「ご無沙汰しております。ルドルフさん。」
「ああ。久しぶりだなアイルトン。ブラジルからの長旅ご苦労だった。日本に帰って来たという事は、キミの目標は果たせたと見て良いのかな?」
「はい。昨年度のブラジルF3でチャンピオンになる事が出来たので僕と同じ名前の、彼の第二の故郷とも言える日本に帰ろうと思いました。」
「第二の故郷?」
「彼が乗っていたF1には日本のホンダのエンジンが使われていた事も多く。ホンダの創始者、本田宗一郎さんの事を、日本での父と言っていました。」
「なるほど。しかしトレセン学園に入ったという事は、トゥインクルシリーズへも参戦するという事かな?」
「はい。今しか出来ない事ですから。」
「そうか。是非とも両方のレース界を盛り上げて欲しい。」
学園に来る前に願書等と一緒に届いていたアイルトンのデータに改めて目を通す。
名前:Ayrton Syimboli
誕生日:5月1日
身長:174cm
体重:エキサイティング
B:88
W:60
H:85
趣味及び特技:ドライブ、ラジコンヘリ、カポエイラ。
苦手な物:コーヒー
資格:自動車運転免許、国際A級ライセンス
「このカポエイラというのは、名前は知っているがどういった物なんだ?」
「ブラジル独自の格闘技とされていますが、音楽やダンスを組み合わせた独自の文化で、無形文化財としても登録されているようです。」
「ほう。長い歴史がある文化なんだな。」
「起源は僕が調べた中ではブラジルがポルトガルの植民地だった1500年代にアフリカ系の移民達からブラジルに伝わったとされていますが、明確な起源は未だに謎な部分も多いです。」
「ふむ。始めるきっかけは何だったんだ?」
「元々はブラジル独自の文化としての興味からでしたが、体幹や肺活量等をレースのために鍛える上でも有用になりそうなので趣味兼トレーニングとして続けています。」
「なるほど。是非その経験を生かしてU.A.F.への参加も検討して欲しい。」
「U.A.F.?」
「ウマ娘アスレチックフェスティバル。私達ウマ娘の新たな活躍の場として、開催が検討されているスポーツ大会だ。」
「なるほど。しかし新しい活躍の場。とは?」
「それは私の解釈なんだが、現役時に成績が振るわなかったり、不慮の怪我によって引退したウマ娘が他のスポーツで活躍しているのを見る事がある。」
「確かに。」
「私達ウマ娘の多くは現役を退いて走力は衰えてもなお、競走本能や他の身体能力は衰えずに持て余してしまう事も多い。U.A.F.はそういった者達の新たな活躍に繋がると考えている。」
「なるほど。検討しておきます。」
「さて、まだ編入の手続きや引っ越し等やらねばならない事があるだろうが。一杯付き合わないか?コーヒーが苦手との事なので、紅茶を用意した。」
「ありがとうございます。」
そうしてささやかなお茶会を行い、またアイルトンは用事を消化しに向かうのだった。
____
数日後。
流貴は退院まで1ヶ月を切り、多少は引き摺るものの殆ど問題なく歩けるようになっていた。
まずは夏物の着替え等、現状すぐには使わない物を江助と共に下宿先へ運んで行く。
「若葉マークのフェラーリ?」
「ああ。最近首都高を走り出した。」
「へぇ。どっかのドラ息子かね?」
「車種が新しめの488辺りならそうかもしれねぇんだが、年式でいえば俺のスープラやお前が買おうとしてるFDに近い。マルゼンみたいにお下がりとかなら話は別だけどな。」
「URA関係者は金回りが良いって言うけど、そう簡単にスーパーカーのお下がりは無いよな。で、車種は何なの?」
「F355だ。ついでに結構イジってる。」
「というと、ワンメイクレース用のF355チャレンジってヤツだっけか?」
「まだ流してる時に抜いていくのを見ただけだが、ウイングと固定化されたヘッドライトは確認した。昔富士で燃えたGT300の仕様に近いが中身はどうだかな。」
「随分細かく見てんな。初心者相手にバトルを挑む気か?」
「ああ。普通の初心者なら挑もうとは思わねぇが、明らかに踏み方が普通じゃねぇ。」
「というと?」
「お前にそっくりなんだよ。ルキ。」
「どういう事?」
「具体的に言うと、カートからフォーミュラ上がりのドライバーが得意とする左足ブレーキを使ってアクセルを開ける時間を長く取る走り方だ。」
「なるほど。ということは、誰かが来日して免許を書き換えたとか?ラリージャパンの時も若葉マークのラリーカーがネタにされてたな。」
「その可能性はある。モータースポーツ関連のニュースも追っちゃいるが、記事もF3やF4辺りの下位カテゴリの選手までは追い切れてねぇからな。」
日本と海外では右側・左側交通等の法規が異なるため、来日した選手が実技試験等を通して免許を切り替える事がある。
「なんだか、面白くなりそうだな。」
「早く上がって来いよ、俺はいつでも首都高で待ってるぜ。」
____
夜。
首都高C1を走るフェラーリF355。フロントフェンダーの盾型のエンブレムにウマ娘のシルエット、フロントグリルとテールゲートに付けられたウマ娘のシルバーのレリーフが街灯を反射して輝く。
(僕が日本に来たのは、トゥインクルシリーズへの参戦は勿論だけど、もう一つは彼に会うためなんだ。)
アイルトンシンボリ、
Ferrari F355 challenge
エンジン:水冷V型8気筒DOHC自然吸気
排気量:3495cc
出力:380馬力
車両重量:1355kg
ギア:6速
1994年に発表されたV8フェラーリ。F355とは3500cc・5バルブエンジンを意味する。これまでのV8モデルよりも高回転型となったエンジンは、甲高い乾いたフェラーリサウンドを響かせる。
F355チャレンジはレース車両ではあるが改造点は駆動・伝達系と排気系やスリックタイヤ等であり、公道走行も可能である。
外装パーツは一部をカーボン化して軽量化され、GTウイングも装備される。さらにアイルトンの仕様はヘッドライトを固定化して空力にも気を配っている。
(僕はカート3年、ジュニアフォーミュラ2年、F3に2年と同じ名前の彼よりも短い期間でスーパーライセンスを取れる直前まで来たけど、もっと早いキャリアで世界選手権に挑んだ彼に会いたい。)
そこに江助のスープラが近付く。
(カートからF4に乗る所で2輪に移ってしまったけれど、熱い走りは何処でも一緒だった。今はウマ娘トレーナーを目指しているという。アクセルボーイと呼ばれた人。)
スープラが車間を詰めてパッシングする。
(!?これは日本特有の公道レースの合図?承諾の合図は、ハザードで良いんだっけ?)
ハザードを炊くF355。バトル開始。
短いですが、年内にもう1話書きたかったので。
アイルトンがフェラーリに乗っているのは、生前にセナが移籍を希望していたという話があるため。
アイルトンの身体データはセナと同じ身長、スリーサイズはセナと関わりのある年号の下2ケタから取っています。
1988(セナの初F1チャンピオン)
1960(セナの生まれ年)
1985(セナのF1初優勝)
趣味や苦手な物もセナに合わせつつ、独自要素としてカポエイラを入れました。
それでは皆さん、良いお年を。