妖怪退治の相棒は「おむすびの神様」です ~戦う現代の巫女、陰陽五行の少女たち VS 妖怪軍団 百物語~   作:繭山 巣立

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3話 独りぼっちの天才、水の巫女の涙! 後半

(――やってしまった……)

 

 何をしているのだ自分は、品のない。言いたいことを一方的に言って、勝手に会話を打ち切って。よくよく考えれば、わざわざ呼び出された理由も聞かずに飛び出してしまったではないか。

 

 きずなとほたるの2人から立ち去った後、しずくはそう1人自己嫌悪に陥っていた。1人になりたい気分だったから、迎えの車を断って、とぼとぼと肩を落として下校していた。

「わたくしは一体、何を言っていたのでしょうか。あんなことを急に言われても困るだけに決まってるでしょうに……」

 その口からは、ぼそぼそと後悔の念が漏れ出していた。

 

 そんな彼女に対し、頭の上から声が告げられる。

 

「あんまり気にしない方がいいよ。うちの2人も全然気にしてないからさ」

「!? あなた、さっきのおにぎり! どうしてわたくしの頭の上に!?」

 

「おにぎりじゃなくておむすび! 君だってこの町に住まうなら知ってるでしょ? ぼくは御ムスビ様。この町の氏神であり、土地神であり、守り神さ。あちこちにぼくの祠があるから、神守町の範囲内でならぼくは何時でもどこでも顕現できるのさ。見えるかどうかは人間側の資質によるけどね。ちょっと君のことがほっとけなくなったから、こっちを優先しちゃった」

 

「は、はぁ……」

 

 季節ごとにあるお祭りで、確かに御ムスビ様の名は聞いたことがある。

 なので本当にいたんだという驚きで、しずくは次の言葉が続かなかった。

 そのまま一気にペースを握られたからだろう。

 続く御ムスビ様の言葉に、少女は聞き入ってしまった。

 

「しずくちゃん。君はね、とっても自由なんだよ。何でも出来ちゃう環境にいて、おまけに能力まであるから、やれることが多すぎる。そして人間は、自由すぎると不安になっちゃう生き物なんだよ」

 

「そう、なんですの?」

 

「自由ってことは束縛されてないってことで、つまり自分を引き止めてくれるものが何もないって事だからね。束縛されることに安心を感じることはある。それもまた人の心の一面さ。

 ある意味、君が置かれている状況はとても残酷だと言える。海原でただひとり、指針なしでイカダに乗ってるようなものだからね。どっちを向けばいいのかわからない。どこへ行けばいいのかわからない。もっと言うなら、どうなれば助かったことになるのかすらわからない」

 

「……はい、そうです。その通りですわ」

 

 図星だった。どうして、ここまで自分の心を見抜けるのだろうと思うぐらいに、御ムスビ様は的確に核心を突いていた。だからm彼女は何も言えることがなく、ただ相づちをうっていた。

 

「君は将来、何になってもいい。どんな夢を抱いてもいい。そう肯定されるからこそ生まれる不安も、世の中には普通にある。あって当たり前のものだ。特に君の場合、天才過ぎて選べる道が多すぎるからね。誰も自身を持って、この道を進みなさいなんて指し示すことはできない」

 

「じゃあ、神様であるアナタなら、わたくしに歩むべき道を教えてくれますか?」

 

「残念ながら、ぼくはそういう存在じゃない。八百万の神々は自然の化身、人間にああしろこうしろなんて命令はあんまりしない。ただ同じ大自然の一部同士、側にいるし見てるよ、ずっと」

 

 手の上に載って朗らかに笑い、優しい表情を向ける御ムスビ様。その素朴な表情に、なんだか涙が出てきた。

 下校途中の帰り道。歩道の端で、立ち止まる龍水しずくから嗚咽が漏れた。

 そんな少女の顔を覗き込んで、御ムスビ様は言った。

 

「よし、しずくちゃん! ぼくのことを食べなさい!」

「……えぇっ!?」

 

「いいかい。難しいことってのは、お腹が空いてる時に考えちゃあダメなんだよ。そういう時は大体ろくなことを思いつかないからね。しんどいこと、辛いこと、苦しいこと。そういうのは、お腹いっぱいの時にこそ考えるべきなのさ。だからガブリといきなさい。神様のお米で出来たこの体、一口食べれば百人力! おいしいよ!」

 

「で、ですけど……」

「さぁ!遠慮は無用!」

「で、では失礼して……」

 

 かぷり。

 周りに人はいないとは言え、下校中の往来で大口を開けてかぶりつく、というのは恥ずかしくてできなかった。

 なので、おむすびのてっぺんの尖っているところだけ、小さくひと口かじってみる。すると。

 

「――おいしいですわ。しみじみと、おいしいですわ」

「そうだろう、ぼくの自慢の体だからね」

 

 それだけで、少し気持ちが楽になった気がした。

 思えば、こんな風に下校中も食べ歩きなんてしたことはない。

 河川敷の河沿いを、おむすび持ってかじりながら歩く。

 

 天気は晴れ。お米は甘く、ほのかにしょっぱい塩味がする。

 そして、具は春の香りがする梅だった。河川敷沿いでは桜が咲いている。

 

 季節の美しさ。今日という日の眩しさ。空の青さ。

 そういったものに気づけるぐらいには、ちょっとだけ視野が広くなったかもしれない。言葉にできない開放感がそこにはあった。

 

「一歩を少し踏み出してみる。すると景色が変わって見える。おいしいものでお腹がいっぱいになると、とりあえず気分が良くなる。世の中は難しいものだけど、あんがい単純だよ」

 

「――その通り、かもしれませんね」

 

 気づけば無意識のうちに、もう一口食べていた。

 

 河川敷の向こうで火柱が立ったのは、ちょうどこの時のこと。

 それと同時に、おむすびの具が飛び出すかのように、青色の『神様勾玉』が御ムスビ様から出現する。

 

「来たか」

「え!? あの、御ムスビ様? これは、いったい……」

 

「選ぶときが来たんだ、龍水しずく。詳細は省くけど、ぼくらはこの世とあの世のバランスを崩した謎の妖怪たちと戦っている。目的はわからない。もちろん、危ないに決まってる。けど、神様の世界だけじゃなく人の世にまで影響が及ぶのなら、それは解決する上で人の手が入ってるべきなんだ」

 

 顔の欠けた、御ムスビ様の顔。自分の歯型が残ったままの、神様の姿。しかしその表情は真剣そのもので、食べかけの顔程度では揺るがない気迫があった。

 

 しずくは神妙な面持ちで、神守町の土地神の言葉に耳を傾ける。

 

「君がやる必要はないけれど、人間の世界に驚異が迫るなら、人間自身が立ち向かわなきゃいけない。自分の世界を守るために。誰かが、やらなきゃいけない。ぼくら八百万の神々は、抗える力をちょっとだけあげて少し背中を押すだけだ。

 君を勧誘する気でいたあの2人は、誰かがやらなきゃいけないなら自分がやると、一歩を踏み出した」

 

「急にそんなことを言われましても、わたくしは――」

 

「残酷なようだけど、君は自由だ。何を選んでもいい。ただし、今この場で、この瞬間に、決めなければならない。世界や人生、そして縁とはそういうものだ。さぁ、どうする?」

 

 じっと瞳を見つめてく、御ムスビ様の欠けた顔。

 それを見ている内に思い出すのは、まだ口の中に残ってるおむすびの味。

 そして、その時にふと見上げた空の青さだった。

 

「……踏み出したいと、思います。アナタにもっと、わたくしのことを見守ってもらいたいと思うから。この平穏を乱す者がいるのなら――抵抗したいと思います」

 

「ならつかんで、神様(ぼくら)の勾玉を。そして思い描くんだ、困難に勝てる強い自分を!」

 

 そして、龍水しずくが『水』の『神様勾玉』を掴んだ時。

 足が火柱に向けて駆け出す中、自然と言葉がつむがれた。

 

「『変身、海原の姫』!」

 

 戦う2人の巫女との合流を目指す中、彼女の姿が変わっていく。

 

 青みの強い、光の加減で藍色にも見える少女の黒髪が、完全な海色に染まった。

 きらめく泡と渦巻く水が、少女を理想の自分へと変えていく。彼女の姿は制服――セーラー服――のまま、竜宮城の乙姫のような衣装へと変わった。

 

 それは強い自分を思い描いた結果、制服とは似ても似つかないドレス姿へと変身した不知火ほたるの真逆。今の自分のまま、一歩踏み出せる力がほしいという願望の現れだった。

 

 すでに自分は強いのだから、あとは、ほんの少しの変化でいい。

 そんな、無自覚な天才の自負が反映された変身だった。

 

 彼女の手足には、光の反射によって表情を変える、虹色にも輝く魚の鱗がある。透き通る流水は実体を持ち、乙姫のヒレに似たヴェールとして彼女を彩る。

 

 そして、泣きぼくろを隠すような、雫型のペイントが塗られた時。

 彼女は戦場に到着。そのみずみずしい唇から、自身の名が告げられた。

 

「『ふり注ぐ、恵みの雨』。――『水』の巫女、『アクア・レイン』!」

 

【挿絵表示】

 

「3人目だとぉ!?!? しかもよりにもよって『水』の巫女って、相性最悪じゃねぇかぁ!!!」

 

 流石にこれは想定外。ソウリュウは自身の爪で頭を抱え、憤るままにかきむしった。一方、合流した雨の巫女は他2人の巫女に尋ねる。

 

「状況は?」

 

「自分の炎が吸収されるせいで、決定打に至らない!」

「らちが明かないから私が河の水かぶって突っ込んだんだけど、すり抜けて攻撃が当たらなかった!」

 

「……わかりました。では、わたくしが前に出ます!」

 

 次の瞬間、青いオーラを全身からあふれさせながら少女は駆けていた。

 一歩足を踏み出すたびに、ちゃぷんと大地に青いオーラの波紋が広がった。

 一歩、二歩、ちゃぽん、ちゃぷん。

 踏み込むたびに水音と共に波紋が広がり、重なるたびに雨の巫女は加速した。

 

「ええい、想定外だがやるしかねぇ! 放て、一ツ目マッチ箱!」

「オソ!」

「避けるまでも――ない!」

 

 マッチ箱妖怪の手が風車のように周り、そこから火炎弾が降りかかる。

 だが、雨の巫女は回避行動すら取らなかった。

 迷うことなく直進し、火炎弾に突っ込んだ。

 

 そして水煙が広がり、中から無傷の彼女が速度を落とさず現れる。

 

「オソ!?」

「ひるむな! 炎がダメなら、テメェの巨体で押し返せ! 拳で立ち向かうんだよぉ!」

「オソ!」

 

 指示に従い、マッチ棒の拳を繰り出すマッチ箱妖怪。

 その一撃に、雨の巫女は真っ向から勝負した。

 自身と相手の力量差を計った上で、負けないと判断したからだ。

 

「――『青気功(あおきこう)発勁波紋(はっけいはもん)』」

 

 妖怪と少女、体格差の違う2つの拳がぶつかった時。

 

「正面から受けて立って……」

「炎を吹き飛ばした!?」

 

 均衡が生まれた時、同時に巫女の拳から青いオーラが波紋のように放たれた。

 衝撃波が水面を伝い、波が生まれるように、青いオーラがマッチ箱妖怪の体を伝達し貫通。その結果、体にまとっていた炎がかき消され、中からマッチ棒のような細い本体が現れた。

 

【挿絵表示】

 

「そうか、アイツ骨組みだけだったのね! あくまで炎でマッチ箱っぽく見せかけてただけ!」

「だからラビットの攻撃がすり抜けたんだ……。芯の部分に当たってなくて、炎の部分を素通りした訳だ」

 

 マッチ箱妖怪は、実はマッチ棒妖怪だった。その驚愕の事実が明かされたことで、ソウリュウは更に頭を抱えた。

「ちくしょーっ! バレたーッ!」

 

 そして、雨の巫女が2人の巫女に告げる。

「マッチ棒は任せましたわ!」

 言うが早いか、少女は更に加速。マッチ棒妖怪の脇をすり抜け、鉄橋の上に立つソウリュウめがけ走り出した。一歩、二歩、三歩。小気味よくトントントンと、一定のリズムで3つの音が連続した時。

 

 三拍子で鉄橋の柱を駆け登った雨の巫女は、頭を抱えたソウリュウの元まで一気に距離を詰めていた。

 

「――あ゛? (……なんか、すっげぇ嫌な予感!)」

 そのまま彼女は右腕をひねりながら貫手の構えを取り、虚を突かれたソウリュウに向けて、正拳突きの要領で突き出した。

 

「『青気功(あおきこう)・渦まき貫手(ぬきて)』!」

 

 青いオーラをまとったひねられた貫手が、元に戻りながら突き出された時。

 オーラはそのまま渦を巻き、衝撃波をまき起こしながら一緒に突き出された。

 巫女の百人力の怪力と、少女の技術。そして青いオーラの破壊力が合わさった一撃は、腹部に攻撃をくらったソウリュウを吹っ飛ばす。

 

 鉄橋の欄干にぶつかった体は、欄干を壊しながらも威力は落ちなかった。その結果、吹っ飛ばされたソウリュウは鉄橋から落下。河に叩き込まれたのだった。

 

「すごい、アレが水の巫女レインの力! 『水』属性の(オーラ)をまとった気功術にして格闘術! あの子はあの年で外気功と内気功を使いこなし、縦横無尽に活用できてるんだ!」

 

「ラビット、専門用語をワッと洪水みたいに浴びせないで!? 自分みたいな一般人にはわけ解んないよー!」

 

「じゃあ分かることを言うと、新入りにばっか頑張らせられないってことかなぁ!」

 

 残るは、炎を失ったマッチ棒妖怪だけ。

 2人の巫女は、同じ意思を有したままそれと向き合った。

 せめてアイツぐらいは、自分たちで倒すと。

 

「フェニックス、炎で道を作って! 私はまだ自分のパワーを使いこなせないけど、道筋さえつけば突っ込める!」

「了解、『浄火炎』!」

 

 そして、不死鳥の巫女の炎の翼が、渦を巻いてマッチ棒妖怪の一ツ目にまで道を作る。その中を白兎の巫女が、自慢の脚力でかっ飛んでいった。

 

「オソ!?」

 

 頭突きの直撃を一ツ目にくらい、マッチ棒妖怪はバランスを崩した。

 ダメージにひるみ、動けない。

 

「――『神威、陽光波』ァーッ!」

 だから、最後の浄化技をかわせなかった。

 

「……チクショー。誰か俺を回収してくれー……」

 そして河に落ちたソウリュウがそうつぶやくと、何処からともなく影の濃さが増し、彼の全てを飲み込んでいった。これにより本日の戦いは、終わりを迎えたのだった。

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

「じゃあ、これあげる。仲間の証だよ」

 そして戦闘終了後。しずくは、きずなからお守りを手渡された。

 予め準備されていたものだ。

 

「えっと、これは……?」

 

「私が作った、おむすび神社のお守り。『神様勾玉』をこの中にいれて、肌身離さず持っておいた方がいいと思ったからね」

「自分も同じの持ってるんだよー。しずくちゃんも、これで巫女チームの一員だね!」

 

 ほたるは、しずくと肩を組みながら。

 きずなは、お守りを手渡しながら。

 2人同時に、自分たちの色違いのお守りを見せつけてくる。

 

 友達のいなかった龍水しずくにとって、全てが初めての経験だった。

 

「……グスッ」

「おお、そこで感極まって泣いちゃうのか。情緒豊かだねー、しずくちゃん」

「よしよし」

 

 ほたるが背中をなで、きずなが頭をなでる中。

 しずくは泣きながら笑っていた。

 

「お二方。これからよろしく、お願いいたします……!」

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