(バシャバシャ。)
ドライバーズサロン。トイレの手洗い場で顔を洗う流貴。
(ふぅ。目が疲れた。)
トイレから出てピットに戻ろうとしたところ、チームスピカや他のウマ娘達に質問される。
「すいませ~ん。」
「芥瀬さん。バイクはタイヤ1本ずつでラインを作るって、昔言ってたっすよね。」
「ああ。覚えてたか。」
「車の場合はどうやってるのか、教えてくれねぇっすか?」
「分かった。ピットで教えよう。」
江助のピットに戻る。
「なんか付いて来たな。顔洗ったら色男になったか?(笑)」
「そんなんじゃねぇよ(笑)さてみんな。タイヤより外側にあるもの、分かるかな?」
「何処だろう?」
「運転席からも見えるよ。」
「???」
「じゃあ、免許を持ってるウオッカ。右左折時の巻き込み防止には何を見る?」
「あ!ミラーっすか?」
「その通り。俺はミラーからコース端の縁石までの幅で1台分ずつラインをずらし、横にもう一台並ぶイメージで走ってた。」
「車体感覚ってヤツだな。しかし流貴、初めて乗った車でやるのは、やっぱりおかしいぞ。」
沖野が補足する。
「芥瀬。さっきのラインを変えてもタイムが揃う走りは、左右のバ身差をずらしていると予想したが、それで合ってるって事だよな?」
「その通りです。他車と絡んでタイムが落ちそうな時に必要な技術です。ウマ娘なら自分の肩と内ラチまでの距離になるかと。」
「レースでラインを崩されたり、塞がれた時の修正か。なるほど、使えればラップタイムも安定して刻める訳か。」
「ウマ娘は車と比べるとレースの時間が短いですから、邪魔された瞬間に対応しないと間に合わない。」
(トレーナーじゃないのに詳しいのね。レーサーになるにはあのぐらいの知識が必要なのかしら。)
(難しそうだけど、勝つための技術よね。今度やってみよ。)
「そろそろ休ませてくれませんか?さっきのタイムアタックで疲れちゃって。」
「ああ。悪いな。」
江助のピットに集まったウマ娘達が解散していく。
(怖い人だと思ったけど、喋ると優しいのね。)
(さっきの走り凄かったけど、やっぱり人間なんですね。)
(あの人がトレーナーだったら良いのにな。)
____
回りの作業音が静かになり、セッティングとオーバーホールが終わった事を察する。
「ん。そろそろタイヤウォーマーやるか。」
石嶋が走行順の確認に来る。
「洋谷君。どっちが先に走りますか?」
「俺から行かせてもらって良いですかね?」
「分かりました。」
タイヤウォーマーを装着。ぞろぞろと江助のピットに野次ウマ娘が集まり出す。
「さて、みんな。俺の目標は1分ちょうどぐらい。俺は流貴と違って一般人だからな。」
(((((えええええー?)))))(¬_¬)
(いやいやコウちゃん。俺が言うのもおかしいが、この狭い筑波で600馬力振り回そうとしてるヤツが一般人はおかしいと思うよ?)
(マルゼン先輩と大接戦した人が、一般人なワケ無いと思うけど?)
「あんなぁ…。」
「どうした、タマ?」
「ジャージ屋はん。いつもの軽口に戻っとるけど殺気が消せてへん。目も笑ってないで。」
「バレちゃしょうがねぇ。が、コイツを振り回すには気合いがいるからな。見せてやるよ、600馬力の威力をな。」
ツナギのファスナーを首まで上げ、ヘルメットとグローブを装着。乗り込んでエンジンに火を入れる。
(カッッキャッキャッ…ゴォン!)
爆音に耳が伏せるウマ娘達。
(さぁて、行こうかスープラ。)
____
(パシュー!)
ド派手なブローオフの快音を響かせながらコースインする江助。
(タイヤはOK。最終コーナーから全開だ!)
ピットロードから観戦する流貴、ハン、マルゼンスキー。
「やっぱりターボ車は音の圧が違うねぇ。」
「直4載せ換えだからエンジンの音自体は軽いけど、タービンの過吸音が重なるからな。」
「コーラスが効いてるわねぇ。」
バックストレッチを加速していく。
「ん?ちょいドッカンターボ気味かアレ?」
「そりゃ2リッターで600も出せばターボラグもデカい。そういやルッキーはターボ車乗った事ないか。」
「確かに、乗って来たの全部NAだな。」
「バイクのダイレクトな回転フィールに慣れてると違和感があるだろうが。慣れれば面白い。」
最終コーナー進入。スープラがほとんどスピードを殺さず突っ込んで来る。
「ほとんどブレーキ踏んでないわね?」
「それで曲がれるのか?」
次の瞬間、
シフトダウンしてクラッチを蹴り、車体が横を向き白煙を巻き上げる。
(ズギャギャギャギャー!)
「ここでドリフト?俺のスライドの4輪版か?」
「しかしアングルが浅いな。アレは魅せじゃなくて、ブーストを落とさないための速いドリフトだ。ラリーみたいな。タイヤも温まるだろうな。」
「なんか、レブに当たったような音したけど?」
「多分、クラッチ蹴りだな。」
「どういう事かしら?」
ハンが答える。
「シフトダウンとは別にクラッチを蹴っ飛ばす。ハンドルを切りながら動力を絶つと、慣性でリアが流れる。D1なんかでも使われるテクニックだ。」
「タイヤを一気に温めたって事は、一発勝負か?」
「あまり長時間エンジンに負荷をかけたくないんだろ。集中力も切れるし。」
車内。
(C1じゃここまで踏み切れねぇから、このトルクに蹴られる感じは久しぶりだ。半歩行き過ぎりゃ回るが、カウンターを当てたまま開ける!)
ホームストレートを、黄色い弾丸が駆け抜ける。
(パシュー!)(ボッ!)
ブローオフとアフターファイヤを吐き出しながら第一コーナー進入。
(くっ、まだか?曲がれっ!)
「なンか動きにカドがあるっつーか。動き出しが遅ェな?」
「スープラは重いですからね。」
動きの違いに疑問を持つシャカールに、走行準備を終えた石嶋が補足する。
「そンなに違うモンかねェ?」
「確かに2台の車は流線形主体のシルエットが似ていますが。速さの方向性が違います。」
「どういう事だァ?」
「RX-7は軽さから来る速さです。先ほどオーバーホールを見たでしょう。エンジンも小さく軽いため素早く動かせますが、下手に乗れば何処に飛んで行くか分かりません。」
「ヘェ。ドライバーはそれを制御するってワケか。」
第一ヘアピン進入。軽めのパワースライドで向きを変える。
「対してスープラはパワーから来る速さです。しかしエンジンも車体も重い。」
「重いのが何で速ェんだ?」
「重い弾の方が真っ直ぐ飛ぶのと同じです。安定しますが、無理やり曲げる必要がある。」
「それがあの動きの原因かァ。」
タイヤブリッジ下を通過、第二ヘアピンへ向かう。
(無理にインには行かねぇで立ち上がり重視。バックストレッチのスピードを稼ぐ。)
左足ブレーキでターボラグを防ぎ、その時を待つ。
(もうちょい…もうちょい…。今だ!)
車体が出口を向き全開。加速Gに視界が歪み景色が飛んで行く。
(キュウウゥゥーン!)
タービンの過吸音が響く。
(来た。もう1発!)
最終コーナー進入。クラッチを蹴る。
(カンッ!)
車体が横を向き始めカウンターを当てる。
(ブーストはかけたまま。カウンターは最小限、行けっ!)
左足ブレーキを使い立ち上がる。シートに張り付けられるような加速。
「来たぞ!」
コントロールラインを越える。
「タイムは?」
ストップウォッチを持つハンが固まる。
「……ハハッ。」
「どうした?」
「……やりやがったな。」
「マジかよ。」
電光掲示板にもタイムが出る。
『0:59:819』
「ほぉ。やりよったわい。」
「スッげェ!」
タマとウオッカが称賛する。
(ったく。今日ココに来てンのは、人間の外れ値ばっかかよ。)
江助がクーリング走行に入る。
「なァ。」
「ん?どうしたシャカール。」
流貴にシャカールが聞く。
「アンタらの世界じゃ、これが普通なのかァ?」
「うーん。今日のココ、筑波は少し特殊なところかな?」
「どういう意味だァ?」
「さっき色々聞いてたろ?スープラとRX-7は、ボクシングで言えば階級が違うのに、タイムが近付く。無差別級の闘技場かな。」
「無差別級、ねェ?」
「直線が短いから、パワーだけじゃ勝てない。かといって、テクニックだけでも勝てない。」
「両方必要ってかァ?」
「どうかな?そのPCで何を集めてるのか知らねぇが、レースがもっと複雑なモンなのは、分かってんだろ?」
「…そうだな。これ以上アンタにカマをかけても意味はねェか。まァ、面白ェもんは見せてもらった。ありがとよ。」
「もう1台いるぜ?」
「そうだな。アレの速さは、どっち寄りだ?」
「真ん中かな?」
「へェ?」
シャカールが不敵に笑い、
石嶋がNSXをピットロードへ出す。