コバルトブルー   作:RPM

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30:GET ME POWER

 

 

(バシャバシャ。)

 

ドライバーズサロン。トイレの手洗い場で顔を洗う流貴。

 

(ふぅ。目が疲れた。)

 

 

トイレから出てピットに戻ろうとしたところ、チームスピカや他のウマ娘達に質問される。

 

「すいませ~ん。」

 

「芥瀬さん。バイクはタイヤ1本ずつでラインを作るって、昔言ってたっすよね。」

 

「ああ。覚えてたか。」

 

「車の場合はどうやってるのか、教えてくれねぇっすか?」

 

「分かった。ピットで教えよう。」

 

江助のピットに戻る。

 

「なんか付いて来たな。顔洗ったら色男になったか?(笑)」

 

「そんなんじゃねぇよ(笑)さてみんな。タイヤより外側にあるもの、分かるかな?」

 

「何処だろう?」

 

「運転席からも見えるよ。」

 

「???」

 

「じゃあ、免許を持ってるウオッカ。右左折時の巻き込み防止には何を見る?」

 

「あ!ミラーっすか?」

 

「その通り。俺はミラーからコース端の縁石までの幅で1台分ずつラインをずらし、横にもう一台並ぶイメージで走ってた。」

 

「車体感覚ってヤツだな。しかし流貴、初めて乗った車でやるのは、やっぱりおかしいぞ。」

 

沖野が補足する。

 

「芥瀬。さっきのラインを変えてもタイムが揃う走りは、左右のバ身差をずらしていると予想したが、それで合ってるって事だよな?」

 

「その通りです。他車と絡んでタイムが落ちそうな時に必要な技術です。ウマ娘なら自分の肩と内ラチまでの距離になるかと。」

 

「レースでラインを崩されたり、塞がれた時の修正か。なるほど、使えればラップタイムも安定して刻める訳か。」

 

「ウマ娘は車と比べるとレースの時間が短いですから、邪魔された瞬間に対応しないと間に合わない。」

 

(トレーナーじゃないのに詳しいのね。レーサーになるにはあのぐらいの知識が必要なのかしら。)

 

(難しそうだけど、勝つための技術よね。今度やってみよ。)

 

「そろそろ休ませてくれませんか?さっきのタイムアタックで疲れちゃって。」

 

「ああ。悪いな。」

 

江助のピットに集まったウマ娘達が解散していく。

 

(怖い人だと思ったけど、喋ると優しいのね。)

 

(さっきの走り凄かったけど、やっぱり人間なんですね。)

 

(あの人がトレーナーだったら良いのにな。)

 

____

 

 

回りの作業音が静かになり、セッティングとオーバーホールが終わった事を察する。

 

「ん。そろそろタイヤウォーマーやるか。」

 

石嶋が走行順の確認に来る。

 

「洋谷君。どっちが先に走りますか?」

 

「俺から行かせてもらって良いですかね?」

 

「分かりました。」

 

タイヤウォーマーを装着。ぞろぞろと江助のピットに野次ウマ娘が集まり出す。

 

「さて、みんな。俺の目標は1分ちょうどぐらい。俺は流貴と違って一般人だからな。」

 

(((((えええええー?)))))(¬_¬)

 

(いやいやコウちゃん。俺が言うのもおかしいが、この狭い筑波で600馬力振り回そうとしてるヤツが一般人はおかしいと思うよ?)

 

(マルゼン先輩と大接戦した人が、一般人なワケ無いと思うけど?)

 

「あんなぁ…。」

 

「どうした、タマ?」

 

「ジャージ屋はん。いつもの軽口に戻っとるけど殺気が消せてへん。目も笑ってないで。」

 

「バレちゃしょうがねぇ。が、コイツを振り回すには気合いがいるからな。見せてやるよ、600馬力の威力をな。」

 

ツナギのファスナーを首まで上げ、ヘルメットとグローブを装着。乗り込んでエンジンに火を入れる。

 

(カッッキャッキャッ…ゴォン!)

 

爆音に耳が伏せるウマ娘達。

 

(さぁて、行こうかスープラ。)

 

____

 

 

(パシュー!)

 

ド派手なブローオフの快音を響かせながらコースインする江助。

 

(タイヤはOK。最終コーナーから全開だ!)

 

 

ピットロードから観戦する流貴、ハン、マルゼンスキー。

 

「やっぱりターボ車は音の圧が違うねぇ。」

 

「直4載せ換えだからエンジンの音自体は軽いけど、タービンの過吸音が重なるからな。」

 

「コーラスが効いてるわねぇ。」

 

バックストレッチを加速していく。

 

「ん?ちょいドッカンターボ気味かアレ?」

 

「そりゃ2リッターで600も出せばターボラグもデカい。そういやルッキーはターボ車乗った事ないか。」

 

「確かに、乗って来たの全部NAだな。」

 

「バイクのダイレクトな回転フィールに慣れてると違和感があるだろうが。慣れれば面白い。」

 

最終コーナー進入。スープラがほとんどスピードを殺さず突っ込んで来る。

 

「ほとんどブレーキ踏んでないわね?」

 

「それで曲がれるのか?」

 

 

次の瞬間、

 

シフトダウンしてクラッチを蹴り、車体が横を向き白煙を巻き上げる。

 

(ズギャギャギャギャー!)

 

「ここでドリフト?俺のスライドの4輪版か?」

 

「しかしアングルが浅いな。アレは魅せじゃなくて、ブーストを落とさないための速いドリフトだ。ラリーみたいな。タイヤも温まるだろうな。」

 

「なんか、レブに当たったような音したけど?」

 

「多分、クラッチ蹴りだな。」

 

「どういう事かしら?」

 

ハンが答える。

 

「シフトダウンとは別にクラッチを蹴っ飛ばす。ハンドルを切りながら動力を絶つと、慣性でリアが流れる。D1なんかでも使われるテクニックだ。」

 

「タイヤを一気に温めたって事は、一発勝負か?」

 

「あまり長時間エンジンに負荷をかけたくないんだろ。集中力も切れるし。」

 

 

車内。

 

(C1じゃここまで踏み切れねぇから、このトルクに蹴られる感じは久しぶりだ。半歩行き過ぎりゃ回るが、カウンターを当てたまま開ける!)

 

ホームストレートを、黄色い弾丸が駆け抜ける。

 

(パシュー!)(ボッ!)

 

ブローオフとアフターファイヤを吐き出しながら第一コーナー進入。

 

(くっ、まだか?曲がれっ!)

 

 

「なンか動きにカドがあるっつーか。動き出しが遅ェな?」

 

「スープラは重いですからね。」 

 

動きの違いに疑問を持つシャカールに、走行準備を終えた石嶋が補足する。

 

「そンなに違うモンかねェ?」

 

「確かに2台の車は流線形主体のシルエットが似ていますが。速さの方向性が違います。」

 

「どういう事だァ?」

 

「RX-7は軽さから来る速さです。先ほどオーバーホールを見たでしょう。エンジンも小さく軽いため素早く動かせますが、下手に乗れば何処に飛んで行くか分かりません。」

 

「ヘェ。ドライバーはそれを制御するってワケか。」

 

第一ヘアピン進入。軽めのパワースライドで向きを変える。

 

「対してスープラはパワーから来る速さです。しかしエンジンも車体も重い。」

 

「重いのが何で速ェんだ?」

 

「重い弾の方が真っ直ぐ飛ぶのと同じです。安定しますが、無理やり曲げる必要がある。」

 

「それがあの動きの原因かァ。」

 

タイヤブリッジ下を通過、第二ヘアピンへ向かう。

 

(無理にインには行かねぇで立ち上がり重視。バックストレッチのスピードを稼ぐ。)

 

左足ブレーキでターボラグを防ぎ、その時を待つ。

 

(もうちょい…もうちょい…。今だ!)

 

車体が出口を向き全開。加速Gに視界が歪み景色が飛んで行く。

 

(キュウウゥゥーン!)

 

タービンの過吸音が響く。

 

(来た。もう1発!)

 

最終コーナー進入。クラッチを蹴る。

 

(カンッ!)

 

車体が横を向き始めカウンターを当てる。

 

(ブーストはかけたまま。カウンターは最小限、行けっ!)

 

左足ブレーキを使い立ち上がる。シートに張り付けられるような加速。

 

「来たぞ!」

 

コントロールラインを越える。

 

「タイムは?」

 

ストップウォッチを持つハンが固まる。

 

「……ハハッ。」

 

「どうした?」

 

「……やりやがったな。」

 

「マジかよ。」

 

電光掲示板にもタイムが出る。

 

『0:59:819』

 

「ほぉ。やりよったわい。」

 

「スッげェ!」

 

タマとウオッカが称賛する。

 

(ったく。今日ココに来てンのは、人間の外れ値ばっかかよ。)

 

江助がクーリング走行に入る。

 

「なァ。」

 

「ん?どうしたシャカール。」

 

流貴にシャカールが聞く。

 

「アンタらの世界じゃ、これが普通なのかァ?」

 

「うーん。今日のココ、筑波は少し特殊なところかな?」

 

「どういう意味だァ?」

 

「さっき色々聞いてたろ?スープラとRX-7は、ボクシングで言えば階級が違うのに、タイムが近付く。無差別級の闘技場かな。」

 

「無差別級、ねェ?」

 

「直線が短いから、パワーだけじゃ勝てない。かといって、テクニックだけでも勝てない。」

 

「両方必要ってかァ?」

 

「どうかな?そのPCで何を集めてるのか知らねぇが、レースがもっと複雑なモンなのは、分かってんだろ?」

 

「…そうだな。これ以上アンタにカマをかけても意味はねェか。まァ、面白ェもんは見せてもらった。ありがとよ。」

 

「もう1台いるぜ?」

 

「そうだな。アレの速さは、どっち寄りだ?」

 

「真ん中かな?」

 

「へェ?」

 

シャカールが不敵に笑い、

石嶋がNSXをピットロードへ出す。

 

 

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