時透くんと煉獄さん家の杏子さん   作:★kinaco★

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5話 その顔にお化粧を。

あの駆け落ち事件から(ただ街をウロウロしただけ…)一ヶ月は経つだろうか。

 

あの日、私は衝撃的な出来事に遭遇する…

 

彼とお茶してる時、いつも冷めきっているあの人が…… あの人が…… 笑ったのだ…

軽く笑う程度は今までもあったけど、、

あんな心から笑っている姿は初めてなのだ!

もはやこれは事件!事件ですよ!

 

あのポーカーフェイスでいつも目で凍て殺す勢いの時透さんが!!

いつも私の事を内心『しょうもない事ばかり…』と思っているであろう時透さんが!!

あんな満面の笑顔を見せるだなんて…

そんなこと…

 

勿論、ただ笑っただけで私とてこんなには驚きはしない!

問題は、その時の笑顔が…笑顔が…

とてつもなく愛らしかったのだ!!

それはもう!!

その辺の可憐で純情な乙女達が霞むほど、、

いや、霞むよりも存在すら掻き消されるレベルじゃなかろうか…

な、なんて恐ろしい人なのだろうか…

さすが元霞柱…。

下手すれば男すら落とせるのでは無いだろうか…

 

だから不意をついて私も大人っぽい表情をしてみたのだけれど…

時透さん、何だか固まってしまって…

気まずくて[[rb:咄嗟 > とっさ]]にいつもの自分に戻したのだ…

きっと、、、『何大人ぶってんだ。アホ臭い…』と思われたのだろう…

そりゃ!そーんな愛らしい笑顔を天然でやってのける人からすれば、さぞやお寒く見えたことでしょーに!

 

まぁ、自分に女らしさも色気のいの字も足りないのは理解してるので構わないのだけれど…

 

問題はその日から、そんな時透さんにどーしても、抑えられないある気持ちが芽生えいるという事だ!

 

そう、この一ヶ月!

ずっとずっと考えていたのだ。

 

あの可愛い顔に……

 

あぁ… もう抑えきれない…。

 

どうにかして……。

 

 

 

 

ガラッ

 

 

おっと!玄関の開く音が。

噂をすれば、張本人!

 

今日は久々に時透さんが遊びに来るのだ。

 

宇随のおじ様も来ているのでなかなか賑やか!

 

当の本人は父上達に挨拶もほどほどに安定の定位置、縁側へ、、、

そのタイミングで、すすっ…と背後から近づく…。

 

どう切り出せば、良いのだろう。

普通にお願いしても断られるのは目に見えている…

 

彼の後ろでウロウロしていると…

 

「何か用でも?」

 

面倒そうにこちらを見上げる。

 

おっと、今日も変わらず冷めた表情…

そして、私は思った。

この笑っていない時との差を!

こ、これはこれでなかなか…。

可愛い女の子を見るおじさんの心理はこんな感じだろうか…。

今まで男性を… ましてやこの時透さんをこんな目で見る日が来るとは!

まさかまさかだ!

 

まぁ、いつまでも眺めていては変に思われる!

ここは思い切ってはっきり伝えよう!

 

満面の笑みを彼に向ける

「時透さん!今日は私のお遊びに付き合って欲しいのですが!」

 

いきなり本題を言うと警戒されそうなので、内容は伏せる。

って!既にあからさまに嫌そうな顔を!

察知された!?

 

「嫌だ… 」

 

おまけに顔も背けられてしまった…。

 

「なっ!話くらい聞いてくれても良いではありませんか〜!!」

 

「嫌だ… 君のお願いはいつもしょうもない事ばかりだし」

 

「この前の駆け落ち事件のこと… 怒っているんですか?」

 

返事は無い。

 

くっ!ここで諦めてなるものか!

 

「私が、、、時透さんを騙す様な事したの、怒ってるんですか?」

 

そう言って、[[rb:屈 > かが]]んで彼の顔を覗き込む。

そして、無理やり目の前まで顔を近づける!

これで、無視出来まい!ふふ!

 

「うっ、、そ、そういうの本当に良いから…!離れてよ…」

 

なぜか分からないけど効果はあったようだ!

よし!これは使える!もうひと押し!

 

「私のお願いを聞いてくれるならばやめますが、、、聞いて貰えないとあらば…

仕方ありませんね… もっと近づく他ありません!ほら!」

 

少し意地悪い顔を彼に向ける。

 

「やり方がいちいち汚いよ」

 

そう言って、顔を伏せてしまった。

 

ふふっ、自分の願望を叶える為ならば手段など選んでいられないのだ!

 

すると、あからさまに大きな溜め息が聞こえた。

 

そして、ボソッと…小さな声で…

 

「分かったよ… 」

 

折れた… 時透さんが折れた!わーい!!

 

 

そして、、

「じゃ、じゃあ!ちょっと準備してくるので、待ってて下さいね!」

 

 

そんな私達の事を大人達が何か言ってるようだけど、、

ここからじゃ聞こえない。

それに今はそれどころじゃないので私は自分の部屋へ急いだ!

 

 

        ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

しかし、あれはどういう状況だ?

杏子があんなに男に寄っていくなんてそう無い事だが…

煉獄は何も思わんのかねぇ、あれ。

 

「おいおい、あの距離感は良いのか?親父殿〜」

 

お節介かもしれんが、一応教える。

 

「あぁ!杏子もすっかり懐いてしまってな!」

 

「本当に兄妹みたいで微笑ましいんですよ〜!」

 

おいおい、年頃の娘を持つ親として少しばかり能天気過ぎやしないか?

しかも、兄妹みたいで微笑ましい、、ねぇ…

 

「何だ宇随?気になる事でも?」

 

「お前達夫婦はあいつの見た目で忘れちまってるかもしれねぇが…

あいつも一応は29歳の男盛りだぞ?」

 

「まぁそうだが… 年齢も15も離れているし、さして心配する事もなかろう?」

 

煉獄は相変わらずだが、炭子は… 黙ってる所を見ると何か知ってそうだな。

 

「どうだかな、あぁいう奴に限っていきなり娘さんを下さい!とか言ってくるんだよ!」

 

「なっ!そ、そんなことは時透に限っては!」

 

「お前だって15歳で炭子妊娠させてる癖に何言ってんだ。」

 

「それはここでは言わないでくれ… 」

 

仕方ない。

 

「まぁ、ちょっくら様子、見てきてやるよ!」

 

 

 

     ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

部屋から道具を取りに行って戻ってくると。

 

宇随のおじ様が「何してるんだ?」と声をかけてきた。

 

「おじ様!

今、これを時透さんに見せようと取りに行っていた所なんです!」

 

そう!それは!

「甘露路姉さんとしのぶ姉さんのお二人からお誕生日に頂いたお化粧道具!

おしろいと紅など必要な物は全て揃っている女性の身だしなみの為に。と頂いたのです!」

 

「これはまた… ならば俺がド派手な美人にしてやろう!」

 

「本当ですか!?

宇随のおじ様は何でも出来るのですね!」

 

「とりあえず…炭子!!お前からだ!」

 

おぉ!確かに、母上のお化粧したお顔!見てみたい!

 

「えっ!?べ、別に私は良いですよ〜あまりお化粧興味ありませんし…。」

 

「まぁ、そう言うな!お前もたまには紅くらいさせ!」

 

「確かに見てみたいものだな!ちゃんとした化粧なんて祝言の時以来だろう?それに…」

 

もう次の父上の台詞は想像がつく。

 

「あの時の炭子は、、本当に綺麗だった!」

 

これはいつものやり取りなのだ。

 

「そ、そうかな…じゃあ、、少しだけ…」

 

何やら大人は大人で盛り上がっている。

ならば、こちらも!

 

 

 

「時透さん!今のうちにこちらへ…」

 

何やら警戒している時透さんの背中を押し家の奥へ奥へと連れて行く。

 

「ここです!私の部屋へ、、どうぞ入って下さい!」

 

「えっ!?」

 

あぁ!もう!

 

「ほら!早く入ってくださいな!」

 

煮え切らないその人の背中を押す!

 

時透さんも諦めたのか、大人しく部屋の真ん中に腰を降ろす。

 

そして、ここからが本題!

目の前のその人に視線を下ろす。

 

「私は、常々やりたいと思っていたことがあるのです。

それは、じゃーん!お化粧遊びです!」

 

そう!私は!時透さんにどうしてもお化粧がしたかったのだ!

この前、彼の笑顔を見たその日からどうしようもない程に…

 

「お友達は皆、お母様や姉妹でお化粧をし合って楽しそうなのです。

しかし、、我が家は見ての通りの男家系…

おまけに母上もあの通り、お化粧などに全く興味が無く、、

私は、、私は、、、!

ど〜しても!それがやりたいのです!」

 

この時点で既に彼の顔は無表情。いや、顔が…死んでいる…?

 

「時透さん……お願いです!

どうか、そのお顔におしろいを塗らせては貰えませんか??」

 

「やだよ」

即答だった。

 

「そこをなんとか〜」  

 

「絶対嫌だ!」

 

「そこを!そこをなんとか!この通り…」

 

返事は無い…

 

むむっ!ならば仕方ない… 最早手段は選んでいられない!宇随おじ様直伝のこれを… これを使うしか!

 

私は目の前のその人の手を握り!その空色の瞳を見つめる。それはもうジッと!

そして最後は、、、、こうだ!これでどうだろうか!!

 

時透さんが黙った。

 

いけるか?いけるか?

 

すると

「そんなお願いの仕方… 誰に教わったの?」

 

 

「宇随のおじ様です!

杏子なら、男の手を握りその瞳をジッと見つめ、微笑みさえすればどんな男も落ちると」

 

「あのおっさん… それ、意味分かってやってるの?」

 

今、一瞬おっさんと聞こえたような…

気のせいか?

「勿論分かってますよ!でも、時透さんなら笑ってくれるかなと思いまして」

 

そう言って、笑って誤魔化してみた。

すると、

「分かったよ!やれば良いんでしょ、、その代わり、これが最初で最後だから」

 

「やったぁ!!嬉しい嬉しい!

そうと決まれば残りのお化粧道具もおじ様から返して貰わないと!」

 

その時、後からボソッと

 

「僕も男なんだけど」

 

「えっ?何か言いましたか?」

 

「……何も無いよ。」

 

よし!これで準備は整った!

 

「では!早速お顔を拝借します!」

 

「好きにどうぞ。」

 

そっとその頬に触れる。

おぉ、やはり… 見た目通り、毛穴も無いふわふわスベスベなお肌だ!

一体何をすればこんな綺麗に…

後でお手入れを聞いてみよう。

 

まず、おしろいをこのきめ細かいお肌にはたいていく。

眉墨で眉をはっきりさせ、珊瑚色の頬紅を乗せてふっくら血色良く、そして目尻には鮮やかな朱色を入れて…

た、楽しい!

友達とも何回かした事はあるけど、大体は私がお化粧される側なのだ。

この顔は化粧映えするらしく、私はいつもお人形のような役割なのだ。

なので、、今と〜〜っても楽しい!

時透さん!ありがとう!!さすがはお友達!

 

そして、最後は唇に紅をひいて…

 

出来た!

 

やはり私の目に狂いはなかった!

その辺のおなごより余程整った見目の良い時透さんなら、絶対お化粧で美しくなると思っていたのだ!

 

「綺麗〜!すっごく綺麗ですよ!透明さん!」

 

「それはどうも、、」

いつもの嫌そうな顔ですら美しい…!

 

そして次なる目的は… このとっても綺麗な髪の毛を結い上げること!

 

「この髪の毛もいじっていいですか?」

 

「もう好きにしなよ。」

 

投げやり感が凄い。

 

「わ〜い!」

 

その綺麗な髪に櫛を入れていく。顔も綺麗だけど、髪も艶々だな…羨ましい。

私の癖毛とは大違いだ!

 

 

とりあえず、みつ編みにして… と、これをうしろで巻いてお団子に… そして簪をさして…

 

うん!完璧だ!

 

「見てくださいよ〜!その辺のおなごが霞んで見えるほどの美女ですよ!

さすが元霞柱!」

 

これはもう今だかつてない自分の最高傑作だろう!うん!

 

時透さんは心底複雑そうな顔をしていた。

 

その顔もまたどうしてか色っぽく見える。

本当に見惚れてしまう…はぁ…。

 

綺麗…  お世辞抜きで本当に。こんなお人形があれば欲しいくらいだ。

そして、ずっと手元に置いておきたい。

そう、大切にずっとずっと…

自分だけのものに…

この美しさを誰の目にも触れさせず…

 

って、何を考えてるんだ!

ハッとする。

何だろうか、、今の感情は…。

何か危ない扉が開いたような、、ちょっと危ない人の思想じゃないか?今のは…

 

 

あっ!そうだ!

 

 

「じゃあ、次は私にも紅をさして下さいな!」

 

 

「何でそうなるのさ!?」

 

予想通りの反応。

 

「それが、、自分の紅をひくのが苦手で…。人のは大丈夫なんですが、なぜだか。

なので、お願いできませんか?」

 

本当は紅はひける。

でも、ちょっとこの綺麗な人にして貰いたいという好奇心が勝ったのだ。

 

「駄目ですか…?」

 

「はぁ…」

 

そう言って、時透さんが置いてあった紅筆を取る。

 

「ほら、こっちへ来なよ。」

 

おぉ!断られると思ったのに!

きっと断っても諦めないのが分かったのだろう!

少し申し訳無い…

これで最後にするから許して、時透さん…。

心の中で謝る。

 

そして、彼の前に座る。

 

「もっと、こっち」

 

もっと?する側の時は分からなかったけど、される側となると…

近いな!

 

友達の顔ならいざ知らず。

今目の前にあるのは、絶世の美女と言っていいほどの人だ。

自分がそうしたんだけど…

何だか、、緊張してきた!

その最高傑作はそっと私の顔に手を伸ばす…

 

顔に手が触れる。

刀を握ってきたから、父上達と同じ皮膚の分厚い感じが伝わる。

でも、それとも少し違う冷たい手。

その手は、私の顎をそっと優しく持ち上げる。

 

な、何だろうか…

この状況…

心臓がやたらどきどきと…

か、顔が、、、時透さんの、、顔が… ち、近っ!

目の前の美女の顔がゆっくりと近づく、、

目を逸らそうとすると…

 

「駄目だよ。ちゃんとこっち見て、、、塗りにくい」

 

とりあえず、目を瞑る!!

うぅ!意外と真剣に塗ってくれてる!?

あ、ありがたいような… ありがたくないような…

早く!早く塗ってくださいな!! 

早くこの状況をどうにか!どうにか!

自分でお願いしておいて激しく後悔!くぅ…

 

よ、よし!違う事を考えよう!うん!そうしよう!

 

そ、そういえば… 

駆け落ち事件の夜、時透さんが言ってた

『駆け落ちした者同士が、夜に何をするのか…』という質問。

私は花札をするとばかり思っていたのだけど…

もしかしたら、私は何か盛大な勘違いをしているのでは…

あの時の時透さんは何やら男性なのに色っぽくて…

ちっ!違っ!そんな事を思い出したら余計と心臓が!

バカっ!私のおまぬけ!!あほっ!

 

いや、平常心、平常心… 落ち着け、、落ち着け私!

心の中がえらいことになっている…

そんな私の唇に容赦なく紅筆が触れる…

ゆっくりと、そして丁寧に塗られていく。

く、くすぐったい…

 

「あっ、、ちょっとよれた…」

 

そういうと、その人は躊躇わず親指でよれた紅を拭った。 

その時、唇にその人の指が触れた瞬間…

ビクッとして…

 

「ぁ…っん」

 

声が……思わず漏れてしまった!

 

し、しかも…こ、この声は!!

ちょっと破廉恥過ぎる!!

 

だっ!だって!指が唇に触れるなど…

そんなこと… 驚いて…!

 

自分の声に思わず顔が熱くなってくるのが分かる。

 

そして、いつの間にか彼の筆も止まってる事に気づく。

 

と、時透さん…?

 

そっと目を開ける…

 

そこには普段顔色一つ変えない彼が居るはずだった。

だったのだが…

そこに居たのは、今までみた事ないほど顔を真っ赤にしたその人だった。

 

そ、そんな顔… するの?

 

二人とも動きが止まる。

 

顎に添えられた手は相変わらず、、

この距離で目を開けた事を後悔するも、時既に遅し…。

目が合ってしまえば、なぜだか逸らす事が出来なかった。

それは時透さんも同じだったのだろう…。

 

もう心臓が本当に本当に…

 

この高鳴りは一体… お願い…そんな見つめないでほしい。

相変わらず、その涼し気な瞳で…。

 

いや、、待て待て!今日の私はおかしい!

そもそも、私は男の人に顔をじっと見られるのなんて平気なのだ!

だって!生まれた時からこの眼力のある煉獄家の男達に囲まれて育って来たのだから!

そんな私が見つめないで欲しいなどと、そんなこと… 生まれて初めてでは…!?

この人は、昔からの父の知り合いで

最近までほとんど話した事も無くて…

別にただのお友達のはずなのだ!

だから、、だから… 

その時、一瞬脳裏に、少し幼い顔の彼が過ぎった気がした。

 

えっ…、今の……なに?

 

いや、それよりも今は!

目の前にあるこの綺麗な顔が大問題だ!

だ、だって!さっきまで美女だなんだと言っていた時透さんの私を見る目は間違いなく…

そして、このドキドキは!?

か、甘露路お姉さんがよく言うときめきというやつ!?

私!恋の呼吸でも発動したの!?

 

と、次の瞬間、部屋の扉が開いた!

 

「杏子!すまないが、そのおしろいかしてくれるか?炭子に足りないのはきっとそれだ!」

 

おじ様…

 

「って、おい!時透何だよ!その顔!杏子がしたのか?」

 

「は、はい、お化粧ごっこに付き合って下さって…」

 

宇随のおじ様はしこたま笑うだけ笑って母達の所へ戻ってしまった。

 

 

取り残された二人を、再び沈黙が包み込む。

 

しばらくして、先にこの気まずい雰囲気を破ったのは時透さんだった。

 

「片付けよう。」

 

何事も無かったかのように道具を直す。

 

 

あの一瞬、少し心が通じ合ったような… そう感じたのは気のせいだろうか。

 

まだ、、こんなにも胸がどきどきとしているのに。

 

 

目の前の美しい人は、、一体何を考えているのだろうか。

 

 

「あの… お化粧落としますから、こちらへ…」

 

「いや、自分でやるから…」

 

「そう言わず、お水じゃちゃんと落ちませんよ」

 

「…分かったよ」

 

何だか少し素直じゃないか?

 

結った髪を下ろし、もう一度その顔に触れる。

そして、少しずつ…少しずつ…綺麗に塗ったお化粧を落としていく。

それと共に少しずつ現れる男性の顔。

さっきの目は… 間違い無く男の人の目だった。

つい今しがたまで、その顔にお化粧したくてしたくて堪らなかったのに…

今はその顔に見つめられると、何とも言えない恥ずかしい気持ちになる。。。

この気持ちは何だろうか。

 

そして胸が熱くなる、それでいて心地の良い感覚…

 

この気持ちは、時透さんといる時に時たま感じる感覚。

 

そうなると、目の前の人の事が気になってくるもので…

思い切って聞いてみた。

 

「と、時透さんは恋したことあるんですか?」

 

「恋愛なら甘露路さんに聞くべきだよ。」

 

「私は、貴方様の事が知りたいのです!見た目は悪くないのですから、女性にはおモテになりそうですが…」

 

お付き合いの一つや二つありそうだけど…

 

「まぁ、それなりに声は掛けられるけど、、、興味がないから特に何も始まらないよ。それに…モテるなら君の方だろ?」

 

「私ですか!?」

 

その言葉に驚く。私が!モテる!?

 

「まさか、、自覚無いの?」

 

「は、はい… この毛色を珍しがられて寄ってこられているのかと… それに癖毛だし、綺麗じゃ…」

 

「綺麗だよ」

 

透明なビー玉みたいな瞳でまっすぐ私を見ながらはっきり言う。

 

「その髪、誇りに思うと良い。その顔立ちも、その髪色も唯一無二の物だ。

言いたい奴には言わせておけと言ったの忘れたの?」

 

な、何やら、そうもはっきり言われると恥ずかしいな…

てっきりいつもみたいに『しょうもない。』と言われるとばかり…

 

今日の時透さんは素直だ…。

 

 

「そのうち、君に相応しい人がいくらでも現れるさ。」

 

「えっ…」

 

「君は… この先、更に成長して綺麗になっていくよ。そうなれば、その辺の男が君を放っておかないさ。だから、心配しなくても誰かが君を幸せに…」

 

時透さんは、、私を励ましてくれてるのだろうけど…

何だろうか、この複雑な気持ち…

私を思っての言葉なんだろうけど、そうなんだろうけども…

この人には言われたくないような、、、何とも複雑なこの思いは…

 

彼の言葉が耳に入ってこない。

 

 

不意に襖が開けられた。

 

「二人とも〜!そろそろ晩御飯だよ!」

 

母上が呼びに来た。

 

何ともモヤモヤした気持ちのまま、二人で居間へ向かう。

 

隣を歩くこの人は、今一体何を考えてるのか気になって気になって。

私の事、どう思ってるのだろうか…

何だか、今日優しいのも気のせいだろうか。

 

居間では、そのまま時透さんの隣に座った。

今日は賑やかにみんなで食卓を囲む。

食事が進むにつれて宇随さんはお酒も入り、そこそこ出来上がってる…

隣のその人は、食事も終わってそれを冷めた目で見つめている。

 

時透さん、私の事をどう思ってますか…

 

あの時、私を見つめる目は… 間違いなく男の人で…

それは、私の勘違いなのですか?

 

貴方がどう思ってるのか、私は確かめたい…。

 

覚悟を決める。

 

そして、ゆっくり… 隣に座る時透さんの方へ、手を伸ばす…

向かいに座る父上、母上には絶対気づかれないように… 静かに。

机の下、畳に置かれたその手に… そっと触れる。

 

一瞬、ビクッとされた。

けど、そのまま躊躇わず、その手に、自分の手を重ねる。

 

時透さんがバッとこっちに顔を向ける。

 

私は、、、恥ずかしくて、、下を…

 

そして、し、心臓が!!!

もう!早鐘を打つが如くで!

わ、我ながら大胆!でも、、、こうでもしないと、、きっと… 何も始まらない気がして…

 

嫌なら彼だって離せば良いだけなのだ…

私の手を、振り払えば…

 

振り払えば…

 

振り… 払われない…

 

彼の手に自分の手を重ねて暫く、、、

私も少しずつ顔を上げる。

そして、チラッと隣の時透さんを見上げた。

こ、これは… 顔が… こんなにも真っ赤に…

さっきのお化粧の時と同じ位真っ赤!

目の前の酔ってる宇随さんより遥かに赤い!

 

不意に宇随さんが

「おい!時透!お前いつの間に酒なんか飲んだんだよ!顔赤すぎだろ〜が!」

 

二人してビクっとなる!

 

瞬間、手が離れた。

 

終わってしまった… 呆気なく…

 

すると、さっき繋いでいた方の手が何やら引っ張られ、そのまま強い力で手を握られた。

 

そして、その手は隣の人の膝の上に置かれた。

 

これは…

 

すると、ボソッと

 

「どうして…」

 

「嫌でしたか…?」

 

私も小声で返事をする。

 

「…嫌だったら、こんな事はして無い…」

 

その言葉が、、、純粋にとても嬉しかった。

 

「私は… やっぱり貴方が良い。

だから、貴方の口から他の男の人と幸せになど、、言わないで下さい… 泣きますよ…」

 

そう言うと、時透さんは顔を赤くしたまま困ったような、何とも言えない複雑な顔をしていた。

でも、繋いだ手は離さずに、強く握っていてくれた。

この淡いほのかな暖かい気持ち。

これが、恋なのか…。

幸せだな…。

その手を、離したく無くて、ずっと握っていた。

目の前の父上達には気づかれないように、ずっと…。

 

 

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