時透くんと煉獄さん家の杏子さん   作:★kinaco★

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2話 迷子になりました…

「時透が我が家に来るのはいつぶりだろうか?」

 

「3年ほど前の集まり以来じゃないですか?

杏子が赤ちゃんの時はよく遊びに来てくれてたんですけど、何だか急に忙しくなったとかで…」

 

久しぶりの戦友の訪問に、母上も父上もどこか嬉しそうだ。

 

私は濡れた着物を着換え、頭を手ぬぐいで拭きながら、さっきの事を時透さんにいつ謝ろうか苦悩していた…。

 

「杏子〜悪いけどこの着替えを時透君の所まで持っていってくれる?」

 

こ!これはチャンスだ!

 

「はい!母上!喜んで!」

 

「喜んでって何!?」

 

そのまま母の手から着替えを奪って走った。

 

 

脱衣所は曇りガラスの為、中の様子は分からない。

けれど、中から物音が微かに、、、

お風呂からは上がってる様子。

 

軽く深呼吸する、、そして…

 

「あ、あの、、着物をお持ちしました。」

 

ガラス越しに声をかける。

 

そういえば…この人と話すのはいつ以来だろうか?

私の記憶の中では、幼い頃少し…

 

そんな事を考えていると、ガラス戸が少し開いた。

 

そして、手だけが…

 

その手に着換えを渡す。

 

そして、向こう側に居るその人に声をかける。

 

「あの、、さっきの事… 父上達に言わないのですか?」

 

「さっきの事って?」

 

何事も無かったかのように答える彼に少し拍子抜けする。

そこは見た目と違って大人なようだ…。

 

「あ、貴方に失礼な態度をとった上に… 大嫌いなどと言ったことです…」

 

 

「言わないよ。」

 

よ、良かった!ホッと胸を撫で下ろす。

 

よし、じゃあ次は謝罪を…

 

言おうとした瞬間、、

 

「そんなしょうもない事言わないよ。大人なんだから」

 

少し呆れたような物言いだ。

 

「しょ!しょうもない!?」

 

「しょうもない以外の何があるのさ。

君ももう15だろ?いちいちそんな事気にするなよ。」

 

いちいち!?

 

「そっ!そもそも、貴方が可愛くないなどと連呼するからでしょうに!」

 

「だって事実だろ?急に雨の中怒り出す娘を可愛いと思えっていうの?」

 

「それでも!そんな言い方はないでしょう!?だいたい貴方様は…!」

 

私は、彼にあれやこれやと不満をぶつけた。

 

が、言い終わっても返事が無い。

 

「ちょっ!ちょっと!聞いてるんですか!?」

 

すると…

 

「まだ何か言ってたの?本当に子供だね。はぁ…」

 

 

冷めた言い方な上に最後の溜息が余計に腹が立つ!

そして顔が見えなくても、そのうんざりした表情が容易に想像出来た。

 

ほんとに!ほんとに!この人は!

 

「これ以上!子供扱い!しないで頂きたい!!」

 

ガラッ!!!

 

あっ

 

頭に血が登りすぎて、脱衣所の扉を思わず開けてしまう。

 

そこには上半身裸の時透さんが立っていた…

 

本日2回目の後の祭り。最後の祭りは盛大だった。

 

相変わらず、冷めて動じない顔でこちらを見下ろす。

 

私も冷めた目でそれを眺める。

 

男家系で育っているので、男性の裸を見ても案外動じない自分。

 

何だろうか、この状況は…

 

とりあえず、一旦背中を向ける。

 

そして、もう一度時透さんの方に向き直り…

 

「では、ごゆっくり。」

 

ガラス戸を閉めてその場を離れた。

 

私は何も見なかった。うん、そういうことにしよう。

 

って!違う違う!そうじゃなくて!

 

きょ、今日のこと、あ、謝らなければ!

 

が、振り向くとその人は脱衣所からいなくなっていた…。

 

は、早い!さすが元柱…

くっ、、!

 

結局… 謝れず…。

 

本当に、この素直じゃない性格ときたら…

 

はぁ…。

 

居間に戻ると、時透さんは父上と話をしていた。

 

むむ、父上には少し笑顔を見せている模様。

 

そして、母上が

「久しぶりだし、泊まって行ったら良いよ!時透くん!」

 

「じゃあ、お言葉に甘えて。」

 

母上にも素直な態度…。

 

さっきの呆れたような態度はどこへやら。

その態度の差が何だか、、、無償に腹が立つような…

 

すると父が、

「そういえば、時透が昔住んでいた山は花菖蒲 の名所だと聞いたが、そうなのか?」

 

花菖蒲?

 

「あぁ、有名ですよ。少し登った所に、、

最近山道も整備されて、その花見たさに訪れる人が増えてるとか」

 

そんなに沢山!?

確か今が時期だったはず!

それはさぞ綺麗だろうに、、そんな沢山の花菖蒲、この辺りは都会であまり見る事も出来ない。

想像しただけで… あぁ素敵。

 

さっきまでの殺伐とした気持ちが落ち着いていく。

 

「実は明日、炭子と芝居を見に行こうかと思っているのだが…」

 

お芝居!?やったぁ!

 

「私も行きたいです!」

 

「うむ、それが、なかなか人気がある芝居で予約が二人分しか出来なかったという訳だ!」

 

えっ?それって…

 

「その芝居小屋とさっき言ってた場所が近くなので、芝居が終わるまで杏子をその名所に案内してやってくれないだろうか?」

 

 

そ!それって!

 

「子守りですか?」

 

時透さんに言われてしまった!

こ、この歳になって面倒を見られるとは…!

 

「まぁ、そういう事だ!

直前まで待って空きが出なければ、杏子と炭子で芝居に行って貰うつもりだったが、時透が居てくれるなら丁度良い!

杏子も芝居より花の方が好きだろう!」

 

この人と二人で花を!?

いやだ!また喧嘩になるのが目に見えているし!

 

「お嬢さんが嫌じゃなければ、僕は別にどっちでも」

 

はい!嫌です!!そうはっきり言ってしまいたい!!

 

そ、そうだ!

 

「わ、私ならお祖父様達と一緒にお留守番するので大丈夫ですよ!おかまいなく!」

 

「それが、明日は千寿郎もお祖父様も用があって出掛けると言っていてな。おなごが一人で留守番など物騒だろ。」

 

こ、この人と一緒に居る位なら!物騒でも一人にしてくださいな!父上!

 

くっ!ここは… はっきりと言わなければ…

私は行きたくないと!はっきり!さぁ、思い切って!

 

「……わ、私は…行きとおありません…。」

 

よぉぉぉし!言った!よく言ったぞ私!!声小さいけど言った!自分で自分を褒めたい!

 

すると背後から…

「い、今、お芝居と聞こえましたが?杏寿郎さん…」

 

ん?

 

振り返るとそこに母上が立っていた。

 

はっ!

 

あ!あの目は…!

 

ものっっっ凄い行きたそうな目を!

キラキラした眼差しを!!!

 

「お芝居なんて!お芝居なんて!いつぶりですか!?」

どうやら、母を驚かせようと内緒にしていたらしい。

髪に刺している簪にそっと母が触れる。

確か、昔父上に初めて貰った贈り物だとか…

母上は毎日その簪を身につけているのだ。 

 

母上のこんなワクワクした顔見てしまったら…。

しかも、そんな母上を父はことさら愛おしそうに見つめるのだ。

結婚してだいぶ経つというのに…

 

 

はぁ…。

 

「わ、わかりましたよ!行きます!行けば良いのでしょう!?」

 

完敗だ…。

 

「安心しなさい。時透は良い子だから」

 

そうやって優しい顔で笑いながら、私の頭を優しく撫でる。

 

うぅ…。

 

「良い子って、、30前の男に何言ってるんですか。」

 

冷めた視線を父に投げる時透さん。

 

「すまないな!昔から見た目が身長位しか変わらんものだから、ついな!」

 

そう言って、笑う父上を私は複雑な気持ちで眺めていた…。

 

 

 

そして、次の日… やってきました!

芝居小屋の近くまで!

 

ここに来るまで目立つ目立つ!

父上は声も見た目も派手なので特に目立つ!

母上は凄いな、、、いつもそんな父上の側を離れず、嬉しそうに見上げているのだから。

 

父も見た目について道行く人に何か言われても

「海老フライを食べ過ぎたからかもしれないな!」と返すのだ。

そう言われてしまえば、相手も何だか笑顔になってその場は妙に和むのだ。

父上のように、そうやって明るく返せたらなぁ…。

 

もう少し、大人になれば出来るのだろうか。そんな風に…

 

以前は見た目なんて、何も気にしなかったのに…

 

あの時からだ… あれから自分の事が、あまり好きに慣れないのかもしれない…

 

だ、だめだ!嫌な事を思い出してしまった…

 

はぁ…

 

そして、隣を歩くその人に何となく視線を移す。

 

 

昨日、雨に降られてしまったので、今日は千寿郎兄さまに借りた洋装に身を包んでいる。

白のスタンドカラーシャツに長ズボンで吊りバンドをしている。

髪も一つに結んでおり、昨日のボヤッとした着物姿から打って変わって今風の出立ち。

見た目だけならなかなか悪くない。

 

我が家は皆着物なので、そんな、彼の今風な服装がより一層際立つ。

 

相変わらず、何を考えているのかさっぱりだけど…

 

でも、何やら今日はいつもと違う視線を周囲から感じる訳で…

 

ん?

 

これは…

 

はっ!分かった!女性だ!

 

時透さん、顔だけは綺麗だから(失礼。)女性がうっとりした熱い視線を送ってくるのだ!

おまけにこのクールな雰囲気…。

中身を知らない人達からすればそう見えるのか!

 

改めてその人を見上げる。

 

「何?」

 

こちらも見ずに視線に気づくとは… さすが元柱…。

 

しかし、何でこうも私にはいちいち面倒そうなのだろうか。

まぁ、昨日あれだけやかましく色々言ってしまったしな…

 

「な、何でもありませんよ!

道行く女性達が貴方に熱い視線を送っているの、気づいてるんですか?」

 

すると、軽く周囲を見回し…

 

「それがどうしたのさ。そんなのどうでも良いよ。」

 

ど!どうでも良い!?

これだけうら若き女性達の視線を集めておいて!?

世の男性が聞いたらさぞ羨ましがられるだろうに…

 

すると、前を歩く母上達が何やら嬉しげにこちらをみる。

そして父上が衝撃的な事を言う…

 

「二人が並んでいると、兄と妹のようでとても微笑ましいな!」

 

 

んなっ!!なんと!?

 

前から思っていたが、父上と母上は天然だ…。

 

 

「煉獄さん、自分の妻と一歳しか変わらない男を捕まえて、兄とか何言ってるんですか…」

 

ほら、さすがの時透さんも引いておられますよ…。

 

 

そして、とうとう… その時は来てしまった…。

 

「じゃあ、ここで暫し解散としよう。

夜は外で食べるから、何か食べたい物を考えておきなさい!時透もな!

じゃあ、杏子を頼んだぞ!」

 

そう言うと、父上と母上は腕を組んで人混みに消えて行った。

相変わらず仲がいいな。

 

 

とうとう二人になってしまった…

 

 

っという訳で…。

とりあえず、無言でひたすら歩く!

黙って歩く!

暫く歩くと、その花菖蒲へ続くという山道が見えてきた。

道は整備されてるだけあって草履でも問題なく歩ける!

芝居が終わるまでかなりある。

それまではどうにか… どうにか!穏便に過ごさないと!

なので、黙々と歩く。

それにしても、花見たさにこんなに人が山道を歩いているとは!

余程綺麗なのだろう。

楽しみだな。

少しワクワクする。

 

 

すると

何やら頭の上から視線が…

 

はっ!

 

「な、何かご用ですか?」

 

時透さんが何やらじーっとこちらを見ている!

 

「今日は静かだね。」

 

そ、それは一体どういう!

 

「悪かったですね!いつも煩くて!」 

 

はっ!また、可愛くない言い方を…

 

「誰もそんなことを言ってないだろ。何でいつもそんなに喧嘩腰なの?自分で言ってて疲れない?」

 

くっ!腹が立つけど、正論…。

本当に、、、この性格ときたら可愛げがない…。

 

暫くして、、

「15年も経つと変わるもんだね、、」

不意に時透さんがそう言った。

 

そ、それはどういう意味なのだろうか!?

この人の事だ、きっと…

 

「どうせまた、可愛くないと言いたいのでしょう」

 

「………。」

 

やっぱり、黙るという事はそういうことなのだろう!

聞かなければ良かった…

どうせ、私は可愛げがないおなごですよ…

見た目だって…

 

どうせ…

 

自分でもわかってる… そんなこと… 

 

嫌というほどに…!

 

 

 

 

「…私、向こうに友人を見つけたので少し挨拶して参ります!」

 

そう言って、来た道と違う方向へ足を向ける。

 

 

時透さんが何か言いかけたけど、構わず早足で駆け抜ける。

人混みをかき分けながら一心不乱に…

 

いつの間にか道からも外れ…

 

気づけば、よく分からない開けた場所に出た。

 

辺り一面、ただただ草がボーボーだ…

 

そばにある木の下に腰を下ろす。

 

はぁ…私は、、一体何をしているのだろうか…。

 

そして、足袋から血が滲んでるのに気づく。

鼻緒擦れだ… 

母上が去年買ってくれたばかりの草履…

いつの間にか小さくなってたんだな…。

気に入っていたのに…

 

心が追いついてないのに、、身体だけはどんどん成長しているのか……

 

去年のあの出来事から、、、私は…

 

 

どれくらい時間が経っただろうか。

 

ひたすらボーッと空を見上げていた。

 

時透さんのように…

 

これはこれで落ち着くな…

 

これくらいにしてそろそろ戻らないと、、いくらあの人でも心配する。

 

さぁ、来た道を戻ろう。

 

おいしょっ!

 

え〜っと…

 

ん?

 

あれ?

 

私は…… どっちから来たのだろうか?

 

 

これは……迷子だ。

 

まさか!この歳になっても迷子になるとは!

不覚…。

 

と!とりあえず、道を探さないと!

 

しかし、探せば探すほど道に迷うもので…

 

何やら、どんどん草木が生い茂ってきている気が…

 

下手に動いた事を後悔する…。

 

どれくらい歩き回っただろうか、足はどんどん痛みを増し、歩くのも困難になってくる。

ど、どうしよう… このまま、、山から出られなかったら…

 

時透さんは私を探してくれてるだろうか…

 

父に私を頼まれたのだから、探してくれてるとは思う…けど…。

迷惑をかけてしまった…

本当に私は… 彼に口ではあーだこーだと言っておきながら、いざとなるとこうやって…

あれだけつっかかっておいて、困ったら頼りにする…

自分のそんな都合の良い子供な所が嫌いだ…心底…

何だか情けなくて涙が出てくる…

本当に、自分は何を…

次は… 時透さんにももう少し素直になろう…

 

 

その時、そばの木から何か黒い塊が降ってきた!

 

ひぃっ!く、熊!?

 

「いた!!!」

 

そこに立っていたのは必死の形相の時透さん!!

 

やっぱり… 探して…くれてた…

 

「ほんとに… 何を… 」

時透さんが息を切らしながら言葉を振り絞る。

 

服が、、、必死で探してくれたのだろう。

白かったシャツは所々汚れていた…

 

 

そして、息が整ったのか聞いたことないほど大きな声で…

「山道外れてどういうつもりだよ!我儘もいい加減にしろよ!!」

 

ごもっともです… その通りです… うぅ…

 

「ご、ごめんなさ〜い… ひっ、ひっく…う、うわーん!!!」

 

泣いて泣いて…

目の前の時透さんが引くくらい泣いた…

自分が情けなくて情けなくて…

そんな私を必死に探してくれたこの人にも泣けてきた…

 

 

「…とりあえず、その足じゃもう歩けないだろ。

時間も無いし… そろそろ芝居も終わる時間だ。」

 

そう言って私をおんぶしてくれた…。

 

 

そしてゆっくり歩いていく。

 

ただただ黙々と…。

 

気まずい… 私が悪いから仕方ないのだけど…

 

目の前の綺麗な髪の毛には所々葉っぱが絡まっていた。本当に必死で探してくれてたんだな… そんな事をぼんやり考えていた。

 

 

すると、、、

 

彼の足が急に止まる。

 

ここは…

 

「前に言ってた彼岸花、この辺りだよ。9月頃にならないと咲かないけど」

 

そこは特に何もない、ただ草が生い茂っている場所。

 

 

「彼岸花…」

 

 

その場所を見つめる。

 

 

「あぁ、そういえば、君は彼岸花が嫌いだったね。」

 

 

「違う…」

 

思わず、声が出ていた。

 

「何か言っ」

 

「違うんです!!」

 

気づくと時透さんの言葉を遮っていた。

 

「私が、、、私が、あの時嫌いと言ったのは… 

花の方では無く……髪の… 髪の事です…この父譲りの髪も瞳も…」

 

 

そして、その人の背中に向かって、自分の見た目の事… 街に出た時の周囲の目… ごちゃごちゃになった思いを吐露していた…。

 

聞いているのか、いないのか…

顔が見えないから分からないけど…

時透さんは黙っていた。

 

そして、話は煉獄家に伝わる風習の話になる。

 

煉獄家では[[rb:観篝 > かんかがり]]という代々受け継がれて来た風習がある。

この儀式により、煉獄家の子の髪の色は皆、焔色になる。

 

「時代遅れな風習です… 」

 

言い終わると急に疲れてきた…。

 

山はどんどん日が暮れ、静寂に包まれ始める。

余計と気分も暗くなる…

 

 

「この話、煉獄さんは?」

不意に前から声がした。

 

見た目に悩んでいるなんて、そんなこと…

 

「言える訳無いですよ、、だって…」

 

幼い頃から自分にそっくりな私をことさら可愛がってくれていた父上…。

悲しむ顔が目に浮かぶのだから…

 

そして、、

 

「私は… 貴方が羨ましい、、貴方のような髪色が良かった。

綺麗な黒髪、、光りの加減で青み掛かっているように見える時もあり、とても綺麗… 私なんかよりも、、ずっと…」

 

何で… こんな話をこの人にしてるのだろうか。

 

こんな事を言われても…困ってしまうだろうに…。

 

 

すると、

「羨ましい、、僕が?」

 

そう言うと… 暫く何かを考え…

 

私をその場に降ろした。

 

 

そして私にその涼しげな視線を向ける。

 

「見た目は… まぁ、そうなのかもしれない。

 

でも、実際の僕は、そんな良いものじゃない。

家族は早くに死んでるし、下手すれば僕はその家族の記憶すら無くしてたんだから。

それでも、君は羨ましいと思うの?」

 

 

鬼殺隊の人達の生い立ちはみな壮絶だ。

それは勿論知っている。

目の前のこの人も、親を早くに亡くし、唯一身内のお兄さんも…

だけど、なぜ今その話を…。

 

やっぱり、この人は意地悪なのだろうか。

 

 

「死んでしまった者にはもう会えないし、仕方が無いけど。

でも、、その人達が今まで僕にかけてくれた言葉も思いも… 全て僕の心に生きている。

記憶が戻るまでは分からなかったけど…

それは僕が生きて行く上でとても大切なものだよ。」

 

 

時透さんは少し黙って、そして続けた。

 

「さっき言ってた煉獄家の風習も、、君からすれば時代遅れかもしれない。

でも、今日この時まで君のご先祖達が色んな願いを込めて代々受け継いで来た思いなんじゃないの? 

その未来に込めた思いが、結果として暖かな焔色に染め上げる。

それを恥ずかしいと思わなくて良い、そんなの言いたい奴には言わせておけばいい。」

 

 

この人に、そんな事を言われるとは…

 

受け継がれて来た思い…。父上と母上の顔が浮かんだ…

 

何だか、泣きそうになる。

 

 

「それに、見た目なんて取るに足らないことさ。

僕も昆布頭と言われることもあるし。」

 

 

こ!昆布頭!?

この綺麗な髪の毛を!?

 

ふっ!

誰がこの人にそんなことを…

ついつい吹き出して笑ってしまった。

 

彼もそんな私を見て笑う。

 

 

そして、

 

 

「君は、僕なんかより、、よっぽど沢山の物をもっているよ。生まれた時から…」

 

時透さんの目が優しくなる。

 

「人はいつどうなるかなんて分からない。

そんな人達、5万と見てきた。

居なくなってから分かっても、もう遅い…」

 

そう話す彼の顔は、どこか寂しそう…

 

「でも、、それが今生きて目の前にあるなら、君はそれを大切にするべきだと僕は思う。」

 

この人はきっと色んな物を失ってきたんだろうな…。

 

「煉獄さんも、炭子も… 良い人だよ。」

 

時透さんはそうつぶやいた。

 

何だか… 無償に二人に会いたくなった…

ここ最近、我儘な態度で接していたと思う。

 

この人に話を聞いてもらって、何だか胸のモヤモヤが軽くなった気がする。

 

不思議だ… やっぱりこの人は不思議だ。

 

でも、一つ分かったことがある。

 

それは、父上の言う通り良い人だという事!

 

もう少し、この人の事を知りたいと思った。

 

年齢は離れているけれど、友達に… なれないだろうか?

そんな風に思うのは、いつぶりだろう?

純粋に仲良くなりたいと…

15の娘になっても幼子のように友達になりたいなど…

そんな自分にまさかまさかだ!

 

そして、

「そろそろ暗くなる。山を降り…」

彼が言い終わらないうちに、私はその人に駆け寄った。

そして、、、その人の手を思いっきり!ギュッと強く握った!

 

時透さんはびっくりしていた。

 

「なっ!急に何!?」

 

「私と、、お友達になってください!時透さん!」

 

「と、友達?こう見えて、、僕はもうおじさんなんだけど…」

 

でも、それでも、私は諦めない!

 

「かまいません!私は、貴方が良い!貴方と仲良くなりたいのです!」

 

「分かった!分かったから… そう顔を近づけるな!」

 

その反応があまりにおかしく、つい笑いがこみ上げる。

 

そんな私を、その澄んだ瞳が見つめる。

 

「まったく、、手を握る力だけは赤子の時のままだよ…」

 

そう言うと空色の瞳が、一瞬暖かい眼差しになったような…

気のせいだろうか?

 

知れば知るほど面白い人。

 

また近々遊びに来てくれたらいいな…

 

そう思いながら、一緒に手を繋いで山を降りていった。

 

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