銃撃に追われ、少女は森の中を駆ける。
木の陰にスライディングで飛び込み、武器を構え直した。
──崖から落ちたスパスは、服装以外ほぼ無傷だった。
強固なシールドこそ失ったが、軍用規格の戦術人形のパワーは、ただでは崖の崩落にすら巻き込まれなかった。
結果として暫し気は失ったが、すぐにシステムを復旧。仲間を捜して森を歩き回ったところ、鉄血の追跡部隊に見つかり、戦闘に発展。戦闘開始から、既に二時間以上が経過している。
弾薬の残りも少ない。スピードローダーは崖からの転落時に落としてしまっていたし、個別で持っていたショットシェルもそれなりに紛失している。更に鉄血人形との戦闘で消費し、残りはチューブ式マガジンの中に六発とチャンバーに一発。スパス12ショットガンも無駄には撃てない状態だ。
ショットガンを除くと、サブアームにはピストルしかない。あとはナイフ。
このままでは埒が明かない。そう思っても、スパスの圧倒的不利は彼女自身よく分かっていた。
「くっ……!」
銃撃が浴びせられる。射線から避けるように身を捩り、より深く木にもたれ掛かった。
ショットガンの瞬間火力など知れている。敵はそれを遥かに上回る数で、あたかもスパスを押し潰しに来ているような勢いだった。
味方も満足に見つけられず、自身も釘付けにされて。本作戦での小隊長に任命されたというのに、元軍所属が聞いて呆れると、スパスは自身を恥じる。
『終わりはまだだぞ、スパス』
諦めかけた時、ふと何処からか声がした。周囲を見渡すが、その主はいない。鉄血人形たちも感知したように警戒し始めていて、スパスは聞き間違いではなかったと認識する。
──では、何処にいるのか? 答えはすぐに明らかになった。
スパスを釘付けにするため集まっていた鉄血人形。その真ん中に手榴弾が投げ入れられた。スタングレネードやスモークグレネードといった、非殺傷のものではない。破片手榴弾だ。
鉄血人形たちが退避を始めるより早く、手榴弾が炸裂。凄まじい爆音と衝撃波が周囲を襲った。
「……味方?」
スパスが察するに、敵の反応ではない。木陰から顔を出して様子をうかがうと、鉄血人形たちは四肢を投げ出し、破壊されていた。
土煙が晴れると、人影がスパスへ歩み寄ってくる。
──その姿は、よく見知った姿だった。
「MTS!? どうして……」
指揮官補佐、MTs-255。指揮官からは『ライーサ』とも呼ばれる事があるショットガン戦術人形が、鉄血人形たちの亡骸の真ん中に、悠然と立っていた。
「指揮官がお前たちの信号を見失って、助け出す為に捜索救難チームを組んだんだよ。もう皆、この先の飛行場に向かってる。──しかし驚いたな、ほぼ無傷か」
歩み寄り、MTs-255はスパスの身体を見つめるが軽い傷を負ったのみなのは、第三者であるMTs-255が見ても明らかだった。
流石元軍用人形か。それにしては異常な気もしたが、戦えるなら作戦もスムーズに進みそうだった。
MTs-255は背負っていたバックパックからショットシェルが納まったケースを取り出すと、スパスへ放った。
「弾切れだろう? 使いなよ」
「けど、MTSの分は──」
「余分に持ってきてるに決まってるだろ。早く拾え! すぐに森から出るぞ!」
凄まれて、スパスは我に返ったようにショットシェルを取り出す。一発をチューブマガジンに押し込み、残りは箱のまま抱える。
予備弾薬が手に入ったことで、スパス自身にも余裕が少し戻る。もとより擦り傷程度で済んでいたのもあって、MTs-255と共に森を駆け出した。
「皆無事なの!?」
「X95がかなりの重傷を負っていたようだが、機能停止にはならない。全員無事だよ。──お前も無事に送り届ければな」
MTs-255が不意に足を止めた。スパスも続いて立ち止まる。
鉄血の人形たちはそう簡単に二人を逃がすつもりは無いようで、逃走ルートへ先回りするようにして待ち構えていた。
「突破するぞ。行けるか、スパス?」
MTs-255への返答には、武器の構えで返答する。
どちらも近距離戦のみに特化した武器構成だ。真正面からやり合うには、些か数の差がありすぎる。
二人はそれぞれ左右に分かれ、鉄血人形を翻弄する作戦に出た。
MTs-255の戦闘音を耳にしながら、スパスは目の前に躍り出てくる鉄血人形、リッパーへショットガンの銃口を向ける。
距離にして数メートル。演算もなにもない。彼女は躊躇うことなく引き金を引く。
発砲と共に発生する、ショットガンの強烈な反動を受け止める。12ゲージ00バックショットの散弾はリッパーの正面へ散らばると、その破壊力をもって素体ごと打ち砕く。
オートショットガンの代表格といえるスパス12ショットガン。その連射速度は群を抜いており、二体、三体と鉄血人形は餌食になった。
しかし、武器にダメージが無かった訳ではなかった。不意にスパス12ショットガンが不発を起こす。
咄嗟に右面のエジェクションポートを確認するが、排莢不良ではない。このままジャミングを解消するのは不可能と判断し、スパスは右股に着けたホルスターからベレッタ92エリート2を抜き取ると、ありったけを対峙する人形へ撃ち込んだ。
ハンドガンは弾切れ。マガジンを交換し、ホールドオープンしたスライドを戻してからホルスターへ収める。
一方のショットガンはボルトジャムだ。開けてみないとわからないが、恐らくは内部で弾薬が引っ掛かったのだろう。ボルトハンドルはびくともせず、フォアエンドも引っ掛かったように動かない。
何度かフォアエンドをスライドさせ、無理矢理に後退させきると、未使用弾がエジェクションポートから飛んでいった。装填も無事行われた。
敵は既に居ないが、作動不良を放っておくわけには行かない。それはスパスが軍で学んだことの初歩、その一つである。
飛行場は気付けば目の前だった。味方が全て脱出済みなのもあってか、スパスたちが森を出る頃には鉄血の追跡もなかった。
先導するMTs-255の背中を眺め、スパスは一つの疑問を投げかける。
「MTS──あなたは何者なの?」
「なんだい、藪から棒に?」
振り返り、スパスの問いに問いを投げ返す。本当にスパスの問い掛けは唐突だった。
「前から訊きたかったんだけど、なかなか機会がなかったから。──指揮官と仲がいいのは分かるけど、それ以上の何かを隠されている気がして」
「……フン。気にするだけ無駄だけど──まぁ、指揮官がその気になれば知るときも来るだろ。行くぞ、スパス」
既にヘリは待機していた。仲間たちがスパスの姿を見て、緊張に満ちていた顔を綻ばせる。
スパスの
ゆっくりと地面を離れるヘリコプター。目的地は722指揮所。
スパスたちの長い一日は、ようやく終わりを告げた。
□
722基地指揮所では、ヘリコプターが着陸するより早くイリヤが待機していた。
車椅子が無ければ、着陸と同時にキャビンのドアに縋り付いていたかもしれない。ただ、前のめり気味にドアが開く瞬間を待っているせいで、基地のスタッフが制止に掛かっていた。
「MTs-255以下捜索小隊、任務完了。先行報告に変更はなく、X95、AR-57が重傷。以上です、指揮官」
ヘリから降りたMTs-255は敬礼と共に、イリヤへ報告を済ませた。
イリヤは今にも泣き出しそうな顔で人形たちを待つ。
真っ先に降りてきたのはスパスだった。
「ただいま、指揮官!」
「……おかえりなさい、スパス。皆は?」
「大丈夫、すぐに来るよ」
すぐに輸送ヘリからは軽傷だったR93、K5もやってきた。イリヤから見てもK5の動きは良くなかったが、本人は柔らかな表情でイリヤと向き合う。
一方、X95とAR-57はストレッチャーで運び出される事となった。車椅子を動かし、二人の容態を確認する。
「ゴメン、指揮官。心配掛けちゃった」
AR-57はばつが悪そうに右腕で頬を掻く。
「大丈夫。また後で話しましょう」
運ばれるAR-57を見送ると、すぐにX95の元へ向かう。
彼女の姿を見て、イリヤは頭をハンマーで殴られたかのようなショックを受けた。報告は受けていたが、改めて目の当たりにするとショッキングだ。
言葉が出ない。今回の任務に関して、自分を責める彼女ならば当然とも言えた。
「心配いりません……指揮官様。わたしは、こうして戻ってこられましたから」
「でも……」
「指揮官様ただ一人が被る責任ではありません。現に捜索部隊を編制して、わたしたちを助けてくれたではありませんか。──だから、あまりご自身を追い詰めないでください」
X95はストレッチャーの上で身動きは満足に取れない。だというのに、彼女は指揮官へ向けて優しく語り掛けるのだ。『あなたのせいではない』と。
運ばれていくX95を見送って、イリヤは車椅子の背もたれに深く身体を預ける。
いっそ詰ってくれたほうが気が楽だったかもしれない。『無能だ』と怒鳴られたほうが、今心のうちにある空虚さも少しは薄れたかもしれなかった。
ただ、それをしないのもまたX95だと言えた。それが彼女の良さなのだと。
作戦は無事終了した。決して損害は小さくないが、当初の通信施設破壊も小隊救援も終了だ。
正直、折れてしまいそうだった。ただ、作戦から帰ってきたスパスたちを見て、弱さは内に引っ込んだ。
今は彼女たちを休ませ、その後に精一杯労おう。
イリヤはそう心に決めて、指揮所へと戻っていった。
第八話、お疲れさまです。
最近ガスガンほしい欲がヤバいです。ガバメントかP226あたりがほしい。
ガシガシ遊べる東京マルイ製が安定。安いし。
あ、X95やっと来ました。
早速イリヤ小隊のメンバーで組ませてあります。
アツいですね(