとは。流石ご主人様じゃ、あっさり帝国潰しを目的にしよるし。堪らんのぉ~、あんな気勢で罵られてみたいものじゃ」

「……黙れ、変態ドラゴン」

「っ!? ハァハァ……!」

「うん、ティオさんはちょっと自重しようね? ……それよりシアの表情見てよ、ユエ。蕩けちゃってるよ。同性の私でも、ちょっとドキドキしちゃうくらい可愛いよ」

「……ん、確かに。シアの心情を考えたら……嬉しくて当たり前」

「だよね~。いいなぁ、私もあんな風に言われてみたいなぁ~」

 

 ユエ達の方は、一人の変態を除いて蕩けた表情でソウゴを見つめるシアについて語り合っていた。

 

 

 

 その後、帝国抹消の詳細を詰めたソウゴ達は、その時に備えて各々休む事になった。

 シアは暫くの間、ソウゴの傍を離れたがらなかった。いつもの元気の良さは鳴りを潜め、しかし決して暗く沈んでいるわけではなく、頬を薔薇色に染めてしずしずとソウゴの服の裾を掴んだまま寄り添うのだ。

 

 ウサミミが時折ちょこちょことソウゴに触れ、離れてを繰り返すその様は、ただただ傍でそうごを感じていたいという気持ちを表している様だった。

 

 

 

 

 一夜明けて東の空が白み始める少し前、岩場に腰掛けた二つの人影があった。少し早く目が覚めたユエとソウゴである。

 

 見張り役以外の皆が寝静まり場所も死角になっているので、久しぶりに二人だけでの静かな時間を過ごしていた。

 

 沈黙の中、静かに夜明けを待つ二人。すると徐に、ソウゴの肩口に頭を預けていたユエが顔を上げ、前触れ無くソウゴの首筋にキスをしようとして、ソウゴに顔面を掴まれて阻まれる。

 

「どうした、いきなり?」

「ん……昨夜の事、思い出して何となく」

 

 ユエの言う昨夜の事と言えば、帝国抹消の話の事だろう。だが、それが何故キスに繋がるのか分からず、自分を優しげに見つめるユエに目もくれず、ソウゴは言葉だけ向ける。

 ユエは多くは語らず、万感を込めて端的に尋ねる。

 

「……シアも"特別"になった?」

「何を言い出すかと思えば、馬鹿馬鹿しい……」

「……むぅ、シアならいいのに……」

 

 困った様な嬉しい様な、微妙な表情をするユエ。

 

 

 ユエにとってシアは、奈落から出て最初に出来た友達であり、仲間であり、そして妹の様な存在で、ソウゴとは別の意味で別格に位置している。

 

 それこそ、他の女には絶対に許さない"特別"の座を──少なくとも、ユエはその座にいると自分では思っている──シェアしてもいいと思える位に。

 

 そんなユエの様子に、ソウゴは少し辟易する。

 戦闘力は兎も角、やたらと異性としてアピールしてくるのがユエの面倒なところだ。何度釘を刺しても言い寄って来る事を面倒に思いながら、取り敢えず離れろという意味を込めて軽くデコピンを見舞った。

 

 

 




後書きで書く事が思い浮かばなかったので、作者が渋やハーメルンで書いているシリーズの書き始めた理由でも


ジオウ×プリキュア
・自分の望むキュアライダー作品が無かった。

FGO×ONE PIECE
・サーヴァント達を無双させたかった。(P.S サーヴァントの利点って、攻撃性能よりも"神秘を纏わない攻撃は通らない"っていう防御性能だと作者は思う)

オーマジオウ×ありふれ
・ソウゴ/オーマジオウを無双させたかった。

カンピオーネ!×魔都精兵のスレイブ
・護堂のハーレムを増やしたかった。
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