トップギア〜紅き風の名はマルゼンスキー 作:ゆっくりカワウソ
たぬき小説も書いているのでそちらも是非読んでいただければかと思います(^^)
最近ではめっきり寒くなり、あったかいものが美味しい季節になりました。
あったかいものを食べて、体を温めホッとするこの季節を楽しもうと思う今日この頃。皆様もお身体にご自愛していただきながら、この季節でしか楽しめないことを味わって頂ければかと思います^o^
天翔ける龍が如く、文字通り空高く龍が舞い上がり自在に飛ぶ様を表した言葉である。名も知れない、とある小説家が書いた物語でこの言葉を体現したウマ娘がいた。アマノミコト、架空の存在でありながら俺の心に炎を宿し、夢を与えた存在であり…同時に…硝子の天の川と呼ばれた幼馴染のアマノリュウセイに恋心を抱いたきっかけでも…あったのだ。そして…彼女がアマノミコト以上のウマ娘なのだと信じきっていたのだ。
でもそれはこのレースを見るまでの話。…俺の担当、マルゼンスキーが簡単にそんな想いを吹っ飛ばしたのだ。そして俺の心の中にあったアマノミコトとアマノリュウセイの呪縛からも解き放つものだった。
レースは最初から最後まで…彼女の独壇場で一緒のレースであった絶頂期の先輩ウマ娘にも先頭を譲らなかった。まさに圧巻の一言だ。
「行けー!マルゼンスキー!走り抜けー!」
春の陽気はいつしか熱気になり、加熱するウマ娘たちのレースが更に心と体感温度を上げてゆく。流れる汗と共にマルゼンスキーへと叫んでいた。ハッとするが、彼女はこちらをチラリと見たような気がした。そして…ウィンクで返事をする。
ゴールを抜き去り、流す彼女の元に駆け寄るとー。
「はぁ、はぁ。トレーナーくん!」
彼女はこちらを抱きしめる。走ったばかりなのかドキドキと彼女の鼓動が伝わってくる。…おっすごいとなったのは内緒の話^o^。
「最高だったわ!トレーナーくんのトレーニングもだけど…あの時の応援、すっごい力が出たの!」
嬉しそうにそう言った彼女に頭を撫でて、タオルを掛ける。
「最高の走りだ。誰も君に追いつけないし、君に釘付けだったよ。」
「もうっ!トレーナーくんは私をキュン死にさせる気?!…でもありがとう!」
〜アナウンス
「本日の芝、マイル部門トップはマルゼンスキー選手。今大会最速記録をマーク、当社のアメリカ大陸学生記録のマイル5位、ヨーロッパ学生マイルランク20位にランクインしました。」
…嘘でしょ⁈初手でこの記録はスゴスギィ!(キャラ崩壊)
「Wow!凄いことになったわね!」
「…君の実力だよ(震え声)」
「トレーナーくん、アメリカ大陸学生記録ってやっぱり凄いの?」
「…もちろん。カナダやアメリカはもちろん、ラテンアメリカの学生たちの記録だ。かなり膨大ではある。
…ただ…ヨーロッパの方がレースの歴史が古く、レベルも高い。ヨーロッパ記録上位になるとそれこそE-Motionsを超えて世界ランクレベルになる。」
「…今更だけどトレーナー君が作った企業ってぶっ飛び企業ね。」
「…否定はできない。…それに俺もそれは思う。……俺よりも仕事仲間になってくれた奴らが天才だったからな。」
「もう、それはトレーナー君にも言えることよ?」
「…ありがとうな。」
君の言葉で俺は…救われるのだ。
〜それからレースと日にちが過ぎる〜
多くのレースを見る中でやはり突出した実力を持つのがシンボリルドルフやシリウスシンボリの中長距離適性組。短距離は何とまだ中等部のサクラバクシンオー。さらにダートはシンコウウインディ、スマートファルコンと言った中等部の生徒が活躍した。
そして…焼きそばを焼いていたゴルシが芝長距離部門の次点という結果であることに驚きを隠せない。
「イェーイ、ピスピース!v(´∀`=)v=v(=´∀`)v」
皆んなにピスピースと言いながらファンサをする。何故だろう、彼女の背後に変顔をしているUMAが見えるのは気のせいだと思いたい。
「…なるほど。…天性の肉体を生かした走りだな。マルゼンスキーとは違う、ストライド走法特有の歩幅の広さに後半の加速力。…ステイヤーに相応しい走り方だな。」
「ねぇ、トレーナー君。さっきの彼女の走りだけど…まるでワープしたみたいだったわね。」
「…良い観察眼だ、マルゼンスキー。ゴルシはコーナリングの時にあえて皆が走らない内側を走ったんだ。荒れているところを走るのはかなりのスタミナとパワーを使う。…ほぼゴリ押しのような戦法になるがコーナーでガラ空きになった内側は位置どりを狙える最高な穴場であり、いきなりワープしたように先頭へ躍り出ることができるんだよ。」
「おったまげ!常識を打ち破る感じ、嫌いじゃないわ!」
「…だな。…大変だな、彼女のトレーナーになる奴は。」
「?気まぐれってこと?」
「…それもそうだが…その…彼女を飽きさせないトレーニングや試合設定。加えて型破りな彼女に付き合えるバイタリティを持ち合わせていないと難しいな。独創性と体力に常識を破れるというのが最低限必要な要素だ。」
「お!マルゼンスキーのトレーナーの兄ちゃん!見てたか、あたしの走り!」
こっちに向けてブンブン手を振りながらやって来る。マルゼンスキーにも挨拶をして談笑をする。
「なぁ、どうだった?」
「…素晴らしいの一言だ。型破りな戦略ではあるが、ゴルシ自身の頭の良さと柔軟さ、加えてその身体能力…スカウトする人は多いだろうな。」
「そっかぁ!でも兄ちゃんのとこはいいな、なんか…しっくりこねぇかも。」
「おいおい、誘う前に断るなよ。…まぁ元より君をスカウトする予定がなかったからな。」
「兄ちゃんもひでぇな。」
じっと見つめ合ってるとつい笑ってしまった。
「「へへへ!」」
「しっくりこないのはわかるな。俺、お前みたいなタイプを育てたことあるが……な?」
「へへ、ゴルシちゃんつまんねーことは嫌だからな!」
「それに。」
そこにいたのは独り立ちしたばかりのトレーナー比嘉が近づいてきた。
「君は…。」
「…比嘉さん。何か御用で?」
彼や彼を指導した先輩トレーナーとは軋轢もない。ちょくちょく話すぐらいの関係性のトレーナーである。
「…彼女を勧誘してるのかい?」
「いえ。俺はマルゼンスキーが担当ですので。…比嘉さん、あなた…。」
「そのまさかだよ。…ゴールドシップ。」
「おっ?あ、比嘉ちん!どったんだよぉ!まさかぁー、あたしを勧誘しに来たんかー?」
彼女は比嘉さんとも面識があるらしくあだ名で彼の名を呼ぶ。
「うん。…改めてゴールドシップ、僕の担当になってくれないか?」
頭を下げて、手を差し出す。ゴルシはまじまじと見つめ、…手相を診始めた。
「おっ、比嘉ちん。運命線なげぇな!退屈しない、面白みばかりの人生になるでゴルシよ!(´-`)」
「あ。あの…ゴールドシップ?」
「比嘉ちんといると退屈しなさそうだな。いいぜ!一緒に宝探しにでも行こうぜ!」
「えっ、ちょっまー!」
比嘉さんを横脇に抱えながらどこかへと去る。……面識があり、ゴルシの感性にはどこか引っかかるところがあったのだろうか…彼を気に入ったようだ。
「南無…。」
連れてかれた彼の無事を祈る。…比嘉さん、ご愁傷様…。
「嵐みたいな娘ね〜、モーレツっ!(^_−)−☆」
「だな。さ、ちゃんとストレッチして上がろうか。今日は暇か?なんか奢ってやるよ。」
「あっと驚く為五郎!!私、イタ飯がいいわ!!」
「い、イタ飯?」
「もう、知らないの?イタリアンなご飯の略語よ〜。ナウでヤングな流行の言葉よ?」
「な、なうで…やんぐ?と、とにかくイタリア料理な?任せとけ、友人の店でうまいイタリア料理店開いてるやつがいるんだけどー。」
ちなみに従兄弟の話(平成生まれ)とネットを調べた結果によると……イタ飯ブームとナウでヤングという言葉は80年代に流行ったものだ。…彼女…生まれてないのに何故知っているんだろう…という言葉を飲み込みながら、店に電話を入れるのであった。
こうして、嵐のようなイベントは幕を閉じた。
…イベントの内容と結果はだって?1日目に芝短距離マイル、2日目が芝中長距離、3日目がダートというものである。物販や屋台、営業などで大賑わいに加えて、URAおよび全国トレセンのスポンサーが一気に増加し、お偉い連中もホクホクだったとのこと。
ちなみに予算に対して売り上げ達成率は驚異の200%超えだったと報告したら嬉しさのあまり理事長卒倒。資金不足が一時的ではあるが全国トレセンの予算が余剰になったのはここだけの話。
〜E-Motions日本支社、とある会議〜
「…さて、諸君。日本での第一段階は終了した。櫻弥が中央トレセンでトレーナーになったおかげで次のフェーズが予定よりも早くいけそうだ。」
流暢な日本語を扱うモニターに映る白人男性は日本支社の支社長に向けてにこやかに言葉を贈る。
「加えて、君たちの頑張りと日本のエンジニア、販売店スタッフたちの努力の賜物だと私は確信している。」
と、威厳がある感じに言ったはいいものの男には慣れないらしく、すぐにふっと表示してを和らげる。
「…と言ったけど僕らしくない言い方だね。」
「そんなことないですよ、社長。」
「櫻弥がトレーナーとして本腰入れちゃってるし…、これから大変になりそうだよ…。」
「…社長、私は副支部長のことをあまり知らないのですが…一体どんな方なんでしょうか?私を日本支社社長に推薦し、かなり評価していたみたいですが…。」
「え?君わからないの?よくエンジニアたちと白熱した商品会議をしていた日本人の彼だよ。同じ同郷なのに気づかなかったのかい?」
「…確かに日本人であるのはわかっていました。…ただ…年齢が…。」
「なるほどね。君は確か日本の大学に出てからカナダに来たもんね。」
「はい。…よく商品について教えていただいていましたが、まさか…。」
「彼は天才だよ。ウチの開発部門はものを作ることならピカイチだがいかんせん理論や研究がからきしだった。…けどね、そんな時に面白いことを言ったハイスクール生がいたんだ。…若干15歳で僕たちが作りあげた商品の改善点を一発で当てただけじゃ飽き足らず、経営、広告面でもその才能を発揮したんだ…。けどあいつのすごいところはそこじゃない。」
「…と言いますと?」
「あいつは人の特性を見抜くのがすごいんだ。当時からそれがすごくてね…。……僕なんて始めは営業をしてたんだけど…からっきしで。」
「…確かに社長、営業マンとしての実績皆無でしたよね。」
「そこは言わないでよ…。でも逆に経営や運営の才能を見出してくれた。…日本での彼のテレビの内容を見た時は…目を疑ったよ。彼、日本のトレーナー資格の最年少記録を持っているだよ。」
「……まさか、副支部長ってあの…。」
「そう、あのOhmi Snensuijiだよ。」
「……同姓同名かと思いました。」
「だよね。でも画像を見ると本人だってわかるよ。」
「……なるほど。」
「彼はね、この企業に縛られてちゃダメなんだ。垣根を越え、本来専門である育成で活躍して欲しいんだ。」
「…どうしてそんな人が…トロントに…。」
「……それは君にも言えないトップシークレットなのさ。」
画面の前でキメ顔をする本社社長にイラつきを覚えながら、自分を支社長に抜擢した仙水寺櫻弥がどんな人物かを探るために今まで見たウマ娘たちの経歴と今回のイベントの担当ウマ娘のデーターを見た。
「…なんだ…この実績は…。有名ウマ娘もさることながら、ダークホースとして現れた新星シガースモーク*1に至ってはレースレコードまで…。ははっ、ふざけている。」
「だよね。どうだい、彼は?」
「…ますます興味深いですよ。…コーヒーでも飲みながら対談でもしてみたいものです。」
「ふふっ、それは面白いかもね。」
2人は微笑みでこのミーティングは幕を閉じた。…支社長はミーティングソフトを閉じた後に仙水寺櫻弥についてリストアップする。
「……大学の専攻はスポーツ工学と教育学、研究室ではウマ娘の次世代の蹄鉄の研究……。その傍らにサブトレーナーやトロントラプターズ、ブルージェイズの契約専任トレーナー…さらには向こうのトレセンの非常勤講師……てんこ盛りな経歴だな。…ん?」
今日送られて来たイベントのマイル部門のデータのウマ娘とその担当名に戦慄した。
「な、…なんだこの記録。日本にこんな怪物が…。」
担当者名は仙水寺櫻弥、ウマ娘名はマルゼンスキー。2人が打ち出した記録はアメリカ大陸学生マイル記録の上位5位にランクイン、ヨーロッパ学生マイルランク20位というもの。
「本当に何者なんだ彼は…。」
マルゼンスキーというウマ娘はスーパーカーと呼ばれ、中等部時代からかなりの実力者。けれどもアメリカやヨーロッパ勢には敵わないと思えるような記録だった。そう……彼が担当になって早1ヶ月程度、この期間と本格化が関連していることだけは彼も分かっているようだ。
しかし、本格化したばかりのウマ娘は自分の今までとの能力とのギャップで調子を崩すことが多いというのが常識である。そのためトレーナーは本格化したウマ娘の調整をする際は必ず見極めやレースの日程の組み直しなんかもすることもザラではない。それを…調整した…短期間で…。
「中長距離のシンボリ家の令嬢たちも素晴らしいときた。これは日本のレース業界も捨てたもんじゃないな。」
そういう彼は楽しげであった。1人のスポーツ好きの男として今後の日本のウマ娘たちに期待といった感じであったのは言うまでもない。
「彼が台風の目になるか…、それとも。…ふっ、荒れるな。」
仕事に戻った彼はとても楽しげであった。
今日のトレーナー行動録
・アマノの呪縛〜打ち壊すは鹿毛の乙女
・覚醒!マルゼンスキー!〜レコード更新
・レースは閉幕〜モノノフたちの夢の跡
・黄金の不沈艦〜ゴルシちゃんの実力
・ゴルシトレ誕生!〜比嘉トレーナーの受難
・E-Motionsトップ会議〜日本支社の場合
・何者?〜謎のトレーナー、仙水寺
・その怪物と担当トレーナーの出現
・日本の夜明け〜世界よ、これが日本の競バの未来だ