ありふれぬ魔王が世界最強   作:合将鳥

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自分探しをしていて間が空きました。


第七話 第一将軍カム・ハウリア

「さて、お前等には戦闘訓練を受けてもらおう」

 

 

 フェアベルゲンを出たソウゴ達が、一先ず大樹の近くに拠点を作って一息ついた時の、ソウゴの第一声がこれだった。拠点といっても、ソウゴが「無礼への賠償として貰っていく。文句はあるまい?」と族長達を脅して強奪したフェアドレン水晶を使って結界を張っただけのものだ。その中で切り株等に腰掛けながら、ウサミミ達はポカンとした表情を浮かべた。

「え、えっと……ソウゴさん。戦闘訓練というのは……」

 困惑する一族を代表してシアが尋ねる。

「そのままの意味だ。どうせこれから数ヵ月間は大樹へは辿り着けないのだろう? ならその間の時間を有効活用して、軟弱で脆弱な貴様等を一端の戦闘技能者に育て上げようと思ってな」

「な、何故、その様な事を……?」

 ソウゴの据わった目と全身から迸る威圧感にぷるぷると震えるウサミミ達。シアが、あまりに唐突なソウゴの宣言に当然の如く疑問を投げかける。

「何故だと? 何故と聞いたか?」

 

「ひぃ!?」

 

 より鋭くなった視線に怯えるシアを尻目にソウゴが語る。

「よいか? 先程気に入ったとは言ったが、元々私と貴様等と交わした約束は、案内が終わるまで守るというものだ。ならば、案内が終わった後はどうするのか。それを貴様等は考えているのか?」

 ハウリア族達が互いに顔を見合わせ、ふるふると首を振る。カムも難しい表情だ。漠然と不安は感じていたが、激動に次ぐ激動で頭の隅に追いやられていた様だ。或いは、考えない様にしていたのか。

「まぁ、考えていないだろう。考えたところで答えなど無い。貴様達は弱く、悪意や害意に対しては逃げるか隠れる事しか出来ない。そんな貴様等は、遂にフェアベルゲンという隠れ蓑すら失った。つまり私の庇護を失った瞬間、再び窮地に陥るという訳だ」

 

「「「「「「……」」」」」」

 

 全くその通りなので、ハウリア族達は皆一様に暗い表情で俯く。そんな彼等に、ソウゴの言葉が響く。

「貴様等に逃げ場は無い。隠れる場も庇護も無い。だが、魔物も人も容赦なく弱い貴様達を狙ってくる。このままではどちらにしろ全滅は必定だ。……それでいいのか? 弱さを理由に淘汰される事を許容するか? 幸運にも拾った命を無駄に散らすか? どうなんだ?」

 誰も言葉を発さず重苦しい空気が辺りを満たす。そして、ポツリと誰かが零した。

 

「そんなもの……良い訳がない」

 

 その言葉に触発された様にハウリア族が顔を上げ始める。シアは既に決然とした表情だ。

「そうだ。良い訳が無い。ならばどうするか、答えは簡単だ。強くなればいい。襲い来るあらゆる障害を打ち破り、自らの手で生存の権利を獲得すればいい」

「……ですが、私達は兎人族です。虎人族や熊人族のような強靭な肉体も翼人族や土人族の様に特殊な技能も持っていません……とても、その様な……」

 

 兎人族は弱いという常識がソウゴの言葉に否定的な気持ちを生む。自分達は弱い、戦う事など出来ない。どんなに足掻いてもソウゴの言う様に強くなど成れるものか、と。

 ソウゴはそんなハウリア族に言い放つ。

 

「私とて無敗ではない。敗北して地に伏した事もある」

「え?」

 

「私がシアと同じ年の頃は、今の様な力は全く持っていなかった。あの頃の私はただの平凡な人間、恐らくシアにも勝てんよ。九つの頃には両親も失った。片方でも親が残っているなら、その点でもシアは私より恵まれていると言えるかもな」

 ソウゴの告白にハウリア族は例外なく驚愕を顕にする。ライセン大峡谷の凶悪な魔物も、戦闘能力に優れた熊人族の長老も、苦もなく一蹴したソウゴが兎人族にも劣る等誰が信じられるというのか。

「そんな私が持っていた物はただ一つ」

 ソウゴは無意識の内に拳を握りしめる。

 

「"夢"だ。生まれた頃より抱いた"王になる"という夢を胸に私は生きた。そして偶然とも必然ともつかぬ機会と友を得て、私は王へと至った」

 

 そこまで言うと、ソウゴは不敵な笑みを浮かべて続ける。

「超人的な感覚も超常的な力も持たない馬鹿が一人、志一つを持ってここまで至ったのだ。それに比べ、天性の聴覚(みみ)と隠形を与えられた貴様等が強くなれん理由なぞ……、無いと思わんか?」

 さぁどうする? そう問いかけるソウゴの視線に、黙り込み顔を見合わせるハウリア族。しかし、そんな彼等を尻目に、先程からずっと決然とした表情を浮かべていたシアが立ち上がった。

 

「やります。私に戦い方を教えてください! もう、弱いままは嫌です!」

 

 樹海の全てに響けと言わんばかりの叫び。これ以上ない程思いを込めた宣言。シアとて争いは嫌いだ。怖いし痛いし、何より傷つくのも傷つけるのも悲しい。しかし一族を窮地に追い込んだのは紛れもなく自分が原因であり、このまま何も出来ずに滅ぶなど絶対に許容出来ない。とあるもう一つの目的の為にも、シアは兎人族としての本質に逆らってでも強くなりたかった。

 不退転の決意を瞳に宿し、真っ直ぐソウゴを見つめるシア。その様子を唖然として見ていたカム達ハウリア族は、次第にその表情を決然としたものに変えて一人、また一人と立ち上がっていく。そして男だけでなく、女子供も含めて全てのハウリア族が立ち上がったのを確認するとカムが代表して一歩前へ進み出た。

「ソウゴ殿……宜しく頼みます」

 言葉は少ない。だが、その短い言葉には確かに意志が宿っていた。襲い来る理不尽と戦う意志が。

「心得た、だが覚悟せよ。あくまで貴様等自身の意志で強くなるのだ、私は唯の手伝いに過ぎん。私は人に教えるのは不得手だ、直感頼りだからな。途中で投げ出した者を優しく諭すなんて事はせん、死に物狂いになれ。待っているのは生か死の二択だからな」

 ソウゴの言葉にハウリア族は皆、覚悟を宿した表情で頷いた。

 

 

 ソウゴはハウリア族を訓練するにあたって、先ず彼等一人一人に合わせて作った装備を彼等に渡した。先に渡していたナイフの他に反りの入った片刃の小剣、日本で言うところの小太刀だ。

 

 そして、その武器を持たせた上で基本的な動きを教える。勿論ソウゴは多種多様な武器武術の奥義等も体得している。だがそれらは"ただ使える、知識として知っている"だけで、その術理を完全に理解している訳では無い。故に教えられるのは、それらの技術に自身の動きを組み合わせたソウゴの我流殺法だ。それを叩き込みながら、適当に魔物を嗾けて実戦経験を積ませる。ハウリア族の強みは、その索敵能力と隠密能力だ。いずれは奇襲と連携に特化した集団戦法を身につければいいと思っていた。

 

 因みに、シアに関してはユエが専属で魔術の訓練をしている。亜人でありながら魔力がありその直接操作も可能なシアは、知識さえあれば魔法陣を構築して無詠唱の魔術が使える筈だからだ。時折、霧の向こうからシアの悲鳴が聞こえるので特訓は順調の様だ。

 

 

 だが、訓練開始から二日目。ソウゴは玉座に座り、額に青筋を浮かべながらイライラした様にハウリア族の訓練風景を見ていた。確かにハウリア族達は、自分達の性質に逆らいながら、言われた通り真面目に訓練に励んでいる。魔物だって、幾つもの傷を負いながらも何とか倒している。

 しかし……

 

 グサッ!

 

 魔物の一体に、ソウゴ謹製の小太刀が突き刺さり絶命させる。

「ああ、どうか罪深い私を許しくれぇ~!」

 それを成したハウリア族の男が魔物に縋り付く。まるで互いに譲れぬ信念の果て親友を殺した男の様だ。

 

 ブシュ!

 

 また一体魔物が切り裂かれて倒れ伏す。

「ごめんなさいっ! ごめんなさいっ! それでも私はやるしかないのぉ!」

 首を裂いた小太刀を両手で握り、わなわな震えるハウリア族の女。まるで狂愛の果て、愛した人をその手で殺めた女の様だ。

 

 バキッ!

 

 瀕死の魔物が、最後の力で己を殺した相手に一矢報いる。体当たりによって吹き飛ばされたカムが、倒れながら自嘲気味に呟く。

「ふっ、これが刃を向けた私への罰というわけか……当然の結果だな……」

 その言葉に周囲のハウリア族が瞳に涙を浮かべ、悲痛な表情でカムへと叫ぶ。

「族長! そんな事言わないで下さい! 罪深いのは皆一緒です!」

「そうです! いつか裁かれるときが来るとしても、それは今じゃない! 立って下さい族長!」

「僕達は、もう戻れぬ道に踏み込んでしまったんだ。族長、行ける所まで一緒に逝きましょうよ」

「お、お前達! ……そうだな。こんな所で立ち止まっている訳にはいかない。死んでしまった彼(小さなネズミっぽい魔物)の為にも、この死を乗り越えて私達は進もう!」

 

「「「「「「「「族長!」」」」」」」」

 

 いい雰囲気のカム達。そして我慢の限界を迎えたソウゴが無言のツッコミを放った。

 

 

 具体的に述べるならば、光も置き去りにする様な速さで立ち上がり、つい勢いで召喚したドッガハンマーとシンゴウアックスを振りかぶって投げつけた。お陰で樹海が四分の一程クレーターになった。

 

 

「貴様等……、一体どういうつもりだ? もしや、その下手な三文芝居で私を虚仮にしているんじゃあるまいな……!」

 そのクレーターを修復しつつ、漏れ出る怒りを滲ませてソウゴは問う。

 

 そう。ハウリア族達が頑張っているのは分かるのだが、その性質故か、魔物を殺す度に訳のわからないドラマが生まれるのだ。この二日間何度も見られた光景であり、ソウゴもまた何度も指摘しているのだが一向に直らない事から、いい加減堪忍袋の緒が切れそうなのである。

 

 ソウゴの怒り声にビクッと体を震わせながらも、「そうは言っても……」とか「だっていくら魔物でも可哀想で……」とかブツブツと呟くハウリア族達。

 更にソウゴの額に青筋が量産される。

 見かねたハウリア族の少年が、ソウゴを宥めようと近づく。この少年、ライセン大峡谷でハイベリアに喰われそうになっていたところを間一髪ソウゴに助けられ、特に懐いている子だ。

 しかし、進み出た少年はソウゴに何か言おうとして、突如その場を飛び退いた。

 気になったソウゴが訝し気に少年に尋ねる。

「どうした?」

 少年は、そっと足元のそれに手を這わせながらソウゴに答えた。

「あ、うん。このお花さんを踏みそうになって……よかった。気がつかなかったら、潰しちゃうところだったよ。こんなに綺麗なのに、踏んじゃったら可愛そうだもんね」

 ソウゴの頬が引き攣る。

「花、だと…?」

「うん、ソウゴ兄ちゃん! 僕、お花さんが大好きなんだ! この辺は綺麗なお花さんが多いから、訓練中も潰さないようにするのが大変なんだ~」

 ニコニコと微笑むウサミミ少年。周囲のハウリア族達も微笑ましそうに少年を見つめている。

 ソウゴは、ゆっくり顔を俯かせた。そして、ポツリと囁くような声で質問をする。

「……時々、貴様等が妙なタイミングで跳ねたり移動したりするのは……その花が原因か?」

 ソウゴの言う通り、訓練中のハウリア族は妙なタイミングで歩幅を変えたり、移動したりするのだ。気になってはいたのだが、次の動作に繋がっていたのでそれが彼等の最適な位置取りなのかと様子を見ていたのだが。

「いえいえ、まさか。そんな事ありませんよ」

「そうか、ならば…」

 苦笑いしながらそう言うカムに幾分か溜飲を下げようとするソウゴ。しかし……

「ええ、花だけでなく、虫達にも気を遣いますな。突然出てきた時は焦りますよ。何とか踏まない様に避けますがね」

 カムのその言葉にソウゴの表情が抜け落ちる。幽鬼の様にふらりと玉座を消しながら歩き始めたソウゴに、何か悪い事を言ったかとハウリア族達がオロオロと顔を見合わせた。ソウゴは、そのままゆっくり少年の下に歩み寄ると……眼前の花を踏み潰した。ご丁寧に、踏んだ後グリグリと踏みにじる。

 呆然とした表情で足元を見る少年。漸くソウゴの足が退けられた後には、無残にも原型すら留めていない"お花さん"の残骸が横たわっていた。

「お、お花さぁーん!」

 少年の悲痛な声が樹海に木霊する。「一体何を!」と驚愕の表情でソウゴを見やるハウリア族達に、ソウゴは額に青筋を浮かべたまま誰に向けるでもなく口を開く。

「ああ、よく分かった。よ~く分かったともさ。私が甘かった。私の責任だ。貴様等という種族を見誤った私の落ち度だ。まさか生死がかかった瀬戸際で花だの虫だのに気を遣うとは……戦闘技術や実戦経験以前の問題だ。これは私だけの手に負えんな……」

「ソ、ソウゴ殿?」

 不気味に肩を震わせるソウゴに、ドン引きしながら恐る恐る話しかけるカム。その返答は行動によって示された。

 ソウゴは徐に逢魔剣を抜き、地面に突き刺そうとして……

 

 

「常磐君」

 

 

 突如、今までこの場に存在しなかった者の声が聞こえた。ハウリア族全員が声の方向へ目を向け、そして固まった。そこには、

 

 

 

 ───一人の女性が立っていた。

 

 

 その特徴を一言で言うならば、白。真っ白だ。纏う衣服も、フードから零れた髪も、伏せられた目の睫毛や爪、肌に至るまで、完璧と言っていい程の純白。

 最早一種の美の極致、究極の美術品とすら表現できそうなその女性は、自身に注がれる視線を気にもせずソウゴの隣へと歩を進める。

 

「……白織か。何の用だ」

 

 不機嫌さが隠れもしない声でソウゴに問われても、平然とした様子で"白織"と呼ばれた女性はソウゴに耳打ちをする。

「……! そうか…」

 その途端、ソウゴの機嫌が目に見えて落ち着いた。先程までの噴火寸前の様な不機嫌さが何処へやら、今は薄く笑みまで浮かべている。

「私への要件はそれだけか?」

 ソウゴの問い掛けに白織はコクリと頷く。するとソウゴはハウリア達に目を向け、再度白織に話しかける。

「ならば、この後予定はあるか?」

 白織はまた頷く。

「そうか。ならば少し付き合え」

 それだけ言うと、ソウゴは笑みを消して逢魔剣を地面に突き刺し、その柄に手を翳す。途端、地面に黄金の魔法陣が描かれる。凄まじい雷が迸ると共に、神妙な面持ちでソウゴは目を伏せて詠唱を開始した。

 

「告げる──」

 

 

 

 ───汝の身は我が下に 我が命運は汝の剣に

 ───聖杯の寄る辺に従い

 ───この意 この理に従うならば応えよ

 

 ───誓いを此処に

 

 ───我は常世総ての善と成る者

 ───我は常世総ての悪を敷く者

 

 ───汝三大の言霊を纏う七天

 

 

 

 ソウゴが一字一句唱える度に魔法陣の輝きは増し、その陣は大きく広がる。雷はより荒々しく迸り、ソウゴと陣を中心に強風が吹き始める。平然としているのは術者本人であるソウゴと、その傍らの白織だけだ。

 

 簡略化した物とは言え、何故ソウゴが本来必要無い筈の詠唱を唱えたのかと言えば、それは偏に"礼儀"だからである。例えどの様な時や場であっても、この術を使うならば果たすべき礼を以てその式句を口にする。それがソウゴの矜持なのである。

 そしてソウゴは、万感と魔力を込めて最後の一句を口にした。

 

「───抑止の輪より来たれ天秤の守り手よ!」

 

 言い終えた瞬間、光の柱と竜巻が立ち上がり周囲の耳と目を閉ざす。それらが止めば、いつの間にかソウゴの前に五人の人影があった。

 

 

 顔に拘束具の様な物を被った、灰色の身体を持つ大男。同じく灰色の肌を持ち、髑髏の仮面を被った女。金の兜と赤い外套、最低限の衣類のみを身に付けた筋肉質の男。緑の外套を羽織り、森に溶けてしまいそうな外見の青年。そして先程まで花を愛でていたハウリアの少年と同じ年頃に見える、軍服の男。

 

 

 纏まりの無い外見の五人が、皆一様にソウゴに対して膝をついた。そして五人を代表する様に、筋肉質の男が口を開く。

「我等サーヴァント、召喚に応じ馳せ参じました。…してマスター、如何な御用で? それにこの面子は…」

「レオニダス王、スパルタクス、百貌のハサン、ロビン・フッド、そして早間守人。先ずは此度の召喚に応じてくれた事、感謝する」

 筋肉質の男、レオニダスに答える前に先ずは礼を言うソウゴ。続けて質問にあった召喚理由を説明した。

「今回貴殿等には、そこにいるハウリア族達を鍛えて貰いたい。レオニダス王には肉体を、スパルタクスには精神を、ハサンとロビンには罠を始めとした技術を、早間守人にはその後詰めを頼む。徹底的に叩きのめしてもらって構わん」

 ソウゴの要望に、皆夫々に了承を示す。

「ははははは! 分かりましたぞ、つまり彼等は反逆者ですな!」

「心得た。我が暗殺の真髄、特とお見せしよう」

「まぁ、俺なんかが教えられるか分かんないっすけど、了解です」

「徹底的にやっていいなら任せてくれ、全員一線級の猛者に鍛え上げてやるよ王様」

 その答えにソウゴは頷く。

「任せた。レオニダス王、貴殿に今回の纏め役を頼みたい。よろしいか」

「委細承知致しました。必ずやマスターの期待に応えましょう」

 それらを見届け、ソウゴは白織に話しかけた。

「では白織、貴様も指導役に加われ」

「え」

「急ぎの用は無いのだろう? アリエル殿の事が心配なら通いでも構わん」

「………」

 

 そう言われると、白織は何か言い返すでもなく五人の隣に立った。そしてソウゴはハウリア族達に呼び掛ける。

 

「聞いての通りだ。これよりこの六人が貴様等の指導教官に加わる。我々の言葉には絶対服従、異論反論抗議質問は一切認めん。良いな?」

 困惑するハウリア族達を他所に、ソウゴの決定が樹海に響き渡った。

 

 

 それ以降、樹海の中に"ピー"を入れないといけない用語と思わず耳を塞ぎたくなる異音、ハウリア達の悲鳴と怒号が飛び交い続けた。

 種族の性質的にどうしても戦闘が苦手な兎人族達を変えるために取った訓練方法。戦闘技術は勿論、何より精神性を変える為に行われたこの方法を、地球ではスパルタ式、またはハー○マン式と言うとか言わないとか……。

 

 

 

 そうしてハウリア族が洗脳に近い精神魔改造を受けて樹海の中をのたうち回る事約十日。彼等が訓練しているのとは反対側の樹海の中で、一人のハウリア族が訓練の仕上げに入っていた。

 

 ズガンッ! ドギャッ! バキッバキッバキッ! ドグシャッ!

 

 樹海の中、凄まじい破壊音が響く。野太い樹が幾本も半ばから折られ、地面には隕石でも落下したかの様なクレーターがあちこちに出来上がっており、更には、燃えて炭化した樹や氷漬けになっている樹まであった。

 この多大な自然破壊はたった二人の少女によってもたらされた。そして、その破壊活動は現在進行形で続いている。

 

「でぇやぁああ!!」

 

 裂帛の気合と共に撃ち出されたのは直径一メートル程の樹だ。半ばから折られたそれは豪速を以て目標へと飛翔する。確かな質量と速度が唯の樹に凶悪な破壊力を与え、道中の障害を尽く破壊しながら目標を撃破せんと突き進む。

「……"緋槍"」

 それを正面から迎え撃つのは全てを灰塵に帰す豪炎の槍。巨大な質量を物ともせず触れた端から焼滅させていく。砲弾と化した丸太は相殺され灰となって宙を舞った。

「まだです!」

 "緋槍"と投擲された丸太の衝突が齎した衝撃波で払われた霧の向こう側に影が走ったかと思えば、直後隕石の如く天より丸太が落下し、轟音を響かせながら大地に突き刺さった。バックステップで衝撃波の範囲からも脱出していた目標は再度、火炎の槍を放とうとする。

 

 しかし、そこへ高速で霧から飛び出してきた影が、大地に突き刺さったままの丸太に強烈な飛び蹴りをかました。一体どれ程の威力が込められていたのか、蹴りを受けた丸太は爆発した様に砕け散り、その破片を散弾に変えて目標を襲った。

「ッ! "城炎"」

 飛来した即席の散弾は、突如発生した城壁の名を冠した炎の壁に阻まれ、唯の一発とて目標に届く事は叶わなかった。

 しかし……

 

「もらいましたぁ!」

 

「ッ!」

 その時には既に影が背後に回り込んでいた。即席の散弾を放った後、見事な気配断ちにより再び霧に紛れ奇襲を仕掛けたのだ。大きく振りかぶられたその手には超重量級の大槌が握られており、刹那豪風を伴って振り下ろされた。

「"風壁"」

 大槌により激烈な衝撃が大地を襲い爆ぜさせる。砕かれた石が衝撃で散弾となり四方八方に飛び散った。だが、目標はそんな凄まじい攻撃の直撃を躱すと、余波を風の障壁により吹き散らし、同時に風に乗って安全圏まで一気に後退した。更に技後硬直により死に体となっている相手に対して容赦なく魔術を放つ。

「"凍柩"」

「ふぇ! ちょっ、まっ!」

 相手の魔術に気がついて必死に制止の声をかけるが、聞いてもらえる訳もなく問答無用に発動。襲撃者は大槌を手放して離脱しようとするも、一瞬で発動した氷系魔術が足元から一気に駆け上がり……頭だけ残して全身を氷漬けにされた。

 

「づ、づめたいぃ~、早く解いてくださいよぉ~、ユエさ~ん」

「……私の勝ち」

 

 そう、問答無用で自然破壊を繰り返していたこの二人はユエとシアである。二人は訓練を始めて十日目の今日、最終試験として模擬戦をしていたのだ。内容は、シアがほんの僅かでもユエを傷つけられたら勝利・合格というものだ。その結果は……

「うぅ~、そんな~、って、それ! ユエさんの頬っぺ! キズです! キズ! 私の攻撃当たってますよ! あはは~、やりましたぁ! 私の勝ちですぅ!」

 ユエの頬には確かに小さな傷が付いていた。恐らく最後の石の礫が一つ、ユエの防御を突破したのだろう。本当に僅かな傷ではあるが、一本は一本だ。シアの勝利である。それを指摘して、顔から上だけの状態で大喜びするシア。体が冷えて若干鼻水が出ているが満面の笑みだ。ウサミミが嬉しさでピコピコしている。無理もないだろう。何せ、この戦いには訓練卒業以上にユエとした大切な約束事がかかっていたのだ。

 そして、その約束事はユエにとってあまり面白いものではない。故に、

 

「……傷なんてない」

 

 "自動再生"により傷が直ぐに消えたのをいい事にしらばっくれた。拗ねた様にプイっとそっぽを向く。

「んなっ!? 卑怯ですよ! 確かに傷が……いや、今はないですけどぉ! 確かにあったでしょう! 誤魔化すなんて酷いですよぉ! ていうか、いい加減魔法解いて下さいよぉ~。さっきから寒くて寒くて……あれっ、何か眠くなってきた様な……」

「……魔法じゃなくて魔術」

 先程より鼻水を垂らしながら、うつらうつらとし始めるシア。「寝たら死ぬぞ!」の状態になりつつある。その様子をチラッチラッと見て、深々と溜息を吐くとユエは心底気が進まないと言う様に魔術を解いた。

「ぴくちっ! ぴくちぃ! あうぅ、寒かったですぅ。危うく帰らぬ兎になるところでした」

 可愛らしく特徴的なくしゃみをし、近くの葉っぱでチーン! と鼻をかむと、シアはその瞳に真剣さを宿してユエを見つめた。ユエは、その視線を受けて物凄く嫌そうな表情をする。無表情が崩れる程嫌そうな表情だ。

「ユエさん。私、勝ちました」

「………………ん」

「約束しましたよね?」

「……………………ん」

「もし、十日以内に一度でも勝てたら、……ソウゴさんとユエさんの旅に連れて行ってくれるって。そうですよね?」

「…………………………ん」

「少なくとも、ソウゴさんに頼む時味方してくれるんですよね?」

「……………………………今日のごはん何だっけ?」

「ちょっとぉ! 何いきなり誤魔化してるんですかぁ! しかも誤魔化し方が微妙ですよ! ユエさん、ソウゴさんの血さえあればいいじゃないですか! 何ごはん気にしているんですか! ちゃんと味方して下さいよぉ! ユエさんが味方なら五割方OK貰えるんですからぁ!」

 ぎゃーぎゃーと騒ぐシアに、ユエは心底鬱陶しそうな表情を見せる。

 

 

 シアの言う通り、ユエは彼女と一つの約束をした。それは、シアがユエに対して十日以内に模擬戦にてほんの僅かでも構わないから一撃を加える事。それが出来た場合、シアがソウゴとユエの旅に同行する事をユエが認める事。そしてソウゴに同行を願い出た場合に、ユエはシアの味方をして彼女の同行を一緒に説得する事である。

 

 シアは、本気でソウゴとユエの旅に同行したいと願っている。それは、これ以上家族に負担を掛けたくないという想いが半分、もう半分は単純にソウゴとユエの傍にいたい、もっと二人と仲良くなりたいという想いから出たものだ。

 

 しかし、そのまま同行を願い出てもすげなく断られるのが目に見えている。今までのソウゴやユエの態度からそれは明らかだ。そこでシアが考えたのが、先の約束という名の賭けである。

 シアとしては、ソウゴは何だかんだでユエに甘いという事を見抜いていたので、外堀から埋めてしまおうという思惑があった。何より、シアとて女だ。ユエのソウゴに対する感情は理解している。自分も同じ感情を持っているのだから当然だ。ならば、逆も然り。ユエもシアの感情を理解し同行を快く思わない筈である。だからこそ、まず何としてもユエに対してシア・ハウリアという存在を認めてもらう必要があった。

 

 シアは、何もユエからソウゴの隣を奪いたい訳では無いし、そんな事は微塵も思っていない。ソウゴへの想いとは別に、ユエに対しても近しい存在になりたいと本気で思っているのだ。それは、この世界でも極僅かな"同類"である事が多分に影響しているのだろう。つまり、簡単に言えば"友達"になりたいのだ。想い人が傍にいて、同じ人を想う友も傍にいる。今のシアにとって夢見る未来は、そういう未来なのだ。

 

 

 一方、ユエは何故シアとその様な約束を交わしたのか。ユエ自身には何のメリットも無い約束である。その理由の二割は、やはりシンパシーを感じた事だろう。ライセン大峡谷で初めてシアの話を聞いた時、自分とは異なり比較的に恵まれた環境にある事に複雑な感情を覚えつつも、心のどこかで"同類"という感情が湧き上がった事は否定出来ない。僅かなりとも仲間意識を抱いた事が、シアに対する"甘さ"を齎した。

 

 そして、八割の理由は……女の意地だ。シアとの約束をユエはこう捉えていた。即ち「私が邪魔なら実力で排除してみて下さい。出来なかったら私がソウゴさんの傍にいる事を認めて下さい」と。

 

 惚れた男をかけて勝負を挑まれたのだ。これがその辺の女ならどうとも思わなかっただろう。だが、シアは曲がりなりにも"同類"と思ってしまった相手であり、凄まじい集中力と鬼気迫る意気込みで鍛錬に励む姿に、その想いの深さを突きつけられ黙ってはいられなくなったのだ。

 

 

 そして、約束をかけた勝負の結果がシアの勝利だったのである。

 

 

「……はぁ。わかった。約束は守る……」

「ホントですか!? やっぱりや~めたぁとか無しですよぉ! ちゃんと援護して下さいよ!」

「………………………ん」

「何だかその異様に長い間が気になりますが、……ホント、お願いしますよ?」

「……しつこい」

 渋々、ほんっと~に渋々といった感じでユエがシアの勝ちを認める。シアはユエの返事に多少の不安は残しつつも、ソウゴ同様に約束を反故にする事は無いだろうと安心と喜びの表情を浮かべた。

 

 そろそろ、ソウゴのハウリア族への今日の訓練が一段落着く頃だ。不機嫌そうなユエと上機嫌なシアは二人並んでソウゴ達がいるであろう場所へ向かうのだった。

 

 

 

 ユエとシアがソウゴの下へ到着した時、ソウゴは白織と話をしていた。二三言やり取りをすると、白織が踵を返して樹海の奥に戻っていった。

 その後ろ姿を見てユエもシアも足を止める。ソウゴの傍に見知らぬ女が立っていた事に嫉妬を感じた、というのもあるがそれ以上に、思わず魂まで凍り付く程の恐怖を感じたからだ。

 

 ソウゴの放つ威圧感とはまた違う別種の気迫を感じる。ソウゴのそれが頂が見えない程の途轍もない泰山、または決して手の届かない天上に輝く銀河の様なものだとすれば、白織のそれは決して底の見えない深淵の闇、あらゆる光を飲み込むブラックホールの様なものと言おうか。今の自分達では到底届き得ない境地の存在であると、二人は即座に理解した。

 

「二人共来ていたか」

 そんな二人の存在に気付いたのか、ソウゴは声を掛けて歩み寄る。親しそうにしていたのが気になり、ユエが代表してソウゴに質問する。

「……ソウゴ様、今の女は?」

「白織の事か? 偶然こちらに来たのでな、ハウリア族の指導役を任せている」

「あの、どの様な関係で?」

 恐る恐るシアも訊ね、その内容にユエがブンブン頷く。ユエとしては、もしや彼女が以前言っていたソウゴの妻ではないかと思っているのだ。

「まぁ、ちょっとした知人だ。かつて奴の祖母が率いていた軍で客将として世話になった事があってな、奴も将の一人として共に戦場を駆けた。以来それなりに長い付き合いだ」

 一先ずユエの心配していた様な関係では無かったが、それでも疑問は尽きない。ユエが続けて質問する。

「……どんな人? ……何もしてなかったのに、凄い力を感じた」

 ユエの感想に、ソウゴは悪戯が成功した悪童の様に笑う。二人にとってはソウゴがそんな表情をするのが意外に感じたが、ソウゴはそんな二人を気にせず話した。

 

「それはそうだろうな。外見こそ華奢で弱々しいが、実際は歴戦の龍殺しであり、幾つもの世界を滅ぼしたれっきとした神の一柱だからな。実力は折り紙付きだ」

 

 ソウゴに説明され、二人は自分達の感じたものが本物だと納得した。凡そ人間とは思えなかったが、まさか正真正銘の神だったとは。

「それに、奴は極めて優秀な育成者でもある。貧弱なハウリア族を鍛えるにはうってつけだ」

「そうなんですか?」

「手心を加えないという意味でな。何せ生後数ヶ月の赤子を糸で操って無理矢理鍛えさせる程だからな」

 その言葉に、ユエですら血の気が引いた。シアはウサミミを押さえて蹲る。

 そんな二人に、今度はソウゴから声を掛ける。

「それよりだ。見事だったぞシア。何を賭けたか知らんが、ユエに一矢報いるとはな」

 

 ソウゴも、二人が何かを賭けて勝負している事は聞き及んでいる。シアの為に超重量の大槌を用意したのは他ならぬソウゴだ。シアが真剣な表情で、ユエに勝ちたい、武器が欲しいと頼み込んできたのは記憶に新しい。ユエ自身も特に反対しなかった事から、何を賭けているのかまでは知らなかったし、そこにさして興味も無かったが、双方の今後の為になるだろうと造ってやったのだ。

 

 実際、ソウゴはユエとシアが戦っても十中八九、ユエが勝つと考えていた。奈落の底でユエの実力は十二分に把握している。いくら魔力の直接操作が出来るといっても、今まで平和に浸かってきたシアとは地力が違うのだ。

 だがしかし、決してゼロではない勝利の可能性をシアが掴むかもと、ソウゴは万里眼で以てこの十日間二人の勝負を見ていた。そして今日、シアは取り決められたルールの下、確かに勝利を掴んだのだ。

 

 ソウゴの称賛を受け、蹲って顔を青褪めさせていたのが嘘の様に喜色満面になる。

「そうなんですよソウゴさん! 私、遂にユエさんに勝ちましたよ! 大勝利ですよ! いや~、見ていてくれたんですね、私の華麗な戦いぶりを! 負けたと知った時のユエさんたらもへぶっ!?」

 身振り手振り大はしゃぎという様相で戦いの顛末を語るシア。調子に乗りすぎて、ユエのジャンピングビンタを食らい錐揉みしながら吹き飛びドシャと音を立てて地面に倒れ込んだ。余程強烈だったのかピクピクとして起き上がる気配が無い。

 フンッと鼻を鳴らし更に不機嫌そうにそっぽを向くユエに、ソウゴが苦笑いしながらシアを評価する。

「魔術の適性こそ無きに等しいが、身体強化は中々のものだ。ステータスで表すなら、最大で六千程か?」

「……ん、大体は」

 ソウゴの予想にユエは頷く。

 

 それは本気で強化した勇者の二倍の力を持っているという事でもある。この世界基準で正に"化物レベル"と言うに相応しい力だ。曲がりになりもユエに土をつける事が出来た訳である。泣きべそをかきながら頬をさすっている姿からは、とても想像出来ない。

 

 シアは、ソウゴが面白半分の面持ちで眺めている事に気がつくと。いそいそと立ち上がり、急く気持ちを必死に抑えながら真剣な表情でソウゴの下へ歩み寄った。背筋を伸ばし、青みがかった白髪を靡かせ、ウサミミをピンッと立てる。これから一世一代の頼み事をするのだ。いや……寧ろ告白と言っていいだろう。緊張に体が震え、表情が強ばるが、不退転の意志を瞳に宿し、一歩一歩前に進む。そして訝しむソウゴの眼前にやって来るとしっかり視線を合わせて想いを告げた。

 

「ソウゴさん。私をあなたの旅に連れて行って下さい。お願いします!」

「よかろう」

「即答!?」

 

 まさか今の雰囲気で、悩む素振りも見せず即行とは思っていなかったシアは、驚愕の面持ちで目を見開いた。その瞳には、「何を驚いている?」という目でシアを見るソウゴの姿が映っている。

 シアは憤慨した。もうちょっと真剣に取り合ってくれてもいいでしょ! と。

「ひ、酷いですよ、ソウゴさん。こんなに真剣に頼み込んでいるのに、それをあっさり……」

「連れて行くと言ったのだからいいだろう。それはそれとして、カム達はどうするつもりだ? まさか、全員連れて行けと言わないだろうな?」

「ち、違いますよ! 今のは私だけの話です! 父様達には修行が始まる前に話をしました。一族の迷惑になるからってだけじゃ認めないけど……その……」

「その? なんだ?」

 何やら急にモジモジし始めるシア。指先をツンツンしながら頬を染めて上目遣いでソウゴをチラチラと見る。あざとい。実にあざとい仕草だ。ソウゴが先を促す様な急かす目でシアを見る。傍らのユエがイラッとした表情で横目にシアを睨んでいる。

「その……私自身が、付いて行きたいと本気で思っているなら構わないって……」

「そこだ。何より、何故付いて来たいのか。それを話せ」

「で、ですからぁ、それは、そのぉ……」

「……」

 モジモジしたまま中々答えないシアにいい加減気が変わったのか、ソウゴはやはり駄目だと言いかける。それを察したのかどうかは分からないが、シアが女は度胸! と言わんばかりに声を張り上げた。思いの丈を乗せて。

 

「ソウゴさんの傍に居たいからですぅ! しゅきなのでぇ!」

 

「……は?」

 言っちゃった、そして噛んじゃった! と、あわあわしているシアを前に、ソウゴは眉を顰め、口の端を引き攣らせながらユエに視線で問いかける。「説明しなかったのか」と。ユエはすかさず明後日の方向を向いて誤魔化す。それを見て頭を抱えながら、ソウゴは口を開く。

「一体何処に惚れる要素があった。自分で言うのも何だが、貴様に対してはかなり雑な扱いだったと思うんだが……」

 ソウゴの言葉にシアが猛然と抗議する。

「雑だと自覚があったのならもう少し優しくしてくれてもいいじゃないですか!」

「いや、何故貴様に優しくする必要がある。……そもそも本当に好きなのか? 状況に釣られてやしないか?」

 

 ソウゴは、未だシアの好意が信じられないのか、いわゆる吊り橋効果を疑った。今までのソウゴのシアに対する態度は誰がどう見ても雑だったので無理もないかもしれない。だが、自分の気持ちを疑われてシアはすこぶる不機嫌だ。

 

「状況が全く関係ないとは言いません。窮地を何度も救われて、同じ体質で……長老方に啖呵切って私との約束を守ってくれたときは本当に嬉しかったですし……ただ、状況が関係あろうとなかろうと、もうそういう気持ちを持ってしまったんだから仕方ないじゃないですか。私だって時々思いますよ。どうしてこの人なんだろうって。それでも! ちゃんと好きですから連れて行って下さい!」

 シアの告白を受け、ソウゴは頭痛が酷くなっていくのを感じながら返答する。

「あのなぁ、貴様の気持ちは……まぁ、本当だとして。……ユエが伝えなかったらしいからこの場で言うが、私は既に結婚しているのだぞ。この様に指輪もあるだろう?」

「……え?」

「何なら子供もいるぞ。末の娘は貴様と同じ年頃だ」

 ソウゴの言葉を受け、暫くフリーズするシア。これは諦めるか? と思ったソウゴだったが、次の瞬間には立ち直ったのか、シアは毅然とした表情で言い放つ。

「それでも構いません! 許可を得たのは間違いありませんから、付いていかせてもらいます!」

ソウゴはその言葉に頭を掻いて一度深々と息を吐くと、シアとしっかり目を合わせて「一応確認するぞ」と一言一言確かめるように言葉を紡ぐ。シアも静かに、言葉に力を込めて返した。

 

「付いて来たって応えてはやらんぞ?」

「知らないんですか? 未来は絶対じゃあないんですよ?」

 それは、未来を垣間見れるシアだからこその言葉。未来は覚悟と行動で変えられると信じている。

「危険だらけの旅だ」

「化物でよかったです。御蔭で貴方について行けます」

 

 長老方にも言われた蔑称。しかし、今はむしろ誇りだ。化物でなければ為す事の出来ない事があると知ったから。

「…わかった、確認は終わりだ。ではシア・ハウリアよ、改めて我が臣下として同行を許そう」

 その声と共に、樹海の中に一つの歓声と不機嫌そうな鼻を鳴らす音が響く。その様子にソウゴは、色んな意味でこの先も退屈しなさそうだと苦笑いするのだった。

 

 

「えへへ、うへへへ、くふふふ~」

 同行を許されて上機嫌のシアは、奇怪な笑い声を発しながら緩みっぱなしの頬に両手を当ててクネクネと身を捩らせてた。それは、ソウゴと問答した時の真剣な表情が嘘の様に残念な姿だった。

「……キモイ」

 見かねたユエがボソリと呟く。シアの優秀なウサミミは、その呟きをしっかりと捉えた。

「……ちょっ、キモイって何ですかキモイって! 嬉しいんだからしょうがないじゃないですかぁ。私、思わず胸がキュンとなりましたよ~、これは私にメロメロになる日も遠くないですねぇ~」

 シアは調子に乗っている。それはもう乗りに乗っている。そんなシアに向かってユエはうんざりしながら呟いた。

「……ウザウサギ」

「んなっ!? 何ですかウザウサギって! いい加減名前で呼んでくださいよぉ~、旅の仲間ですよぉ~、まさか、この先もまともに名前を呼ぶつもりが無いとかじゃあないですよね? ねっ?」

「……」

「何で黙るんですかっ? ちょっと、目を逸らさないで下さいぃ~。ほらほらっ、シアですよ、シ・ア。りぴーとあふたみー、シ・ア」

 

 必死に名前を呼ばせようと奮闘するシアを尻目に今後の予定について話し合いを始めるソウゴとユエ。それに「無視しないでぇ~、仲間はずれは嫌ですぅ~」と涙目で縋り付くシア。旅の仲間となっても扱いの雑さは変わらない様だった。

 

 

 その後、シアがソウゴの直接指導で格闘術を始めとした近接武器の扱いを一通り覚えたり、それを羨んだユエがソウゴに魔術指導を受けたり、ソウゴが「少し私用で留守にする」と言って一週間程姿を消したり、ソウゴの命で長老達に集められた三つの種族の大粛清が行われたりして、長い様で短い四ヶ月が過ぎていった。

 

 

 そしてハウリア大改造の最終日。霧をかき分け、数人のハウリア族がソウゴと指導教官達に課された課題をクリアした様で魔物の討伐を証明する部位を片手に戻ってきた。よく見れば、その内の一人はカムだ。その後ろから白織も歩いてくる(因みに、ソウゴが召喚したサーヴァント達は役目を終え座に還っている)。

 

 シアは久しぶりに再会した家族に頬を綻ばせる。本格的に修行が始まる前、気持ちを打ち明けた時を最後として会っていなかったのだ。この四ヶ月、文字通り死に物狂いで行った修行は、日々の密度を途轍も無く濃いものとした。その為シアの体感的には、もう何年も会っていない様な気がしたのだ。

 

 早速、父親であるカムに話しかけようとするシア。報告したい事が山程あるのだ。しかし、シアは話しかける寸前で発しようとした言葉を呑み込んだ。カム達が発する雰囲気が何だかおかしい事に気がついたからだ。

 歩み寄ってきたカムはシアを一瞥すると僅かに笑みを浮かべただけで、直ぐに視線をソウゴに戻した。そして……

 

「陛下。お題の魔物、きっちり狩って来やしたぜ?」

 

「へ、陛下? と、父様? 何だか口調が……というか雰囲気が……」

 父親の言動に戸惑いの声を発するシアをさらりと無視して、カム達は、この樹海に生息する魔物の中でも上位に位置する魔物の牙やら爪やらをバラバラと取り出した。

「私は一体でいいと言った筈だが?」

 ソウゴの課した訓練卒業の課題は上位の魔物を一チーム一体狩ってくる事だ。しかし、眼前の剥ぎ取られた魔物の部位を見る限り、優に十体分はある。ソウゴの言葉に対し、カム達は不敵な笑みを持って答えた。

「えぇそうなんですがね、殺っている途中でお仲間がわらわら出てきやして……生意気にも殺意を向けてきやがったので丁重にお出迎えしてやったんですよ。なぁ皆?」

 

「そうなんですよ陛下。こいつら魔物の分際で生意気な奴らでした」

「きっちり落とし前はつけましたよ。一体たりとも逃してませんぜ?」

「ウザイ奴らだったけど……いい声で鳴いたわね、ふふ」

「見せしめに晒しとけばよかったか……」

「まぁ、バラバラに刻んでやったんだ、それで良しとしとこうぜ?」

 

 不穏な発言のオンパレードだった。全員、元の温和で平和的な兎人族の面影が微塵もない。ギラついた目と不敵な笑みを浮かべたままソウゴに物騒な戦闘報告をする。

 それを呆然と見ていたシアは一言、

 

「……誰?」

 

 まるで別人の様な言動と雰囲気を発する家族の変わり様に呆然としていたシアは、しかしハッと我に返ると十中八九元凶であるソウゴに詰め寄った。

「ど、どういう事ですか!? ソウゴさん! 父様達に一体何がっ!?」

「どういう事も何も、訓練の賜物だが?」

「いやいや、何をどうすればこんな有様になるんですかっ!? 完全に別人じゃないですかっ!」

「それに何の問題がある? 野垂れ死ぬよりマシだろう」

「貴方の目は節穴ですかっ! 見て下さい。彼なんて、さっきからナイフを見つめたままウットリしているじゃないですか! あっ、今、ナイフにジュリアって呼びかけた! ナイフに名前つけて愛でてますよっ! 普通に怖いですぅ~」

 

 樹海にシアの焦燥に満ちた怒声が響く。一体どうしたんだ? と分かってなさそうな表情でシアとソウゴのやり取りを見ているカム達。先程のやり取りから更に他のハウリア族も戻って来たのだが、その全員が……何というか……ワイルドになっている。男衆だけでなく女子供、果ては老人まで。

 シアは、そんな変わり果てた家族を指差しながらソウゴに凄まじい勢いで事情説明を迫っていた。ソウゴはと言うと、「強くなったならば結構だろう?」と言って取り合うつもりも無さそうだ。

 埒があかないと判断したのか、シアの矛先がカム達に向かった。

「父様! 皆! 一体何があったのです!? まるで別人ではないですか! さっきから口を開けば恐ろしい事ばかり……正気に戻って下さい!」

 縋り付かんばかりのシアに、カムはギラついた表情を緩め前の温厚そうな表情に戻った。それに少し安心するシア。

 だが……

 

「何を言っているんだシア? 私達は正気だ。ただこの世の真理に目覚めただけさ、陛下のお陰でな」

「し、真理? 何ですか、それは?」

 嫌な予感に頬を引き攣らせながら尋ねるシアに、カムはにっこりと微笑むと胸を張って自信に満ちた様子で宣言した。

 

「この世の問題の九割は、暴力で解決出来る」

 

「やっぱり別人ですぅ~! 優しかった父様は、もう死んでしまったんですぅ~、うわぁ~ん」

 ショックのあまり、泣きべそを掻きながら踵を返し樹海の中に消えていこうとするシア。しかし、霧に紛れる寸前で小さな影とぶつかり「はうぅ」と情けない声を上げながら尻餅をついた。

 小さな影の方は咄嗟にバランスをとったのか転倒せずに持ちこたえ、倒れたシアに手を差し出した。

「あっ、ありがとうございます」

「いや、気にしないでくれ、シアの姐御。男として当然の事をしたまでさ」

「あ、姐御?」

 霧の奥から現れたのは未だ子供と言っていいハウリア族の少年だった。その肩には大型のクロスボウが担がれており、腰には二本のナイフとスリングショットらしき武器が装着されている。随分ニヒルな笑みを見せる少年だった。シアは、未だ嘗て"姉御"等という呼ばれ方はした事が無い上、目の前の少年は確か自分の事を"シアお姉ちゃん"と呼んでいた事から戸惑いの表情を浮かべる。

 するとハウリア達の合間を縫う様に白織がソウゴに歩み寄る。

「あぁ白織、面倒をかけた。アリエル殿に宜しく伝えておいてくれ」

 それで彼女が言わんとする事を察したのか、ソウゴがそう言うと白織はコクンと頷いて一瞬で姿を消した。

 そして自分の言葉を待つ様に立っているハウリア達を見て、ソウゴは咳払い一つして言葉を伝えた。

「聞け! 勇猛果敢な戦士ハウリア族! 今日を以て、貴様達は虫螻蛄を卒業する! 貴様達はもう淘汰されるだけの無価値な存在ではない! 力を以て理不尽を粉砕し、知恵を以て敵意を捩じ伏せる最高の戦士だ!」

 

『『『『Sir yes sir!!』』』』

 

「答えろ! 諸君! 最強最高の戦士諸君! お前達の望みはなんだ!」

 

『『『『殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!』』』』

 

「お前達の特技は何だ!」

 

『『『『殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!』』』』

 

「敵はどうする!」

 

『『『『殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!』』』』

 

「そうだ! 殺せ! お前達にはそれが出来る! 自らの手で生存の権利を獲得しろ!」

 

『『『『Aye aye Sir!!』』』』

 

「いい気迫だ! ではハウリア族諸君、私からの最初の命令だ! 大樹へ出向き、迷宮を踏破する! 征くぞ!!」

 

『『『『YAHAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!』』』』

 

「うわぁ~ん、やっぱり私の家族は皆死んでしまったですぅ~」

 ソウゴの号令に凄まじい気迫を以て返し、霧の中へ消えていくハウリア族達。温厚で平和的、争いが何より苦手……そんな種族いたっけ? と言わんばかりだ。変わり果てた家族を再度目の当たりにし、崩れ落ちるシアの泣き声が虚しく樹海に木霊する。流石に見かねたのかユエがポンポンとシアの頭を慰める様に撫でている。

 しくしく、めそめそと泣くシアの隣を少年が駆け抜けようとして、シアは咄嗟に呼び止めた。

「パル君! 待って下さい! ほ、ほら、ここに綺麗なお花さんがありますよ? 君まで行かなくても……お姉ちゃんとここで待っていませんか? ね、そうしましょ?」

 どうやら、まだ幼い少年だけでも元の道に連れ戻そうとしているらしい。傍に咲いている綺麗な花を指差して必死に説得している。何故、花で釣っているのか。それは、この少年がかつてのお花が大好きな「お花さ~ん!」の少年だからである。

 

 シアの呼び掛けに律儀に立ち止まったお花の少年──基パル少年は、「ふぅ~」と息を吐くとやれやれだぜと言わんばかりに肩を竦めた。まるで、旧欧米人の様なオーバーリアクションだ。

「姐御、あんまり古傷を抉らねぇでくだせぇ。俺は既に過去を捨てた身。花を愛でる様な軟弱な心は、もう持ち合わせちゃいません」

 因みに、パル少年は今年十一歳だ。

「ふ、古傷? 過去を捨てた? えっと、よくわかりませんが、もうお花は好きじゃなくなったんですか?」

「ええ、過去と一緒に捨てちまいましたよ、そんな気持ちは」

「そんな、あんなに大好きだったのに……」

「ふっ、若さ故の過ちってやつでさぁ」

 繰り返すが、パル君は今年十一歳だ。

「それより姐御」

「な、何ですか?」

 「シアお姉ちゃん、シアお姉ちゃん」と慕ってくれて、時々お花を摘んで来たりもしてくれた少年の変わり様に、意識が自然と現実逃避を始めそうになるシア。パル少年の呼び掛けに辛うじて返答する。しかし、それは更なる追撃の合図でしかなかった。

「俺は過去と一緒に前の軟弱な名前も捨てました。今はバルトフェルドです。"必滅のバルトフェルド"、これからはそう呼んでくだせぇ」

「誰!? バルトフェルドってどっから出てきたのです!? ていうか必滅ってなに!?」

「おっと、すいやせん。仲間が待ってるのでもう行きます。では!」

「あ、こらっ! 何が"ではっ!"ですか! まだ話は終わって……って速っ! 待って! 待ってくださいぃ~」

 恋人に捨てられた女の如く、崩れ落ちたまま霧の向こう側に向かって手を伸ばすシア。答えるものは誰もおらず、彼女の家族は皆、猛々しく戦場に向かってしまった。ガックリと項垂れ、再びシクシクと泣き始めたシア。既に彼女の知る家族はいない。実に哀れを誘う姿だった。

 

 そんなシアを気にした様子も無く、ユエはソウゴに質問する。

「……さっきのは何? 白織様、突然消えた……」

「奴も様付けか…。白織は空間魔法の使い手でな、空間転移で別の世界に渡る事が出来る」

「……あれが本当の"魔法"……」

 そんな説明をしつつ、ソウゴもユエとシアを伴って大樹へ向かった。

 

 

 

 それから数時間後、カム達の先導を受けて深い霧の中をソウゴ達一行は大樹に向かって歩みを進めていた。先頭をカムに任せ、これも訓練とハウリア達は周囲に散らばって索敵をしている。油断大敵を骨身に刻まれているので、全員その表情は真剣そのものである。

 その間のユエとシアの和気藹々と雑談をBGMに進む事十五分。一行は遂に大樹の下へ辿り着いた。大樹を見たソウゴの第一声は、

 

「……なんだこれは」

 

 という驚き半分、疑問半分といった感じのものだった。ユエも、予想が外れたのか微妙な表情だ。二人は大樹について、フェアベルゲンで見た木々のスケールが大きいバージョンを想像していたのである。つまり、荘厳で威容に満ちた姿だ。

 

 

 しかし、実際の大樹は……見事に枯れていたのだ。

 

 

 大きさに関しては想像通り、否、想像を越して途轍もない。直径は目算では測り難い程大きいが、直径五十メートルはあるのではないだろうか。明らかに周囲の木々とは異なる異様だ。周りの木々が青々とした葉を盛大に広げているのにもかかわらず、大樹だけが枯れ木となっているのである。

「大樹は、フェアベルゲン建国前から枯れているそうです。しかし、朽ちる事は無い。枯れたまま変化無く、ずっとあるそうです。周囲の霧の性質と大樹の枯れながらも朽ちないという点からいつしか神聖視される様になりました。まぁそれだけなので、言ってみれば観光名所みたいなものですが……」

 ソウゴとユエの疑問顔にカムが解説を入れる。それを聞きながらソウゴは大樹の根元まで歩み寄った。そこには、アルフレリックが言っていた通り石板が建てられていた。

「これは……オルクスの扉の……」

「……ん、同じ文様」

 石版には七角形とその頂点の位置に七つの文様が刻まれていた。オルクスの部屋の扉に刻まれていたものと全く同じものだ。ソウゴは確認の為、オルクスの指輪を取り出す。指輪の文様と石版に刻まれた文様の一つはやはり同じ物だった。

「やはり、ここが大迷宮の入口みたいだな。……だが、ここからどうすればいい?」

 ソウゴは大樹に近寄ってその幹を軽く叩いてみたりするが、当然変化等ある筈も無く、カム達に何か知らないか聞くが返答はNOだ。アルフレリックにも口伝は聞いているが、入口に関する口伝はなかった。隠していた可能性も無い訳ではないから、これは最早強硬手段に出るべきか? と悩み始めるソウゴ。

 その時、石板を観察していたユエが声を上げる。

 

「ソウゴ様……これ見て」

「何かあったか?」

 

 ユエが注目していたのは石板の裏側だった。そこには、表の七つの文様に対応する様に小さな窪みが開いていた。

「これは……」

 ソウゴが、手に持っているオルクスの指輪を表のオルクスの文様に対応している窪みに嵌めてみる。

 すると……石板が淡く輝きだした。

 何事かと、周囲を見張っていたハウリア族も集まってきた。暫く、輝く石板を見ていると次第に光が収まり、代わりに何やら文字が浮き出始める。そこにはこう書かれていた。

 

 ───四つの証

 ───再生の力

 ───紡がれた絆の道標

 ───全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう

 

「……どういう意味だ?」

「……四つの証は……たぶん、他の迷宮の証?」

「……再生の力と、紡がれた絆の道標は?」

 疑問の減らないソウゴにシアが答える。

「う~ん、紡がれた絆の道標は、あれじゃないですか? 亜人の案内人を得られるかどうか。亜人は基本的に樹海から出ませんし、ソウゴさん達みたいに、亜人に樹海を案内して貰える事なんて例外中の例外ですし」

「……成程、それらしいな」

「……あとは再生……私?」

 ユエが自分の固有魔術"自動再生"を連想し自分を指差す。試しにと薄く指を切って、"自動再生"を発動しながら石板や大樹に触ってみるが……特に変化は無い。

「むぅ……違うみたい」

「……。枯れ木に、再生の力、最低四つの証……。もしや四つの証、つまり七大迷宮の半分を攻略した上で、再生に関する神代魔術を手に入れねばならんという事か?」

 目の前の枯れている樹を再生する必要があるのでは? と推測するソウゴ。ユエも、そうかもと納得顔をする。

「要は、今すぐ攻略は無理という事か……。面倒だが他の迷宮から当たるしかないな……」

「ん……」

 

 ここまで来て後回しにしなければならない事に、ソウゴは嘆息する。ユエも残念そうだ。しかし大迷宮への入り方が見当もつかない上で明確に決められている以上、ぐだぐだと悩んでいても仕方ない。急いでいる訳でも無いので、気持ちを切り替えて先に三つの証を手に入れる事にする。

 ソウゴはハウリア族に号令をかけた。

「今聞いた通り、私達は先に他の大迷宮の攻略を目指す事にする。大樹の下へ案内するまで守るという約束もこれで完了した。貴様達なら、もうフェアベルゲンの庇護がなくてもこの樹海で十分に生きていけるだろう。よって、只今を以てここで別れる」

 そして、チラリとシアを見る。その瞳には、別れの言葉を残すなら今しておけという意図が含まれているのを、シアは正確に読み取った。いずれ戻ってくるとしても、三つもの大迷宮の攻略となれば、それなりに時間がかかるだろう。当分は家族とも会えなくなる。

 シアは頷き、カム達に話しかけようと一歩前に出た。

 

「父さ「陛下! お話があります!」……あれぇ、父様? 今は私のターンでは…」

 

 シアの呼びかけをさらりと無視してカムが一歩前に出た。ビシッと直立不動の姿勢だ。横で「父様? ちょっと、父様?」とシアが声をかけるが、まるで英域近衛兵の様に真っ直ぐ前を向いたまま見向きもしない。

「何だ?」

 取り敢えず「父様? 父様?」と呼びかけているシアは無視する方向で、ソウゴはカムに聞き返した。カムは、シアの姿など見えていないと言う様に無視しながら、意を決してハウリア族の総意を伝える。

「陛下、我々も陛下のお供に付いていかせて下さい!」

「えっ! 父様達もソウゴさんに付いて行くんですか!?」

 カムの言葉に驚愕を表にするシア。四ヶ月前の話し合いでは、自分を送り出す雰囲気だったのにどうしたのです!? と声を上げる。

 

「我々は最早ハウリアであってハウリアで無し! 陛下の部下であります! 是非お供に! これは一族の総意であります!」

「ちょっと、父様! 私、そんなの聞いてませんよ! ていうか、これで許可されちゃったら私の苦労は何だったのかと……」

「ぶっちゃけ、シアが羨ましいであります!」

「ぶっちゃけちゃった! ぶっちゃけちゃいましたよ! ホント、この四ヶ月間の間に何があったんですかっ!」

 

 カムが一族の総意を声高に叫び、シアがツッコミつつ話しかけるが無視される。何だ、この状況? と思いつつ、ソウゴはきっちり返答した。

「駄目だ」

「何故です!?」

 ソウゴの実にあっさりした返答に身を乗り出して理由を問い詰めるカム。他のハウリア族もジリジリとソウゴに迫る。

「貴様等にこの地を任せたいからだ」

 

「何ですとっ!?」

 

 突然の発言にどよめくハウリア達。それを手で制し、ソウゴは続ける。

「このフェアベルゲンは、既に我が領土である。貴様等以外の亜人族が住んでいようと、この地は私の所有物であり、統治者は私である。それは決定事項だ、違うかカム?」

「いえ、仰る通りでございます!」

 カムの肯定に、ソウゴも頷きを返す。

「だがこの通り、私はフェアベルゲンに留まる訳にはいかん。ならばこそ、私が居らずともこの地を守護し統治する存在が必要だ。それを任せられるのはこの地に造詣が深く、私への忠義と実力を兼ね備えた者でなくてはならん。よいか? これは私が貴様等を信頼し、フェアベルゲン最強と見込んでの任命なのだ」

「そんな! 勿体なきお言葉で御座います!」

 ソウゴの思わぬ高評価に、涙を浮かべ声を震わせるカム。後ろのハウリア達は耐えきれなかったのか、既に零れている者もいる。

「謙遜は美しい行為だが、過度にすれば評価者を貶めると心得よ。…さて。ではカムよ、この世界における我が第一の将よ。フェアベルゲン守護の任、引き受けてくれるな?」

 ソウゴの言葉を受け、カム達は涙を拭いながら膝をついて受け入れた。

 

『『『『我等ハウリア族一同、謹んで拝命致します!!!!!』』』』

 

 その宣言と共に、樹海にハウリア達の歓喜の雄叫びが響き渡った。

 

 

 

「ぐすっ、誰も見向きもしてくれない……旅立ちの日なのに……」

 

 傍でシアが地面にのの字を書いていじけているが、やはり誰も気にしなかった。

 

 

 

 樹海の境界でカム達の見送りを受けたソウゴ、ユエ、シアは再びストライカーに乗り込んで平原を疾走していた。位置取りはユエ、ソウゴ、シアの順番である。以前、ライセン大峡谷の谷底で乗せた時よりシアの密着度が増している気がするが、特に気にせず運転するソウゴ。

 

 疾走感とウサミミをパタパタと弄ぶ風に、気持ちよさそうに目を細めていたシアが肩越しに質問する。

「ソウゴさん。そう言えば聞いていませんでしたが目的地は何処ですか? やっぱりグリューエンの大火山ですか?」

「そういえば言ってなかったか?」

「聞いてませんよ!」

「……私は知っている」

 得意気なユエに、むっと唸り抗議の声を上げるシア。

「わ、私だって仲間なんですから、そういうことは教えて下さいよ! コミュニケーションは大事ですよ!」

「そう騒がずとも教える。次の目的地はライセン大峡谷だ」

「ライセン大峡谷?」

 

 ソウゴの告げた目的地に疑問の表情を浮かべるシア。現在確認されている七大迷宮は【ハルツィナ樹海】を除けば、【グリューエン大砂漠の大火山】と【オルクス大迷宮】である。オルクスは攻略済みなので、自然次の目的地は【大火山】だろうと思ったのだ。その疑問を察したのかソウゴが意図を話す。

 

「一応、ライセンも七大迷宮があると言われているからな。どうせ【大火山】を目指して西大陸に行くなら、東西に伸びるライセンを通りながら行けば、途中で迷宮が見つかるかもしれないだろう?」

「つ、序でライセン大峡谷を渡るのですか……」

 思わず頬が引き攣るシア。ライセン大峡谷は地獄にして処刑場というのが一般的な認識であり、つい最近一族が全滅しかけた場所でもある為、そんな場所をソウゴ達が唯の街道と一緒くたに考えている事に少しばかり動揺する。

 ソウゴは密着しているせいかシアの動揺が手に取る様に解り、呆れた表情をした。

「少しは自分の力を自覚せよ。今の貴様は谷底の魔物もその辺の魔物も変わらんよ。ライセンは放出された魔力を分解する場所だぞ? 身体強化に特化した貴様なら何の影響も受けずに十全に動けるのだ、寧ろ独壇場だろうが」

「……師として情けない」

「うぅ~、面目無いですぅ」

 ユエにも呆れた視線を向けられ目を泳がせるシア。話題を逸らそうとする。

「で、では、ライセン大峡谷に行くとして、今日は野営ですか? それともこのまま、近場の村か町に行きますか?」

「今後の為にもそろそろこの世界の通貨が欲しい、素材を換金できるらしいから町に向かう。前に見た地図通りなら、この方角に町があった筈だ」

 ソウゴとしては、そろそろ真面な料理を食べようと思っていたところだ。

 

 普段から執務に追われるソウゴは、この手の旅等に措いて所謂定番やら雰囲気やら、──要はテンプレを大事にする傾向にある。ソウゴが今まで特に調理等せず火を通すだけで食べていたのは、その方が"それっぽい"からだ。

 だが旅のお供、それも年頃の少女が増えたとなれば、そろそろちゃんとした料理を口にする頃合いかと判断したのだ。それに訪れた旅先で、その地の特産を食べるというのも旅の定番である。

 

 それに今後、町で買い物なり宿泊なりするなら金銭が必要になる。素材だけなら腐る程持っているので換金してお金に替えておきたかった。それにもう一つ、ライセン大峡谷に入る前に落ち着いた場所でやっておきたい事もあったのだ。

 

 

「はぁ~そうですか……よかったです」

 

 ソウゴの言葉に、何故か安堵の表情を見せるシア。ソウゴが訝しそうに「どうした?」と聞き返す。

「いやぁ~ソウゴさんの事だから、ライセン大峡谷でも魔物の肉をバリボリ食べて満足しちゃうんじゃないかと思ってまして……ユエさんはソウゴさんの血があれば問題ありませんし……どうやって私用の食料を調達してもらえる様に説得するか考えていたんですよぉ~、杞憂でよかったです。ソウゴさんも真面な料理食べるんですね!」

「誰が好き好んで魔物なんぞ食べる。……シア、貴様は私を何だと思ってるんだ?」

「プレデターという名の新種の魔物?」

「そうか、なら貴様から食べるとしよう。兎の捌き方なら心得ている」

「ちょ、やめぇ、どっから出したんですかっ、その首輪! ホントやめてぇ~そんなの付けないでぇ~、ユエさん見てないで助けてぇ!」

「……自業自得」

 

 

 ある意味、非常に仲の良い様子で騒ぎながら草原を進む三人。

 

 数時間程走り、そろそろ日が暮れるという頃、前方に町が見えてきた。奈落から出て空を見上げた時の様な、"戻ってきた"という気持ちが湧き出したのか、懐のユエがどこかワクワクした様子。僅かに振り返ったユエと目が合い、ソウゴは思わず微笑みを浮かべた。

「あのぉ~、いい雰囲気のところ申し訳ないですが、この首輪、取ってくれませんか? 何故か、自分では外せないのですが……あの、聞いてます? ソウゴさん? ユエさん? ちょっと、無視しないで下さいよぉ~、泣きますよ! それは、もう鬱陶しいくらい泣きますよぉ!」

 

 遠くに町が見える。周囲を堀と柵で囲まれた小規模な町だ。街道に面した場所に木製の門があり、その傍には小屋もある。恐らく門番の詰所だろう。小規模といっても、門番を配置する程度の規模はある様だ。それなりに充実した買い物が出来そうだとソウゴは頬を緩めた。

 

「……機嫌がいいのなら、いい加減この首輪取ってくれませんか?」

 

 街の方を見て微笑むソウゴに、シアが憮然とした様子で頼み込む。シアの首に嵌められている黒を基調とした首輪は、小さな水晶の様な物も目立たないが付けられているかなりしっかりした作りの物で、シアの失言の罰としてソウゴが無理やり取り付けたものだ。何故か外れない為、シアが外してくれる様頼んでいるのだがソウゴはスルーしている。

 

 そろそろ町の方からもソウゴ達を視認できそうなので、ストライカーをウォッチに戻して徒歩に切り替えるソウゴ達。流石に黄金のバイクで乗り付けては大騒ぎになるだろう。

 道中シアがブチブチと文句を垂れていたが、やはりスルーして遂に町の門まで辿り着いた。案の定門の脇の小屋は門番の詰所だったらしく、武装した男が出てきた。格好は革鎧に長剣を腰に身につけているだけで、兵士というより冒険者に見える。その冒険者風の男がソウゴ達を呼び止めた。

「止まってくれ。ステータスプレートを。後、町に来た目的は?」

 規定通りの質問なのだろう。どことなくやる気なさげである。ソウゴは門番の質問に答えながらステータスプレートを取り出した。

「食料の補給がメインだ。旅の途中でな」

 ふ~んと気のない声で相槌を打ちながら門番の男がハジメのステータスプレートをチェックする。

 

 ソウゴのプレートの表記は、ソウゴの手によって偽装工作が成されている。

 ステータスプレートには、ステータスの数値と技能欄を隠蔽する機能があるのだ。冒険者や傭兵においては、戦闘能力の情報漏洩は致命傷になりかねないからである。そこから更に、ソウゴは年齢と天職、レベルにも偽装を施している。双方共に、バレると騒ぎになるからだ。

 

「ほぉ~、その歳で傭兵か。しかもレベルも高い。……そっちの二人は?」

「私の連れだ。詳しい事は詮索無用で頼む」

 言外に無用な詮索は身を亡ぼすぞ、と告げると門番は苦笑いで了承を示す。

「まぁいい。通っていいぞ」

「ああ、どうも。……おっとそうだ、素材の換金場所は何処にある?」

「あん? それなら、中央の道を真っ直ぐ行けば冒険者ギルドがある。店に直接持ち込むなら、ギルドで場所を聞け。簡単な町の地図をくれるから」

「親切な事だな、感謝する」

 

 門番から情報を得て、ソウゴ達は門を潜り町へと入っていく。門の所で確認したが、この町の名前は【ブルック】というらしい。町中はそれなりに活気があった。かつて見たオルクス近郊の町【ホルアド】程ではないが露店も結構出ており、呼び込みの声や白熱した値切り交渉の喧騒が聞こえてくる。

 

 こういう騒がしさは訳も無く気分を高揚させるものだ。ソウゴだけでなく、ユエも楽しげに目元を和らげている。しかしシアだけは先程からぷるぷると震えて、涙目でソウゴを睨んでいた。

 怒鳴る事も無く、ただジッと涙目で見てくるので、流石に気になって声を掛けるソウゴ。

「どうしたんだ、折角の町だぞ?」

「これです! この首輪! これのせいで奴隷だと思われるじゃないですか! ソウゴさん、分かっていて付けたんですね! うぅ、酷いですよぉ~、私達仲間じゃなかったんですかぁ~」

 シアが怒っているのはそういう事らしい。旅の仲間だと思っていたのに、意図して奴隷扱いを受けさせられた事が相当ショックだった様だ。勿論ソウゴが付けた首輪は本来の奴隷用の首輪ではなく、シアを拘束する様な力はない。それはシアもわかっている。だがだとしても、やはりショックなものはショックなのだ。

 そんなシアの様子にソウゴはカリカリと頭を掻きながら目を合わせる。

 

「考えてもみろ、奴隷でもない亜人族、それも愛玩用として人気の高い兎人族が普通に町を歩ける訳無いだろう? まして、貴様は白髪の兎人族で物珍しい上に容姿もスタイルも抜群。断言するが、誰かの奴隷だと示してなかったら、町に入って十分も経たず目をつけられるぞ。後は絶え間無い人攫いの嵐だろうよ。面倒事になるのは目に見え……って何をしている?」

 

 言い訳あるなら言ってみろやゴラァ! という感じでソウゴを睨んでいたシアだが、話を聞いている内に照れたように頬を赤らめイヤンイヤンし始めた。ユエが冷めた表情でシアを見ている。

「も、もう、ソウゴさん。こんな公衆の面前で、いきなり何言い出すんですかぁ。そんな、容姿もスタイルも性格も抜群で、世界一可愛くて魅力的だなんてぇ、もうっ! 恥かしいでっぶげら!?」

 調子に乗って話を盛るシアの頬に、ユエの黄金の右ストレートが突き刺さる。可愛げの欠片もない悲鳴を上げて倒れるシア。身体強化していなかったので、別の意味で赤くなった頬をさすりながら起き上がる。

「……調子に乗っちゃだめ」

「……ずびばぜん、ユエざん」

 冷めたユエの声に、ぶるりと体を震わせるシア。そんな様子に呆れた視線を向けながら、ソウゴは話を続ける。

「つまりだ。人間族のテリトリーでは、寧ろ奴隷という身分が貴様を守っているんだ。それ無しでは、トラブルの元だからな貴様は」

「それは……わかりますけど……」

 理屈も有用性もわかる。だがやはり納得し難いようで不満そうな表情のシア。仲間というものに強い憧れを持っていただけに、そう簡単に割り切れないのだろう。そんなシアに、今度はユエが声をかけた。

「……有象無象の評価なんてどうでもいい」

「ユエさん?」

「……大切な事は、大切な人が知っていてくれれば十分。……違う?」

「………………そう、そうですね。そうですよね」

「……ん、不本意だけど……シアは私が認めた相手……小さい事気にしちゃダメ」

「……ユエさん……えへへ。ありがとうございますぅ」

 

 かつて大衆の声を聞き、大衆のために力を振るった吸血姫。裏切りの果てに至った新たな答えは、例え言葉少なでも確かな重みがあった。だからこそ、その言葉はシアの心にストンと落ちる。自分がソウゴとユエの大切な仲間であるという事は、ハウリア族の皆も、ソウゴやユエも分かっている。要らぬトラブルを招き寄せてまで万人に理解してもらう必要は無い。勿論、それが出来るならそれに越した事はないが……

 シアは、ユエの言葉に照れた様に微笑みながらチラッチラッとソウゴを見る。何かの言葉を期待する様に。

 ソウゴは仕方ないという様に肩を竦めて言葉を紡ぐ。

「まぁ、奴隷じゃないとバレて襲われても見捨てたりはせんさ」

「街中の人が敵になってもですか?」

「既に帝国兵とだって殺りあっただろう?」

「じゃあ、国が相手でもですね! ふふ」

「今更だ。世界だろうと神だろうと変わらん、敵対するなら滅ぼすまでだ」

「くふふ、聞きました? ユエさん。ソウゴさんったらこんな事言ってますよ? よっぽど私達が大事なんですねぇ~」

「……ソウゴ様が大事なのは私だけ」

「ちょっ、空気読んで下さいよ! そこは、何時も通り『…ん』て素直に返事するところですよ!」

「……だから結婚してると言っただろうが」

 

 

 文句を言いながらも嬉しげで楽しげな表情をするシア。いざとなれば、自分の為に世界とだって戦ってくれるという言葉は、やはり一人の女として嬉しいものだ。まして、それが惚れた相手なら尚更。

 ソウゴはじゃれあっている(様に見える)二人を尻目に、シアの首輪について話し始める。

「その首輪だが、念話石と特定石が組み込んである。必要なら使え。直接魔力を注げば使える」

「念話石と特定石ですか?」

 

 念話石とは、文字通り念話ができる鉱物の事だ。生成魔術により"念話"を鉱石に付与しており、込めた魔力量に比例して遠方と念話が可能になる。

 特定石は、生成魔術により"気配感知"・"特定感知"を付与した物だ。特定感知を使うと多くの気配の中から特定の気配だけ色濃く捉えて他の気配と識別しやすくなる。それを利用して、魔力を流し込む事でビーコンの様な役割を果たす事が出来る様にしたのだ。ビーコンの強さは注ぎ込まれた魔力量に比例する。

 

 どちらも奈落を出る前に暇つぶしで作った物だが、念話系技能を持たないシアに丁度良いと思い加工したのだ。ソウゴの説明に、感心の声を上げるシア。

「着脱についてだが、特定量の魔力を流す事で一応外せる様になっている」

「なるほどぉ~、つまりこれは……いつでも私の声が聞きたい、居場所が知りたいというソウゴさんの気持ちという訳ですね? もうっ、そんなに私の事が好きなんですかぁ? 流石にぃ、ちょっと気持ちが重いっていうかぁ、あっ、でも別に嫌ってわけじゃなくッバベルンッ!?」

「……調子に乗るな」

「ぐすっ、ずみまぜん」

 美しい曲線を描いて飛来したユエの蹴りが後頭部に決まり、奇怪な悲鳴を上げながら倒れるシア。ユエから、冷ややかな声がかけられる。近接戦苦手だったんじゃ……と言いたくなる位見事なハイキックを披露するユエに、シアは涙目で謝る。旅の同行は許しても、ソウゴへのアプローチはそうそう許してもらえないらしい。尤も、シアの言動がアプローチになっているかは甚だ疑問ではあるが。

 

 そんな風に仲良く? メインストリートを歩いていき、一本の大剣が描かれた看板を発見する。かつて【ホルアド】の町でも見た冒険者ギルドの看板だ。規模は【ホルアド】に比べて二回り程小さい。

 ソウゴは看板を確認すると重厚そうな扉を開き中に踏み込んだ。

 

 

 一歩足を踏み入れたそこは、清潔さが保たれた場所だった。入口正面にカウンターがあり、左手は飲食店になっている様だ。何人かの冒険者らしい者達が食事を取ったり雑談したりしている。誰一人酒を注文していない事からすると、元々酒は置いていないのかもしれない。酔っ払いたいなら酒場に行けという事だろう。

 ソウゴ達がギルドに入ると、冒険者達が当然の様に注目してくる。最初こそ見慣れない三人組という事で細やかな注意を引いたに過ぎなかったが、彼等の視線がユエとシアに向くと、途端に瞳の奥の好奇心が増した。中には「ほぅ」と感心の声を上げる者や、恋人なのか女冒険者に殴られている者もいる。平手打ちでないところが冒険者らしい。

 テンプレ宜しく、ちょっかいを掛けてくる者がいるかとも思ったが、意外に理性的で観察するに留めている様だ。足止めされなくて幸いとソウゴはカウンターへ向かう。

 

 カウンターには恰幅がいい女性が座っていた。年の頃は四十代といったところか、ニコニコと人好きのする笑みを浮かべている。

 彼女が此処の責任者かと思い、ソウゴはそのまま話し掛ける。

「失礼、少しよろしいか」

「あらいらっしゃい。冒険者ギルド、ブルック支部にようこそ。両手にとびっきり綺麗な花を持って登場なんて、一体どこの坊ちゃんだい?」

「いやいやレディ、私は若作りが得意なだけのただの通りすがりだ。彼女達は旅のお供でね」

「あらレディなんて、口が上手いねアンタ。その歳で中々やるね」

「そちらこそ。私の主観だが、ここの冒険者達が大人しいのは貴方の腕によるものだろう。もしや此処の主人で?」

「いやいや、あたしはただの受付。キャサリンって者さ」

 ソウゴの言葉に気を良くしたのか、随分と言葉尻が軽くなるキャサリン。

「おっと、つい話が弾んじまった。ご用件は何かしら?」

「ああ、素材の買取をお願いしたい」

「素材の買取だね。じゃあ、まずステータスプレートを出してくれるかい?」

「? 買取にステータスプレートの提示が必要なのか?」

 ソウゴの疑問に「おや?」という表情をするキャサリン。

「あんた冒険者じゃなかったのかい? 確かに、買取にステータスプレートは不要だけどね、冒険者と確認できれば一割増で売れるんだよ」

「ほぅ……」

 

 キャサリンの言う通り、冒険者になれば様々な特典も付いてくる。生活に必要な魔石や回復薬を始めとした薬関係の素材は冒険者が取ってくるものが殆どだ。町の外はいつ魔物に襲われるかわからない以上、素人が自分で採取しに行く事は殆ど無い。危険に見合った特典が付いてくるのは当然だった。

 

「他にも、ギルドと提携している宿や店は一~二割程度は割り引いてくれるし、移動馬車を利用する時も高ランクなら無料で使えたりするね。どうする、登録しておくかい? 登録には千ルタ必要だよ」

 ルタとは、この世界トータスの北大陸共通の通貨だ。ザガルタ鉱石という特殊な鉱石に他の鉱物を混ぜる事で異なった色の鉱石ができ、それに特殊な方法で刻印したものが使われている。青、赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金の種類があり、左から一、五、十、五十、百、五百、千、五千、一万ルタとなっている。驚いた事に貨幣価値は日本と同じだ。

「そうか。なら折角だ、登録しておくか。悪いんだが、最近こちらに来たばかりでな。こちらの通貨の持ち合わせがない。買取金額から引く形で頼めるだろうか? 勿論、最初の買取額はそのままでいい」

「ほ~ん、成程ねぇ。ならさっきのお世辞の礼も兼ねて上乗せさせてもらうよ」

 ソウゴは有り難く厚意を受け取っておく事にした。ステータスプレートを差し出す。

 キャサリンはユエとシアの分も登録するかと聞いたが、それは断った。二人はそもそもプレートを持っていないので発行からしてもらう必要がある。しかし、そうなるとステータスの数値も技能欄も隠蔽されていない状態でキャサリンの目に付く事になる。

 ソウゴとしては、二人のステータスを見てみたい気もしたが、恐らく技能欄にはばっちりと固有魔術等も記載されているだろうし、それを見られてしまう事を考えると、まだ三人の存在が公になっていない段階では知られない方が面倒が少なくて済むと今は諦める事にした(それに、その気になれば"鑑定"でいつでも覗ける)。

 

 戻ってきたステータスプレートには、新たな情報が表記されていた。天職欄の横に職業欄が出来ており、そこに"冒険者"と表記され、更にその横に青色の点が付いている。

 青色の点は、冒険者ランクだ。上昇するにつれ赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金と変化する。そこは通貨の価値を示す色と同じである。つまり、青色の冒険者とは「お前は一ルタ程度の価値しかねぇんだよ、ぺっ」と言われているのと一緒という事だ。きっと、この制度を作った初代ギルドマスターの性格は捻じ曲がっているに違いない。

 

 因みに、戦闘系天職を持たない者で上がれる限界は黒だ。辛うじてではあるが四桁に入れるので、天職なしで黒に上がった者は拍手喝采を受けるらしい。天職ありで金に上がった者より称賛を受けるというのであるから、如何に冒険者達が色を気にしているかが分かるだろう。

 

「男なら頑張って黒を目指しなよ? お嬢さん達にカッコ悪いところ見せない様にね」

「ああ、そうさせてもらおう。それで、買取はここでよろしいか?」

「構わないよ。あたしは査定資格も持ってるから見せてちょうだい」

 キャサリンは受付だけでなく買取品の査定もできるらしい。優秀な人材だ。ソウゴはあらかじめ宝物庫から出してバックに入れ替えておいた素材を取り出す。品目は魔物の毛皮や爪、牙、そして魔石だ。カウンターの受け取り用の入れ物に入れられていく素材を見て、再びキャサリンが驚愕の表情をする。

 

「こ、これは!」

 恐る恐る手に取り、隅から隅まで丹念に確かめる。息を詰めるような緊張感の中、漸く顔を上げたキャサリンは、溜息を吐きソウゴに視線を転じた。

「とんでもないものを持ってきたね。これは…………樹海の魔物だね?」

「ああ、そうだ」

 

 当然の事だが、奈落の魔物の素材などこんな場所で出す訳が無い。そんな未知の素材を出されたら一発で大騒ぎだ。樹海の魔物の素材でも十分に珍しいだろう事は予想していたので少し迷ったが、他に適当な素材も無かったので買取に出した。キャサリンの反応を見る限り、やはり珍しい様だ。

「樹海の素材は良質な物が多いからね、売ってもらえるのは助かるよ」

「やはり珍しいか?」

「そりゃあねぇ。樹海の中じゃあ人間族は感覚を狂わされるし、一度迷えば二度と出てこれないからハイリスク。好き好んで入る人はいないねぇ。亜人の奴隷持ちが金稼ぎに入るけど、売るならもっと中央で売るさ。幾分か高く売れるし、名も上がりやすいからね」

 キャサリンはチラリとシアを見る。恐らく、シアの協力を得て樹海を探索したのだと推測したのだろう。樹海の素材を出してもシアのお陰で不審にまでは思われなかった様だ。代わりに、「若いのに無茶をして」という心配そうな顔を向けられてしまった。

 

 実は亜人族の国【フェアベルゲン】まで踏み込んだ挙句、兎人族の魔改造、三つの種族の絶滅まで行ったと知れば、キャサリンは果たしてどんな表情になるのか。ソウゴは案外動じないかもしれないと思い、内心で苦笑いを浮かべるのだった。

 

 それからキャサリンは、全ての素材を査定し金額を提示した。買取額は五十万七千ルタ。結構な額だ。

「これでいいかい? 中央ならもう少し高くなるだろうけどね。」

「いや、この額で構わない」

 ソウゴは五十三枚のルタ通貨を受け取る。この貨幣、鉱石の特性なのか異様に軽い上、薄いので五十枚を超えていても然程苦にならなかった。尤も、例え邪魔でもソウゴには宝物庫があるので問題は無いが。

「ところで、門番の彼にこの町の簡易な地図を貰えると聞いたんだが……」

「ああ、ちょっと待っといで……ほら、これだよ。おすすめの宿や店も書いてあるから参考にしなさいな」

 手渡された地図は、中々に精巧で有用な情報が簡潔に記載された素晴らしい出来だった。これが無料とは、ちょっと信じられない位の出来である。

「なんと…いいのか? こんな立派な地図を無料で。十分金が取れる出来だと見受けられるが……」

「構わないよ、あたしが趣味で書いてるだけだからね。書士の天職を持ってるから、それ位落書きみたいなもんだよ」

「そうか、では有難く頂戴しよう」

「いいって事さ。それより、金はあるんだから少しはいい所に泊りなよ。治安が悪い訳じゃあないけど、その二人ならそんなの関係無く暴走する男連中が出そうだからね」

 

 キャサリンは最後までいい人で気配り上手だった。ソウゴは苦笑いしながら「そうしよう」と返事をし、入口に向かって踵を返した。ユエとシアも頭を下げて追従する。食事処の冒険者の何人かがコソコソと話し合いながら、最後までユエとシアの二人を目で追っていた。

「ふむ、いろんな意味で面白そうな連中だね……」

 後には、そんなキャサリンの楽しげな呟きが残された。

 

 

 ソウゴ達が、最早地図というよりガイドブックと称すべきそれを見て決めたのは"マサカの宿"という宿屋だ。紹介文によれば料理が美味く防犯もしっかりしており、何より風呂に入れるという。最後のが決め手だ。その分少し割高だが、金はあるので問題ない。若干、何が"まさか"なのか気になったというのもあるが……

 

 宿の中は一階が食堂になっている様で、複数の人間が食事をとっていた。ソウゴ達が入ると、お約束の様にユエとシアに視線が集まる。それらを無視してカウンターらしき場所に行くと、十五歳くらい女の子が元気よく挨拶しながら現れた。

「いらっしゃいませー、ようこそマサカの宿へ! 本日はお泊りですか? それともお食事だけですか?」

「宿泊だ。このガイドブックを見て来たんだが、記載されている通りでいいか?」

 ソウゴが見せたキャサリン特製地図を見て合点がいった様に頷く女の子。

「ああ、キャサリンさんの紹介ですね。はい、書いてある通りですよ。何泊のご予定ですか?」

「一泊でいい。食事付きで、あと風呂も頼む」

「はい。お風呂は十五分で百ルタです。今のところ、この時間帯が空いてますが」

 女の子が時間帯表を見せる。なるべくゆっくり入りたいので、男女で分けるとして二時間は確保したい。その旨を伝えると「えっ、二時間も!?」と驚かれたが、日本人たるソウゴとしては譲れないところだ。

 

「え、え~と、それでお部屋はどうされますか? 二人部屋と三人部屋が空いてますが……」

 

 ちょっと好奇心が含まれた目でソウゴ達を見る女の子。そういうのが気になるお年頃だ。だが、周囲の食堂にいる客達まで聞き耳を立てるのは勘弁してもらいたいと思うソウゴ。ユエもシアも美人とは思っていたが、想像以上に二人の容姿は目立つ様だ。出会い方が出会い方だったのと、美男美女を見慣れているソウゴの感覚が麻痺しているのだろう。

「ああ、三人部屋で頼む」

 ソウゴが躊躇いなく答える。周囲がザワッとなった。女の子も少し頬を赤らめている。だが、そんなソウゴの言葉に待ったをかけた人物がいた。

「……ダメ。二人部屋二つで」

 ユエだ。周囲の客達、特に男連中がソウゴに向かって「ざまぁ!」という表情をしている。ユエの言葉を男女で分けろという意味で解釈したのだろう。だがそんな表情は、次のユエの言葉で絶望に変わる。

 

「……私とソウゴ様で一部屋。シアは別室」

「ちょっ、何でですか! 私だけ仲間はずれとか嫌ですよぉ! 三人部屋でいいじゃないですかっ!」

 猛然と抗議するシアに、ユエはさらりと言ってのけた。

「……シアがいると気が散る」

「気が散るって……何かするつもりなんですか?」

「……何って……ナニ?」

「ぶっ!? ちょっ、こんなとこで何言ってるんですか! お下品ですよ!」

 

 ユエの言葉に絶望の表情を浮かべた男連中が、次第にソウゴに対して嫉妬の炎が宿った眼を向け始める。宿の女の子は既に顔を赤くしてチラチラとソウゴとユエを交互に見ていた。ソウゴがこれ以上騒ぎが大きくなる前に止めに入ろうとするが、その目論見は少し遅かった。

「だ、だったら、ユエさんこそ別室に行って下さい! ソウゴさんと私で一部屋です!」

「……ほぅ、それで?」

 指先を突きつけてくるシアに、冷気を漂わせた眼光で睨みつけるユエ。あまりの迫力に、シアは訓練を思い出したのかプルプルと震えだすが、「ええい、女は度胸!」と言わんばかりにキッと睨み返すと大声で宣言した。

 

 

「そ、それで、ソウゴさんに私の処女を貰ってもらいますぅ!」

 

 

 静寂が舞い降りた。誰一人、言葉を発する事無く、物音一つ立てない。今や、宿の全員がソウゴ達に注目、基凝視していた。厨房の奥から女の子の両親と思しき女性と男性まで出てきて「あらあら、まあまあ」「若いっていいね」と言った感じで注目している。

 ユエが瞳に絶対零度を宿してゆらりと動いた。

「……今日がお前の命日」

「うっ、ま、負けません! 今日こそユエさんを倒して正ヒロインの座を奪ってみせますぅ!」

「……師匠より強い弟子などいない事を教えてあげる」

「下克上ですぅ!」

 ユエから尋常でないプレッシャーが迸り、震えながらもシアが背中に背負った大槌に手をかける。まさに修羅場、一触即発の雰囲気に誰もがゴクリと生唾を飲み込み緊張に身を強ばらせる。そして……

 

 

 ゴチンッ! ゴチンッ!

 

 

「ひぅ!?」

「はきゅ!?」

 鉄拳が叩き込まれる音と二人の少女の悲鳴が響き渡った。ユエもシアも、涙目になって蹲り両手で頭を抱えている。二人にゲンコツを叩き込んだのは、勿論ソウゴである。

「周りの迷惑を考えろ。第一、抱く気は無いと言っているだろうが」

「……うぅ、ソウゴ様の愛が痛い……」

「も、もう少し、もう少しだけ手加減を……身体強化すら貫く痛みが……」

「死んでない時点で十分手加減しておるわ馬鹿者」

 ソウゴは冷ややかな視線を二人に向けると、クルリと女の子に向き直る。女の子はソウゴの視線を受けてビシィと姿勢を正した。

「騒がせて悪いな。三人部屋で頼む」

「……こ、この状況で三人部屋……つ、つまり三人で? す、すごい……はっ、まさかお風呂を二時間も使うのはそういう事!? お互いの体で洗い合ったりするんだわ! それから……あ、あんな事やこんな事を……なんてアブノーマルなっ!」

 

 女の子はトリップしていた。見かねた女将さんらしき人がズルズルと女の子を奥に引きずっていく。代わりに父親らしき男性が手早く宿泊手続きを行った。部屋の鍵を渡しながら「うちの娘がすみませんね」と謝罪するが、その眼には「男だもんね? わかってるよ?」という嬉しくない理解の色が宿っている。絶対、翌朝になれば「昨晩はお楽しみでしたね?」とか言うタイプだ。

 

 何を言っても誤解が深まりそうなので、急な展開に呆然としている客達を尻目に、未だ蹲っているユエとシアを肩に担ぐと、ソウゴはそのまま三階の部屋に駆ける様に向かった。暫くすると、止まった時が動き出したかの様に階下で喧騒が広がっていたが、何だか異様に疲れた気がするので無視するソウゴ。部屋に入るとユエとシアをそれぞれのベッドにポイッと投げ捨てると、自らもベッドにダイブして意識をシャットダウンした。

 

 

 数時間程眠ったのか、夕食の時間になった様でユエに起こされたソウゴは、ユエとシアを伴って階下の食堂に向かった。何故か、チェックインの時にいた客が全員まだ其処にいた。

 ソウゴは一瞬頬が引き攣りそうになるが、冷静を装って席に着く。すると、初っ端から滅茶苦茶顔を赤くした宿の女の子が「先程は失礼しました」と謝罪しながら給仕にやって来た。謝罪してはいるが瞳の奥の好奇心が隠せていない。注文した料理は確かに美味かったのだが、せっかく久しぶりに食べた真面な料理は、もう少し落ち着いて食べたかったとソウゴは内心溜息を吐くのだった。

 

 風呂は風呂で、男女で時間を分けたのに結局ユエもシアも乱入してきたり、風呂場でまた修羅場になった挙句、ソウゴのアイアンクローで仲良く放り投げられたり、その様子をこっそり風呂場の陰から宿の女の子が覗いていたり、覗きがバレて女将さんに尻叩きされていたり……

 夜寝る時も、当然の様にユエがソウゴのベッドに入り、定位置という様に右手に抱きつくと、シアが対抗して左腕に抱きついたり、そのまま火花を散らし始めたのでソウゴに部屋を追い出されたり、部屋が異界化されて二人が廊下で寝る羽目になったり……。

 

 翌朝、ソウゴは次からは宿に泊まる時は一人部屋で寝ようかと思案した。

 

 

 朝食を食べた後、ソウゴはユエとシアに金を渡し、旅に必要な物の買い出しを頼んだ。チェックアウトは昼なので、まだ数時間は部屋を使える。なのでユエ達に買出しに行ってもらっている間に、部屋で済ませておきたい用事があったのだ。

「用事ってなんですか?」

 シアが疑問を素直に口にする。しかしソウゴは、

「ちょっと作っておきたい物があってな。本当は昨夜やろうと思っていたんだが……何故か妙に疲れてな」

「……そ、そうだ。ユエさん。私、服も見ておきたいんですけどいいですか?」

「……ん、問題ない。私は、露店も見てみたい」

「あっ、いいですね! 昨日は見ているだけでしたし、買い物しながら何か食べましょう」

 サッと視線を逸らし、きゃいきゃいと買い物の話をし始めるユエとシア。自分達が原因だと分かってはいるが、心情的に非を認めたくないので、阿吽の呼吸で話題も逸らす。

 

「……貴様等、実は結構仲良いだろう」

 

 そんなソウゴの呟きも虚しくスルーされるのだった。

 

 

 ソウゴのジト目から逃亡を図ったシアとユエは町に出ていた。昼頃まで数時間といったところなので計画的に動かなければならない。目標は、食料品関係とシアの衣服、それと薬関係だ。

 

 シアの現在の装いは、樹海に居た時のまま露出度の高い水着の様な兎人族の民族衣装に、峡谷でソウゴから掛けてもらったユエとお揃いの白に青いラインの入った外套を羽織っている状態だ。引き締まった腹部や、長くしなやかな生足が惜しげも無く晒されている。流石にこれから旅をしていくにはあまり相応しくない衣装なので、もっと旅に向いた丈夫で露出の少ない衣服を揃えようかと思った訳である。因みに、武器・防具類はソウゴがいるので不要である。

 

 町の中は、既に喧騒に包まれていた。露店の店主が元気に呼び込みをし、主婦や冒険者らしき人々と激しく交渉をしている。飲食関係の露店も始まっている様で、朝から濃すぎないか? と言いたくなる様な肉の焼ける香ばしい匂いや、タレの焦げる濃厚な香りが漂っている。

 

 道具類の店や食料品は時間帯的に混雑している様なので、二人はまずシアの衣服から揃える事にした。

 キャサリンの地図には、きちんと普段着用の店、高級な礼服等の専門店、冒険者や旅人用の店と分けてオススメの店が記載されている。やはりキャサリンは出来る人だ。痒いところに手が届いている。

 二人は早速、とある冒険者向きの店に足を運んだ。ある程度の普段着も纏めて買えるという点が決め手だ。

 その店は、流石はキャサリンさんがオススメするだけあって、品揃え豊富、品質良質、機能的で実用的、されど見た目も忘れずという期待を裏切らない良店だった。

 ただ、そこには……

 

「あら~ん、いらっしゃい? 可愛い子達ねぇん。来てくれて、おねぇさん嬉しいぃわぁ~、た~ぷりサービスしちゃうわよぉ~ん?」

 

 化け物がいた。身長二メートル強、全身に筋肉という天然の鎧を纏い、劇画かと思う程濃ゆい顔、禿頭の四ヶ所から長い髪が人房ずつ生えており、頭の天辺で複雑に結われている。まるで天に昇る龍の如き頭頂から真っ直ぐに逆巻きながら伸びた髪の先端には、可愛らしくピンクのリボンが結ばれていた。

 動く度に全身の筋肉がピクピクと動きギシミシと音を立て、両手を頬の隣で組み、終始くねくねと動いている。服装は……いや、言うべきではないだろう。少なくとも、ゴン太の腕と足、そして腹筋が丸見えの服装とだけ言っておこう。

 

 ユエとシアは硬直する。シアは既に意識が飛びかけていて、ユエは奈落の魔物以上に思える化物の出現に覚悟を決めた目をしている。

「あらあらぁ~ん? どうしちゃったの二人共? 可愛い子がそんな顔してちゃだめよぉ~ん。ほら、笑って笑って?」

 どうかしているのはお前の方だ、笑えないのはお前のせいだ! と盛大にツッコミたいところだったが、ユエとシアは何とか堪える。人類最高レベルのポテンシャルを持つ二人だが、この化物には勝てる気がしなかった。

 しかし、何というか物凄い笑顔で体をくねらせながら接近してくる化物に、つい堪えきれずユエは呟いてしまった。

「……人間?」

 その瞬間、化物が怒りの咆哮を上げた。

 

「だぁ~れが、伝説級の魔物すら裸足で逃げ出す、見ただけで正気度がゼロを通り越してマイナスに突入するような化物だゴラァァアア!!」

 

「ご、ごめんなさい……」

 ユエがふるふると震え涙目になりながら後退る。シアは、へたり込み……少し下半身が冷たくなってしまった。ユエが、咄嗟に謝罪すると化物は再び笑顔? を取り戻し接客に勤しむ。見事な切り替えだった。

「いいのよ~ん。それでぇ? 今日は、どんな商品をお求めかしらぁ~ん?」

 シアは未だへたり込んだままなので、ユエが覚悟を決めてシアの衣服を探しに来た旨を伝える。シアはもう帰りたいのか、ユエの服の裾を掴みふるふると首を振っているが、化物は「任せてぇ~ん」と言うやいなやシアを担いで店の奥へと入っていってしまった。その時のシアの目は、まるで食肉用に売られていく豚さんの様だった。

 

 結論から言うと、化物改め店長のクリスタベルさんの見立ては見事の一言だった。店の奥へ連れて行ったのも、シアが粗相をした事に気がつき、着替える場所を提供する為という何とも有り難い気遣いだった。

 ユエとシアは、クリスタベル店長にお礼を言い店を出た。その頃には、店長の笑顔も愛嬌があると思える様になっていたのは、彼女? の人徳故だろう。

「いや~、最初はどうなる事かと思いましたけど、意外にいい人でしたね。店長さん」

「ん……人は見た目によらない」

「ですね~」

 そんな風に雑談しながら、次は道具屋に回る事にした二人。しかし、唯でさえ目立つ二人だ。すんなりとは行かず、気がつけば数十人の男達に囲まれていた。冒険者風の男が大半だが、中にはどこかの店のエプロンをしている男もいる。

 その内の一人が前に進み出た。ユエは覚えていないがこの男、実はハジメ達がキャサリンと話している時冒険者ギルドにいた男だ。

「ユエちゃんとシアちゃんで名前あってるよな?」

「? ……合ってる」

 何の用だと訝しそうに目を細めるユエ。シアは、亜人族であるにもかかわらず"ちゃん"付けで呼ばれた事に驚いた表情をする。

 ユエの返答を聞くとその男は、後ろを振り返り他の男連中に頷くと覚悟を決めた目でユエを見つめた。他の男連中も前に進み出て、ユエかシアの前に出る。そして……

 

「「「「「「ユエちゃん、俺と付き合ってください!!」」」」」」

「「「「「「シアちゃん! 俺の奴隷になれ!!」」」」」」

 

 つまりまぁ、そういう事である。ユエとシアで口説き文句が異なるのはシアが亜人だからだろう。奴隷の譲渡は主人の許可が必要だが、昨日の宿でのやり取りでシアとソウゴ達の仲が非常に近しい事が周知されており、まずシアから落とせばソウゴも説得しやすいだろう……とでも思ったのかもしれない。

 因みに、宿での事は色々インパクトが強かったせいか、奴隷が主人に逆らうという通常の奴隷契約では有り得ない事態についてはスルーされている様だ。でなければ、早々にシアが実は奴隷ではないとバレている筈である。契約によっては拘束力を弱くする事も出来るが、そんな事をする者はいないからだ。

 で、告白を受けたユエとシアはというと……

 

 

「……シア、道具屋はこっち」

「あ、はい。一軒で全部揃うといいですね」

 

 

 何事も無かった様に歩みを再開した。

「ちょっ、ちょっと待ってくれ! 返事は!? 返事を聞かせてく——」

「断る」

「お断りします」

「ぐぅ……、即答……だと」

 

 正に眼中にないという態度に男は呻き、何人かは膝を折って四つん這い状態に崩れ落ちた。しかし、諦めが悪い奴はどこにでもいる。まして、ユエとシアの美貌は他から隔絶したレベルだ。多少暴走するのも仕方ないといえば仕方ないかもしれない。

「なら、なら力づくでも俺のものにしてやるぅ!」

 暴走男の雄叫びに、他の連中の目もギンッと光を宿す。二人を逃さない様に取り囲み、ジリジリと迫っていく。

 そして遂に、最初に声を掛けてきた男が、雄叫びを上げながらユエに飛びかかった。日本人が彼を見たらこう叫ぶに違いない。「あっ、ルパ○ダイブ!」と。

 ユエは冷めた目付きで一言呟く。

 

「"凍柩"」

 

 直後、男が首だけを残して氷の柩に閉じ込められ、重力に引かれて落下した。「グペッ!?」と情けない悲鳴を上げて地面に転がるル○ンダイブの男。

 周囲の男連中は、水系上級魔術に分類される氷の柩を一言で発動したユエに困惑と驚愕の表情を向けていた。ヒソヒソと「事前に呪文を唱えていた」とか「魔法陣は服の下にでも隠しているに違いない」とか勝手に解釈してくれている。

 ユエは、ツカツカと氷の柩に包まれる男のもとへ歩み寄った。周囲には、ユエの実力に驚愕の表情を見せながらも、「我こそ第二の○パンなり!」と言わんばかり身構えている男連中がいる。なのでユエは、見せしめをする事にした。

 ユエが手を翳すと男を包む氷が少しずつ溶けていく。それに解放してもらえるのかと表情を緩める男。さらに熱っぽい瞳でユエを見つめる。

「ユ、ユエちゃん。いきなりすまねぇ! だが、俺は本気で君の事が……」

 未だ氷に包まれながら男は更に思いを告げようとするが、その言葉が途中で止まる。何故なら、溶かされていく氷がごく一部だけだと気がついたからだ。それは……

「あ、あの、ユエちゃん? どうして、その、そんな……股間の部分だけ?」

 そう、ユエが溶かしたのは男の股間部分の氷だけだ。他は完全に男を拘束している。嫌な予感が全身を襲い、男が冷や汗を浮かべながら「まさか、ウソだよね? そうだよね? ね?」という表情でユエを見つめる。

 そんな男に、ユエは僅かに口元を歪めると、

「……狙い撃つ」

 そして、風の礫が連続で男の股間に叩き込まれた。

 

 

 ───アッーーー!!

 ───もうやめてぇー!

 ───おかぁちゃーん!

 

 

 男の悲鳴が昼前の街路に響き渡る。マ○オがコインを取得した時の様な効果音を響かせながら(本当の音は生々しいので、懐かしき○リオをご想像)執拗に狙い撃ちされる男の股間。きっと中身は、デン○シーロールを受けたボクサーの様に翻弄されている事だろう。

 

 周囲の男は、囲んでいた連中も、関係ない野次馬も、近くの露店の店主も関係なく崩れ落ちて自分の股間を両手で隠した。

 

 

 やがて永遠に続くかと思われた集中砲火は、男の意識の喪失と同時に終わりを告げた。一撃で意識を失わせず、しかし、確実にダメージを蓄積させる風の魔術。まさに神業である。ユエは人差し指の先をフッと吹き払い、置き土産に言葉を残した。

「……漢女(おとめ)になるがいい」

 この日一人の男が死に、第二のクリスタベル、後のマリアベルちゃんが生まれた。彼はクリスタベル店長の下で修行を積み、二号店の店長を任され、その確かな見立てで名を上げるのだが……それはまた別のお話。

 ユエに"股間スマッシャー"という二つ名が付き、後に冒険者ギルドを通して王都にまで名が轟き男性冒険者を震え上がらせるのだが、それもまた別の話だ。

 

 ユエとシアは、畏怖の視線を向けてくる男達の視線をさらっと無視して買い物の続きに向かった。道中、女の子達が「ユエお姉様……」とか呟いて熱い視線を向けていた気がするがそれも無視して買い物に向かった。

 

 

 粗方買い物を終わらせてユエとシアが宿に戻ると、ソウゴも丁度作業を終えたところのようだった。

 部屋に入って来た二人を見て言葉を掛けようとしたソウゴだったが、シアの姿に思わず眉を顰める。

 

「えへへ~、どうですかソウゴさん。ちょっとは冒険者らしくなりましたか?」

 

 そう言ってシアはくるりとターンを決めた。その際に丈の短い(・・・・)スカートがふわりと危険な感じで捲れ上がり、お臍丸出しに谷間強調の上着がシアの巨乳によってぷるるるんと震える。

 正直な話、露出度合いについては殆ど変わっていなかった。分かる変化と言えば、サンダルだった足元が白いロングブーツに変わっている事ぐらいか。それでも足首から上は編み上げ状になっているので、やはりあまり変わらない。

「……一体、何がどう変わったんだ。私には相変わらず露出過多の破廉恥な恰好にしか見えんのだが……」

「んまっ! ソウゴさんこそ何を言っているんですか。よく見て下さい。このスカート、実はホットパンツになっていてパンチラを防いでくれるんですよ?」

 そう言ってちょっと恥じらいながらも、そっとスカート持ち上げて見せるシア。確かに中は白いホットパンツになっており、生地も随分と丈夫そうだ。聞けば水着の様な上着も、所謂ビキニアーマー的な防具兼衣服だそうで、心臓部分をしっかり保護してくれるらしい。それでも可愛らしいお臍が丸見えの腹部とか、魅惑的な太腿とか、守るべき場所が露出しているのどういう意図かとソウゴが視線で問えば、

「……ん。シアが、他の服だと窮屈で動きが鈍るって言うから」

 とユエが事情を補足した。どうやらどこまで意味があるか分からない衣服の防御力を期待するよりも、それにより身体能力が鈍る事を避ける様にしたらしい。結局、露出過多な兎人族の民族衣装とあまり変わらない、されどオシャレ度と一部の防御力だけ跳ね上がった衣装に、ユエお手製の外套を羽織るというスタイルに落ち着いた様だ。本人がそれで満足ならそれでいいかと、ソウゴはもう気にしない事にした。

「まぁ目的を果たせたならそれでいい。そういえば町中が騒がしそうだったが、何かあったか?」

 頬を赤らめながらしゃらららんと新衣装を見せるシアを華麗にスルーして話題を転換するソウゴ。どうやら、先の騒動を感知していた様である。シアがあざといアピールをスルーされた事にちょっとしょげているのを尻目にユエが答える。

 

「……問題無い」

「あ~、うん、そうですね。問題ないですよ」

 

 服飾店の店長が化け物じみていたり、一人の男が天に召されたりしたが概ね何もなかったと流す二人。そんな二人にソウゴは少し訝しそうな表情をするも、まぁいいかと肩を竦めた。

「必要なものは全部揃ったか?」

「……ん、大丈夫」

「ですね。食料も沢山揃えましたから大丈夫です。にしても宝物庫ってホント便利ですよね~」

 ソウゴからユエに与えられた宝物庫の指輪を羨ましそうに見やるシア。それはさておき、とソウゴは視線を集める。

「さて、シア。貴様にこれを与える」

 そう言ってソウゴはシアに直径四十センチ長さ五十センチ程の円柱状の物体を渡した。銀色をした円柱には側面に取っ手の様な物が取り付けられている。

 ソウゴが差し出すそれを反射的に受け取ったシアは、あまりの重さに思わず蹈鞴を踏みそうになり慌てて身体強化の出力を上げた。

「な、なんですか、これ? 物凄く重いんですけど……」

「貴様用の新しい大槌だからな。重い方が良いだろう」

「へっ、これが……ですか?」

 シアの疑問は尤もだ。円柱部分は、槌に見えなくもないが、それにしては取っ手が短すぎる。何ともアンバランスだ。

「あぁ。その状態は待機状態だ、取り敢えず魔力流してみろ」

「えっと、こうですか? ……ッ!?」

 

 言われた通り、槌擬きに魔力を流すと、カシュン! カシュン! という機械音を響かせながら取っ手が伸長し、槌として振るうのに丁度いい長さになった。

 

 この大槌型アーティファクト"ドリュッケン"は、幾つかのギミックを搭載したシア用の武器だ。通常は柄を収縮させて、柄をグリップにした砲撃モードになっており、そのままスラッグ弾を始めとした銃砲撃を行う事が出来る。そして魔力を特定の場所に流す事で変形し、シアに合わせた戦槌モードへと変形するのである。それ以外にも様々なギミックが内蔵されている。

 

 ソウゴの済ませておきたい事とは、この武器の作成だったのだ。午前中、ユエ達が買い物に行っている間に、改めてシア用の武器を作っていたのである。

「今の貴様の実力を考えるとこれくらいが限度だが、腕が上がれば随時改良していくつもりだ。これから何があるか分からないからな。私とユエが鍛えたとは言えまだ半年にも満たん。つまりまだまだ未熟者だ。その武器はそんな貴様の力を最大限生かせる様に考えて作ったんだ。使い熟してくれよ? 後は……これも持っておけ」

 そう言ってソウゴはシアにもう一つアーティファクトを投げ渡す。

「おっとっと。え~と、これは……って、これ宝物庫の指輪じゃないですか!?」

「欲しがっていたのは貴様だろう?」

 

 そう、ソウゴがシアに渡したのは先程シアが羨ましがっていた宝物庫の指輪だったのである。

 

「一体、何処で手に入れたんですか!?」

「如何にも欲しそうな目をしていたからな。その程度の代物、幾らでも複製可能だ」

 大切にしろよ? とソウゴが言うと、シアは指輪を填め、嬉しそうにドリュッケンを胸に抱く。あまりに嬉しそうなので、ちょっと不機嫌だったユエも仕方ないという様に肩を竦めた。ソウゴは苦笑いだ。自分がした事とは言え、ただ必要な物を渡しただけなのだが、そこまで喜ぶものかと思ったのだ。

 はしゃぐシアを連れながら、宿のチェックアウトを済ませる。未だ、宿の女の子がソウゴ達を見ると頬を染めるが無視だ。

 外に出ると太陽は天頂近くに登り燦々と暖かな光を降らせている。それに手を翳しながらソウゴは大きく息を吸った。振り返ると、ユエとシアが頬を緩めてソウゴを見つめている。

 ソウゴは二人に頷くと、スっと前に歩みを進めた。ユエとシアも追従する。

 

 旅の再開だ。

 

 




今後、こんな感じで時偶ゲストが出ます。
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