流貴がコースインし、
ピットロードから観戦するマルゼンと江助。
「なんだか、いきなり始まっちゃったわねぇ。」
「あそこまで殺気立ってんのは久しぶりに見たが、流貴は煽られたら実力で黙らせるからな。」
「そこはあたし達ウマ娘と同じねぇ。」
「さて、何秒が出るかな。」
車内、雨美から流貴に無線が飛ぶ。
『芥瀬君。聞こえる?』
『はい。』
『一応タイヤウォーマーはやっといたけど、調子はどうだい?』
『行けます。』
『分かった。』(返事が短いね。集中してるのか。)
流貴がタイムアタックへ向けて集中を高める中、急遽始まった事で周囲も騒がしくなる。
「では、流し撮りをやってみましょうか?さっきは言いそびれましたが、単発で上手くいかないなら、連写を使うのも手ですよ。」
「はい。分かりました。」
テストの一周を終え、最終コーナーを立ち上がって来る。
不揃いな音が澄んでいく。
「来た!」
ストレートを駆ける咆哮から、第一コーナーへと進入する。
「音が、途切れねェだと?」
減速して音が再び不揃いになっても、途切れる事は無い。
「まさか流貴くん、左足ブレーキだけで曲げてるのかしら?」
「あの車は2ペダルだから流貴にとっては余裕で出来るだろう。が、この低速コーナーの多い筑波でそれをやんのか?下手すりゃ逆にタイムが落ちるぜ?」
「前に言ってた、タイムを揃える走りの実演かしら?」
第一ヘアピン。変わらず音は途切れない。
(人間アンチラグの本領発揮だね。ホントはもう少し小さく回った方がタイムは稼げるけど、今は見せるのが目的か。)
第二ヘアピン、バックストレッチ、そしてまた最終コーナーを立ち上がって来る。
(タイムは?)
『0:58:315』
「いきなり1分切りどころか、さらに1秒削って来たわね。」
「FDの筑波のレコードとしては普通だが、ここから削っていくのか、揃えるのかどっちだ?」
第一コーナー進入。しかし、
「あら?」
「今度は普通にインに入ったな。」
1周目は脱出速度重視のワイドなライン取りだったのに対し、2周目はセオリー通りのアウトインアウトのラインを取る。
「アイツ、何を考えてンだ?」
第一ヘアピン、脱出速度重視のワイドなライン。
「今度は逆に外を回った?ズレをわざと作ってンのか?」
第二ヘアピンはアウトインアウト。再びバックストレッチから最終コーナーへ。
立ち上がってスピードを乗せる。
『0:57:928』
「さっきより速ェ。が、誤差コンマ0.5以下だと?」
ナカヤマは勘で気付く。
「予定調和、だな。」
「ハァ?」
「アンタの言うズレとやらをアイツは自分で作って、またどこかで帳尻を合わせられるみたいだな。」
「理解出来ねェ。」
「何かカラクリはある筈だが。」
話している間に、流貴は2周目のコピーのようなラインで第一ヘアピンを抜ける。
「今度は後半でズレを作る気か?」
第二ヘアピンをワイドなライン取りで抜けバックストレッチの速度を伸ばす。
最終コーナーへの進入、先ほどよりも早めにインに付きアクセルを全開にする。
『0:57:501』
「またコンマ0.5以下で揃えて来やがったか。」
(ザワッ!)
周囲がラップタイムにざわつく中、流貴は自己ベストの記録に向かう。
『雨サン、コレってソフトタイヤですか?』
『そう。そろそろくたびれてくるよ。』
『了解。締めます。』(見せる役目は終わりだ。あと1周ならいける。)
「音が、消えた?」
第一コーナー。ブレーキングを遅らせ、代わりにコーナー頂点では慣性に任せる。
(よし。)
車体が出口を向いて全開で立ち上がる。
『0:10:070』
(ゴクリ)
その緊張感に、全員が固唾を飲む。
(音が聞こえねェ?)
ヘアピン手前のS字、2つ目からアクセルを抜く。
(ここはエンジンに任せる。)
ヘアピン入り口でシフトダウン。イン側のゼブラゾーンをかすめ立ち上がる。
『0:21:900』
タイヤブリッジを抜けて、第二ヘアピンへ向かう左コーナー。
(おっと。)
車体が外に流れ、ハンドルを小刻みにこじる。
(戻れ!)
さらに小刻みに踏む。
(ヴォヴォヴォ!)
「立て直したわ!」
そのまま第二ヘアピンへ雪崩れ込む。
(滑っても前に!)
さらにアクセルを開け続ける。
「ドリフトだと!?」
『0:40:000』
バックストレッチを抜け最終コーナー進入。
『0:47:600』
(アクセルは抜かない。)
小刻みに光るブレーキランプ。流貴お得意の左足ブレーキがここで効く。
車体が、出口を向いた。
(行け!)
ゼブラゾーン外側のグリーンの塗装に乗り上げながら、コントロールラインを通過する。
『0:56:738』
「…やりやがった。」
「さらに0.7秒も削れるのね。」
「ワケが分からねェ。アイツはバグかよ?」
「やぶ蛇だな、シャカール。」
「うるせェ。ナカヤマ。」
スローダウンし、クーリング走行に入る。
『芥瀬君、お疲れ様。惜しかったねぇ。もう少しでウチの記録に届いたのに。』
『ちょっとタイヤをいじめ過ぎましたね。』
『でも、熱い走りをありがとう。』
ピットへと帰る。
すると、2人のウマ娘から拍手と笑いながら出迎える。
「ハッハッハッ!相変わらず狂ってんなぁ。」
「そいつは俺には褒め言葉だ。ありがとう。」
「ハーハッハッハッ!ここに居たのか!
眼帯が特徴的なウマ娘が、ドスの効いた声で喋りかける。
(また変なのが来た。)「…とりあえずキミは?」
「タニノギムレットだ。芥瀬流貴。良い酩酊だ。」
「そいつはどーも。」
「よう、お疲れ。アイツはいつもだから気にすンな。」
「ただいま、シャカール。一応揃えてはみたが、どうだ?」
「アタック前の3周だな。1秒以下の誤差だ。だがラインをズラした意味が分からねェ。」
「同じラインで揃えたんじゃ、講習にならないからな。」
「はァ?」
「サーキットでもウマ娘のコースでも、常にレコードラインを通れる訳じゃないって事だ。」
「前からルキくんの言ってた、タイムを揃える走りよねぇ。ラインを変えたのは実戦想定かしら?」
「まぁ、競り合いとかコースの荒れとか、ラインを封じられる事なんて色々あるだろ。色々引っ掻き回されたが、講習を走りに落とし込ませてもらった。」
「なるへそ。」
「さすがに俺もくたびれたぜ。」
「確かに。いつもより目つきが悪ぃな。」
「悪いねコウちゃん。集中が切れたらちょっと眠い。」
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RF雨美のピットにNA-7を運び、今後どうするかを話し合う。
「謝罪ッ!ウチの生徒が場を乱してしまった!」
「良いんですよ理事長。結局、講習会だと堅苦しくなりそうだし。見て覚えてもらった方が良いかと思ったので。」
いきなり謝る理事長を流貴が落ち着かせる。
「監督、一応プログラムは全部消化しましたが。まだ暗くなるまで時間がありますね。」
「そうだね。とりあえず洋谷君と石嶋君にも走って貰おうか。まだお客さんも見足りないみたいだし。」
「俺のスープラは元々走らせる予定だったから、セッティング出来てるけど、石嶋さんはちょっと時間かかるんじゃねぇの?」
「じゃあ、それも見学してもらおうか。ウチのセブンもここでオーバーホールしよう。車の構造も講習の内容にあったよね。」
「そうですね。」
「芥瀬君の言う通り、見て覚えてもらった方が分かりやすいし、楽しいでしょ。」
「了解しました…ふぁ。」
「しょうがねぇなぁ。流貴!」
ヒョイ……パシッ!
缶コーヒーが投げ渡される。
「そいつは奢りだ。もうちょい頑張ってくれ。」
「ああ。ありがとう。」
江助のピットへと向かう2人。