妖怪退治の相棒は「おむすびの神様」です ~戦う現代の巫女、陰陽五行の少女たち VS 妖怪軍団 百物語~ 作:繭山 巣立
少し時間がさかのぼる。白兎の巫女が校舎から飛び出した直後のことだ。
「――何が、起きているの?」
ほたるの目前で広がっていた光景は、日常では絶対にありえないものばかり。
強い力で押し付けられたかのように、ひび割れと共に廊下に残るわらじの跡。壁が壊され、踊り場からは絶対に見えないはずの校庭が見える。そこでは鉄アレイの怪物と、巫女装束の少女が戦っていた。
そして、廊下には目を回した手足のあるおにぎりが落ちていた。
「顔、ついてる」
「う~~ん」
「喋ってる……。何このおにぎり」
「おむすびだ!」
少女の『おにぎり』という言葉に反応して、御ムスビ様が覚醒し飛び起きる。力は使えないが、実体化はできる程度に回復したので、きずなの肩に乗るような形で出現したのだ。しかし、それがちょうど変身直後だったため、踊り場破壊時のジャンプの際に振り落とされたのだ。
「ぼくは『
「……はい、わかりました」
少女はあっけにとられるままに無難な答えを返した。
鉄アレイの怪物やそれと戦う少女と比べれば、喋るおむすびなんかは大したことない。
そう判断した。現実逃避したとも言う。
「――神威陽光波ーッ!」
「ひゃあぁ!?」
すると、白兎の巫女から放たれた光が、踊り場の穴から一人とおむすびにまで届いた。御ムスビ様に気を取られていたほたるは、慌てて校庭の方を見る。
そこでは、少女と怪物の戦いが本格的に始まっていた。
光の攻撃から逃れた怪物が襲いかかる。少女はジャンプで回避する。
そして、背後へ回り込んだ少女を怪物がその豪腕で弾き飛ばした。
「――!!」
上白きずなを追いかけている時、彼女の方からぶつぶつと呪文の様なものが聞こえた気がした。戦っている少女の衣装は、巫女服の要素を持っている。
顔も何処と無く見覚えがある、ような気がする。
信じられない。けど、この直感が正しければ――
(戦っているのは、上白さん!?)
声が出なかった。
ふっとばされ、野球のネットに絡まり、動けない少女。
それに向かって動く、鉄アレイの怪物。――助けなきゃと、とっさに思った。
「上白さぁぁん!!!」
その時だった。少女の声に反応して、御ムスビ様の腹から具が飛び出すかのように、赤い『神様勾玉』が出現。輝く勾玉は少女の元へと飛んで行き、ほたるはそれを咄嗟に掴んだ。
「君の中の適正に、『火』の勾玉が反応した!」
「どっ、どうすればいいんですか!?」
「勾玉を握り締めたまま、自分にとっての強さをイメージするんだ! 強い自分を思い描けば、自然と魂が言葉にこもる! それは『卍句』となって、君の強さを形にする!」
「自分の、強さ。自分にとっての、強さの形」
変身した上白きずなはネットに絡まれたままで、トドメを刺そうと鉄アレイの怪物が襲いかかっている。時間は、ない。
「――『変身、命の不死鳥』!」
死の否定。命の肯定。つまりは、助けたい。
その一心で握り締めた勾玉からは、炎があふれ少女の身体を包み込んだ。
同時に階段から飛び降りる。走っていては、間に合わない。
だから、ほたるは翼を望んだ。
飛んで行けば、間に合うかも。
その思いを汲むかのように、変身が一瞬で終了する。
茶色みが強い髪は真っ赤に染まり、ほどかれた三編みが猛々しい
それは、ハイヒールを履いた大胆な衣装だった。中学生の女の子が着るには、少々ではない勇気がいる服装。そんな派手な姿こそが、不知火ほたるにとっての強さの象徴だった。
大胆な姿は少女なりの覚悟と理想。彼女にとって、勇気こそが強さ。
そしてその背中からは、炎の翼が広げられている。
羽ばたくたびに火の粉を散らしながら、飛行機雲のような炎の軌跡を残し、最短、かつ最速で同志の元へ向かう。
振り抜かれた鉄アレイの腕が叩きつけられ、野球のネットごと校庭を放射状に割った。しかし、その腕が白兎の巫女を潰すより、不死鳥の巫女が救出する方が速かった。
「オォン?」
「……何者」
唐突に現れた新参者に、その言葉で尋ねられる。
「――『燃え盛る、命の炎』。『火』の巫女、ザ・フェニックス!!」
翼と火。その二つから連想した幻獣の名を、不知火ほたるは自らの名として宣言した。
「え? 不知火さん……?」
「そうです、上白さ……いいえ、きずなちゃん。助けに来たよ!」
白兎の巫女を抱き抱えたザ・フェニックス。
彼女は翼をはためかせ地上の鉄アレイ妖怪と距離を取る。
「あ、ありがとう、助かった!」
「ううん、お役に立てて何よりだよ」
「あ! けど、このままのんびりしてたら敵の攻撃が……」
「それはたぶん大丈夫。そうなるような能力を欲しいと思ったから」
「どういうこと?」
抱きかかえられたまま、白兎の巫女は首を傾げた。しかし事実、不死鳥の巫女の言う通り鉄アレイ妖怪は攻撃を仕掛けてこない。
「アレ?」
「だって届かないからね」
「あぁ、そりゃそうか!」
鉄アレイ妖怪に翼などない。腕を振り回しても届かない範囲の相手には、当然攻撃など当たらない。車輪のように身体の一部を高速回転することで機動力を補っているが、その重さから飛び上がるには向いてない。
故に高度を保って距離を置いていれば、攻撃をくらうことはない。
そう考えたから、ほたるは翼の能力を求めたのだ。
上白きずなを助ける。その上で、続くあとの戦闘を優位にする。
目的を見据え、敵の特徴と弱点を見極め、自分なりの最適解を冷静に導き出す力。今の自分に必要なものを、言語化する能力。
彼女はその力に長けていた。
そんな少女が『神様勾玉』に願った力は2つ。
1つは飛行能力。もう1つが――。
「どーするかなぁ」
無関心かつ他人事のように、謎の少女は唐突に現れた2人目でなく、大穴が開いた校舎の方を見た。
「オソレを集めるのを優先しちゃうか」
「オソレヨ!」
少女の指示に、鉄アレイ妖怪が校舎目掛けて動き出す。
「追いかけなきゃ!」
「私を降ろして! いや、落として、ザ・フェニックス! 着地は自分で何とかするから、あいつの妨害を! まだ校舎には人がいるかもしれない!」
「いや、そんな落とすなんて……だからちょっと待って。作戦を思いついたから」
砂埃を巻き上げ、回転音が響き渡る。
ぐるぐるギャリギャリ回転する、鉄アレイ妖怪の車輪部分。回転速度と移動速度は比例し、激突によって生じるエネルギーも増す。校舎に与える被害は、この攻撃が今までで最大だ。
「んー、やっぱり追ってきたねー」
そんなことはさせないと、白兎の巫女を地面に降ろした不死鳥の巫女が、炎の翼をはためかせて追いかける。それは全身から炎が吹き出した、まるでロケット噴射のような加速だ。
速度は白兎を救出した際より速い。
鉄アレイの回転が最大速度を出すよりも、『火』の巫女の方が速い。
このままでは追い付かれる。
だから迎え撃つ。
追い付かれる直前、背後に近づいた瞬間の急停止。白兎の巫女をネットに弾き飛ばしたように、360度回る一撃で、鉄アレイの振り抜く拳をくらわせる。
これにより、不死鳥の巫女が砕け散った。炎となって。
「何これ」
そのまま砕け散った炎が、長いロープとなって鉄アレイ妖怪に巻きつく。空中に残っていた炎の軌跡すらも、ロープとなってまとわりついていく。
そして、曲線状の炎の軌跡が全てロープとなりピンと張った時。爆炎に隠れていた不死鳥の巫女の本体が現れた。
「ああ、なるほど。炎で出来た偽物か」
不知火ほたるが欲した、不死鳥の巫女のもう一つの能力。
それこそが炎の自在操作。つまりは想像の翼を広げ、炎を自在に操る力だ。
読書によって培われた想像力と、生み出した想像を明確にする言語化能力。これにより、彼女は人間やドレスといった細やかなものまで炎で再現できていた。更に操作する炎は、物理的に干渉することができる。
「力尽くで振りほどけ」
「オォン……オォン!?」
少女の指示に従い鉄アレイ妖怪は力を込めるが、その瞬間に炎をすり抜けてしまう。つまりは、普通の炎に切り替えることも可能だった。二つを使い分けることで、もがけばもがくほど炎の縄が絡まっていく。
そして、不死鳥の巫女は自らの背中にジェットエンジンを模した炎を作り出し、鉄アレイ妖怪に背を向けた。その全身に炎の縄が巻かれ、鉄アレイ妖怪と自身を強く結びつけている。
その、ピンと張られた炎の縄の下。鉄アレイ妖怪とフェニックスを二点とした直前上に、『陽』の光を十分に溜め込んだ白兎の巫女が立っていた。
「なーんか、いやーな予感がするなー」
謎の少女の予感は的中した。
「カウントダウン! スリー!ツー!ワン! マキシマム!!!Go!!
ファイヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」
ジェットエンジン型の炎から放たれる爆炎により、鉄アレイ妖怪の巨体が、いつでも『神威陽光波』を放てる白兎の巫女へと引っ張られていく。
車輪の鉄アレイを回転させようにも、炎の縄が絡みつき思うように動かせない。
そのまま地面に踏ん張りの跡を残しながら、白兎の巫女の元へ。
「オォォォォォォォォォン!!!」
踏ん張りがきかない状況に、鉄アレイ妖怪の雄叫びから焦りが感じ取れた。
「逆回転だよ。敢えて突っ込め」
対照的に、まるで焦らない謎の少女が冷静に指示を出す。
踏ん張れないのなら、全力で突撃しろ。
「オォォォォン!!」
「うわあぁぁっ!」
鉄アレイ妖怪が指示に従ったことで、ピンと張られた炎の縄がゆるみ不死鳥の巫女は大きく前へつんのめった。慌てて爆炎の放出を止め、翼で体勢を立て直す。
更に爆炎を操作し前に突き出した両手の先へと集め、鉄アレイ妖怪にまとわりついた炎の縄に繋げる。
「これだって想定内なんだからぁッ! 『
そして、『火』属性の浄化技がフェニックスの両手から放出された。
火炎放射が炎の縄をつたい、鉄アレイ妖怪に命中する。
「ヤッベ。にげろにげろー」
「オォォォォン!!??」
上半身が炎に包まれ、断末魔の悲鳴を叫ぶ鉄アレイ妖怪。
それを他所に、謎の少女はあっさり撤退した。
鉄アレイ妖怪の影へと飛び込み、沈んでいく。
「どりゃあぁぁぁぁぁ!!!」
そのまま不死鳥の巫女は炎を操り、再び鉄アレイの体を炎で縛り上げた。
全力で引っ張り、白兎の巫女まで引きずって行く。
「ありがとう、フェニックス! これで当てられる!
『神・威・陽・光・波』ーっ!!!」
渾身の叫びと共に眩ゆい白光が広がり、鉄アレイ妖怪が消滅した。
「むー、炎に光。よりにもよって、ボクの苦手なのがそろうとはなー」
浄化がなされた瞬間に、破壊が無かったことになった校舎の影。薄暗いその片隅で、壁の影に垂直に立つ謎の少女は、無感情な独り言をつぶやいた。そしてそのまま、影に沈んでいくのだった。
「まぁいいや、オソレはちゃんと集まった。ボクは仕事をちゃんと終えた。後は帰って、みんなに報告するだけだよね~」
☆☆☆☆☆
その後、戦闘を終え一段落ついてから、上白きずなと不知火ほたるは帰路についていた。時刻は夕方、黄昏時。お化けと逢うとされる時間帯。
「本当にありがとう、ほたるちゃん。ろくに何も説明できてなかったのに、私を助けてくれて」
「大したことはしてないよ。そもそも助けてくれたのは、そっちの方が先でしょ。自分はただ、恩を返そうとしただけ」
話をする内に、いつしか二人は名前で呼び合っていた。帰る時間がこうも遅くなったのは、巫女の説明以上に雑談が盛り上がったからだ。
「あはは。大したことをしてないのは。私も一緒だよ」
と、言いつつも、きずなは落ちてきた本でできた、頭のたんこぶをさすっていた。それと同時に、サラサラでツヤツヤな彼女の白髪がなびいた。
「家に帰ったら、ちゃんと冷やしたりした方が良いよ?」
そう労りながら、ほたるは朗らかに笑った。茶色みの強い彼女の髪が、夕陽を浴びて赤みが増している。
ひとまず一人、仲間が増えた。
二人は分かれ道に到達するギリギリまで歩いて、笑いながら帰った。
残る陰陽五行の巫女は5人。「水」「土」「木」「金」、そして「陰」である。