時透くんと煉獄さん家の杏子さん   作:★kinaco★

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6話 秋祭り〜前編〜

「炭子はさ、この家で… あんな積極的な人達に囲まれてよく平気だね…」

 

 

「え?!な、なに?いきなり!?っていうか、早起きすぎない!?時透くん!」

 

 

寝れなかった。

 

寝れなかったんだ… 全く…

 

「はぁ…」

 

 

朝ご飯の支度をする炭子の足元にしゃがみこむ。

 

 

昨日の晩御飯の時。

 

一瞬、いたずらだと思った。

 

でも、それがそうじゃないのはすぐ分かった。

重ねられた手が、、震えてたから…

隣で小さくうつむくその子は、表情こそ分からないけど、首から耳まで真っ赤で…

 

 

まさか、、そんな風に見られていたなんて微塵も…

 

自分にだけ向けてくれる天真爛漫な姿を可愛いとは思っていたけど、そういう目で見ていた訳じゃ…

まぁ、化粧の時は、、、意識したけど…

でも、あの時一度は離れてしまったその小さな手を掴んだのは僕だった。

なんでそんなことをしたのか正直分からない…

 

嫌じゃ… なかったんだ。

 

 

でも…

 

 

 

そんな事を考えていると、気がつけば朝だった。

 

「炭子は… よく平気だね… あんな」

 

駄目だ… 2周目に突入した…

 

「まぁ、時透君の言いたい事は分かるよ。」

 

「本当に凄いよね。 ここの一族…」

 

昨日の出来事が頭から離れず、今はこんな言葉しか浮かんで来ない。

 

「煉獄家はみんな情熱的な人達だから、グイグイこられると…

こう、もう… なんて言うか…  うん…」

 

炭子の顔が赤くなった。

 

色々心当たりがあるのだろう。

 

何せ、15で妊娠したのだから。

 

あの時の事は少し覚えている。

煉獄さんが、柱みんなの前で『炭子が身籠ってる!』と盛大に暴露してたから

僕はまだ記憶があやふやで、とにかくぼんやりしていたけど…

まさか15年後、こんな事になるなんて。

 

「上手いこと言えないけど…そういう、血筋の人達なんだろうね。

あの瞳も不思議で、、つい惹き込まれちゃうというのか…」

 

分かる。やっぱり炭子も経験者なんだろう。

 

「あと、、何でここの血筋の人はあんなに顔が整ってるの? 綺麗な顔であの眼力… 本当に獲物になった気分なんだけど…」

 

「分かる!分かるよ!時透くん!あの顔は心臓に悪いよね!

私もあの顔には苦労したよ!格好良過ぎてさ… 今でも」

 

何だかんだとうっとりしながら喋る炭子。

 

でも、少し共感出来る。

あの子の瞳も本当に…

 

 

「でも… 杏子は君の事、大事に思ってるんでしょ?」

 

その言葉に、顔を上げる。

 

 

「知ってたの?」

 

 

「見てれば分かるよ。そりゃ、、一応母親だし」

 

「そうか… 君には敵わないな。そういう所」

 

「あの駆け落ちの時から薄々ね、、余程の事が無ければ人には頼らない子だから…

まさか時透君だなんて少し驚いたけど…

でも、杏子が幼い時は本当に君にべったりだったからね。

覚えて無いはずなのに不思議だよね。」

 

 

そう言って母親の顔をして笑う炭子と、この前の煉獄さんの表情が浮かんだ。

本当に、、大切に思ってるんだな。

自分達の娘の事を…

 

 

「あの時からでしょ?

君が杏子の所に来なくなったのは…」

 

「なんのこと…」

 

「あの子が4歳になるまで、君は本当によく杏子に会いに来てくれていたから。」

 

昔の記憶が蘇る…。

 

「あの頃のあの子は今と違って君にべったりで、本当に… 懐かしいな。

いつも君がくればあの子は離れなかったよ。

本当の兄妹みたいで可愛かったのを覚えてる。

 

でも一時、君の用事で数ヶ月ほど会えなくなった時があって…

久々に会いに来た時、あの子はもう君の手から離れて、走って友達の所へ行ったんだよ。

そこからだろ?

君が来なくなったの。」

 

「みてたの?」

 

「みてたよ。」

 

母親は凄いな。

 

「正直、安心したんだ。

あぁ、もうこの子は、自分がいなくても大丈夫なんだ。

お役御免だってね。

初めて彼女を抱っこして、僕の指を握った彼女を…

少し見ていたかったんだ。

そんな深い意味はない。

でも、自分に向けてくれた、あの小さな笑顔とぬくもりは今も…」

 

この胸に…。

 

「そのまま君達家族の愛情で、彼女はきっとすくすく育つんだろうと思ってた。

だから久しぶりに会った彼女が何だか笑顔じゃなかったのには、正直驚いたよ。

最後に会った3年前、あの無邪気な笑顔でいるのかと思っていたから…」

 

「だから、あの子と友達になったの?」

 

「正確にはなるように迫られたんだけど… そりゃもうグイグイと」

 

「やっぱり杏寿郎さんの娘だね!本当にやり口がそっくり!」

 

そう言ってめちゃくちゃ笑われた。

 

「私は、君さえ良ければと思うよ。あの子はきっと心変わりなんてしないだろうから…」

 

「それは… 返事をしかねる。」

 

「そう、、」

 

「それに、君なら分かるだろ?

無惨を倒すまでに色々あり過ぎて、、、柱は全員生き残ったけど、周りの人があまりにも死に過ぎた。

あの多感な年頃に、あれほど色んな物を失ってしまったら、

もう自分はまともじゃ無い気がして。

こんな手で、彼女の手なんて…」

 

 

「君の言いたい事は分かるよ。

まともじゃないなら、私だって同じだよ…。

でも、それでも煉獄さんは良いと言ってくれた。」

 

言葉が出ない。

炭子と僕は同じような状況かもしれないけど、全く立場が違う気がした。

彼女を守る立場の自分がこんな思いで…

煉獄さんみたいに僕は…

 

 

「それに、、それでも杏子は握ってきただろ?

君の手を…。」

 

ドキッとした。

 

「見てたの!?」

急に昨日の光景を思い出す。

か、顔が熱い…

 

「杏寿郎さんは気づいてないから安心してよ。」

 

 

うぅ… 最悪だ…。

恥ずかしい…。

 

「あの子にもしっかりと!この煉獄家の血が流れてる。いつまでも子供だと思ってたら…… なんてこともあるかもしれない。

だから、取って食われないようにしてよ!時透くん!」

 

そう言って炭子は笑っていた。

実際に取って食われた人の言葉には重みがある。

しかし、母親がそういう事言って良いものなのか…

まぁ、彼女らしいけど。

 

 

「でも、これだけは覚えていて欲しい。

あの子が自分の見た目を気にせず、外を歩けるようになったのも、あの明るい笑顔を見せてくれるようになったのも…

君の、時透君の言葉があったからこそなんだから。」

 

 

最後に炭子にはあぁ言われたけど。

 

 

これから、どうすれば良いんだろうか…

 

あの子にどう接すれば…

 

そもそも、自分の気持ちは…

 

年齢差は…

 

考えれば考えるほど、問題が山積み過ぎて。

 

 

ボーっと部屋着の着物姿で廊下を歩いていた。

 

すると、背後から…

 

「と、時透さん…」

 

この声は… 彼女だ。

 

もう起きたのか?まだ薄っすら外も薄暗い…

 

どんな顔すれば良い…

昨日は結局、お開きになるまでずっと手を握っていた訳で…

 

最後は彼女が『おやすみなさい…』と小さく呟いて部屋を出ていったのだ。

 

で、今に至る…

 

遅いから泊まったものの…

 

ひとつ屋根の下に居るとなると余計考えてしまうもので…

 

 

 

とりあえず、振り返る。

 

 

そこには勿論彼女が立っていた。

 

が、普段結っている髪をおろし、寝間着の浴衣姿で…

昨日の事も有り。

普段見慣れてる姿と違い過ぎて、またたじろぐ…

彼女はこんなに髪が長かったのか。

寝起きの気だるそうな感じも少し色っぽい…

その普段との差に男心が少し動く。

とりあえず普段通り…

 

「どうしたの?もう少し寝ときなよ。」

 

「少し、お話を… したくて…」

 

「話って…?」

 

「貴方様は、、私の事をどう思っているのですか?」

 

直球だ…。

 

「今は… まだ答えられない…。」

 

そう答えた途端、その瞳の色が少し、ほんの少し、、、滲んだ気がした。

我ながら残酷な事をしていると思う。

手を握って… 気を持たせるような事をしたのだから…。

 

 

すると、

「じゃあ!明日の夜はお暇ですか?」

何事も無かったかのように笑顔でそう言った。

 

「特に何も無いけど… なんで?」

 

「明日の夜、近くの神社で秋祭りがあるんです!良ければそれに一緒に行きませんか?

勿論!母上達も一緒ですよ!」

 

秋祭り…。

 

祭りなんていつぶりだろうか。っていうか、行った事なんてあったっけ。

 

「実は、その日は私も神社で舞を披露するのですが…」

 

彼女が言うには、その神社は炎の神様を祀っている神社だとか。

なので、この地域で一番炎と縁の深い煉獄家がその儀式で14歳、15歳、16歳の3年間舞を舞うのがしきたりらしい。

ただ、舞えるのは女の子だけで煉獄家では相当久しぶりの舞となる。

女の子がいない時は別の炎と縁のある家の娘が舞うのだとか。

 

「去年は… 人目を気にしてあまりちゃんと舞が踊れませんでした…。

でも、今年は貴方様のお陰で堂々と踊れる気がするのです!だから、どうか…」

 

その潤んだ瞳で… しかもいつもと違う雰囲気でお願いされると、こちらも調子が狂う。

何より、その寝起きの無防備な姿が…

昨日の事が影響し過ぎて当分、色々支障がでそうだ…。

 

 

「良いよ。行っても」

 

「ほ、本当ですか!?良かった!」

 

そう言って笑う彼女を見ると、やっぱりホッとする。

なんだろうか

 

「そうやって、ずっと笑顔でいてよ。」

 

無意識に彼女の頭を撫でていた。

何か、つい撫でたくて…

彼女の顔を見下ろすと、、

みるみる顔が赤くなってしまった。

やらかしてしまった… でも、下を向いて何やら恥ずかしげにする彼女が何だかとても可愛いく見えて、少し意地悪を…

 

そっと耳元で…

「髪の毛、、下ろしてるの可愛いね。」

ばっ!と耳を手で塞がれてしまった。面白い。

しかし、寝が足りてないからか、いつもより多分僕はおかしい。

 

さっきの炭子との会話を思い出す。

あまり、期待を持たせる事はしない方が良いと思う反面…

少しずつ、、彼女に惹かれている自分も居る。

それにもう一つ問題も…

 

そんな事を考えていると、、

「貴方がそう言うならば、ずっと下ろしておきます……髪だってもっと伸ばしますから…」

顔を真っ赤にして上目遣いで………可愛い。

ちょっと、、、駄目でしょ、その言い方。

僕だから留まれるけど、その辺の男の前ではやめて欲しい。

 

そんな事、、自分に言う権利なんて無いけど…。

 

「まだ早い、、もう一度寝ておいで。」

 

これ以上一緒にいると、もっと変な事言ってしまいそうなので…

彼女を部屋まで送った。

名残惜しそうにする彼女がやっぱり可愛く見えた。

昨日の出来事はそれだけ自分にも影響力があったらしい。

彼女の勇気には恐れ入る。

 

炭子にも秋祭りの了承を得て、明日は昼過ぎにまた会いに行く約束をし煉獄家を後にした。

彼女には会わずに。

会えばきっと、お互い意識して変な事になりそうだし。

それに、舞の稽古もしないといけないだろう。

どんな感じで舞うのだろう。

少し楽しみな自分がいる。

こんな気持ちはいつぶりだろう… 思えば、彼女と再会してから、ぼんやりしてる時間が少なくなった気がした。

それが、何だな少し嬉しいような気がした。

 

 

 

そして、お祭り当日を迎える。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

今日は朝から家の中が騒がしい。

秋祭りの準備で朝から母上も忙しそうだ。

そして、そろそろ時透さんがやって来る時間!

昨日は朝早くに帰ってしまって、、、もっと色々お話したかったのに…

でも、昨日の彼はいつもと違って何やら、とても恥ずかしくなるようなことを言ってくれて…

い、今思い出しても… 大人の魅力というやつなのだろうか!

意識しだしてから、もうその人の事で頭がいっぱいなのだ…。

 

握った手の感触もまだ…。

 

すると、玄関が開く音がした。

 

来た!!

 

玄関へ急ぐ!!

 

 

「おぉ!走ってお出迎えとは、そんなに俺に会いたかったか?」

 

宇髄のおじ様……と、時透さん!!!

 

「さあさあ!入って下さいな!」

 

「今日はえらく機嫌が良いじゃねぇか、好きな男でも出来たか?」

 

「なっ!そ、そんなことは…」

 

チラッと時透さんを見てしまう。

 

「ふ〜ん… まぁ、親父にはバレるなよ。」

 

そう言って、さっさと家の中に入って行った。

 

あの様子はバレてるな…。

やっぱり侮れない!

 

「時透さんも、、どうぞ中に…」

何だか、緊張する…

相変わらず、何を考えてるのか表情も読めない。

私への気持ちも、まだ今は答えられ無いと言われたし…。

複雑ではあるけど、それも仕方の無い事なのかもしれない。

父上との関係もあるのだろうし…

 

 

すると、母上が奥から走ってやってきた。

 

「あっ!時透君来たの?良かったら、浴衣に着替えない?

秋祭りだけど、まだ夜は少し暑いしね〜」

 

「別にどちらでも良いけど、皆に合わせるよ。」

 

「じゃあ、着ていくと良いよ!

ほら、杏子、お母さん浴衣持って行くから後で着るの手伝ってあげたら?」

 

母上… 気を回してくれたのかな?何も聞かれないけど…

 

 

少し自分の用事が済んでから時透さんが普段泊まる部屋に向かう。

この部屋は基本的にあまり近づかないのだけど、、

 

「時透さん、入りますよ?」

 

襖を開ける。

 

そこには長い髪を一つに結った時透さんがいた。

最近よく髪を纏めている。

男性だけど、白いうなじが綺麗で目が行ってしまう…

 

丁度、帯を結ぶ所だった。

 

「一人で結ぶのは大変でしょ?私がやりますから…」

 

「じゃあ、頼むよ。」

 

相変わらず、言葉が少ない…。

そういえば、この人から話かけられる事なんて数えるほどしか無い。

何だか不公平…。

彼の背中側から前へ帯を巻いていきながら色々思いを巡らせる。

この背中… やっぱり男の人の背中だな…広い。

ジーッと眺める。

でも、眺めるだけじゃ…

触りたい…

いや、駄目だ!お、おなごがそんな事をするなどはしたない、、、

 

でも、、、少しくらい… 

 

「と、時透さん…」

 

「なに?」

 

「お背中、、お借りしても、良いですか…?」

 

「えっ?借りるって何?」

 

説明するのも野暮だ。

 

「こ、こういう事です…」

 

そっと手を前に回し… その背中に頬をくっつけ抱きつく…。

 

ちょ、ちょっと大胆過ぎただろうか!?

心臓がそれはもうえらいことで…

でも…

時透さんは黙ってる。何も言ってくれない…

昨日は、頭撫でてくれたのに…

可愛いとも…

あれは、、、その時の気分?

それなら、胸をときめかせ喜んだ自分がバカみたいでは…。

 

「貴方様は何も言ってくれないのですね、、」

 

何で、、、何も言ってくれないのだろうか…

子供だから、やっぱり相手にされてないのか…

じゃあ、手を握ってくれたのは…

少し、、泣きそうになる。

 

「今でも、、、他の殿方と幸せになってほしいと思ってるのですか…」

 

そういった瞬間、前に回してる手が握られる。

強く…。

 

「駄目…  駄目だから… そういうの言わないで」

 

はっきりとそう言った時透さんは、どんな顔をしているのかは分からなかったけど…

その言葉と手を握る力は強かった…とても。。。

 

 

暫くそのままだったけど、時間もあまり無いので離れる…。

私も準備をしなければならないのだ。

 

「そろそろ私は準備があるので行きますね。また後で本殿の方で…」

 

少し名残惜しいけど、仕方ない…。

 

 

「では…」

 

その場を立ち去ろうとした時。

 

「待って。これ持って行くと良い。」

 

「へっ?これは?」

 

「自分はこういうの分からなかったから、甘露路さんに頼んだんだよ。年頃だし、これからも使うだろ」

 

渡された包を開けると…。

私の手の平よりも小さな金色のコンパクトが!

 

「かっ!可愛い!可愛いです!時透さん!」

 

嬉しい!!

よく見ると、かすみ草の花が描かれている。

 

「それ、口紅だって」

 

本当だ!開けると紅が入ってる!

「もう持ってるだろうけど、こういうの好きなら数のうちだから持っとくと良い。甘露路さんもそう言ってたし…」

少し恥ずかしそうにしてる。

普段こういうのしなさそうだもんな…

嬉しい… 嬉しいよ… 時透さん…

 

「なら、、、この紅を塗って舞を踊りましょう!だから、塗って貰えませんか?」

 

「えっ!それは… ちょっと…」

 

「でも、私… 自分のは下手くそで…」

 

実は塗れる事はまだバレていない。

なので…

「分かったよ。おいで。」

案外素直に許可がおりた。

 

前回の事があるのでお互い警戒する。

お陰で何も起きなかった。

 

「はい、塗れたよ。」

 

「綺麗な色… これで元気に舞が舞えます!見てて下さいね!約束ですよ?」

 

「分かったから、早く行きなよ。」

 

そう言って、走ってその場を後にした。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

この辺りでは一番大きなお祭りらしく。

人がとにかく多い。

やっぱり都会、自分が住んでる所とは全然違う。

 

ふと彼女に、、、あんな贈り物して良かったのだろうか。

甘露路さんに少し相談するつもりが、なぜかノリノリで贈り物をする流れになってしまった。

返事もはっきりしないまま、気をもたせることばかり…

自分は一体何がしたいんだか…

迷走してるな。

でも、あんなに喜んでくれるなんて…

それによく似合ってた。

 

本殿の前に準備された舞台の周りに人がどんどん集まってくる。

去年、今年、彼女が舞を踊るという事で、それだけで人が集まって来てるのだと近くの人々が話をしてる。

それだけ煉獄家というのは一目置かれてるお家なのだろう。

しかも、煉獄家に何十年、何百年ぶりかの女の子だということで、それはそれは凄い事なのだとか…。

もはや別世界過ぎてよく分からない。

 

煉獄さんと炭子も挨拶したり、彼女の準備を手伝ったりと裏方は忙しいみたいで、こっちからゆっくり舞は拝めそうにない。

 

夜も更けてきた。

辺りは炎の神様とだけあって、至る所に火が灯されていて明るい。

 

 

 

 

すると前の方で歓声が、、そろそろ始まるのだろう。

皆が一斉にそちらに注目する。

 

その様子を後ろにひっそりと生えている木にもたれかかり、腕組みしながら静かに見守る。

 

舞台に上がった彼女は、巫女の衣装とはまた違う、少し十二単に近い形の着物を着ていた。

髪は全て纏めて下の方で結ってあり、頭には派手な金色の飾りが付いた冠のような物をかぶっている。

宇随さんが好きそう。

だけど、その豪華な飾りに目がいく人はいないだろう。

なぜなら、それ以上にそれを身に着けている人間に目が行くから…。

煉獄家、特有の髪色と顔立ちは誰をも惹きつけ魅了する。

特に女性ともなれば、その美しさは目を見張るものがある。

目尻に朱色の化粧を施し、紅もさしている。

今日の彼女は一段と輝いて見える…

そして、手に持った鈴を大きく振って舞が始まる。

いつも見せる天真爛漫な表情とは違い、今日は一段と大人っぽい。

夜の月を背負う姿は、この前の駆け落ち事件を思い出させる。

本当に、見ている者達の心を掴んで離さない。この不思議な魅力は何なのか…

彼女を見てると、つくづく自分とは対照的だと感じる。

見た目も、中身も…

彼女は自分のどこが良いのだろうか。

見合う男ならいくらだって…

 

その時、近くの男達の会話が耳に入る。

 

「あの子可愛いよな。去年と雰囲気も変わって…」

 

「大人っぽいよな〜!でもまだ15歳らしいぜ。」

 

「本当か!?あんな綺麗な子なら15歳でも俺は全然有りだぞ!」

 

「あぁいう子に夜のお世話をして貰いたいもんだわ〜」

 

「何言ってんだよ!お前嫁さん居るだろ?

まぁ、でも、あれだけ色っぽい子だと分からなくも無いな。」

 

「脱いでもきっと凄いだろうな」

 

 

彼女の美しさは、異性には時として性的に見られる事も多いのだろう。

男なら仕方ないのかもしれないけど…けど…

 

気づくといつも以上に冷たい眼差しをその男連中に向けてる自分がいた。

彼女をそんな目で見ないで欲しい。

 

「お、おい、あいつこっち睨んでるよな…」

 

「お前が変な事言うからだろ!」

 

「サッサとあっち行こうぜ…」

 

 

彼らはどこかへ消えて行った。

 

こんな事しても、どうなる訳でも無い、、他にも似たような事思ってる男はいくらだって居るだろうし…。

 

「お前でも、あんなにブチ切れることあんのな。」

 

「宇髄さん、見てたの?」

 

相変わらず、周囲の女性の注目を浴びてる。

 

「この前の化粧の時、邪魔して悪かったな。」

 

「やっぱり、気づいてたの… あれ」

 

「まぁ、一応偵察も兼ねて覗きに行ったんだがな。まさか、あんなタイミングでお前らが見つめ合ってるとはさすがの俺も驚きだわ。」

 

「別に、、、そんなんじゃ…」

 

「何言ってんだ!今にも接吻しそうな勢いだったくせに。」

 

「そ、そんなんじゃない!!」

 

「そんなにムキになるな。お前が昔から見てた女なんて、杏子だけだろ。」

 

「……。」

 

「炭子も結構良い勘してんなぁ。」

 

「何の話?」

 

「あいつが産まれた時の話だよ。まぁ、炭子本人に聞け!

それより、あの話… 杏子に言ってるのか?」

 

あの話、、宇髄さんは知ってるのか…

 

「その様子じゃあ、まだ言って無いんだな。お館様の妹君との見合い話。」

 

言葉に詰まる…。

 

「もう結構経つだろ… どうすんだ?」

 

断れば済む話なんだけど… それもそう簡単に行く話じゃない。

 

「お前のことだ、お館様にも助けて貰った恩義を感じて決め兼ねてるんだろうが… はっきりしないままだと、一番傷つくのは杏子と妹君だ。

男ならサッサと決めろ。」

 

そう言って、宇髄さんは煉獄さん達の所へ行った。

 

 

目の前の美しい舞を踊るその子を見つめながら…

色々な思いが頭をよぎる。

 

 

先代のお館さまには大変お世話になった。

特に奥方様やくいな様には命も救われている。

そうで無ければ、自分は今この場には居ないだろう。

そんな自分との見合いをくいな様が望んでると聞いて、内心戸惑いが大きかったけど…

これから先自分一人で生きていくつもりなら

その方の気持ちに答えるのも悪く無いのかもしれないと、、、お館様に恩返し出来るならそれも有りかと思っていた。

でも、あの日彼女と再会して仲が深まれば深まるほど…

どうすれば良いのか分からなくなる。

お見合いを断っても、きっとお館様は責めない。

でも、、それは恩を仇で返してるんじゃないか…

だからと言って炭子達に愛されて大切に育った杏子と共に生きる未来もまだ… 想像が出来ない。

大切だからこそ、余計に。

昔の事を思って一緒にいれないだなんて炭子には言ったけど…

それも確かに嘘では無い。

でも結局、自分が杏子を幸せにする自信が無いんだ…。

 

 

 

「時透さん!」

 

ハッとする…

顔を上げた。

 

「舞を…見て頂けましたか…?」

 

目の前に、舞終わった彼女がいた。息を切らし、汗を流しながら…

衣装もそのままで、こんな後ろの方まで…

みんな、見てるんだけど…

 

彼女を見てると自分の悩みなんてちっぽけに思える。

煉獄の名を背負う彼女もきっと色々苦労が多いはずなのに…

いつも笑顔を絶やさない。

 

 

「あぁ、天女かと思ったよ。」

 

自分ではまず言わない台詞だけど、今日の彼女に相応しい言葉だと思った。

 

その言葉に、頬を真っ赤にする彼女か愛おしくて愛おしくて…。

 

「時透さんも、、、格好良いですよ!」

 

恥ずかしそうに、そう言ってはにかむ彼女も可愛くて…。

 

自分のこの気持ちに素直になるべきなんだろうか…。

 

「時透さん!あっちで父上達が待ってますよ!一緒に行きましょう!」

 

そう言って彼女に手を握られる。

 

もうしばらく、、彼女と… せめてもう少しだけこの温もりを…。

 

そう思わずにはいられなかった。

 

 

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