午前中のレーススケジュールを消化し、場内放送でコース清掃、休憩・昼食の案内が入る。
(ふう。もうメシか。面白ェもんが撮れた。)
第一ヘアピン上の席から観戦していたシャカール。
(しかしまァ、オレだけかと思ってたンだが意外と居るじゃねェか。)
客席には数人のウマ娘とその担当トレーナー達。
「じゃあ、みんな。続きはお昼の後で。ラヴミー♡ラヴユー♡ラヴズオンリーユーでした!またね。」
インフルエンサーウマ娘、ラヴズオンリーユー。筑波サーキットでも"映え"を意識したスポットを見付けるあたりはさすがの嗅覚である。
「良い写真は撮れた?クロノちゃん。」
隣には、石嶋並みのバズーカレンズを装備した一眼レフを持った小柄なウマ娘、クロノジェネシス。レースの歴史オタクな彼女に、筑波はどう映ったのだろう。
「なかなか難しいです、特にバイクの人の切り返しは素早いですね。」
「よォ。だったらオレのU-PROのデータをコピーして、くれてやっても良いぜ?代わりにお前の走行データを取らせて貰うがな。」
「私のデータ、ですか?」
「ああ。サンプルは多けりゃ多いほど良い。」
「分かりました。」
「交渉成立だな。あと、確か石嶋とかいう記者のヤローが来てたぜ。車の撮り方も知ってンじゃねェか?」
「石嶋さんですか?私にカメラを教えてくれた師匠です。」
「へェ。あとは例の講習会で、何を教えてくれンのかね?人間の限界を見せて貰おうじゃねェか。」
____
その頃。ドライバーズサロン前の流貴達。
「なるほどね。あの人数をどうやって捌くのかと思ってたら、こう来たか。」
サロン内だけでは席数が足りないため隣の駐車場スペースにテーブルと椅子が置かれ、屋外食堂となっていた。
「しかし、やられたなコウちゃん。」
「マルゼンの対応が予想外に早くてな。」
「しかしスケっち。FFのトラクション不足で負けるとは。藤堂塾みたいだな(笑)」
「まぁ良いさ。TTCに向けて、FFの限界領域の動きを思い出しておかないといけなかったから、目的は果たせた。」
するとそこに。
「よう。アンタら、ヒリつく勝負を見せて貰ったぜ。ありがとよ。」
「キミは?」
「ナカヤマフェスタだ。よろしく。特にバイクのアンタは熱かったな。全部狙ってやってんのか?」
「芥瀬流貴だ。よろしく。いや、考えてたら間に合わないから、咄嗟に相手の動きに合わせて対応してる。」
「マジかよ、イカれてんなぁ。アンタ本当に人間か?」
「いやいや、頭のネジ飛んでんのはナカヤマもだろ?」
「よう。ジャージ屋。賭けはオールアナッシング。それが一番面白ぇ。」
「ったく。流貴もたいがいだけど、ナカヤマも恐怖を知らねぇ。」
「コウちゃんにこの間、天才と馬鹿のちょうど紙一重の所に居るって言われたねぇ。ナカヤマも勝負師だな。まぁ詳しい事は、メシの後の講習会で色々教えるよ。」
「そうかい。楽しみにしてる。そういえば、ここの食堂のもつ煮定食は美味いらしいが本当か?」
「ああ。美味いよ。ここに来る人の定番メニューだ。」
「そいつは良かった。じゃ、またな。午後も楽しませてくれよ。」
____
昼食後。駐車場スペースをそのまま講習会会場として、午前のレースに使用した車両(ハヤブサ、F355、スターレット、ロードスター)が運ばれて来る。
まずは実際にコックピットに座ったり、バイクに跨がったりする事でウマ娘達と距離を縮めようという試みである。
「まいど!ジャージ屋はん。さっきはええ走りしとったなぁ。アンタもこっち側の人間やったか。」
「ん?何だ、タマの知り合いにも走り屋が居たのか?」
「近所に阪神環状族のヤツがおってん。ウチの最後の有馬記念の時、こっちまで見に来てくれたんや。」
「ほう。なんとなくわかったぞ。多分首都高で会ってる。」
「トレーナー目指しとる言うとったから、近いうちにまた会うかもしれへん。」
「へぇ。アイツの考えなら、上手く担当の能力を引き出せるかもしれねぇな。」
(前にハンと話した関西のラリー好き、流貴とはまた違う速さを持っていた。アイツが来るなら、流貴の同期トレーナーになるかな?)
その頃、クロノジェネシスはNSXを停めたピットスペースに石嶋と居た。
「車の撮り方、ですか?」
「はい。なかなか上手くいかなくて…。」
「流し撮りは知っていますか?」
「流し撮り?」
「クロノ君はいつもウマ娘のレースを撮る時は、体を固定していますが、車の場合は被写体を追いながら、体を回すように撮る必要があります。」
「なるほど。」
「シャッタースピードは遅めにすると、背景が上手く流れます。あとは、絞り値の高いレンズを使用すると、ピントがボケにくいです。」
そこにイグニッション音が響く。
「!?」
「おや?」
二人が駆け付ける。
F355に乗ったシリウスシンボリが勝手にエンジンをかけたようだった。
そして、不敵に笑いながら流貴に手招きをする。
「なぁアンタ、ちょいと魅せちゃくれねぇか?」
「は?」
「バイクをちょいと振り回してくれよ。ただ喋るだけじゃ面白くねぇだろ。」
「しょうがないな。」
流貴はハヤブサのエンジンをかける。
(キュキュキュ…ドゥン!)
フロントのみブレーキをかけてバーンナウトし、白煙を撒き散らす。
煙幕の中、音だけが聞こえる。
(振り回せって言ったよな?じゃあ。)
ようやく視界が晴れると、ハヤブサがF355の回りをスレスレで回っている。
(マジかよ。)
「距離が、変わらねェだと?」
周囲が呆気に取られる中、流貴はハヤブサを横付けして停める。
「これでいいか?」
「ああ。面白ぇモン見せてもらった。」
そのままなし崩し的に質疑応答が始まり、シャカールが流貴に聞く。
「エアシャカールだ。なぁアンタ、アレはどういう事なンだ?」
「タイヤ見て合わせてるだけだよ。」
「はァ?」
「俺はタイヤの通るラインが分かる。」
「狂ってやがる。」
質疑応答から講習会へ。
「ピットの方が良さそうだな。言うより見て覚えてくれ。」
「あァ。そうだな。もう一回アレを見せてくれよ。」
ピットに移動し、パイロンを三角形に配置する流貴。
(何をする気だァ?)
先ほどと同じようにスレスレで回り始めるが、しかし。
(もうちょい遊んでやるか。)
コツンッ、コツンッ、コツンッ。
さらに内側に寄せ、パイロンにステップを当て始める。しかし吹っ飛ばす程強くは当てない絶妙さ。
(マジかよ。再現しろっつったのに、さらに上を行きやがった。)
シャカールは流貴の目線を追う。
(一つ先のパイロンを見てンのか?)
しかし流貴は一瞬目を落とす。
(足とパイロンを交互に?頭ン中にラインがあンのか?)
首と頭の動きを見る。
(少し内側に傾けた?体重移動で毎回ラインを作ってンのか?)
今度は右手が微かに動く。
(アクセルと体重移動で、ズレを戻してるのか。いや違ェ、コイツは1cm単位でズレを予想してやがる。)
(もう良いかな?)
流貴がハヤブサを停めると、拍手が聞こえる。
「ハッハッハッ!やっぱりアンタ、おかしいぜ。」
「そりゃーどーも。」
ナカヤマが爆笑しながら称賛する。
「満足したか?」
「あァ。」(まるで追いきれない小数点か、ハッキング防止に毎回変わるコードみてェなヤツだな。キメェ。)
一応納得はした。しかしまだ絡む。
「なァ。アンタ、高速域でも同じ事が出来ンのか?」
「出来るぜ。」
空気が殺気立ち、周囲のウマ娘達の尻尾が揺れる。
(ぞぞぞ!)
「見てろ。」
(芥瀬君、やる気だね?)
雨美は察したかのように、Super NA-7のエンジンに火を入れる。
(ヒュルルルルル…ヴォン!ボッボッ…ボッボッ。)
今までのどの車両とも違う、軽く静かなセルスターター音からペリフェラルポート特有の不揃いなアイドリング音へと繋がる。
それは、音というより声のようだった。
(なんだァ?アレは本当に、車なのか?)
耳が、勝手に伏せた。
「行くぞ。」
頭文字Dとウマ娘がコラボしたし、
藤堂塾の名前出しても良いよね?
流貴のバイクパフォーマンスは何処かでやりたかったので、ヤンチャなヤツらと絡める事で書けた。