流貴達がピットに戻り、人が集まってくる。
「凄いねールキちゃん。」
真っ先に声をかけたのはチームスピカのトウカイテイオー。
「おはようテイオー。面白かったかい?」
「すっごく面白かったよ!バイクってあんな風に曲がるんだね。」
その後も声をかけられる流貴とアイルトン。
「なるほどねぇ。皇帝サマとアイルーが肩入れするだけの事はあるな。」
「初めまして、芥瀬流貴だ。よろしく。キミは?」
「シリウスシンボリだ。アイルーを破るとはやるじゃねーか。」
「かなりギリギリの戦いになったがな。筑波だから勝てたのかも。」
「まぁ。細かい話は、後で色々教えてくれんだろ?」
「ああ。」
「惜しかったな。アイルトン。」
「ええ。ルドルフさん、やはり彼は速いです。パワーでは有利なはずなのに、逃げられませんでした。」
「ふむ。使い方が上手いのだろうな。」
ウマ娘達の視線を感じながら、バイクをピットへ押して運ぶ流貴。
「んじゃ、バトンタッチだ。コウちゃんとマルゼン、二人のレースを見せてくれ。俺はツナギを着替えてくる。」
「ああ。了解。」
流貴はバイク用の皮ツナギから、4輪用の耐火ツナギへと着替えにロッカールームへ向かう。
「ったく、俺達のハードル爆上げじゃねーか。」
「そうねぇ。頑張って後輩ちゃん達に良いとこみせないとね(*ゝω・*)」
「踏み込み過ぎて回んねぇようにな。ロードスターはケツが軽いから気を付けろよ。」
「分かってるわよ。」
ピットでは江助とマルゼンスキーの乗る、スターレットとロードスターの準備へと入る。
マルゼンスキーはウェーブのかかったロングヘアを襟足の位置でまとめてツナギの背中側へと仕舞う。
(ふぅ。ジャージ屋くんにはああ言ったけれど。やっぱり緊張するわね。)
タイヤのエアー圧チェックや窓拭き、くもり止め等を行う。
「あら?くもり止めスプレー?」
「ああ。ベンチレーターは外気導入にしてるよな?普通はアレでくもり止めになるんだが、エンジンを高回転まで回して走ると熱気が車内に来て、この時期は外気との温度差で逆にくもる。」
「なるへそ~。原因が分かったわ。タッちゃんにも後で塗っておこうかしら。」
____
石嶋は吉室監督から許可を得て、駐車場からピットへNSXを入れハンに話かける。
「反幕くん、後で工具を貸していただけますか?」
「了解です。足回りの調整ですか?」
「はい。首都高用になっているので。」
石嶋のNSXはサーキット用の車両。
公道走行用にセッティングを変えている。
「手伝いましょうか?」
「いえ。自分のクルマは自分の手でやります。」
長い期間乗っているだけありセッティング時の車高やバネレート、ダンパーの減衰力等の数値は全て頭に入っている。
「ところで、これはさっきの走行データですか?」
石嶋はハンの見ているPCの画面に気付く。
「ええ。監督曰く実験的に電子制御スロットルを入れてみたとの事ですが、芥瀬はまた開け方が凄いのでね。」
「彼の名前は知っていましたが2輪の事はイマイチでして。しかしこの狭い筑波でこれだけの全開時間は凄いですね。」
するとそこへ。
「なァ、アンタ時々トレセンに来るカメラマンだよな?こっちの界隈にも1枚噛んでたンだな。」
「はい。おはようございます、自分も色々撮りますから。で、エアシャカールくん。どうかしましたか?」
「今日のイベントに向けて
「でしたら第一ヘアピン上の席が良いかと思います。ヘアピンからタイヤブリッジ下まで見えて、振り返れば最終コーナーも見えます。」
「なるほど、ありがとよ。で、蹄鉄屋のアンタも来てンのか。」
コンピューター好きとして少し気になっている事もあり、ハンにも絡むシャカール。
「おはようシャカール。俺は元々このチームのメカニックだったのよ。」
「なるほどねェ。少し前から気になってた事だが、エンジンのコンピューターってのは、意外にやってる作業は単純なンだな。」
「まぁ、ガソリンを霧状にして空気と混合して燃やしてるだけだからな。ただ、1分間で数千回転ともなると、それなりの演算能力が要求されるぜ。」
「どこまで追い切れてるンだ?」
「厳密には分からないが、レースで使うような回転域ではエンジンの方が速い事が多い。」
「何で分かるンだ?」
「マフラーから火を吹く。あれは不完全燃焼したガソリンの燃え残りだから、火の量で分かる。」
「なるほどなァ。面白ェ話が聞けた。ありがとよ。」
軽く会釈をし、客席へと移動するシャカール。
____
流貴が着替えからピットへ戻る。
「あれ?タイヤウォーマー?」
「うん。ホントはウォームアップ走行は自力でやった方が信用出来るってのがウチの考え方だけど、お客さん達をあんまり待たせるのもね。」
「まぁ、確かに。しかしさっきの電スロもですが、ウチも少しずつハイテク化してますね監督。」
「最終的には、ドライバーやライダーの感覚に委ねる事になるけど。出来るだけの事はやっていかないとウチも生き残れないと思うから。」
「確かに。そろそろ出走ですか。」
江助とマルゼンスキーはヘルメットを被り、走行前の柔軟体操をしていた。
(こういう時は話しかけない方が良い。ちょっと一服しながら、高みの見物といこうか。)
それを横目に流貴は第一コーナー内側の喫煙所へ向かおうとした。するとそこに。
「おはよう。ルキさん。」
「ああ。おはようライス。と、キミは初めて見るね。」
「サクラチヨノオーです。よろしくお願いします。」
「おお、ダービーウマ娘じゃないか。芥瀬流貴だ、よろしく。」
「ありがとうございます。光栄です!あの、質問なんですが。」
「ん?」
「どうして声をかけなかったんですか?マルゼンさん、緊張してるみたいですが。」
「それは、キミ達も経験してると思うけどな。」
「え?」「ふぇ?」
「サーキットにはゲートが無いから分かりにくいかもしれないけど。ウマ娘のレースでいうなら、今はもうパドックが終わってコースイン。ゲート待ちの状態なんだよ。」
「なるほど。」「そうなんだね。」
「緊張感の中で集中力を上げていってる。心の暖気とでも言うのか。キミ達もそういう時に声をかけられたくはないだろ?」
「そう……ですね。」
「さぁ、レースが始まるぞ。」