コバルトブルー   作:RPM

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01:REVIVER

 

 

マン島TTレース。

 

イギリスのグレートブリテンとアイルランドの間にある小さな島、マン島で開催されるレース。

 

毎年5月最終週から6月第一週にかけて、バイクレースとサイドカーレースが行われる。

 

1907年から110年以上の歴史の中で、240人以上の死者を出して来た。

 

伝統と危険の舞台。

 

それなのに、参加希望者は後を絶たず、ヒトの競争本能を思い知らされる。

 

 

コースの全長は60・7キロメートル。

 

しかしクラスにもよるが現代のバイクは、およそ16分~20分で周回してしまう。

 

トップスピードは300キロ。平均速度は200キロを越える。

 

400メートル近い高低差、200を越えるコーナーの数。

 

コーナーの数が正確ではないのは島の地形に合わせた自然の道であり、コーナーともストレートとも付かない曖昧な区間も多いためである。

 

そして道幅は二車線程度しかない。ここでの失敗は、ほぼ死に直結する。

 

 

そこに挑む一人の日本人ライダー。

 

バイクに跨がり感覚を研ぎ澄まし、スタートを待つ。

 

(前が出てから10秒、そろそろか)

 

…トントンッ

 

肩を叩くスタートの合図。

 

スロットルを全開にし、鋼のじゃじゃ馬を開放する。

 

加速しながらアドレナリンが噴出し、恐怖と理性のリミッターがはずれていく。

 

(来た来た、この感じだぜ。)

 

スタート直後のハイスピード区間を抜け、木々が生い茂る区間へと入っていく。

 

(ここらで1/5過ぎたくらいか?)

 

木々の視界が開け住宅街の区間。

 

壁に挟まれているため見た目以上に狭く感じる。ここでほんの一瞬。それは一秒にも満たない時間。

 

僅かに体重移動が遅れた。

 

(クソッ、フロントが浮いちまっ…)

 

前輪が浮く事自体は、マン島のような細かい起伏の多い場所では珍しい事ではない。

 

そのため事前に体重移動をして、車体を持って行きたい方に行かせるのだ。

 

それが遅れたという事は…。

 

 

____

 

 

 

(あれ?ここは?)

 

直前の記憶は壁にシールドの当たる「コツン」とした音。…そして意識が途絶えた。

 

(つーか…生きてる?)

 

アドレナリンの過剰分泌で恐怖心が消え、やけに客観的に自分を見れていた。

 

(起きてみるか?)

 

起き上がり回りを見る。どうやら何処かの病室のようだ。

 

(何で首が無事なんだ?って、痛っ!)

 

あの事故り方では普通なら、首の骨の粉砕骨折で即死だろう。

 

しかし痛みを感じるのは右足だった。

 

頭が追い付いていない状況だが、誰かに話を聞く必要があるだろう。

 

(看護婦さん呼ぶか。って、日本語?)

 

イギリスの病院に運ばれたのなら、ナースコール等の表記は英語の筈。

 

しかし書かれているのは日本語だった。

 

(…とりあえず話が先だな。)

 

看護婦と医師がやって来る。

 

「おはようございます。」

 

「記憶が曖昧なんですが、交通事故ですかね?」

 

「ええ。バイクで出会い頭に轢かれたようですね。」

 

淡々と怪我の状態を説明され医師は他の病室へと向かう。看護婦に鎮痛剤を注射され安静を言い渡させる。

 

(あの耳と尻尾は何の冗談だ?)

 

今は5月か6月。

 

コスプレにしては時期がおかしい。ハロウィンでもエイプリルフールでもない。

 

そしてなにより耳も尻尾も、生きているかのように動くのだ。

 

(訳は分からないけど、コスプレだったら手が込んでるな。)

 

イギリスとの時差ボケで変な夢でも見ているのかとも思ったが、どうやら現実のようである。

 

(ほっぺたつねってみるか?…ってアホか。)

 

どの道ベッドからは動けないので、目覚ましにテレビでも見る事にした。

 

(ん?競馬中継?)

 

『快速自慢が集う東京マイル安田記念、春のマイル王は誰の手に?』

 

『三番人気、ゴールドシチー、二番人気はこの娘、タイキシャトル』

 

『本日の一番人気、オグリキャップ』

 

『各ウマ娘、ゲートに入って体勢整いました。』

 

「!!!……ウマ娘?」

 

違う世界に来ている事を男はようやく理解する。

 

(俺が異世界転生だと?)

 

そう、さっき見た看護婦はウマ娘だったのだ。

 

『ガシャン!』

 

『各ウマ娘キレイなスタートを切りました。』

 

(だいたい2ブロックぐらいに分かれたか?)

 

『残り1000メートルを通過。』

 

競馬の知識はないが、短距離決戦であるらしい。

 

『第4コーナーカーブ、ここから仕掛けどころだ!』

 

『最終直線!オグリキャップとゴールドシチー、二人のつばぜり合いだ!』

 

『残り200、オグリキャップ抜け出した!』

 

『一着はオグリキャップ!』

 

ついつい見入ってしまった。彼女達は姿形は人間と大差ないが、走行スピードはかなり速いようだ。

 

最終直線。

 

モータースポーツならエンジンが物を言うトップエンドから更に伸びるような加速。

 

(とりあえず……)

 

テレビを消して状況を整理する。

 

・男はマン島レースで死亡しこの世界にやって来た。

 

・この世界にはウマ娘という種族が居る。

 

(現状見える限りウマ娘以外は元の世界と大きい差はなさそうか。)

 

とりあえず身辺調査。

 

枕元の免許証とスマホの電話帳で、こっちの世界の自分を確認する。

 

監督やチームの名前を確認し、自分は自分のままである事を知る。

 

とりあえずメッセージアプリから、チームのグループを見つける。

 

目覚めた事とチームに迷惑をかけた謝罪。後遺症でバイクに乗れない可能性等を伝える。

 

事故は男だけの責任ではない事や、今度見舞いに来る旨などが返信で来る。

 

もし自分でレースが出来なくなるのなら…ウマ娘。彼女達に夢を託すというのも、悪くないのだろうか。

 

(レースが生き甲斐だったつもりだけど、俺も案外淡々としてるよな。)

 

普通なら落ち込んでいる状況なのに、

何故か生きていた事の驚きが勝っていた。

 

(生きてるだけで儲けモン。ってね。)

 

 




サブタイトルは、
MY FIRST STORYのREVIVERから。
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