前線に紡ぐ物語   作:鞍月しめじ

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すみません、エタってました。


14.小さな記憶

 イリヤたちを乗せた車が、722基地へ入り込む。念の為、デストロイヤーには車の中で伏せるように伝えたが、ガレージまで基地人員に近寄られることもなかった。

 

「ぷふー! もういいよね? 着いたんでしょ?」

 

 リアシートにへばり付くようにしていたデストロイヤー。大袈裟に息を吐くと、前席の間から顔を出して問う。

 MCXは『もうどうにでもなれ』と言わんばかりに顔を逸らす。

 

「着いたわ。MCX……気に食わないのは分かるけれど、もう少し手伝ってくれない?」

 

「分かってる。あたしだって、722所属の人形なんだよ? 指揮官の指示を無碍に出来るわけ無いじゃん」

 

 MCXの手を借りて車を降り、車椅子に座るイリヤ。後部座席に座るデストロイヤーへ手を差し伸べると、彼女は告げた。

 

「私はあなたを受け入れるけれど、その正体を暫く隠すわ。一つは混乱を抑える為、二つはレヴォーヴナの真意を隠させない為」

 

「やっぱり、あの女か。今の指揮官を捨てて、アンタの所に行ったってワケね。ま、あたしはそれでも構わないわよ──っと!」

 

 小さな躯体で、デストロイヤーは車のシートから飛び降りる。

 粉雪のように埃が舞い、それを吸い込んだイリヤが小さく咳き込んだ。

 

「いい? おチビちゃん。あんまり調子に乗らないで。あたしはまだ信用してないし、もし指揮官に何かあれば、その時はその可愛らしい顔──グチャグチャにするから」

 

 ガレージに置いていたMCXアサルトライフルを取って、チャージングハンドルを引いて見せる。今出来る精一杯の牽制だ。デストロイヤーからは何も感じない。牽制も特に効いてはいないようだった。

 

「とにかく、一度バレないように管理施設にコイツを連れて行かないと……。指揮官ちゃん、MTs-255をかわせる?」

 

「大丈夫、今から少し指示を出すから……少し待って」

 

 胸ポケットから携帯端末を取り出し、メッセージを送信するイリヤ。内容は『レヴォーヴナの作戦指揮能力を測るため、セカンダリレベルにて彼女の指示にて模擬戦闘を行うように』とあった。

 人形を動かすには、レヴォーヴナはちょうどいい人員だった。入ったばかりで自己紹介もまだだが、これを機に副官のMTs-255だけでも彼女を知れば手間も省ける。

 当然彼女からは疑問の返信があったが、すぐに了解へ切り替えている。

 これでMTs-255はかわせる。今のうちだ。

 

 □

 

 素早く移動した三人。あまり寄り道している時間はないが、まずは鉄血エリートを体現するような服装を誤魔化さなければ。

 向かった先は倉庫。指揮官用の制服がまだ余っていたはずだとイリヤは踏んでいた。支給品として、サイズ違いで幾つか余分に送られているから、ピッタリとは行かなくても近いサイズの物があるはず──と、思ったのだが。

 

「……ぶかぶかなんだけど」

 

 残っていた中で一番サイズの小さな制服だった。それでもデストロイヤーには袖が余っていて、不満げに口をとがらせながら袖口をブンブンと振り回していた。

 しかし、オーバーサイズのお陰でボディは完全に誤魔化せている。ちょっと目に入ったくらいではデストロイヤーとはバレないだろう。

 

「よし、あとは帽子被って。行きましょう」

 

 帽子を被せれば、多様性の世界では否定出来ない小柄な指揮官の完成だ。バレたとしても、上手く誤魔化せる自信がイリヤにはあった。

 倉庫を抜けて、MCXに車椅子を押してもらいながら足早に向かうのは情報処理室だ。処理室には指揮官以外の立ち入りは認められていない。入れるのは、指揮官がその時に立ち会いを認めた人物だけ。邪魔も入らず、デストロイヤーのメモリーを調べるのにもお誂え向き。

 ぶかぶかの制服に文句を垂れるデストロイヤーも、処理室を目指す意味を理解すると大人しく付いて来た。

 

 途中で人に見つかること無く、無事に情報処理室に進入したイリヤたち。MCXは操作を理解しているのか、イリヤとのアイコンタクトで手早くサーバーの電源を入れていく。

 まるで過去に存在した摩天楼のようにチカチカ輝くサーバー群は、722指揮所でも重要な物。人形たちの過去戦術データや、倒してきた鉄血の人形データはこのサーバーに収められる。

 

「適当に椅子に座って、デストロイヤー」

 

 データ処理室というだけあって、椅子は何脚かあった。イリヤに促され、デストロイヤーは指揮官制服を脱ぎつつ椅子に腰掛ける。

 小さな身体を揺らし、サーバーの光を目を輝かせながら追っている。鉄血人形エリートとはいっても、メンタル面は見た目相応のようだった。

 

「R05のことが知りたいんでしょ? サーバーなんか何に使うの?」

 

 飽きっぽいのもまた子供らしいと言うべきか。今度は転じて退屈そうに口をとがらせる。

 

「貴方が嘘をついていないか、過去のデータと比較するためよ」

 

 車椅子を漕いでデストロイヤーに近寄ったイリヤ。彼女がそう語り掛けると、デストロイヤーは彼女の話を一笑に付す。

 

「あはは! バッカバカしい! あたしは鉄血だけど、結局人形なの。分かる? 機械よ? 嘘なんてつけないの」

 

「それでもよ。あの事件から本当にリセットされずに来たのなら……、或いは。何より、貴方は仲間の鉄血を売ったでしょう?」

 

 イリヤに返され、デストロイヤーは『ぐむ……』と唸った。嘘をつけない人形ならば、『生き残りたい』という感情も無くなるはずだ。味方陣営を売ってまで敵に擦り寄る事も出来るはずがない。

 しかし、今イリヤの前で視線を泳がせるデストロイヤーという人形は、自分の身の安全の為に敵であるイリヤ達に投降し、しかも彼女たちグリフィンに“自ら”力を貸すと申し入れた。

 その時点で、少なくともこの場にいるデストロイヤーという個体は、単なる人形や機械であると済ませていいものではなくなっている。所謂『イレギュラー』とも言えるだろう。

 

「だから、貴方が自分の為に嘘をつく可能性を加味して、過去データと合わせる必要があるの。一分後に聞き取りを開始──MCX、記録をお願い」

 

「了解、指揮官」

 

 グリフィン側の機械的なやり取り。デストロイヤーはイリヤの目をちらりと見遣る。

 ──()()()()()。彼女はその目に、見覚えがあった。

 

「あの日、あたし達はイエローゾーン──R05地区へ進軍する事になっていた。そこの人間を皆殺しにして、鉄血の前哨基地にするためにね」

 

 デストロイヤーはイリヤの目を見つめながら、過去を振り返り始める。

 ゆっくり、それこそ歩くような速さで。

 

 □

 

 遡ることおおよそ二年前。

 R05地区へ向けて、デストロイヤーたち鉄血工造は進軍を続けていた。イエローゾーンとは言うが、共有される情報からしてそれなりに栄えている場所のようだった。

 射程距離まで間もなく。近距離型の人形も用意は出来ている。

 

「人間たちは片っ端から殺して。グリフィンは──来てるね」

 

 デストロイヤーのセンサーにも、鉄血の仇敵ともいうべきグリフィン人形の反応は入っていた。彼女が勘付いているのだ、グリフィンも既に臨戦態勢に違いない。

 体格に見合わない、巨大なグレネードランチャーを構え、その引き金を引く直前にデストロイヤーは指示を飛ばす。

 

「あたしが戦闘エリアに砲撃をする。最初の砲撃の着弾を確認次第、ブルートを筆頭に順次突撃。ストライカーはエリア進入次第、その場にいる全ての生体反応へ射撃。その後は順次指示するから」

 

 ランチャーの銃口を調整し、戦闘エリアのど真ん中に着弾するよう合わせる。人間もいたが、何よりグリフィンの人形もいる。

 計算した座標に着弾すれば、戦力はかなり削れる算段だ。

 

「ファイヤ」

 

 デストロイヤーの声と共に、酒瓶の栓を抜くような発砲音が響く。放たれた榴弾は綺麗に弓なりの弾道を描き、誤差約0.2センチメートル程度の位置に複数着弾。地区にいた人間もろとも、グリフィンの人形にダメージを与える。

 ブルートたちは先程受けた指示通り、風を切るように戦闘エリアへ駆け込み、直ぐ様応戦の銃撃音がデストロイヤーの耳にも届いた。

 

「やっぱり削りきれなかったか。次々行くよー」

 

 デストロイヤーの真髄は火力支援。彼女の武装ではグリフィンの旧式武装といえど、小回りの利きで劣る。

 故に、彼女には戦闘エリアへ人形たちを送り込みながら絶えず砲撃を加え、ゆっくりと前進する他にない。

 発砲する度にランチャーのシリンダーが回転し、巨大な空薬莢が排出される。鐘を叩くような重たい金属音を引き連れながら、デストロイヤーも戦闘エリアへと進入。グリフィン人形たちと対峙した。

 

「ん?」

 

 ふと、デストロイヤーは破壊しそこねた民家に視線を移す。

 人間の女が亡骸を胸に、泣き喚いている。彼女の武装で死んだなら、肉片も残らない。抱き抱えた遺体に残されていたのは、小火器の弾痕だ。

 ──何にせよ邪魔だった。左手のランチャーを女へ向け、引き金を引く用意をする。

 

「そこまでだ、デストロイヤー。これ以上被害を広げてもらっては困るからな。掃討する」

 

 グリフィンの制服を着た人間がまた一人。男女の区別はつかない。グリフィン指揮官の後ろからは、更に人形たちが押し寄せてきていた。こちらにも損耗がある、数的不利は明らかだ。

 

「それ以上部隊を近付けたら、あそこの人間を殺すよ」

 

「ほう? 鉄血にも交渉術はあったのか? だが、どちらにせよもう手遅れだ。彼女たちは避難命令時に不在だった。ここが戦場になるなど、知る由もなかったんだ」

 

 指揮官の言葉を聞いて、デストロイヤーは眉をひそめる。人間側に立つグリフィン&クルーガーの指揮官から出る言葉とは思えなかった。

 どす黒い感情を指揮官からは感じる。思わずデストロイヤーはたじろいだ。こんな指揮官とは遭ったことがない。そもそも戦闘装備無しで戦闘エリアに入り込むのはあまりにも無謀。まともとは思えなかった。

 

「どうする? デストロイヤー。勇敢に立ち向かうか、無様に背中を撃たれるか。せめて選ばせて──」

 

 指揮官が言い切る前に、乾いた銃声が響いた。一発、二発、三発。それからは考え無しの連射に聴こえた。

 銃弾の一部はグリフィン指揮官に命中していた。人形たちの注意も銃声の発生源に分散する。

 発砲したのは、先程の女だった。恐らく戦闘の混乱で転がってきた拳銃を取り、発砲したのだろう。撃ち尽くした後で、放心しているようだった。

 

「一体何を……!?」

 

 グリフィン人形が女へ問い掛けるが、彼女は糸が切れたように崩れ落ちた。

 デストロイヤーから見ても重傷だった。建物の破片は身体を貫いていたし、出血量も多い。グリフィンが彼女を連行する前に死ぬだろう。

 

「今のうちに……!」

 

 デストロイヤーはランチャーの榴弾をスモークに素早く装填し直すと、煙幕と共に後退を開始。味方の鉄血人形には目もくれず、とにかく彼女は走った。

 

 □

 

 デストロイヤーが語ったR05地区の話を聞いて、イリヤは頭を抱える。

 

「……レヴォーヴナ。彼女が──」

 

「間違いはあった?」

 

「無いわ。グリフィンの避難命令は私達に届いていなかった。イエローゾーンで親戚を失い、様子を確認しに向かった姉はグリフィンの流れ弾で死んだ。あの時の指揮官はレヴォーヴナだった。……多分」

 

 イリヤもハッキリとは断定できずにいた。何しろ、ほぼあの時の記憶はないのだ。姉が死に、無我夢中で転がっていた拳銃を拾い、好き勝手に宣った人間を撃った。

 それしか覚えていない。それが男女のどちらかも分からない。面接に来たレヴォーヴナがその時の指揮官だ、という説とするなら彼女は男女どちらとも区別は付きにくい。混乱している状況なら尚更だ。若い男性指揮官だったのか、そうでないのか。

 ただ、それに関してはヘリアンもデストロイヤーと同じような説をイリヤへ教えている。

 

「どうするの? 指揮官。あのレヴォーヴナとかいう女を締め出す?」

 

 MCXの提案ももっともだろう。今はどうあれ、過去の彼女がその当事者だったのなら、行動を共にするのは精神的にも良いとはいえない。

 

「ヘリアンさんには『事を荒立てるな』と言われているわ。レヴォーヴナは引き受ける。彼女が何を考えているのか知りたいから」

 

「本当にいいの? あたしとしても、気分いいと思えないけど」

 

「気分なんて、昔から悪いままよ。MCX」

 

 まるで重力が増したかと錯覚する程に重くなった空気は、そのまま晴れる事はない。

 デストロイヤーの処遇は722基地で採用に決まったが、あくまでも存在は機密扱い。R05地区の真相は、まだ完全に解けたわけでもない。

 デストロイヤーの視点。そして、レヴォーヴナの視点。双方に言い分はある筈だ。イリヤは、レヴォーヴナから話を聞けるまで判断を保留する事にした。

 

(でも、デストロイヤーの言う通りの冷たさなら──どうしてわざわざ……?)

 

 イリヤは自室で、考えに耽ける。レヴォーヴナの考えが読めない。しかし、考えている間にもレヴォーヴナを基地の人員として正式に迎える時間は迫っていた。

 彼女は敵意を持って近付いたのか、それとも違うのか。それを解き明かすには、まだ少し時間が必要のようだった。




暑いですね。
スマホもPCも速攻で熱が……。
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