マルゼンスキーと江助がコースイン。
(流れはさっきのレースと同じなのね。)
(アウトラップから一周してローリングスタート。3周のレースだな。)
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ピットでは、
「なんやろな?いつも軽口言うとるジャージ屋はんが、珍しく殺気立っとったわ。レース前のオグリみたいやな。」
「同感です。そしてあの方達は、己が烈火を上手く引き出す事が出来るようですね。私も見習わなくては。」
葦毛の小柄なウマ娘タマモクロスと、武人ウマ娘ヤエノムテキが感じている事を話す。
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その頃流貴はタバコに火をつけ、
目を瞑りエンジン音に耳をすませる。
(まずはアウトラップか。)
コース上の2人はタイヤの感触を確かめながら一周しレースに突入する。
(来た。)
目を開け、どちらが先行しているかを見る。
(ほう。マルゼンお得意の逃げか。どこまで逃げられるかな?)
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流貴がピットに戻ると、ハンと石嶋が話していた。
(誰だアイツは?とりあえず声かけるか。)
「初めまして、芥瀬流貴です。貴方は?」
「初めまして。記者の石嶋です。今日はウマ娘への取材ですが、貴方への取材も面白そうですね。」
「照れますね(笑)記者という事は、レースへ対しての目も肥えていると?」
「まぁ…一応は。」
少し流貴は違和感を感じる。
(ウマ娘の記者にしては、やかましいサーキットに場慣れしている。何者だこのオッサン?)
軽く自己紹介と挨拶を交わし、レースの観察へと移っていく。
(少しカマかけてみるか?)
「今回のレース。石嶋さんはどう見ます?」
コースに一瞬目を移す石嶋。
「どうでしょう?クルマの特徴からすれば、ライトウェイトのクルマの機敏な動きは魅力でもありますが、ハンドルを切りすぎたら、どこへ飛んでいくか分からない危険もあります。」
「ふむ。それなら、動きに応じてコントロールすればいいでしょう。バイクも似たようなものです。」
「確かに。貴方はそうかもしれない。ですが貴方のように、咄嗟の判断が出来る者ばかりではないんです。」
「ハンドルだけでコントロールしようとするからそうなるんです。アクセルは全閉しないで進める力で安定させるんです。」
「それが簡単に出来れば苦労はしませんよ。」
ハンも石嶋に同調する。
「そうだぞ流貴。アンタの領域に行けるのは、限られたヤツだけだ。半分狂ってる自覚を持て。」
「悪かったねぇレース馬鹿で(笑)」
(ああ。こいつも俺と同じ側なのか。厄介なオッサンだな。)
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レースは2周目に突入。
第一コーナーで江助がタックイン。インから仕掛ける。そして、コーナー出口で差し返そうとするマルゼンスキー。
しかし、
(…!)
ロードスターがハーフスピン状態に。ど派手なスキール音がピットにまで響き、全員の視線が集まる。
(横Gが抜けきらないうちにアクセルを開けたな?だがそこからの全戻しはもっと危険だぞ。)
(そっちじゃないわ!戻ってロドちゃん!)
スローモーションに流れる時間。
リアタイヤがエスケープゾーンに乗り上げ土煙を上げる。アクセルをハーフスロットルに開けながらカウンターステアで復帰。
(そうだ、それで良い。上手く戻せたな。)
流貴は心で拍手を送る。
逃げる江助はバックミラーでマルゼンスキーの復帰を確認しつつ、第一ヘアピンへ。
(やらかしたと思ったが、やるじゃねぇか。しかしそうなるとやべぇ。思ったより逃げられなかった)
FF車は前輪が車体を引っ張る都合上、攻め込んでいくとトラクション不足が露見する。
(いや……焦るな。焦ったら負けだ。)
危機を脱したマルゼンスキーは気付く。
(タッちゃんとは後輪駆動以外、全部違うと思った方が良いわね。)
そして、ターゲットに集中する。
(ジャージ屋くん、逃がさないわよ。)
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ピットでは、
「なるほど。芥瀬君の言っていた意味がわかりました。」
「あの状況では多くのドライバーが、恐怖心から反射的にアクセルを抜いてリバースステアを誘発。逆方向にスピンしますが、マルゼンは上手く切り抜けましたね。」
ハンはマルゼンの愛車、カウンタックと照らし合わせて、少し考える。
「うーん。もしかしたらアレを、乗りたての頃にカウンタックで一度やらかしてるのかもな(笑)じゃなきゃあんなに上手く戻せないと思うぜ。」
「確かに。ところでハンちゃん?」
「あ?どうした?」
「何でコウちゃんはあんなにFF乗れてんの?スープラとは全然違うと思うけど。」
「それは俺も気になりますね。」
ハンは江助から過去に受けた相談を話す。
「アイツはスープラを買う前に、230系のセリカを買おうとしてたんだ。」
「あの三角ライトのアレか。」
「確かあの型のセリカには、彼のスープラと同じショップがスーパーチャージャーを搭載したチューンがありますね。」
「ええ。そのチューンをして、C1最速を狙っていたようですね。」
「何でスープラに行ったの?」
「結局はFFの弱点であるトラクション不足を嫌ったか、首都高オールラウンドで走れるクルマが欲しかったんだろうな。」
流貴は気付く。
「ん?トラクション不足、という事はまさか?」
「ああ。」
「前に居るのに追い詰められている。という事ですか。」
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再びコース上。
(マルゼンのロードスターへの順応が予想以上に早ぇ。スターレットがロードスターに勝ってんのは軽さだけなんだよな。)
一昔前の2BOXカーの空力の悪さが露見し、空力の良いロードスターがバックストレッチで差を詰める。
(逃がさないって、言ったでしょ?)
最終コーナー。
(あのままだったら小回りで逃げる所だが。そうもいかなくなったな。)
もしマルゼンスキーが完全にスピンしていたら、軽さを生かして全コーナーを小さく回り距離を稼ぐ予定だったが、作戦を変えざるをえない江助。
(アンダー直前ギリギリまで踏んで少しでも前に、脱出速度も上げて逃げるしかねぇな。)
ハーフスピン直後は約5秒程あった差が、2秒程にまで詰まっていた。
レースはファイナルラップへ突入する。
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ピットでは。
「面白くなって来たな。」
流貴が不敵に笑う。
「おいおい。どっちの味方だよ?」
「今の俺は客だからな。どっちでもない。」
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第一コーナー、
シフトダウンと左足ブレーキでミドルライン、脱出速度重視で逃げる江助。
(来るのは分かってる。でもミラーは見ねぇ。右足に集中しろ、アンダーを出したら終わる。)
アンダーとオーバーの綱渡り。
そしてマルゼンスキーが徐々に差を詰めつつ、バックストレッチへ。
(もう音で分かる。最終コーナーで勝負だ。)
(ホラ、捕まえたわよ♪)
最終コーナー進入、江助が早くインにつく。
マルゼンスキーはラインを塞がれる形になるが動じない。
(どうした?加速しねぇ?)
(ここはちょっとだけ登りなのよ。)
筑波サーキットは高低差の少ないサーキットではあるが、最終コーナーは僅かに登り勾配なのである。
そこで排気量の小ささと、FF車の弱点であるトラクション不足が効いてくる。
マルゼンスキーが僅かに前に出ていく。
「勝負あったな。」
「ああ。」
「久しぶりに、昔の血が騒ぎましたね。」
レースの緊張が抜け、各々感想を言う流貴達。
そこから一周のクーリング走行を経て、
ピットへ帰還する二人。
クルマから降りて握手を交わす。
「インからブチ抜いて。揺さぶりをかけたつもりだったんだが、負けたぜ。」
「うふふっ。首都高では貴方の方が先輩だけど、ココではあたしの方が長いもの。そう簡単に負ける訳にはいかないわよ(*ゝω・*)」
「ふぅ。疲れたぜ。メシにすっか。」
「そうね。」
「何だお前ら、どうした?」
まだレースの興奮冷めやらぬか、二人を囲みつつも静かなウマ娘たち。
「あー。せやなぁ。オモロいモン見してもろたけどなぁ。凄い熱ぅて、何言うても陳腐や思てん。」
「あら。じゃあみんなでお茶しましょ?」
「そうだな。メシ食って落ち着こうぜ。」
そうして、ドライバーズサロンへと向かうのだった。