大通りから外れたところにある一軒の家の前に俺達はいた。
「ここが鬼ババアの店だ。」
ここが如春が言う鬼ババアの店らしい。大通りから外れた場所にあるので人はあまりいない。店の外観は普通の民家のようだ。飯屋のようには見えない。
「フツーの民家に見えるだろ?でも違うんだ。ここを知っているのは俺と管外班長、常連客だけだ。」
「この店は美味いのか?」
「あぁ、安くてなにより美味い。だが、ここをやっている鬼ババアは怒ると怖い。気に入らない奴は客とみなさず身ぐるみ剥がして外に出される。気に入った客や機嫌がいいと
「如春は気に入られているのか?」
「俺は違う。管外班長が気に入られているんだ。俺は班長のオマケみたいなもんだ。」
「
「大丈夫!大丈夫!」
俺は、身ぐるみ剥がされないか心配だから
「おーい!俺だ、如春だ!居ないのか鬼ババアッの
如春は大きな声で失礼なことを叫んだ。その声を聞いて店の奥から如春より大きな声で返事が返ってきた。
「聞こえてるよ!?小生意気な
あまりにも大きすぎる声だったので俺は耳を両の手防いだ。如春は慣れているのか平気そうな顔をしている。鬼ババアは趙香という名前のようで、鬼ババアというあだ名からは想像できない可愛い名前だ。店の奥から誰かがこっちに向かって来た。出てきたのは巨大な体躯をもつ大女が出てきた。その顔は怒っているのが傍目から見てもわかるくらい怒りの色が顔に表れていた。
「声がデケえよ!俺は色ガキじゃねえ!」
「黙りな!声がデカいんだよ!?もっと静かにしなッ!色ボケ如春。」
「色ボケじゃねえ!そっちのほうが声デケえだろ!」
「他の客の迷惑だろ!?注文ないならとっとと帰りなッ!?」
「他に客なんていねえだろ!この店!あと俺は—」
「あのーすいません。注文いいですか?」
このままほっとくと話がヒートアップしそうなので俺は二人の間に割って入った。突然割り込んだ邪魔者に二人は顔をこちらに向けた。
「おい名無し!割ってはいんじゃねぇ!すっこんでろ!!」
「あんた、
「はっ俺が鍛えてんだ!大丈夫だっつの。それに、こいつ才能あるんだぜ!」
「如春が鍛えているから心配なんだけどねえ。」
「俺が鍛えてやってんだ!いつか将軍くらい一撃で倒せるくらいに強くなる!」
「ふーん。こんなヒョロガリがねえ~。」
如春の言葉を軽く流してこちらを値踏みするように俺を見る。
「…強くなる
「そりゃ木刀とはいえ剣を初めて持ったくせにビビらず攻撃できんだ、なにより俺と模擬戦を
この言葉を聞いて店長は驚いた顔をしている。どうやら如春との連続の模擬戦のあと動ける俺にたいして驚いているようだ。
「あんた、それ本当かい?」
「信じられない」といった表情で店長は聞き返した。
「ああ、本当だ。ついさっき模擬戦したぜ。五十回連続で。」
「それが本当なら期待の新人だね。将軍を一撃できる奴がいるなら如春はいらないね!!」
「いーや!こいつがそれぐらい強くなってんなら俺は大将軍を一撃だ!!」
趙香は呆れたように如春に言った。
「まったく、バカだねえ。大将軍を斬るなんてあんたじゃ絶対ムリだよ。」
「絶対斬れる!!」
「ムリ。」
「斬れる!!」
「ムリ。」
「斬れ—」
グゥゥゥゥゥゥ……
斬れる、斬れない、のループを切ったのは俺の腹の音だった。
「ホント注文していい?腹減って死にそう。」
「…そうだな。腹減ったし。なによりバカらしい。」
「如春の言うとおりさ。どうでもいいコトで騒ぎすぎたよ。それで、ご注文は?」
俺はこの時代の料理名なんて知らないぞ。炒飯や拉麺、回鍋肉でいいのか?
「えっと、その〜肉料理で。」
「…肉料理ね。如春は?」
「俺は腹にたまって美味ければいいや。」
「それじゃてきとうに作るからね。おとなしく席で待ってな。すぐ作ってやるからさ。」
趙香はそう言って店の奥に戻っていった。店はカウンター席でイスは七つ。あまり広くはない。厨房はこの空間にはないが通路が見えるのでその先で調理しているのだろう。俺は如春にどうしても聞きたいことができた。
「なあ如春、さっきの大丈夫てっ言うのは、ウソ?俺にウソついたの?」
「…今日は機嫌が良いって思ってたんだ。うん。しょうがない。」
「ふーん。しょうがないんだ。」
「そうだ、しょうがないんだ。」
「…」
「…」
「大丈夫じゃねえよ!?機嫌よくねえよ!?しょうがなくねえよ!?」
「落ち着け名無し。」
「落ち着いてるって!」
「だったら声下げろ!」
五月蝿くしすぎたらしく店の奥から
怒鳴り声が響く。
「小僧どもうるさいよ!?静かにしないとひん剥いて放り出すよ!?」
「…黙って、待つか。」
「…そうだな。」
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「出来たよ!たくさん食べな!」
待つことおよそ二十分。注文した料理が俺達の前に運ば
れてきた。料理から食欲を唆るいい匂いが俺の鼻孔をくすぐる。しかし、問題が一つ。
「おお!美味そうだな。ん?おい、名無しどうした、食わないのか。」
「た、食べるけど、量ちょっと多くない?」
皿に山盛りに盛り付けられた料理はとうてい子供の身体に収まりきらないほどだ。元の身体でも食べきれないだろう。
「そうか?ベツにフツーだろ。これくらい。」
如春に出された皿を見ると自分に出されたものより量が多い。このサイズがこの店の基準なのだろうか。明らかにビッグサイズ、いや、モンスターサイズ。昔テレビで放送されていた大食いチャレンジに出てくる量以上。俺は肉料理を注文したので如春に出された料理より油が多く食べづらい。あまりの量に圧倒されている俺を尻目に如春は大きく口を開けて食べている。傍から見れば美味しそうに食べているな、と思うがそんな余裕はいまの俺にはない。流石に食べきれないので如春に助けを求める。
「なあ、如春。俺の肉料理少しいらないか?」
助けを求める俺に如春は顔をムッとさせ言った。
「お前な、護衛班の仕事中はマトモなのは食えねえ。今のうちに美味いもん食っておかねえと後悔するぞ。」
それ以降如春が食べている間、いくら話しかけても如春は自身が食べ終わるまで俺の声を無視し続けた。救いを失った俺に趙香は追い打ちをかけるように言った。
「お残しは絶対に赦さないからねえ。」
と言い残してまた奥に戻ってしまった。
その言葉に項垂れたが食べきらないといけないとマズい、そう感じたので俺は目の前の巨大なモンスターに挑んだ。
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「ウゥゥ…吐きそう。」
巨大なモンスターとの戦いに勝利した.しかし、勝利の代償は大きくまともに歩くことが出来ない俺は如春に背負われ夜の街を進んでいた。
「き、キモチ、ワルイ、如春。」
「俺が気持ち悪いみたいなこと言うな。そんな無理して食うのなら肉料理なんて注文したんだ?」
「そ、それは…」
言えない。メニューがわからないからてきとうに肉料理を注文したなんて。もし如春が知ればきっと大笑いする。
「身体を作るために肉を食わないといけないがそんな無理してまで食うなよ。そんなに腹が減っていたのか?」
「…たしかに腹は減っていたがあんなにデカイとは思っていなかっただけだ。」
「まあ、お前にはきついか、チビだし。」
「は?俺はまだ子供だからこれからデカくなるから。如春はそれ以上デカくならないけど俺はデカくなるから。デカくなるから。」
「…なんで三回もおんなじことを言ったんだ?」
「すっごく大事なことだから。」
「ふーん。それまで死なないことだな。」
「死なせないために鍛えてくれるんだろ?」
「明日も明々後日も鍛えてやるよ。」
「なあ鍛え終わったら、俺は何をすればいいんだ?」
「…俺より強くなったら修行は終わりだ。まあ、俺より名無しが強くなるなんてねえけどな。」
如春は俺が「人を殺せる」よう強くしている。だが、悪人ではない。如春は小生意気な子供に身銭を切って飯を奢り、俺を死なせないために鍛え、心が腐らないよう気に掛けてくれる。それは
泊城(はくじょう)ガイド①
趙国にある交易路で王都・邯鄲から近く、西は秦国、南は魏国に続いている。主な税収は商人や旅人が街で購入した商品(人、食物、水、馬etc…)売値の20%が税収となる。オススメは屋台や出店の串焼き。生物の肉であることは確か。胃腸が弱いと腹痛をおこす。