2月下旬。
走行・講習会当日。
早朝。
トレセン学園から筑波サーキットに向けて、生徒達を乗せたバスが出発する。
その頃筑波サーキットでは、前乗りしていたヨシムロチームとマイカー持ち込み組による話し合いをしていた。
「さて、今日はマルゼン君と洋谷君の乗る車両のテストが目的ではある。けどそれだけだとお客さん達も飽きるだろうし、持ち込み組も走らせて見せ場を作りたい。」
「なるほど。それならまずはセッティングを決めておきたいですね。」
「そうだな。お客さんは何時頃に着くのかな?」
「ついさっき、ルドルフさんから学園を出たとのLANEが来ました。」
「了解。府中からだと道路状況にもよるけど、だいたい2時間~2時間半ぐらいか?アイルトン、ルドルフに着く直前にもう一度LANEをするように言っておいてくれ。」
「了解しました。」
「ふむ。2時間だとそこまで大がかりな事は出来ないが、まあ自分のクルマだし、みんなある程度セッティングはキメてあるんだろ?」
頷く一同。
「とりあえず路面に合わせてアシのセッティングだけでも出せれば十分か・・・よし、行こうか。」
ピットに移動し、まずはヨシムロの用意した車両から走らせて行く。
YZF-R6はちょっとした移動にしか使っておらずエンジンの慣らしとしては距離が足りないため、流貴には別のバイクが用意されていた。
「今回、芥瀬君に乗ってもらうバイクだ。」
「これはまさか?100台限定だったはずじゃ?」
「形はな。昔ウチで作ったハヤブサのデータも取り入れつつ、現代に合わせてアップグレードした。」
YOSHIMURO Hayabusa X-ZERO
エンジン:水冷並列4気筒DOHC自然吸気
排気量:1339cc
出力:210馬力
車両重量:220kg
ギア:6速
世界最速のバイクとして知られる「スズキGSX1300R隼」をベースにヨシムロがチューン。かつて100台限定で製造・販売された「隼X1」を現代の解釈でアップデート。
吸排気の効率やピストンの圧縮比アップ、バルブの軽量化などを行い200馬力を越える。
「少し暖気をしたら行こう。路面もタイヤも冷えてるから慎重にな。」
「はい。ブランクもあるし、さすがにいきなり無茶はしませんよ(笑)」
数分後。
「じゃあ、行って来ます。」
「行ってらっしゃい。」
流貴がコースインしていく。
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筑波で各車がセッティングに入る中、トレセン学園を出たバスと、その後に付いていく白いクルマ。
(新年度からのクラシック路線に向けて、朝練に出ている子を取材をするつもりだったが、なんか妙な事になってしまったな。)
岩嶋は取材目的で朝イチにトレセン学園を訪れ、合宿の時と同様のバスの列に遭遇。そのまま成り行きで後を付ける形になってしまった。
(2月にここまで大規模な課外授業は、例年にはなかったと思うが取材に来た手前、手ぶらで帰る訳にもいかないか?しかし何処に向かっているんだ?)
そのまま付いていき、調布ICから中央道に乗る。
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筑波では流貴がピットに戻り、ヨシムロが用意した4輪車の暖気に入っていた。
「さて、以前にも話した通り筑波ツーリングカーの1400に出走する。しかし参加台数を確保するためなのか、今回は1300cc~1600ccまでのクルマの混走になり、ウチからは2台用意した。」
マツダ ロードスター NR-A ND
エンジン:水冷直列4気筒DOHC自然吸気
排気量:1496cc
出力:136馬力
車両重量:1020kg
ギア:6速
マツダロードスターND型。先代では3ナンバー規格に大型化したがダウンサイジングし"人バ一体"の原点回帰。NR-Aはドイツ製車高調整式ダンパーや大径ブレーキ。タワーバー等が装備され、ラジエーターも大容量化。ナンバー取得・公道走行も可能なレースベース車両である。
トヨタ スターレット Si EP82
エンジン:水冷DOHC自然吸気
排気量:1331cc
出力:100馬力
車両重量:790kg
ギア:5速
4代目スターレット。"韋駄天"や"かっとび"と呼ばれ先代からの人気だったターボモデルのGTが有名であるが、改造範囲の限られるアマチュアレースでは安価で軽量なNAモデルの人気が高く、筑波ツーリングカーレースの1400は実質スターレットのワンメイクレース状態にある。
ロードスター・スターレット共にグループNの規格に基づいたチューニングを施し、馬力の数値はノーマルとほぼ同じであるがコンピューターのセッティングによるトルクアップや足周りの強化。
また保安装置としてロールケージや消火器等を装備し、軽量化のため助手席の取り外し等を行っている。
「マルゼンには本戦ではロードスターに乗ってもらう予定だけど、今日はスターレットに乗って、一応FFの挙動も体験しておくか?」
「そうねぇ。初めて乗るから不安だけど。」
「とりあえず。前輪が車体を引っ張る都合上、アクセルのON・OFFの挙動が後輪駆動とは逆になる事を意識して乗ってみてくれ。」
「アンダーステアとオーバーステアが逆になるって事かしら?」
「ああ。ステアリングを内側に切っていてもアクセルを開ければ遠心力の都合もあって、フロントは外側に引っ張られる。」
「なるへそ。オーバーを作るにはアクセルオフね。」
「その通りだ。よし、一応理屈が理解出来てるならとりあえず走ろうか。」
「分かったわ。」
流貴はハン達メカニックに、セッティングの変更を依頼する。
「ずいぶん軽く切り上げたなルッキー。」
「まぁ。今日は色々乗るだろうからな。一応体力を温存しとく。」
「そうか。で、セッティングは?」
「もうちょいダンパーとバネレートを固めてくれ。あと、これ電スロ入れてる?」
「よく気づいたな。監督いわく実験的に入れてるらしいが、まだまだセッティングで詰められるぜ。」
「MotoGPじゃ電スロのお陰でハイサイドが減ったけど、ついにヨシムロも導入したか。」
「まぁ、スロットルを早く開けすぎた場合にインジェクションを絞るからな。安全ではあるけど、ルッキーのスタイルとは相性が悪そうだから、少しマージンを削るように振ってみるか。」
「そりゃあ、せっかくパワーがあるんだからね。もうちょい暴れる位の方が面白い。」
「んじゃ、そういう方向で調整しとくわ。」
「ありがとう。」
江助とマルゼンスキーがコースイン。
『無線の調子はどうだ?マルゼン。』
『良好よ。』
『よし。流貴は
コースを数ラップ回りペースを上げていく2台。
『何となく慣れてきたか?』
『ええ。それにしてもレッちゃんって軽いのね。』
『そりゃ800kgぐらいで、カウンタックの半分しかないからな。』
『それなら、ブレーキをもっと遅らせられるわね。』
『何か掴んだなら、交代してセッティングの確認にいこうか。マジ走りはトレセンの子達が来てからの楽しみにとっておけ。』
『了解よ。ピットインしましょう。』
普段からABSの付いていないカウンタックを乗り回しているだけあり、ブレーキをロックさせずにコントロールする事に自信を見せるマルゼンスキー。
FF車のクセと、ハンドルとシフトレバーの位置が左右逆な事に慣れさえすれば、彼女のセンスもあって飲み込みは早いのだ。
ピットに戻り交代する。
「ロードスターはABSが付いてるからブレーキロックの心配は無いが、重量配分が前寄りでオーバーステアが出やすいから気を付けろよ。」
「タッちゃんとは逆になるワケね。」
「同じ後輪駆動でもリアが軽いクルマは、結構荷重が違うからな。」
「なるへそ。」
「まぁ、とりあえず乗ってみた方が分かるか。」
再びコースインする二人。
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その頃トレセン学園を出たバスを見送った後、スズカのお見舞いに寄った秋川やよい理事長・理事長秘書の駿川たづな・トレセン学園OGのシュガーライツ博士。
秋川理事長は今回の大規模な課外授業に当たり、どうにかしてスズカにもその模様を伝えたいと、通信・中継を提案。
理事長所有のピンク色のヘリコプターから、筑波サーキット上を撮影、スズカにタブレット型の端末を渡し中継を見れるように手配したのだった。
シュガーライツ博士は乗り物のサスペンションの動きを、自分の開発した意識をダイブさせて走る事の出来るメカウマ娘「ST-2」の足回りに取り入れる事が出来るのでは?と考えての参加である。
初対面のシュガーライツが挨拶を済ませ、端末を渡し操作法を伝える。
「では、サーキットの方に着いたら起動をお願いします。指示は私がLANEで出します。」
「ありがとうございます。たづなさん。」
病院の屋上に移動し、筑波に向けてヘリが飛び立つ。
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筑波ではヨシムロの車両テストが終わり、それぞれが持ち込んだマイカーの走行に入ろうとしている所に、RF雨美が到着。
トランスポーターから、今日流貴の乗るマシンが降ろされピットに運ばれて来る。
RF雨美 Super NA-7
エンジン:水冷直列3ローター自然吸気
排気量:654×3cc
出力:430馬力
FD3Sをベースにエンジンを3ローターの20Bへ載せ換え、ハウジングにボーリングしてガソリンを直接噴射するペリフェラルポートインジェクション化。9000回転以上回して430馬力を発生する高回転エンジンにチューンされている。
その他殆どのパーツがワンオフで制作され、本気度が伺える。タイヤや路面温度等、条件が揃えば筑波55秒台を叩き出すタイムアタックのモンスターマシン。
「会いたかったよ、芥瀬君。」
「ありがとうございます。会いたかったのは俺もですよ、雨サン。」
「さて。コイツが今日、芥瀬君に乗ってもらうヤツだ。アンタはアクセルワークが上手いから、乗りこなせると思ってるよ。」
「まるでセブンの皮を被ったフォーミュラですね。しかしコイツは、デモカーって括りで良いんですか?」
「一応、ショップの看板って意味ではね。ただお客さんが同じ物に乗れないって意味では怪しいかもしれねぇ(笑)」
ハコの皮を被ったフォーミュラマシン、地上の戦闘機。戦うマシンの機能美が全面に押し出されている。
マイカー持ち込み組がコースに出て各車セッティングの確認に入る中、雨美と吉室監督と流貴は今日の流れを確認していた。
「今日の目的を確認しておきましょうか。」
「基本的な大筋はウチの車両テスト、あとはクルマのセッティング等に関する講習会だな。セッティングの勉強はレースゲームのためという事だが。」
「講習会に関しては、俺達ドライバーが色々と教えるつもりです。特にメカニックのハンちゃんの話は大事でしょう。」
「そうだね。一応講習会はお昼頃を予定している。」
「ウチのセブンのタイムアタックもそのぐらいにやりたいね。この時期じゃ一番路面が温まる時間帯だから。」
「了解しました。では走行順に取り入れます。」
午前
ハヤブサ(流貴)タイムアタック。
スターレット(江助)、ロードスター(マルゼン)マシンテスト、ランデブー走行。
昼食・講習会
午後
RF雨美Super-NA-7(流貴)タイムアタック。
「結構アバウトというか、ユルいスケジュールですね。」
「色々とその場で決める事もあるだろうからね。一応ここまでは決めたけど、芥瀬君はバイクとクルマに乗るのにツナギを着替えたりもあると思うから、各走行の間に時間を作り、お客さんからの軽い質問も受けようと思う。」
「一つ提案があるんですが・・・。」
「何だい?」
「最初のハヤブサでの走行時、アイルトンと一緒に走りたいんです。今日ここでしか見れないクルマとバイクのスペシャルバトル。」
「ほう?」
「そういうのがあった方が面白いでしょう?アイルトンにも話を聞かないとですが。ウマ娘達は学生とは言え走りのプロですから。こっちも実力を見せておきたい。」
「まぁケガしない自信があるなら。僕は良いけど、フェラーリ相手に勝算はあるのかい?」
「バイクの軽さを考えれば、俺はイケると踏んでいます。」
「そうかい。じゃあ期待しておくよ。」
吉室監督が、サーキットスタッフに話を通しに行き雨美と流貴が残る。
「クルマとバイクのスペシャルバトルねぇ。漫画みたいな事言うねアンタ。」
「ええ。面白いでしょう?」
「しかもスーパーカーとスーパーバイク。目に焼き付けさせて貰うよ。」
舞台は整った、あとは走る者達の共演と狂演が始まるのみである。