安心安全生活を目指して   作:jejjsuususuwu

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三ヶ月以上もサボるとかあほくさ。



惚れた

 二人の子供がいる。一人は少年でもう一方は少女だ。二人は言い争っている。いや、『言い争う』という言葉は正しくない。少女が少年に怒りをぶつけているのだ。

 少女は高貴な雰囲気を持ち傷一つない透き通る肌で、宝石のように輝く黒髪と大空のような澄んだ瞳をしていて、王族や貴族を思わせるオーラを身に纏っている。成長すれば国を傾ける美女に成るだろう。だが、残念なことに身体の一部は全くと言っていいほど成長しなさそうだ。

 少年は少女よりも幼く、顔や腕、足に生傷が絶えない田舎少年といった風貌である。少女のような高貴な身分を思わせるオーラや強者の風格は持ち合わせていない。あと身長はあまりない。

 

「アンタ私のこと、馬鹿にしてんの!? 馬鹿にしてるんでしょう!?」

 

「馬鹿になんてしてねぇよ!」

 

「ウソついてんじゃないわよ!?」

 

 皆様お久し振りです。古代中国に転生? した男です。

 今は『名無し』と呼ばれています。この時代に来てもう3ヶ月経ちましたが少しは慣れて来ました。その証拠に朝早く起きたり、鬼畜化した訓練になんとかついていけています。

 生活は朝起きて訓練。昼に如春と模擬戦を百本。メシは趙香(ちょうか)さんの店で食べ、風呂に入って寝る。性欲? 身体が子供になったのかあまり湧き上がって来ません。

 最近は務義(むぎ)とかいうマジキチ眼帯男も現れず精神的に良くないモノを見てはいないので気が楽です。

 こんな日々が続けば良い。そう思います。いえ、そう思っていました。

 何故、怒り狂う美少女と寝室で揉めているかと言いますとそれは、一週間前の事になります。

 

 ………………………………………………………………

 

「そっちは終わったか?」

 

 名無しと如春(じょしゅん)は与えられた部屋で扉の修理をしている。

 あの後、赤鬼からの拳骨を食らい、罰として髪を丸刈りにされ、壊した扉を修理するように命令された。

 如春が右側の扉で名無しが右側の扉を担当している。

 右側の扉は修理されているが、名無しが担当している左側の扉はまったく修理されていない。誤解されるかもしれないが、名無しは決してサボっていたわけではない。サボっていたわけではないのだか……。

 

「ああっ! お前、なんだコレ! 修理どころか余計にヒドくなってるじゃねぇか!」

 

「いや、コレには深いわけがあって……」

 

「どういうわけだ? …………まさかお前……不器用?」

 

「……チョー不器用です……」

 

 名無しの言葉に如春は大きくため息をついた。その様は仕事が出来ない部下の尻拭いをする上司のようであり、友達の情け無い行動を見て「俺なんでコイツの友達なんだろ?」と云わんばかりの哀愁漂うため息である。

 如春は名無しを見やって言った。

 

「……もうお前なにもするな、触れるな。しばらくの(あいだ)どっか行ってろ。部屋にも扉の修理が終わるまで絶対に入るな」

 

 如春に言われた通り名無しは部屋を退出する。

 廊下の格子から空を見やる。青空に悠々と雲が流れている。

 部屋を追い出され、仕事もない、話し相手も居ないので暇だ。何処で時間を潰そうか考えていると背後から声をかけられた。名無しが振り返ると声をかけたのは護衛班班長の管外であった。

 

「か、管外班長……おはようございます」

 

「……お前何してんだ? 如春はどうした」

 

 名無しは如春が部屋で昨日壊した扉の修理をしていることと、役に立たないため部屋から追い出された事を伝える。名無しからの報告を聞いて管外は、ほう、と言ってニヤリと笑った。その笑みに何か悪いものを感じた名無しは背筋が震えた。

 

「お前、今暇だろ? ちょっと手伝え」

 

 管外の言葉を名無しは拒否したかったが、もしそんなことをすれば最悪、首を斬られてしまう。ここでは自分より上位の者からの命令は絶対だからである。

 

「何を手伝えばいいんですか?」

 

 恐る恐る尋ねた名無しの肩を管外は軽く叩いた。

 

「そんな固くなるなって。難しいもんじゃねえ」

 

 管外は難しくないと言っているがここは非合法組織の拠点で管外はそこの班長をしている。そんな人物からの命令はどのようなものだと名無しは気構えているのだ。

 

「……まぁい。お前にやって欲しいことはたった一つ。とある人物の話し相手をする、だ。簡単だろ?」

 

 管外の言葉に名無しは軽く息を吐く。思ってたのよりもずっと簡単そうだからだ。固くなっていた名無しの表情が軟らかくなったのを見て管外は話を続ける。

 

「期限はおよそ7日。その間は如春との訓練はなしだ。その代わり、ヘマだけはすんなよ? 正直言ってソイツの機嫌を損ねると面倒だ」 

 

 管外は言って歩き出す。置いていかれないように名無しも管外の少し後ろに着く。道中、管外は一切喋らなかった。

 空気が重い。名無しはそう思った。管外とは今まで話したこともなく、管外についてほとんど何も知らない。知っていることといえば名前と役職のみである。

 少し歩き、階段を降りる。一階に降りてまた歩く。そこから一階の奥に進む。名無しは2階にある部屋と風呂場にしか行ったことがないのでここまで来るのは初めてである。奥に行けば行くほど道が分かれ迷路のように入り組んだ構造になっており、壁や床も全く同じなので今どこに居るのか全くもってわからない。

 左に三回、右に二回、計五回曲がった所に扉が見える。どうやら目的の人物はここにいるようだ。扉から三歩ほどのところで管外が立ち止まり、名無しも管外のすぐ後ろで立ち止まる。

 

「ここだ」

 

 管外はそう言って名無しを見る。

 

「最後に確認だ。お前はこの部屋に居る人の話し相手になる。期限は7日だ。中の人物がもういいと言ったらその日は終わりだ。部屋に帰れ」

 

 そう言って、踵を返してもと来た道を帰っていく。

 変な気は起こすなよ? 曲がる直前にそう言いって管外の姿が見えなくなった。

 

 名無しは意を決して扉を叩く。だが、中からは一切返事が来ない。気づいていないのかと思い今度は少しだけ強く扉を叩いた。返事はない。仕方ないので扉を開けて恐る恐る入る。

 

「あのー誰か居ますか? 管外さんに頼まれて来た者なんてすが……」

 

 部屋の内装は簡素な寝具に木組みの卓と椅子のみで、床には筆と幾つかの竹簡が散らばっている。

 

「うぅ……もう朝? 最近太陽光を浴びてないから体内時計ぶっ壊れるわ。 だいたい、この私の部屋なのだからロイヤルスイートぐらいの内装とサービスがあって当然よ? アイツら私の価値を知らないんじゃないのかしら」

 

 寝具の上で布団を被り動いている。

 この動くものが管外さんの言っていた人物なのだろうか。

 様子を見るため、動かず、その場で待機する名無し。

 寝具の上にいる人物は被り布団から顔を出し、部屋を見渡して溜息を出す。ここに閉じ込められてどれほどの時間が流れたのだろうか。拉致された後リンチされて陽の光が射し込まない密室に監禁された。

 朝なのか、夜なのかわからないまま長い時間を過ごした。

 これ以上この部屋に居れば退屈でいつか頭が可笑しくなる。彼女の頭の寿命を延ばしてくれるのは何度も読み返し内容を記憶した数冊の書物のみ。

 この殺風景な部屋に暇を紛らわすものが突然現れればいいのに。そう想いながら彼女は毎朝部屋を見渡し、そんなものは現れないと知るはずなのだが、今日は違った。

 殺風景な部屋に見慣れない存在がある。

 人だろうか。 最近は首に入れ墨を入れた目の死んだ女達としか合ってはいない。その女達は声をかけても返事が返ってこないので面白みがなく、話すのをやめた。

 なので久し振りに声を出す。

 

「ちょっとそこのお前、この部屋になんでいるの? 誰の許可あって入ったのかしら?」

 

 問い詰めるように彼女は言った。

 

 

 ……………………………………………………………………

 

 

 美しい。

 

 名無しは思った。

 人が溢れんばかりいた前世にも美女はいたがここまでの存在は居なかった。年齢は今の自分とあまり変わらないだろうに目の前の少女は老若男女関係なく堕としてしまう色香があった。

 あまりの美しさに体が硬直する。

 目の前の彼女は声をかけても反応しない名無しを不審に思っている。

 しばらくして身体の自由が戻った名無しは慌てて謝罪して彼女からの質問に答える。

 

「あっあの、わっ私は管外班長にこの部屋の人物の話し相手になれと命令され、ここに来ました。 」

 

「ふーん。ならこの建物の構造を教えてもらえるかしら?」

 

 声も美しい。雑に質問されたが、それが気にならないほど名無しは目の前の少女に釘付けだ。

 

「わっ私はつい最近ここに来たので建物の構造なんて知りません」

 

「……あっそ。じゃあここはどこ?」

 

「はっ泊城といいます。 趙国の城壁都市です」

 

「邯鄲からはどれぐらい?」

 

「わっ、分かりません」

 

「……貴方の持つ情報で私に有益なモノはあるかしら」

 

「……たぶんありません」

 

 名無しから有益な情報は得られないと悟った少女はため息を付き、布団を頭から被った。

 

「帰ってもらってもいいわよ。 お互い時間の無駄だし」

 

 少女から帰れと言われたが名無しは動こうとはしなかった。

 

「早く退室なさい。 私の言う事が聞けないの?」

 

 苛つきながら退室を促す。それでも名無しは動かなかった。

 

「名前を教えてはもらえませんか?」

 

 初めて名無しから言葉をかけた。

 名前を聞かれてた少女は最初、言葉の意味を理解できないでいた。別に少女の頭がスカスカだからではなく、産まれて初めて名前を異性から尋ねられたのでどう対応すればよいか無意識に考え、それ以外の思考を停めたのだ。

 しかし、思考が停止したのは少女だけではない。

 初対面の異性に名前を聞く。

 前世では全く異性と関わり合いのない人生だったので、免疫がない名無しはこのあとすぐに顔を真っ赤にし、頭がからっぽになった。

 我に返った少女は目の前で赤くなっている男を観て、

 

「ああ、私って罪な女。 釣り合いの取れない相手に恋をさせてしまうだなんて」

 

 と、一人(えつ)(ひた)っていた。

 しかし、ここで何も返さなければ格好(かっこう)つかないと思い、名無しに瞳を向け、顔を引き締めて言った。

 

「私の名前は趙玲(ちょうれい)。 いずれ天下に名を轟かす女よ」

 

 趙玲と名乗った少女。彼女の布告とも言える言葉を聴いた名無しは「名前まで可愛くて美しい」と趙玲に惚れた。

 

 同僚である如春と同じく、名無しもまた、色ボケの道に一歩歩みだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでくださって誠にありがとうございます。
次回はもう少し速くしたいと思います。
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