基礎的な新人専用訓練は、終わりをむかえコウタと俺は、あらためて、第一部隊リーダー雨宮リンドウと自己紹介を行った
ここは、アナグラの外
壁の向こう側の世界
昔には、大きな町があったような痕跡が今でも残っている
いまでは『贖罪の町』と、呼ばれている
「えー、改めて俺がお前らの配属される第一部隊隊長リンドウだ。配給品で好きなのは酒だ、できるだけまわすように。」
リンドウの自己紹介は簡単なもので、彼が荒神討伐にでたさいに、仲間の生存率が90%を超えるような、すごみ、貫禄を思わせるようなものは感じ取れなかった
俺たち新人を気遣ってことなのか、彼の性格なのかは、わからないが。
とてもいい人そうな印象を与えた
「リンドウさん、俺たち今日荒神と戦うんですよね。やっぱり、その、どんな感じなんですか?」
コウタが自分の不安を素直に伝える
荒神、神機が開発されていなかった時代には1日に10万人の人をも補食していたという
そんな相手に俺たちは、神を倒せる神機を持っているとはいえ、不安が残るのは当然のことだった
「そうだな。まぁ意外となんとかなるものさ。それよりも…」
リンドウは急に真剣な表情をうかべ、俺たちに次の言葉を発した
「これから大事な命令を3つ言う、よく聞け。
死ぬな、死にそうになったら逃げろ、運が良ければ不意をついてぶっ殺せ
あ…これじゃ4つか。とりあえず死ぬな、それさえ守れば後はなんとかなる」
リンドウは頭をかきながら言葉を続ける
「いいか、死んででも荒神を倒そうとか思うな。生きてりゃ必ず倒せる。もし仲間を守るためでも自分を犠牲にしようなんて考えるな。。そんなことを考えてるやつは英雄じゃない、ただのバカだ」
「っていっても、仲間がどうしても犠牲になってしまうときだってある。もしそうなっったらそいつの分も長く生きろ。わかったな、もう一度言う、絶対に死ぬなこれは命令だ」
「はい!!リンドウさん」
コウタが勢いよく返事をする
俺は静かにうなずいた
「まぁ、今回もふくめ当分の間お前らは中型荒神と、小型荒神担当だ。気負いしすぎずにいこう。」
そういうとリンドウはゆっくりと、町の中心部へと歩き出し、俺たちもあとに続くように歩みだした
ほどなくして、俺たちは荒神を発見した
まだ距離があるため、向こうはまだ気づいていない
「あれは、小型の荒神 オウガテイルだ。そいつらが今食べてるのが、大型荒神 ヴァジュラ。どちらもここ極東には比較的多く存在している。とりあえず3体いるな、一人一体ずつでいこう」
コウタは息をひそめ、俺は大きく息を吸う
「いけ!!」
リンドウのかけ声とともに、コウタがその場から三連打を打ち込む
コウタの旧型神機は、改良が重ねられ、新型と遜色ない実力をもつが、そのかわりに剣型に移行できない。
よって、中距離をたもった攻撃を主体に行う
コウタの三連打は距離が意外と近かったためか、運が良いのか全て命中し、オウガテイルを倒していた
そして…
*
新人二人をつれての、初陣から帰還したリンドウは、教官である自分の姉に、自室にて報告をしていた
「どうだった、リンドウ。あの二人は」
「コウタは明るく元気もいい、初の実戦で緊張もしていましたが、姉上の神機をうまく使っている今日は全弾命中してましたね。距離のはかりかたがうまくなれば、いい戦力になりますよ。」
「そうか、いい適合者に巡り会えて、実によかった。もう一人はどうだった?」
「予想外でしたよ、この俺が遅れをとるとは、それに見たことのない荒神にも素早く適応していました。観察力が鋭い」
「!?、遅れをとったとは、一体なにがあったんだ」
*
コウタがオウガテイルに狙いを定め、引き金を引こうとしたとき
リンドウは素早く動き自分の狙いを定めた荒神に、全速力で突進しようとした。
相手の懐にはいり、剣をふるう。いつもの実戦と同じことをしようとしていただが
リンドウの向かう先にはタクトがいたのだ。
リンドウは思わず立ち止まり、現場をかくにんする
もう一体タクトが担当するはずのオウガテイルはすでに倒れ、いままさにリンドウが倒そうとしていたオウガテイルもいま倒れようとしている
コウタが一体のオウガテイルを倒すのとタクトが二体のオウガテイルを倒したのはほぼ同時だった
「なっ!!、タクトいま何をしたんだ!?」
リンドウは驚きを隠せずに、タクトに尋ねる
「いえ、一番近くにいた荒神に真っ正面から切りにいって、一刀目の荒神の様子から、次で倒せると思ったので横にいるもう一匹のほうに向かうと同時に横から薙ぎ払うように剣をあてて、もう一匹もしとめました。」
タクトはさもあたりまえのように、たんたんと語った
「それを、あの一瞬で考えたのか、数秒とないあの時間に…」
「はい、どうだったでしょうか」
ありえない
素直にそう思ってしまった。
たとえ殺人蜘蛛の出身だとしても、初めてみる荒神、初めての実戦で
長年」の経験から動いていた俺よりもはやく、荒神を倒した
その動きにいっさいの無駄はなく、まるでベテランの動き
「あの〜、リンドウさん?」
タクトの動きに驚嘆していた、リンドウはコウタに声をかけられ我に返った
「ん、あぁこれで、今日の実戦は終わりだ。帰るぞ」
いったんアナグラにかえり、タクトの動きを報告しようと考えたリンドウは、早めの帰還をしようとした
そして、さらなる驚きにあう
「リンドウさん、向こうに変な荒神がいます。倒してきます。」
タクトがそういって、奥にいる荒神に向かって走り出す
「おい、勝手に動くな!!」
リンドウは後を追い、荒神を確認する
小型荒神 コクーンメイデン
レーザーを射ってくるタイプの荒神 荒神自身は動かずにいるが、近づいてくる相手にも尖った触手のようなものをだし、攻撃してくる
遠距離でも近距離でもない、新人からすれば戦いにくい相手だ
「おい、待て!そいつは…」
リンドウが言いきる前に、タクトは動いていた
コクーンメイデンのだすレーザーにたいして、タクトは自分から前に向かってつきすすみ、かする寸前でかわす
そして、もう目の前にいるコクーンメイデンに、一刀、二刀。三刀目にはコクーンメイデンの動きの変化をとらえ、バックステップ
最後に三刀目を地面を強く蹴り上げ、横に切り抜く
一瞬
リンドウが注意を促す前に、タクトはコクーンメイデンを圧倒した
「終わりました、もう帰ります」
「…今度からはあまり勝手に動くなよ、これも命令だ」
「はい」
こうして無事に初陣は終わっていた
*
「とこんな感じに、あまりにも無駄のない動きでした。寒気がするぐらいにね」
リンドウはふざけるように、体を手でさする
「やはり、殺人蜘蛛出身は本当らしいな。お前をだしぬくとは、いよいよ期待の新人だな。これからも監視をおこたるなよ。」
*
初陣を無事に終えて帰還したあと、コウタはしつこいくらい俺をほめた
「お前、やっぱすげーよ、リンドウさん置いてけぼりにしてたじゃん。。てか俺が一匹倒す間に二匹とか、すげーよ」
「すこし、リラックスしてやれただけだよ、次はコウタもできるさ」
俺とコウタは、初陣を乗り切ったのが本当にうれしくもあり
俺は自分の敵を改めて目で見ることで、自分の中の決意を改めて確認した