前線に紡ぐ物語   作:鞍月しめじ

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13.慰問

 

 それは、なんてことない普通の日常だった。

 ほんの数年前、イリヤはR05地区で一般人として汚染と闘いながら暮らしていた。しかしある日、とある事件が起きて戦闘に巻き込まれた。

 彼女はR05地区防衛戦闘にて、避難に遅れた家族もろとも流れ弾を受け、瀕死の重傷を負った。だが、彼女の唯一の家族であった姉は助からなかった。

 

 イリヤは襲撃者の正体を突き止め、同時に防衛戦を繰り広げたのがグリフィン&クルーガーであると知った。

 ──家族を奪ったのも、イリヤの足を奪ったのも、まさに今彼女が身を置くグリフィンなのだ。

 

「……まさか今になって、そんな人間が出てくるなんて思わなかったわ」

 

 車椅子を停め、重苦しくため息をつくイリヤ。

 本当に、レヴォーヴナが件の作戦に関わった人間だとするならイリヤにとっては複雑な心境だ。ヘリアントスには問題無いように伝えはしたが、やはり割り切るには難しい。

 ただ、彼女が何を考えて722基地に来たのかは知りたい。だからイリヤはレヴォーヴナを採用することにした。自分の近くに置くためだ。

 MTs-255に彼女の正体を言えはしないが、採用自体に異論は唱えないだろう。人形である以上、それは覆らない。

 

 いつもより基地が暗く、空気は重く感じた。レヴォーヴナに採用を通知し、基地の案内を人形に任せてもイリヤの気持ちはどこか晴れなかった。

 

「おやおやぁ? 指揮官ちゃん。今ヒマしてるの?」

「MCX? ……忘れてた。今日はオフだったんだわ……」

 

 通路で悩んでいるイリヤの前へ現れたのはMCXと呼ばれる戦術人形。捜索部隊で編成されたVSK-94とおなじ、警察局の人形でもある。

 険しい顔立ちのVSK-94と違うのは、制服の襟から首筋に見えるタトゥーといったヤンチャな雰囲気か。性格も当然、かなり違う。MCXはイタズラ好きだ。イリヤにも度々、ゲームと称してカードゲームを仕掛けてくる。

 

「面接あったんでしょ? どうだったの?」

「採用したわ。今夜、夕飯時に紹介するから」

「しーきかーんちゃーん? 何かあったんでしょ?」

 

 MCXは鋭い。本人は飄々とした雰囲気ではあるが、その根は至極真っ当であるとイリヤは評価している。勘の鋭さもまた、相当だ。

 こうなると彼女は引かない。無理矢理に話を切ろうとすれば、ポーカー辺りに引っ張り出されて結局ボロ負け。話さなければならないのだ。それに、今は信用できる人形でも人間でも、誰でもいいから何か話していたい気分だった。今度の問題ばかりは、MTs-255でも務まらない──否、()()()()()()()務まらない。

 

「車を出せる? MCX」

 

 イリヤが出した答えはMCXからすれば意外な──しかし、そうする以外無いものだった。

 勿論、とMCX。通り掛かったネゲヴに言伝を頼み、何かあれば連絡するように伝えた。ここからはイリヤとMCX。二人による、ある種の逃避行だ。

 

 □

 

 722基地の一角には小さな車庫がある。これは、他の基地には備わっていないものだろう。

 MCXも722基地に来てそれなりに長いが、この中身は知らない。噂好きな人形は『幽霊がいる』だとか『過去の戦いで壊れた人形の残骸が山積み』だとか、有る事無い事をグリフィンタレコミ掲示板に書き込んでいるようだが……。

 

(まぁ、この指揮官がやるようなことじゃないよね)

 

 MCXは傍らにいるイリヤへ視線を落とし、一人納得する。その後は躊躇いなくシャッターを開けた。

 中に鎮座するのは幽霊でも無ければ、人形の残骸でもない。一台の白いピックアップトラックだった。

 

「ヒューッ! 随分古いクルマだねー? 軍用車両でもないクルマが、なんでこんなところに?」

「私がグリフィンと出会う前に、姉が見つけてずっと直してたの。彼女が死んで、私がグリフィンに来るときに持ってきたの」

「なるほどね。ホラ、掴まって。乗せたげる」

 

 MCXが伸ばした手を取ると、イリヤはヒョイと軽く持ち上げられた。やはり人形というべきか、まるで重さなど感じさせないまま車のシートにイリヤを座らせると、車椅子を畳んでリアシートへ滑り込ませる。

 運転席へ移動し、シートに身を預けるMCX。元は艶があり、綺麗であっただろう革張りのシートはかなりの擦れが見られたが、何しろ車が古すぎる。しかし誰が整備していたかはともかく、エンジンは不思議と快調に回った。

 ガレージから車を発進させ、基地を出る。イリヤが指定したのは、近くのイエローゾーンだった。そこは風の影響を受けにくく、汚染が広まっていない。油断は出来ないものの、ごくごく小さな町は形成されている場所だ。

 鉄血に警戒しながら車を走らせるMCXだが、その中で彼女はイリヤへ訊ねた。

 

「それで、このクルマは一体なんだって?」

「姉が生前に、古いのを拾って直してたの。『いつかはイリヤも乗せてやるからな』って、口癖みたいに言ってたわ」

 

 窓の外を眺めながら、イリヤは感慨に耽る。姉が直していた車はこうして走っている。悪路も気にすることなく、下手な軍用車両よりずっと速く。装甲などはないが。

 

「姉、ねぇ。ずっと気になってたからあたしも調べさせてもらったよ。ライーサ・トレフィロヴァ──どこかで聞き覚えがある名前がヒットした」

 

 MCXの情報収集能力は流石といったところか。伊達に警察局で人形をしていなかったということだろう。

 窓の外を眺めるイリヤの表情が、少しだけ曇った。横目にそれを見たMCXは、()()()を確信する。

 

「ねぇ指揮官? MTSのことをライーサって呼んでるのは……」

 

 言いかけて、MCXは我に返る。何もそこまで調べ上げる必要などなかったのに。

 目的地も近い。一言謝罪を述べ、MCXは運転に集中することにした。

 

 □

 

 イエローゾーンでの生活。それは死と隣合わせ。鉄血の人形に襲われるかもしれないだけでなく、いつ崩壊液による感染が広がるかわからないのだ。

 明日には彼らの住む集落は破壊され尽くし、無くなっているかもしれない。広域低放射性感染症(E.L.I.D)によって、住民が人を襲うようになっているかもしれない。

 少なくとも、イリヤに言われるがままMCXが車を停めた場所は、そうはなっていないようだったが。だが、人の姿はない。生体反応は感知しているが、警戒しているのか誰か出てくる様子はない。

 

「ホーンを一秒間隔で短く、三回鳴らして」

「なるほど、合図ってワケね」

 

 MCXがホーンボタンを言われた通りにノックする。三回目が鳴り終わり、数分更に待ったところで一人、また一人と住人と思しき人影が現れ始めた。

 

「これは民間軍事会社のお嬢さん。また“慰問”ですかい」

 

 嫌味そうな難民が助手席のイリヤへ語りかける。

 少なくとも、諸手を挙げて歓迎というわけではないようだ。MCXを見つめる視線もどこか冷たく、敵意すら感じるものもあった。

 

「『また』って……指揮官? 一般人と接触してたの?」

 

 PMC──民間軍事会社が台頭するごとに、当然彼らのような難民の立場は悪くなっていく。グリフィンの指揮官は仕事と引き換えに、絶対的な安全圏に居られるのだから、妬ましく見られるのも当然だ。

 それだけならまだいいが、鉄血工造の人形の暴走という事実を知る一部の難民はそもそも戦術人形という存在にすら懐疑的。暴走したらどうするのか、とイリヤもよく問いをかけられた。

 難民たちへイリヤに出来た返しは『信じている』と、ただ脆い一言の返答だけ。それは、そういった難民たちを納得させるだけのインパクトがある返答ではない。

 

「どうするの? このままクルマの中?」

「降りるわ。手伝って、MCX」

 

 難民たちに囲まれた状態だが、MCXもむやみに武器は抜けない。車高の高い車から、飛び降りるように降車し、人を退かしながら車椅子を引っ張り出す。

 イリヤを抱え、車椅子に座らせると、ようやく彼女の目的も明らかになった。

 

「おば様はいるかしら?」

「ああ、いるぜ。今日は姿を見てねぇ。家にいるハズだ」

 

 難民の男はそう語り、一軒の小屋を指差した。集落はそれなりに大きいが、建物はほぼ木造。難民たちの服装もまるでボロ布だ。

 

(指揮官ちゃんの知り合いがこんな所に……?)

 

 MCXはイリヤの指示に従い、車椅子を押す。しかし、その思考は目の前にいる『イリヤ・トレフィロヴァ』という人間についての興味でいっぱいだった。

 戦術人形の間でも、彼女の過去は詳しく分かっていない。グリフィンの指揮官は少なからず自身も戦えることが多く、イリヤのようなタイプはかなりの少数派。彼女の知人がイエローゾーンに居るとすれば、R05地区関連の話も信憑性を帯びてくる。

 

「ありがとう、MCX。少し見張りを頼める?」

「了解。キッチリ見張ってるから、安心して」

 

 小屋の扉、その向こうへ消えていくイリヤ。MCXは好奇の視線を向ける難民たちの前へ取り残される事となった。

 

 □

 

「まさか、こんな事になるなんて思わなかったなぁ……」

 

 MCXは少々気だるそうに首を鳴らす。難民たちの視線は相変わらずだが、逃げ出すわけにもいかない。指揮官からのオーダーは見張りなのだ。

 武器を抜いておくわけにもいかないまま、彼女は小屋に寄り掛かるようにして周囲へ視線を配らせていた。

 

「なぁなぁ! ねーちゃんって『にんぎょう』なんだろ!?」

 

 ふと、そんなふうに声を掛けられた。

 声の方へ視線をやると、興味津々とばかりに目を輝かせる難民の少年が居た。

 

「そうだよー。そしてあたしは、警察なの。お巡りさん、分かる?」

「うっそだー! 俺の知ってるケーサツって、もっと背すじ立ててるもん!」

 

 今どきの子供とは度し難い。純粋に渡り合おうとした自分が馬鹿だった。MCXは「あ、そう」と見張りへ戻る。──戻ろうとして、やはり癪だと思った。

 どうしてくれようか。武力を示すのは論外だが、頭脳戦を繰り広げられる相手でもない。

 少し悩んで、MCXは少年へ一つ約束をする。

 

「じゃあもしキミが危ない目に遭ったとしたら、その時はあたしが助けてあげる。そうなったら、ちゃんとお礼言ってよ?」

「俺はこの辺りで一番強いんだ! そんなことにはならないよ!」

 

 腕を組む少年を見て、MCXは心底その自信が現実になることを祈る。人間たちにもっと力があれば──一人でも良い、人を導く存在がいれば、この苦境もきっと乗り越えられるに違いないのだから。

 

「いつか、イリヤねーちゃんみたいにグリフィンで働くんだ。それで、ここの皆を基地で守ってやる!」

「キミ、指揮官……いや、イリヤの知り合いなの?」

「最近良く来てくれるんだ。皆が喜ぶわけじゃないけど、たまに食べ物とか分けてくれるし」

 

 少年の話を聞いて、MCXはイリヤへの認識を確かにした。彼女はグリフィンには似合わないほど人に甘く、自分に厳しい。それが彼女の長所であり、翻って短所になるのだ。

 そもそも、ヘリアントスたちにバレたら大変だろう。MCXもメンタルの奥底でため息をつく。

 

「グリフィンに憧れるのはいいけど、ちゃんと身体を鍛えなきゃダメだよ? ──一旦、話はここまで」

 

 少年との会話を遮り、MCXは扉に背を向けたまま小屋の扉をノックする。

 彼女には複数の敵性体が確認できていた。真っ直ぐ集落に向かっている。通り過ぎるものではない。敵意を持って集落を目指していると推察出来た。

 ドアを開けるイリヤへ、MCXは告げる。

 

「鉄血の信号が五体。数は大したことないけど、こっちに向かってる。それに、戦えるのはあたしだけ。どうする? 指揮官」

「……集落に向かってるの? 一般人しか居ないのに」

「あたしたちを追ってきた可能性が高いね。数がソレを物語ってそうじゃない?」

 

 イリヤは暫し悩む。五体の鉄血人形、数は多くない。普段は更に多くを相手にしている。しかし、それは小隊の編制を行い、適切な戦闘エリアで最適な作戦を選びながら行っている戦闘だ。

 一般人が多くいるこの地区で、戦えるのはMCX一体。ダミーは無し。死者を出すことも許されず、弾薬などの物資は必要最低限。そうとなれば、作戦の難易度は跳ね上がる。たった五体も、されど五体。

 イリヤにその全てが委ねられる。グリフィンの指揮官として、重圧が全て彼女の小さな背中にのしかかる。

 

「敵が居住地区を射程に収める時間は?」

「武装次第だけど、七分。狙撃タイプがいたら五分」

「わかった。MCXは住民を避難させて。絶対に家から出ないで、頭を下げておくようにって」

「了解」

 

 駆け出していくMCXを見送り、イリヤは小屋の中を振り返る。知人の女性は頷き、部屋の奥へと身を潜めた。

 

 □

 

 MCXは車の中に居た。エンジンを切り、悟られないよう道の外れで待機する。彼女はイリヤの滅茶苦茶な作戦に、少々不安を覚えていた。

 

「あたし次第とはいえ、本当に大丈夫なの……?」

 

 イリヤの提案した作戦は、彼女自身を囮にすること。集落を戦闘に巻き込むわけにはいかず、その外れで侵攻ルート上にイリヤが待ち構える。勿論、彼女には非常用のハンドガンしか無い。移動もままならないイリヤでは、とてもではないが鉄血の人形は相手にできない。

 そこで、MCXの出番だ。彼女が奇襲を掛ける。イリヤ曰く、上手く嵌まれば弾薬はかなり節約できる目算らしい。

 武器は手持ちのシグP250ピストルのみ。MCXアサルトライフルは基地に置いてきている。戦闘になれば、なおさら不利だ。

 

 敵性反応は更に近付いている。まもなく接触できるだろう。

 エンジンを掛け、シフトレバーをドライブポジションへ運ぶ。あとはアクセルを踏み込むだけ。

 遅れればイリヤは死ぬ。慎重にタイミングを測り直し、MCXはここぞと決めアクセルペダルを床まで踏み込んだ。

 

 鉄血人形小隊の真横に飛び出した車を素早いハンドル捌きで真横に向け、敵全てを巻き込み轢き倒すように滑らせる。

 複数の重い衝突音を聴き、フロントウィンドウ越しにイリヤと目が合った。

 奇襲成功だ。間髪入れずに車から飛び降りると、MCXは敵が体制を立て直す前に頭部をハンドガンで破壊する。

 

「なんとか上手くは……行かなかったようね」

 

 イリヤが見つめる先はMCXではない。その先からやってくる、鉄血人形の軍隊。数えるのすら諦めてしまうほどの、圧倒的戦力差。

 MCXは武器を構えるが、イリヤはそれを止めた。

 

「車に乗って逃げるのよ、MCX。貴方は生きて帰るの」

「何言ってるの! 指揮官も生きて連れ帰るのが、今のあたしの仕事。たとえ手足失ったって、守ってみせるから」

 

 語るMCX。ハンドガン一挺で戦える相手ではないが、既に交戦距離だ。

 イリヤをかばうように立ちはだかり、手に握ったハンドガンの照準器を覗き込む。

 

『勝手に諦めないで。じゃなきゃ、あたしが来た意味もなくなるじゃない!』

 

 何処からかそんな声が響いて、その場にいた人形も、そしてイリヤも動きが止まった。

 刹那、轟音と爆風がイリヤたちを襲う。MCXが庇うようにして彼女を抱き寄せた。

 

「この信号……まさか」

 

 MCXが声の方へ振り返る。鉄血の信号は消えた。()()()()()()

 吹き飛んだ鉄血人形の真ん中で、腕を組み堂々と立つのは小さな影。MCXも、イリヤも、見たのは資料や情報共有の中だけだった。銀色のツインテール、輝く琥珀色の瞳、黒色を基調にした服飾と装備。

 そして、闖入者は巨大なランチャーを二挺携えていた。

 紛れもなく、イリヤたちはその小さな少女の名前を聞いたことがある。

 

「鉄血エリート……」

 

 イリヤが息を呑む。

 

「SP5NANO……デストロイヤー!」

 

 MCXは構えたハンドガンで、すかさず攻撃に移る。しかし、撃ち出した銃弾は鉄血エリート人形、デストロイヤーが翻したランチャーによって防がれた。

 

「戦いに来たんじゃないわよ! というか、ヤル気ならこの人形たち使って殺させてるし」

 

 腕を組み、頬を膨らませるデストロイヤー。まるで機嫌を損ねた子供のような様だ。

 対するMCXは弾の切れたP250ピストルのマガジンを振り出し、手早くリロード。ロックしたスライドを戻すと、一度攻撃をやめた。

 

「どういうこと? 鉄血の言うことを信じろっての!?」

「信じられないならやる? たかだかグリフィンの人形一体に、人間一人。あたしが出るまでもないのは分かるでしょ」

 

 デストロイヤーに言われ、MCXは舌を打つ。引き下がるわけにはいかないとはいえ、彼女の言うとおりだ。実際デストロイヤーは武器を構えてすらいない。殺す気ならば、既に二人共彼女の主兵装である大口径ランチャーの攻撃に巻き込まれていたはず。

 

「MCX、銃を下げて。私が話すわ」

「正気!? 向こうは敵なんだよ!?」

「そうね。でも、全く話が通じない相手ではないわ」

 

 イリヤはMCXの銃を押さえ、その銃口を下げてやると車椅子を漕いでデストロイヤーへと単身で接近する。

 しかし携えたハンドガンはそのまま。デストロイヤーはそれでも良さそうだったが。

 

「はじめまして、デストロイヤー。貴方のことは794基地の指揮官から聞いているわ」

「あぁ……()()()()()ね。安心しなさいよ、信号は全部切ってる。鉄血に漏れる心配も、漏らされることもない」

 

 デストロイヤーは、既に別基地にて確認済みの同個体を『別の自分』と定義しているようだった。それにはイリヤも首を傾げる。

 デストロイヤーの撤退を確認したから、794基地はその後も快進撃を続けたのだ。では、今ここにいるデストロイヤーは? グリフィンが知らぬ筈はない。

 

「あたしは、そうね。R05地区でグリフィンと()()()()()()あたし。あの事はまだ覚えてる。うん……ハッキリ覚えてる」

「R05? もう二年も前だわ」

「あたしは知ってる。鉄血工造は知らないけど、あたしは他の死んだあたしを覚えてる。何度もやられたわ」

 

 イレギュラーだ。あり得るはずがない。イリヤの手が思わず、膝の上においたハンドガンへ伸びようとする。しかし、すかさずデストロイヤーが釘を差した。

 

「今その拳銃に手を触れたら、あんたは得られる手掛かりを失うけど。ていうか、まだあったんだソレ」

「……詳しく聞くには条件が要りそうね」

「勿論。あたしを鉄血から保護して。あたしは今の記憶を失いたくないけど、奴等はすぐに見つけてくる。今回集落にこのガラクタが来たのも、あんた達の慰問とやらにあたしの信号が被った──言うなら、偶然だし」

 

 ランチャーを下ろし、デストロイヤーは手を振る。無抵抗、友好の意思表示のように見えた。

 

「どうせ、R05の作戦に関わった奴がそっちに行ったでしょ? あそこの指揮官、無能すぎてアッサリ情報が抜けちゃった」

 

 呆れたように首を振るデストロイヤー。

 

「私に得は? 手掛かりとやらをあなたが持っているとも限らない」

「あたしが力を貸したげる。今グリフィンでは、新たな勢力や勢いを増す鉄血に備えて、別な鉄血を捕獲して味方にするプログラムが考案されてる。その最新プログラムに、あたしが乗ってあげる」

「鉄血の力を……」

「嫌? まぁ、乗らないなら吹っ飛ばすまでだけど」

 

 敵に頭を垂れる必要があるのかイリヤは迷う。鉄血には何度も自軍の人形を傷付けられた。危うく失いかけもした。

 同情しかけたのは、彼女が『言葉を話すから』ではないのか? 他の鉄血と意思疎通が取れたならどうか。

 否、それは一旦拭い去る。デストロイヤーも交渉の場に立っているのは同じはずだ。

 

(ううん。この場合、こちらが強く出られる。私の重要性より、デストロイヤーの必死感のほうが強い)

 

 デストロイヤーの要求は自身の火力提供と、過去の事件に関する聴取を受ける代わりに、鉄血から彼女を守ることだった。

 対するイリヤがデストロイヤーに要求することといえば、彼女の聴取のみ。火力は魅力だが、それは決め手にならない。

 

「デストロイヤー、はっきりと問うわ。あなたは『死にたくない』の? それとも、単なるメモリー保存のため?」

「両方よ! あたしが死ねば、今まで見てきた全てを失う。逃げる間に見た綺麗な景色も、荒れ果てた村も、死んだあたし自身のことさえね」

 

 やはり、デストロイヤーは必死だ。何を見てきたのか、鉄血らしくないことまで口走る。

 これでイリヤの要求もあと一つになった。

 

「じゃあ、貴方をまず基地へ連れて行く。武装は解除し、信号を遮断する。それから、MCX……後ろに控える私の部下に対する説明は、貴方がしてね」

 

 イリヤが説明を終えると、デストロイヤーは小さく笑みを浮かべたように見えた。それは邪悪なものではなく、確かな喜びと安堵を感じるもの。

 乗ってきた車がピックアップトラックで良かった。デストロイヤーの武器は大柄だが、積めないサイズではない。持ち帰ることも出来るだろう。

 

 思わぬ収穫を得たと考えるべきか、それとも余計な火種を背負ったと考えるべきか。イリヤは大きな溜め息を一つ吐きつつ、MCXが文句を言いつつ運転する車内で考える。

 リアシートではデストロイヤーが『乗り心地が悪い』だの『揺らすな』だのとぶつくさ文句を垂れていて、それがなおMCXを苛立たせているようだった。

 集落は結果として無事だった。デストロイヤーは隠し、今はこうして帰路に着いている。

 今はまず、デストロイヤーから話を聞くべきだ。そのためには、人形たちを上手く誤魔化さなくては。

 イリヤからまた一つ、大きな溜め息が漏れた。




何だかんだめちゃめちゃな日にちがかかってしまって申し訳ありません。
年を取るとアレですね、なかなかゆっくり時間を取れなくなりますね。すぐ疲れちゃって。

デス子かわいいよデス子。
鉄血エリートで一番好きです。二番目はハンター。
今回の話を組むにあたって、原作年表にムリが生じましたので前話の繋がりを変えてます。
宜しければ、前の話もさらりと読み直してみてください。

感想お待ちしております。
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