前線に紡ぐ物語   作:鞍月しめじ

7 / 14
新しいスマホちょっと文字入力ムズいっすね……


07.バッドラック-R93&X95-

 崖から落ちたR93は、普段から自信を抱く自らの幸運のお陰か、落下先で何層にもなった木の枝がクッションになり、かすり傷で済んでいた。

 木の上から遠くを見つめ、彼女は先に飛行場がある事を突き止めた。

 

「この先に飛行場がありますね。味方の飛行場です。先程銃声も聴こえましたし、皆さん無事ですよ」

 

 軽やかに木から飛び降り、語り掛けた先にはR93とは正反対に、重傷を負ったX95が木の根本に寄り掛かっていた。

 

「……先程とは、正反対になってしまいましたね」

 

 落下の衝撃で右腕を失い、腹部にも枝が貫通。残った左腕も表皮が一部削げ落ち、機械である事をまざまざと見せ付けるようにフレームがあらわになっていた。

 自嘲気味に笑うX95へ、R93は明るく笑い掛けた。

 

「確かに、立場は逆転しました。けれど、幸運は私に恩返しの機会もくれたんです。スパスさん達も近くにいると思うけれど……」

「もう三十分、近くを捜し回ったのでしょう……? 移動したのでは……」

 

 R93たちが目を醒ましたのは一時間ほど前。既に夜は明けて、木々の隙間から朝日が射し込もうとしている。

 三十分で状況確認、そしてもう三十分でメンバーの捜索。結局、合流はならなかった。

 武装は両者とも破損し、サブウェポンを出す他無かった。しかし、X95は損傷の激しさから武器を持てなかった。そうした状況のため、R93は自身のシグP320ピストルに加え、X95から預かったベレッタ92FSブリガディアピストルを左手に握り締め周辺警護だ。

 X95も力を振り絞って歩いては来たが、長時間立ち続けるのは既に苦しかった。潮時か。察した彼女は、R93を呼んだ。

 

「R93さん……。私はもう置いていってください。足手まといになります。バックアップはありますから、基地でまたお会いできますよ……。ね?」

 

 置いていけ、と言うX95の言葉にR93は頑として譲らない。

 

「絶対に連れ帰ります。皆私を見捨てようなんてしなかった……。だから、幸運にも無傷の私が貴方を助け出さないと」

「鉄血の追手も来ています。それに、私はもう動けそうにありません。……ここで二人でやられれば、それは不運ではありませんか?」

 

 X95も譲らなかった。自身のせいでR93に何かあれば、それは苦しい傷になる。だからこそ、意地を張らずに置いていってほしかった。彼女はそう願った。駄々をこねる子供のように、X95を連れ帰ると利かないR93相手にもだ。

 

『それは困ります』

 

 がさり。葉の揺れる音と共に、冷たい女性の声がする。

 咄嗟にR93は自身のピストルをその方向へ向けた。

 現れたのは金髪のショートカットの女性だった。サプレッサー付のライフルを携え、腰にはIDカードと手錠が下がっている。

 

「VSKさん!?」

 

 味方だ。R93は思わず目を丸くする。

 すべて見透かすような瞳は真っ直ぐに二人を見つめている。

 現れた彼女はVSK-94。グリフィンのライフル戦術人形であり、元警察局の人形だ。

 

「無事で何よりです。X95、ボスの命令は『損失ゼロで全員を連れ帰る』こと。よって、見捨てるという選択肢はありません」

「ですが……」

『ですがも何も無いのよ、X95。指揮官がそう指示するなら、私達はそれを絶対に達成するわ。――何があろうとね』

 

 VSK-94の後を追って現れたのは、X95に良く似た純白の衣装に身を包んだ少女。服は返り血なのか、所々が赤く染まっている。ピンク色の髪に、真っ赤な瞳は狂気をはらんでいるようにも映るだろう。

 

「……ネゲヴさん?」

「VSKと合流して正解ね。X95を運び出すわよ」

 

 X95にネゲヴと呼ばれた人形は、周囲警戒もそこそこに手早く脱出に向けて動き出す。

 

「私が彼女を抱えます。R93、一度私の武器を預けます。勝手は変わりますが、ライフルは扱えますね?」

 

 VSKの問い掛けに、R93は迷わず頷いた。ASSTにより紐付いた武器ではないが、手動ボルト操作でないだけでライフルなのは変わらない。

 VSK−94ライフルを受け取り、操作を手早く確かめる。マガジンの着脱、コッキングハンドルの操作まで。一分もしないうちに、慣れない武器はだいぶ様になった。

 

「射程は400メートル程度ですか。……行きましょう」

 

 R93はP320ピストルをホルスターに仕舞うと、ライフルのコッキングハンドルを軽く引いて装填を確かめる。92FSピストルはX95に返し、捜索救難部隊であるネゲヴとVSK-94を交互に見つめた。

 X95を抱え上げ、そのまま歩き出すVSK-94。見た目は華奢な少女でも、その中身は機械だ。重量は決して軽くないが、VSK-94も警察局に採用された人形として力はあった。

 

「重かったら言ってくださいね……?」

「私の心配より、まずは自分の心配をしてください。帰り道で機能停止されてしまえば任務は失敗なのですから」

 

 森を歩き出して、X95も少しだけ気を取り直したようだった。もはや身体の自由は利かないが、それでも感情モジュールが生きている限り『羞恥』という感情も生まれるわけで。

 VSK-94には任務である以上気にする要素ではないかもしれないが、X95には少々違っていたようだ。

 

「景色はどう? なかなか味わえないわよ、そこは」

 

 ネゲヴの少々皮肉ったような問いにも、X95は応えられた。

 

「悪くありません……。ところでネゲヴさんはまたケチャップですか?」

 

 ぴたり、とネゲヴの動きが止まる。『ケチャップ』と言われてから、フリーズを起こしたかのように固まった。

 歩き続けるVSK-94の元へ駆け寄ると、前へ回り込んで彼女が抱えるX95に詰め寄った。

 

「次にそれ言ったら、基地に帰ってから給料が吹っ飛ぶほど奢らせるわよ」

「……わかりました。帰ったら、みんなで何か美味しいものを――」

 

 言いかけて、X95は視線だけを周囲へ巡らせた。ほぼ同時に全員が警戒態勢へ。VSK-94もX95に了承を取り、彼女を肩に担ぐとホルスターからGSh-18ピストルを引き抜いて構えた。

 

「前方から鉄血人形。援護位置に移動します」

 

 姿勢を低く取り駆け出したR93は、そのまま近くの大木へジャンプ。不安定だが視界の取れる枝の上で、立射姿勢のままVSK-94ライフルを構えた。

 

「一仕事増えそうね。……スペシャリストに正面切ってきたこと、後悔させてやりましょう」

「私は遮蔽物を探します」

 

 ネゲヴ、VSK-94は互いにアイコンタクトを取る。同時に、二人は駆け出した。ネゲヴは敵へ、VSK-94は近くにあった倒木へ。

 ――刹那に銃弾が飛び交う戦場へと、名もない谷間の森は姿を変えた。

 

「やっぱりシステムに繋がってない銃は使いづらいけど――」

 

 木の上から音もなく敵を狙撃するR93。普段使うライフルとは射程距離が圧倒的に短く、そして比較して精度も高いわけではない。更に、当然ASSTで繋がった武器でもないため、その感覚のズレは想像以上に大きかった。

 引き換えに得られたのは圧倒的な消音(サプレッション)能力。専用弾薬と、専用のサプレッサーを用いるVSK-94ライフルの隠密能力は異常なほど高かった。放った銃弾の二割を外してしまう状況ではあるが、ネゲヴがR93の足元で軽機関銃による弾幕を張っている。敵はどこから飛んでくるか分からない一の銃弾よりも、正面から飛来する十をゆうに超える銃弾に対処せざるを得なくなっていた。

 

「――これはもはや、運などではありませんわ」

 

 そうだ。スコープを覗きながら、R93は噛み締める。何度も似たような感覚は得たが、今回で確信に変わった。

 幸運もまた、一つの実力ではある。しかし、彼女には幸運だけでは手に入らない『仲間』が居た。それはもはや運ではなく、別な何かだ。

 R93は理解する。

 X95を助けなければならない。皆を守らなくてはならない。生きて帰らなくてはならない。

 義務であり、責務であり。同時に正義であり、責任である。運だけでは片付けられないものも、とうの昔に背負っていたのだと。

 

「撤退していきます! ネゲヴさんっ!」

 

 スコープの向こうで、鉄血人形たちが進行方向を変えた。少なくとも、これ以上の攻撃を無意味と判断したのは間違いない。

 

「見えてるわ。大したことなかったわね」

 

 ネゲヴ軽機関銃の銃口が硝煙を上げる。大したことない、と言ったものの、ヒヤリとくる物はあった。何体の鉄血を薙ぎ倒したか数えるのは止めていたが、弾薬ベルトボックスは今取り付けているものが最後だった。残りは非常用のガリルAR用マガジンだ。ネゲヴの武器にも使用できるため持ってきたが、30発の装弾数は、軽機関銃にはいささか心許ない。

 とにかく、鉄血は諦めたらしい。大きく息を吐きだして、ネゲヴは戦闘態勢を解いた。

 

「近くに敵はいなさそうですが、この結果を見て詰め寄られると不利になります。急ぎましょう」

 

 VSK-94が出てきて、そう告げる。彼女もただ待っていた訳ではなかったようで、倒木には機能停止した鉄血人形がもたれ掛かっていた。

 彼女が伝えたように、まだ鉄血工造の行動範囲内らしいのは確かで、再度攻めてくるのも時間の問題と言えた。

 X95の意識もはっきりしている。各人形は互いに視線を交わらせると、飛行場までの残り距離を一気に駆け抜ける。

 

「捜索部隊のIWS2000、G36から対象の発見連絡が入りました。あとはスパスだけですね」

「大丈夫です。彼女は、私の幸運なんかよりずっと強いんですからっ!」

 

 VSK-94の報告に、R93は走ったまま笑い掛けた。VSK-94は変わらず冷たい視線を投げかけるだけだったが、肩に担がれたX95はR93へぎこちないながらも笑みを向けていた。

 スパスは間違いなく生きている。きっとすぐに見つかる。一瞬森へ振り返ったR93は、そう確信を抱いていた。




第7話もお疲れさまでした。
次はいよいよスパスの回です。

ネゲヴのケチャップに触れたりと、今回はちょっと明るめになっています。
……X95は大変なことになってますけどね。AR-57より重傷です。
VSK-94、ツリ目で好き。

アニメ、アマプラ組なのでやっと11話見ました。ネゲヴクッソかわいい。語彙力を失った。
以上!
また次回もよろしくお願いいたします。

3/24
スペシャリストさんがプロフェッショナルさんになっていたので、修正いたしました。失礼いたしました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。