安心安全生活を目指して   作:jejjsuususuwu

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13日に一週間±3日なのでセーフです。


睡眠/性欲/食欲

 翌日。

 

「女と仲良くなる方法?」

 

 共用の部屋に戻った名無しは、如春に助言を乞うていた。

 (わら)の上に寝転がる如春。顔を名無しに合わせず、眠たそうな声を発する。

 

「そんなもん、金と酒の力でなんとかしろ」

 

「俺、金も無いし、酒飲めない」

 

 如春は溜息をつく。

 

「いいか? 娼婦(しょうふ)なんざ、金がありゃ誰でも股を開く。 逆に言えば金が無いなら相手にされねえ。

 女への悩みなんてのは金を貯めてからにしろ」

 

 如春は名無しの想い人が娼婦だと勘違いしているが、あの美少女が監禁されている事は極秘であることを(さっ)して、一部ぼかして如春に助言を乞うたのだ。

 

 名無しは今日もあの美少女の話し相手にならなければならない。なんとか心の距離を詰められないかと如春に助言を求めるも、まだ早いと(あん)に言われた。

 落ち込む様子の名無しに如春はまた溜息をついて頭を()く。

 

「その女の好きな話題、得意な事を中心に話を聞いてみろ」

 

「えっ?」

 

「ただ(うなず)いて、同意しとけ。 反論したり、間違いを指摘すんなよ。 面倒くさいから」

 

 名無しは一種呆けるも、それが助言であると気付き、喜びをまぶたに浮かべる。それから一礼して部屋を飛び出した。

 

「頑張れよ」

 

 徹夜の疲れから、如春はもう一度眠った。

 

 

 

 

 部屋の扉がノックされる。

 趙玲は入室の許可を出すと、一人の少年が部屋に入る。

 その人物を流し目で見た。そして手に持っていた書に意識を向けた。

 

「あら、また来たの?」

 

「は、はい」

 

 趙玲(ちょうれい)が己が監禁されている部屋に少年を入れたのは、暇潰しだ。この部屋に監禁されてから、趙玲は退屈だった。

 部屋には古今東西の書があったが、もう既に暗記していたものばかりだったので面白みがなく、朝と夜に様子を見に来る入れ墨の女達は何をしても反応が返ってくることは無かった。

 それ故、この少年は己を監禁している頭目が、私のご機嫌取りと暇潰しに送り込んだのだと趙玲は思っていた。

 

「きょ、今日は天気が良いですよね」

 

「…………」

 

 自分を監禁している人物が送り込んだ存在を無視し続けるのは、趙玲の(ささ)やかな抵抗であった。

 

「何を読んでいらっしゃるのですか?」

 

孫氏(そんし)

 

 必要最低限の会話にしかならないので、名無しは困り果てていた。

 初日はある程度の会話があったが、もうすでに名無しに対して興味が失せたようであった。

 

「あっ、……趙玲さんはご出身はどちらで? やっぱりその身に(まと)う高貴な雰囲気通り、邯鄲周辺でしょうか」

 

「…………」

 

 2日目が始まって少しだが、名無しの心はもう折れそうだった。存外、人から無視されるのはキツい。それが絶世の美少女であるのなら尚更(なおさら)

 これがあと7日は続くのだから、辞めたくて仕方ない。

 こんなことなら如春に稽古をつけてもらっていたほうがよっぽど良かった。

 今日が終れば管外にこの任を解いて貰おうと名無しが考えていると、趙玲が口を開いた。

 

「そんなに私と話したければ、私が驚くような(さい)()をみせてご覧なさい。そうすれば少しぐらいなら話しても良くってよ?」

 

 そう言われ、頭の中を全力で回転させる。

 一筋の光明が差したのだ。これを逃すことはできなかった。

 しかし、悲しことに名無しに優れた頭脳は無いし、あっ、と言わせる様な才能はない。

 そんな名無しだが、たったの一つだけこの時代の誰にも負けないと胸を張れる物がある。未来の知識だ。

 趙玲は古代の中国で珍しい、読書をする女なのだ。それも『孫氏』を熱心に読み込む程の。

 ならば名無しの持つ未来知識は彼女に刺さる筈。

 勿論、問題はある。それは時代だ。今、どこの国が優勢なのか、天下を取ったのか。それが分からない以上、テキトウに話す事は出来なかった。

 

「趙玲さん。今、天下の情勢はどうなっているのでしょか」

 

「? 奇妙な事を聞くのね。 でも答えてあげる。 今の中華には七つの国があるの。 北から燕、斉、趙、魏、韓、楚、そして秦。 この七つが覇権を獲ようとしている。これでいいかしら」

 

 趙玲の話の中で国が七つ出てきた。これで確定した。

 この時代は春秋が終わり、戦国の世に突入しているのだと。時代は分かった。後は年数(ねんすう)を知るだけだ。

 

「趙国の前王の(おくりな)は、なんと?」

 

 趙玲は(いぶか)しめた目つきで名無しを見る。

 

「貴方、頭大丈夫? 趙人でしょ、貴方」

 

「頭は正常かと。趙人かはわかりませんが」

 

 あっそ。そう聞こえた。

 

武霊王(ぶれいおう)よ」

 

「はっ?」

 

「武霊王。趙国で最初に王号を称した王。 これでいいかしら」

 

 武霊王。趙国で最初に王号を称した。『故服騎射(こふくきしゃ)』の故事で有名で、中華の戦争で騎馬部隊を導入し、中山国を滅ぼしている。軍事に優れた君主であったか、秦国への合従軍に参加し、失敗。

 王を名乗る資格なし、と王を名乗るのを辞めた。

 没年紀元前295年。

 つまり、名無しがやって来たこの時代は紀元前295年以降の春秋戦国時代、趙国である。

 

「で、どうなの?」

 

 趙玲に()かされ、名無しは自身の知識を披露する。

 

「は、はい。『臣下(しんか)の対処法』について、お話させて頂きます」

 

 その言葉に趙玲は真顔になり、そして内心、嘲り笑う(あざけりわらう)

 彼女が名無しを嘲笑うのは仕方のないことである。

 理知的ではない顔立ちに、ボロい衣類。生傷の絶えぬ小さい身体。

 (いや)しい身分の少年が、臣下への対処法を語る。

 つまり、君主とはどうあるべきか、それを語ると言うのだ。

 分不相応(ぶんふそうおう)。これほどピッタリな言葉はない。

 だが、少しぐらいは聞いてやろう。どんな小さな存在であっても、自我と自尊心を持っている。それを傷つけて襲われでもすれば、趙玲は(かな)わないのだから。

 

「では、話してもらおうかしら。貴方の言う『臣下への対処法』とやらを」

 

 名無しは深呼吸し、気持ちを落ち着かせ、口を開いた。

 

「はい。まず、君主が人を従わせる力は、刑罰(けいばつ)恩賞(おんしょう)の二つから成立ちます。 悪臣は君主からこの二つを奪うために次の八つの方法で君主を惑わします。『同床』、『在旁』、『父兄』、『養殃』、『民萌』、『流行』、『威強』、『四方』。これらの総称を八姦(はっかん)(邪悪な心を持った家来が君主の心を掌握するための八つの方法)と言います。悪臣は八姦を用いて君主から刑罰と恩賞をとりあげ、自分のモノにしようとします。

 君主は臣下に刑罰と恩賞を使わせてはならず、君主自身が握るようにせねばなりません。

 君主が力を臣下に奪われたり、譲渡すると、臣下はこの力を私利私欲のために使い、民が犠牲となり、土地が荒廃する(もと)となります。

 勿論、八姦に対処する方法もございます。それは──」

 

 それから名無しは一切休憩を取らず、臣下への対処法について実話を交え、語った。それは数時間程度では終わらず、名無しが口を閉じた頃には、日没を迎えていた。

 

「──という訳で、君主は臣下に対して隙や好悪(こうお)を知られてはいけません。知られれば国に(わざわい)をもたらすこととなりましょう。以上になります」

 

 話し終えた名無しは、深く呼吸をする。休憩無しに数時間話したのだから、口内は乾き、頭の中はグラグラと揺れている。

 今にも気絶してしまいそうな名無しは、趙玲の顔を覗いた。

 手応えありだ。なんと言っても名無しが趙玲に語ったのは『韓非子(かんぴし)』なのだ。

 紀元前から西暦に至る総ての思想家の最上位に位置する人物の思想が書かれた書物、その一部とはいえ、今の人間では到達できない地点の思想のはず。

 これが通じないなら、もう諦めるしかない。

 趙玲が口を開いた。

 

「話はよくわかったわ。 長ったらしいけど、早い話が『性悪説(せいあくせつ)』ね。孟子(もうし)性善説(せいぜんせつ)とは対局にある荀子(じゅんし)の思想。それを下地にして、権力の扱い方と保持について説いている。とても良く出来た考えね。正直、驚きよ」

 

 驚いた、と言っているが、冷静に名無しの話を分析し、荀子が唱えた性悪説が下地になっていることを見抜いている。

 どうやら彼女は韓非子を一度聞いただけで、理解してしまったらしい。

 思っていよりも、反応が芳しく無い。まるで、もうすでにソレ(韓非子)ぐらいは考えついていると言わんばかりの趙玲の態度に、体力が尽き、話す気力もない名無しは退出しようとする。

 

「ちょっと待ちなさいよ」

 

 趙玲が名無しを引き止めた。

 

「何か?」

 

「貴方の考え、とても良かった。もっと貴方と話したいのだけど、明日も来れる?」

 

「はい。暫くはコチラに来るようにと言われていますから」

 

「そう。それじゃ、また明日」

 

 名無しは一礼して、退出した。

 数時間ずっと喋り続けて頭が痛い。帰ったら今日はもう寝よう。そう思い、帰路につくのだった。

 

 ──────────────────────────

 

 名無しが退出し、趙玲は筆を取る。

 部屋に(あかり)(とも)し、今日聞いたことを思い出しながら、書簡に書き写していく。

 筆を書簡に走らせながら、さっきまでこの部屋にいた少年を思い出す。

 社会の底辺階級に属する、ボロを着た少年が自分と()()()の考えを持っているとは思わなかった。

 

「まったく、天才というかしら。それとも……」

 

 この少女、名を趙玲。年は十三。絶世の美貌を持ち、優れた頭脳を有する。彼女は人生2回目(転生者)だ。前世は、女子高生で、漫画が原作の実写映画二作目を観た帰りにトラックに轢かれた。

 そして気がつくと、眼の前に居た軽薄そうなチャラい男がいて、力を渡された。力の名は、『全知』。

 軍事、政治、農耕、工業、経済、土木、音楽等の知識を与えられ、古代中国に生まれ変わった。

 今世の父は国家の重鎮で、年上の兄と私を大切に育てた。この時代の最高峰の教育を授け、綺羅びやかな衣服を着せた。人が生きていくには厳しいこの世界で、餓えに苦しんだ事もなければ、住む場所、着るものに困ったこともなければ生活に不便を感じたこともない。

 父は優れた指揮官で、武功を挙げ続けて国の重鎮となった。その影響か、私達兄妹(きょうだい)は軍事に興味を持ち、古代の兵法書、父が創り出した用兵術、父と同格の将軍とその配下に戦術を学んだ。

 それにより、私の(転生特典)は成長し、父にも、父と同格の将軍にも、駒を使った模擬戦では負けることはなかった。兄にも才能があるようで、将来は父を超えると息巻いていた。

 十三になった時に、私は王の後宮に入ることを許可され、王の居る王都邯鄲へ向かうこととなった。

 周りの者たちは、祝福する言葉を投げかけたが、父と、兄、私達兄妹に戦術を教えた将軍とその配下たちは、私の意志を尊重しようとしてくれたがそれを断った。

 邯鄲への道中、土砂崩れに巻き込まれたが運良く助かり、髪を短く切ってボロを着て、密かに実家に戻ろうとしたが、人攫いに連れ去られ、今、この部屋に監禁されている。

 

 趙玲には力があり師がいたが、あの少年(名無し)はどうなのだろうか。少なくとも師は居ないだろう。妙に小綺麗ではあるが、衣服はボロだし、高貴な雰囲気ではない。

 だが、先程少年が語った内容はこの時代を超越していた。そうなると私と同じ、転生者だろうか。

 はたまた、偶然に産まれた天才だろうか。

 しかし、どちらでも構わない。私はそれも超えて、父のように、名を世界に轟かす。

 歴史にこの『趙玲』の名を刻むのだ。

 

 だがその前に、やらなければならないことがある。

 

「お腹、()いたわ……」

 

 部屋にくぅーっと腹の音が響いた。

 

 

 




いや本当に次回はもっと速くあげますよ。
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