(おっといけね。周回数を伝えるの忘れてた。)
流貴のインカムから監督に無線が飛ぶ。
『周回数を伝えます。』
『ああ。そういえば聞いてなかったわ(笑)』
『3周です。アイルトンには、グリーンフラッグを出す時にサインボードで伝わるかと思います。』
『了解。』
____
入場手続きを終えて、トレセン学園の生徒達が入場。筑波サーキットスタッフ達の案内に続く。
「ようこそいらっしゃいました。本日は貸し切りですので、観戦は自由席です。間近で見たい方はピットロードへ。」
一方、石嶋は取材交渉を試みる。筑波はカー雑誌時代から度々出入りしている場所だけあり、顔見知りも多い。
「ご無沙汰しております。石嶋です。」
「お久しぶりです。そういえばウマ娘雑誌に転向したんでしたね。」
「ええ。ウチも色々ありまして。」
「私達としては顔パスレベルで歓迎しますが、今回の主催者である吉室さんと雨美さんにもお話を通していただきたい。」
「了解しました。」(ずいぶんと豪華なメンバーだな。)
吉室監督は走行中の流貴とアイルトン。コースを見て緊急時に指示を出す立場のため、雨美と監督の代理に江助が対応する。
「雨サン。ご無沙汰しております。と、洋谷君も居たんですね。」
「久しぶりだね、石嶋ちゃん。しかし今日の主役は俺達のようで俺達じゃないんだなこれが(笑)」
「そういや俺が元ヨシムロって事は言ってませんでしたね。」
江助から石嶋に軽く今日の概要が説明される。
「なるほど。そういう事でしたか。」
「まぁ立ち話もなんだから入りなよ。吉室君には俺から言っとくよ。」
「ありがとうございます。」
そして入場しピットロードへ。
「今走っているのは誰ですか?」
「芥瀬流貴とアイルトンシンボリですね。」
「二人とも名前は知っています。」
カメラの準備をしつつ挨拶をする。
「おや?石嶋記者?」
「どうも、ルドルフ会長。今日は貴方達ウマ娘への取材の予定でしたが、予想外の場所に着きましてね。」
「今日は私達の中からアイルトンとマルゼンスキーが走る。」
「マルゼン君ですか、なるほど。色々と話が見えて、繋がりましたよ。」
____
グリーンフラッグが振られ、レーススタート。
((来た・・・!))
メインストレートを爆音と共に駆け抜ける。
(ビュンッ!)
「おお!」「速い!」「凄い風圧です・・・!」
ピットロードでギャラリーするウマ娘達が感嘆する。
サインボード、
『3LAPS TO GO』
両車フルスロットル。アイルトンはこれまで使わなかった5000回転オーバー、流貴は10000回転オーバーの領域へタコメーターを叩き込む。
「え?3周って短くねぇっすか?」
サインボードを出し終えた江助にウオッカが聞く。
「そうでもないぜ?MotoGPで流貴を知ったウオッカには、セミ耐久レースのイメージがあるだろうけど。アイツは元々峠の下り1本勝負とかのスプリント勝負が得意なんだ。」
「なるほど。アイルトン先輩はどうっすかね?」
「そこまでF3には詳しくねぇけど、スプリントとメインの2レース制。周回数はコースにもよるが20周ぐらい。モータースポーツとしてはスプリント寄りだから、早く熱を入れてタイヤを作るのは得意と見える。」
____
理事長ヘリ機内。
「ふむ。始まったようだ。あの旗が合図のようだな。音の圧が変わったぞッ!激熱ッ!」
空撮と連動した端末で映像を見る病室のスズカ。
「凄いっ。画面越しに熱さまで伝わってきそう。」
____
再び筑波、コース上。
(なんだよ。変わった子が多いから入場には時間がかかると思ってたのに意外と早いな。トレーナー同伴なのか?フロントタイヤが少しヌルい。どうする?)
第一コーナーからヘアピンへ向かう中、フェラーリのリアにピタリと付ける流貴。一部のギャラリー達はピットから振り返りヘアピン近くのドライバーズサロンの辺りへと移動していく。
「あら?スリップストリームにしても近くない?」
「確かにな。まさか流貴のヤツ、排ガスの熱を即席のタイヤウォーマーにしてるのか?」
アイルトンはウマ娘の優れた聴力を生かしミラーを使わずにある程度敵車の位置を把握出来るため、バイクの小ささを生かし、ミラーの死角を突き異様に接近する流貴に気付いていた。
(音が近い。何か企んでいる?)
(クソッ、シールドが曇るな。だがもう少しだけ!)
ヘアピンへの進入。フェラーリのブレーキランプとアフターファイヤを目視しつつも貼り付く。
「ルキくん。あれ怖くないのかしら?前見えないわよね?」
「筑波は熟知してるからな。目隠しでも走れるんじゃねぇかって冗談で言った事があるが、あながちウソとも言えねぇなこりゃ。」
(もう少し熱を入れたい気もするが、とりあえず最終コーナーで勝負をかけてみるか。)
タイヤブリッジ、第二ヘアピン。そしてバックストレッチから最終コーナーへの進入。ピットロードへ戻るギャラリー達。
(アウトから!?)
「外からだとぉ!?」
最終コーナーで流貴が外から抜きにかかる。
(パシャッ!パシャッ!)
シャッターを切りつつ、石嶋が分析する。
「いや、これは有効かもしれませんよ?筑波の最終コーナーは出口の方がキツく、アウト側の縁石に立ち上がりたいのを封じられる訳ですから。」
「なるへそ~。」
「ある意味攻防一体ってワケですか。しかし下手すりゃ轢かれるのに流貴のヤツ、よくやるわ。」
「普段は優しいのに、ハンドル握ると変わるわねぇ。」
「しかし、アイルトンもこのまま黙っちゃいないだろ?面白ぇ。」
____
2周目第一コーナー。ハヤブサを倒し込んでいく流貴。
肘まで擦るほどではないがタイヤのショルダー部分もしっかりと使う。視界の端をゼブラゾーンがすっ飛んでいく。
(やられましたが、このままという訳には行きませんね。)
(最終コーナーでやり返してくるか?それとももっと前に来るか?)
ヘアピンへと向かうS字で、アイルトンはあることに気付く。
(フェイントモーション?いや違う?)
バイクは体重移動でイン側に傾けて曲げる都合上、コーナーへの進入時にアウト側へ車体を振る必要がある。
それはWRCやドリフト競技等のフェイントモーション程ではないが、2輪と4輪のコーナリングの構造上の違い。その上でどうしても出来てしまうスキである。
(わずかなスキだけど、コレは使えるかもしれない。)
車間を詰めるアイルトンに流貴は雰囲気で気付く。
(来るかアイルトン?何処からでも来い。)
ヘアピンからタイヤブリッジ下へと抜けていく。
(コーナーでバイクがアウトへ出た時、クロスラインを狙うか。何処で仕掛けよう?)
第二ヘアピンからバックストレッチ。再び最終コーナーへの進入。
(今度は俺のセオリー通りに。)
ブレーキングを遅らせつつアウトからインへ進入。マフラーからアフターファイヤを巻き上げ、シフトダウン。
タイヤと膝を擦りスライドしつつ車体を出口へ向ける。
(スライドの方向が横から縦に変わる瞬間をケツのセンサーで感じ取れ!・・・今だ!)
ハヤブサがユラリと身震いしながら最終コーナーを立ち上がる。
____
サインボードを出す江助。
『FINAL LAP』
「暴れてんなぁ。久しぶりに見たぜ。」
ウオッカが質問する。
「アレってヨシムロのハヤブサっすよね?また作ったんすか?」
「俺も今日初めて見たからな。詳しい事は監督に聞かないとわかんねぇが、前の限定生産よりもパワフルに見えるな。」
「後で色々聞きたいっすね。」
第一コーナーを抜ける2台。アイルトンはバイクのコーナー時に出来るスキから、抜きに行くタイミングを伺う。
(前半のセクションではスキが少なく、難しいか。ならばヘアピンとヘアピンの間で行くしかないな。)
(何を企んでいるのかは分からんが、このまま盛り上がらないでゴールなんて事は無いだろうな。)
そして第一ヘアピンを抜け、タイヤブリッジ下から第二ヘアピンへ向かう緩やかな左コーナー。
(ここだ!)
アウト側から被せるように並びかけ、ヘアピンの進入でインとアウトが入れ替わりアイルトンが前に出る。
鮮やかなクロスライン。
(なるほど、そう来たか。)
第二ヘアピンを立ち上がってバックストレッチの加速競争。
(フェラーリのボディをスリップに使わせてもらうぜ。)
タンクに伏せ空気抵抗を出来る限り減らし、スリップストリームからの最終コーナー進入勝負に賭ける。
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最終コーナー。ギャラリー達の注目が集まる。
「今度はどっちから仕掛けるんだ流貴?インか?アウトか?」
(二度同じ手は食いませんよ。)
アイルトンはセオリー通りアウト側から進入、流貴はイン側でやや窮屈なコーナリングを強いられる。
(そう来るか。なら…!)
(キュッキュッキュッ!)
流貴はスロットルを早目に開けパワースライドを起こしつつ、前に進める立ち上がり重視のスライドで内側から抜きにかかり、タイヤが白煙を上げる。
それはヤマハのゼッケン46のイタリアンライダーや、流貴の吸っている銘柄のカラーリングを纏ったRGV-Γを駆るアメリカンライダーを彷彿とさせる。
(どうなっているんですか!?滑っているのに速いなんて。)
タイヤはグリップを失う寸前、僅かに空転している辺りが最も食い付く。流貴はスライドを得意とする都合上、その紙一重の扱いが上手いのだ。
(フォーミュラじゃあ車重とパワーの関係でドリフトはご法度だろうが、タイヤにはこういう使い方もあるんだぜ。)
チェッカーフラッグが降られる。流貴が僅かに前だった。
「ハナ差の決着っすね。」
「ああ。面白ぇモン見せて貰ったぜ。よし、みんな。出迎えの準備だ!」
フィニッシュラインを通過し、スロー走行へと入る。
アイルトンと流貴は並走し、フェラーリの窓を開けて健闘を称え合う。
「お疲れ様でした。やられましたよ。」
「お疲れ。ギリギリのレースになっちまったな。」
「最後のコーナー、ラインは良かったはずなんですが。」
「まぁ、詳しくは後で色々教えてやる。とりあえずピットに帰ろうぜ。」
「はい。」
そのまま一周し、二人はピットに帰っていくのであった。