コバルトブルー   作:RPM

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26:軽さの綱渡り

 

 

マルゼンスキーと江助がコースイン。

 

(流れはさっきのレースと同じなのね。)

 

(アウトラップから一周してローリングスタート。3周のレースだな。)

 

____

 

 

ピットでは、

 

「なんやろな?いつも軽口言うとるジャージ屋はんが、珍しく殺気立っとったわ。レース前のオグリみたいやな。」

 

「同感です。そしてあの方達は、己が烈火を上手く引き出す事が出来るようですね。私も見習わなくては。」

 

葦毛の小柄なウマ娘タマモクロスと、武人ウマ娘ヤエノムテキが感じている事を話す。

 

____

 

 

その頃流貴はタバコに火をつけ、

目を瞑りエンジン音に耳をすませる。

 

(まずはアウトラップか。)

 

コース上の2人はタイヤの感触を確かめながら一周しレースに突入する。

 

(来た。)

 

目を開け、どちらが先行しているかを見る。

 

(ほう。マルゼンお得意の逃げか。どこまで逃げられるかな?)

 

____

 

 

流貴がピットに戻ると、ハンと石嶋が話していた。

 

(誰だアイツは?とりあえず声かけるか。)

 

「初めまして、芥瀬流貴です。貴方は?」

 

「初めまして。記者の石嶋です。今日はウマ娘への取材ですが、貴方への取材も面白そうですね。」

 

「照れますね(笑)記者という事は、レースへ対しての目も肥えていると?」

 

「まぁ…一応は。」

 

少し流貴は違和感を感じる。

 

(ウマ娘の記者にしては、やかましいサーキットに場慣れしている。何者だこのオッサン?)

 

軽く自己紹介と挨拶を交わし、レースの観察へと移っていく。

 

(少しカマかけてみるか?)

 

「今回のレース。石嶋さんはどう見ます?」

 

コースに一瞬目を移す石嶋。

 

「どうでしょう?クルマの特徴からすれば、ライトウェイトのクルマの機敏な動きは魅力でもありますが、ハンドルを切りすぎたら、どこへ飛んでいくか分からない危険もあります。」

 

「ふむ。それなら、動きに応じてコントロールすればいいでしょう。バイクも似たようなものです。」

 

「確かに。貴方はそうかもしれない。ですが貴方のように、咄嗟の判断が出来る者ばかりではないんです。」

 

「ハンドルだけでコントロールしようとするからそうなるんです。アクセルは全閉しないで進める力で安定させるんです。」

 

「それが簡単に出来れば苦労はしませんよ。」

 

ハンも石嶋に同調する。

 

「そうだぞ流貴。アンタの領域に行けるのは、限られたヤツだけだ。半分狂ってる自覚を持て。」

 

「悪かったねぇレース馬鹿で(笑)」

 

(ああ。こいつも俺と同じ側なのか。厄介なオッサンだな。)

 

____

 

 

レースは2周目に突入。

 

第一コーナーで江助がタックイン。インから仕掛ける。そして、コーナー出口で差し返そうとするマルゼンスキー。

 

しかし、

 

(…!)

 

ロードスターがハーフスピン状態に。ど派手なスキール音がピットにまで響き、全員の視線が集まる。

 

(横Gが抜けきらないうちにアクセルを開けたな?だがそこからの全戻しはもっと危険だぞ。)

 

(そっちじゃないわ!戻ってロドちゃん!)

 

スローモーションに流れる時間。

 

リアタイヤがエスケープゾーンに乗り上げ土煙を上げる。アクセルをハーフスロットルに開けながらカウンターステアで復帰。

 

(そうだ、それで良い。上手く戻せたな。)

 

流貴は心で拍手を送る。

 

逃げる江助はバックミラーでマルゼンスキーの復帰を確認しつつ、第一ヘアピンへ。

 

(やらかしたと思ったが、やるじゃねぇか。しかしそうなるとやべぇ。思ったより逃げられなかった)

 

FF車は前輪が車体を引っ張る都合上、攻め込んでいくとトラクション不足が露見する。

 

(いや……焦るな。焦ったら負けだ。)

 

危機を脱したマルゼンスキーは気付く。 

 

(タッちゃんとは後輪駆動以外、全部違うと思った方が良いわね。)

 

そして、ターゲットに集中する。

 

(ジャージ屋くん、逃がさないわよ。)

 

____

 

 

ピットでは、

 

「なるほど。芥瀬君の言っていた意味がわかりました。」

 

「あの状況では多くのドライバーが、恐怖心から反射的にアクセルを抜いてリバースステアを誘発。逆方向にスピンしますが、マルゼンは上手く切り抜けましたね。」

 

ハンはマルゼンの愛車、カウンタックと照らし合わせて、少し考える。

 

「うーん。もしかしたらアレを、乗りたての頃にカウンタックで一度やらかしてるのかもな(笑)じゃなきゃあんなに上手く戻せないと思うぜ。」

 

「確かに。ところでハンちゃん?」

 

「あ?どうした?」

 

「何でコウちゃんはあんなにFF乗れてんの?スープラとは全然違うと思うけど。」

 

「それは俺も気になりますね。」

 

ハンは江助から過去に受けた相談を話す。

 

「アイツはスープラを買う前に、230系のセリカを買おうとしてたんだ。」

 

「あの三角ライトのアレか。」

 

「確かあの型のセリカには、彼のスープラと同じショップがスーパーチャージャーを搭載したチューンがありますね。」

 

「ええ。そのチューンをして、C1最速を狙っていたようですね。」

 

「何でスープラに行ったの?」

 

「結局はFFの弱点であるトラクション不足を嫌ったか、首都高オールラウンドで走れるクルマが欲しかったんだろうな。」

 

流貴は気付く。

 

「ん?トラクション不足、という事はまさか?」

 

「ああ。」

 

「前に居るのに追い詰められている。という事ですか。」

 

____

 

 

再びコース上。

 

(マルゼンのロードスターへの順応が予想以上に早ぇ。スターレットがロードスターに勝ってんのは軽さだけなんだよな。)

 

一昔前の2BOXカーの空力の悪さが露見し、空力の良いロードスターがバックストレッチで差を詰める。

 

(逃がさないって、言ったでしょ?)

 

最終コーナー。

 

(あのままだったら小回りで逃げる所だが。そうもいかなくなったな。)

 

もしマルゼンスキーが完全にスピンしていたら、軽さを生かして全コーナーを小さく回り距離を稼ぐ予定だったが、作戦を変えざるをえない江助。

 

(アンダー直前ギリギリまで踏んで少しでも前に、脱出速度も上げて逃げるしかねぇな。)

 

ハーフスピン直後は約5秒程あった差が、2秒程にまで詰まっていた。

 

レースはファイナルラップへ突入する。

 

____

 

 

ピットでは。

 

「面白くなって来たな。」

 

流貴が不敵に笑う。

 

「おいおい。どっちの味方だよ?」

 

「今の俺は客だからな。どっちでもない。」

 

____

 

 

第一コーナー、

 

シフトダウンと左足ブレーキでミドルライン、脱出速度重視で逃げる江助。

 

(来るのは分かってる。でもミラーは見ねぇ。右足に集中しろ、アンダーを出したら終わる。)

 

アンダーとオーバーの綱渡り。

 

そしてマルゼンスキーが徐々に差を詰めつつ、バックストレッチへ。

 

(もう音で分かる。最終コーナーで勝負だ。)

 

(ホラ、捕まえたわよ♪)

 

最終コーナー進入、江助が早くインにつく。

マルゼンスキーはラインを塞がれる形になるが動じない。

 

(どうした?加速しねぇ?)

 

(ここはちょっとだけ登りなのよ。)

 

筑波サーキットは高低差の少ないサーキットではあるが、最終コーナーは僅かに登り勾配なのである。

 

そこで排気量の小ささと、FF車の弱点であるトラクション不足が効いてくる。

 

マルゼンスキーが僅かに前に出ていく。

 

「勝負あったな。」

 

「ああ。」

 

「久しぶりに、昔の血が騒ぎましたね。」

 

レースの緊張が抜け、各々感想を言う流貴達。

 

そこから一周のクーリング走行を経て、

ピットへ帰還する二人。

 

 

クルマから降りて握手を交わす。

 

「インからブチ抜いて。揺さぶりをかけたつもりだったんだが、負けたぜ。」

 

「うふふっ。首都高では貴方の方が先輩だけど、ココではあたしの方が長いもの。そう簡単に負ける訳にはいかないわよ(*ゝω・*)」

 

「ふぅ。疲れたぜ。メシにすっか。」

 

「そうね。」

 

「何だお前ら、どうした?」

 

まだレースの興奮冷めやらぬか、二人を囲みつつも静かなウマ娘たち。

 

「あー。せやなぁ。オモロいモン見してもろたけどなぁ。凄い熱ぅて、何言うても陳腐や思てん。」

 

「あら。じゃあみんなでお茶しましょ?」

 

「そうだな。メシ食って落ち着こうぜ。」

 

そうして、ドライバーズサロンへと向かうのだった。

 

 

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