ありふれぬ魔王が世界最強   作:合将鳥

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サラッと真夜中の第五話。



第五話 旅立ち

 ユエは、体全体が何か温かで柔らかな物に包まれているのを感じた。随分と懐かしい感触だ。頭と背中を優しく受け止めるクッションと、体を包む羽毛の柔らかさを感じ、ユエの微睡む意識は混乱する。

 

(……何で、ベッドに……)

 

 まだ覚醒しきらない意識のまま手探りをしようとする。しかし、その意思に反して身体は動かない。すると、不意にユエは自分の頭が触られている感覚を覚えた。

 嫌な感じはしない。注意深く意識すれば、頭を撫でられていると分かる。ボーっとしながらも、ユエは徐々に目を開ける。そこには……

 

「……ソウゴ様?」

「起きたか」

 

 ソウゴがベットに座り、背を向けながらユエの頭を撫でていた。

 ユエはゆっくりと体を起こす。ユエは自分が本当にベッドで寝ている事に気がついた。純白のシーツに豪奢な天蓋付きの高級感溢れるベッドである。場所は、吹き抜けのテラスの様な場所で一段高い石畳の上にいる様だ。爽やかな風が天蓋とユエの頬、ソウゴの髪を撫でる。周りは太い柱と薄いカーテンに囲まれている。

 さっきまで暗い迷宮の中にいた筈なのに、とユエが混乱する。

「……ソウゴ様、あの後一体……」

「あぁ、実はな──」

 直ぐにソウゴに疑問をぶつけるユエに、ソウゴは簡単な説明を始める。

 

 

 あの後、泣き疲れて眠ったユエを移動させようと背負った瞬間、奥の扉が独りでに開いた。新手を警戒したソウゴだが少し待ってみても特に何も無く、ソウゴはそのままユエを背負って扉を潜った。

 そして、踏み込んだ扉の奥は……

 

「成程、ここが反逆者の住処か」

 

 広大な空間に住み心地の良さそうな住居があった。危険がない事を確認してベッドエリアを発見したソウゴは、ユエをベッドに寝かせたのだ。

 

 

 ソウゴが説明を終えると、ユエはよじよじと這って近づきソウゴに自身の頭をグリグリと押し付けた。ソウゴは一瞬驚くも、直ぐに微笑みを浮かべてユエの好きな様にさせた。

 

 

 その後、気が済んで落ち着いたユエを伴ってソウゴは周囲の探索を始めた。

 

 先ず目に入ったのは太陽だ。勿論ここは地下迷宮であり本物ではない。頭上には円錐状の物体が天井高く浮いており、その底面に煌々と輝く球体が浮いていたのである。僅かに温かみを感じる上、蛍光灯の様な無機質さを感じないため、思わず"太陽"と称したのである。

「人工太陽か。"プラズマスパーク"の様なエネルギーは感じないが、見事な物だな」

「プラズマ……?」

 

 

 次に注目するのは耳に心地良い水の音。扉の奥のこの部屋はちょっとした球場位の大きさがあるのだが、その部屋の奥の壁は一面が滝になっていた。天井近くの壁から大量の水が流れ落ち、川に合流して奥の洞窟へと流れ込んでいく。滝の傍特有のマイナスイオン溢れる清涼な風が心地いい。よく見れば魚も泳いでいる様だ。もしかすると地上の川から魚も一緒に流れ込んでいるのかもしれない。

 

 川から少し離れた所には大きな畑もある様である。今は何も植えられていない様だが。その周囲に広がっているのは、もしかしなくても家畜小屋である。動物の気配はしないが、水と魚、肉や野菜と素があれば、ここだけでなんでも自炊できそうだ。緑も豊かで、あちこちに様々な種類の樹が生えている。

 

 

 ソウゴ達は川や畑とは逆方向、ベッドエリアに隣接した建築物の方へ歩を勧めた。建築したというより岩壁をそのまま加工して住居にした感じだ。

「入った時は素通りしてきたんでな、まだ調べていない。ユエ、油断せずに行くぞ」

「ん……」

 石造りの住居は全体的に白く石灰の様な手触りだ。全体的に清潔感があり、エントランスには温かみのある光球が天井から突き出す台座の先端に灯っていた。どうやら三階建てらしく、上まで吹き抜けになっている。

 取り敢えず一階から見て回る。

 暖炉や柔らかな絨毯、ソファのあるリビングらしき場所、台所、トイレを発見した。どれも長年放置されていた様な気配はない。人の気配は感じないのだが……、言ってみれば旅行から帰った時の家の様と言えばわかるだろうか。暫く人が使っていなかったと分かる、あの空気だ。まるで、人は住んでいないが管理維持だけはしている様な……。

 

 ソウゴとユエは、より警戒しながら進む。更に奥へ行くと再び外に出た。そこには大きな円状の穴があり、その淵にはライオンっぽい動物の彫刻が口を開いた状態で鎮座している。彫刻の隣には魔法陣が刻まれている。試しに魔力を注いでみると、ライオン擬きの口から勢いよく温水が飛び出した。どこの世界でも、水を吐くのはライオンというのがお約束らしい。

「ここは浴場だな、どう見ても」

「……入る? 一緒に……」

「頭でも洗ってやろうか?」

「むぅ……」

 

 

 それから二階で、書斎や工房らしき部屋を発見した。しかし、書棚も工房の中の扉も封印がされているらしく開ける事は出来なかった。破壊する事も出来たが、それでは風情が無い。仕方なく諦め、探索を続ける。

 二人は三階の奥の部屋に向かった。三階は一部屋しかない様だ。奥の扉を開けると、そこには直径七、八メートルの、この世界では今まで見た事も無い程に精緻で繊細な魔法陣が部屋の中央の床に刻まれていた。いっそ一つの芸術といってもいい程、見事な幾何学模様である。

 しかし、それよりも注目すべきなのは、その魔法陣の向こう側。豪奢な椅子に座った人影である。

 

 人影は骸だった。既に白骨化しており、黒に金の刺繍が施された見事なローブを羽織っている。薄汚れた印象は無く、お化け屋敷等にあるそういうオブジェと言われれば納得してしまいそうだ。

 

 その骸は椅子に凭れ掛かりながら俯いている。その姿勢のまま朽ちて白骨化したのだろう。魔法陣しかないこの部屋で骸は何を思っていたのか。寝室やリビングではなく、この場所を選んで果てた意図はなんなのか……。

「……怪しい……どうする?」

 ユエもこの骸に疑問を抱いた様だ。恐らく反逆者と言われる者達の一人なのだろうが、苦しんだ様子も無く座ったまま果てたその姿は、まるで誰かを待っている様である。

「地上への道を調べるには、この部屋が鍵であろう。下の部屋を開けるヒントである可能性が多分にある以上、調べるしかないだろう」

「ん……行こう」

 ソウゴはそう言うと、ユエと共に魔法陣へ向けて踏み出した。そしてソウゴが魔法陣の中央に足を踏み込んだ瞬間、カッと純白の光が爆ぜ部屋を真っ白に染め上げる。

 眩しさに目を閉じる二人。直後、何かが頭の中に侵入し、まるで走馬灯の様にこの世界に来てからの事が駆け巡った。

 やがて光が収まり、目を開けたソウゴとユエの目の前には、黒衣の青年が立っていた。

 

 魔法陣が淡く輝き部屋を神秘的な光で満たす中咄嗟に身構えたソウゴは、しかし直ぐに警戒態勢を解いた。どうにも目の前の青年からは敵意や悪意どころか、存在感そのものが感じられなかったからだ。またよく見れば、後ろの骸と同じローブを羽織っており、その事も相まって自然と青年の正体がわかってくる。

 

『試練を乗り越えよく辿り着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えばわかるかな?』

 

 話し始めた彼は、オスカー・オルクスというらしい。【オルクス大迷宮】の創造者の様だ。ソウゴはやはりと思いながら話に耳を傾ける。

 

『ああ、質問は許して欲しい。これはただの記録映像の様なものでね、生憎と君の質問には答えられない。だが、この場所に辿り着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何の為に戦ったのか……メッセージを残したくてね。この様な形を取らせてもらった。どうか聞いて欲しい。……我々は反逆者であって反逆者ではないという事を』

 

 そうして始まったオスカーの話は、ソウゴが聖教教会で教わった歴史やユエに聞かされた反逆者の話とは大きく異なったものだった。

 

 

 

 

 それは狂った神とその子孫達の戦いの物語。

 

 

 神代の少し後の時代、世界は争いで満たされていた。

 人間と魔人、様々な亜人達が絶えず戦争を続けていた。争う理由は様々だ。領土拡大、種族的価値観、支配欲、他にも色々あるが、その一番は"神敵"だから。今よりずっと種族も国も細かく分かれていた時代、其々の種族、国が其々に神を祭っていた。その神からの神託で人々は争い続けていたのだ。

 

 だが、そんな何百年と続く争いに終止符を討たんとする者達が現れた。それが当時"解放者"と呼ばれた集団である。

 

 彼らには共通する繋がりがあった。それは全員が神代から続く神々の直系の子孫であったという事だ。その為か"解放者"のリーダーは、ある時偶然にも神々の真意を知ってしまった。何と神々は、人々を駒に遊戯のつもりで戦争を促していたのだ。"解放者"のリーダーは、神々が裏で人々を巧みに操り戦争へと駆り立てている事に耐えられなくなり志を同じくする者を集めたのだ。

 彼等は"神域"と呼ばれる、神々がいると言われている場所を突き止めた。"解放者"のメンバーでも先祖返りと言われる強力な力を持った七人を中心に、彼等は神々に戦いを挑んだ。

 

 しかしその目論見は、戦う前に破綻してしまう。何と神は、人々を巧みに操り"解放者"達を世界に破滅を齎そうとする神敵であると認識させて、人々自身に相手をさせたのである。

 

 その過程にも紆余曲折はあったのだが、結局守るべき人々に力を振るう訳にもいかず、神の恩恵も忘れて世界を滅ぼさんと神に仇なした"反逆者"のレッテルを貼られ"解放者"達は討たれていった。

 

 最後まで残ったのは中心の七人だけだった。世界を敵に回し、彼等はもはや自分達では神を討つ事は出来ないと判断した。そして、バラバラに大陸の果てに迷宮を創り潜伏する事にしたのだ。試練を用意し、それを突破した強者に自分達の力を譲り、いつの日か神の遊戯を終わらせる者が現れる事を願って。

 

 

 

 

 長い話が終わり、オスカーは穏やかに微笑む。

 

『君が何者で何の目的でここに辿り着いたのかはわからない。君に神殺しを強要するつもりもない。ただ、知っておいて欲しかった。我々が何の為に立ち上がったのか。……君に私の力を授ける。どの様に使うも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たす為には振るわないで欲しい。話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが、自由な意志の下にあらん事を』

 

 そう話を締めくくり、オスカーの記録映像はスっと消えた。同時に、ソウゴとユエの脳裏に何かが侵入してくる。不快感を覚えるが、それがとある術を刷り込んでいる為と理解できたので大人しく耐えた。

 やがて、不快感も収まり魔法陣の光も収まる。ソウゴはゆっくり息を吐いた。

「ソウゴ様……大丈夫?」

「ああ、平気だ……にしても、世界規模の詐欺の種明かしとはな」

「……ん……どうするの?」

 ユエがオスカーの話を聞いてどうするのかと尋ねる。

「ふむ、取り敢えず……」

 ソウゴはそう言うと二、三歩前に出てオスカーの骸の前で手を動かす。

 

 するとその軌跡に目の様な紋様が浮かび上がる。すると骸が紋様を通り、目玉の様な物に変化した。更にそれがソウゴの手に収まった瞬間、少し大きめのストップウォッチの様な物に変化する。

 

「オスカー・オルクス。貴様の願い、確とこの王が聞き届けた」

 この場にいない者に伝えるかの様に力強く呟いたソウゴは、次にユエに言葉を向ける。

「さて、先ずは他の大迷宮の探索でもしようか」

「……私も一緒に?」

「勿論、ユエも一緒にだ」

 そう言ってソウゴが頭を撫でると、ユエは相好を崩す。

 それはさておき、とソウゴは話を変える。

「それでユエよ、先程の現象だが……」

「……ん。神代魔法、覚えた」

「どうやらこの床の魔法陣が、神代魔術を使えるように頭を弄るらしいな。……しかし、私にはあまり意味の無いものだったな」

「え?」

 その言葉に信じられないといった表情のユエ。それも仕方ないだろう。何せ神代魔法とは文字通り、神代に使われていた現代では失伝した魔法だ。今回得たのは"生成魔法"。魔法を鉱物に付加して特殊な性質を持った鉱物を生成出来る魔法、つまり神代においてアーティファクトを作る為の魔法だ。それを意味の無いとは、一体どういう事かユエが質問すると、

 

「神代と銘打たれても、所詮は魔術の域を出ん魔法の真似事だったというのもある。だが何より、既に似たような事が出来る能力を幾つか持っているからな」

 

 そんな返事が返って来た。ユエは驚愕するしかなかった。

 

 

 

 

 その後ソウゴの提案で形だけだがオスカーの墓を作り、骸の消えた後に遺された彼の指環を拾ってソウゴとユエは封印されていた場所へ向かった。その指輪には十字に円が重った文様が刻まれており、それが書斎や工房にあった封印の紋様と同じだったのだ。

 

 まずは書斎だ。

 一番の目的である地上への道を探らなければならない。ソウゴとユエは書棚にかけられた封印を解き、めぼしい物を調べていく。すると、この住居の施設設計図らしき物を発見した。通常の青写真程確りした物ではないが、どこに何を作るのか、どの様な構造にするのかという事がメモの様に綴られた物だ。

「ビンゴだ」

「んっ」

 設計図によれば、どうやら先程の三階にある魔法陣がそのまま地上に施した魔法陣と繋がっているらしい。オルクスの指輪を持っていないと起動しない様だ。

 更に設計図を調べていると、どうやら一定期間ごとに清掃をする自律型ゴーレムが工房の小部屋の一つにあったり、天上の球体が太陽光と同じ性質を持ち作物の育成が可能等という事もわかった。人の気配が無いのに清潔感があったのは清掃ゴーレムのお陰だった様だ。工房には、生前オスカーが作成したアーティファクトや素材類が保管されているらしい。

「ソウゴ様……これ」

「うん?」

 ソウゴが設計図をチェックしていると、他の資料を探っていたユエが一冊の本を持ってきた。どうやらオスカーの手記の様だ。かつての仲間、特に中心の七人との何気ない日常について書いた物の様である。

 その内の一節に、他の六人の迷宮に関する事が書かれていた。

「やはり他の迷宮も攻略すると、創設者の神代魔術が手に入るらしい」

 手記によれば、オスカーと同様に他の六人の“解放者”達も迷宮の最深部で攻略者に神代魔術を教授する用意をしているようだ。生憎とどんな魔術かまでは書かれていなかったが。

「……そういえばソウゴ様」

「何だ?」

 そのまま解読を進めようとすると、不意にユエが質問を投げた。

「……何でソウゴ様は、魔法の事を魔術って呼んでる?」

「あぁ、その事か。それに関しては、私が多岐に渡る旅で得た見識の一つだ。一応教えるが、参考程度で聞き流して構わんからな」

 そう前置いてから、ソウゴは適当な椅子に腰を降ろして『魔術と魔法の違い』について説明を始めた。

 

「まずはユエよ。この世界において、所謂魔法を使う者を何と呼ぶ?」

「……基本的には、魔法師」

「その通りだ。だが私の基準で言えば、それは正しい呼称とは言えん」

「……魔術師?」

「そうだ。それ以外にも魔導師という言い方もある。他にもメイガス、キャスター、メイジ、ウィザード、ソーサラー、黒魔、呼び方は様々だ」

「……魔導? 魔法と魔術も含めて、どう違う?」

 ソウゴの言葉に、眉間の皺が深くなるユエ。そんなユエの頭を撫でて、ソウゴは続ける。

「まず魔導、または魔道とは、魔法・魔術を含め魔力を操る技術体系の総称だ。武術に様々な流派はあれど、その全てを武術と呼ぶのと似た様なものだ。これは理解できるか?」

「んっ」

「良し。だがこれは今回の主題とは関係無い事だ、頭の片隅にでも留めておけ」

 『魔導/魔道とは何か』という事と『魔術と魔法の違い』は無関係だと教え、ソウゴは本題に入る。

「それで肝心の違いについてだが、これは魔法がどの様なものを指すか、が一番分かりやすい」

「……?」

「魔法とは魔導の極致であり、神が振るう奇跡、権能の再現。神の域に達する程の極大魔術。早い話が、世界の法則や真理を書き換える程の魔術で以て、初めて"魔法"と呼べるのだ」

「……! それが、魔法...」

「そうだ。そして魔法程の影響力を持たない代わりに、万人に使える様に簡略・格下げした物が魔術。ユエ達が使う、この世界においての魔法と呼ぶ術だ」

「……じゃあ、ソウゴ様にとって、私は魔術師?」

「そうだな、……大魔術師か、或いは魔女か」

「魔女?」

「あぁ。女性の魔術師の中で、特に優秀且つ唯一の才能を持つ者を魔女と称するのだ」

「……じゃあ私は、これからは魔女。そして……魔法を覚えてみせる」

 ソウゴの言葉に対し、ユエが小さくとも力強く宣言した事で授業はお開きとなった。

 

 それから暫く探したが、正確な迷宮の場所を示す様な資料は発見できなかった。現在、確認されている【グリューエン大砂漠の大火山】【ハルツィナ樹海】、目星をつけられている【ライセン大峡谷】【シュネー雪原の氷雪洞窟】辺りから調べていくしかないだろう。

 

 暫くして書斎を調べ尽くした二人は、工房へと移動した。

 工房には小部屋が幾つもあり、その全てをオルクスの指輪で開く事ができた。中には、様々な鉱石や作業道具、理論書等が所狭しと保管されている。

 ソウゴは、それらを見ながら腕を組み少し思案する。そんなソウゴの様子を見て、ユエが首を傾げながら尋ねた。

「……どうしたの?」

 ソウゴはしばらく考え込んだ後、ユエに提案した。

「ユエ。明日一日ここに留まらないか? 他の迷宮攻略の事を考えても、ここで少し準備しておきたい、どうだ?」

 ユエは三百年も地下深くに封印されていたのだから一秒でも早く外に出たいだろうと思ったのだが、ソウゴの提案にキョトンとした後、直ぐに了承した。

「……ソウゴ様と一緒ならどこでもいい」

 そう言ってユエは笑った。

 

 

 

 

 その日の晩、天井の太陽が月に変わり淡い光を放つ様を、ソウゴは風呂に浸かりながら眺めていた。風呂は心の洗濯とはよく言ったものだ。どこぞの風来坊は関係無い。

「うむ、悪くないな……」

 適度に力を抜いて湯舟を堪能していると、突如、ヒタヒタと足音が聞こえ始めた。ソウゴは音の方へ視線を向ける。

 タプンと音を立てて湯船に入ってきたのは勿論……

「んっ……気持ちいい……」

 

 ユエだった。一糸纏わぬ姿でソウゴのすぐ隣に腰を下ろす。

 

 淡い月明かりが、その芸術品の如き白磁の肌を照らし出す。ゆるふわの髪は、ソウゴも初めて見るアップに纏められた状態で、晒された白く滑らかな項が艶かしい。

「どうした、本当に頭を洗ってほしかったのか?」

「……」

 ソウゴの問いに、ユエは静かに首を振る。

「……せめて前を隠せ。タオルは沢山あっただろう」

「寧ろ見て」

 ソウゴの注意に、ユエは真っ向から対峙する。

 その言葉と共に、少し上気し始めたユエの肌。頬も淡く染まり、得も言われぬ色気を放っていた。

「……ん。ソウゴ様……見て?」

 ユエの追撃。その得意げな顔に、ソウゴは大きく嘆息する。

「……私、好みじゃない?」

「取り敢えず、一ついいか?」

「?」

 そう前置くと、ソウゴは疑問に首を傾けるユエに伝える。

 

 

 

「私は既に妻も子もいる。お前を含めて、他の女を抱くつもりは無い」

 

 

 

 その言葉と共に左手に填めた結婚指輪を見せると、ユエは衝撃を受けた様に固まった。

 

 

 その後尚も迫るユエに、流石にイラついたソウゴが浴場から追い出したのはここだけの話。

 

 

 

 

 そんな事もありつつ、二日後の朝になった。ソウゴとユエは、三階の魔法陣の部屋に立つ。

 昨日をまるっと一日修行に宛がい、二人の実力は大きく変容している。例えば、ソウゴのステータスはこうだ。

 

 

常磐ソウゴ 140346歳 男 レベル:????

天職:大魔王/統一時空大皇帝

筋力:29525647486665

体力:29341194528349

耐性:29308586337437

敏捷:29308117707957

魔力:29324566408105

魔耐:29324934448205

 

 

 レベルは100を成長限度とするその人物の現在の成長度合いを示す。しかし、ソウゴのレベルはそれを遥かに超え2121まで表示され、それ以降はハテナの文字化けになってしまった。とある巨人風に言うなら「俺に限界は無ぇ!」という事なのだろうが、それでも異常な程の成長速度だ。

 

 因みに、後のベヒモス討伐辺りの勇者である光輝の限界は全ステータス1500といったところである。限界突破の技能で更に三倍に上昇させる事ができるが、それでも圧倒的な開きがある。しかも、ソウゴは魔力の直接操作や技能、変身で現在のステータスの更なる上昇を図る事が可能であるから、如何にチートな存在かが分かるだろう。

 

 一応比較すると、通常の人族の限界が100から200、天職持ちで300から400、魔人族や亜人族は種族特性から一部のステータスで300から600辺りが限度である。勇者がチートなら、ソウゴは化物としか言い様がない。本人的にも人間か怪しいと思っているのであながち間違いでもないが……。

 

 

 他には、ソウゴは館の探索で様々なアーティファクトを発見した。

 

 その最たる物が"宝物庫"という指環である。

 

 これはオスカーが保管していた指輪型アーティファクトで、ソウゴの宝物庫の様に異空間を作り出すのではなく、指輪に取り付けられている一センチ程の紅い宝石の中に創られた空間に物を保管して置けるという物だ。要は、勇者の道具袋の様な物である。空間の大きさは、正確には分からないが相当な物だと推測している。これまで倒してきた魔物達の肉を全て詰め込んでも、まだまだ余裕がありそうだからだ。そして、この指輪に刻まれた魔法陣に魔力を流し込むだけで物の出し入れが可能だ。半径一メートル以内なら任意の場所に出す事が出来る。

 物凄く便利なアーティファクトなのだが、ソウゴにとっては必要の無い無用の長物である為、ユエに渡して使わせる事にした。

 

 他にもソウゴは、神結晶の膨大な魔力を内包するという特性を利用し、一部を錬成でネックレスやイヤリング、指輪等のアクセサリーに加工し、それをユエに贈ったのだ。ユエは強力な魔術を行使できるが最上級魔術等は魔力消費が激しく、一発で魔力枯渇に追い込まれる。しかし電池の様に外部に魔力をストックしておけば最上級魔術でも連発出来、且つ魔力枯渇で動けなくなるという事も無くなる。

 

 そう思って、ユエに"魔晶石シリーズ"と名付けたアクセサリー一式を贈ったのだが、その時のユエの反応は……

「……プロポーズ?」

 なんて答えが返って来た為、ソウゴはまたデコピンを披露する羽目になった。

 

 

 それが一時間程前の事。二人はいよいよ地上に出る。三階の魔法陣を起動させながら、ソウゴはユエに静かな声で告げる。

「ユエ、私達の力は地上では異端だ。聖教教会や各国が黙っているという事は無いだろう。アーティファクトを要求されたり、戦争参加を強制される可能性も極めて高い。教会や国だけでなく、傍迷惑な神共とも敵対するかもしれん。それでも構わんな?」

「今更……」

 ユエの言葉に思わず苦笑いするソウゴ。真っ直ぐ自分を見つめてくるユエのふわふわな髪を優しく撫でる。気持ちよさそうに目を細めるユエに、ソウゴは一呼吸を置くと、キラキラと輝く紅眼を見つめ返す。

「まぁ、それ程気負う事もあるまい。折角の旅だ、楽しんでいくぞ」

 ソウゴの言葉を、ユエはまるで抱きしめる様に両手を胸の前でギュッと握り締めた。そして、無表情を崩し花が咲く様な笑みを浮かべた。返事はいつもの通り、

「んっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 大地に刻まれた傷跡とも言うべき深い峡谷の底、水など一滴も流れていない渇いたその場所には、大小様々な岩石がゴロゴロと転がっている。耳を澄ませる必要も無く、常にどこからか凶暴な魔物の唸り声が反響し、或いは弱肉強食の音色が響く。

 

 ここでは、人類の強力な武器である“魔法”が使えず、食料になりそうな物も殆ど無い。谷の上に登り峡谷から脱出するには、何百メートルもある絶壁を自力で登らねばならず、そんな目立つ事をしていれば十中八九魔物の餌となる。

 

 一応、東西の端に谷から出る為の階段が建設されてはいるが、目敏い魔物は折角谷底に落ちてきた餌を逃す事は無いだろう。

 

 

 それ故に、そこは人々にとっては地獄と同義。或いは、便利な処刑場であった。

 

 

 そんな人の生存が頗る困難な場所で、一つの影が動いた。

 大きな岩と岩の隙間からピョコリと生えた……ウサミミである。およそ地獄の谷底には不釣り合いなファンシーで愛嬌のあるウサミミは、暫く右に左にとまるで気配を探るかの様にピコピコと動いていた。

 やがて周囲に危険は無いと納得できたのか、その本体がひょこっと岩から顔を出した。ウサミミの下は、どうやら動物ではなく人だった様だ。ウサミミを生やした十代半ばの少女が、今度は視線で周囲の安全を確認している。

 

 美しい少女だった。たとえ峡谷の劣悪で過酷な環境のせいで薄汚れてしまい、服装も襤褸を纏っただけの見窄らしいものだったとしても、男なら誰でも視線を奪われる程に。青みがかった白髪と蒼穹の瞳は、いっそ神秘的ですらある。

 そんな神秘的な少女は……

 

「うぅ~、めっちゃ怖いですぅ~。お布団の上でゴロゴロしながら、オヤツを貪りたいですぅ~」

 

 何だか、色々と残念な性格をしている様だった。

 暫くめそめそと泣き言を呟いていた残念美人なウサミミ少女は、しかし自分の頬をペチペチと叩いて気合を入れると、「でもこのままじゃ、私や家族の方が魔物のオヤツですぅ」と呟きながら、瞳に力を込めて峡谷の奥を見つめだした。

「……早く行かなくちゃです。あの未来へ、あの人達の下へ」

 決然と立ち上がったウサミミ少女は、見つめる先へと駆け出した。

 

 

 

 ……数分後、「ひ~ん! 私は美味しくないですよぉ!」という何とも情けない叫び声が峡谷に木霊した。

 

 




ここで簡単なソウゴの経歴


19歳
最高最善の魔王として即位、仮面ライダー世界を平定。逢魔城及び初変身の像を建設。

スーパー戦隊世界を平定。

ウルトラマン世界を平定。仮面ライダーオーマジオウ・フォーエバーフォーム誕生。

25歳頃
国名を逢魔国に改名。その後数十年は様々な世界へ遠征、平定。その世界の力を継承して自身の力と国力を高めつつ内政にも務める。

30歳頃
常磐順一郎 死去。

70歳頃
ツクヨミ(アルピナ) 死去。

80歳頃
明光院ゲイツ 死去。

300歳頃
ウォズ 死去。

それから十数万年、様々な世界へ遠征、その世界の住人と力を合わせたり覇を競ったり(後者が圧倒的に多かった)して平定、力を継承。色々あった。本当に色々あった。
ある少女にプロポーズし、断られる。

136331歳
プリキュア世界へ遠征。この遠征にて結婚し、王妃を伴い凱旋。またその際に義娘、義妹が出来る。他にも何人かスカウトし国に迎える。またも色々あった(愛人を自称するストーカーが現れたり、全生命の脅威的な何かが誕生したり)。

本来ソウゴの遠征は数ヵ月、長くても二、三年であり、十年以上時間が掛かったのは今のところこの世界のみ。

それから約四千年、ソウゴ自身だけでなく王妃や娘達も遠征を行い国を広げる。偶に家族総出で遠征する事もあった。

140329歳
王妃との間に第一子誕生(因みにその後、小学校入学と同時に異世界に家出した)。

140346歳
ありふれ世界に召喚される。


妻一人、養子四人、実子一人の七人家族。

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