コバルトブルー   作:RPM

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29:走りと構造

 

 

NSXのセッティング、NA-7のオーバーホールに向けてエンジンクレーンやトルクレンチ、ジャッキ等の準備を始めるヨシムロとRF雨美のピット。

 

(ガラガラガラ…)

 

「ちょっと工具とかの準備があるから、ウマ娘のお嬢ちゃん達は休憩だね。」

 

休憩と言われた事で、タイムアタックの緊張が抜け口々に感想を言うウマ娘達。

 

「ワケワカンナイヨー。」

 

「アイツ、脳ミソにストップウォッチ埋まってんのか?」

 

「わたくし達のペース走を速くしたような物だと思いますわ。ただ、どうしてタイムが揃うのかまでは…。トレーナーさんはわかりますか?」

 

テイオーとゴルシが驚き、マックイーンと沖野は考える。

 

「うーん。お前らで言えば左右のバ身差をあるコーナーでは右にズラし、次のコーナーでは左にズラしたんだろうな。」

 

「どういう事ですか?」

 

「そうすりゃ走る距離は揃う。ただタイムを0.5秒以下の誤差で揃えるとなると、分からんな。」

 

「トレーナーの言ってる事は当たってるよ。芥瀬さんの現役の頃のインタビューで、タイヤ1本ずつラインを調整してるってのがあった。あとはスピードを揃えてるらしい。」

 

「確かに計算上はそうなるわね。算数で習う、距離・速さ・時間の応用よね。でもあのスピードでメーターを見てる余裕なんてあるのかしら?」

 

「いや、そもそもレース用のバイクはスピードメーターがねぇんだよ。」

 

「は?」「え?」「ウソ!?」

 

スペとスカーレットが驚き、ウオッカがバイク好きの視点から補足するが、さらに混乱してしまう。

 

「あとは何でタイヤの見えない車で、同じ事が出来んのか不思議なんだよな。」

 

「アイツ、本当に人間か?」

 

「んー。やっぱり宇宙人なんじゃね?」

 

(ザワッ。)

 

騒がしく話した事で周囲にも伝わる。

 

(あの人、なんなの?)

 

(凄すぎて気持ち悪いわ。)

 

(おっと。ルッキーのカラクリがだだ漏れだ。まぁ真似しようと思って出来るもんじゃないが。もう一個衝撃を追加しとくか。)

 

工具を運びながら聞いていたハンが一言。

 

「ああ。ついでにアレ、今日初めて乗った車だ。」

 

(え?)

 

(初めて!?)

 

(訳分かんないわ。)

 

(………。)

 

「アイツにとって、操作感は誤差の範囲なのかもな。あと蹄鉄屋兼、レースメカとして一つ言っとくぞ。新品の蹄鉄でタイム更新するような離れ業。モータースポーツのトップにはあのレベルがゴロゴロいる。」

 

ウオッカが答える。

 

「それは分かってんすけど。あんまり夢の無い事を言わないで欲しいっす。」

 

「別に突き放したくて言ってる訳じゃねぇ。ただ、ウマ娘の3倍近い平均速度の世界だから、考えるより先に体が動かなきゃダメだ。まずは体内時計の精度を上げる事だな。」

 

「でも芥瀬さん。チャンピオンにはなれてないんすよね。」

 

「ああ。才能を開花させて磨いて磨いて、あそこまで行った。が、最後の何かが足りなかったんだ。運なんて言ったら……身も蓋もねぇだろうがな。レースに勝つには色々揃わないとダメって事だな。」

 

「近付くには、どうしたらいいんすか?」

 

「サーキットはコーナー前の看板や縁石の境目を目印にする。ウマ娘のコースならハロン棒とか、何かしらの目印を決めて踏み込む。それを感覚に落とし込んで、繰り返していくしかない。」

 

(………。)

 

(私達にも、出来るのかな?)

 

____

 

 

その頃。江助のピットにて、流貴本人は。

 

「なんだか向こうが騒がしいな。」

 

「お前のせいだぞ。多分な。」

 

「ふふふ(笑)しかし、さすがに初めて乗る車は気使うわ。ブレーキとハンドルミスったら吹っ飛ぶからな。」

 

「吹っ飛ぶ前提で走るんじゃねぇ。バイクじゃねぇんだぞ。まぁ、それでもしっかりタイムを出すのは、さすがのレース馬鹿だな。」

 

「タイヤが持てば限界にあと半歩ぐらい踏み込んで、タイムをもっと詰められたんだが。」

 

「揃える走りでタイヤを使いすぎだ。最後滑ってたもんな。」

 

「まぁ、アレが今日の目的だったから。締めのタイムアタックはついでだよ。」

 

「全くお前は、頭のネジを何処に置いて来たのかねぇ?」

 

「多分、お袋の腹の中だな(笑)」

 

「(笑)ココに座って休んでろよ。」

 

タイムアタックのためにスープラから外し、床に置いた助手席のシートへ流貴を促す。

 

「ありがとう。色々変えたんだな。」

 

「まぁサーキット用って事でな。」

 

「左ライトをダクトにしてるな。これは何処の冷却用?」

 

「タービンとタコ足の冷却。」

 

「インタークーラーは前か?」

 

「ああ。あとは抜けの良い触媒とサイレンサー。」

 

「パワーは?」

 

「600馬力のフルブースト。ちょいと中速のツキは見なきゃだが。」

 

「ブーストはコックピットから操作出来るんだろ?」

 

「ああ。あとブレーキバランスもな。」

 

「ブレーキ?」

 

「直4に載せ換えても、スープラはFDと違って前に荷重が残るからな。今は少しリアの効きを強くしてる。前だけ強く効くと回るかもしれねぇ。」

 

「なるほどね。目標タイムは?」

 

「80スープラで筑波1分切りは珍しいからな。やはり車重がネックか。とりあえず1分フラット辺りか、上手くハマれば切りたい所だな。」

 

「楽しみだな。とりあえず今は待機かな?」

 

「そりゃあ今出たら、ウマ娘達の集中がとっ散らかるからな。」

 

____

 

 

石嶋のピットではレースゲーム好きのウマ娘達に向けた、セッティング実演・見学会。

 

NSXをジャッキアップ、タイヤを外して足周りの調整に入り、ハンが説明役をする。 

 

「さて、セッティングの実演だ。質問のある子は?」

 

「はい!車高ってどのくらい下げたら良いんですか?」

 

「低い方が見た目はカッコ良いよな。だが下げすぎるとサスペンションの動き、ウマ娘で言えば膝の上下動が制限されて動きにくい。10mmずつ調整してちょうど良い車高を見付けてくれ。」

 

「バネの固さ、バネレートだっけ?アレも同じなの?」

 

「バネやダンパーの固さはまた違って来る。加減速時に車体の前後が沈む動きや、コーナー時に外側が沈む動き。あれが無きゃ車は踏んばれないが、動き過ぎてもタイムロスになる。」

 

「って事は、1kgずつ調整するの?」

 

「面倒臭がっちゃダメだぞ。レースゲームでも速く走るには、地道な積み重ねが必要なんだ。」

 

「「「はーい。」」」

 

____

 

 

RF雨美のピットではNA-7からエンジンが抜かれエンジンスタンドへ。オーバーホールが始まる。

 

そこには所納参トレーナー達のチームやエアシャカールも居た。

 

「久しぶりだね、所納参君。」

 

「ご無沙汰しております。雨美さん。」 

 

「見学、よろしくお願いします。」

 

「了解。これからエンジンをバラしていくよ。しかし珍しい子も居るね。シャカールちゃん。」

 

「まァ。車にはあんまり興味はねェんだが、このエンジンを考えたフェリクス・バンケル博士の事はオヤジから聞いてたからな。」

 

「なるほどねぇ。」

 

まずはロータリーエンジンの特徴であるフライホイール用のカウンターウェイトを外し、続いてフライホイールを外す。

 

「この円盤はなんですか?」

 

「フライホイールって言ってね。エンジンを回すための遠心力を作ってる。」

 

「どういう事だァ?」

 

「エンジンは燃料を供給される事で回るんだけど、アイドリングではそれが出来ないからね。一定回転を安定して保つために遠心力を作ってるんだ。生き物の心臓は動き続けてくれるけど、エンジンはそれが出来ないからさ。」

 

バケツを用意し、チェーンで吊ったエンジンを縦に向けてオイルを抜く。

 

(ボタタタタッ。)

 

(あれ?意外とキレイだね。まさかエンジンも?)

 

オイルが抜け、通常ならオイルパンを外すところだが、ドライサンプのためエンジンマウントの取り外しにいく。

 

「はい。普通の車はここにオイルを一時的に溜めて、そこからエンジンに回してるんだけど、このエンジンはオイルタンクを別の所に付けてる。」

 

「なンでそんな事を?」

 

「まずは重心を低く出来るから、安定して曲がれるようになるし、あとはオイルも安定した圧力で回せる。オイルは生き物なら血液だから、高い速度でも追い付くようにする必要がある。」

 

「なるほどなァ。」

 

続けて、ロータリーエンジンの回転軸であるエキセントリックシャフトのガタ付きを無くすためのプレートとボルトを外していくが、各パーツ落下防止のため繰り返しエンジンを逆さまにする大変な作業である。

 

「目が回りそうです。」

 

「ゲェ。面倒臭ェ。」

 

「でも、エンジンは心臓なんだから、傷が付いたらダメなのは分かるでしょ?」

 

続けてエンジンの前後を繋ぐ長いボルトを外し、遂に内部が見えてくる。

 

「おや。普通はもっと燃えカスが出るんだけど。」

 

「つまり、なンだ?」

 

「完全燃焼させてるって事だな。」

 

「アイツのアクセルの踏み方のせいかァ?」

 

「うん。芥瀬君は踏んでる時間が長いし、左足ブレーキで補う走りだからね。掃除が楽で良い(笑)」(やっぱり内部もキレイか。)

 

完全分解し、パーツを並べていく。

 

「これがロータリーエンジン。意外とパーツ少ないでしょ?」

 

「確かになァ。普通のエンジンなら3気筒分か?何であンなに速ェんだ?」

 

雨美はローターを持つ。

 

「このおにぎり型の、全部の面がピストンの役割をしてるからね。1回転で3回爆発する。」

 

「マジかよ。そりゃあパワーも出るわなァ。」

 

「ロータリーは燃焼効率が良いエンジンなんだ。ただし、問題点もある。」

 

「燃費か?」

 

「それも勿論あるけど、爆発の回数が多い分エンジンが熱を持ち続ける。あと、さっき走ってる時に変わった匂いがしなかったかい?」

 

エンジン内部のオイル汚れを洗浄していく。

 

「確かになァ。ありゃ何だ?」

 

「ロータリーはバルブが無いから、ガソリンとオイルが混ざる。アレはオイルの焼ける匂いなんだ。」

 

「何だかさっきから、問題点ばかりだなァ。何でこのエンジンを使ってンだ?」

 

「それはね。ロータリーが速いエンジンだからさ。」

 

「結局はソコか。」

 

「ただしオイルの管理も大変だし、寿命も普通のエンジンと比べると短い。」

 

「オイルが血液なら、命を燃やしながら走ってるようなモンか。」

 

「君達ウマ娘も、ある意味では命を削って走ってるんじゃないかい?」

 

「……否定は出来ねェな。」

 

「そうですね。」

 

そして話題は流貴の走り方へ。

 

「芥瀬君も、今日は結構踏み込んだと思うよ。」

 

「どういう事だァ?」

 

「ロータリーはトルク、エンジンを回す力が無いからね。ウマ娘で言えば蹴り出して脚を回す力かな。普通のエンジンは爆発でピストンが下がってシャフトを回す事でトルクになるけど。」

 

「ロータリーはそれが出来ねェってか?」

 

「そう。それでさっき言った通り、エンジンは燃料を供給されて回るから、アクセルを踏み続ける必要がある。回転が回転を産むんだ。」

 

「それがさっきの、音が途切れねェ走りの理由か。」

 

「怖くはないのでしょうか?」

 

「かなり怖いはずなんだけどねぇ。神経すり減らしてタイムを取った。車を降りた時に眠いって言ってたから、集中力の限界が来たんだね。」

 

「元医師として、彼に感謝しなければですね。今日、見せるためにギリギリまで頑張ってくれた芥瀬君に。」

 

____

 

 

江助のピット。

 

「ちょっと顔洗って来るわ。コーヒーご馳走さま。」

 

フラリと立ち上がる流貴。

 

「ああ。行ってらっしゃい。」(さすがの流貴もお疲れか。残りの見せ場は、俺達が引き継ごう。)

 

 

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